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EPISODE
少年−シンジ−の場合



Stage 2 彼女






シンジの目の前に少女がにこやかに笑いながら立っている。
「ハーイ。グーテンダーク。サードチルドレン、間宮シンジ」
軽やかに挨拶する少女。目を大きく見張り言葉が出ないシンジ。
「はじめまして、バカシンジ」

バカシンジ。この言葉がシンジの頭の中で反響する。
あの時の声。そう、時々耳をかすめるくすぐったい様な声。
でも、どうして?僕、どこかで会った事あったかな……

シンジは自分の記憶の海の中に深く入り込む。えーっと、えーっと、思い出せない… …

そんなシンジの考えは少女の怒鳴り声に消し飛ぶ。
「ちょっと、シンジ!このアタシがわざわざ丁寧に挨拶してんのよ!ちっとはうれしそうな顔しなさいよ!全く、本当にアンタって気が利かないのねぇ。せめて挨拶くらい返したらどう?」
頬をふくらませ凄む少女を前に我に返ったシンジが口を開く。
「ご、ご、ごめん。あ、あの……はじめまして……?」
「そう。やればできんじゃん、バカシンジ」
「あ、いや、あの、その……」
「何よ、何か言いたそうね、アンタ」
「その、バカシンジって……」
「ああ、アタシがつけたの。アンタの愛称。われながら上手いわよねぇ」
「あ、愛称って……」
「やっぱりサードチルドレンじゃ堅っ苦しいじゃない?だから、バカシンジ」
胸の前で手を合わせ悦に浸る少女を前にして、シンジは顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。そしておずおずと、改めて少女に目をやる。そして、驚愕。

目の前に立つ少女は、まるで宗教画から抜け出た天使を思わせる。ストレートでしなやかそうなロングヘアは後ろでゆったりとまとめられている。見ていると吸い込まれそうなマリンブルーの瞳。薄い桃色の口唇。滑らかできめの細かい肌。そして着ている薄い紅色のワンピースを通してもはっきり分かる均整の取れたプロポーションはめりはりのある女性特有の曲線で構成されている。

こんな綺麗な娘初めて見た……
同い年くらい、かな。悪いけど、クラスの女子とは大違いだぁ
テレビを観たって雑誌のグラビアをめくったってこんな綺麗な娘いないや……
本当は日本人じゃないよな、きっと。でも日本語上手だし、ハーフかな。眼も青いし、髪も赤いし、スタイルも肌の白さも……

シンジはしばし今までの状況も忘れてただただ目の前の少女に見とれてしまっている。ぼんやり口を開けて、全身を見回して又顔を赤くする。
それに気付いたアスカが、
「何じろじろ見てんのよ!」
シンジに張手を食らわす。
「ごっ、ごめん」
張られた左頬を押さえながら、シンジは我に返る。

そうだ、そんな場合じゃないよ、今は。

「って、それでこの人達は?君は一体、僕の事何で知ってるの?僕、前に君に会った事ある?君ここの生徒じゃないだろ?こんな所で何やってんの?どうして一体?でもってどうやってこの部屋に入ったの?」
堰を切ったように質問をぶつけるシンジ。
それを聞いてアスカが口を開く。
「その前に、アタシはアスカ。惣流・アスカ・ラングレー。アタシを呼ぶときはアスカ、でいいわ。アンタには特別に許してあげるから」

ゆ、許す?どういう事?
少女の高圧的な態度に戸惑うシンジ。
でも今のシンジにはそれ以上は気が回らない。

「そ、そう。アスカ。で、……?」
おずおずと、質問の答えを促す。
「アンタ馬鹿?いっぺんにそんなに全部説明なんかできる訳ないじゃない。それに、今はのんびり話してる暇、ないのよ、アタシ達」
そう言うと、アスカは空間に目をさまよわす。何か遠くを見るような眼……

どうしたんだろう、この娘。シンジはもう目が離せないでいる。

そんなシンジを他所に、アスカは、すぐに向き直る。
「とりあえず、行くわよ」
シンジの手を取るとアスカが言う。
「え?行くって、何処へ?」
「アンタを助けに来たのよ。全く、危ないところよ、あのまま付いて行ってたら。こいつらとんでもない奴らなんだから。安全な場所へ案内するわ、これから」
「で、で、この人達は?」
アスカの足元で倒れている二人の男に視線を移し、
「も、もしかして、し、死んでるの?」
シンジの言葉にアスカが振り向く。
「まっさかぁ。こう見えてもアタシは出来るだけ殺しはやらない主義なの。ショックで寝てるだけよぉ」
憮然とした顔でアスカが言う。
「そ、そう。でも、このままにしといていいのかな」
「ああ、そうねえ。確かに、邪魔っけかもね」
そういうと、アスカは倒れている二人の男に両手で同時に触れる。

「!」

次の瞬間、触れられた二人の男は同時にその場から溶ける様に消えている。
「これでいいでしょ?」
アスカが振り返る。
それに答える事も出来ず、ただ目を丸くひんむいて驚くシンジに、
「こんな事位で驚いてる場合じゃないの!とにかく、行くわよ、いい?」
有無を言わさぬ口調で怒鳴り、シンジの手を引っぱり窓の方へ歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ、アスカ。ドアはこっちだよ、ねえ」
引きずられながらドアの方を指差す。
「いいのよ。男の癖にいちいち細かい事気にするのねぇ、アンタ」
アスカの言葉にむっ、とするシンジ。
「だ、だって、何処に行くんだよ、窓から飛び降りるつもりなの?そんなのアスカの方がおかしいよ、絶対」
それを聞くと、アスカは一度立ち止まり、腰に手をあてて大声を出す。
「何ですって?アタシのどこがおかしいってのよ。だいたいアンタ、バカシンジのくせにナマイキよ!アンタは黙ってアタシの後についてくればいいの!」
「な、なんだよ、その言い方。突然現われて何の説明もしないで勝手に仕切るなよな!」
「アンタ馬鹿?自分の置かれてる状況が分かんないの?さっき聞いてたんでしょ?政府特別治安維持法が適用されてんのよ。それも、ア・ン・タに!!このまま連行されて行ったらどうなるか分かる?アンタこの先「一生」太陽が拝めなくなるのよ!それでもいいの?」
「え?そ、そうなの?」
とたんにシンジの頭が急速にCool Downする。顔面から一気に血の気が下がって行くのが自分でも分かる。アスカはそんなシンジのリアクションにため息をつきながら、額に手を当てる。
「……ったく。馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど……本当に馬鹿ね」
「だ、だって、そんな「なんとかちあんいじほう」なんて、し、知らなかったんだよ。どんなものなのか想像もつかなかったし……」
唖然として小声でぶつぶつ独白くシンジ。
「ぼ、僕、何か悪いことでもしたのかな。だ、だって、全然心当たりないんだよ、そ、それにさっきの人達僕の事を保護するって言ってたし、僕の両親もそれで喜んでくれるって……僕が必要な人間なんだって、重要な役目があるんだって、そう言ってたから、だから、僕、自分がそんなに必要とされるんだったら、それでもいいかな、なんて思ったんだ、そうすればこんな僕だって、大事にしてもらえるかもしれないって……アスカ、ど、どうしよう、どうしたらいいんだろう、どうす……」

アスカが先程と打って変わった怒りの色の消えた瞳で、笑顔を作る。そっと左手でシンジの右頬に触れながら、顔面蒼白でうつむきながら消え入りそうな風情のシンジに、優しく声をかける。

「分かった?アタシの言う通りにしてれば間違いないんだから。さっきはアタシもちょっと言いすぎたわ。でも、よく覚えておいて。アタシは、……アタシ達は、アンタの味方だから。それに、アンタは何も悪い事なんかしてないのよ。ちょっと複雑で一口には説明出来ないけど、これは日本政府と、同盟関係にある国の政府とが共同で組織している某「委員会」の計画で、たまたまアンタがその適確者、チルドレンの一人に選ばれちゃっただけなんだから。だから、アンタは何にも気に病む必要はないの。いい?シンジ」

柔らかいアスカの掌が、シンジの頬を優しく撫でる。
「ねえ、アスカ。そ、その、適確者って、チルドレンって何なの?さっき、アスカも僕の事『サードチルドレン』って呼んだよね」
アスカの瞳が光りを放ち出す。穏やかな笑顔を浮かべ、両方の掌でシンジの頬をはさむ。
「本当は時間が無いんだけど……いいわ、教えてあげる。チルドレンっていうのは……それは「力」を持つ子供達の事」
「ち、力?」
「そう、「力」。見せてあげる」

アスカの暖かい体温が、頬をはさんだ掌を通して伝わってくる。次第に下がった血の気が少しづつ戻って行く。ゆっくりとうつむいた顔を上げると、自分を見つめるアスカの青い瞳とぶつかる。吸い込まれそうな深い瞳。柔らかい光りを宿した虹彩。アスカの両の瞳にシンジの顔が映っている。彼女の瞳に映った自分の瞳を見つめるシンジ。………突然、自分の視界が白色化する。……白い、闇……


「ああっ!」








気が付くと、シンジは何の支えもない中空に一人で浮いている。自分の四方を圧し包むように広がる暗闇。かすかに小さな光りが点在している。遥か彼方に、他の光りに比べてかなり大きい点が見える。いや、点ではなく、明り。シンジに今の自分の居場所を、その明りが何なのかを教えたのは、彼の足元に圧倒的に存在するもの。それは、広大な面積を持ち、それ自身では球体である事すら認識出来ないほどの存在感を主張しているもの。表面に白い綿の様なものが所どころにかかり、その隙間からのぞく紺青の海は、周囲の暗黒との境目で白く薄い輝きを放っている。

(こ、これは、地球?)

<そう。小さい頃アタシが好きでよく見に来た風景のイメージ>
シンジの頭の中に、アスカの「声」が響く。
<もっと、高く上がるわよ>

その言葉と共に、シンジの足元に広がっていた「存在」がみるみる収縮されていく。次第に小さく、円形に収斂していく。広大な暗黒空間に、まるで宝石の様に輝きながら浮かぶ青い球体。人類を、無数の生命を育み、抱きしめている「絶対」の存在。

(すごい。すごく綺麗だ。知らなかった。地球がこんなに美しいものだったなんて……)

シンジは目をそらす事なく、足下に浮かぶ青い球体に心を奪われている。
今なら彼にも肯定出来る。自分がちっぽけな存在に過ぎない事を、自分の苦しみ、悲しみ、悩みなどが取るに足らないものであった事を、自分の心の動きが、他人の思惑を気にする事が、実は何の意味も持たない物であった事を。
それほど、目の前の存在は圧倒的な美しさを主張し、彼の心を包み込む様に浮かんでいるのだ。
いつしか、シンジは瞳から涙をこぼしている。
涙にぼやける視点。しかし。彼はこの光景を一生忘れまい、と心に誓う。いつでも、会える。自分に必要になればまたこれを見る事が出来る。何故かシンジはそう信じている。何故かシンジにはそれが真実である事が分かる。
シンジは自分の頭を振る。もう何も考えたくない。今は、眼前の光景をただ見ていたい。この感動を自分の心に刻み付けたい。母なる存在に身を任せていたい。

シンジは再び目をそらす事なく、地球を見つめ続ける。


「!」


次の瞬間、今までシンジが見つめていた青い球体に自分の顔が映っているのを認める。球体?違う、これは……アスカだ。アスカの深く青い瞳。濁りの無い輝きに満ちた、母なる大地の様な存在。
そのままだと吸い込まれてしまう様な感覚。先程と同じ捉えどころのない浮遊感。
ただ、黙ってアスカの瞳に映る自分の瞳を見つめ続ける。何故か、そうしなければならない様に、そうする事が当り前の様に、自分の奥深くから湧き出る様な感情。

だんだん、分からなくなってくる。僕は今、アスカの瞳を見つめている。でも僕はどこにいるんだ?「アスカの瞳に映った自分の瞳」を僕が見つめているのか、「自分の瞳」をアスカの瞳を通して見つめているのか……

(ああ……)
シンジは理解する。これは、ここは、アスカの中だ。僕はアスカの中からアスカの瞳を通して、僕の瞳を見ているんだ。僕はもうアスカの中で溶け合って一つになっているんだ。そうかぁ、そうだったんだ。
これが、他人の眼に映る僕の姿なんだ。
これが、本当の僕の姿なんだ。
何も、恐れる事はないじゃないか。そうだ。何も気にする事はないじゃないか
目の前の僕。これが僕じゃないか



そ・う・だ。







新武蔵野市。
シンジ達のいる中学校から約5Km程離れた路上。
一台の大型トラックが駐車している。
荷台部分の薄暗いコンテナの中。
様々な電子機器とモニターが並んでいる。
3人の白衣を着た男達の眼と両手がその電子機器とモニターとを行き来している。
「T1よりB1へ。目標確保に失敗。天使が介入した模様」
一人の男が忙しく両手を動かしながらマイクに報告する。
ヘッドホンを着用したもう一人が片手を当てて聞き取っている。
最後に「了解」とマイクに言うと、同僚達を振り返り、
「チルドレンに連絡。計画をグリーンからブルーへ変更、宜しく」
そしてまた目の前の機器に向き直る。
全員が無言で、与えられた作業を始める。








誰も入ってこない、生徒指導室。
少年少女は、宙に浮いている。
少女は両の手で少年の頬に触れている。少年はそんな少女を真直ぐに見つめている。
二人の身体を、包み込むほの白い光り。
次第にその光りが薄くなり、それにつれて二人の身体が音もなく床に下りてくる。
光りが完全に消えた時、二人は静かに床に着地する。

「力」の解放と意識の拡散・収縮。それは時には経験を積んだ「能力者」にとってさえかなりの負担を強いる事がある。アスカは、シンジの頬に触れたまま、暫く身動きが取れないでいる。シンジに至っては、心すらまだ戻って来ていないかのような虚ろな表情。
だが、それは、時間にしてほんの数秒であったか……

「ふうっ」

一つのため息と共に、少女の瞳に輝きが戻る。そして、そのため息を合図に少年の表情が溶け始める。
「どうだった?」
まだ、上手く唇を動かす事が出来ないシンジは、眼でうなずく。
そこには、いまだに感動の色が浮かんでいる。
「本当は、もっと具体的且つ実際的な「力」を見せてあげればよかったんだろうけど、ふふっ。アタシもたまにはやってみたかったんだ、こういうの。レイの得意業だもんね」
「レイ?」
やっと身体が動く様になったシンジが聞き返す。
「そう、アタシ達の仲間」
「そ、そうなんだ」

−その人も「チルドレン」って呼ばれてるの?−
−そして僕もまた、「チルドレン」なのか?−

そう聞き返そうとして、シンジは思いとどまる。
何となく、聞いてはいけない様な、答えを聞くのが怖い様な……
そしてまた沈黙する。胸の奥に先程の印象が広がっていく。

(しかし、綺麗な、瞳だな、アスカの瞳って。それに、暖かかった。なんか、心が落ち着く気がする……とても久しぶりに感じる、懐かしい様な、そう、昔から知っていたような……何だろう、この気持ち……)

一方、アスカは、
(どうやら、落ち着いたみたいね。どうなるかと思ったけど、この状態なら無事に連れて行けそうね。アタシもまんざらじゃないわね。って、レイだったらこのまま催眠状態にも出来るんだろうけど。そこまではねぇ。……さて、行きます、か)

そっと、自分の瞳と掌に最後まで集中していた「力」を外す。

はっ、と我に帰るシンジ。急に恥ずかしさが込み上げて来るのか、頬が赤く染まり出す。
(ぼ、僕は一体、何を考えてたんだ、今? 初対面の女の子に……)

シンジの思考は手に取るように分かる。「覗き」こむ必要もない。
クスッと笑うと、
「じゃ、行こうか」
静かに声を掛ける。








<狼は消失。ビーナスがシマリスの保護に成功。状況を次の段階へ移行>
静かな「声」が空間に広がる。








「ねえ、アスカ。これからどこに行くのか知らないけど、その前に一回家に戻ってもいいかな。いろいろ、用意もしたいし」
「アンタまさか旅行にでも行くつもりでいるんじゃないでしょうね。着替えや洗面道具でも用意するつもり?それとも、愛用の枕がないと眠れないとかぁ?」
アスカは最初の頃の調子に戻ってシンジをからかう様に答える。
「ち、違うよ、ただ……」
「ただ、なに?」
いたずらっぽい瞳でシンジを覗き込む。
「い、いや。何でもない」
シンジはこころもち顔を赤らめている。
「でも、それは駄目よ。悪いけど」
「ど、どうして?」
「アンタ馬鹿?アンタの家なんか相手にとって一番真っ先にマークするべき目標じゃない!奴らはこの学校にさえ来てんのよ、家になんか帰ったら「さあ連行して下さい」ってなもんじゃない。そんな事も分かんないの?……ましてやこいつらが」
最後の言葉と共に、シンジに自己紹介した際に男達が残して行った名刺をつまみ上げ、
「アンタとの接触に失敗した事はもう相手にも筒抜けだろうし」
「そ、そうか……じゃあ、僕もうあの家には戻れないんだね」
「気持ちは分からないじゃないけど、これは諦めるしかないわね。まあ、そうがっかりしないで。そのうち風向きが変わるかも、しれないしね」
そういってアスカはシンジの背中を軽くたたく。可愛い小ぶりの掌が、しかしスナップが効いているのだろう、小気味良い音を立てる。
「じゃ」
アスカが左手を差し出す。
「?」
「アタシの手を掴んで、早く!」
「あ、ああ」
シンジの右手がアスカの左手を握る。


その瞬間。

シンジの目の前が真っ赤に変わった。
まるでスローモーションの映画を観ているように、シンジとアスカのいる部屋が突然真紅の炎に包まれる。それは、壁に当たって砕ける波の様に広がる。部屋の中の机が、椅子が、そのままの姿で赤く発熱する。何の前触れもなく突然現われた激しい炎に、シンジにはなにも考える暇は無かった。そして炎は二人を包み飲み込もうと、その手を広げる、様に見える。目に入った炎に続いて、

ドンッ!

鈍い、腹に響く様な轟音が遅れてシンジの耳を叩く。
「っっっっっ!」
思わずアスカの腕につかまり、目を閉じるシンジ。そしてそれと同時に、頭が、体が、アスカの腕を掴んだ自分の手が、歪んで捻れる感覚。なんか、吐き気がする……








路上駐車中の大型トラックコンテナ内部。
「チルドレン到着」
「目標、補足」
「目標地点に展開」
「各自作戦行動開始」








「えっ?」

次の瞬間、シンジとアスカは違う場所にいる。空が見える。風が気持ちいい。見晴らしのいい、どこかのビルの屋上……そこまで考えて、シンジは自分が今何処にいるのか悟った。
「こ、ここは学校の屋上じゃないか!」

うそ、さっきまで生徒指導室にいたのに何でいつの間に僕等はここにいるんだ?さっきの炎は、何だったんだ?もしかして僕、また居眠りでもしてるのかな。そう、目が覚めたらまだ授業中だったりして。は、はは。そうか、夢か、これ……

余りの事にもう、シンジの思考は半分止まりかけている。しかし、自分の頬をなでる風に、揺れる自身の前髪に意識が向けられると、はっとした様に思わず鉄柵に走り寄る。
下を覗くと、さっき自分達がいた部屋であろう、生徒指導室から煙と炎が上がっている。舞い上がる火の粉と熱気に顔をしかめ、立ち昇ってくる煙を手で避けながら、呆然とそれを視界に収める。もう「見る」という感覚すら自分の中では現実味を伴わない。痺れる頭を軽く振ると、改めて目の前の光景に努力して意識を戻す。

そんな、じゃあ、さっきのは、気のせいじゃなくて……

「そうよ、気のせいなんかじゃないわ……」
いつの間にかシンジの横に立つアスカが、つぶやく様に言う。まるで、シンジの考えている事が分かるかの様に。
「そしてこれも、アタシが持つ「力」の一つ」
アスカの言葉を聞いて、シンジが弾かれる様にアスカに向き直り、うなずく。その目はいつになく真剣そのもので、さすがのアスカも少したじろぐ。が、それをかわすかの様に鋭い口調で答える。
「まさかチルドレンまで配置してたとわねぇ。ぐずぐずしてられない。すぐに第二波が来るわ。その前に「跳ば」なくちゃ。シンジ、手!」

(しかし、いつの間に?突入前のチェックでは確かに何もいなかったハズなのに。)
アスカは瞬時に考えを巡らす。
(しかもあの攻撃。このアタシとしたことが一発もらうまで全然気付かなかったなんて……かなりの「能力者」?……いや、確か資料で見た限りでは日本のチルドレンにはそれほど注目する子はいなかったはずだけど)

アスカが差し伸べる左手をもう一度シンジが握る。

「アスカ!!」
突然、シンジが魂切る様な声を上げる。

「!」

アスカがふりむくと、そこに。
少年が一人、空中に浮いて二人を見下ろしている。







NEXT
ver.-1.00 1997-09/07公開
ご意見・感想・誤字情報などは ishia@hk.nttdata.net まで。


次回予告
突然の攻撃をからくも回避した二人の元に、
ついにその姿を表わすチルドレン達。
対峙する二組のチルドレン。
そこに去来するものは戦いへの序曲なのか。
次回、Episode/少年−シンジ−の場合 Stage 3
「胎動」



 ishiaさんの『Episode/少年−シンジ−の場合』、Stage 2、公開です。
 

 突然現れたアスカに見とれるシンジ・・・。

 うんうん。
 気持ちは分かるぞ(^^)
 

 いきなり、

 [超]が付いて
 [絶]が付いて
 [スーパー]も付いて、
 [デラックス]も付いちゃて、
 [ウルトラ]も付けようか・・
 [ハイパー]なんてのもいいぞ。
 さらに・・・・もういいか(^^;

 とにかく、それだけの美少女が自分の名前を呼んだんだもんな・・・
 

 いきなり敵が責めてきたけど、
 シンジ、ガンバレとは言わない。
 アスカちゃんの足を引っ張ることだけはしてくれるな(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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