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水の鏡

[アスカバージョン]

第二話・意外な邂逅


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アンドロギュヌスには四本の腕と四本の足、二つの顔と二つの性器があり、四方八方から飛び出ている腕や足を使って、転がるように移動する。彼らは誇り高く活動的で頭の鋭い種族だった。そのためについに神々に挑戦するようになって、怒ったゼウスは二つの部分に切り離してしまった。こうしてアンドロギュヌスは男と女に別れたということである。それ故に、お互いが一つだった頃の記憶に頼り、お互いを求めあうという話である。これが、エロスの起源である。(プラトン「饗宴」出典)




「ば・ぼくが歴史上の偉人になるの!?」「そうでもないんだが・・・・。ま・詳しいことはいずれそのうちに」(藤子不二雄「T・Pぼん」)
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ジオフロント最深部、L.C.L PLANTと名付けられることになるこの場所に、一人の女性がいた。

華奢の肢体を持つこの女性は、目の前にある、巨大な人型の物体と対面している。

ショートカットはその端正な顔立ちに【本来のあるべき場所】であるかのようにそこに在(あ)った。

紗(うすぎぬ)を幾重にも重ねたようなきめの細かい、さらに白い肌。

サトトラケのニケまたはミロのビーナスを連想させる西洋的な顔。

そして、 彼女の目の前に存在しているその巨大な物体は白い固まりであった。

頭を垂れている形のその顔の部分には何もない。

まるで己が無垢であるかのように何もなかった。

くぼみも膨らみもなく、丸い球状がそこにあるだけである。

殉教者であるかのようにその両の腕は広げられており、その背後にある巨大なクロスに打ち付けられてあった。

下腹部より下は存在していない。

腰辺りでその人型は【途切れて】いた。

ライトアップされるように、左右から照明灯が当てられていてそれは闇の中に浮かび上がっている。

対面している彼女の形の良いその唇が微かに開く、誰もいない、人は彼女以外いないこの空間で彼女は何かを呟いたようだ。

「・・・・・・・・・。」

微かに聞こえたその声は熱い吐息でしかなかったのか、もしかしたら、 無声音だったのかもしれない。

聞き取れないほどのその呟きだけが、その言の葉だけが、闇の泡沫に姿を変えた。

奇妙なほど、静かで、そこには時の流れが可視出来るような、不思議な【場】が存在していた。

静かなる狂気を背後に忍ばせている。

ススッ。

何かが流れた・・・。

一瞬の内に静から動へと滑る。

そう、滑らかに時間が移行した。

正面の巨人に変化が見られた。ガクン、と 巨人の腹部が揺れあがった。

「なに?」

初めてその女性は聞き取れるほどの声を発した。

そのソプラノは驚愕に彩られている。

ブルブルッ!!

その白い腹部が揺れる。

彼女の身体がこわばる。

ズシャ!!

四本の棒のような物がその腹部から迫り出した。

そして、痙攣は続く。

そのつきだした四本の棒のような物が二本ずつ一体化している。

ズリュッ。

不気味な音だけが響きわたっている。

その時になって、彼女は何かに似ていると気づいた。

これはひとだ!!

そう認識したのと同時にその人型は、人型であるかのような物は姿を現した。

ズリュッ!!

彼女は瞬間的に思う!!

人が落ちる!!

ズリュッ!!

バチャーン!!バチャーン!!

オレンジ色の海に水柱があがる。

一連の出来事が別の話のように思えて自分の実在がここには無いような気がしていた。

何が起こったのか、理解が出来なかった。

水柱が無くなっていく姿を見て、其処に浮かぶ人影を見て、ようやく我に返ることが出来た。

取り敢えず出来ること・・・・。

「ろ・六分儀さんーーーー!!。六分儀さんーーーー!!!。」

悲鳴ともとれるであろう奇声に近い声を彼女はあげた。

「なんだい?ユイ。」

「ちょっ・ちょっと!!」

「全く・・・・。君が一人になりたいって言うからそうしていたのに。我が儘なんだな。」

その場に相応しくない鷹揚とした口調で六分儀は応じた。

ユイは彼のところに走り寄る。

暗くて見えづらかった彼女の緊迫した表情が、はっきりするにつれて六分儀にも只ならない事態が起こったと認識した。

六分儀は彼女を抱き寄せる。

「何があった?ユイ?」

辛うじて彼女は指さす。

その向こうには二人の人間らしき物が裸でオレンジ色の海の波間に揺れていた。

この場所に来れるはずはない・・・・・。

六分儀はそう確信ししている。

出入り口は一つ、今、自分がやってきた方向だ。

何処からきた?まさか!!顔を三十度ほど上に傾けた。

白い物体・・・・彼らはリリスと呼ぶ・・・を睨む。

「理論的に不可能なはずだ・・・。」

そう六分儀は呟いた。

ユイは頷く。

二人は抱き合ったまま数分間動けなかった。

長い長い瞬間が過ぎていく。

どうする?

「・・・・様子を見よう。」

六分儀はユイにそういった。

時間が意味を持たなくはじめたころ、浮かぶ人のような物の一つが動き始めた。








現地時間の少し前、時間が意味を持たないため、上記の時系列でいう数分前、シンジの【こころ】はリリスへと辿り着いた。

彼の意識はまだ、自己の安定を保っていなかった。

様々な輝点、輝点、輝点の洪水。

まばゆいばかり光の渦にシンジはいた。

劈(つんざ)くような波と規則的に揺れる波を感じる。

エントロピーの形態破壊、その反動、その乖離、融合、有象無象の全て。

無限性と有限性のウロボロス。

形而が形を持ち始める。

エネルギーの一形態である物質。

物質の現象。

現象の物質。

光が閉じる。

闇が生まれる。

闇が閉じた。

光が生まれる。

ここは・・・・。

僕はどうなったンだっけ・・・・。

カチリ・・・・。

何かがシンジの頭を引っ張り上げた。

ここはどこだ・・・・。

そう、ここはドグマのふかく・・・。

ドグマって・・・。

リリスの安置する・・・・・。

リリス・・・・・。

そう、僕たちの・・・・・。

急速にシンジの意識が取り戻し始めた。

ない交ぜになっている意識が木の枝のように急速に伸び始めた。

「ここは・・・・。」

自分の声が遠くから聞こえた。

ふとシンジは肩に何かを感じた。

髪の毛?

誰の?

輝点がはじけた。

「アスカ。」

シンジは自分が何処へやってきたのか、完全に理解し始めていた。

隣でLCLに浮かぶのはアスカだ。

アスカは僕の大切な・・・。

シンジはLCLを吐き出した。

ここのLCLは体に良くない・・・。

スゥゥゥ。

自分の肺で呼吸を始めた。

空気が滑り込む。

自分を実感する。

アスカはまだ起き出してこないようだ。

取り敢えず、何処か地面のあるところへ行こう。

シンジはそう思った。

この浮力の世界は今は恐い。

アスカの腕を取り、辺りを見渡す。

リリス・・。

あれがそうだ。

下から見上げるそれは左右からの照明にライトアップされていた。

そして、遠く二人の人間が見える。

寄り添うようにくっついている二人をみてチップが動いた。

「父さんと・・・・・お母さん。」

たぶんそうだ。

確信がスライドする様にやってきた。

何時までもここに入られない。

二人に向かって泳ぎだした。

ふたりにむかって。













アスカを岸部にあげて改めてシンジは二人に向かい合った。

「初めまして、碇ユイさん、」

シンジは間をおいてしまった。

「・・・・六分儀ゲンドウさん。」

二人は初対面の人物に名前を言い当てられて驚きを隠すことすら出来なかった。

なんだっけ?

僕は何しに来たンだっけ?

チップが作動した。

「お二人に伝えに来たことが幾つかあります。信じてもらえないかもしれませんが、僕は、いえ、僕たちはここで言う未来の世界から来ました。葛城調査隊の一員として南極の出向に僕たちも付いていきます。」

シンジは自分の言葉でしゃっべているとは思えなかった。

(これが、チップか・・・)

二人は声がでなかった。

それはそうだろう。

シンジは自分の立場が逆転した時を考えた。

そうできることが、その様に自己心理を把握できることが、自分の心が安定していると感じた。

自分が冷静でいるということに結びついた。

シンジの右下で声がした。

「ん・・・・あ・・・。」

アスカが目覚めたようだ。

ゲボッ。

口からLCLを吐き出した。

意識が完全に目覚めるにはまだ時間がかかるかな。

シンジはアスカを身体を横に向けてLCLが全部吐き出せるようにした。

一分は経っただろうか、六分儀ゲンドウと碇ユイは動けずに、目の前にいる二人を凝視している。

シンジは二人が声をかけるのを待った。

シンジは碇ユイを見つめる。

この人が僕の母さんなんだ。

始めてみる自分の母親に表現しようない感情が生まれていた。

碇ユイ・・・・。

いわば僕たちは初号機にいる母さんからここへやってきた。

同じ、同じ匂いのような物をシンジは受けて取った。

アスカは身体をピクリと痙攣させてから起きあがろうとした。

「アスカ。大丈夫?」

僕は起きあがるのを手伝った。

シンジはアスカの脇の下に手を入れて支えている。

まだふらつく彼女はシンジに言った。

「ここは?」

「セントラルドグマ。」

僕は簡潔に答えた。

「着いたって事ね。そうなんでしょ?」

「ああ、そうだよ。」

アスカは二人に気がついた。

「この人は?」

「碇ユイさんと六分儀ゲンドウさん」

「ゲンドウって・・・。そういうことなの?」

「ああ、どうやらそういうことらしいんだ。」

アスカは黙った。

そして、誰も喋らなくなった。

三十秒の沈黙の後、均衡を破ったのはユイだった。

まだ、驚きが強いであろう事はその蒼白した顔色で分かる。

そして、最初に聴いたシンジの母親の肉声はシンジにも予想がつかない言葉だった。

「と・取り敢えず、年頃の女の子が裸なのはいけないわ。」

「「え?」」

一糸纏わぬ姿のなのはどうしようもないことなのだ。

プラグスーツはここにはない。

多分、向こうに置きっぱなしになっているはずだろう。

シンジのチップがそのような判断をシンジに与えた。

経験を伴った連想がチップを作動させるようだ。

先ほどのLCLから六分儀ゲンドウをみて流れてきた知識と、たった今、連想したプラグスーツから来た知識が有機的に結合したのをシンジは感じた。

アスカは急速に自分が置かれている事態を把握し始めた。

「キャーー!!」

アスカの悲鳴がセントラルドグマにこだました。

胸を隠してぺたりとしゃがみ込んむ。

そのアスカの反応にユイは安心させる物を感じた。

ユイは自分の来ていた白衣をアスカに着せてやった。

「六分儀さん」

ユイはゲンドウに語りかけた。

髭のない、少し不健康なシンジの父親がシンジに近づいてきて、自分の来ていた白衣を渡した。

シンジはどうして目をそらしているのか気になった。

「君は日本語が話せるんだな。」

若いゲンドウはシンジにそう聴いた。

「はい。」

「わたし達と変わらない言語を使い、私達と同じように羞恥心を持っているようだ。取り敢えずそれを着なさい。若い女の子が裸でいる物ではない。」

ゲンドウは目をそらしてシンジにそういった。

何か話が食い違っているな・・・。

シンジはゲンドウから白衣を受け取り、袖を通そうとしたその時初めて気づいた。

あれ?

胸だけ膨らんでいるような?

自分の腕と対比してそう思った。

自分の胸を触ってみた。

柔らかい・・・。

脂肪がここだけ余分に付いている感覚だった。

「シンジ・・・・。それ・・・・・。」

へたりこんだままのアスカの声は震えていた。

「え?」

「なんで付いてないの?」

そういって、僕を指さした。

アスカの指さす場所は僕の股間だった。

ふと、自分の股間に手をやる。

ツルッ。

急速に理解が飛来してきた。

今度はシンジの悲鳴がセントラルドグマにこだますることになった。







それから十数年後の未来の話。

リツコと額に悪戯書きをされているミサトはお互いを見て笑いあった。

「「フフフフフ。」」

二人の口の形は三日月上に変形していて、それはそれは恐ろしい物であったという。






自分の胸を触っているシンジをアスカは呆然として眺めていた。

「なんだろう?これ?」

シンジは胸を寄せてあげてみた。

アスカは心の中で思う。

あたしの勝ちだ、と。

あまりにも人間らしいシンジとアスカの行動が、ゲンドウとユイの緊迫感を和らげることに成功したことは否めないだろう。

碇ユイはシンジのあげた素っ頓狂な悲鳴のショックから立ち直り、二人に語りかける。

「取り敢えず、ここにいてもしょうがないわ。わたしのロッカールームへ行きましょうか。そこに着替えとかあるから。ね?」

アスカは改めてユイを見た。

綺麗な人だな・・・。

この人がシンジのお母さんなのか・・・・。

「・・・はい。シンジ。行きましょうか。ここにいてももう何もないわ。」

否!!

まだ、終わっていなかったのだ。

アスカが立ち上がると同時に、セントラルドグマに大音声が響きわたった。

ドグァァァ!!!

シンジが思う。

何が起こったんだ?

対面にいたゲンドウが驚く。

あれはなんなのだ?

シンジは背中に風を感じた。

振り向くとリリスがその巨体を揺らしていた。

ブゥゥゥン。ブゥゥゥン、と首を左右に振る。

次の瞬間だった。

リリスの腹部が裂けた。

LCLが噴水であるかのように、水平方向に吹き出した。

腕だ!!腕が見えるぞ。

オレンジ色の噴水の中から腕が伸びていた。

ガシッ!!!

その腕はリリスの裂け目を掴んだ。

そして、その腕に筋肉の躍動を感じた。

次の瞬間。

ドシャーー!!

LCLが水面に落ちる音とともに腕に力が入り、一気に上半身が姿を表した。

そして、粘着質な擬音を伴い現れたそれは慣性重力に任せ, だらりと力無く垂れ下がっていた。

自らを競りだたせた力の作用が残り、左右に小さく揺れている。

上半身を見る限り、それは人だった。

シンジ達に背中を向けていて、その頭の部分には透明なショートヘヤーが揺れている。

白い肌にオレンジ色の液体が流れる。

LCLをはじくその背中はまるで瑞々しい。

スローモーションの画像を見ているようだ。

水平に勢い良く吹き出しているLCLに齢も行っていないような人間が垂れ下がっている。

歳も行っていない、アスカの直観的判断はそう自分に告げた。

アスカは己の疑問を呟いてみた。

「あれは、ファースト?」

「いや、違う!!」

シンジは押し殺したような声でアスカの疑問を否定した。

「あれは・・・・。」

(さぁ、僕を殺してくれ・・・・・。)

「渚・・カオル・・・・。」

クワッ!!

勢い良くカオルと呼ばれた物は顔を上げた。

「グ・グワァァァ!!」

ちがう!!カオル君じゃないのか!!

バッ!!

LCLの噴射の勢いが物理的にそらされた。

傘を差したように多角形の形にLCLは勢いを遮られる。

ATフィールド!!

その多角形は中央が迫り出した。

なんの音もなく、直径十五センチほどの槍状に変化した。

一拍置いてそれは放たれた。

その先にある物は・・・・。

「アスカ!!!」

意外な邂逅はこうして幕を閉じた。

シンジのチップも働かない、本当の意味での【意外な邂逅】であった。





第二話『意外な邂逅』FIN

NEXT
ver.-1.00 1997-09/18公開
ご意見・感想・誤字情報などは h-nabe@netq.or.jpまで。

第二話、意外な邂逅、いかがだったでしょうか?

シンジたちの辿り着いた時代は、碇ゲンドウが六分儀ゲンドウだった時代です。

さあ、早くも手元の文章のストックが底をついてしまいました。

自分の文章の書き方は、赴くままに書くだけ書いてから、何度も読み直して修正を加えるといった書き方です。

ハードディスクには何も残っていません。

ここから先は、手元のメモと格闘しながらの発表になっていきます。

さて、次の話は謎の物体とシンジ達のアクション編になります。

さらに先にはアスカとシンジのデートの話が待っているでしょう。

その様に自分ののメモ帳に書いてあります。

たぶん・・・。

そしてその先は勧進帳状態(白紙)です。

そういえば、皆さんはどの様になさっているんですかね?

それでは、この辺りで・・・・。

(9/17脱稿)


 ナベさんの『水の鏡』第二話、公開です。
 

 タイムパトロールぼん・・・な懐かしいよ〜

 ぼんが関わった歴史。
 もしかしたらネタバレかもしれないので読みにくくしておきます。

  ぼん、石を蹴った。
  その石がオヤジの頭に当たった。
  親父、怒ってボンを追いかけ回す。
  ぼん、空き地辺りで逃げ切る。
  オヤジ、イライラしながら歩いて、空き地の隅にある古井戸を見付ける。
  古井戸の中に子供が落ちていた。
  子供、助かる。
  その子供、大人になって癌の根治法を発見。
  ある有能な政治家、癌を乗り切る。
  その政治家、世界大戦の危機を回避させる。
  世界、助かる・・・
 こんなんでしたっけ(^^;?

 

 いきなり両親と対面したシンジ。

 若いゲンドウ!
 初対面と言っても良いユイ!!

 な、何と、
 女になったシンジ!!!

 そして、
 攻撃をしてくるカヲル・・・
 

 意外な展開の連続でしたね(^^)
 

 『アスカとシンジのデートの話』
 LASだ(^^)/
 でも、二人とも女・・
 どうなっちゃうんでしょう(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 ストックの尽きたナベさんに激励のメールを送りいましょう!


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