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大ぼけエヴァ
第四話「だめ!」逃げ出したアホ
「ハアッハアッなんとか間にあった・・・」
「まだよ!シンジ、鞄を教室に置いてからまた校庭に出なきゃいけないんだから」
「あっそうか」
西暦2015年。
いままで言い忘れてたけど季節は初夏。
そして今日は月曜日。
シンジの学校では月曜日は授業の前に朝礼がある。
生徒全員校庭に集合して、校長の通り一遍のあいさつやら先生達のどうでもいい注意事項を聞かされる退屈なひとときである。
シンジとアスカは教室に入るなり自分の机に鞄をほおり投げ、校庭にUターンした。
校庭ではすでに生徒の大部分が整列を始めている。
その中に二人が入り込もうとしたとき、何者かが反対側から勢いよく走って来て列に滑り込もうとする!
パターンからいって誰なのかはすぐ判る・・・
「やぁー、おはよう!」
「あ、綾波」「レイ!」
「ねー、見て見て!やっと制服できたのよ」
見せびらかすようにくるりと一回転してポーズをとってみせるレイ。
しかし二人の視線はレイの真新しい制服ではなく彼女の持つ鞄にそそがれた。
「綾波、あの・・「レイ!鞄持ったまま集会に出る気?そんなことしたら、きつーく注意されるわよ!」
そう、鞄持ったままでは実質遅刻である。
そこらへんのチェックはけっこう厳しく行われている。
「えー、たいへん!」
あわてて教室へ向かうレイの背中に始業チャイムの音が重なる。
「わっやばい!」
レイは校舎の入り口への階段を上らず、その脇のほうへ行く。
そしてチャイムが鳴り終わる頃に戻って来た。
「レイ、鞄はどうしたの?」
「時間なかったから階段の脇の百葉箱に隠したの。やー、いい所にいいものがあるもんだねー」
「あんたって人は・・・」
「やれやれ、なんとも言えんのお。あっちのほうがよっぽど3バカやないけ」
トウジはそんな三人のすっとぼけた様子を眺めながらつぶやいた。
「鈴原、黙って!もう始まるわよ」
「へえへえ、イインチョ・・・」
いつものように平和な日常の風景・・・今の時点では・・・
トウジはこれから自分の身に降りかかる不幸など知るよしもなかったの
だ・・・・
校長先生の話は当たりさわりのない人畜無害の内容の割に長ったらしいという夏場には実に不向きな特徴を持っていた。
定年間近で顔は今だ動物王国の王様をやってるムツゴロウに似ている。
その話の長さゆえよく本人が日射病で倒れないものだと妙な感心のされかたを生徒達にされていた。
「・・・ということで皆さんも注意するように・・・・・」
マイクを通して聞こえるしわがれた声が数秒とぎれると終わりの合図である。
生徒も教師もそのつもりだった、が!
「おお、そうだ。最近生徒の服装に乱れが見受けられます。制服は正しく着るように。ジャージは体育の授業の時以外は着るべきではありません。わかりましたね。以上」
ざわざわざわ・・・・・
唐突な校長の発言に教師も生徒も一様にざわめきだした。
まさか校長がこのような能動的な発言をするとは誰も思わなかったからだ。
しかし一番驚いたのは言うまでもなくこの男!
「なんやとお!どおいうこっちゃねん!」
思わず叫んでしまうトウジに皆の視線が集まる!
しかも彼の顔ではなく、ジャージに・・・・
「な、なんや、なにをジロジロ見とるんや!」
「ジャージ」
朝礼前まではボケていたレイが一転して突っ込みにまわる。
「こら、こんなもん見せもんやないわ!おまえら見てておもろいんか!」
「鈴原、静かにして。まだ朝礼は終わってないの・・よ・・・・」
と言いながら少しづつ、うつむいていくヒカリ。
「こらイインチョ、人と話すときは相手の目ぇ見てはなせ!なんで視線が下向いてんねん!」
「ジャージ見てるから」
またもやレイが突っ込む。
「かー、ワシがなにしたゆーねん!」
そんなトウジ達の様子を知ってか知らずか校長は生徒達に背を向けて短い歩幅でゆっくりと帰っていった・・・・
全校集会が終わり授業が始まるわずかの時間の間、職員室は大騒ぎであった。
校長の発言を受けて、教頭を中心にして今後の対策が練られた。
担任の教師が受け持ちのクラスの生徒に制服、特にジャージの指導を厳しくするようにと言い渡された。
ミサトやリツコはこういった事には無頓着ではあったが・・・しかし・・・
「ミサト、あなたのクラスにトウジ君っていたでしょ、ほらいつもジャージ着てる子」
「ええ、いるわよ。それがどうしたのよ」
「よくそんなのんびりしてられるわね!彼こそまさに取り締まりのターゲットじゃないの」
「リツコ、あたしそんなのあまり興味ないのよ。好きにさせといたほうがいいじゃない」
「ふ〜ん、まあそこまで言うなら別にいいけど。ただ生徒に対する監督不行き届きで給料に響かないかと思っただけよ」
「え!ま、まさか、ね」
リツコの言葉に一瞬あせるミサト。
その背後から教頭の声が追いうちをかける。
「ミサト先生、生徒の風紀の乱れは教師の責任でもあるんですよ。そうよね、リツコ!」
「は、はい!母さん!」
直立不動状態になるリツコ。
「ということで皆さん宜しく御願いいたします。それでは仕事に戻ってください」
教頭の威圧感から逃げるようにそそくさと退散する教師達。
一時間目の授業に出向く者、授業がなく自分の机に戻る者、そしてリツコは前者、ミサトは後者の方だった。
(やばい、ナオコさんににらまれちゃった!こりゃ本気でやらなきゃ仕方ないな〜)
赤木ナオコ教頭・・・あの赤木リツコの母というだけでも恐れ多いのに、飾りみたいな校長にかわって学校を切り盛りしている実力者ときている。
彼女の機嫌は損ねるべきではない。
ミサトは自分の授業が午前中はない事を確認すると椅子から立ち上がった。
(よし、今日中にケリをつけちゃおう!そのためには準備が必要ね)
そう決意したミサトは職員室から抜け出ると愛車ルノーの待つ駐車場へと向かった。
トウジは授業中ずっと違和感を感じ続けていた。
授業自体は淡々と進むのだが常に視線を感じるのだ。
しかもかなりの数の。
そのうえ先生の自分を見る目が明らかにちがう。
(こんなもん針のムシロやんけ!早よ休み時間にならんかいな、もう!)
しかし、その休み時間になったらなったで・・・・
「ト〜ジ君、アンタどーすんの?そのジャージ」
アスカが背後からトウジのジャージの襟をつまみ上げながらニイッと笑う。
「こら、なにさらすねん!そんなことしておもろいんか!」
「おもろいんのよ。だいたいこの暑いのにそんなムサ苦しいジャージ着てよく平気でいられるもんね!真夏になったらどうすんのよ?」
<注>セカンドインパクトは起きてません。ただし温室効果による地球温暖化で平均気温は二、三度上がってます。(1997年当時比)
「やかまっしゃい!ソデまくったらしまいじゃ!」
「アスカ、もうそれくらいにしてあげて」
ヒカリが割って入った。
「鈴原・・・・」
「イインチョ・・・」
「急にこんなことになって大変だと思うけど、本来は制服を着るべきだと思うの。だめかしら・・・・?」
「いやじゃ!ワシがジャージ以外の服着てこれるわけないやろ!だいいち制服なんてもうどっかいってもうたわ」
「えー!鈴原君制服持ってないの!」
レイが仰天した。
「アスカ、制服ってその程度のものだったの?せっかく着てきたのに・・・」
「そんなわけないでしょ!アイツは特別なの!」
「ところで驚いたの私だけだったみたいだけど?」
「たしか去年の5月頃にも同じ様なこと言ってたわね、ミサトにそのままジャージで通すのかって聞かれて」
「ええ!?入学一ヵ月後で!・・・・・すさまじい・・・」
感動するレイをよそにトウジはシンジとケンスケに助けを求める。
「なあ、おまえらも思うやろ!見たいかぁ?制服着たワシを!」
「そ、そうだね。別段見たいとは・・・」
そう言いながらついシンジは詰め襟姿のトウジを想像してしまった。
なぜだか妙におかしくて吹き出しそうになる。
「ううっくっぷぷぷ」
「こ、こらなにがおかしいんじゃ〜」
「ぐえっ」
トウジがシンジにチョークスリーパーをかけたところで休憩時間終了のチャイムが流れた。
「もうええわっ」
技をほどくとむっとしながら席につく。
(鈴原・・・・)
ヒカリはトウジに声をかけたかったがとてもそんな雰囲気ではない。
険悪で気まずい空気は昼休みまで続くこととなった。
そして昼休み。
昼ご飯は弁当派とパン派に分かれる。
シンジ、アスカ、ヒカリは弁当派でヒカリは自分で作って持って来ている。
トウジ、ケンスケ、レイは校内の売店でパンを買って食べる。
ただしレイは一部自分でパンなどを持ち込んでいる。
「まったく、俺はトウジをちゃかした覚えはないぞ!」
フランスパンを食いちぎりながらケンスケが愚痴る。
ふだん一緒にパンを買いに行くのに今日はトウジの姿が見当たらず、一人で買いに行くはめになった。
「ごめん、僕が吹き出したから・・・ケンスケも一緒にされちゃったね」
「・・・別にシンジのせいじゃない。しかしどこに行ったんだトウジは」
「やっぱひジャージは目立ふからどっかにかふれへるんじゃなひ?」
中辛カレーパンと持参してきた夕張メロンゼリーを交互にパクつきながら話すレイ。
そんな会話をよそにアスカはヒカリの様子を観察していた。
なにか考え事をしているようで眼の焦点が定まってない。
アスカはヒカリにそーっと忍び寄り、彼女の背後から耳元に囁いた。
「ヒ・カ・リ・なに考えてるの?箸が止まっているわよ」
「あっアスカ、なな、なんでもないの、なんでも・・・」
「そんなに心配?鈴原のこと」
「ええっ!?」
ヒカリの顔がみるみる赤く染まってゆく。
「ヒカリも大変よね、クラス委員の立場からいったら鈴原に制服を着てもらわなきゃいけないし・・・だけど鈴原があんなに嫌がってるのにヒカリにやれるわけが・・・つらいわねえ」
ヒカリがトウジに対してどんな思いをいだいているのか知っているのはアスカだけだ。
他の者は全然知らないか、うすうす感づいている、という位。
ヒカリは振り向いて真剣なまなざしでアスカの顔を見つめる。
「アスカ、私どうしたらいいと思う?」
「やっぱひこーいふ事はミハホ先生にそーらんしてみはら?」
「きゃっレイ!いつのまに!」「あ、綾波さん!」
レイの後ろにはケンスケとシンジ。
「いつから聞いてたのよ?アンタ達!」
「ほんなに心はい?すふ原のこと辺りはら・・ゴックン(おいしかっ
た・・・)」
食べ終わって二十世紀梨ジュースを飲むレイの言葉をケンスケが引き継ぐ。
「こんなに近けりゃそりゃ聞こえるって。洞木なんか叫んでたもんな」
赤面した顔が今度は蒼白になるヒカリ。
(あ〜あ、ヒカリ、ばれちゃったわね。ご愁傷様・・・)
「アスカ、ここは綾波の言うとおりミサト先生に・・」
げしっ
(どこまで鈍感なのよ!このバカシンジは!)
ヒカリの気持ちは最低一名には気付かれなかったようであった・・・
抜けるような青空・・・雲ひとつない・・・あるのはお日様だけ・・・
「なんでやねん・・・・なんでやねん・・・・」
なんとはなしに繰り返されるトウジの突っ込みの声が空にとけてゆく。
人っこ一人いない屋上で彼は仰向けに寝っころがっていた。
傍らに置かれていたコロッケパンやたこ焼パン、三角パックのウーロン茶などには手をつけていない。
じりじりじりじりじり・・・・・
真昼の太陽と直射日光に熱っせられたコンクリートの間にはさまれてトウジの体がこげる。
黒は最も熱を吸収しやすい色だからなおさらだ。
じりじりじりじりじり・・・・・
「・・・・・う・・・うう・・・どあほ、あついわ!」
汗びっしょりでむくっと起き上がり文句をたれる。
「一人で寝っ転がることもできんのかい!」
立ち上がって自分がこげた元凶を睨む。
「ワシは何があろうとジャージは脱がんぞおおおおお」
「あそこにいたのね」
窓から屋上を見上げるアスカ。
「あれだけでかい声出したら自分はここにいますって宣伝してる様なもんじゃない!(人のこと言えないけど・・・)で、ヒカリ、どうするの?」
「どうするって・・・・」
ヒカリが思案しているところにケンスケが教室に慌ただしく走りこんできた。
「お〜い、新情報!どうやらジャージ追放に生徒会も動きだした様だぞ!」
「生徒会?なによ〜それ!全然ピンとこないわ」
ケンスケの情報は早い割に真ぴょう性が東スポ並み、つまり大げさな上にあてにならないものばかりでかなり辟易されてる。
「生徒会。ねーねー碇くん、ここの生徒会ってどんなの?生徒会長はどんな人?」
うれしそうに質問するレイに考えながら答えるシンジ。
「う〜ん、生徒会は・・・良くは知らないけどちゃんとやってると思うよ。」
「やっぱり表とか 裏とかあるの?」
「おもて?うら?」
「影から学校を支配しようと目論んでるとか」
「裏のほうが?あるわけないじゃないか」
「んじゃ先生達と手を組んで良からぬ陰謀を企んでるなんてことは」
「ないよ、そんなの」
「でもジャージのことで先生と結託するんでしょ?」
「うーむ、それを良からぬ事と言うには・・・」
「バカシンジ、ケンスケの情報を鵜呑みにしてどうすんのよ!レイもよ!アンタ、生徒会にゆがんだイメージ持ってない?」
自分の傍らで繰り広げられるすっとぼけた問答にたまらず口をはさむアスカ。
「そっかな・・・じゃあ生徒会長ってどんな人?」
懲りずに質問するレイに仕方なく答えるアスカ。
「一年の頃の同級生よ。シンジやヒカリともね」
(う、俺やトウジともいっしょなのに省略された・・・)
心の中でひがむケンスケ。
「そおなの〜、男の人?女の子?」
「女よ、ヒカリとけっこう仲良かったわ」
「それで見るからに生徒会長〜って顔してんの?」
「だからまともなこと聞きなさいって!」
「ねーねー、どうなの?どうなの?どんな顔?」
みんなの顔を見回して聞いてまわるレイ。
シンジがとりあえず返答する。
「うん、そうだね、顔は生徒会長・・・ぽいかもね、もしかしたら」
「うむむむむ・・・文科系の生徒会長のパターンに有りそうかな?」
てきとーに相槌をうつシンジとケンスケ。
「まったくレイの機嫌取りじゃないのよ、アンタ達・・・」
「あー、生徒会長だー!」
いきなりレイが大声で叫びながら指を差す!
指差した先、教室の入り口を皆が振り向くと、そこに・・・確かに生徒会長がいた!
「うそ・・・・レイ、アンタなんで生徒会長って判ったのよ!」
「だって生徒会長顔してるもん!」
「あてずっぽうね・・・・」
生徒会長はヒカリのほうに向かって歩いてくる。
長いまっすぐな黒髪、知性を感じさせる眼鏡、落ち着いた顔つき、プロポーションはきゃしゃでアスカの様に出るとこが出ているわけではないがそれが逆に知的にも見える。
「みんな、こんにちわ。やっぱりこのメンバーね、鈴原君はいないけど・・・」
彼女はヒカリを見つめながらほのかに笑みを浮かべてあいさつする。
微笑み返しながらヒカリが答える。
「なんだか久し振りって感じね、クラスが変わっただけなのに・・・」
「そう言われてみればそうかもしれないわね。ところで・・」
「やー、はじめまして、生徒会長!」
満面の笑みをたたえて両手でマユミに握手をもとめるレイ。
赤みを帯びた両の瞳が期待感で満ちあふれている。
「え?あっ・・・は、はじめまして・・・」
レイの勢いに押され、とりあえず握手に応じる。
「あ、紹介遅れたわね。この子この前転校してきた綾波レイさん」
「よろしく、生徒会長!」
「はい・・・・」
「レイ、アンタ生徒会長生徒会長ってそんな呼びかた変だと思わないの!」
「だってアスカ、生徒会長の名前まだ聞いてないよー。ねー、教えて教えて、生徒会長!」
笑顔のレイに数センチ前までせまられ、後退りしながら答える生徒会長。
「わ、わたし・・山岸マユミ・・と・・・言います・・・」
まだ昼休み。
ヒカリとマユミが向かい合って椅子にすわり、話をしている。
その周りを取り巻くように立っているシンジ達。
「だから制服の指導が生徒会にまで飛び火して・・・困ったわ」
「そんなチェックは先生がやることでしょう?おかしいわよ」
「そうなの。なんだか急な事で先生方も混乱してるみたい。それに・・・」
「それに?」
「はっきり言って体育の授業後もジャージ着てる人なんてたかが知れてるわ。結局、指導の対象になる人なんて四六時中ジャージの鈴原君くらいしかいないのよ」
「・・・・・・・」
「逆に言えば鈴原君のジャージさえなんとかすればこの騒ぎは収まると思うの」
「それじゃ!いけにえじゃない!」
つい口調がきつくなるヒカリ。
「ごめんね、ヒカリ。でも彼が露骨な校則違反なのも事実なの・・・だからヒカリにお願いしに来たの。ヒカリなら・・・・その・・・」
口ごもるマユミ。
彼女もヒカリの気持ちにはうすうす感づいていた。
「あら、どうしてヒカリでないといけないの〜?」
アスカが二人の顔を見比べながら楽しげに問いただす。
「いえ・・・だからこのクラスの・・委員長だから」
アスカの追及をごまかしながら、つい赤面してしまうマユミ。
「うん、(マユミが赤くなってどうすんのよ!)まっそういう事にしときましょ。後はヒカリしだいね」
「えっ、私しだいと言われても・・・なにをすれば・・・」
「あまいわ、生徒会長!」
いきなりレイが机を両手でバンとたたき、マユミにつめよる!
「あなた生徒会長でしょ、だったら校則を乱す不心得者をもっと徹底的に仕置きしなきゃ!口癖は『私が校則よ!』で、どんな小さな校則違反も許さず、取り締まることが最高の快感で、生徒達から恐れられているというのが生徒会長のあるべき姿じゃない!」
「は、はあ・・・・?」
レイの言ってることが全く判らないマユミ。
「生徒会長は学校の実力者なんだから、権力に物を言わせて理科室のマッドサイエンティストと手を組み、クラス委員を戦闘員に改造して襲わせるとかもがががぐう」
アスカがレイの背後からすばやく無駄のない動きでドラゴンスリーパーを掛けて口をふさいだ。
「アンタなに考えてんの、そんな生徒会長いるわけないってまだ判らないの?本っとゆがんだイメージだわ!ごめんなさい、マユミ。気にしないでね」
「うー、アウア、うういい〜!あうええ〜」
「アスカ、それくらいで許してあげたら!綾波の言う生徒会長って漫画やアニメの主人公の仇役の生徒会長じゃないかな?」
どさっ
シンジの言葉にレイをゴミをすてるかの様に離すアスカ。
「確かにそういうパターンあったわね!マユミがそんなパターンで行動したら気色悪いわよ!」
(バージョンアップしてる!一年の頃よりも・・・・惣流さん、とうとう女子にまで技を使う様になったのね・・・)
マユミが唖然としているさなか、教室の戸が勢いよく音を立てて開けられた!ガラガラガラッ
その音に皆が視線を向けると見るからに不機嫌そうな表情のトウジが教室に足を踏み入れようとしていた。
「鈴原・・・・」
ヒカリの声にも反応せず、ずんずん歩いて自分の席にどっかと座るトウジ。
近寄り難い雰囲気・・・・まるでトウジの周りに眼に見えないフィールドでもあるかのようだ。
「ヒ、ヒカリ、どうしましょう?」
「落ち着いて、マユミ。とにかく話しあわなきゃなにも進まないわ」
「だけど鈴原君とても怖そう・・・」
(おろおろする生徒会長をはげますクラス委員長・・・これじゃ逆よ、逆!仕方ないわね)
アスカは二人の尻を叩くことにした。
「二人とも!早くいきなさいよ。アタシ達もついててあげるから。さっ早く!」
顔を見合わせるヒカリとマユミ・・・覚悟を決めるしかない!
「いくわよ、マユミ」
「うん・・・」
二人はゆっくり歩き出し・・・トウジの席の前に回り・・・声をかけた。
「鈴原」「鈴原君」
トウジはギロリと二人を睨んで顔をあげた。
「なんじゃい?イインチョ、セイトカイチョまで・・・」
静かだがドスのきいた声で返答するトウジ。
「実は・・・」「その・・・」
「え〜い!要するに天下の第3新東京市立第壱中学校生徒会長の山岸マユミ様が憎っくき校則違反ジャージブラックを成敗に来たのよ!今宵の生贄はあなたよ!かかれい、戦闘員イインチョ、クォーター、ミリタリー、チェロ弾きゴーシュふげっ」
「くどい!」
眼にも止まらぬ早業でレイをストレッチプラムで締めつけるアスカ。
「ハフハ、ほへんはは〜い、ひゅるひへ」
「おまえら何しに来てん?」
「・・・・・・」
トウジの冷静な突っ込みに誰も答えられず、しばしの沈黙が流れる・・・・・ぐおおおおおキキキキィッがちゃっバタン!
「あれ?この音は・・・」
沈黙を破ったのはシンジ達には聞き慣れたあの音。
・・・・・たたたたたたたたたたたたたたた がらっ
「お・ま・た・せ・トウジく〜ん!」
「ミサト先生!」
「な、なんや!ミサトセンセ、ワシはなんも待っとれへんで〜」
ミサトは含み笑いをしながらトウジに近寄ると持っていた紙袋に手をつっこむ。
「じゃんっ」
「ああっ!」
「ふっふっふっふ、これは見ての通りの男子用制服。シャツ、ズボン、共に3着セット、わざわざ自腹を切ってトウジ君のために買って来たのよん。(値切るのに時間かかったけど・・)ということでトウジ君にはこれを着てもらうからね〜」
制服を両手で前に突き出しながら一歩一歩トウジに近づくミサト。
シンジ達はあまりの展開にあっけにとられ、ただ見ているだけ。
「いやや、ワシはジャージがええんじゃ!いまさら制服なんぞ着れるか!」
「だめよ〜、これには私の担任としての立場がかかってるんだから!なにがなんでも着てもらうわよん」
トウジの眼の前で制服のシャツを闘牛士のごとくひらひらさせるミサト。
「たのんます!一生の御願いや!」
「だめ!」
「・・・・くそ!」
トウジは椅子からバネのように飛び出しミサトの脇をすりぬけ、開けっぱなしの戸をくぐり逃げていく!
「逃げたなあ、あのアホ!」
制服を紙袋に戻しトウジを追いかけるミサト。
シンジ達はその様子をただただ見送っている・・・・・場合ではない!
「みんな、なにボケボケってしてるの!追いかけるのよ!」
アスカの言葉に我に帰ったシンジ達は慌ただしく二人の追跡を開始した。
廊下を全速力でトウジが走る!
途中ですれ違う生徒達の奇異の眼など気にする暇もなく!
その数メートル後からミサトが追う。
「トウジくーん、待ちなさい!」
「アホ言え、待ったら捕まるやないけ!」
追う者と追われる者の典型的な、つまりベタな会話を織り成す二人。
そしてミサトの後ろからシンジ、アスカ、レイの三人がまるでいつもの登校風景のごとく迫って来る。
「ミサト先生」
「あら、あなた達来てくれたの」
「ちわっ戦闘員レッドアイです」
「まだ言ってる!ミサト、お先に失礼」
アスカがミサトを抜きにかかる。
「ま、まけるもんですか!はあっはあ」
意地になってアスカに抜かされまいとするミサトだが息が荒い。
同じ遅刻ぎりぎりでも足で来るのと車で来るのの違いが今、はっきり明暗を分けようとていた。
(歳かしら・・・・いやいや、私はまだ若い!
)
29才の中学教師はプライドだけで三人に食らいついて行った。
一方、その後方十メートルにヒカリ、マユミ、そしてカメラ片手のケンスケがグループを作って走っていた。
「は、速い!あいつらなんなんだ・・このままじゃどんどん離されるだけだ」
焦るケンスケ。後の二人はしゃべる余裕すらない。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・・・」
次第にマユミが少しずつ遅れ始める。
引き離されまいと必死に追いかけているケンスケとヒカリはそのことに気付かない。
みるみるスピードが落ち、廊下に片膝を付きそうになったとき・・・
「 生〜徒〜会〜長〜〜〜 」
声がドップラー効果しながらレイが凄い勢いで引き返して来た。
「大丈夫?生徒会長!」
「はあっはあっはあっわたし・・・もう・・走れない」
「なに言ってるの、学園の歩く校則がへこたれちゃだめでしょ!生徒会長があきらめたら誰が違反者をいやらしいまでに取り締まれるの?走るのよ!」
「??・・・・だめ・・・わたし・・・体力がないの・・・」
「体力で走るんじゃないわ!校則の番人だという使命感と生徒会長のプライドで走るの!」
「綾波さん・・・わたし・・・よく判らない」
「こんなことなら助さん角さん連れてくりゃ良かったのに」
「助さん・・・??」
「副生徒会長と書記!二人を従えて現われていざ戦闘になると『副さん書記さんやりなさい』って命令して自分はなにもしないで見てるだけと・・・そーだわ、いっそ自分は作戦指令室で美少年はべらしてふんぞりかえってて戦いは副さん書記さん、戦闘員にまかせてワイン片手にモニターテレビ眺めてるってのは・・・」
レイの妄想はどんどんエスカレートしていく。
「あの・・・ワインは・・・いけないんじゃ・・中学生で」
「とにかく今は追っかけなきゃ!さあ立って」
レイはマユミを引き起こすと背中を押すようにして無理やり走らせる。
「綾波さん・・・・よく考えたら・・・廊下は走っちゃいけないんじゃ
あ・・・」
「いいの!スピード違反の車をパトカーが追うとき速度制限がないのと一緒よ。生徒会は学校の裏の警察機構なの!」
「うそ・・・・そんな・・・知らなかった・・・はあはあ」
レイにあること無いこと聞かされながら息も荒くふらふら走るマユミ。
彼女にとって不幸なことに、ここにはレイに突っ込みを入れるべきアスカの姿はなかった。
階段を半ば飛び降りるようにして一階にたどり着いたトウジは廊下を右に曲がった。
ミサト達との距離は数メートルのまま。
さらに突き当たりまで来たところで左に曲がる。
曲がってすぐのところにある便所にトウジは駆けこみ身を隠した。
トウジを追って角を曲がったミサト達はトウジの姿が見えないのに面喰らったが、3メートル先に男子更衣室へと続く通路があることを思いだし、そちらに向かって走り出す。
三人が通り過ぎるのを便所の入り口の影から息を潜めてうかがうトウジ。
(まだや・・・・)
さらに数秒後、ヒカリとケンスケが通りすぎる。
(あと二人....)
・・・・・・・・・・十秒経過
(来いひんで、どないしたんや!ミサトセンセ戻って来てまうやないけ!)
しびれを切らして便所から顔を出した途端!
ごんっ
「あいたっ!な、なんや?げげっセイトカイチョ・・・・」
トウジの眼前に仰向けにぶっ倒れたマユミが苦しげに息をしている。
「ああ生徒会長!大丈夫ですかー!?」
レイがマユミを気づかう。
「はあっはあっはあっはあっはあっ」
「うう・・苦しそう!おのれジャージブラック、恐れ多くも生徒会長をこんなめに!」
苦しそうなのはぶつかったせいでなく、走らされた為だがレイにはそんなこと関係ない。
マユミを起こしながらトウジに鋭い視線を投げかけるレイ。
「な、なんじゃい!ちゅーとる場合やない、逃げな」
トウジがふたたび今来た道をひき返そうとした時、背後から声が響いた!「みつけた〜」
その声の主は引き返して来たミサト!
後ろにはシンジ達もいる。
一瞬、振り向いたトウジにミサトが獲物を狙う猛獣のごとく宙を飛ぶ!
「うわっ」
逃げようとするトウジのジャージの尻の部分にミサトの手がとどいた。
ズルッ
つかんだジャージが一気にずり落ちた・・・パンツごと!
そして丁度トウジの真正面にはレイによって上半身を起こしたマユミがいた!
「はあっはあっ・・・・はっ!・・・・・きゃああああああああ〜〜〜〜」
マユミの絹を引き裂くような強烈な悲鳴が学校中にとどろく!
その場にいる者が皆、一瞬凍り付く中、ケンスケだけが敏速に行動した。
カメラを構え、トウジのジャージをつかんだままうつ伏せになってるミサトの後ろからトウジの股ぐら越しに悲鳴をあげるマユミを写す!
かしゃっ
(やった!俺、凄いの撮っちゃったよ!縦一列の・・・これもスリーショットと言うのかな?)
ケンスケが感動する中、ふたたび時が動きだしトウジがミサトの手を振りほどいてジャージとパンツを腰まで上げると、マユミに背を向け走り出す。
(見られてもた!なんでワシがこんな目に・・・それでも逃げなあかんのじゃあ〜)
「まて〜」
起き上がったミサトが今度はトウジのジャージの襟首をつかんだ。
トウジはとっさにファスナーを一気に下げ、チャックをはずしてジャージを脱ぎながら逃げる!
「あっこら!」
ミサトの手にジャージの上半分が残り、上半身裸のトウジがシンジ達の横をすり抜け、更衣室への通路を走ってゆく。
「えーい、服を脱いでから更衣室へ行くとは・・・待て〜!」
ジャージを投げ捨てると後を追うミサト。
そしてさらなる決定的瞬間を撮ろうとケンスケが続く。
「ア、アタシ達も・・追うわよ」
アスカの声でシンジとヒカリが走り出すが、ヒカリは一瞬立ち止まるとトウジのジャージを拾い上げ、再び走り出した。
走りながらアスカがヒカリに話しかける。
「ねえ・・・見た?」
「え?なあに」
「だから・・・・鈴原の・・・」
赤面する二人。
マユミの悲鳴にかき消されたものの、二人共かなり大きな声で悲鳴を上げていたのだ。
「私は・・・その・・・・お尻だけ・・・アスカは?」
「アタシは・・・・(言えやしない〜!)そう、お尻だけ、やっぱり」
本当はお尻の向こう側にあるモノが少し見えたけどヒカリに言える訳がない。
しかもぶら下がってる状態のを見るのは初めてだった。
そんな事を考えてるうち、いつの間にかシンジのほうに瞳を向けている自分に気付く。
(やだ、アタシいったい何を比較して・・・)
「アスカ、どうしたの?こっちばっか見て。顔赤いよ」
「ななななんでもない!なんでもないのよ、ほんとに」
慌ててごまかすアスカの頭の中である言葉が渦を巻いていた・・・・・
『しかたないだろ、朝なんだから!』
マユミは相変わらず男子便所の前で座り込んだままであった。
「うっうえっひっく、うう・・・ぐすっ」
あんなものをもろに見たショックがあまりに深く、悲鳴を上げた後もずっとむせび泣いていたのだ。
すっかり忘れ去られた状態のマユミにただ一人レイが寄り添っている。
「負けないで、生徒会長!」
「ひっくひっく、すん、ぐふっ・・・・」
「ここで生徒会長が負けたら学校の風紀はどうなるの!ジャージブラックにあんなウェポンがあったなんて予想外だったけど・・・・・」
レイ自身はそれほどウェポンのダメージを受けてない。
図太さの差もあるが、真正面、距離30cm、ちょうど目の高さと3拍子そろった状態で見てしまったマユミとは条件も違うのだろう。
「生徒会長がやらねば誰がやるの!」
「ぐすん・・・・・・いや・・・」
「どんなことがあっても最後まで使命を遂行するのが生徒会長よ!」
「うっうう・・・・・・・・やめる・・・」
「えっ?なんですか生徒会長」
「あたし生徒会長やめるう〜〜!」
突然引退宣言を叫び出すマユミにびっくりするレイ。
「な、なに言ってるの、あなた以外に生徒会長は勤まらないわ!あなたは選ばれし者なのよ」
「いや、いや!ぐすっ・・やめる・・・わたし・・・むいてない・・・」
「そんなことないわ!顔から言っても生徒会長顔してるし全体的な見栄えもいかにも生徒会長〜って感じするもん」
レイの勝手な思い込みがまたしてもマユミの心に容赦無く襲いかかる。
「うう・・・そんな・・・顔で決めないで・・・・ひっく・・・そう言え
ば・・・わたし・・・推薦候補だった・・・・みんな・・顔で・・・わたしを推薦・・・くふっ・・票を入れたの・・・・・?・・・くすっくすくす・・・ふふふふ」
「生徒会長?」
涙で頬を濡らしたまま笑い始めたマユミ。
遂に精神汚染が始まってしまった。
「くすっくす・・・わたしって・・なあに?・・・・うふふふふ」
「生徒会長・・・・そう、そうですね、笑うが一番!てへへへへへへへ」
「ふふふふふふ・・・わからない・・・」
二つの笑い声が溶け合い校内にこだまする。
「きゃははははは」「くくくくく??」
なんとマユミと一緒に笑い始めたレイ・・・そんなことをしてる場合か?
いったい誰のせいでマユミがこうなったのか自覚してるのだろうか?
更衣室にとびこむやトウジはドアの右側の壁に設置してあるロッカーを引きずり、ドアをふさいだ。
「これで少しは時間稼げるな・・・」
ドアの反対側の窓に目を移す。
アルミサッシの窓で日の光が室内に大量に流れ込んでいる。
ドンッ
ドアの向こうで音がした。
「急がな!」
トウジはあわてて窓に走りより、ロックを外し、がらりと開く。
「よっしゃ、いくで!」
「ち、バリケードか」
ミサトはドアの反動からくる感触で向こう側にどれ程の障壁があるのか認識した。
「よし、いける!」
右手でドアノブを持って開の状態にしておき、そのままジャンプする!
ドンッがしゃああんっ
かしゃっ
見事なその場跳びドロップキックでバリケードを突破するミサト。
もちろん、かしゃっはケンスケのカメラ。
どどどどどっと室内に突入したミサトの髪が生暖かい風でゆらりとそよぐ。
風の出所を見ると、ここから逃げたと言わんばかりに開け放たれた窓。
「あそこか!」
二歩でたどり着き三歩目で跳躍し、窓をくぐり抜けどんっと着地してあたりを見回す。
ミサトのいる場所は裏庭である。
視界には花壇・・・菜園・・・ビニールハウス・・・桑畑・・・人の隠れる様な場所はない。
「校庭かあ!」
そのまま校庭へとダッシュするミサト!
一方、更衣室の窓からはシンジ達がちょろちょろと出てくると、そのまましゃがみ込んだ。
そのころ更衣室の中では・・・・・・
がちゃっ
ドアの左側のロッカーが開き、トウジが姿を現わす。
「ふう〜、やっとこさ逃げきれたわ」
かしゃっ
「なななんじゃ!」
「初歩的な手口だな〜、すぐ気付くよそりゃ。ミサト先生よく引っかかったもんだな」
窓からカメラ片手に立ってるケンスケ、他の三人も立ちあがり姿を見せた。
「安心しろよ、俺達は単なるヤジ馬だ。お前さんを捕まえる気はないよ」
「そうか、すまんのう〜」
とりあえず、安堵するトウジ。
「鈴原・・・・・・」
三人の後ろに隠れる様に立っていたヒカリが一歩前に進み出る。
「これ・・・」
「イインチョ!それは・・・」
ヒカリの両手に綺麗に折りたたんだトウジのジャージがのせられている。
そのジャージに引かれるように歩を進め、窓をまたいで外に出るトウジ。
見つめ合うトウジとジャージ、いやトウジとヒカリ。
トウジが上半身裸のため、ヒカリは外しそうになる視線を必死にこらえて目を合わし続ける。
「鈴原、聞いて・・・校則に照らし合わせて見れば、ジャージは違反だと思う・・・・」
持っているジャージに目を落とすヒカリ・・・そして大きく息を吸って再びトウジを見る!
「だけど!こんな力づくで解決しようとするの間違ってると思うの!・・・だから・・・」
そう言いながら、たたんだジャージを広げ、トウジの背中に回る。
「な、なんやいな?」
「はい、手ー伸ばして!」
トウジの腕に袖を通し始めるヒカリ。
「ち、ちょう待ってえや、そんなん自分で出来るがな!」
「いいの、いいの。はい、次は左手ー」
うろたえるトウジに構わずヒカリはジャージをてきぱきと着せてゆく。
「イ、イインチョ!・・・・・・すまん、おおきに・・・」
かしゃっ
(う〜ん、今度のは今いちインパクトが弱いなあ。・・・そーだ、脱がせてる瞬間だと言ったら売れるかもな?)
いい感じになってきた二人の光景を写して、ろくでもない事を考えるケンスケ。
(ふーん、そうくるかヒカリ。上出来なほう・・かな?ふふっ)
やさしげな笑みを浮かべてヒカリを見守るアスカにシンジが話しかける。
「アスカ、あの二人、なんだかいい雰囲気じゃないの?」
「今頃判ったの?ほんっと鈍感なんだから!少しは敏感におなりなさいよ、敏感に!もっとも鈴原もアンタに負けない位、鈍感だからヒカリも大変よね」
「ふ〜ん、そうなの。」
「人事みたいに・・・トウジより自分の鈍感さ加減をなんとかする気ないの?」
「うう、僕は鈍感か・・・・じゃあ、もし敏感になれたなら・・」
「なれたなら?」
アスカが眼で答を促す。
「うーん・・と・・・その・・・・・早起き出来るようになるかな?」
ぼこっ
アスカの脳天唐竹割りがシンジに落とされた。
「おーい、ありゃりゃ、なんでヒカリが鈴原君にジャージを着せてるの?」
いつの間にかレイが窓から顔を出してこちらを覗き込んでいる。
しかも背中にマユミを背負って・・・・
「レイ!どうしたのよ、マユミ!」
マユミはなにやら独り言をぶつぶつつぶやいている。
「普通の・・・・女の子に・・・くくく・・・戻りたい・・・・・ほほほほ・・」
「鈴原君のおちんちん見てから何故かこうなっちゃったの・・・」
それに追い打ちをかけたのは誰だというのだ。
「おちん・・・ってあのとき!」
「ああ・・・結局生徒会長はやられ役だったのね・・・」
ため息ついてレイはトウジとヒカリを眺める。
ジャージを着せ終わった後、なんとなく間がもたなくなった感じの二人。
「おのれ、ジャージブラック、またしても・・・だがこの次こそ必ず・・・」
レイのおんぶしてるマユミを巻き込まないようにアスカのフロントネックロックがレイに極まる。
「レイ、アンタ・・・マユミになにをしたの!?」
「ふふふ・ふろんと・・・ねっく・・・・ろっく・・わたし・・・なんか・・ううううふ」
「マユミ・・・・・・あなたいったい・・」
「ギャグガ、ぎゃんげごぎーがら、はぎゃしげぐらぎゃい」
アスカがレイを極めたままマユミに話しかけようとしたとき・・・
だだだだだだだっざざざっはあっはあっはあっ
「ふっふっふっふっ今度こそ逃がさないわよ〜はあっはあっ」
すっかり忘れさられてたミサトが肩で大きく息をしながら仁王立ちしている。
「おかげで校庭一周してしまったわ!観念なさ〜い」
じわじわと迫ってくるミサトに対して身構えるトウジ。
「ワシはもう逃げへんぞ〜!隙があったらかかってこんかい!」
「鈴原、やめて!」
「止めんでくれ、イインチョ!もうこうなったら・・・・必死のパッチじゃあ!!!」
皆が見守る中ミサトがトウジに跳びかかろうとした、まさにその瞬間!
「皆さんどうしました?」
どこかで聞いたしわがれた声・・・・その場にいた全員が<注・マユミを除く>声のしたほうを振り返る!
そこには・・・ジョウロを片手に持った校長先生が立っていた。
「こ、校長!いったい何時からそこにおられたのですか?」
狼狽しながら尋ねるミサト。
「さっきからずっと花壇に水をやっていました」
今まで誰も気付かなかった。
朝礼の時以外、存在感がまるでないと言われている校長だからこその出来事といえる。
「校長、じ、実はジャージをずっと着たままの生徒の指導をしていたところです」
「どうして?」
「どうしてって今朝校長が朝礼でジャージを着たままはいけないとおっしゃったじゃないですか!」
「・・・・・・・・・・そんなこと言ったっけ?」
ばたばたばたばたばたっ
皆はもはや吉本新喜劇のようにぶっ倒れるしかすべを持たなかった・・・・・・・
次の日校長は退職届を出した。
理由は老人性痴呆症、つまりボケである。
本人の自覚のあるうちにということで年度末を待たずに校長は学校を去っていった。
三月いっぱいは教頭が校長の代理を兼ねることになった。
ジャージ事件のあまりのアホらしい結末に教頭はジャージ取り締まりを続ける気は失せていた。
いつの間にか教師達の間でジャージを取り締まると校長の首が跳ぶという無責任な噂が広まった。
マユミは三日間学校を休んだのち、生徒会長を辞めたいと申し出たが、却下され今も生徒会長を続けさせられている。
しかし一見以前と変わらない彼女に少し変化が起きていた。
時々よくわからない独り言をぶつぶつつぶやく様になったのだ。
ケンスケのトウジの股ぐら越しに写したマユミの写真は露出狂に襲われる生徒会長というタイトルでかなりの値で取り引きされた。
ただし股間の部分にモザイクを入れて・・・・・
ジャージ騒動の次の日の昼休み。
「鈴原、ちょっと・・・」
「なんや、イインチョ?」
「その・・・そのパンおいしい?」
「お〜うまいわ、このタコ焼パンほんまにタコ入っとおるがな。なんや欲しいんか?」
「い、いえそうじゃなくて毎日パンばっかりで飽きはしないかと思って・・」
「そんなことないで、けっこう品揃え豊富やで、ここの購買は」
「そう・・・・あ、御飯なんかは食べたくはないの?」
「おー、ちゃんと食うとるわ、朝と晩に」
「そう・・・・お昼は?」
「やからパン食うとるねん」
(もー、全然進展しないじゃない!)
アスカはヒカリとトウジのやりとりを横目に苛立ちを隠せなかった。
(鈴原のお弁当を作ってあげたいんでしょうが!だったらもっと積極的に話せないの?トウジもトウジでなんで判らないのよ!)
「アスカ、なんだかカッカしてるみたいだね。どうしたの?」
シンジがアスカに実に間の悪いタイミングで話しかけた。
「なによ!アタシがカッカしてるですって?どこがよっ」
「僕にはそう見えたよ。僕も少しは敏感になろうと思って周りの様子に神経を・・」
ごんっ
アスカのダブルチョップがシンジの脳天に振り落とされた。
(だったらヒカリのほうに気付きなさいよ!やっぱり鈍感じゃない!もう、アタシしか観てないの?)
「あの・・・いやなら答えなくていいけど・・・・鈴原はどうしてジャージにこだわるの?」
「・・・それはな、じゃりんこチエのテツの腹巻きと同じで体が馴れてしもていまさら離れられんようになってもうたんじゃ」
「そ、そうだったのー(じゃりんこチエ?テツ?何それ、わからないわ!)わかったわ・・・」
アスカがシンジを仕置きしてる間に、話がお弁当とは全然関係ない方向に変わってる。
(ああ〜もう知らない、やってられますかって!)
かくして生徒会長の陰謀はジャーブラックによって打ち砕かれた。
しかし生徒会は、いつまた邪悪な闇で学校を覆い尽くすともかぎらないのだ。
生徒会あるかぎり彼の戦いに終わりはない。
戦えトウジ、戦えジャージブラック!
「勝手にナレーションつけるな〜!」
アスカはシンジにすら使ったことのないナイマン蹴りをレイの肩口に見舞った!ばしゅっ
「きゃ〜、蹴りが変則的でよけられない〜」
感想を述べながら吹っ飛ぶレイ。
ケンスケはそれらの見慣れた風景をウッシッシコーヒーを飲みながらつぶやく。
「平和だね・・・・」
第四話完
次回予告
西暦2015年の日本のお笑い界は吉本がまだ牛耳っているのか?
宮川大助花子の夫婦漫才は健在か?
ボケシンジと突っ込みアスカのどつき漫才の完成度は?
トウジのボケに対するヒカリの突っ込みの弱点とは?
お笑い研究家野口さん、もとい綾波レイの感性が冴え渡る!
次回大ぼけエヴァ
レイ、心のつっこみ
ぼけ合うところに私が突っ込む・・・・・
え〜、今回は色々と学校の役職が出たのでそれにエヴァキャラを当てはめる作業を行いました。
校長は、あまり深く考えてないし、教頭はその場の思いつき。
マユミは顔が生徒会長らしいかなと思って決めました。
ゲームはまったくやってないので本当に顔だけです。
しかし誰が見てもそうとはかぎらないのでレイの勝手な思い込みということにしました。
そのレイですが26話を見た感じでは、林原キャラでは声的にはリナ・インバースが一番近いと思ってたのですが次第にちびまるこちゃんの野口さんが混じり、おもしろい事に異常に興味をしめすよくわからないものになってきました。
この先どうなるやら・・・・
次回は前後編です。
えいりさんの『大ぼけエヴァ』第四話、公開です。
ジャージマン、トウジ。
彼のアイデンディテーは・・・黒いジャージ(^^;
校長の何気ない一言から始まった事件。
真面目に、
自分をかけて、
必死に行動していたのは、
トウジだけ!?
かなり気合いを入れていたレイちゃんは
正に”面白い”だけなのね・・(^^)
”ボケ”の勢力が強く、
”ツッコミ”が弱いこの世界・・
第2第3のマユミは間違いなく生まれるでしょう(爆)
さあ、訪問者の皆さん。
ぶっ飛ばすえいりさんに感想メールを送りましょう!
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