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 少女は月を見上げる。
 そこに誰かが見えるように、ただ、ひたむきに。
 そして振り返る。
 そこには一人の少年がいた。
 チェロを手に椅子に座り、少女をじっと見つめる少年。
 優しいまなざしと、優しい微笑み。
 少女は安心する。
 少年の瞳は、少女を優しく包む。
 そして、少年は片手に持った弓を弦に当てた。ゆっくりと引かれる腕。
 そして、引き出される音色。
 少女は目を閉じてその音に身を委ねる。
 静かな音は、少女の心を包む。少女はいつしか小さくハミングを口ずさんで
いた。
 静かなハーモニー。
 少女はこの時間に終わりがある事を知っていた。
 シンデレラにかけられた魔法のように。
 月が隠れる頃、少女はここを去る。
 少年に何も言えないままに、少女はこの場を去らねばならない。
「…………」
 また、逢えるよね。
 それだけが、少女の願い。
 そして、少年の願い。
 その願いは次の月夜に叶う。
 再び、月に照らされて少女は少年を訪問する。
「…お邪魔します」
「…いらっしゃい」
 互いに名前は知らない。どこに住んでいるのかも知らない。
 それは、不思議な出会いだった。お互いの名を知らぬままに、逢瀬を重ねる
二人。
 でもそれは、二人だけの秘密。
 少年と少女の、それは心の中に仕舞い込んだ秘密だった。




 『月光』     朧月-Second Impression-





 綾波レイは黙々と歩いていた。
 朝。彼女の周りには出勤途中のサラリーマンや、学校へと向かう少年少女達
がいる。
 だが、彼女は誰と歩いている訳でもなく、ただ一人で歩いていた。
 銀色の髪。透き通るような、薄い白磁を思わせる白い肌。
 そして、全ての人の記憶に印象深く残る深紅の瞳。
 その美貌は、神に捧げんと古の名工が命を削って作り上げた水晶の彫像のよ
うに、冴え冴えとした美しさをたたえていた。
 その美貌に、レイを見る人間もいる。
 だが、その瞳にも、その口元にも表情らしき物は見当たらない。
 それが少女に近づく事を躊躇わせる。
 話かけたとして、果たして少女は自分を認識するのだろうか。少女の見る世
界に、自分は存在できないのではないか。
 そんな風に思えてしまうのだ。
 だから、レイは一人だった。
 そんな彼女に声をかける人間がいた。
「あ、綾波」
 少女の足がぴたりと止まる。
 その声は、少女にとって特別な声。
 少女はその瞳を声の主に向ける。
「…おはよ。綾波」
 少し照れた表情で手を振る少年の姿。
「……おはよう」
 少女、綾波レイは朝の挨拶を口の中で呟く。
「さ、行こうよ。遅刻しちゃう」
 少年が手を差し出す。
 レイはその手をじっと見つめ、そしてその手を取る。
 微かに頬が赤い。
 だが、その瞳は正面を見つめ、少年を見ようとはしていない。
 少年はそれをじっと眺め、そして歩き出す。
 少女の手を引いて。




「あーら!バカシンジ!!今日も仲良く二人で登校なの!?」
 少年と少女が校門をくぐろうとした時、その声が投げかけられた。
 少年の表情が変わる。
 二人はすでに互いの手を離している。だが、少年は落ち着かない表情で声を
かけた相手を見ていた。
「あ、アスカ…」
 少女の名は惣流・アスカ・ラングレー。美しい金色の髪をなびかせる、すら
りとした肢体の少女。
 そして少年、碇シンジの幼なじみである。
「…何よ!最近いっつもあたしを置いて行って!」
 ずんずんと近づいてくるアスカに、シンジは少し後ずさる。
「しかも、あたしより早く来るかと思えば、遅刻寸前に来るし!!」
 アスカはシンジの前に立つと、きっとシンジを睨み付けた。
「この馬鹿!!」

 がすっ。

「痛っ!!グーで殴る事無いだろ!アスカ!!」
「ふんっ!知らない!!」
 捨て台詞を残してアスカはシンジの前から走り去る。
 後には殴られたシンジと、その横に立ち無言で成り行きを見ていたレイが残
された。
「……なんなんだよ…」
 悲しそうな目で走り去った幼なじみを見るシンジ。その呟きはレイにも聞こ
えた。
 レイは無言でシンジを見、そして手を差し出す。
「あ、綾波?」
「遅刻…しちゃうわ」
 静かな声。
 だが、彼女の手はシンジの腕を掴んでいた。そして歩き出す。
「あ、綾波」
 シンジの声にレイの足が止まった。そしてシンジを見つめる。
「なに?」
「その…手…」
「……迷惑…?」
 変わらぬ静かな声。だが、シンジはレイの瞳が揺れるのを見る。
「い、いやっ、迷惑とか、そんなじゃ無いんだけど……その…」
 言葉に詰まるシンジ。レイはそれをじっと見つめる。
「その?」
「照れる…って言うか…」
 真っ赤になったシンジを見て、レイはシンジの腕を掴んでいた手を放した。
「わかったわ…」
 少しだけ寂しそうな声。
 レイが歩き出す。シンジも慌てて歩き出した。


「センセ!今日も惣流と揉めたんか?」
 教室に入ると同時にシンジに向かってそう声をかけたのは、ジャージ姿の少
年だった。嬉しそうに、開口一番そう聞いた少年の名は鈴原トウジ。シンジの
級友である。
「揉めたって…まあ、確かにそうだけど…」
 チラっと視線を教室の反対側に向けるシンジ。
 そこには洞木ヒカリと談笑しているアスカの姿があった。
 一瞬視線が合う。
 と、アスカは思いっきり『あっかんべー』をし、ヒカリの方を向いてしまう
のだ。
「………ま、自業自得だけどな」
 眼鏡をかけ、片手にはデジタルカメラを離さない少年がそう呟く。その口調
は、どこか突き放した感を与える。
「どういう事だよ、ケンスケ」
 シンジの視線に少年、相田ケンスケは軽く笑う。
「それに気付かないから、自業自得なんだよ」
「わかんないよ」
「……不幸だよな。俺って…」
 ついっと外に視線を向けて黄昏るケンスケ。
(なぜだ。何故こんな『ニブい』シンジがモテるんだ!?俺の方がシンジより
よっぽど、男女の機微に聡いと言うのに!!)
 心の叫びとは裏腹に、ケンスケの見た目はクールだった。
 問題は、それを見ている女の子がいない。という事実であったが。


 シンジがトウジやケンスケとじゃれ合っている間に、レイは自分の席に座っ
ていた。
 転入してから今まで、レイに自発的に声をかけたクラスメートは殆どいない。
 彼女の独特の雰囲気に呑まれ、あのアスカですら声をかける事を躊躇うのだ
から無理も無い。クラスメート達はじっと、腫れ物にでも触るかのようにレイ
を遠巻きにしているだけだった。
 レイはそれをどう思っているのか。
 それを知る術は無い。
 唯一、レイと話す事に躊躇しない少年。碇シンジも、その答えは知らなかっ
た。
「…あの…綾波?」
 シンジが声をかけても、レイはじっと見つめ返すだけだ。だがシンジ以外が
声をかけても、レイが反応を示す事は無い。教師が彼女を当てた時でも、レイ
は必要最低限の言葉しか口にしなかった。
 クラスメート達は、いつしかレイに話し掛ける事を諦めていた。
 それでも、彼女と話すシンジ。そして、その会話の内容には興味を示す級友
達。
 だからシンジとレイが話す時、教室は妙に静かだ。
「…その……今日付き合ってくれないかな」
 シンジが少し躊躇した後、そう告げる。
 頬は紅潮気味で、言葉も滑らかではなかった。
 レイはじっとそんなシンジを見た後、小さく頷いた。
「ありがと。綾波」
 シンジは笑顔を浮かべる。
 春風のように優しい、凍り付いた心すら溶かすような笑みを。
 レイはそんなシンジをじっと見つめ、そして視線をまた外に戻す。
 まるで、シンジが自分に笑いかけている事に、気付かないように。だが、レ
イの頬は少しだけ朱がさしていた。それを隠すようにじっと外を見つめるレイ。
 そんな二人をじっと見つめる少女がいる。
 惣流・アスカ・ラングレーであった。


 …シンジの奴…あんな女に笑いかけて……。


 アスカは心の中でそう呟いた。悔しさと、怒りが吹き荒れている自分の心の
中で。


 …今まで、シンジの笑顔を向けられていたのは、あたしだった。
 ずっと、これから先もそうだと思ってた。
 なのに……。


 アスカの視線の先には一人の少女がいた。
 銀色の髪と、紅の瞳を持つ少女。
 美しい。
 アスカですら、それを認めざるを得ない程の美貌を持った少女。
 だが、その瞳は無感動。
 その心は凍てついた氷の結晶。
 少なくともアスカも、他のクラスメートも、そう思っている。
 綾波レイは、転入してきた時以来、取り乱す事は無かった。


 どうして、シンジはあの女の傍にいるの!?
 どうして、シンジはあたしを見てくれないの!?
 どうして、シンジはあんな女に笑いかけるの!?
 あたしの傍にいてよ!!
 あたしを見てよ!!
 あたしに笑いかけてよ!!
 ……………あたしの傍で……………!


 だが、アスカの心の叫びはシンジには届かない。


 …あたしが…もっと素直だったら良かったの…?
 …もっと早く……シンジに言えていたら…あたしの気持ちを……。
 でも……言えなかったのよ。
 だって………。


 彼女の心に沸き上がるのは、『恐怖』。


 シンジがもし、あたしを何とも思っていなかったら?
 シンジがもし、あたしを拒絶したら?


 シンジが自分を受け入れてくれるという甘美な希望と、自分を拒絶するとい
う最悪の可能性。
 アスカはその両極に揺れていた。
 レイが現れるずっと前から。
 だから言えなかった。
 そして、幼なじみであるポジションに収まっていたのだ。
 それが今、アスカの心を締め付ける。
 何故言えなかったのか。何故、素直になれないのか。
 だから、レイといるシンジに対して怒りを感じるのだ。
 自分の気持ちに気付かない少年に対して。
「アスカ……」
 アスカの親友と呼べる友達である洞木ヒカリが、気遣うようにアスカの名を
呼ぶ。
「…大丈夫よ、ヒカリ」
 そんなヒカリにアスカは笑いかける。心配をかけまいと笑うが、少し翳りの
ある笑みが浮かんでしまう。
 ヒカリは知っている。アスカが本当はどれ程綺麗に笑うか。
 シンジと共にいる時のアスカの笑みは。いや、シンジに笑いかける時の彼女
の笑みは、それまでの彼女のどの笑顔よりも輝いている。
 だから、知っている。アスカの、シンジへの想いを。
「アスカ…駄目だよ…素直にならなくちゃ…」
 ヒカリがそう呟く。アスカの耳には届かない、小さな呟き。それは自分自身
に対しての言葉だったのかも知れない。
 ヒカリの視線は、シンジの横でケンスケとふざけているジャージ姿の少年に
注がれている。
 そしてアスカの視線の先には、レイに微笑みかけているシンジの姿があった。



「そいじゃ今日はこれまで!H.Rの話はこれと言って無いので、鐘が鳴った
ら帰って良いわよ!ただし!清掃の係の人はちゃんと担当区域の清掃をやって
くのよ!」
 本日最後の授業はシンジ達のクラスの担任、葛城ミサト教諭だった。彼女は
鐘の鳴る前に教科書を片付け、そう告げる。
 その言葉と同時にクラスのあちこちで、教科書を鞄に仕舞う姿が見られた。
 数分が経過し鐘が鳴る。
「起立!礼!」
 ヒカリの号令が響く。がたがたと音を言わせ、生徒達が頭を下げる。
「それじゃみんな、さよなら。寄り道するなら問題の無い所にすんのよ!」
 ミサトは笑ってそう言うと教室を出て行った。
「せんせ〜、さよなら〜」
 教室の各所からの声にミサトは答えながら職員室に帰って行った。
「あ、綾波。今日掃除当番?」
 シンジが隣に座っているレイに尋ねる。
 レイは無言で首を横に振った。
「じゃあ約束通り、付き合ってよ」
 頷くレイ。シンジはそれを確認すると歩き出した。
 レイも無言で後に続く。
 教室はすでに帰る生徒と掃除に行く生徒。部活に行く生徒達でごっちゃにな
り、二人を気にする者はいなかった。
 一人の少女を除いて。
 アスカはシンジに声をかけるタイミングを計っていた。最後の授業の間ずっ
とだ。
 しかし、シンジはそんな彼女の目論見をすべて無視してさっさと帰って行っ
てしまう。
 声をかけようとしても、あれ程心の中で練習した言葉は口には出てこない。
 二人が教室から出て行く様を、アスカはただ見送る事しか出来なかった。
 しばらく俯いているアスカ。そしていきなり鞄を掴むと、教室を走り出て
行った。
「あ、アスカ?」
 ヒカリの声も届かなかった。



 しばらく走っていたアスカだが、家までの帰り道の途中ではすでにトボトボ
と歩いていた。


 何よ。
 なによ。なによ。なによ。なによ。なによ。なによ。なによ。なによ。なに
よ。なによ。なによ。なによ。なによ。なによ。
 シンジの馬鹿!
 バカシンジの馬鹿!
 大バカシンジの大馬鹿!!
 あたしの事を気にもしてないって言うの!?
 あたしの事、見もしなかった。
 あたしに話し掛ける事すらしなかった。
 「一緒に行かない?」
 あたしはそう言って欲しかった。
 たとえ、あの女が一緒でも。シンジにそう言って欲しかったのに。
 シンジの……………馬鹿。


 視界が滲む。
 アスカは自分が泣いている事に気付いた。


 ……泣いてる?
 …このあたしが?
 ……もう、ずっと泣いていないこのあたしが『泣いて』るの?


 ぽろぽろと、アスカの両の眼から零れ落ちる雫。
 アスカは立ち止まり、両手を顔に当てた。
 声を出して泣きたかった。
 思いっきり、子供の頃のように。


 ……あたしが最後に泣いたのは…いつだっけ……。


 涙で感情が麻痺したのか、アスカはそんな事を考えていた。


 ……そうだ。
 あれはあたしが小学生の頃だ。
 まだ3年生にもなっていない頃。
 あたしの髪の毛の色を、クラスの男子が冷やかしていたんだ。
 あたしは気にしなかった。自分の髪の色は気に入っていたし、そんな事を馬
鹿にする男子が本当に子供に見えていたから。
 だけど、そんなあたしに業を煮やしたのか、男子の一人があたしの髪をカッ
ターで切ろうとした。
 10cmくらい切られただろうか。
 あたしは怒った。
 そうしたら、男子はカッターを振り回したんだ。
 その刃があたしに当たるかと思った瞬間、あたしは誰かに突き飛ばされた。
 そしてあたしの目の前で、紅い水滴が落ちた。
 それが『血』だって、あたしはすぐに理解できた。
 でもそれが『シンジの血』だって分かるまでには時間がかかった。
 左腕がスパッと切れていて、でもシンジは自分の腕を切られた事なんかどう
でも良いと言うようにその男子の胸倉を掴んで怒鳴っていた。
「アスカに何てことするんだ!!」って。
 あたしがシンジと出会ったのは2歳くらいの頃。もう憶えていないくらいに
小さい頃。
 でも、あたしはシンジが怒鳴る姿を見たのはそれが初めてだった。そしてそ
れが最後。
 カッターを持った男子はシンジの腕の血と、シンジの剣幕に混乱して泣き出
してしまった。
 そしてシンジがあたしの前に座ってこう言った時、あたしも泣き出してし
まった。
「だいじょうぶ?アスカ」って。
 あたしは大丈夫だった。髪が切られたのはショックだったけど、髪はまた伸
びてくる。
 だから大丈夫だった。でも、シンジの左腕の傷は?
 そう思うとあたしは恐かった。
 だから泣き出してしまった。
 シンジはそんなあたしを心配してくれた。

 ………それ以来、あたしは泣いて無い。


 アスカはじっと昔を思い出していた。
 そして小さく笑う。
「あたしを泣かすのはシンジなのね…昔も、今も」
 少し自嘲的な言葉。
 だがアスカは泣き止んだ。
「…ふん!いいわ。すぐに取り戻してやるんだから!」
 シンジの横にいるのは、あの女でも誰でもない。このあたしよ!
 アスカはそう誓うと、今度は意気揚々と歩き始めた。




 シンジとレイは楽器店にやってきていた。
 それも、ギターやドラムといったバンドの楽器店では無く、チェロやヴァイ
オリンといった、クラシック御用達の楽器の専門店だ。
 シンジは小さな頃からこの店の常連だった。
 と言うより、シンジにとってはこの店が、彼がチェロを学んだ場所なのだ。
 レイはじっと壁のケースに入れられているヴァイオリン達を見ていた。
 それはいつもの何処を見ているのか判らない目では無く、真摯な瞳だった。
 シンジは豊かな顎鬚をたくわえた初老の店長と話している。
「ほお、するとあのお嬢ちゃんは、ヴァイオリンをやる、と」
「ええ」
 にこりと笑うシンジ。彼はこの老人が好きだった。
 歳相応の物の見方が出来、クラシックをこよなく愛する老人が。
「ふむ…で、持っていた楽器の調子が変になった?」
「ええ。多分1年以上放っておいたからだと思うんですけど」
 老人の手にはケースがあった。
 それはレイのヴァイオリンのケースである。
 シンジとレイは、一旦レイの家に帰ってケースを持ち出し、それからこの店
に来ていたのだ。
 老人はじっとヴァイオリンをあらゆる角度から見ていた。
 それからため息をつく。
「…どうやら寿命のようだな」
「寿命?」
「そうだ。まあ元が練習用の安物だからな。すぐに寿命が来たんだろう」
「練習用?」
「ああ。演奏技術を磨く為に多少無理が利くように作ってある」
 ほら、と作りをシンジに見せる。
「ホントだ」
「まあ、譲ちゃんが本気でヴァイオリンに戻るつもりなら、あそこにかかって
いるどれかを選ぶと良い」
「え?でもあそこにあるのは、誰にも売らないって」
 シンジの視線はガラスケースに丁寧に仕舞われたヴァイオリンに注がれた。
 そこにあるのは、どれも最高級の出来の作品だった。
 シンジは小さい頃からここに出入りしていたがよく、このヴァイオリンを
譲ってくれ、金になら糸目をつけない、と言っては老人に叩き出される人間を
大勢見ていたのだ。
 だから正直驚きだった。自分達はまだ中学生だ。とてもじゃ無いが、お金な
んか無い。
「…金にあかせるような輩にはな。だが、シンジが惚れ込んだ腕なら儂も聞い
てみたい」
 老人は優しく微笑んだ。
 シンジは嬉しくなる。老人はシンジの腕と、音楽センスを誉めてくれている
のだから。
「綾波。ここのヴァイオリンから好きなのを選んで良いって……綾波?」
 レイは先程からじっと、同じヴァイオリンを眺めていた。
 それこそ、穴が空くほど。
「綾波?」
「……ほお、そいつが気に入ったかな?」
 老人がゆっくりとレイに近づく。
 レイはその老人に一瞬視線を向け、頷いた。
「ほほお。お嬢ちゃんは、どうやら本当にヴァイオリンに好かれているらしい
な」
 老人の目が細まる。それは彼の満面の笑みだった。
 レイがそのヴァイオリンに惹かれている事に、満足するように。
「どれ、一つこの老体に聞かせてはくれんか?」
 ガラスケースからヴァイオリンを取り出し、レイの手に手渡す。
 レイは自分の手に渡されたヴァイオリンをじっと見つめ、そしてシンジを見
た。
 弾いてもいいのだろうか。そして何より、自分が受け取っても良いのだろう
か。
 シンジが頷く。
 その仕種にレイも頷き返した。
 彼女は二人から少し離れ、そして弦の調子を見る。
 老人がこまめに手入れしていたのだろう。調律は狂っていず、それどころか
いつでも弾ける様に調整されていた。
 レイは深呼吸を一つし、そして目を閉じる。
 弓が引かれた。


 静かな音色が部屋を満たしていた。
 老人は目を閉じている。
 シンジは一心にヴァイオリンを弾くレイを見つめていた。
 そして思う。以前聞いたレイの音色と違う、と。
 何が違うのか。それを言い切れるほどシンジは自分を過大評価してはいない。
だが、確かにどこかが違う。
 ふと、何かを思い付く。
 彼は自身のチェロを取り出して来た。
 それは老人の好意で置かせてもらっている、もう一つの彼の愛用の品だった。
 椅子に座ると、レイの呼吸を見計らう。
 一瞬の間。
 そしてシンジはレイの引き出す調べに、己の音色を重ねた。
 そして部屋に満ちる音。
 老人は閉じていた目を開け、少なからず驚いていた。
 レイの演奏技術は確かに、歳に似合わず素晴らしい。だが、それでもやはり
歳相応の部分が残っていた。
 何よりも、その音色には寂しさが満ちていた。
 しかし、シンジが演奏に参加する。
 たったそれだけの事でレイの音色は変化した。

 寂しさから、優しさへと。

 レイだけでも、こんな音色は引き出せない。
 シンジだけでも、こんな音色は引き出せないだろう。
 『二人だから』。
 まるで、欠けあう何かを互いに埋め合わすように、音色は変化していく。
 老人はレイの腕に抱かれたヴァイオリンを見る。
(満足じゃろう……これ程の音色を引き出されるとは……)
 今はもうこの世の何処にもいない、彼の弟子の事を思う。
 レイが持つヴァイオリンも、ケースに収められている他のヴァイオリンも、
老人の弟子だった男が造り上げた物だった。
 静かに、最後の音色が引き出され、レイは瞳を開いた。
「最高じゃったよ。お嬢ちゃんのような娘に弾かれるなら、そいつも満足じゃ
ろうて」
 暖かい拍手を送りながらの老人の言葉に、レイはじっと老人を見つめた。
「…それじゃ?」
 シンジの言葉に老人は頷いた。
「お嬢ちゃんの物じゃよ。大切にな」
 レイの頭に手を当てると、優しく撫でる。
「…………ありがとう…ございます」
 暫しの沈黙。そしてレイはそれだけを言った。
 だが老人もシンジも、優しく微笑んでいた。
 それがレイの心からの感謝だと分かるから。



「綾波。今日どうする?」
「……え?」
 帰り道。シンジとレイは一緒に歩いていた。
 突然シンジがレイに聞いてきた。その意味をレイは図りかねていた。だから
聞き返す。
「どうする…って?」
「あのさ……もし嫌じゃ無かったら……僕の家に遊びに来ない?」
 シンジ、少し頬が赤い。
 当然だろう。女の子を家に誘うなんて、シンジにしてみれば初めてなのだか
ら。
 アスカは誘うも何も、勝手に入ってくるのだから数の内に入らない。
「…勿論、用事があるなら…いいんだけど」
 少し伺うようにしてレイを見るシンジ。レイはそんなシンジをじっと見つめ
ていた。
 そして口を開く。
「……別に用事は無いわ……」
「じゃあ?」
「……お邪魔します」
 レイの視線が少しだけ宙を泳ぐ。頬が微かに赤い。


 ……碇君の…家に…。


 レイは自分の心が、いつもからは信じられない程高鳴っているのを自覚して
いた。
 隣にいるシンジに気付かれるのではないか。
 そう思えるほど心拍数が上昇している。
 心臓がスキップしている。


 …初めて…行く。


「綾波、初めてだよね」
 シンジの声に、レイは慌てて頷く。
 あの月夜の訪問も、シンジはわざと触れない。
 あの綾波レイと、今の綾波レイは同じであり、異質だから。
 シンジの横にいる綾波レイは、今日初めて碇家を訪問するのだ。
 シンジはその事に気を遣ってくれたのだろうか。


 …私を見てくれている。
 私を理解してくれている。
 私が一緒にいる事を、認めてくれている。
 ……私が一緒にいたいと思っている。


 レイはシンジを横目でちらりと見上げた。
 そこには少し上気した顔で、前を見たまま歩いているシンジの横顔があった。


 …碇君。
 月夜の私を見ても、何も言わない人。
 月夜の私を迎えてくれる人。
 …………私は…………。


「あそこだよ」
 シンジの声にレイの思考が中断される。
 シンジの指差す先には、大きなマンションがあった。
「あそこが僕の家のある所」
 シンジの笑顔をまぶしそうに見上げるレイ。
 そのレイの表情に気付かないのか、シンジは笑ってレイの手を引いた。
 レイは無言で手を引かれていく。
 だがその口元には微笑が浮かんでいた。


「ただいま〜」
「あら、お帰りなさい」
 シンジの声にユイは顔を出した。
「遅かったわね…あら?」
 ユイの前には息子と、そして見知らぬ少女が立っていた。
「あ、母さん。この子が綾波レイ。綾波、僕の母さん」
 レイはじっとユイの顔を見、そして頭を下げた。
「…初めまして。お邪魔します」
「あらあら。初めまして、シンジの母です。あなたが綾波レイちゃん?」
「…はい」
 レイが顔を上げる。ユイはレイの瞳をじっと見つめた。そして優しい、そし
て美しい笑みを浮かべる。
「シンジもやるわねぇ。女の子を家に連れ込むなんて」
「あ、アスカだって来るじゃないか」
「アスカちゃん以外は?」
「うっ」
 シンジの必死の抗弁も、ユイにかかってはあっさりと崩されてしまう。
「フフッ。部屋に案内するの?」
「あ、うん」
「そう。なら後でお茶持って行くわね」
 微笑むユイ。シンジはまだ少し火照ったままの頬を気にしていた。
「ゆっくりしていってね」
 レイに向ける笑み。それは最上級の笑顔だった。レイもおずおずと微笑む。
「…はい」
「綾波、こっち」
 シンジの後に付いていくレイ。そんな二人を見て、ユイはもう一度微笑んだ。


「どうぞ、入って」
 シンジがドアを開いて、レイを先に部屋に招き入れる。
 レイは軽く会釈して部屋に入った。
 そこは、見た事が無いはずなのに、見慣れた部屋だった。
 机の横にケースに入れて立て掛けてあるチェロ。
 ふと、視線が動く。
 その視線は机の上に向かっていた。
「綾波?」
 レイはゆっくりと近づくと、机の上にある写真立てを手に取った。
 レイの手の中で、アスカとシンジが笑っている。
「…………」
 レイは何故だか、その写真を見続ける事が出来ない事に気付いた。
「……どうして?」
 誰にも聞こえないように呟く。
 答えは、返って来ない。それが彼女の胸を締め付けた。

「シンジ?入るわよ」
「母さん?」
 ドアの向こうからユイの声が聞こえてきた。シンジがドアを開けると、ユイ
は手にトレーを持って微笑んでいた。
「はい、お茶」
「あ、ありがと」
 シンジにトレーを渡すと、ユイは写真に見入っているレイに声をかける。
「レイちゃんも、ゆっくりしていってね」
「……ありがとう、ございます」
 ユイの言葉に答えるレイ。
 ユイはもう一度笑うと、ドアを閉めた。
「シンジ、しっかりね」
「しっかりって…母さん!」
 真っ赤になりながら怒鳴るシンジ。ユイはドアの向こう側でにやにやと笑っ
ていた。
「まったくもう…綾波?」
 シンジが振り返ると、レイは鞄を持ってシンジの背後に立っていた。
「……今日は、帰る……」
 レイは唐突にそう告げた。
「あ、綾波?」
「…ごめんなさい。ありがとう…」
 レイがそう言って歩き出す。
「綾波…僕、何か悪い事…した?」
 シンジが恐る恐るそう尋ねる。レイはそんなシンジをじっと見つめ、そして
首を横に振った。
「……今夜………公園まで……来て……」
 それだけを言い残してレイは帰っていった。

「あら、レイちゃんもう帰ったの?」
 シンジが居間に出て行くとユイが不思議そうにそう尋ねてきた。
「あ…うん」
 どこか歯切れの悪いシンジ。ユイはそんなシンジに不審な物を感じたが、そ
れ以上何も言わなかった。
 夕飯の支度を始めなくてはならない。
 キッチンに向かうユイは、そのまま料理に没頭していった。




 月夜に映る影。
 それは静かな音をたたえ、密やかに舞い下りる月光と共にあった。
 少女の影。
 月光の結晶のような銀色の髪。宙にある銀盤の如き白い肌。
 そして、血のように紅いルビーの瞳。
 それは月明かりに照らされ、少女をこの世ならざる者に見せた。
 静かな瞳。
 風が吹く。
 だが、少女の髪は風にそよぐ事も無い。
 ここは人の来る事の無い湖。
 少女はその湖の水面の上に立っていた。
 いや、正確に言えば湖面に浮いていた。
 何の音も無い世界。
 虫の鳴き声も、風の音すらも無い場所。
 少女の瞳には何も映ってはいない。
 静寂。
 静謐。
 少女の瞳に初めて感情らしき物が映る。
 それは悲しみ。
 それは諦め。
 それは嘆き。

 そんな世界に、音が現れる。
 緩やかな弦楽器の音。
 静かに、心に染み込んでくる音色。
 初めて世界に音が生まれた。
 そして、世界が動き始める。
 少女の瞳に映るのは、一人の少年の姿。
 切り株に座り、チェロを奏でる少年の姿。
 年の頃は14,5歳といった所だろう。
 少年は目を閉じ、ただ一心にチェロを奏でていた。静寂そのものだった湖上
にその音色は流れ落ち、そして小さな波紋を呼ぶ。
 それはまるで湖が少年の演奏に歓喜し、拍手を返しているかのようだった。
 そして少女の深紅の瞳にも、感情の色が浮かぶ。
 それは歓喜。
 少女は湖面で踊る。
 たった一人の円舞曲。
 だが、少年は知っている。
 彼女のパートナーは、湖面に映った自分自身。
 そして月光が照らす自らの影。
 チェロの音が一際鳴り響き、そして少女の円舞も終わる。
 湖上で静かに、深く礼をする少女。
 少年はチェロと弓を置くと湖のほとりに立った。
「ようこそ……碇君」
 風に運ばれてくる少女の声。
「……お邪魔するね、綾波」
 少年、碇シンジは優しく笑った。


「…正直驚いたんだ。綾波がこんな所にいるなんて」
 シンジはそう言うと周囲を見回す。
 公園、と呼ばれているが、実際の所その機能は殆ど無い。ここは開発の手が
届かなかった、言わば放置された開発区画だった。
 故に森が残り、自然公園として再開発する計画すら立案されている。月明か
りだけが光源であり、そして月光は白く、銀の光で地上を十分に照らしていた。
「ここは人が来ないわ……」
 月に照らされる。
 レイの影が地上に落ちる。
 それがレイがここにいる事をシンジに確かめさせる。
「確かに…ね」
 シンジは周囲を見回す。まさに静寂、という雰囲気だ。
「どうして僕をここに呼んだの?」
 シンジは優しい眼差しでレイを見つめた。
「…私として…逢いたかったから…」
 レイはそう言うと、シンジの瞳を見つめ返す。
「私として…?」
「月と共にある私と、いつもの綾波レイは同じ存在であり、違う存在だから」
 レイはすっと後ろに下がる。湖面は波立たない。
「私は現実にいるのか…それすらも分からない」
 悲しい。
 寂しい。
「私は何なの」
 湖に波紋が一つ。
「私は誰なの?」
 波紋は消え、再び広がる波紋。
「綾波…レイだよ」
 シンジはそう言って笑う。
 レイの深紅の瞳がシンジをじっと見つめている。
 安心させるように、シンジは微笑んだ。
「君と昼の綾波は違うのかもしれない。でも同じだよ」
「…私は……違うわ」
「同じだよ」
 シンジは手を伸ばし、レイの手を取った。
「触れれば暖かい」
 レイはそのままシンジの手に引かれ、岸にあがった。
「一緒に居ると安心するんだ。どうしてかは、分からないけど」
 レイがふわっと、シンジの腕の中に包まれる。
「…綾波といると、そう思えるんだ」
 レイはじっとシンジの胸に顔を埋めていた。
「…だから、同じだよ。君は、綾波レイだ」
 月明かりが銀の紗になり、二人を包んでいる。
 風も無い。何の音も無い。
 レイの耳には、ただシンジの胸の鼓動が伝わるだけ。


 …嬉しいの?
 私を見てくれている事が。
 私を感じていてくれる事が。


 レイの深紅の瞳が揺れる。
 見上げれば、シンジの瞳がじっと彼女を見つめ返していた。
「……私を見て……」
 レイの言葉が風に乗る。
「…僕はここにいる」
 シンジがゆっくりと、そう呟いた。
「君は…ここにいる」
 レイがすっと、シンジの腕の中から離れた。
「だから、寂しがる事なんか無いんだ」
 シンジの優しい微笑み。春風のように、凍てついたすべてを溶かすような笑
み。
 月が雲に隠れる。
 瞬間、辺りは闇に閉ざされた。
 何も見えない。光を失った真の闇がそこにあった。
 雲の切れ間から月が顔を出す。
 銀の光が一条、地上を照らす。
 そこに綾波レイがいた。
 静かな微笑みをたたえて。

「………ありがとう………」

 感謝の言葉を風に乗せる。
 『綾波レイ』が、微笑みながら。


 レイが湖面を踊る。
 自らの影を相手に。
 湖面に映る自らを相手に。
 シンジのチェロを伴奏にして。
 いつ終わるとも知れぬ輪舞曲。
 月夜が終わるまで、それは続いていた。




「シーンージー!!遅刻するわよーー!!」
 久しぶりに碇家に少女の元気な声が響いた。
「…ん…もう少し……」
 シンジは布団を頭からかぶり、少女に頼み込む。
「もう少しじゃ無いわよ!!ほらぁ、早く起きる!!遅刻するわよ!!」
 嬉しそうな顔の割に、脅しつけるような言葉。
 シンジは渋々起き上がる。
 そこには満面の笑みを浮かべた彼の幼なじみの姿があった。
「早く起きる!!」
「…分かったよ……」
 そして朝食を摂る間も無く、彼は学校への道を走っていた。
「まったく…最近は随分と早かったのに、今日は遅かったじゃ無いの!」
「うん……ちょっとね」
 アスカは怒ったような口調でシンジの寝坊を非難していた。
 だがその表情は明るい。そのギャップにシンジは悩みながら走っていた。
「まったく…やっぱりあんたに早起きなんて無理だったのよ!」
 にこにこと笑う少女。シンジは頭を傾げながらも、反論できない。
「もう、大丈夫だよ。ここら辺まで来れば」
 シンジがそう言って足を止めた。
「歩こうよ〜アスカぁ」
 シンジの懇願の口調に、アスカも速度を緩める。
「…まあ良いわ。シンジがそんなに言うんだったら歩いてあげる」
 内心の嬉しさを隠し、アスカは恩を着せるように言う。
「ちぇー」
 アスカの物言いにシンジはそう呟いた。
 昨夜、公園から帰ってきたのは4時過ぎだった。
 今8時過ぎだから、4時間くらいしか眠っていないのだ。
 眠い。
 とりあえず、それしか考えられない。
「あ、すいません」
 そんなシンジに声がかけられる。
「え?」
 半分寝ぼけた状態でシンジが振り返る。
 そこには学生服に身を包んだ一人の少年が立っていた。
 一瞬、シンジはその少年に見惚れてしまった。
 銀色の髪。
 白い肌。
 華奢な体付き。
 中性的なその美貌。
 そして何より印象的な深紅の瞳。
「あら、あんた何よ」
 アスカも振り返り、その少年に尋ねる。
「第壱中学って…どう行くんでしょうか」
「は?」
「いや、だから第壱中学校への道を聞いているんですけど」
 アスカの反応に、少年はもう一度、丁寧に言い直す。
「第壱って…僕らそこの生徒だけど…」
「ああ、そうなのかい?」
 にこりと笑う少年。その笑顔は綺麗だった。
「案内してくれないかな。道に迷ってしまって」
「あんた、学校に何の用なのよ」
 アスカが尋ねる。彼女は初対面でもそんな口調を変えようとはしなかった。
「転入生なんだけどね。ここら辺は分かり難くて」
 悪びれない笑みを浮かべる少年。
「あ、そうなんだ。…えっと、何年生に編入するの?」
「2年生だよ」
 少年の答えに、シンジはほっとしたような、それでいて何処か可笑しいよう
な感覚に包まれた。
 少年は大人びた雰囲気を持っていたからだ。
 てっきり年上だと思っていた。
「あ、僕らと同じ学年なんだ」
「へえ、そちらのお嬢さんも?」
「そうよ」
 アスカがフフンと笑ってそう答える。
「良ければ名前を教えてくれないかな。僕は渚カヲル」
 カヲルは優しい笑みを浮かべた。
「あ、碇シンジって言うんだ…渚君」
「カヲルで良いよ」
「…僕も、シンジで良いよ。カヲル君」
 少し照れた口調でシンジが訂正する。
「そちらは?」
「惣流・アスカ・ラングレーよ」
「アスカちゃんか」
「馴れ馴れしいわね!!」
「良いじゃないか。友達になりたいんだ」
 カヲルの笑みは、アスカの怒気すらもあっさりと包み込む。
「…ま、まあ、あんたがそうまで言うんだったら、考えてやらなくも無いけ
ど」
「ありがとう。と、所で学校は何時からなんだい?」
「え?」
「もう20分なんだけど」
 カヲルの言葉にシンジとアスカは腕時計を見た。
「げーっ!!ヤバい!!!」
 アスカの叫びを引き金にシンジとアスカは走り出した。
「カヲル君も急いで!!遅刻しちゃうよ!!」
「やれやれ……」
 シンジの声に、カヲルも含み笑いを残して走り出した。



「おはよー」
 教室に入るシンジとアスカ。どうにか遅刻は免れたようである。
「おはよー!ヒカリ!!」
「おはよう、アスカ。どうしたの?遅刻寸前の割には機嫌良いじゃない」
 そのままヒカリと話し始めるアスカ。
 シンジは席に座り、自分の横に座る少女に微笑みかけた。
「おはよう、綾波」
 レイはじっと文庫本を読んでいたが、ふと視線を上げてシンジを見た。そし
て口を開く。
「…おはよう、碇君」
 互いに微笑みを浮かべ合う。
 その時。
「おはよーーみんな!!」
 葛城ミサトが元気良く教室に入ってきた。
「女子諸君!喜べ!!今日は転入生がいるのよ!!」
 ミサトが手招きをする。
 少年が教室に入ってくる。そしてミサトの隣で優雅に一礼する。
「渚、カヲルです。よろしく」
 その日、シンジ達のクラスに新しい仲間が増えたのだった。



月光  Fin


NEXT
ver.-1.00 1997-09/16公開
ご意見・ご感想、誤字脱字情報は tk-ken@pop17.odn.ne.jp まで!!

 どうも、Keiです。
 今回は「月光」をお送りしました。本作は『朧月』の続編になります。
 気に入って頂けると幸いです。

 え〜、今回の話しは「中秋の名月記念」となっております(笑)
 これ以降も、読み切り形式で公開していきたいと思いますので、よろしくお願いします。
 では、今回はこの辺で。

 1997年9月15日
      「THE MEMORY OF TREES」を聞きながら。
                                     Kei

 Keiさんの『月光』、公開です。
 

 中秋の名月、9/16。
 団子を食いながら満月を見る日(^^)/

  大阪は・・・思いっ切り曇っています・・・
  台風のバカやろ〜〜 (;;)

  冷たい風。
  そろそろ雨も降り始めそうで・・

  寒いです。
  風邪ひきそうです。
  部屋の隅で扇風機がバカ面さらしています。

 

 
 大阪と違い、作品中では月が輝いていますね。

 月光の下で踊る綾波レイ。
 怖いほどの美しい画です。

 結びついていくシンジとレイの心。

 幻想的というか、
 夢幻というか。

 実にいい雰囲気です(^^)
 

 アスカちゃん危うし・・・ (^^;(;;)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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