TECHNIC COLOR TIME MACHINE
テクニックカラータイムマシン
登場人物
碇シンジ
霧島マナ−−−1−−−
「ありがとう、シンジ君。今日は、このくらいでいいわ」
ここはシンジ達の通う第三新東京市第壱中学校の美術室である。霧島マナは近く行われる絵画コンクールのモデルになってくれたシンジに対して礼を言ったのだ。
「いや、別に気にしないで……。でも僕なんかがモデルでいいの?」
「いいのよ。シンジ君がモデルで」
そういってマナは笑った。
外はもう日が落ちて暗い。マナは油絵の道具を片づけ、イーゼルを所定の場所に返した。
そんな最中だった。
「ねえ、シンジ君。突然なんだけど……」
「なに?」
「突然なんだけどさ。予言って信じてる?」
「予言って、あのノストラダムスとかああいうの?」
「そう」
「急にいわれても分かんないけど……。一体どうして急にそんな話を?」
「じつはね、シンジ君。わたしね、予言が出来るのよ」
「え?」
「だから、私は予言が出来るの。ああ!その目!信じてないでしょ?」
マナはそう言って、自分の鞄の中から、ありきたりのノートをもって出てきた。
それからマナはシンジの方向いて、こういった。
「ねえ、突然なんだけど、何色が好き?」
「えーと、紫かな」
「じゃあ、紫ね」
マナは携帯していた12色鉛筆を勢いよく取り出して、その中から紫を取り出したのシンジは呆然と見ていた。
「少しの間、見ないでね」
そういって、ノートに何やら、書き込んでいた。書き込み終えると、それを三つ折りに畳んで、かわいらしいピンクの封筒にしまい込んだ。
「さてと、ここを糊付けして……」
どうやら作業は終わったようだ。
マナは少し誇らしげにシンジにこういった。
「さて。この封筒の中には私の書いた予言が書いてあるわ。これをシンジ君に預けます」
「ぼくに?」
「そうよ、最初に言っておくけど一人で見ては駄目よ。これは私だけが開けられるものだからね。そういうふうに呪いをかけました。いい?絶対開けちゃ駄目よ」
「う・うん……」
そんな勢いのマナにシンジは圧倒され、思わずのけぞってしまった。
「一人で勝手に見なければいいのよ。シンジ君は約束を守る人だもんね。さあ、もう帰ろうよ。もちろん送ってくれるでしょう?」
何やらキツネにつままれているような気がシンジにはしていた。
ともあれ、こうやって二月七日は過ぎていったのである。
−−−2−−−
その二日後の九日にシンジの鞄の中にはもう一通マナの封筒が増えた。
またも色鉛筆で書かれたのだが、文面は見せてくれないものの、その色は緑だった。これは自分の好きな色だとマナはシンジに語った。
「もうちょっと待ってね、もう一つ作るから」
そういって、シンジが貰った封筒は前回と同じ状況下で手渡された。
シンジはそうやってキャンパスに向かっているときに何か思いついたりするのかな……と漠然とおもうだけで、なんの疑問を持たずにその封筒を受け取り、その鞄に仕舞った。
最初は気にはなるのだが、普通に生活している間に、自分の鞄の中に封筒が入っていると言うことはついつい忘れてしまう。
埋没してしまった封筒の記憶を思い出させてたのは二月十三日のことだった。
シンジはマナがピンク色の色鉛筆で何やら書いているのを見て、そういえばと思い出すことが出来たのだ。マナは封筒を手渡ししながら、シンジに言った。
「これがさいごよ」
「え?ああ、その予言のやつかな。じゃあ開けてもいいの?」
「んー。ちょっと待って、明日にしよう」
「明日?」
「そう、明日の放課後って事で、いいよね?」
「別にかまわないけど、ずいぶんと気をもたせるね」
「へへへ。そのかわり、びっくりするんだから」
マナは屈託のない笑顔で笑った。
−−−3−−−
次の日の放課後、美術室にシンジとマナはやってきた。
「さ、封筒だして」
「うん……」
シンジはその時になって初めて気が付いたのだが、その封筒はピンク色の全く同じ封筒だった。
「それじゃあ、取り敢えず、全部開けてみていいよ」
そういわれたシンジは中の封筒を開けて、目の前の机の上に全部並べた。すべて、三つ折りの状態で、まだ中の文章を見ることが出来ないでいる。
「それじゃあ、あけようか」
シンジはまず、最初の文章を開けてみる。それは緑色で書かれた文字だった。
「ちょっと待って。それ、二回目に書いたものよ」
「え?ああ、そうだった。じゃあこれは後回しにしよう。最初に書いた文字は何色だったったけ?」
「もうわすれたの?シンジ君が好きな色で、むらさきでしょ」
「そうだった」
「ほら?これじゃない?紙の裏から透けて見えてる」
「ほんとだ。取り敢えず、一枚目を開けようか」
そういってシンジは紫色で書かれた用紙を開けてみる。
「何々……。二月八日。ミサト先生、二日酔いのため、午後から出勤……って、なにこれ?」
「なによ、シンジ君覚えてないの。教頭先生に大目玉を食らったって、おちこんでたじゃない」
「そうだったっけ……。ああ!そうだね。でもこれがいつ書いたんだっけ?」
「丁度一週間前よ。七日」
「良く覚えてないな……。でもこれじゃあ、予言にならないね……。ごめんね。霧島さん」
そういって、シンジはマナに謝った。しかしながら、一週間前の日常を覚えている方も難しいのである。
「いいの、いいの。それじゃあいい?次の予言はこの私の好きな色の緑色で書かれたこの文章よ」
「うん」
「最初に確認しておくけど、この文章は九日に書かれたものよ。おぼえている?」
「多分……」
「それじゃあ、あけてみて」
言われるがままに、シンジはその緑色の文章を読んだ。
「ええと……。碇シンジ、現国の日向先生の眼鏡を踏み割ってしまう……ってこれ昨日の事じゃないか!!」
「そうよ。だから予言だって言っているでしょ?これなら納得行くでしょう?」
「すごいな」
シンジは確かにマナが緑色の色鉛筆で何やら書いていたのを鮮明に思い出していた。確かに緑色だった……。それも九日かどうかは心許ないが間違いなく昨日ではない。こんな事ってあるのだろうか……。
驚いているシンジをくすくす笑いながら、マナは最後に残った用紙を手に取ってこう言う。
「さて、シンジ君。ここに書かれている三枚目の用紙には今日のことが書かれているのです。それで昨日は、出し渋ったンだけど、それは今日開けた方がはっきり解るからなのです」
マナはそういって、シンジに用紙を渡した。当たり前なのだが、そこにはピンク色で書かれた文章が連なっている。
「ええと……今日碇シンジは霧島マナの予言に驚きつつ、不思議におもう反面、霧島マナの魅力に初めて気づくことが出来るのです。そうしていつかはお友達という壁を二人は乗り越えるでしょう……って霧島さんこれな…」
シンジはマナに向かって顔を上げた。するとそこには半分だけラッピングされているチョコレートがあった。シンジがこれを見て、すぐに中身がチョコレートであることがわかるためにクリアケースの箱に、半分だけラッピングをかけたものだった。
マナは顔を赤くしてこういった。
「ね・最高のタイミングじゃない?いまのって」
−−−4−−−
「……とまあこんな具合なんだ。僕とマナの最初のなれそめはね」
シンジとマナの新居に集まっていた友人達はほうと一息を漏らした。新婚旅行から帰ってきて、新居の整理もすんだ。そんな折り、新居見物をかねて友達が集まっていたのだ。
シンジはグラスを片手に、水割りを飲みながら周りにはやし立てられ、今までのことを語っていたのだ。シンジは氷片がくずれる音を聞き、さらに語る。
「元々、マナが気にかからなければ、絵のモデルなんで承知しないんだけどね。それはそれとして、最初は本当に気味が悪くなったんだ。だって、予言を的中されるんだよ。これからの人生が何もできなくなってしまうじゃないか」
そういってシンジはグラスを傾けて、口をしめらせてからこういった。
「ところがなんだ。目の前にチョコを差し出されたときなんだけれど……、その時のマナの顔がね、顔を真っ赤にしている表情がたまらなく魅力的だったんだ。はっきりと好きなんだと感じたんだ。それまでの恐怖も全部なくなってしまうくらいにね」
そういってシンジは傍らに腰掛けていたマナと微笑みあった。
友人の一人がシンジに聞いた。
「それじゃあ、奥さんはやっぱり予言者なんですか?」
「ああ、そうか、そのことを話していなかったんだ。マナ、ちょっと持ってきてくれないか」
少したってから、マナは十二色の色鉛筆を持ってやってきた。シンジはそれを受け取ると、おもむろに緑色の色鉛筆を取り出して、傍らに寄せてあった紙切れにスッと一本の線を引いた。
そこには紫の線が色鮮やかにひかれているのだった。
「まあ、テクニックカラータイムマシンってところかな」
そういって、シンジとマナはくすくすと笑った。
後書き
時事ネタということで、「テクニックカラータイムマシン」をお送りしました。
星新一さんの訃報を聞き及び、段ボールに押し込んであった幾つかの著作をよみかえしました。高校時代のたった十分の通学時間のため、非常に良く読んだ記憶が残っています。聞けば、その作品数は一千を越えるとかで、声を大きくはいえませんが、それなりに好きだった作家でした。
その影響というわけではありませんが、極力内容を圧縮させた、短い作品を書いてみたいと思い、この作品を書きました。
最後のオチを読んで、腑に落ちる人と落ちない人が出るのではないかと思い、少しその説明をしようと思います。
これはミステリーでは常套手段の類のものですが、『入れ替え』を用いたテクニックです。肝となるものは同じ種類の封筒と異なる色をした文章ということになります。
一枚目に書かれた文章は紫に見えるがその実、ピンク色で書かれているわけです。これを繰り返すことによって、三回目に渡された封筒は二回目に当たる予言が書かれている事になるのです。つまり、この作品の中では十三日、その日あった出来事をしたためておけば、次の日、開けるときにはぞの前の日に書かれた文章のように見えるというわけです。
最後にシンジの述懐の形を取っているために、本当はどんな形に書いても良いのですが、フェアであることに気を使って書きました。
さて、最後に投稿してから、早四ヶ月立ってしまいました。それまで何をしていたというと、やっぱり書いてました。参加表明していた、オクトパスストーリーが思うように出来なく、ずるずると時間ばかりが過ぎていったという次第です。それと同時進行に、長編のお話も結構先まで書き進んでいます。空欄になりっぱなしのアスカバージョンもそれなりに、書き進んでいて、夏くらいまでに一挙公開したい考えています。
月末までには次の作品をお送りできるようにしたいと考えています。題は『KOTOBAと旅する男』。乱歩、京極、竹本健治にピンときた方はすこし、期待して下さい。それではこのへんで。
(2/13脱稿)