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 『ANGEL』。
 天使と訳される彼らは、福音戦争にて初めてその姿を人類の前にあらわした。
 神の使徒とまで呼ばれた謎の独立稼動兵器、『使徒』。彼らは人類の前に立
ちふさがった。だが、彼らはあくまでも独立単体の兵器だった。
 しかし、新たに現れた『ANGEL』は違った。
 空を埋め尽くした彼らの姿に、人間達は畏怖し、そして絶望した。
 その能力は未知数。少なくとも『単体』で『使徒』に匹敵する戦闘能力を持
ち、また数体のANGELが共同で発生させる力場は気象すらも変化させた。
 それは、原罪を知らぬ神の軍団だったのである。
 そしてそれは人類滅亡への序曲だった。



DEATH or REBIRTH?

 第2話『昔日』




「…それで、『G』の成果はどうだったのかね。葛城三佐」
 冬月コウゾウと呼ばれる男が、静かに尋ねた。
 それに答えるのは、葛城ミサトである。
「はい…。元老のデータバンクは完全に破壊。内容は既にMAGIにて解析中
です。『G』は既に次の目標に侵入準備をしている頃かと」
 ミサトの言葉に冬月は満足そうに肯いた。
「…司令。Nervが『G』に頼るのは、どうかと思いますが…」
「確かにな。だが現在最も信頼できるのは、『G』だ」
 冬月は思い付いたように不意に口にした。
「それはそうと、『彼女』はどうしているのかね?」
「…未だ目覚めません」
 ミサトが辛そうに口にする。
「………そうか」
 冬月はそれだけを口にして目を閉じた。
「……では、Nervとしても最大限のフォローを『G』に」
 冬月の言葉に、ミサトは頷いた。


*** ***


 静かな瞳が僕を見つめる。
 鮮やかな紅色の瞳は何も言わずに、ただ僕を見つめている。
 無言。
 僕も、何も言わずに彼女を見つめ返す。
 後悔…しているのだろうか。僕は。
 ぐっと握り締められる左拳。彼女の瞳は消える。
 あの時の選択を、僕は後悔しているのだろうか。


*** ***


「おー、シンジ。これからゲーセン寄っていかんか?」
「あ、ごめん。僕これから用事があるんだ」
 シンジの言葉にアスカは顔を上げた。
 シンジが何処かに用事があると朝聞いているものの、どこに行くかまでは聞
いていないからである。
 ここで鈴原達に教えるなら、それを聞こうとしているアスカの思惑に反し、
シンジは何処に行くかまでは告げなかった。
「なんや、今月もかいな」
 トウジの言葉どおり、シンジは一ヶ月に一回、行き先を告げずに居なくなる
のだ。
「…ね、アスカ。碇君どこに行ってるの?」
 横に立っていたヒカリの言葉にアスカは首を横に振る。
「あたしも知らないの」
 その言葉に、ヒカリは少し驚いた表情を浮かべる。
「…アスカも知らないの? 碇君が何処に行っているか」
「そう。あたしにも教えてくれないのよ。あいつ」
 アスカの憮然とした表情に、ヒカリは苦笑する。
 彼女はようやく、自分の内面を素直に出せるようになったと、ヒカリは思う。
 そしてそれを嬉しく思う。
「ね、それならこっそり後をつけたら?」
「え?」
 ヒカリの言葉にアスカは顔を上げる。
「良いじゃない、Nervとも関係無くなったんでしょ? なら、付いて行っ
たって危ない事がある訳じゃないんだし」
 ヒカリの言葉にアスカは数瞬考え込み、そして頷いた。
「そうね。あの馬鹿が何処で何しているか、知っておくのも悪く無いものね」
 アスカは自分を納得させるように、そう呟く。素直にシンジの行き先を知り
たいと認めない所は、変わっていなかった。


 シンジの背後を彼女は尾行していた。と言っても、シンジの歩調は実にゆっ
くりとしており、アスカの足でも十分に付いて行ける速さだった。しかも不意
に店のショーウインドーを覗き込んだり、その目的は殆ど分からないままであ
る。
 まるで目的も決めずに散策しているかのように。
 だが、アスカはじっとシンジの後を尾行しつづけていた。
 トウジ達の誘いを断ったシンジが、何の目的も無く歩いている訳が無い。
 だがシンジは何の目的も無いように、ぶらぶらと歩いていた。

 不意に今まで一度も店の中に入った事の無いシンジが、ビルに入って行く。
「…あそこが目的地?」
 シンジが入って行ったビルは、何の変哲も無いただの雑居ビルに見えた。
 アスカも慎重にその後に続く。
「…何処?」
 アスカが入ったのと、右手のドアが閉まるのは同時だった。
「…あそこ?」
 そこは雑居ビルの裏手に繋がるドアであり『関係者以外立ち入り禁止』の表
示が出ている。だがシンジはそこに入って行ったのが見えたのだ。
「…尾行を撒こうとしている…。シンジが?」
 ゆっくりと、慎重にドアに近付くとアスカはそのドアを開いた。



*** ***



「約束の時、今こそ我らが神になる!」
 ゼーレの老人はそう叫んだ。
 神への昇華を望み、ただひたすらに人の歴史に干渉し続けた彼らは、最後の
シナリオを始動させようとしていた。
「エヴァシリーズを起動させろ。そして神化の儀を」
 老人の声が、そこにただ響く。
 そして世界各地でエヴァシリーズが起動する。



「…碇」
「ああ」
「時が、来たな」
「……ああ」
「人の魂が宿る事によって、初号機や弐号機、零号機は通常のエヴァシリーズ
とは別物になった。……それ故に、ダミープラグは使えん」
「冬月。すまんが最後の指揮は頼む」
「…行くのか?」
 最後の問いに答える事無く、ゲンドウは歩み去った。



 歪んだ願いを叶えるべく、エヴァシリーズは起動していく。
 だが、彼らは知らなかった。
 ダミープラグを挿入されたエヴァシリーズに、まったく異種の存在が宿る事
を。
 それは予言された事実。
 だが解釈を誤れば、それを知る事は出来ない。
 そして、ゼーレは誤った。
 そして、ゲンドウは誤った。
 予言は成就される。

 今こそ、ヒトの滅ぶ時。



*** ***



「ちょっと…何よ!」
 アスカが上空を見上げた。
 そこに、彼らがいた。
 白いエヴァ。
「エヴァシリーズ…? 完成してたって言うの?」
 その言葉に反応するかのように、彼らは滑空を開始する。
「何のつもりよ…って、あたしを殺そうなんて、百年早いのよ!!」
 叫ぶ彼女は腕を振り上げ、そして弐号機で迎え撃とうとした。
 だが、弐号機の体は思うように動かない。そして、貫かれた。
 エントリープラグが強制排出され、アスカは一瞬の内に空中に放り出されて
いた。
「どうして…。どうしてよ!!」
 それは敗北してしまった事への怒りだったのだろうか。
 偽りの再生を許された少女は、そう叫ぶ事しか出来なかった。
 そうする事でしか、彼女は最早自分の存在を叫ぶ事は出来なくなっていたの
だ。
 貫かれた弐号機の身体を、ANGELは侵食していく。
 増殖した組織は、エヴァの細胞と入れ替わりそして弐号機はANGELへと
変貌した。


 同じ時、シンジもまた初号機を失った。
 そして意識を失ったシンジが目覚めた時、エントリープラグのハッチを開い
て中に入ってきた人影。
「あや…なみ…?」
「大丈夫?」
「あ…うん」
 二人はエントリープラグから抜け出し、そして空を見上げた。
 そこには空を埋め尽くすANGEL達が、地上を破壊しようとしていた。
 手始めにNerv本部を破壊しようと言うのだろうか。



 世界の破滅を止める術は失われていた。
 人類の最後の牙であった筈のエヴァンゲリオンが、ANGELの苗床となっ
てしまったからである。
 元々無原罪の存在であったエヴァは、ANGEL達の身体としては最適だっ
たのだ。
 そしてエヴァを乗っ取ったANGELは、分裂、増殖を繰り返し、その総数
を増加させていた。
 破滅の予告通り、空は神の使徒によって埋め尽くされたのである。
 Nervと言えども、その主力兵器たるエヴァを失っては何も出来ない。
 そしてNervで駄目ならば、通常兵力しか持たぬ各国の軍隊には、もはや
どうする事も出来なかった。
 ゼーレが配備した量産型エヴァシリーズも、ANGEL化を免れる事は出来
なかった。
 死海文書の予言は、ゼーレやゲンドウの予測とは異なった方向で実現化して
いた。


「ちょっと…! もうどうしようも無いじゃないの!!」
 弐号機を失い、たった一人で立ち尽くす少女はそう叫んだ。
 それは事実だったから。
「…これが、罪の贖いだと言うの…?」
 人類の希望を作り上げたと信じていた科学者はそう呟いた。
 自嘲と、悲しみと共に。
「真実って…これだったのかしらね」
 小さく呟き、ペンダントの十字架を見つめて呟いたのは、真実を知りたいと
切望した男の遺志を継いだ女だった。
「…これが、我々の未来だと言う事か。所詮、変えられぬ…」
 老学者はそう呟いた。
 信じようとした道が途絶えた事を知りながら。
「ユイ……もし地獄があるのなら、我々はそこで再び逢えるだろうな」
 愛した筈の息子の父親にも、愛した女の夫にもなれなかった男は、そう呟い
た。
 走りつづけた道の終着点に着いた事を知って。


 セントラルドグマ。Nerv本部が存在するジオフロント最下層に位置する
この場所に、一人の少女が立っていた。
 いや、その少女の後ろに一人の少年が立っている。
「…綾波、どこに行くの?」
 蒼銀色の髪の少女の後ろを付いて歩いている少年は、そう尋ねていた。
「…もう少し」
 だが少女、綾波レイもただそれだけしか答えない。
 少年、碇シンジもそれ以上尋ねる事無く、無言でレイに付いて歩いていた。
 そして二人の前に磔になった巨人が現れる。
 その姿を、シンジは以前に見ていた。
「…アダム…」
 だが、これがアダムだという証は無い。ただゲンドウ達がそう呼んでいるに
過ぎないのだ。
 そしてレイがアダムに触れた。
 猛烈な勢いでもって、アダムの身体が崩壊していく。
「…これでANGELが宿る物はもう無いわ」
 レイの呟きにシンジは崩れ行く始祖の姿を見上げていた。
「崩れ去る…どうして?」
「私達の始祖は、この身体から生まれたから」
 どこか悲しそうにレイは呟く。
「これこそが、私達の源泉であり、そして帰る場所…」
「なら…」
「でも、だからこそ、ANGELが狙う最大の存在でもあるのよ」



*** ***



 突如、空を舞うANGEL達がその輝きを失い始めた。
「何…?」
 輝きを失ったANGEL達は続々と地上へと落下を始める。
 堕ちた天使達が再び起き上がる事は無かった。
 ANGELが現れてから、それはほんの数時間の事だった。
 理由は分からない。
 だが、人類が生き延びた事は確かだった。
 そして、呆然と空を見上げるアスカの前に一人の少年が現れる。
「…シンジ…?」
「もう……終わったんだ…。アスカ」
 悲しそうな目で自分を見つめる少年。それは今までアスカが知っていた少年
とはまるで違っていた。
 ゲンドウ、リツコの二人はその後見つかる事は無かった。
 冬月がNervの司令となり、シンジとアスカはそのままミサトが預かる事
となる。
 だが、碇ゲンドウ、赤木リツコ。そして綾波レイ。公式発表では三人は行方
不明とされていた。
 そして、現在。



*** ***



 アスカが入り込んだのは、何処かのビルの研究施設のようだった。清潔そう
な廊下をアスカは歩いている。
 そして一つの扉へと辿り着いた。
 アスカがその前に立つと、勝手に開く。ロックはされていなかったようだ。
 そしてアスカは部屋の中へと入って行った。
 そこは暗い部屋だった。目が暗さに慣れて行くにつれ、ようやく部屋の中が
見渡せるようになる。そして彼女は見つけた。
 巨大なシリンダーがあり、その周囲には様々な計器が接続されている。
「これって……」
 アスカの目の前には、巨大なシリンダーが鎮座していた。
 その中には何かの液体が満たされ、そして何かが浮かんでいる。
 それは、『綾波レイ』と呼ばれた少女の体だった。
 2年前の、あの時と変わらぬ成長していない体。
 閉じられた瞳には、きっとあの紅の瞳があるのだろう。
 だが。
 今彼女は何も言わずシリンダーの中に浮かんでいた。
「…見てしまったのね」
 突如背後からかけられた声に、アスカは慌てて振り返った。
 そこには、伊吹マヤの姿があった。
 どこか疲れた表情を浮かべた彼女を、アスカは睨み付ける。
「…マヤ。これはどういう事!? どうしてファーストが此処に、こんな場所
にいるの!? 死んだんじゃ無かったの!?」
 アスカの叫びに、マヤは自嘲するような笑みを浮かべた。
「死んでいるわ。それは、綾波レイと呼ばれた少女の抜け殻に過ぎない…」
「…何ですって…?」
「新陳代謝も起こっていない。いいえ、心臓すら動いていないのよ。成長して
いない体を見れば、それは分かると思うけど」
 マヤはかつて、自分が尊敬していた女性と同じような表情を浮かべていた。
「そう。それは彼女の体でしかないの。保存されているだけの物よ」
 その背後から、もう一人の姿が現れる。
「……彼女は生きていますよ。マヤさん。勝手に殺さないでください」
 それは。
「シンジ……」
「付いて来たんだね…アスカ」
 それは碇シンジだった。


 ゆっくりと近付いてくるシンジを、アスカはただ黙って見ていた。
 何も言わない。
 いや、何も言えない。
 今、彼女の目の前に居る少年は、彼女が知る少年とは違っていたからだ。
 静かな、苦しそうな瞳の少年。
 纏わせる雰囲気も、苦しみを感じさせる。
「綾波は…生きているよ…」
 ゆっくりと、優しくシリンダーに触れる。
「……シンジ君。あなたの所為じゃないのよ」
 マヤが小さく呟く。
「……いいえ。これは僕の所為ですよ」
 シンジはそう答えた。
「僕が…殺したんですから。彼女を」
 そして、そう呟いた。


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ver.-1.00 1998+01/17公開
ご意見・ご感想、誤字脱字情報は tk-ken@pop17.odn.ne.jp まで!!

どうも、皆様。お久しぶりのKeiです。
『DEATH or REBIRTH?』第2話をお送りしました。
一応、今回と次回でもって過去の話を決着付けます。
そんな訳で、また次回。

1998年1月某日 Kei


 Keiさんの『DEATH or REBIRTH?』第2話、公開です。

   

 ひさしぶり〜
 なので、ここまでの話が頭の中であやふやに(^^;

 こういうときは、前話のコメント読み直すのですが・・・

 その私のコメント全く意味不明(^^;;;
 

 何を言いたかったんでしょうね、私・・・(爆)
 

 

 はっきりしているのは、

  話を読み始めた段階では、私はこの話をLASだと思い込んでいた。
  Gに興味を持っていた。
  綾波の登場でKeiさんはLAS人だという事を思い出している。

 こんな所でしょうか−−
 

 うっ
 今回と同じだ〜(核爆)
 

 アスカがいい感じで出ていて、
 嬉しいんだけど・・・・

 最後は綾波なのね (;;)
 

 

 「殺した」ってなんなんだろう・・・

 
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 アスカ人大家を空喜びさせる(笑)Keiさんに感想メールを送りましょう!


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