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 江戸幕府12代将軍の徳川カヲルによる治世。
 しかし、実際に政治を執っているのは前将軍・徳川ゲンドウである。
 経済は高度成長期を迎え、人々の暮らしは豊かになってきていたものの、治安
の低下による犯罪率の上昇は幕府の悩みの種だった。



江戸城・清水門外

 この時代にしては珍しい眼鏡をかけた青年が慌てた様子で屋敷に駆け込む。
 縁側でくつろいでいたこの屋敷の主人・長谷川トウジも青年のあまりの慌てよ
うに思わず跳ね起きる。

「トウジ、大変だよ!暢気に寝てる場合じゃないだろ」

「なんや、ケンスケかいな。えろう騒々しいのう」

「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないよ!またねるふ小僧が出たんだ」

「ほうか。そんで?」

「トウジ!火付盗賊改方の長官がそんなことでいいのか?」

「ケンスケ、盗賊三ヶ条知っとるか?」

「知ってるぜ」

「ほな、分かっとるはずや。それにセンセが動き始めたんや」

「シンジのヤツが!?」

「そういうことや。わしらには別の仕事があるからのう」


 八百八町えう゛ぁ日記 

第壱回 出陣!北町奉行

 時に天保三年(1832)5月8日深夜。

「御用だ!御用だ!」

 民家の屋根の上を身軽に走り抜ける人影。
 真紅の忍び装束に身を包んだ小柄な体格。
 江戸っ子の間でもてはやされているねるふ小僧その人である。

「へへ〜んだ。あんたたちみたいな間抜けにこのあたしが捕まえられるとでも思
ってんのぉ」


 白馬に跨った若い男。
 その隣には白髪の初老の男。

「シンジくん、手はずは整ったよ。本当にこんな石を並べただけで捕まえられる
のかね」

「観音寺先生、すいません」

 この2人は北町奉行所の幹部である。
 若い男は榊原シンジ。
 若干にして北町奉行の職に就いた文武に長けた美青年。
 初老の男は観音寺コウゾウ。
 北町奉行所の筆頭与力でシンジの剣と学問の師でもある。

「しかし、八陣図とは・・・。いったいどこで覚えたんだね?」

「それは秘密です」





1ヶ月前

 前将軍の娘・月光院が営む質素な佇まいの庵。
 夕日の射し込む境内で幼子達と亜麻色の髪の少女が楽しそうに遊んでいる。
 子供達の髪の色から彼らが日本人でないことが一目で分かる。
 月光院は身寄りのない子、混血児を引き取り養っているのだった。

 1人の青年が階段を昇って来る。

「あっ、シンジ兄ちゃんだ」

 1人の子供が青年に抱きつく。
 他の子供達もわらわらと彼の周りに集まっていく。

「みんないい子にしてたかい?」

「「「「「うん、このお姉ちゃんがいつも遊んでくれるんだよ」」」」」

 青年は少し離れたところから、子供達を優しそうな表情で見つめる少女によう
やく気付いた。
 少女はにこやかな顔で近づいてくるが、青年の腰に差されたものに気付き険し
い表情になる。

「あたしはアスカ!あんたは?」

 いかにも不機嫌そうな声で言い放つアスカ。
 シンジはそれに気付いていないのか、飄々とそれに答える。

「僕はシンジ。いつも子供達の面倒見てくれてありがとう」

「別にあんたのためにこの子達の面倒見てるんじゃないわよ!」

「そうだね、ごめん」

「謝ればそれで終わりだと思ってるんでしょう?」

「そんなことないよ」

 それが彼と彼女の最初の出会いだった。



20日前

 月光院。
 月の光の射し込む庭園に2人の人影。
 1人はシンジ。
 もう1人は白髪に近い髪と赤い瞳−おそらくアルビノだろう−の女性。
 この庵の主である月光院である。 

「兄上、町奉行になるという話は本当?」

「レイ、でも僕がやらないといけないんだ。もう逃げちゃダメなんだ」

「そうね。逃げるだけではなにも変わらない。私みたいに・・・」

「レイ・・・」



10日前

 月光院の境内。
 アスカと子供達が遊んでいる。
 シンジが階段を昇ってくる。

「あ、シンジ!今日は早いじゃない」

 アスカはシンジの優しさと強さに触れ、急速に惹かれていった。
 シンジもまた同様。

「アスカも早いね。仕事はいいの?」

「いいのよ。それより、あたしは・・・」

 そう言ったきり、真っ赤な顔で俯いてしまう。

「お姉ちゃん、どうして顔が赤いの?」
「兄ちゃんと姉ちゃん一緒になるの?」
「お兄ちゃんはお姉ちゃんのこと好きなの?」

 矢継ぎ早に繰り出される子供達の質問に2人ともただ赤い顔で俯くことしかで
きなかった。



3日前

 躑躅の咲き誇る庭園に見目麗しい少女が1人。

「シンジのヤツ、このあたしを待たせるとはいい度胸ね。後でたっぷりお仕置き
してあげるんだから」

 汗だくで息を切らせた青年が庭園に駆け込んできた。

「お、遅れてごめん」

「シンジぃ(はぁと)。あたしも今来たとこなの。まあ座んなさいよ」

「う、うん」

 シンジはアスカの隣にいつものように腰掛ける。
 2人は幸せだった。
 彼と彼女はこの幸せが永遠に続くことを願った。



そして、現在

「おかしいわね。こんな大きな石、今まであったかしら?」

 訝しげに周りを見渡すねるふ小僧。
 いつの間にか石で組まれた陣の中に追い込まれていたのだ。

「なにこれ?あたしが追いつめられたっていうの」

 今までにない状況に恐慌状態に陥ったねるふ小僧の前にシンジとコウゾウが現
れる。

「ほう。こうも簡単だとは驚かざるをえないね」

「後は僕に任せてくれませんか」

 シンジは刀も抜かずにねるふ小僧に近づくと優しく語りかける。

「諦めておとなしく縛についてくれませんか」

「まだよ!まだ終わりじゃない」

 ねるふ小僧は小太刀を抜くとシンジに襲いかかる。
 それでもシンジは刀を抜こうとはしない。

「いける!」

 しかし、それが判断ミスであることに気付いた時は既に間合いに入っていた。

「しまった。この構えは・・・」

「ごめん。神夢想流刀殺法竜撃閃!」

 一瞬だった。

 バタリ

 ねるふ小僧が大地に倒れ伏すのとシンジが刀を鞘に収めるのは同時だった。

「ヤだな。ここまでなの。ごめんね、シン・・・」

「言ったよ。僕はおとなしくしてって・・・」



続くでござるか

ご意見・ご感想、苦情はasuka@ikari.vip.co.jpまで!!


あとがき

 拙者、藤太郎でござ〜る。
 
 やっとまともに始まったでござ〜る。
 予告編から時間かかりすぎた感がするでござ〜る。

 元ネタから離れすぎでござ〜る。
 修正きくか心配でござ〜る。

 ほなさいならでござ〜る。

独り言

 用語を簡単に解説致します。

・火付盗賊改方=盗賊を取り締まるための特別警察。荒っぽい捜査と処断を行え
       るため、町奉行以上の機動性を誇る。
・盗賊三ヶ条=真の盗賊の守るべきモラル。
      「盗まれて困るような者に手を出さない」
      「盗みの際に人を傷つけない」
      「女を手ごめにしない」
・八陣図=三国志演義の中で諸葛亮孔明が用いた究極の兵法。あの名将陸遜を手
    玉に取ったことからも、その凄さが見て取れる。


 藤太郎さんの『八百八町えう゛ぁ日記』第壱回、公開です。
 

 抹茶色の背景が良い感じの『えう゛ぁ日記』です(^^)

 アスカとシンジの出会い・引かれ合う過程などはあっさりと流し、
 いきなりのシーン!

 ネルフ小僧と北町奉行。
 取り締まられる側と、する側。

 相手をお互いに認識していない状態が、
 この先どの様な事態を生むんでしょう・・・
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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