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谷間を渡る粉雪交じりの風は、何時の間にか吹雪に変わっていた。既に視界は30メートルを切っている。戸隠山系は極東有数の豪雪地帯だ。唯でさえ足回りの悪い上にこの悪天候…そろそろ僕の悪運も尽きる頃なのか…?既に身体の一部と化して久しいドラグノフの光学照準器を覗きながら、碇シンジは何時もの悪い癖、仕事前の弱気に晒されている。ミル度数表示の目盛を切った照準器の視界は只白く、愛用の狙撃銃もこれでは唯の「間抜けの杖」に見える、常識的には。だが…彼の脳裏には、正確に目標、雪の中にちらつく微かな人影が写っている。その視点は、念の行ったカムフラージュの下、彼か潜んでいる稜線からのものではなかったが。

『…碇君、目標が動き出したわ。距離、そちらから400、東南東方向へ時速8キロで移動開始。』

肉声ではない。勿論無線その他の物理的通信手段でもない。その「声」は、脳内に直接言葉として伝わってくる。しかし、感情を押さえたその話し方、小さく、静かな透き通った声…間違いなく彼女の肉声に「聞こえる」事を何時もながら不思議に思う。しかし…

「8キロ?随分と早いな…移動手段は確認出来る?…直接『送って』くれるかな。」

傍目には一人で何やら呟いている、危ない人物にも見える。しかし、長年連れ添った彼の相棒には、どうやらそれで十分伝わっているらしい。やがて、彼の頭の中に直に、雪原の上を、身体のどの部分も動かさないまま、滑るように移動している「人影」が映し出される。

「…やられたな。スノーモービルを用意するべきだったね。連中が相手じゃ、それでも不足かもしれないけど…」

400メートル、横殴りの雪風を計算に入れたとしても、シンジにしてみれば必中距離ではある。以前、どしゃ降りのスコールの中で1.2キロの長距離狙撃をこなした事さえあるのだ。あのときは、インドシナ一流の高湿度など大嫌いな、レイの無言の抗議に随分悩まされはしたが…しかし、今回は相手が悪すぎる。絶対不可侵…何せ奴等は、連中が言うところの「聖なる障壁」とやらに守られているのだ。例によって、赤い八角形の光に、折角の特別誂え、モシン・ナガン7.62ミリ炸裂弾をはじかれて終わるのがオチだ…

「出直そう。加持氏の話を信じるのなら、奴はしばらくこの戸隠から動かないよ…帰ろう、綾波。」

引き際を心得るのはプロとしての重要な能力である。少なくとも、シンジとレイは今までそうやって生き延びてきたのだから…

 

白銀の死闘

  −能登沖2.5マイル、フレイアU船橋 0230−

眼前、船首の先に広がるのは三角形に尖った鉛色の波とライトに照らし出される、絶え間無く降り続く雪だけだ。遠く右舷方向の空は金沢市一帯の明かりが、反対の日本海沖は恐らくカニ漁の漁船団のものであろう光りが、雪雲の垂れ込めた空を白く染めている。暗闇の中に航法装置のLEDと青緑色に輝くレーダースクリーンのみが浮かび上がっている。

「…未だ、ついて来てるか?」

「1.5マイル後ろ、同行中…もう3時間になりますか。」

レーダーの上、波立つ海面と雪の乱反射に混じって映る船影。船橋左後方の窓からは暗闇と雪しか見えない。標識灯を含む、全ての灯火を管制している様だ。探照灯をむければ、恐らく500トンか其処らの白い船体が視認出来るだろう。海上保安庁の巡視船だ。

「ドクターに報告しますか?」

「放っとけ。どうせ何も出来んよ、奴等には。それに…」

船長は眼下の甲板に眼をやる。防水シートを被った状態では、唯の材木運搬船としか見えないフレイアUの前部甲板上、三機並んだ、黒い汎用VTOL機の周りを慌ただしく動き回る作業員達。コンテナに入った電子機材、或いは対戦車誘導弾や重機関銃といった物騒な器材が次々とキャビンに運び込まれている。

「ああなったらもう、『ティーゲル』は止まらん…止めようって命知らずが居ると思うか?」

船長の言葉に身震いした航海士も、粉雪の舞う闇の中、肌を裂く寒気をものともせず働く彼女の部下達を、コンテナの上で腕を組んでみつめる紅毛碧眼の「虎」に眼をやる…

「…独断専行ですか。また、荒れますね…」

「ドクターならさっきトイレで吐いていたぜ。」

「凪ですが…冬の日本海はきついか、やっぱり。素人ですからねえ、ドクター赤木は。本気で『ティーゲル』に同行する気なんですかね。」

湯気の立つマグカップを口に運びながら、船長は一瞬、何かを考えていた様だった…おもむろに口をひらく。

「…今までとは違うぞ、今回の作戦は…ベルリンは何を考えてる?」

「ローレンツ氏の肝いりですからねぇ、『ジェイコブズ・ラダー作戦』は。赤木女史も後には退けんでしょう…まあ、現場で連中の指揮をとるってのはどうかと思いますが。」

「ヨハン、お前何か嬉しそうだな…」

口元に人の悪い笑みを浮かべている航海士を向いて肩を竦める船長。流石にあの金髪の東洋美女が気の毒に思えてくる…いい女なんだがなぁ、肩肘から力を抜けば…まあ、あの「人食い虎」がど素人の学者先生の指図を受けるとは思えんがな。何故か寒気を覚え、熱いブラックを一気に喉へ流し込んだ。白色灯にライトアップされた甲板の上、這い回る電源コードやコンテナの間。依然として獣達は活動的だった。

 

パリ、ベルリン、上海といった都会の中で、ドレスかスーツを身に纏っていれば、誰も彼女が血生臭い世界の住人とは気付くまい…そう思わせる彼女の素性を雄弁に語る唯一の証、その頬に走る生々しい傷痕が、肌を突き刺し、やがて感覚を奪って行く寒気に触れて鈍い痛みを覚える…凶兆だ。こう言う時の作戦は、ろくな事が起きない。欠員が出るかもしれないわね…視線は甲板で続けられる作戦準備に向けたまま、フィールドジャケットの胸ポケットからラッキーストライクを一本引き抜いて咥える。右斜め後方から、黒い金属繊維の手袋が火の点いたオイルライターを差し出し、彼女の煙草に火を点す。

「らしくないですな、隊長。作戦前に随分といらついてらっしゃる。」

「…無駄口たたいてる暇は無いわよ。調べはついたの、相田?」

何時の間にか彼女の後ろに控えている、日本人にしては髪の色の薄い、シューティンググラスの男。彼女と同じ、黒いフィールドジャケットに同色のイクイプメント・ベルトとサスペンダー、左肩に逆さまにナイフ、右腰に9ミリ・オートをぶち込んだホルスター。マガジン・ポウチ、フラッシュライト、編上げの空挺靴まで黒に統一されている。唯一、開いた襟首に巻かれ、三角に織り込んだ端を胸元に入れたマフラーと、ベレーと右肩の部隊章のみが赤い。盾の中にサーベルと、疾走する獣をあしらったエンブレム。彼女、「ティーゲル」こと惣流・アスカ・ラングレー率いる傭兵部隊、「真紅の虎」のトレードマークである。VTOLの周りで作業している隊員のマフラーは黒だが、これは作戦行動中の服装である。部隊章のワッペンも外させている。アスカはこの紋章を気に入っているのだが、戦場では目立ちすぎるのが難点だ。もっとも、対ゲリラ戦、特に劣勢の敵に対する場合、これの心理効果は絶大であるが…大概逃亡するか、自決するかだ。下手に抵抗して、捕虜になった場合の噂は、「人食い虎」の二つ名と共に広まっているらしい。

「予想通りです。内務省の特査、一月以上前から動いてますね。セーフ・ハウスの位置も割り出しました。戸隠山麓の鬼無里にあるペンションですが。」

片手でライターの蓋を閉じ、ジャケットのポケットへと戻す…左手のファイルに眼を走らせるなり答える。白い息が口を開くたび立ち上る。彼、相田ケンスケは、彼女がその能力に全般の信頼を置く、即ち、先の様なふざけた口を利いて無事でいられる、部下の中でも数少ない男の一人である。

「ふん…ちょっかい出されるのも面倒ね。速攻で潰すわよ。一個分隊、指揮はあんたに任すわ。主力の方は予定通り黒姫南麓に展開、目標捕獲の体制を確立、そこで合流するのよ。人選と装備も一任しとく、いいわね。」

予想に反し、帰ってきたのは歯切れの悪い回答だった。

「それなんですが、厄介な事になりましてね…連中、助っ人を雇った様なんですな。」

アスカは眉をひそめる…こいつが「厄介」?あたし等とやりあえるクラスの奴が内務省についた…まさか…頬の鈍痛が急に鋭いものに変わる。

「…奴等ね。」

「間違い在りません…『福音』と『リリス』です。」

軋むような音を立て、アスカの奥歯が鳴る。ラッキーストライクのフィルターがかみ切られていた…屈強を持って鳴る傭兵共であろうとも、彼女の表情を目にしなかったのは幸いであろう。この上官の気性を良く知る相田にして、薄笑いこそ浮かべているものの、背中一面に汗が吹き出しているのだ。この真冬の日本海の上で…

「…装備にBタイプを追加。総力で仕掛ける。…今度こそ、あの軟弱野郎と冷血女の首を剥製にして飾るわ…しくじったら、あんた、殺すわよ。」

それが冗談ではない事を相田は知っている。正に「前門の虎、後門の狼」か…最悪だぜ、まったく…目の前が暗くなる前にやる事をやっておくかね。結局相田ケンスケもまた、根っからこの娑婆の人間だった。アスカは食いちぎった煙草を鉛色の海に投げ捨てる。粉雪の舞う夜の海に赤い流星か一筋流れた…

 

−フレイアU後方1.5マイル 巡視船 えちぜん船橋 同時刻−

デッキから海面に向けて小さな赤い光が流れて落ちた。うねる様に、斜め左右に揺れる双眼鏡の視界。暗い海原にその船体を煌煌とライトで浮かびあがらせている「貨物船」が映っている。フレイアU…リベリア船籍の2000トン級材木運搬船。船主はブリュッセルに本社をもつ、マーチャント・バンク系の海運会社。母港のあるジャカルタからウラジオストックへ向けて回航中…そう言う事になっているらしい。たしかに、依然として、10ノットの船足で北上を続けている。

「まもなく珠州崎を通過します。此所から先は第九管区の海域に入りますが…よろしいんですね、葛城さん。」

40代半ばの船長の日に焼けた顔に、当惑と焦りが浮かんでいる…無理も無い。確かにこれは特殊な事例だ。眼鏡を顔からおろし、髪に積もった粉雪を払うと、葛城ミサトは開け放たれた船橋のドアに立つ彼に向き直り、微笑んでみせる。

「追跡を続けて下さい。事後の苦情等については外務省を通じて直接国連代表部へお願いしますわ…大丈夫です。本行動については、一切公式記録には残りません。」

幾ら連中と言えども日本領海内で攻撃を掛けてくることは無いだろう、と言うのがミサトの読みだった。…彼女の任務はあくまで監視である。連中もそれは理解している筈だ…コートのフードについた雪もついでに払う。真っ白な息が彼女の頬や黒髪にかかる。ふと、少し照れたような笑いを浮かべた船長が、湯気の立つカップをミサトに手渡す。

「冷えるでしょう…しかし、大変ですな。何も貴女のような人がこんな…」

「これが、私の仕事ですわ…有り難う御座います。どんなに汚くても、必要な事だと思っていますから…」

プラスティック製の安物のカップに入ったコーヒーではあったが、少なくとも誠意は温もりと共に伝わる…クリーム入れすぎ、でもないか。丁度良いかもね、身体が暖まる…どうやら船長手ずから入れてくれたらしいそれを口に運びつつ、やはり申し訳ない、と思う。目の前の領海上、自分達の縄張りの中で、大量の兵器を見せつけると言う傍若無人な彼等の振る舞いに対し、海保を含む、この国の「合法的」権力は何の力も行使することが出来ない…彼等が悔しくない筈が無かった。無力なのよ…彼等も、あたし達も。あいつら、「SEELE」には。あたしに出来ること…安全保障理事会直属のエージェントとしての彼女に出来ることは、ここまでだろう。なら、一個人、葛城ミサトに出来ることは?

「あいつに、一報入れとくか…死なないでよ。」

呟いて、視線を沖の方、ぼんやりと白く輝く日本海の水平線へ投げた。海風に吹かれ、髪が顔にかかる…湿った冷気を孕む、潮の匂い…そろそろ、フレイアUが富山湾に入る。未だ粉雪は降り止みそうに無かった…

 

−長野県北部 戸隠山麓 鬼無里 前日1635−

樅の木の枝の向こう、通りの反対側の角を白いピックアップトラックが曲がったのが視界の隅に入る。ショベルで屋根雪をすくう手を止めて、タオルで後ろに束ねた長髪をかきあげて、首筋の汗を拭った。やがて、白いトラック、荷台にロールバーとフォグライトを背負ったベンツのウニモグが玄関の前に止まる。

「おかえり、早かったじゃないか。」

屋根の上から、ドアが開かれるタイミングを見計らって、ドライバーに声を掛ける…成る程、戦術的撤退って事か。慎重な彼らしい…

「雪下ろし、ですか?大変ですね。」

楽器ケース、トロンボーンかテナーサックス位の大きさの黒いトランクを運転席から降ろしている青年…見様によって、未だ十代にも二十代後半にも見える。随分と華奢な、中性的な印象の持ち主である。何処か女性的な顔立ちはまあ美男子の部類に入るのではあろうが、いかんせん、地味だ。言ってみれば甲斐性無しを絵に描いたような男と言った所か…黄土色のブルゾンに薄い茶色のタートルネックのセーター、ブランド不明、無印良品とも言うが、のジーンズにキャラバンシューズと、冬場のリゾート地にはおおよそ不似合いな貧乏ファッションも問題ではあろうが…まあ、それが客観的評価と言うものだろう…そのセーターが防弾繊維で編まれている事に気付く人間など、ここでは彼、加持リョウジ位のものだろうから。ケースのハンドルを握ると、青年はウニモグの荷台に回る。同時に、木箱や巻き上げた白い魚網の様なものが積まれたそこから、何か青銀色のものが素早く雪の上に降り立つ…おりしも、小降りになった雪雲の隙間から覗いた陽光が、その不思議な色合いの毛並みにきらきらと反射する。猟犬?といった風ではない、見るものが見れば解る。とてもそんな飼い慣らされた獣などでは有り得ない。加持も今まで何度か、シベリアやアラスカといった辺りでお目にかかった事のある、それ。どう見ても純正の狼だ…青年が、その青い毛並みを持つ狼の目の高さまでかがみ込み、少し照れたような、済まなさそうな微笑みを浮かべて話し掛けている。

「寒くなかった?ごめんね…幌を付けたりすると、いろいろ不便なんだ。でも助手席はいやなんだよね、綾波は…」

「あれが、『リリス』とはなあ…何処で情報が歪むんだか。」

「福音」の二つ名を持つ慈悲深き狙撃屋の相棒は、神秘的な妙齢の美女と聞いてたんだが…至極残念そうな加持の視線に、先に狼の方が気付く、じっとその紅い双眸を屋根の上の無精髭の男に向ける…何故か慌てて明後日の方向を向く加持。確かに神秘的ではあるが…彼女が美人であるのかどうか、狼の美意識を知らぬ加持には解りかねる。しかし、少なくとも彼女の相棒の眼には愛らしい女性の姿に映っている様だ。嬉しそうに、いや、にやけていると言うべきか、お世辞にも締まりがあるとは言いがたい笑顔を浮かべて、さえない青年は狼の横を話し掛けながら歩いて来る。

「今晩は僕達の食べられるものだといいね。…昨日は加持さんに悪い事しちゃったなあ…そうだね。来る前に知らせておけばよかったね。」

そうそう、晩飯だ。テーブルの支度をしないとな…角スコップを肩に担ぎ、二階建ての玄関側に架けた梯子に手をかける。元々、性に合っているのかも知れないと思う。一月程前から始めたこの「商売」を、加持は結構気に入っていた。十二月に入り、この戸隠高原は一年で最も賑やかなシーズンを迎えていた。鬼無里のこじんまりとした目抜き通りも、カラフルなウェアの若者達で賑わっている。この「メイプル・リーブズ」もそうしたスキー客目当てのペンションが立ち並ぶ一角の街外れに建っている、落ち着いた枯れ葉の色合いで塗られた洒落た建物である。周りには背の高い樅の木が植えられ、二階からは白く染まった戸隠、黒姫といった山々を望む事も出来る。本当に商売として始めてみても良いんじゃないかな、あいつと二人で…何時の間にか、叶わぬ望みを抱いている自分に気付いて、自嘲的な笑みを浮かべる…今更洗って奇麗になる手でも無いか…玄関口に回って、現在唯一の「客」を出迎える。

「お疲れさま。晩飯の支度にかかるから、よかったら風呂にでも入っててくれるかな?…今日はお気に召していただけると思うんでね。」

玄関のドアを開けながら、青年、碇シンジとそのつれの青色の狼に声をかける。

「すみません。いろいろ我が侭なお願いをしてしまって…」

詫びるシンジとは対照的に、狼は加持の方を一瞥すると、すたすたとペンションの中へ上がり込む。

「…嫌われてるのかな?」

至って無愛想な彼女の反応にぽりぽりと頭を掻きつつシンジに尋ねる。

「綾波はあれが普通なんです。大丈夫ですよ、加持さんの事、とても良い人だって言ってましたから。」

シンジは狼の後ろ姿を愛おしくて堪らないと言った眼差しで見送りながら、良く分からない発言をする。本来、狼は人に懐くような生き物ではない。決して尻尾を振ったり、吠えたりもしない。人間に愛想を振り撒くなどもっての外、と言う事なのだろうか。その代わり、威嚇もしない。仕掛ける時は音も無く、一撃で喉首を食い破る。真の強者には、虚勢をはる必要など無いらしい。静かで、誇り高く無愛想な獣…何にせよ、気に入られたのは有り難い話なのだろう。

「すみません、また、風呂場をお借りします。」

何時の間にか狼に追いついたシンジが、「綾波」の足の裏をタオルで拭いている。幾ら一心同体の相棒とは言え、風呂まで一緒に入るかね、普通…人の良さそうな好青年に見えるが、やはり彼も殺し屋か…加持の知っている彼等、職業的殺人者と言う人種には、特異な感性の持ち主が多かった。それに一応、相手はレディだぜ…

「さて、始めるかな。」

シャツの腕を捲り上げると、エプロンを片手に厨房へ向かう。

 

−ペンション 「メイプル・リーブズ」ダイニングルーム 二時間後−

小さな破裂音を立てて、煉瓦造りの暖炉の中で薪が弾ける。あえてセントラルヒーティングを用いない古風な造りに、特に意味も無く安らぐものを感じる。マホガニーのテーブルの上にある大きな器から、ボーンチャイナのサラダボールに冷やしたスープを注ぐ。トマトスープをベースにした、スパイスの効いたスペイン風の野菜スープだ。赤い海に角切りの胡瓜や湯がいた茄子が浮かんでいる。左手に自分の分の入ったスープ皿にスプーンを乗せて持つと、暖炉の側で丸くなっているレイの側へ行き、腰を下ろす。

「すみません、無作法な事をしちゃって…カーペットの汚れた分は、後で掃除しておきますから。」

自身はテーブルについて、既にアペリティフのグラスをあおっている加持に謝る。

「かまわんよ。それじゃあどっちが客かわからんからなぁ。気にしないで続けてくれ。」

ピンク・ジンの入ったグラス片手に苦笑いしている加持に、それでも済まなさそうに続ける。

「でも、加持さんが依頼人じゃないですか、本当は…」

「俺は一介の公務員だよ。君のクライアントは、さしづめ日の丸かね…模範的回答としちゃ、日本国民ってとこなんだろうがね。」

そうでない事は百も承知だ。「国益」って奴は、庶民の窺い知らない所に棲んでる妖怪だからな…加持の言いたい事は、シンジも身にしみて知っている。色々痛い思いもしたからね…

「しかし、君達は本当に何時も一緒なんだな…」

呆れているのだろう、恐らくあの笑いは。無理も無いよな…傍らのレイをみつめ、首筋の毛並みを愛しげにそっと撫でる。昨日の夕食は申し訳の無い事をしてしまったと思う。普通、デザートとサラダ以外には肉か魚は入っているだろう、やっぱり。遠方、カブールでの仕事をおえたその足で駆けつけたシンジ達に対する、加持の心尽くしだったのだ。カップラーメンを啜るシンジとレイを尻目に、残念そうにローストビーフを一人で片づけていた昨夜の加持を思い出す。

「しかし、菜食主義者の狼とはね…君も、動物性蛋白質は駄目なのかい?」

益々呆れられるのを承知で答える…この好感の持てる依頼人に、誤魔化しは口にしたくない、何となくそう思ったからだ…

「好き嫌いは元々は無かったんですよ。アレルギーも無いし…でも、やっぱり何時も綾波と同じ物を食べたいですから…」

予想通り、加持が僅かにのけぞっている様だ。でも、仕方が無い。いつも一緒に居て、同じ物を見て、同じ物を食べて。そうしたかったのだ。いつも彼女と同じものを感じていたいから…この血生臭い生き方を選んだ事さえ、他に彼女と共に生きる方法が無かったから…

「…安心してくれ。今日は、メインはもちろん、オードブルからデザートに至るまで、全て野菜類だけで作ってある。精進料理を作ったのは俺も始めてだがね。」

小皿に盛り付けた二人分の葛刺しをシンジに手渡す。胡瓜の千切りと卸し生姜が薬味に添えられていた。…へえ、きれいだな。明日レシピを聞いておかないと…一枚の上に薬味を乗せて刺し身で包むと、醤油につけて、レイが食べやすい様に皿の上に並べ直す。

「ほとんど世話女房だな、これは…」

小声で呟く加持にも気付かず、レイが食事をするのを楽しそうに見ているシンジ。自分も一枚をとって口に運ぶ。

「美味いですね、これ…プロ並みだな、加持さんは。」

『…碇君の料理の方が、美味しいわ。』

粘り気のある葛の塊を、思わず喉に詰まらせるシンジ。飲み込む瞬間とは、タイミングが悪い…「聞こえる」筈の無い加持は誉められてまんざらでもなさそうな顔で、二杯目のジンにビタスを垂らしている。聞こえないのはわかってるけど…もう少し、人間の「礼儀」は理解した方が良いんじゃないかな、綾波…

『事実を認識する事は、重要だわ。』

彼女の目には、人間のお世辞、社交辞令と言ったものは不可解に映る様だ。あれは別にお世辞ではなかったが…味覚には主観が入るんだよ。でも、嬉しいよ…綾波が僕の料理を気に入ってくれるのは。

『…よく、わからない。わたしは、感じた事を言っただけ…でも、碇君が喜んでくれるのは、わたしも嬉しい…』

そっと手をレイの肩に回し、首から背中にかけて、その美しい毛並みを撫で付ける。レイは心地良さそうに眼を細める…君が幸福で居てくれることが、僕には一番…

「おっと、気が付かなくて申し訳ない。一人で飲んじまうとはなぁ。」

よもや、目の前で展開されているのが「そういう事」であるとは気付く筈も無い加持は、アルコールに関するシンジの嗜好を確認しようと声をかける。なんだか殺気を感じるが…気のせいか?レイがもの凄い眼差しを加持に注いでいるのに気付かなかったのは幸いであろう…暖炉の炎に赤く照らされているお陰で、頬の紅潮に気付かれない事をシンジは感謝する…人前でやる事じゃないよな、確かに…もとよりレイは人目など気にする筈も無い。つづきは?と言う眼でシンジを見上げている。…ごめんね、綾波…自分にせよ、未練たらたらな侭にやや上ずった声で答える。

「日本酒、ありますか?出来れば辛口の奴を…」

「ほお、若いのに清酒党とはね。いいぜ、少し待っててくれ、大吟醸の取っときの奴があるから…」

やっぱり、刺し身には日本酒だよね…種類お構いなしに放り込んであるらしい、半地下のワイン庫へ降りていく加持を見送りつつ、そんな考え事で煩悩を追い払うシンジだった。

 

−奈良県 笠置山系 三輪山山腹 三輪神社境内 同時刻−

境内の駐車場にジャガーを止め、本殿裏の柵を乗り越えると、後はひたすら獣道の上りだった。雪こそないものの、冬の奈良盆地の底冷えは四肢の動きを鈍くする。そのくせ、直に息は上がり、背中が汗ばんでくるのだ。トレンチを車で脱いでくれば良かったかもしれないな…そんな考えをすぐに否定する。余り知られてはいなかったが、彼は皮肉屋である以上に伊達者だった。忌々しい話だが、もう、若くはないか…十五分ほどの道中の終わり、山腹に並ぶ列状の巨石群の一つが眼前に現れる。周囲に人の気配は無い。もとよりそんなものは期待してはいなかったが…

「居るんだろう、『K』。呼び出した君の方から姿を見せるのが礼儀なんじゃないのかね?」

此所を会見の場として指定したのは先方である。

「…待っていたよ、時田課長。ルクソール以来かな。昇進おめでとうと言わせてもらうよ。」

彼、時田シロウの右側5メートルの空間に「人」の姿が浮かび上がる。左胸のホルスターには官給品のブローニング・ハイパワーが収まっているが、最初から使うつもりはない。そんな物が通用する連中なら、彼が此所へ出向く必要など在りはしない。それは、十三、四歳の、今は少年の姿をしている。以前会った時は三十くらいの年齢の、美女の姿をしていた。十数年前の話ではあるが。その「人影」に色彩、陰影と言ったものはまるで存在しない。まるで白と黒のモノトーンの線と面だけで構成されているようだな…眼だけが、今回は赤か…底の無い、赤黒い瞳の形をした、闇。中東で遭遇した時は、金色の光を放っていた筈だ。それは様々に呼ばれているらしい。最近は「K」、或いは単に「メッセンジャー」と呼ばれる事が多い様だが。ただ、常に浮かべているその不可解なアルカイック・スマイルだけは、変わる事は無い様だ。冷笑の似合う道化師、或いは嘲笑う神か…

「高千穂では、してやられたよ。五人のメンバーを失った…この『声明発表』も『アダム』の意志なのかね?」

「貴方も知っている筈だよ。僕達が個体としての自我や意識を持たないと言う事は…僕の意志はアダムの意志であり、全ての御使いの意志でもある…僕としては、これは交渉のつもりなんだけれどね。」

個体としての自我を持たない…実際のところ、彼等には人間の個体の識別が出来ないと言う話を時田は思い出す。人間が、昆虫やバクテリアの各個体の見分けが付かないのと同じ事か…恐らく『K』は時田を含める「人類」と言う生物の大枠で理解しているのだろう。個人と言うものを認識している様に振る舞うのは、我々が渡り鳥の足に、調査用のタグを付けるのと同じ要領なのだろうな…彼等、「御使い」にとって、人間とのコミュニケーションとは、顕微鏡で微生物を研究するに等しい行為と言う事か。尤も、それは「御使い」が彼等の主張する如く、人類よりも高次元の存在である、と言う前提においてであるが…時田は彼等の言葉を全て信じている訳ではない。信じるには、矛盾や腑に落ちない所が多すぎる。それでも、厄介な相手である事に変わりはないが…

「交渉、だって?信用取引が可能な相手と行うものだがね、それは。『SEELE』の連中も、随分と君達に振り回されているようじゃないか。一体、アルハザートの爺様に何を吹き込んだのかね?」

「今は、キール・ローレンツと名乗っている様だよ。別に何もそそのかしてはいないさ。彼等が勝手に始めた事なのだから。」

「同じ事さ。サン・ジェルマンだろうが、ラバン・シュリュズベリイだろうが…勝手に始めた、か。なら、君達の『信者』についてはどうだ?半月前、サンディエゴで起こった爆弾テロについては。特攻を掛けたテロリストは、16歳のハイスクールの女生徒2人組で、君達の熱烈な崇拝者だったと言う事だが。『御使い』の裁きによって世界を浄化するそうだ。」

「K」は、やれやれ、と言う仕種で肩を竦めて見せる。唯、その眼だけは、虚無のみを映している…

「所謂、キリスト教原理主義者と言うものだね。それこそ僕達の預かり知らぬ事だよ。僕達を興味本位で取り上げた、君達リリンのマスコミとやらに責任を問うべきだろうね。」

その言葉の何処までが事実なのか…確かに、美しい少年の姿で現れる彼等「御使い」の存在はマスコミを通じて、様々な宗教におけるファンダメンタリストにとっては「審判」と「千年王国」と言う妄想を喚起するものとして、多感な少女達にはそれこそ究極の男性アイドルグループとして喧伝されており、その扱いは「K」の言うが如く俗悪乃至は興味本位なものだった。しかし、それ同様に、彼等自身による煽動、教唆の形跡もまた跡をたたない。「啓示」や「神託」に躍らされる人間は、新しい世紀を迎えた所で一向に減りはしなかったのだ。事実、明らかに高度に組織された、彼等を奉ずる非合法武装集団が既に世界5個所で確認されている…

「リリン…か。本当に君達が『至高者』の代理人であり、我々がデーミヴールゴスに創造された、悪しき秩序を生み出すもの、欠陥品だと言うのならば、何故放ってはおかないんだね?愚かな猿たる我々は、いずれは自滅する運命にあるにも関わらず…刷新を急ぐ必要とは何なのかね?」

「K」を含む、「アダム」と呼ばれる存在に指導される彼等「御使い」が、たった17人で人類を「浄化」しようとする、本当の理由は何か…人を超える力を持つ彼等は、何者で、何処から来たのか。此処で答えを聞けるとは思ってはいない。数多囁かれる噂の如何ほどが、真実を含んでいるのかは知る由もなかった。唯、今回のこの「会見」には其処へ至る鍵がある…諜報という裏稼業に生きてきた時田の、「職人」としての直感だった。

「お喋りが過ぎたようだね。そろそろ本題に入らせてもらうよ。貴方は老人の、『ヤコブの梯子』への執着について知っているかい?」

周囲の、暗い杉の森が凍り付くような風にざわめく。コートの襟をそばだてる。きたかね、いよいよ…

「『SEELE』の、『ジェイコブズ・ラダー作戦』とやらだろう?お陰で、高千穂で連中とかち合ったのさ。君の流したガセネタに躍らされてね…どうやら戸隠が本命と言う事かね。ついでに、此所を選んだ理由も教えていただきたいものだね。」

沈黙…杉の枝が鳴る…ラップ音、か…どうやら答えたくはない様だね。此処で私の頭蓋骨を潰す気もあるまいが…友好的態度を見せてはいるが、このうえなく奇怪で危険な相手である事に変わりはない…

「見つかったかね、『神の御子を殺せし槍』は?」

殺られる、かもしれんな…掌が汗ばむ。しかし、あと少し…続く沈黙…

「知っていたとはね…君達は『天之群雲』と呼んでいるのかい?」

「『天之逆鉾』…我が国におけるエデンの神話だよ…同時に妻恋ゆるオルフェウスでもあるがね…同じ事さ、アメノムラクモもね。蛇よりいでし剣…セフィロト、世界樹…結局、同じものなんだろう?」

彼等の言う所の「ロンギヌスの槍」…日本神話における「天之逆鉾」或いは「天之群雲之剣」。原初なる神を殺す、即ち混沌と秩序を垂直に分けるもの。樹木に象徴される、ヒエラルキーを持つ権力と秩序の構造。或いは男根。アメツチを分かつ柱、中心。実際に刀剣や樹木の姿をしている訳ではない、あくまで記号なのだ。

「我々が、本気で剣や、樹木を象った神秘的図形そのものに意味が在ると信じ込んでいる、そう思ったかね?例えば、裁きの日に天空にセフィロトの図表が浮かび上がるとか。三文小説にも書かないよ、今時そんな子供だましはね。形そのものには、何の意味も無い事くらいは小学生にでも判る事だ。意味を理解しなければ何の価値も在りはしない事位はね。」

蛇。文明、知恵と水脈を表すと同時に、水平構造の象徴。ドゥルーズの言う「リゾーム」の概念。中心を持たない脱構築的原理。混沌。

剣、樹木。天と地、男と女、自己と他者を分かつもの。男根。垂直構造の象徴。秩序、権力。蛇、混沌より出でて、蛇を殺すもの。二元論の根本システム。セフィロトとは神と人を分かち、その構造を図表に表したもの。しかし…これらはあくまで象徴だ。人のイメージの中の「形而上の世界」の物語…二項対立の根本原理なぞ、物質世界の何処を捜そうが、転がっている筈はない…現実に奴等が捜しているもの、それは何だ?恐らくは…

「何故、此所を選んだか、貴方はそれを聞いたね?…それが正解だよ。」

石舞台、酒船石…此処は古代日本における巨石文明の中枢…現に彼等の目の前にも、夏至線、天空を通る太陽の軌道を正確になぞった列状巨石群が葛城山、日の没む方向へと走っている。地球上を縦横に走る、線状に並んだ古代遺跡の列。今となってはその訳すら伺い知れぬ、おそらくは古代人の英知の結晶…スフィンクスの謎掛けと言う訳かね…

「…風水に言う竜脈、あるいは、レイラインか…実態を伴う『蛇』の正体…余りに非科学的だな。まあ、君を目の前にしては、無意味な感想だとは思うがね。」

「槍」或いは「逆鉾」の正体、恐らく、「場所」或いは「力場」を指すんだな…竜脈の垂直方向への解放を可能にする「間欠泉」の様な…それで何をやる気なのか迄は解らんが…やれやれ、信じたくはないがね…戸隠、か…

「その取引とやらを、聞こうじゃないか。」

「貴方の推察通り、僕達は今、戸隠で『槍』を捜している…貴方も、既に動いているようだね。しかし、老人も戸隠に気付いたらしい。」

「我々に『SEELE』の動きを牽制しろ、と言う事かね?無理な相談だな。君達が「槍」を発動する手助けをするなど…」

「そうではないよ。『昼』、戸隠で活動している御使いが、老人達に捕獲、拘束された場合、君達の手で、射殺して欲しい。その代償として、僕達は『槍』を貴方に提供するよ。後は破壊或いは封印するなり好きにしてもらってかまわない。」

機密の漏洩…何を恐れている?それ以前に腑に落ちん事は…

「…何故、君達自身でケリを付けない?計画自体を御破算にしてまで、何故我々に頼ろうとするんだね…奴等は君達を確実に捕獲できる手段を見つけたのか…二重遭難を恐れている訳かね。」

「言っただろう?僕達は一つの意識体なのだと…精神的存在にとって、自殺は不可能な行為なんだよ。君達、肉に多くを頼る者とは違う所だね。」

あくまで、自分達の絶対的優位を主張する気かね…まあ、良いだろう。しかし、遂に「SEELE」は「御使い」を手に入れる手段を得たのか…「ジェイコブズ・ラダー作戦」、爺様が「禁断の智恵」の扉を開ける日も近づいた訳だ…この交渉、悪い話では無いな。

「良いだろう…此方には凄腕の助っ人も居る事だ。よもや、天使たる君達が約束を違えたりはせんだろうね…此れも、ネクロノミコンに記されたシナリオの内なのかね?」

「人聞きが悪いな…死海文書だよ、僕達のシナリオはね。」

「裏、だろう?何万年前に書かれたのかすら解らん代物だよ、人類には理解できない言葉でね。『エイボンの書』『ナコト写本』『ソロモンの笛』、どうせ呼び方も一定してはいない事だ。表の方の死海文書そのものが、本物を隠すためのディスインフォメーションではないのかね、『這い寄る混沌』君?」

「二十世紀前半のアメリカの怪奇小説かい?あれこそ妄想だよ。老人は本気で、南太平洋の海底に眠る古の神とやらを起こそうとしたらしいけれどね…」

「結果は、我が国の漁船が一隻、死の灰をかぶっただけだった様だな…迷惑な話だよ。」

出来れば、此れが現実である事自体を否定したい、と言わんばかりに苦虫を噛み潰している時田を、神の「メッセンジャー」は笑う。

「プラグマティストだね、貴方達は…」

「そうでなければ役人になどなったりはしないさ…確かに不快ではあるね、君達の様な幻の如き存在に、我々の『秩序』を乱される事は。」

「ミヒャエル・エンデの言う『大王ねずみ』…君達の社会そのものが実体をもたない共同幻想、幻じゃなかったのかい?」

「そうだとしても、現に世界の多くの人々が、その枝の上で命を繋いでいる…この国にしてもそうさ。君達にそれを破壊させるわけには行かないんでね。それが、我々の仕事だよ。薄汚い殺人者ではあるがね…」

鬱蒼と茂る杉の巨木の狭間の闇。掻き消えようとした「K」は思い出したかのごときポーズをとり、振り返る。

「此所を選んだ理由は、もう一つあるんだよ。剣、樹木…もう一つ垂直構造が在るとすれば、なんだろうね。」

「山…か。須弥山、オリンポス、天を支えるアトラス…成る程、ホーリープレイス、『聖地』即ち中央集権と言う訳かね。」

「この三輪山は、君達の守ろうとしているこの国の秩序・権力の原点だよ。太陽神を祭った祭政一致の古代国家の聖地…伊勢にこの国の神が移った時、この山はたたり神、大物主命にその神格を変えた…まつろわぬ国津神、リゾーム、混沌たる蛇神の姿にね。混沌と狂気は常に君達の内に在る…父母たる天と地を引き裂いて秩序を生んだクロノス、世界樹の番人、時の神の末裔たる君達役人は、その時どうするつもりなのかな?」

単に彼等はゲームを楽しんでいるだけなのかもしれないな…オーバーロード相手では、いかさまも通じないか。まったく非常識な連中だね。物と心の境界さえ曖昧にしてくれる。だから混沌、なのか…まるでボーアの量子力学だな…

「最期に、一つだけ聞こう。一体君は、生きているのかね、それとも死んでいるのかね?シュレティンガーの猫君。」

「そのどちらでも在り、どちらでも無い。蓋を開けてみなければ解らないさ。生と死は等価値なんだよ、僕達にとってはね。」

今度こそ、「メッセンジャー」は神木の狭間の闇に掻き消える…脱力と軽い目眩を覚える。トレンチのポケットから、潰れ掛けたハイライトを取り出し、火を付けると深く吸い込む。

「増援を出すか、間に合えば…持ちこたえる事を期待するぜ、加持よ…」

凍てついた空気が覆う下、遠く、人々の日々の営み…奈良盆地の街の灯が、瞬いていた…

 

−戸隠 鬼無里 「メイプル・リーブズ」ダイニング 一時間後−

小さな、ウォールナット材のサイドテーブルに弓を置く。エンドピンに更に重さをかけて、左手のみで楽器を立てると、シンジは立ち上がって聴衆、レイと加持に軽く一礼する。

「いや、大したもんだね。君が音楽をやるとは思わなかったな…」

何時の間にかホット・ラムに切り替えた加持は、微かに白い湯気のたつ、小さ目のマグカップをテーブルの置いて拍手を送る。

「すみません。四重奏のチェロのパートだけなんて、つまらないですよね…」

演目はブラームスの弦楽四重奏。やっぱり、バッハの無伴奏組曲の方がよかったかなあ…バッハ、パッヘルベルといった古典派を、シンジはあまり好まなかった。何処か機械的な旋律、人の血が通っていないような気がする…人を楽しませるための音楽が、堕落として禁じられていた中世、神を称える為だけの歌しか認められなかった時代のなごりが何処かに残っているような気がするのだ。やっぱり僕は、ブラームスの方が好きだ。人間は、神様のゲームの駒じゃないからね。僕達も…暖炉の側、カーペットの上でじっとシンジを見詰めていたレイと瞳を合わせる。

『わたしは、碇君の音楽も、好き。』

…ありがとう、綾波。バイオリンの六倍の長さを持つ楽器を持ち上げ、傍らのケースに収める。セーターの袖を捲り上げたシンジの、左腕が鈍い金属光沢を放っている。滑らかに動くピストン・シリンダーや炭素繊維のワイヤー。まるで、元々彼の肘から生えていたかのような錯覚に、見るものを陥らせる…片手だけ黒いレザーの手袋をはめた指先が、実に自然に動く。…此れのお陰で、今もチェロが弾けるし、銃も撃てるんだよな…

「似てるんですよ、楽器を弾くのと、銃を扱うのって…湿気、気温、色々気を遣ってやらなきゃならないし、少し調整がずれただけで、音程や弾道が狂ってしまうし…何時もメンテナンスが欠かせないんです。でも、それを忘れなければ、何時でも最高の結果を見せてくれる、いや、聴かせてくれるのかな…実は、義手のチューニングも兼ねてるんですよ、楽器を弾くのって。」

この繊細な青年が、一流の狙撃手である理由が、何となく解ったような気がした。ドラグノフとストラドヴァリウスを持つ、片腕の狙撃屋か…おまけに変な色の狼まで連れている。しかし、変わり者だね、本当に…シンジが楽器ケースの留め金を掛ける。瞬間、左腕、義手の付け根に微かな違和感が走る…やっぱり、完全にもとのままって訳にはいかないか。仕方が無いよね、こんな仕事してるんだから…この腕になってからも、大勢の人の命を奪ってきたんだから。でも…僕は死ぬ訳にはいかないんだ。卑怯だって事は解っているけど…

『…あなたは、いつも慈悲深い…卑怯だった事は、一度もないわ。』

…何時も優しいんだね、君は。だけど、僕は君が信じてくれてるほど立派な人間じゃ、ないんだよ…

『…そんな事は、言わないで…あなたは、わたしの誇りだから…』

…綾波…暖炉の側を立ったレイが、シンジの側に来る…今度こそ、人目も気にせず青銀の狼を抱き寄せた青年を見て、加持は頭を振る…飲みすぎたか?あれ…どう見てもそう言う関係に見えるよな…しばらく、膝の上に乗ったレイを抱きしめていたシンジだったが…

「…飲もうか、今夜は。」

レイにそう囁いて、立ち上がると、部屋の反対側にしつらえたホームバーに向かう。とっとっ、とついて歩いたレイが、ひらり、と器用にも並んだストゥールの一つの上に飛び乗り、ちょこんと座ってカウンターについたのを見て、最早、加持に言葉はなかった…水だな。グラスに氷を放り込み、ミネラルウォーターを注いで一気にあおる…酔った末の幻覚と思った光景は、未だ存在している。

「すみません、御借りしますね…綾波は、いつものでいい?」

…幻覚の一部が話し掛けてくる、わけじゃ、なさそうだな。

「ああ…スピリッツ類は棚に、氷その他は冷蔵庫に入ってる…」

「…テキーラ、あります?…無かったら、ブラッディ・メアリーでいいかな?」

棚を捜すシンジ。やおら立ち上がった加持も、カウンターの中に回って捜すのを手伝い始める。所詮は素人のバーテンダーのようだ。

「ええと、カルヴァドス、キルシュヴァッサー…違うな…」

「そっちはブランデーばっかりですよ…無ければ、ウオッカで作りますから…」

「…いや、たしかその辺に、…無いな。まあ、似たようなもんかな。要はサボテンの焼酎だもんなあ…」

『…竜舌蘭。それに、正確には焼酎ではないわ。』

…こだわるね、綾波…

「あった!ほら…」

薄い色のついた液体の入った瓶をシンジに手渡す加持。シンジは深めの小鉢に、グラスでは飲めないからだが…、アイスペールから氷を放り込むと、手早くテキーラとトマトジュースを注いでステアする。ストローハット…一杯目のレイの定番だった。テキーラベースだと、何故か青臭みが鼻につくものだが、レイは其処が気に入っているらしい。

『…焼酎の発酵には、サッカロマイセス・セレヴィシエを用いるのに対して、テキーラはザイモモナス・モビリスを使うわ…菌類とバクテリアは、別の生き物…』

事実はきちんと認識しておかなければ、と言わんばかりにレイは加持の発言を訂正する。読書家で博識のレイに対して、ラテン語の学名など全く意味不明なシンジは何と答えていいか解らない。まあ、毎度の事ではあるが…むろん当の加持はそんな会話なぞ知る由も無い。カウンターの上の小鉢から酒を飲むレイを繁々とながめている。

「君は何にする?」

「え…じゃあ、カルヴァドスを…」

どうやら、気取らない庶民の酒が、彼の口には合うらしい…雪。夜に入ってから、本降りになった様だ。元々口数の少ないシンジは、ひたすら飲んでは、レイの世話を焼き、また飲む、と言うサイクルを繰り返している。加持はあくまで自分のペースでのんびりとラムを啜っている…静かだ。こういうのも、良いかもしれないな。不思議なもんだな。彼等と居ると、何となく落ち着く…少なくとも、こういう方が酒は美味い。時折、表を通る車の音さえ、降り続く雪が吸い込んでくれる…脈絡も無く「嵐の前の静けさ」と言う言葉が脳裏に浮かぶ…当たるんだよな、こんな時の勘は。そろそろ定時報告、入れてくるかな…窓の外は、雪。

 

−若狭湾沖3マイル フレイアU船内 同時刻−

造りつけのデスクの上を、部屋が揺れるのに合わせてノートパソコンが往復する。紐で机に繋がれているため、落ちて破損する様な事はないが、仕事の出来る状況ではない、少なくとも彼女の本音としては…作戦管制室に行けば、自室よりは随分とましな状態にはなるだろう。しかし、この醜態をあの連中に見せる事など、出来る筈が無い…支障をきたしているのは、環境ではなく彼女の生理状態だった。対馬海峡を通過してから、水を含む一切の飲食物を口にしていない、いや、出来ない…

「…無様ね、本当に…」

強がりだ…口を衝いて出てくる自嘲の言葉さえ…逃げ出したいのだ、本当は…だから、ベッドに横にならずにこうやって、作戦計画のチェックを繰り返しているのだ。実際の所、行動の細部については、この船の技術スタッフやあの、頬に傷のある女傭兵達がブリーフィングで徹底してつめている。目標捕獲に必要なシステムのほとんどはマニュアル化され、それらの操作に関しても、連中は十分優秀だった。作戦主任…お飾りなのだ、少なくとも連中にとっては…彼女は従軍経験が在る訳でもなく、訓練自体、日本への派遣が決まった時点で一週間の基礎トレーニングを受けただけなのだ。それまで、銃なんて触った事もなかった…生まれて始めて持った、ちっぽけな割に重い鉄の塊は、不用意に指先を動かしただけで、凄まじい破裂音とともに彼女の手の中で跳ね上がった…気丈な、鉄の女然とした彼女のぺルソナが剥がれる瞬間…放り出し、悲鳴を上げていた、恥も外聞も無く…恐らく、それがインストラクターの悪意ある誘導によって導き出された結果である事に気付いたのは随分と後の事だった。忘れられる筈が無い。あの、連中の浮かべた薄笑い…後ろを見せる訳には行かないのだ、絶対に…「SEELE」の研究者と言う資格、これを手に入れるためにどれほどの物を犠牲にして来たか…母の果たせなかった「禁断の智恵」への参入…アーネンエルベ直系の研究機関が、この現代に存在する…ミスカトニック大留学中に、ルームメイトからその話を聞いた時には一笑に付したものだったが…のどかなマサチューセッツの田舎町で聞く分には、ありがちな「現代のフォークロア」の学者版としか思えなかった…それが、結果、母の学者生命を絶つ事になった一連の研究、シェルドレイクによって提唱された「場の理論」に代表される、「かたぎ」の学者達から嘲笑と侮蔑を浴びつづけた、精神世界と物理法則の融合と言う「禁断の智恵」への入り口と知った時、彼女の生涯は決定されたのだ…天使の下ると言う「ヤコブの梯子」を、人が登り、ヘブンズ・ドアを叩く…「神への階梯」を昇る…「御使い」そのものが必要である以上に、「捕獲出来る」事が重要なのだ。彼女の編み出した理論による、「人の手による神の場の創出」…自らの手で成し遂げなければならない。

「後戻りは、出来ない、か…そうでしょ、母さん…」

数時間の後には、彼女、赤木リツコは戦場の直中へ放り込まれる事になっている。そう。後戻りは、出来ない…

 

−戸隠 鬼無里 「メイプル・リーブズ」1号室 0320−

静かな空調の音に、時折、微かな声の響きが混じる。室温は、肌に微かに暖かい位だ。外は、雪…

「…ん…あっ… …いかりくん…」

指先にそっと、彼女の髪を絡める。肩まではない、が、決して短すぎはしない、青みがかった銀色の髪…ほのかな雪明かりに、やわらかで、優美な曲線、そのあまりに華奢で繊細な肢体が浮かび上がる。うなじから、肩、背中、やがて腰へとその指を滑らせていく…彼女が震え、その背中が微かに反った。細い腰を抱き寄せる。彼女の体重が身体に心地よくのしかかる…やわらかく、そして暖かい。体温が溶け合っていく感覚…ほんの、わずか数センチ先で、上目遣いで、微かにはにかんだ微笑を浮かべる二つの紅い瞳…我知らず頬が緩む。…なんて愛らしいんだろう…何時の間にか顔を近づけていた。3センチ…2センチ…彼女がその瞳を閉じる…唇に触れる、湿った、柔らかな感触。そっと、小さな舌先が唇をノックする…触れ合う舌、小鳥の様についばんで…やがて再び唇が離れる。シンジの顔をのぞきこむ、柔らかな笑顔、この上なく愛おしげで、優しい眼差し…こうしてると、まるで十代の女の子みたいだ。無垢で、純粋で…そっとシンジの胸に頬をすりよせる。

今は、彼女、綾波レイは人の姿をとっている。まるで十代半ばの少女のように愛らしくも在り、それでいて、やはり歳相応のしっとりとした優美さも感じさせる…それでも、僕と同い年なんだから…若く見えるよね、綾波…でも、狼の基準で行けば…

「…ひどいのね、碇君…わたしのこと、『ばあさん』だと思っているのね?」

「ずっ、ずるいよ、綾波!人の姿の時は、言葉で話そう、って決めてるのに…でも…人狼の歳って、どっちで数えるのかな…」

レイは、シンジの胸に頭をあずけたまま、少し恨めし気な眼でシンジの眼をのぞきこむ。…綾波は、自分は狼だ、っていつも言ってるもんなあ…だけど、それだと「ばあさん」になってしまう訳で…レイのアイデンティティは、あくまで「人間の姿にもなれる狼」らしい。実際、必要を感じなければとことん人の姿をとろうとはしない…飛行機、ホテルなどの設備を利用する時、読書など手を使う時、或いは、都会または高温多湿な土地での仕事の時…狼の姿では、ふさふさとした毛並みに覆われている上、汗腺が無いため酷い眼にあってしまうからだが…そして、ベッドの上…以前、一度狼の姿のまま、レイが行為に突入しようとした事をシンジは思い出す。…ごめんね、綾波。どんな姿だろうと、君が大好きだよ。だけど、こればっかりは…勿論、レイの美しい人の姿は、シンジのこよなく愛する所ではあるが、レイの自任するところの本来の姿は狼であり、その誇り高い獣の姿を、やはり美しく、愛おしいと思うのだ。人狼と言うより、狼精と言ったほうが良いのかもしれない。神秘的で美しい野性の女神…

「…碇君…」

レイの恨めし気な視線のもう一つの理由…解ってはいる。胸が締め付けられる気分になる事も多い。だけど…

「駄目だよ、それは、まだ…子供は親を選べないんだよ。殺し屋の父親を持った子供は、きっと悲しい想いをする…いつか、この世界から足を洗って、どこか…ニュージーランドの南島か、タスマニアあたりに家を買って…人間のあんまりいないところで、二人で暮らせる様になったら…そこで、二人で子供を育てよう。人間の社会を離れて、狼として暮らせる所で…」

避妊、という行為も、どうやら気に入らないようだ。つがいになったら子供をつくる…野生動物としては、当たり前の事なのだろう…

「…ごめんね、本当にごめんね、綾波…だけど、僕はなさけない男なんだ。たったひとつの宝物を守るだけで、いまは精一杯なんだ…」

レイが、外しているシンジの左腕、義手の付け根にそっとほお擦りをする。残っている唯一の腕で、レイをそっと抱きしめる…外は、雪…

「…!」

レイが、ぴく、と反応する。シンジの瞳を見詰める…シンジも肯く。その表情は…「福音」の名を持つ狙撃屋のものだった。レイは、衣服を纏わないままベッドから下り、静かにたたずむ…雪明かりの中に浮かび上がる、美しい裸身…神々しいその姿。輪郭がぼやけ、静かに床に手をつく。もやが晴れるように鮮明になる彼女の輪郭…美しい原野の狩人、青銀の気高き獣。シンジはベッド脇のテーブルに置いたバナジウム強化合金製の義手をとり、ジョイントをはめ込み、ストラップで身体に固定する。軽く腕を振り、二、三度掌を開閉する…異常、無いな。枕の下から、4インチ・バレルのリボルバー、コルト・ダイヤモンドバックの38口径を引っ張り出し、右手のみでシリンダーを振り出す…全弾装填済み。服を着るのは、銃を確認してから…駆け出しの頃から叩き込まれた習慣だった。ジーンズを履くと同時に、予備のスピードローダー4個を確認する…38プラス・パワー弾、24発異常無しか…早かったな、予想より…

『…来るわ、奴が…母さんを殺した、碇君の左腕と右眼を奪った、あの女!』

滅多にない事だが、レイが激昂している…

「…酷い殺し方はだめだよ、綾波…それに、『ティーゲル』は優秀なプロなんだ。優れた敵には、敬意を払わなくちゃ…」

確かに、ナイフで片目をえぐられた時は、痛かったけどね…シンジの右眼は、電子化された義眼だった。…赤外線が見えるのは、便利だよな、確かに…怪我の功名と言うべきか…「SEELE」の奇襲攻撃については、時田から連絡を受けていた。相手が、「真紅の虎」である事も、一時間ほど前に、加持の個人的コネクションから情報が入ったらしい。セーフハウスを放棄するか…と言う加持に対し、待ち伏せて戦力の減殺を図る事をシンジは提案した。でなければ、どのみち「御使い」をどちらかが捕獲乃至射殺するまで、トータルで此方が不利になる…連中相手では、時田の増援も、あまりあてには出来ない…言わば、肉を切らせて骨を絶つ戦術である。…奴等は僕達が特別査察部と契約した事は知らない筈だ、チャンスは、一度きり、か…「ティーゲル」、惣流・アスカ・ラングレー…因縁なのか…

『…わたしの、大好きだった、碇君の黒い瞳…』

レイは口惜しそうに頭を一度振る…来た、か…複数の、気配…押し殺した、獰猛かつ、手慣れた殺気。間違いなく、奴等だ。…ハンドグレネードには、注意しないとな…レイがドアの右側に低く、シンジは左側に張り付く、ダイヤモンドバックを両手で、腰の高さ、左斜め45度に保持する。…加持さん、大丈夫かな…居る。夜間用戦闘装備、サープレッサー装備のP−90…取りあえず、一個分隊、か…

『碇君!』

…行くよ、綾波…

戦いの犬達が、野に解き放たれる…

 


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ver.-1.00 1997-12/05公開
ご意見・感想・誤字情報などは hemmi6@land.hokuriku.ne.jp まで。

次回予告

「竜脈地図…フォッサ・マグナよ。」

「この世で信じられるのは、鉛弾と、今生きてるって事だけよ」

「惣流隊長の傷…、因縁ってわけか。」

「あれが混沌のネジ巻き、天之逆鉾…」

「君達には、裁きが必要なようだね。」

「あんた、慈悲深い殺し屋だって聞いてるぜ」

「みんな、誤解してるよ。僕は卑怯者だし、寛容な人間でもない」

「本当に、碇君に勝てるつもりでいるのね、気の毒な人…」

 

白銀の死闘・後編

「主が汝の災いを遠ざけ、汝の魂を見守られん事を…作戦終了。」

近日公開

 

あとがき

えっと、あとがきです。(新O素子か?)

まず、お詫びから。すいませんっっ!「贋作・海辺の生活」より先に、こんな訳のわからん代物を…フラン研師匠、及び期待してくださった皆様(いるのか?)…実はこれ、「a little mermaid」の筆が進まん時に、気分転換に書いておったものでして…それを、前・後編に分けて、先に公開するなどとは…つくづく、とんでもない野郎ですね(って人事かい!)次は必ず「贋作…」の一話(何故、連載になっている?)公開いたしますのでお許しをぉぉぉっ…

今回は、何時もリヴァースでやっております対談形式ではなく、一人称で行かせていただきます。(少し、真面目気味か?)なんで、こう言うものを書いたかという、言い訳みたいなものを少し。この「白銀の死闘」、今迄の奴とは趣向を変えまして、本編の筋書きを離れてEVAキャラで好き勝手をやってみよう、思いっきり趣味に走ったものを書いてみようか、と言う発想でやっております。「ハードボイルド」(ああっ、更新してない…)が鯖流補完(どこがやねん)、リヴァースは男女役割交代によって、例の「家族主義」とか「性役割」を別の角度から観たらどうなるか、と言う多分にメタフィクション的実験小説なとこがありまして。(そんな御大層なテーマがあったのか…)つまり、今迄はテーマが先にあって、それに沿って話を書く、と言うやりかただったんですね…ゆえに、多少キャラクターの性格を、環境をいじる事によって故意にずらしていると言うか…リヴァースレイとか、あと、リヴァースの加持はもてないし、やや奥手になってます。ユイさんなんかもう、性格破産者っつーか、サディストですね、あれは。オヤジの、「怖いから触れない」の逆で「かわいいから無茶苦茶にしてしまいたい」と言うタイプ…で、今度は、大作のオマージュに挑みつつ、「軍事野郎」の汚名?を濯ごうと、「一発の銃声もしない、一人も人が死なない」ものをやりたいなぁ、と「贋作…」に挑んでみた訳なんですが…(当初の予定からかけ離れたものが出来つつあります)やっぱり、戦場しか書けないんですかねぇ…なれない分のストレスをはらすべく、こんな物を書くとは。「贋作…」も最早完全な、テーマものと化した今、自分流の、ありのままのEVAキャラをオリジナルの設定(っつーか、完全なリミックスですな、これは…どっかで見たようなネタばっかし。)で好き放題やらせてみたら面白かろう、と思ってこんなものを…

季節ネタ、と言う頭もあるにはあるんです。ただ、スキーやスノボでは話が書けない…どうしても、雪山、冬のレジャーとか言うと、冬山登山、とか、マタギの熊撃ちとか、発想がサバイバル系へと…ならいっそのこと、冬季山岳戦メインのエスピオナージュか伝奇ロマンだぁ!(フォーサイスとか半村良のはずが、いつのまにかスプリガンになっとるのは自分でも驚きましたが…)何て奴でしょう。

ここに出てくる各キャラクター、基本的には、砂漠谷の頭の中にある本来の性格、あるいは「あのキャラクターが一人前に成長したらこうなる、あるいはこんな風に成長してほしかった」な性格になってます。筆力不足で書ききれてませんが、チルドレンは勿論、ミサト、加持も本編では「成長しきれない、できない」人間達の話として描かれているわけですけど、ここでは「大人」になった姿が見てみたかった…「成長ドラマなんて嘘っぱちだ!」と言う監督の叫びはよく分かるんですけど…やっぱり、それじゃ寂しい、そう思ったんですね。中でもお気に入りは(シンちゃんとレイちゃんは除いて)「ティーゲル」アスカですかね。まあ、主人公の敵方なんで、悪役っぽく見えますけど、別に善悪二元論の話じゃないですから、単純に立場が違うだけ、自立したいい女、として書いてます。タフで頭がきれて、カリスマ性があって。パフォーマンスじゃなく、実力で生き抜く…人の気を引いたり、媚びたりしないアスカ。野郎共を引き連れて、肩で風をきって歩く強い女。「強がってても、実はか弱く、依頼心の強いアスカ」がタイプだと言う方、いらっしゃったらごめんなさい(汗)個人的には、アスカのそう言う部分は、棄却して成長しなければならないもの、として捕らえてますので…鯖的には、女性も、一人で「戦える」のが正しい姿だと思ってるもんですから。あと、作品中に、ドゥルーズだのエンデだのの現代思想とか構造主義とか、あるいは、量子論だの場の理論だのの物理学ばなしが出てきますが、さらっと読み流して下さい。興味をもたれた方は、百科事典かイミダス辺りで調べられれば、入門の糸口になるかと。岩波新書とかでもたくさん出てます。あと、こう言う趣味な話なんで、当社比300%でメール大歓迎です(つまり、感想くれないと、何するか解りませんよ状態(笑)この有害鳥獣は…)おまちしてますっ!!

では、また、近い内にお目にかかりたく存じます。ごきげんよう。

Reima Sabakutani


 砂漠谷 麗馬さんの『白銀の死闘』前編、公開です。
 

 凄いボリュームですね。
 

 なかなか付いていけなくて
 やっとこ読み進めたので、
 さらにボリュームを感じました(^^;
 

 砂漠谷さんの考えた
 EVAキャラ達の姿。

 さらにピリピリで、
 ギリギリの人になっているのかな?

 勢いよく読んだので、
 印象は正確でないと思いますが(^^;
 

 
 さあ、訪問者の皆さん。
 砂漠谷さんに感想を送りましょうね!


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