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卒業式Written by ishia.


僕は、一人でいつもの通学路を歩いていた。
今日もいい天気だな、なんて、結構落ち着いてるんだ。
この路を歩くのも、今日が最後なのに。
思えば、色んな事があった、この三年間。
今日は僕が中学校を卒業する日。
卒業式なんだ。
学校生活は、まあそれなりに楽しかった。
仲間とふざけて遊んでばっかりだったからね。もうそれこそ腹を抱えて笑ってばかり 。勉強も少しはしたけど、それはオマケだよね、やっぱり。
普通の、平凡な、平均的中学生だったんじゃないかな。
家の方は、でもちょっと大変だった。
まず、1年前にかあさんが死んだ。
いつも綺麗で優しかったかあさん。
そして半年位前にとうさんがアメリカへ転勤になった。
僕は高校受験もあったから、とうさんは妹のレイだけを連れてアメリカへ行っちゃっ たんだ。
だから今僕は一人でこの第三新東京市の高級マンション(と人は言う)に住んでいる 。
もしかしたら、とうさんはこのマンションを売るのがもったいなくて、僕を一人残し たのかな。
えーっと、グリーンズヒルって所、知ってる?
確か、そんな名前だったと思うけど、何州にあるのかも、よく覚えてないや。
とにかく、8月の休暇が終わる頃、とうさんとレイはそこの研究所に行っちゃったん だ。





路は次第にゆるやかな登りの坂道にさしかかる。
ここはいつでも「心臓破り」の難所だったんだ。
え、どうしてって?
僕等が通っていた中学校はこの坂を登った丘の中程にあるんだけど、僕はほぼ毎朝遅 刻ぎりぎりに家を出てくるもんだから、登校のたんびにこの坂を走って登ってたって 訳さ。
だからもう下駄箱に着くと暫くは息を整えるのが大変でね。明日こそ早く家を出よう 、って決心したりして。でもすぐ忘れちゃうんだよね、僕って。
だから、おかげでこの三年間で僕も結構体力は付いたかな、なんて。
でも体の調子いいんだ、本当に。
この辺りまで来ると、大分人が多くなってくる。
みんな僕と同じ方向に歩いて行く同じ制服を着た生徒達。
いつもと変わらない登校時の風景。
ちょっと違うとしたら、生徒の数がいつもより少ないって事くらいかな。 見知った顔も結構多いな。
あ、ケンスケがいる。
「おーい、ケンスケ」
「ああ、シンジ、おはよう」
こいつは、相田ケンスケっていって、僕の親友の一人なんだ。
「おはよう。なんかあっという間だったな、3年間」
「そうだな」
「まあ、これからも同じ高校だし、宜しく頼むよ、ケンスケ」
「それはこっちこそ」
「おっはよーさん」
僕等の後ろから大きな声が追いかけてきた。
もちろん振り返って確かめる必要なんてないんだ。声の主は分かってる。
「おはよう、トウジ」
僕とケンスケは同時に答える。
「なんや折角の卒業式っちゅうのに変わらんなぁ、お前ら」
「それはトウジも同じだろ」
ケンスケが後ろを振り返ってトウジの方を一瞥して、
「卒業式だっていうのに最後までジャージかよ、トウジ」
「あ、あほぬかせ!これはな、ワシのとっておきのよそ行き用ジャージじゃ!」
どこがどう違うのか、僕の目にはいつもの彼の格好と同じに見えるんだけど……
この黒いジャージを着て胸を張っている男は、鈴原トウジ。
なんでも大阪(だったかな)からこの街に越してきたとかで、来てからもう十年も経 つのに今だに関西弁が抜けそうで抜けない変な奴。
でも彼も僕の親友の一人なんだ。
「ところでな、ケンスケ。今日は例の物、持ってきたんやろうな……」
トウジがケンスケの肩を抱き、小声で言っている。
僕は、それが何なのか知ってるけど、話には入っていかない。
ケンスケは、AVマニアで、いつもデジタルカメラやらデジタルビデオやらを持ち歩い ているんだけど、実はもう一つの意味の「AV」にも造詣が深いらしくて……
はぁーっ。
最後の最後まで、コイツ等は変わんないんだから、まったく。
まあ、僕の中学三年間は、彼等と過ごした時間が大部分を占めてたのは確かなんだ。
なにしろ小学校の5年生からずーっと同じクラスで今まで来たからね、付き合いは長 いんだ。
そこでついた僕等のあだ名が「三馬鹿トリオ」。名付け親は、……それは後で説明す るよ。
時には彼等のペースに引きずられる事もあったけど、僕は彼等と出会えて本当に良か ったと思ってるんだ。どっちかって言うと、僕はどうも、少しばかり自分の殻に閉じ こもる所があるんだけど、彼等といると何だか軽くなれるっていうか、不思議とはしゃげるんだよね。
面と向かって、「お前は俺の親友だ!」なんてさ。
……何だか恥ずかしいよな、こんなクサい台詞。





今日は学校に登校したら、まずは教室に集合する事になってる。
教室のドアを開けてクラスメートと挨拶しながら自分の席に向かう。
ドアから自分の席までは結構ある(つまり僕の席は窓際の特等席)。
僕はドキドキしながら、自分の席に歩いて行くまでの間にこっそりと辺りを伺う。ち ょっと目で探して、目当てのものが見つかると、ほっとして席につく。
毎朝繰り返してきた事なんだ。
実は、こんな僕にもやっぱり夢があって……
夢っていっても自分の将来についての事じゃなくって、まあはっきり言っちゃえば、 「好きな娘」がいるって事なんだけど。
その娘は……今学級委員長と話をしている。
名前は、惣流アスカっていうんだ。
学年、いや、この中学校で一番可愛くて、成績優秀、スポーツ万能、誰とでも分け隔 てが無くて、近隣の学区にも信奉者が多いっていう話だけど、本人はそれでも全然鼻 にかける所が無くって、はっきり言って、僕には高嶺の花なんだ。
本人の話によると、彼女のおとうさんが何でも西洋人だそうで、それでおかあさんに もちょっと西洋の血が混ざってるとかで……なんだ訳がわからないけど、彼女はハー フじゃなくてクォーター、っていうの?それなんだそうだ。
ちなみに、彼女が「三馬鹿トリオ」の名付け親でもある。
そんな彼女なんだけど、でも、一つだけ気になる事があって、彼女僕に対しては何だ かとっても高圧的で居丈高な態度で接するんだ。暴力も振るうし。嫌われてるのかな 、僕としては複雑な気持ちなんだ。もうちょっとみんなと同じに普通にしてくれたら いいのに……
彼女も、彼女が今話している委員長−−洞木ヒカリっていうんだ、彼女−−も、僕等 3人と同じで小学校の時からずーっと同じクラスだったから、いつもぼくら5人で連 るんで遊んでた。外に遊びに行く時は、その5人に僕の妹のレイを加えた6人でね。
そう、レイは、僕達と一歳違いの妹なんだけど、昔っから僕の後ろばっかりついて歩 いてて、昼休みにもわざわざ僕の所に来て一緒に弁当を食べてたっけ。……あんなん で自分のクラスに友達出来てたのかな。
レイかぁ、元気かな。
アメリカに行く時も空港でわんわん泣きながら僕にしがみついてきて、とうさんに引 きずられながら搭乗口へ入っていったレイ。
レイからは毎日欠かさずメールが届く。
内容は、他愛の無いものなんだ。今日はあれした、今日はこれした、って。
僕はそれに毎日レスをつけて送り返している。
レイはそれにまたレスをつけて送って来たりして。
それだけでも、何だかいいもんだよね、兄妹って。





そんな事をぼんやり窓の外を眺めながら考えてたんだ。
昔、日本には「四季」っていうのがあったんだって。知ってた?
以前観た昔の映画の中では、今の時期は桜の花が枝一杯に咲き誇っていて、画質は良 くない映画だったけど、とってもその花は綺麗だったな。
今じゃ日本はどこに行っても一年中暑くって、一体どこから湧いてくるのか、年中蝉 が鳴いてるじゃない。もううるさくって。
歴史の時間に習ったでしょ?セカンドインパクト。あれのせいなんだって。勿体ない 話しだよね。
そこに、
「ちょっと、シンジ!」
声に振り向くと、アスカが近づいてくる。
クラスの連中が、いつもと同じで遠巻きにそんな僕等を眺めている。
「何、アスカ」
「今ヒカリと決めたんだけど、春休みにどっか遊びに行くわよ!」
いつも勝手に決めるんだ。昔っから同じ。
「どっかって、どこへ?」
「アンタ馬鹿?それをこれから決めんのよ。人の話しは最後まで聞きなさい!」
右手を僕の机に乗せ、左手を自分の腰に当てた、彼女が僕に話しかける時のおきまり のポーズ。ぴしゃりと決めつける様に話しかけるんだ。決めの台詞は「馬鹿?」って さ。
何か勝手な事言ってるよな、アスカ。
人の事を「馬鹿」っていう人間は、自分が「馬鹿」だって大声で宣伝してる様なもの だ、って小学校の時の担任の先生にも言われたじゃないか。
でも僕はうかつには逆らわないんだ。だって、下手に口答えしようもんなら、
「この馬鹿!」
って言ってビンタやげんこつが飛んでくるんだよ、信じられないや。
どうして僕にだけ?
他の人には、トウジやケンスケにだって、そんな事しやしないのに。
その度にレイが怒ってアスカに喰ってかかってたっけ。
「お兄ちゃんになにするのよ!」って。
そうするとアスカも大声でレイと口喧嘩を始めるんだ。
僕等兄妹と惣流アスカのこんなどたばたが、このクラスの「恒例行事」(ケンスケ談 )になってたそうで、僕とアスカが会話をすると、みんな次に起こる展開に期待しな がら僕等の様子を伺うんだ。本当に野次馬だよな、みんな。
だから、レイがアメリカに行っちゃった時は、クラスの連中はそうとうがっかりして たらしい。
そうなって始めて気付いたんだけど、レイはいつの間にかうちのクラスのもう一人の 仲間になってたんだ。クラスの雰囲気に欠かせない存在ってやつ?そういえば女子も 男子も「レイちゃんレイちゃん」って可愛がってくれてたからね。実際、レイに気が ある奴も何人かいたみたいだけど。
兄馬鹿(?)じゃないけど、レイは僕から見ても結構可愛いからね。まあアスカには 全然かなわないけど、でも、うーん、アスカよりはちょっと落ちる程度かな……いや 、同じくらいって事にしておくか。
まあ、それはともかく。
ある意味惚れた弱みって奴で、僕は今はアスカに合わせる事にしたんだ。
「そう、じゃあ、みんなで決めた方がいいよね」
「めずらしく分かりが早いじゃない。式が終わったらもう一回教室に集合よ。いい? アンタ達も」
最後の言葉は、いつの間にか僕の側にいて別の話しをしていたトウジとケンスケに向 かってかけられたんだ。
二人は、多分僕等の話しなんか聞いて無かっただろうな。
だから、
「なんや、惣流。ワシらになんぞ用か?」
トウジはすっとぼけた返事をした。
「あのね、春休みにみんなでどっかへ遊びに行こうってヒカリと話ししてたのよ。そ れで、アンタ達も一緒に集まって、どこへ行こうか決めようって訳。分かった?」
アスカは特に気を悪くした様子もなく、しかも「丁寧」に説明した。
「なんだ、そういう事か。分かったよ。式の後だね、いいよな、トウジ」
ケンスケが話しをまとめる。彼は、いつも僕等の調整役、5人の潤滑油なんだ。
「ああ、分かったわ」
トウジも納得した様だ。
「じゃ、そういう事だから」
アスカは身を翻すと、委員長の所へ戻っていく。
「馬鹿シンジ、ぼけぼけっとして忘れるんじゃないわよ!」
って捨て台詞を残して。
彼女の後ろ姿を眺めた後、僕はトウジとケンスケを見る。
「なんやセンセ。どうした」
「……別に」
僕は、一人でまた窓の外を見ることにしたんだ。
はぁ〜っ。ため息が出ちゃうよ。
……やっぱり僕ん時と、他の人の時とは違うんだよな、アスカ。





卒業式が始まった。
始めは、別段取り立てて感慨は無かったな。
だって、この学校には確かに愛着が無い訳じゃないけど、僕等のほとんどは、特に5 人はこの先も同じ高校に行く事が決まってるから、入れ物が変わるだけって訳で何に も変わらないんだから。
僕等がこの4月から通う高校は、市立で、「新東京第二高校」っていうんだ。
実は、この第三新東京市の僕等の学区には、高校は3つ、それも市立のしか無くて、 高校の名前も芸のない「第一」「第二」「第三」っていう番号なんだ。まあ、それじ ゃ味気ないっていうんで、通称はそれぞれの高校の位置から取って、それぞれ「東」 ・「南」・「西」って呼んでるらしいんだけど、それでも余り変わんないよな、これ じゃ。
とにかく、僕等は5人共みんな「南」の第二高校に合格して、これからそこに通うっ て訳。
でも、アスカには驚いた。
さっきも言ったと思うけど、アスカは学年トップの成績を中学三年間続けてたから、 誰もが「西」の第三高校を受験するんだと思ってたんだ。
この「西」の高校は、今から確か5年位前に造られた新設校で、設備の豪華さと、教 師の質の高さから毎年競争率がウナギ登りで、偏差値もこの数年で馬鹿みたいに上が っちゃった高校なんだ。
そのおかげか、有名大学への進学率も3校の中じゃトップで、それが余計に競争率と 偏差値を押し上げちゃってて、なかなか狭き門なんだ。
それにひきかえ「南」は、番号も真ん中だけど、レベルも真ん中で、だから僕なんか も選んだんだけど、別に悪い学校じゃないんだけど、まさかアスカが同じ「南」を選 ぶなんて思いもしなかった。
実は僕も少し諦めてたんだ。アスカは当然「西」に行くだろうし、僕にはとっても追 いかけて行く「頭」も無かったし、これでアスカともお別れだって、落ち込んでたり したんだ、あの頃。
先生にも大分説得された見たいだったけど、結局彼女は「南」を受験して、あっさり と合格したんだ。
え、僕?僕の成績は……やめようよ、その話しは。
とにかく、僕もなんとか合格して、やっぱり嬉しかった。これで高校も彼女と同じ学 校へ行けるって、それだけで自分の未来が明るく輝く様で。……なんか現金な奴、僕 って。
閑話休題。
アスカの言い種じゃないけど、僕はぼけーっとして卒業式に出ていたんだ。
校長の挨拶や、来賓の祝辞なんかが続いて、僕は何だか退屈で、周囲にさりげなく視 線を回したりして、壇上で進行する式次第なんか聞いてもいなかった。
だから、僕が式に意識を向けたのは、卒業証書を受け取る時と、後半の卒業生代表の 答辞だけだった。
卒業生代表は、もう説明の必要もないよね。
そう、われらが惣流アスカだったんだ。
凛としたよく通る涼やかな声で答辞を読み上げるアスカ。
僕はそれを聞いてて、ちょっと噴き出しそうになっちゃった。
それは、代表に決まって、答辞を読む事になったとき、アスカは僕に当たり散らした からなんだ。
要するに彼女は、決まりきった筋の原稿を読み上げるのが嫌だったんだ。自分のオリ ジナルを書きたいって先生には言ったらしいんだけど、駄目だったんだそうだ。
「本当に頭が堅いんだから、まったく!」
って、今にも僕に掴み掛からん勢いでまくしたててたっけ。
澄ました顔をして答辞を口にするアスカの声を聞きながら、僕は込み上げる笑いを一 生懸命抑えてうつむいてたんだ。
そうしたら、おかしいんだ。急に笑いの発作が静まっちゃった。
そんなアスカを思い出してたら、なんだか続けてそれまでの三年間の色んな事が走馬 灯の様に浮かび上がって来て、浮かび上がって来たら今度はなんだか急に寂しくなっ て、何だか胸が締め付けられる様な変な気分になっちゃって、僕は取り替えしのつか ない事をしちゃった時の様な、焦りの様な、落ち着かない気分になっちゃって、気が 付いたら涙が、うつむいた僕の目から大粒の涙がこぼれていたんだ。
おっかしいなぁ。どうしたんだろう、僕。
自分が泣いてる事に気付くのに、暫く時間がかかったと思う。
気が付いたら、アスカの答辞は終わってた。
僕は何だか恥ずかしくて、顔を上げられなくて、自分の腿に落ちた涙の跡をじっと見 つめてたんだ。
最初は、「中学生時代」っていうものの終わりっていうのかな、自分の一生の中で、 一度しか来ないそんな貴重な時代が、今日終わったんだっていう事実が、何だか急に 現実となって来て、僕は今までそんな大事な物に気付かないでいた事に後悔してたん だと思う。
きっと、もう少しこのまま中学生で居たかったんじゃないかな。
それから、そんな自分を見て欲しいって、かあさんに見て欲しかったって、そう思っ ちゃったんだ。
かあさん。
死んじゃったかあさん。
かあさんに見て欲しかった。
今日、かあさんにも来てほしかった。
そう思ったら、もう駄目だった。もう、止まらなくなっちゃったんだ。
後から後から涙があふれて来て、卒業生全員による斉唱「仰げば尊し」なんかとって も歌えなかった。
側にいたクラスメートもそんな僕に気付いたと思う。
大体、こういう感情って伝染するんだよね。
僕が泣いてるのに気付いたクラスメートの間から、徐々にすすり上げる声が広がって いくのが何となく僕にも分かったんだ。
やがて、卒業生が退場する時が来た。号令と共に起立して、在校生の拍手に送られて 背後の出口から退出するんだ。
卒業生は、一列になって退場していく。
僕等も立ち上がったままそれを見つめてて、やがて僕等の順番が来た。
ケンスケが(そういえば彼は僕の隣に座ってたんだ)、僕の肩を優しく叩いてくれた 。
僕は列に従って歩き始める。
僕等卒業生の後ろには、在校生の座る席があって、その後ろに父兄の座る席がある。
僕等が父兄の席の横を歩いていた時、誰かが僕を呼んだんだ。懐かしい呼び方で。
「お兄ちゃん!」
僕は顔を上げて声の主を探すと、いた。
父兄席の後方で、立ち上がって僕を見ている。
僕は目を疑ったよ。涙で幻覚でも見てるのかなって。
だって、何でレイがここにいるんだ?アメリカに居るはずのレイが。
でも、それは間違いなくレイだったんだ。
レイも、泣いてる。相変わらずだな。すぐ泣くんだ、あいつ。
馬鹿だな、あいつ、わざわざ来てくれたんだ。いつ着いたんだろう。連絡くらいすれ ばいいのに。
僕等は、すれ違うほんの数秒、目と目を見合わせて……それで笑ったんだ。
どっちから笑ったかは僕も分かんないけど、レイと僕は、とにかく同時に笑った。





出口を出ると、校庭なんだ、そこは。
卒業生はみんな校庭に散らばって、話し合っている。
中には、ほとんどが女子だけど、抱きあって泣いてるのもいる。
僕は少し落ち着いて、振り返ると仲間を捜したんだ。
ケンスケが、トウジが、委員長が、アスカがいる。
僕は彼等に笑いかけたよ、涙に濡れたままで。
彼等も、僕に笑いかけてくれた。
トウジとケンスケが僕の肩を抱いてくれて、互いの顔を見合った。
変に真面目で、引きつった様な表情。それらを暫く黙って見合っていたんだ。そして 、
次の瞬間には、僕等は抱きあって笑い出してたんだ。大声で。
「なんだ、お前の顔」
「自分こそ何だよそれは」
「お前等に言われたくはないわい。特にシンジにはな」
笑い合う僕等の側にアスカと委員長が歩み寄ってくる。
委員長はアスカに抱きついて泣き出しちゃってる。
僕は、彼女達に向かって、
「卒業おめでとう」
って声をかけた。 そしたらみんな口々に、
「おめでとさん」
「おめでとう」
「終わった〜」
「ひえ〜ん。おめでとう」
おめでとうを言い合って、何だかやっと晴れ晴れした気分になったんだ。
あぁ、やっと終わったんだって、ね。
クラスの連中も、僕等を中心に集まってきて、口々におめでとうを言い合う。
そしてそこにレイが飛ぶ様な勢いで走り寄って来て、
「お兄ちゃーん」
息を切らしながら、僕に抱きついて来たんだ。
「お兄ちゃん、卒業おめでとう!」
そうしてレイは、
「うえぇ〜ん」
また泣き出しちゃったんだ。
まったく、何でこんなに泣き虫なんだ、コイツは?
「しょうがないな、こいつは」
僕は、そんな妹に優しく胸を貸してあげた。
そしてみんなで、代わる代わるレイの頭をなでてあげたんだ。





しばらくそうしていたら、やっとレイは泣き止んで、ちょっとバツの悪そうな表情を した。
僕は落ち着いたらしいレイに、
「ちょっとここで待ってろよ」
「何、一体?」
「僕はちょっと用事があって、教室に戻るから」
「ふーん」
レイは、上目使いで僕の顔を見ると、
「ついに告白するの?アスカさんに」
「ば、馬鹿、違うよ」
僕は急いで周りを見回す。
トウジもケンスケもアスカ達も居ない。
僕とレイに気を利かせたのかな?
良かった。今のを聞かれなくって。
「そうなの?お兄ちゃん、もういい加減諦めれば?何か無理っぽいじゃん、アスカさ んって」
「な、何言ってるんだよ、関係ないだろ。いいか?ここで待ってろよ」
僕はとにかく急いで校舎に向かう事にしたんだ。
遅くなって待たせると、アスカ、うるさいから。
後ろで、顔見知りのクラスメートがレイを取り囲んでいる。
「兄が色々お世話になりました」
そんなレイの声が聞こえて来る。
僕は校舎に向かって走り出した。





廊下を走って、自分達の教室へ向かう。
校舎内は、今日は静かだ。
みんな校庭に出ているから当然か。
教室の側まで来て、足を緩める。
歩いてドアの所に来ると、中から話し声が聞こえる。
やっぱりみんなもう集まってたんだ。
ドアに手をかけて開けようとした時、
「でも、よかったね、アスカ。高校も碇君と一緒で」
え?何の話?
僕はとっさにドアのガラスから見えない様に体を隠して、聞き耳を立てたんだ。
「な、何よ。変な事言わないでよ、ヒカリ。あんな奴の事なんかどうでもいいんだか らね」
「えぇーっ。やっぱりアスカの好きな人って碇なの?」
「やっぱりね。そうだと思った」
「な、何言ってるのよ。そんな訳ないじゃない!」
「だって、わざわざ自分のレベルより下の高校を選んでまでついて行くんだもんねぇ 」
「けなげねぇ〜」
「それは関係ないわよ!通学に便利だから選んだだけなんだから!」
「知らぬは本人ばかりなりってね」
「そうそう。傍から見てるとあからさまだよね、アスカって」
「アスカってさ、碇と話す時だけ全然違うもんね」
「優しくしたいけど、素直になれないのよねぇー」
「はぁ〜っ。恋する乙女は複雑ねぇ」
「だからぁ、何でそうなるのよ、あれはね、あいつがあんまりだらしなくて気が利か なくて、見てるといらいらしてくんのよ!それだけなんだからね」
「好きだからしっかりしてほしいのよねぇ。気付いて欲しいのに気が利かないからい らいらするのよねぇ、アスカ?」
「ウゥーーーー。ちょっと、ヒカリ、何とか言ってよ」
「二人ともアスカが意地になっちゃうから、もうからかうのやめなよ」
「そうよね。アスカって図星を指されるとむきになっちゃうもんね」
「ヒーカーリー」
「まあまあ、アスカ。もういいじゃない。でも、アスカもそろそろ素直になったら? もう中学も卒業なんだし」
「……」
僕は、固まってしまって動けない。
中にいたのは、委員長とアスカと、その他はクラスの女子が二人。
「……そうよ。アタシが好きなのはシンジよ。ずーっと小学校の時からアタシはシン ジが好きだったの!アタシはあの馬鹿シンジが好きなのよ!!……どう、これで文句 ある?」
えぇーっ。アスカ、何言ってるんだ?本当に?こ、これは夢じゃないか?
頭の中は空っぽだ。心臓が早鐘の様に鼓動を速める。
その時教室にいた委員長以外の女子二人が、僕等とは別の高校に進学する事は僕でも 知ってる。今日を最後に、多分そうそう会う機会もないだろう。
だからアスカも、そんな事が口に出来たのかもしれない。
アスカの声に続いて女子の嬌声が響いてくる。
僕は何だか複雑な気持ちで、ドアの前で座り込んでいたんだ。
だって、アスカの今の言葉が本気なのかが分からなかったから。本気だったら、そり ゃ嬉しいけど、売り言葉に買い言葉みたいな響きがあったもんな、今のは。
僕は彼女の真意を計りかねて、そのまま考え込んじゃった。
ところが、
「あいつら遅いわね。アタシちょっと見てくる」
その場にいたたまれなくなったのか、多分、照れ隠しだろう、アスカがドアに向かっ て歩いてくる気配と声が、僕を妄想から引きずり出したんだ。
僕は自分の立場を悟ると、焦りはじめる。
ま、まずい。ここにいたら、まずい。
立ち聞きしてた事がばれたら、内容が内容だけに本当にまずい。
ばれたら、きっと殺される。
どうしよう。どこか、隠れる場所は、そ、そうだ隣の教室。
立ち上がって隣の教室のドアに向かおうとした時、アスカは教室のドアを開けてしま った。
僕等は顔を突きつけ合っちゃったんだ。
「…………………………」
僕の姿を認めた時のアスカの顔。僕はそーっと目を向ける。
耳まで顔を真っ赤にしたアスカが、口を開けて、
「ア、ア、ア、き、き、ア、ア、」
でも、言葉にならない。
僕も、固まったまま声も出ない。
「聞いてたの、アンタ?」
やっと、それだけをアスカは口にする。
僕は、首を縦に振る。
仕方がないよ。言い逃れは出来ないもんな、この状況じゃ。
僕は、自分の死刑執行書類にサインをした……もうお終いだ。
すると、
「最低」
「え?」
「アンタなんか、最低!」
僕はアスカを真直ぐに見据える。
「アンタなんか嫌い!嫌い!だいっきらい!!」
僕を突き飛ばすと、アスカは廊下を走り去って行く。
僕には、たった今見たアスカの顔が目に焼き付いて離れない。
だってその顔には、……今まで見たことがないアスカの涙が光っていたんだ。





僕は呆然としてアスカの走り去った後を見ていた。
そこに、
「どうしたの、アスカ?」
アスカの声に気が付いた教室内の彼女達が、出てきた。
委員長は一目僕を見ると、
「やだ、碇君。そこで何やってるの?」
何やってるも何も無いよ。僕はしどろもどろになりながら、
「い、いや、あの、僕は、その、教室に入ろうとしたら、あの、話し声が聞こえたか ら……」
「聞いてたの、今の?」
僕はまたうなずいた。
彼女達は途端に驚いて、お互いの顔を見合わせた。一様に、「しまった」って顔をし ている。
一瞬、僕等の間に気まずい沈黙が流れて……
「と、とにかく、アスカはどこへ行ったの?碇君」
立ち直ったのは、流石に委員長だった。
僕は、アスカが走って行った方をぼんやり指差した。
「追いかけて。碇君。早く!」
僕の体は、その声に弾かれた様に反応したんだ。
とにかく、アスカに会って謝ろう。
謝る。何を?
決まってる。立ち聞きした事をだ。
このままじゃいけない。このままじゃ、きっと後悔する。
そんな考えがよぎったと思う。あんまりよくは覚えてないんだけど。
僕は教室に入ると窓の側に走って、校庭を眺めた。
卒業生が、在校生が、まだたくさんたむろしている。
僕は左右に目を動かして、探したんだ。時間からして、もしアスカが外へ出たなら今 頃校庭にいるはずだから。
でも、アスカらしい人影は見当たらない。あ、あそこにレイがいる。
って、馬鹿。そんな場合じゃないだろ、今は。
校庭にはいない。じゃ、校舎の中にいるんだ、まだ。
思えば、結構僕はその時冷静だったんだな。
直ぐに僕は走り出した。
教室を出て、廊下を走る。
背後から、
「碇君。頑張ってねぇ〜」
彼女達の声が聞こえてきた。勝手な事言うなよ、まったく。
僕はアスカが走り去った方へ走りながら、アスカは何処にいるか考えた。アスカが行 きそうな所。これが映画とか小説だったら、屋上かな。でも相手はアスカだからなぁ 。今まで彼女には何度も振り回されて痛い目に逢っている。
階段の踊り場に着いちゃった。上か、下か。
ええい、ままよ。僕は他に思い付かなかったんで、とりあえず屋上に行って見ること にした。
そこで、階段を登りかけた僕は気が付いたんだ。
ここは校舎の西階段だ。ここからじゃ屋上には上がれない。屋上に上がるには中央階 段から行かなくちゃ駄目なんだ。
アスカだったらどうする?それでも屋上に行くと思うか?
僕はアスカの身になって考えてみる。もしあの状態のアスカだったら……
ば〜か。そんなの分かる訳ないじゃないか!馬鹿が。余計な事は考えるな。
屋上。そこから一階づつ見て回ろう。
僕は屋上へ急いだ。
何だか今のこの一瞬で、とっても疲れちゃった……





屋上のドアが見える。
もう少しだ。階段を二段飛びで駈け上がる。
見ると、屋上のドアが少しだけ開いている。
ビンゴ!
僕は独白くと、一気にドアを開けて屋上に出て、周囲を見回す。

いない。

いない。

いない。

いなかった……

僕は体の力が脱けちゃって、ため息を一つついた。
僕の馬鹿。何が「ビンゴ!」だ。全然的外れじゃないか。
普通、こういう時ってさ、例えば二人の昔の事かなんかを思い出して、「そうだ、あ そこだ!」ってな感じで居所が分かるもんなんじゃないのか?
あ、いや、映画とかTVドラマとかでは、だけど。
まったく、僕ってやっぱり駄目な奴だよな。
僕は、とぼとぼと屋上のドアに向かって歩き出した。
「やっぱり、縁がなかったのかな、僕等」
うつむいて歩きながら僕は独白いていた。
「アスカ」
彼女の名前をぽつんと呼んでみる。
そしたら、
「何よ、馬鹿」
びっくりした。
その時、僕の頭の上から聞き覚えのある声が降ってきた。
驚いて顔を上げると、屋上の出入り口の上にアスカがいたんだ。
僕はアスカを見上げる。
「アスカ」
「……何しに来たのよ、アンタ」
「そこに行ってもいい?」
アスカの質問には答えないで、僕はそう聞いて見た。
「……勝手にすれば」
アスカは僕の顔を見ないでそう答えてくれた。
僕は周囲を見回した。どうやって登ったんだろう。
そして、上に上がる梯子を見つけた僕は、それを登って、アスカのいる側にやっとこ さ辿り着いた。
「アスカ」
アスカは、自分の膝を抱えて僕に背を向けて座っている。 僕は、声を掛けようと一歩前へ踏み出す。
でも、その前にアスカが口を開いたんだ。
「嘘だからね」
「へ、何が?」
「さっき教室でアタシが言った事、嘘だからね」
「あ、あの」
「アタシがアンタの事なんか、好きな訳ないじゃない!」
アスカは僕に向き直ると、勢いよくまくしたてる。
吐き捨てる様に、何だか悲しそうな顔をしてる様な気がするのは、僕の気のせいかな 。
「このアタシが、さえないアンタなんか好きになる訳ないじゃない!
「あんなのは、ヒカリ達が煩く言うから、かっとなって言っちゃっただけなんだから ね!
「変な勘違いしないでよ!大体、アンタなんか
「いつもうじうじして
「暗くって
「さえなくって
「成績が悪くて
「運動音痴で
「鈍感で
「足が短くって
「気が利かなくって
「その上馬鹿なんだから!
「アタシがアンタの事が好き?ハンッ。笑わせないでよ!」
おいおーい。何もそこまで言わなくっても……
自分でも分かってたけど、そこまではっきり言われちゃうと、やっぱりショックだよ な。
何となく、そんな気はしてたんだけど……
「それで。一体アンタは何しに来たのよ」
アスカのその2度目の質問に、僕はここに来た目的を思い出した。
「え、あ、そうだ……僕は、ただ謝りたくって……」
「謝る?何を」
「あの、立ち聞きしてた事。ごめん。悪かった」
僕は素直に頭を下げた。
アスカは冷たい目でそんな僕を見据えて、
「そうね。立ち聞きするなんて最低ね、アンタ」
最低。
そうだよな。僕もそう思うよ。
「本当にごめん。でも、最初は、直ぐに教室に入るつもりだったんだ。本当なんだ。 だけど……」
「だけど、何よ」
「話が、アスカの事だったから、アスカの事だったから僕は……アスカの事はどんな 些細な事でも知りたくって、それで、その、つい」
「何でアタシの事だったら、つい、なのよ」
「それは……」
「はっきり言いなさいよ、何でアタシの事がそんなに知りたいのよ」
「それは、僕は……」
その時僕は、やっと覚悟を決めたんだ。
「アスカ。僕さ、あの、今日は卒業式だから、ついでに僕も卒業しようと思うんだ。 いつも口に出せない想いを抱いて悶々としてた。アスカの言う通りだよ。僕はうじう じして暗くてさえなくて、本当に言いたい事も言い出せなくて、だからそんな今まで の僕を、今日卒業するよ。それで……さっきはありがとう、アスカ」
僕はしどろもどろになりながら、一生懸命言葉を探しながら、自分の言いたい事をア スカに伝えようとした。
「な、何言ってるのよ、アンタ」
アスカは僕の言葉に目を丸くしている。
そりゃそうだ。僕だって、自分が何言ってるのかよく分からなくなってきちゃった。
「僕の事を好きだって言った事を否定してくれてさ。ありがとう。僕は、あの、僕は 、駄目なら駄目でいいんだ。ただ、僕はその、自分の気持ちを自分から打ち明けたく て、他人や相手から言われるんじゃなくて、自分から切り出して、自分から相手にぶ つけなくちゃ意味が無い様な気がして、どうせそれで玉砕するなら、その方がずっと 良いって思って、その、だから、もうアスカの気持ちは分かったから……あの、僕、 言うよ」
そこで一息入れて、僕は最後の勇気を振り絞ったんだ。
「アスカ。僕、アスカの事が好きなんだ」
「え……」
その言葉に、アスカは改めて僕の顔を見つめ直したみたいだ。
でも、僕はそんな事気付きもしないで、自分の気持ちだけを言葉にした。
「多分、初めて会った時、確か小学校4年生の時だったよね、アスカが転校して来た 時から、ずっと僕はアスカの事が好きだったんだ」
「アスカは、いつも僕にきつく当たったけど
「他の人とは接し方がちょっと違ってたけど
「そりゃ僕はちょっとは嫌だったんだけど
「でも、僕はアスカの笑顔がいつも好きで
「アスカが怒ったり笑ったりするのがいつも好きで
「だから、僕は、ずっとアスカの側にいたくって
「それを見ていられるんだったら、このまま叩かれ続けててもいいかなって
「つまり、その、僕はアスカが好きなんだ!」
「シンジ……」
「だから……そう。これでいいんだ。僕、やっと言えた。何かすっきりしたよ」
「……」
「これから、また同じ高校だけど、無理する事は無いからね、アスカ。無理して今ま で通りに付き合ってくれなくても、そんなのは僕は全然気にしないから」
「シンジ、ちょっと」
「じゃ、そういう事だから、今までどうもありがとう」
そう言うと、僕は急いでそこを降りたんだ。何だかやっぱり悲しくって、アスカの顔 が見ていられなくって、僕は逃げる様に降りたんだ。
「邪魔してごめん、アスカ」
「ちょっと、待ちなさ……」
少しだけ、アスカの声が聞こえたけど、僕はもう振り返らずに階段を転げる様に走っ て、僕等の教室の階にたどり着くと、廊下にしゃがみ込んじゃった。
これでよかったんだ、これで。
とにかく、僕は言えたんだ。自分の気持ちが言えたんだから、これでよかったんだ。
はぁーっ。
僕の初恋は、これにてThe End。
ちょっとだけ、笑いが込み上げて来た。そうさ、こんなもんだよ、人生なんてさ。
暫くして、立ち上がると、僕はみんながもう集まってるだろう、教室へ足を向けた。





教室のドアを開けて中に入ると、もうみんな集まってた。
心配だったのかな、さっきの女子二人も、未だ残ってた。
「遅かったな、センセ。何やっとったんや?」
トウジが聞いてきた。
僕は苦笑いで、それに答えたんだ。
「何や、いつもに輪をかけて暗いのぉシンジ」
「お兄ちゃん、レイを置いてどこ行ってたのよ!」
横を見ると、ちゃっかりレイが僕等の教室の教壇に座ってる。
「何だ、来てたのか、レイ」
「何だじゃないでしょ、お兄ちゃん。待ってろ、なんて言って全然戻ってこないから ここまで見に来たんじゃない!」
「そうか、ごめん、ごめん」
そこに、委員長と女子二人が僕の側にやってきた。
「碇君、アスカは?」
「ああ、アスカ?屋上にいるよ」
僕は、それだけ答えた。顔が引きつってたかもしれない。
三人は、顔を見合わせている。
すると、
「なんだ、お兄ちゃん、そっかぁ。玉砕してきたの?」
ぎくっ。
「ば、馬鹿!そんなんじゃないよ!!」
本当は、その通りなんだけど……
「なんだ、シンジ。その玉砕って」
ケンスケの眼鏡が不気味に光る。
僕はちょっと引いちゃったよ、こういう時のケンスケってなんか怖くって。
「そんなにがっかりしないでよ。お兄ちゃんには、レイがいるじゃない」
レイは教壇から降りて、僕の横に走って来て、僕の右腕に自分の腕を絡め、
「レイがずっと側にいてあげるよ、お兄ちゃん」
「妹に言われたってなぁ。それにお前だってそのうち嫁に行くんだぜ」
「いいもん。わたしお嫁になんか行かないから。だからずっとお兄ちゃんの側にいて 面倒見てあげるね」
「は、ははは……」
何て解釈したらいいんだ、こういうの?
ほら、周りのみんなもどうフォローしていいか困った顔してるよぉ。
まいったなぁ、レイにも。
すると。
そこに、アスカが戻って来たんだ。
ドアを開けて教室に入ると、僕に向かってに真直ぐに歩いてくる。
それに気付いた僕は、レイの腕をほどいて、アスカに振り返った。
アスカ、なんか真剣な顔してる。さっき変な事言っちゃったから、怒ってるのかな。
無意識の内に、僕は身構えてた。
「待てって言ってるのに、どんどん先に行っちゃうんだもん」
そう言いながらアスカはそんな僕の目の前に来ると、
「シンジ、忘れ物よ」
みんなの見てる前で、僕の顔に自分の顔を近づけて、そして……

僕の唇に柔らかい感触がほんの一瞬触れたと思ったら、すぐ離れて……

次の瞬間、アスカの両腕が僕の首に巻き付いてきて、彼女の髪のいい匂いが僕の鼻を くすぐった。
ええっ。ちょ、ちょっと、アスカァ。
驚きに僕は固まっちゃって身動きすら出来ないんだ。
余りの事にぼーっとしたままの僕の耳元に、アスカは、
「さっきはありがとう、シンジ。アタシ、嬉しかった」
周りのみんなも−−特にレイは−−石の様に固まって身動き一つせずにそんな僕等を 眺めている。
アスカが僕の側にいる。僕に抱きついて、僕のすぐ側にいる。
柔らかいアスカの体が今僕の目の前にある。
ああ、アスカ……まるで、夢のような……
僕は、固まってた両手をぎこちなく動かすと、アスカの体を抱きしめようとした。
だけどそんな僕の動きは、急に僕から離れたアスカの燕の様な動きにかわされる。
アスカは、むなしく自分を抱きしめる僕にいたずらっぽい目をして振り返ると、
「アタシも、今日で卒業。素直になれない自分から。……これからも宜しくね、シン ジ」
にっこりと、今までで一番綺麗な笑顔で、笑ったんだ。











……とりあえず、中学校の卒業式の日に僕に起きた出来事は、こんなところかな。
結局、僕は最後までアスカに振り回されて、彼女の真意はよく分からなかったんだけ ど、まあ、それはそれでいいんじゃないかって事で僕は納得したんだ。
春休みに仲間とどこに遊びに行ったのかは、そうだね、今度また機会があったら話し てあげるよ。
え?そうそう。レイはね、あれから3日後にまたアメリカに帰ったんだ。何だかスキ ップっていうの?学校の学年を飛ばす制度、あれで何年分か稼ぐんだって張り切って たよ。
僕とアスカがその後どうなったかって?
う〜ん。それは今はまだ秘密だよ。
あんまり勝手にべらべらしゃべると、アスカ怒るから。
でも、もしどうしても知りたいって言うんなら……そうだな、今度僕の家に遊びに来 るといいよ。
いいものを見せてあげるから。きっと驚くよ。
それじゃ、またね。




「卒業式」 了


27th September, 1997

ver.-1.00 1997-09/29公開
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 ishiaさん『卒業式』、公開です。
 

 良いですねぇ・・・卒業式。
 

 先輩のボタンをねだる下級生。
 別れを惜しむ卒業生同士。
 先生との記念写真。

 そして、
 これを機会の告白(^^)
 

 わたしは・・・悲しき男子校・・
 そんなん無かったやい! (;;)

  あったら、あったで怖いけどね(^^;
 

 ちょっと素直に、
 かなり勇気を。
 

 可愛らしいLASでした(^^)/
 

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