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サァァァァァァァァァ

 

 

 

 

 

 湯気が立ちこめる白い世界・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『三機・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サァァァァァァァァァ

 

 

 

 

 

 水滴の一つ一つが、その白い肌にあたり踊るようにはじける・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

サァァァァァァァァァ

 

 

 

 

 

 『・・これで・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サァァァァァァァァァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BREAK−EVA

 

 

パタン

 『・・・そうよ、あと三機で・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真紅のバスタオルに身を包み、薄暗い世界に飛び込むと、その後ろでドアが閉まる・・・そう、ここは、彼女自身の部屋、そして彼女はベットに横たわる・・・白いシーツに映える茜色の髪の色、西洋の血が流れていることを証明するような白い肌、美の神に愛されたとしか言い様のない顔立ち―――――惣流・アスカ・ラングレー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『・・・千機撃墜の目標は達成できる・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして彼女は、その蒼い瞳を傍らにある写真立てに向けた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『・・・・何が代償になったとしても・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一枚の写真に写るのは、自分・・・・そして・・・一人の男性・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・今更後悔なんて・・・しないわ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見つめたまま自嘲気味に呟く・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『・・そう・・・”ベンケイ”が千機破壊したとき・・・私たちの復讐は・・・・終わる・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞳に映るのは・・・一つの決心・・・そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・パパ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・復讐という名の・・・・・・・・狂気・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第六話    Revenge

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少年が、ガ−ドレールに腰を下ろし、時が経つのを待っている。その懐には昨日2時間以上もの時間を掛けて選んだ小さな紙袋が入っている。

 『アスカ喜んでくれるかな・・・』

 思いに顔をほころばせながら、アスカと呼ばれる少女を待つ少年―――――碇シンジ、そしてここは、彼女の通う第三新東京市立新屋敷女学院の校門前である。

 「ねぇ、これから・・・・」

 「そうねぇ・・・」

 「あ、あれ国府高専の制服じゃない・・・」 

 「きっと誰か待ってるのよ・・・」

 『・・・やっぱ、女子校の前で一人で待つのは・・・・アスカ、早く出てきてくんないかな〜・・・』

 時間が来て、帰宅する学生がちらほら目の前を通り過ぎる度に、こちらを見て何か小声で話している。その度に顔を紅葉させ、俯いて同じ事を考える。

 「ハーイ!まったぁ」

 「アス!?・・・・」

 頭の上に投げかけられた声に反応し、素早く顔を上げ待ち人の名を呼ぼうとしたが・・・・・

 「なぁに、彼氏一人なの?あたしと遊びに行かない?」

 「はっ?・・・い、いや、その・・・・」

 てっきりアスカだと思っていたシンジは、この目の前に現れた茶色の髪の毛をポニーテールにして、新屋敷の制服を着た少女にまともに返事を返せない。

 「照れちゃって可愛い(はぁと)ねぇ、行きましょうよ!」

 「い、いや、でも、僕人を待ってるから・・・」

 「だって、来ないじゃない!ねぇったら!!」

 「ちょっと・・・その、困るよ・・」

 何とか断ろうとするシンジだったが、その少女は彼の腕を両手で掴むと強引に連れていこうとする。それに必死で抵抗しその腕を振り解こうとしたとき・・・

 「あれー!?碇君じゃない!・・・一人でアスカをお迎え?珍しいわね・・・って、何やってんの?」

 「あ、アスカ!に洞木さん・・・・あのー離してくれない・・」

 「・・・ちぇ、つまんないのー・・・じゃあ、まったねー!」

 ヒカリの声に反応しつつ、横目で腕を掴んでいる少女に話しかけた。その少女は、アスカ達の方を一目見ると一言しゃべった後、手を振りながら去っていった。

 「あ、そっか!今日は・・・・じゃあ、アスカ!私、今日店手伝うことになってるから先帰るね!!」

 「ちょ、ちょっと!ヒカリ!!」

 アスカの呼びかけも聞こえないようにして走り去るヒカリ、それを見ていたシンジが後ろから不安げな声を上げる

 「アスカ・・あの・・さっきのは・・・・」

 「・・・・・・・」

 「・・・あ、アスカ?」

 「ふぅ・・・・ま、いいわ、あたしもあんたに話したいことあったから・・・」

 「えっ?」

 アスカは、軽く一息つくと振り返り、真剣な表情で言った。それから二人は、終始無言で近くの公園に歩いてきていた。

 『話って何だろ・・・さっきの事かな?・・・』

 「・・・・”ベンケイ”の撃墜ポイントの残数が昨日で三機になったわ・・・・」

 公園の中央にある噴水の前に来たとき、前を向いたまま後ろにいるシンジに話しかけた。

 「三機!?それじゃあ、今日中にも目標達成だね!・・・じゃあ、お祝いしなくっちゃ!!」

 「・・・・・・・・」

 シンジの返事に無言で答えるアスカ、彼は、若干の異変を感じたものの先程までの目的を伝えようとする。

 「実は今日アスカの誕生日でしょ、だから、みんな僕の家で準備して待ってるんだ・・・それで誘いに来たんだけど・・・うん、それはバトルが終わってからにしよう!!」

 「・・・・いけないわ・・・」

 「えっ!?・・・・何か用事でもあるの?」

 「・・・・・・・・」

 「・・・・ならしょうがないよね・・」

 そこまで言うと、シンジは残念そうに空を見上げる。そして、再び視線を戻すと、懐から紙袋を取り出しアスカの前に回りこみ笑顔でそれを差し出す。

 「じゃあ、これ!!誕生日プレゼント、ほんとは後で渡そうと思ってたんだけど・・・」

 「・・・・・・プレゼントなんて受け取る理由がないわ・・・」

 彼女は、それを受け取ろうともせずにただ真剣にシンジを見つめ返事を返した。予想しない言葉に戸惑いながらも、言葉を続ける。

 「・・あ、で、でも・・・・そんな高いもんじゃないし・・・気軽に受け取って・・」

 「値段の問題じゃないわ・・・・」

 静かに、それでいて強い口調でシンジの話を遮る・・・

 「・・・アスカ・・・・どうしたの?・・・今日なんか変だよ・・・」

 「・・・・単刀直入に言うわ・・・もう、あんたとはおつき合いできない・・」

 「!?・・・な、なんで・・・さっきのことなら・・・・・」

 「他に好きな人がいるの・・・・」

 その一言がシンジの心に突き刺さる。

 「今まで、思わせぶりな事もしてきたけど・・・あたし・・・いつもあんたが近くにいるから彼の代わりに甘えてたのよ・・・」

 「・・・・・・・・」

 そこまで言うと、眼を閉じ、頭を垂れる。

 「・・・・ごめん・・・こんな事であんたの気が済むとは思ってないわ・・・」

 「・・・アスカ・・・その人って”ベンケイ”を造った人?」

 彼女のその言葉を黙って聞いていたシンジに、名前を呼ばれ、一瞬体をこわばらせるがゆっくりと顔を上げた。そんなアスカに彼は微笑む、そして・・・

 「今日逢えるんだね」

 「・・・・冷静なのね・・・殴るなり蹴るなり好きにして良いわよ・・・」

 「そんなことはしないよ・・それじゃあ、これは彼との再会のお祝い・・」

 手に持った紙袋を彼女に手渡した。

 「・・・さよなら・・・」

 その一言を残すと振り返りその場を立ち去る。後に残された少女は思う・・・

 『・・・・なぜ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『・・・どうして・・』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『・・・自分で望んだことなのに・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『・・・私は泣いてるの?・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『・・・・・もう二度と泣かないと決めたのに・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女の思い・・・それは・・・ただ一点を見つめ歩き去る彼には・・・届かない・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 1時間後 碇家

 

 「なに〜フラられた〜〜!何でそこでくいさがらんのよ!!だから根性無しって言われるんだぜ!?」

 「どうして!?そこんとこをズバリお願いします!!」

 「・・・・・・・」

 パーティーに備え準備をしていた彼等は、沈んだ表情で入ってくるなり部屋の隅に行き、膝を抱えこんでしまったシンジに事情を聞いた。俯いたまま答えを渋っていたが、ぽつり、ぽつりとことのいきさつを話すと、クラスメイトであり、無理矢理このパーティに参加した二人が大声で捲し立てた

 「まぁまぁ、言うてやるなや桂太郎・・・・水野もマイクは置いとけや・・・」

 トウジは、放送部の意地なのかはたまた性なのか、片手に何処からか取り出したマイクを握りしめている水野に半ば呆れながら二人をなだめに入った。どうにか静かになった後、沈んでいるシンジの肩に手を置き話し始める。

 「・・・・ま、あんま気を落とすなや・・・・そや!!暖かくなったらみんなでツーリングにでもいこか!!」

 「・・・・・・・・」

 そう彼等は、今年の春に何となく便利と言うことで、自動二輪の免許を取り二人共バイクを手に入れたのであった。そして、トウジに至っては何度かヒカリと共にツーリングに言っていたようである。しかし、そんなトウジの問いかけにもシンジはただ黙って壁を見つめていた。とそこに、携帯の音が鳴り渡る。

ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピ・・・ピ!

 「もしもし・・・」

 【もしもし鈴原!・・ねぇそこに碇君いない!?】

 「何や、ヒカリか・・どないしたんやそんなに慌てて・・」

 【それより碇君いないの?いたら急いで変わって!!】

 「・・・なんだかしらんが、センセやったらいま落ち込んでるんや・・・そっとしときや・・・」 【えっ!】

 「・・・・どうも惣流の奴に振られたみたいなんや・・・・」

 【う、嘘!・・・と、とにかく碇君に変わってお願い!!】

 電話の向こうで慌てている声にしぶしぶながらシンジ携帯を手渡す。彼は、それを無言で受け取ると、重い口を開いた。

 「・・・・・もしもし・・・碇です・・」

 【あっ!碇君!!】

 「・・・洞木さん・・・・なに?」

 【あ、あの・・・そ、そう!アスカが!!】

 「・・・ごめん・・・その・・アスカには・・・」

 【話は聞いたわ・・・でも!でも、アスカ泣いてるのよ・・・・・】

 「えっ!?」

 『アスカが泣いてる?どうして・・・』

 【・・・・今日、店に来てからずっと・・・・声を押し殺して・・・・だから私・・・】

 「・・・・・・・・」

 【・・・・碇君?】

 「・・・・わかったすぐにそっちに行くよ」

 言うが早いか、トウジに携帯を渡すと、片手にメットを取り急いで部屋を出ていく、そのままシンジはガレージに向かうと、その中から紫とイタリアンレッドにカラーリングされている250ccのバイク・・・アプリリア250RSを取り出す。これは、シンジが免許を取ったさいに、中古で手に入れたもので、出た当時は国内の自主規制である45馬力を大きく上回り、70馬力という国内400cc以上の馬力(国内自主規制の為)を誇ったもので、しかも、このカラーは初期型のみで姿を消してしまっているものである。キーを軽く回し、キックすること数回、その心臓は2ストローク特有の軽い音と共に息を吹き返す。最近あまり乗らなくなったそれにヘルメットを被りまたがると、かん高い爆音と共に新屋敷に向かい走り出した。

 「いってもうた・・・・・」

 シンジの突然の行動に呆気にとられながら、窓から身を乗り出し呟くトウジ、その後ろには、先程の会話を聞きつけた二人が目を光らせている。

 「・・・トウジ、ヒカリって誰?」

 「ズバリ聞きます!その人との関係は!!!」

 鈴原トウジ・・・マイクをつきつけられ、顔中に脂汗を流した彼は、自分の失言に心底後悔した・・・・教訓:後悔役立たず(笑)

 

 

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カチャッ・・

 「・・・・ヒカリ・・・エントリーお願い・・」

 「・・・アスカ・・大丈夫なの?」

 電話を切ったと同時に、カウンターにやってきたアスカの赤く腫らした目元を見て心配そうに訊ねた。

 「な、なに・・別になんでもないわ・・・」

 「嘘・・・それに碇く・・」

 「やめて!!・・・シンジは・・・・べ、別に最初から遊びだったのよ・・・そうよ別に・・」

 「アスカ・・・・」

 自分に言い聞かせるように話すアスカ・・・ヒカリはカウンターに出されたIDカードを機械に通しながらそんな彼女の顔を見る。その顔にはどことなく思い詰めたような表情が浮かんでいた。

 『・・・碇君急いで・・』

 ヒカリの思いもむなしく時は過ぎ、アナウンスの声が場内に流れる。

 「”デンジャープラネットV”第2バトルロイヤルを行います」

 コクピットには入り、ヘルメットを被るとフィールド説明が始まり、正面のモニターに映るゲートが開く、それを見つめる瞳には、決意そして・・・・・・

ピピピッ・・・・・ドン・・ドン・・・ボンッ・・グワアァン

 レーダーに、二機の機影が映ると同時に、両手の主砲を発射する。一発は一機の片腕に着弾し肩から吹き飛ばした。そして、もう一発は、そのタッグパートナーと思われるもう一つの機体胸部に直撃し、開始20秒でそのパイロットをゲームオーバーへと追いやった。

 『・・一機』

 片腕になった機体は、パートナーの敵を討つべく、速射砲を撃ち、果敢にもその距離を詰める。

 「このっ!」

ドシュッ・・・・ドシュッ・・・ドシュッ・・・  

 しかし、”ベンケイ”はその攻撃をものともしないで、こちらに向かってくる機体に体当たりを仕掛けた。

 「うわ!!」

 相手の機体は、身をよじるようにして辛うじてその体当たりをかわす・・・

 「あまい!!」

 が、”ベンケイ”は左腕を水平になぎ払い相手の動きを止め、その勢いのまま旋回しねらいをつけ右腕の主砲を撃つ。

 『・・・これで二機』

ドンッ・・・グワアァァン・・・ピピッ

 正面モニターが爆煙に包まれているとき、レーダーに新たな機影が映る。

 『・・・これで・・ラストね・・』

 やがて爆煙がはれ、その中から姿を現したEVAは・・・・・

 

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数分前

 

パァーン・・パンパン・・パァァァーーー

 かん高いエギゾーストと、甘い香りを残しながら、町中を駆け抜ける一台のバイク・・・

 「バッキャロー!!」

 「あぶねえなぁ・・」

 非難や怒号をものともしないで車と車の間をすり抜けていく、しかもその速度は制限速度を遙かに超えている。

 『アスカ・・』

 目の前の信号が青から黄色に、そのバイクに乗った彼は右手にあるレバーを引く・・・事はなく、手首を返しさらにアクセルを開けた。狂おしいほどに加速するバイク、まるで乗り手の気持ちを代弁するかのようにうなるエンジン、しばらくしてそれも終わりの時をむかえる。

パァーン・・パンパパァーン・・キィー・・カタンッ

 彼―――シンジは、バイクを停めヘルメットを見ると軽く腕時計を見た後店に駆け込んだ。ちなみに時間は、本来この距離では信じられないほどにみじかいものであった。

 「はぁ、はぁ・・・ほ、洞木さん・・・・あ、アスカは?」

 「あっ碇君!!・・・アスカは今始まったバトルに参加してるわ!」

 そう言ってモニターに視線を向けるヒカリ、その中には、今まさにゲートから姿を現そうとしている”ベンケイ”が映っていた。それを見たシンジは、カウンターに自分のIDカードとプリペイドカードを置いた。

 「がんばってね!碇君」

 シンジは黙って頷くと筐体に向かって走って行くと、そのシートに腰を下ろした。

 「ヘルメット、シートベルトを着用して下さい・・・着用無き場合は全ての操縦システムは作動しません・・・・」

 いつものアナウンスのあと、正面モニタ−に映ったゲートが開いた。

 『・・・ここは・・”ベンケイ”と”九朗”が初めて戦った星だ・・・』 

 スピーカーから流れる合成音声が、思い出のフィールド名を紡ぎだしたとき、目の前に広がる光景の遥か向こうで戦闘をしている機体をレーダーが捉える。とりあえずシンジはその方向に機体を操った。そして、彼は爆煙のむこうに目的の機体を見つけ立ち止まった・・・・・

 

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 爆煙の中から浮かび上がる紫にカラーリングされた軽装なEVA・・・”九朗”

 「!?な、なんで!!・・・」

 『・・・・・何であんたがここにいるのよ!・・もう・・・関わらないでほしかったのに・・・』 「アスカ・・・約束だよね・・・”九朗”を倒すまでは僕につきあってくれるって・・・倒して・・こいつが千機目だよ・・・」

 「・・・・・・・・・」

 スピーカーを通して聞こえる穏やかな声に俯いたまま沈黙で答えるアスカ・・・彼女はやや顔を上げるとトリガーに掛けた指を引いた。

ドンッ!ドンッ!・・・・・ドガラァァァン・・

 その”九朗”に向けて両腕から放たれた主砲は、その両脇をかすめるように抜けると、背後にいた機体の中心部に当たりそれを破壊した。

 「!?・・後ろにもう一機いたのか・・・・でも!どうして!!」

 「・・・・おわりよ・・・・・・・あたしはもう・・・・・戦わない・・・・・」

 「ど、どういうこ!?・・」

ヴァン・・・

 消え去るような声で話すアスカに訳を訊ねようとしたその時、正面モニターに映し出されている”ベンケイ”が突然にその形を崩す・・・そしてそれは周りの空間も巻き込み、ついには”九朗”も飲み込んだところで画面がブラックアウトすると、その直後一人の男性の顔が一瞬だけ表示され筐体全ての電源が停止した。

 「マ、マスターシステムが!?・・・そんなことって・・・」

 愕然とするシンジに対して、焦点の定まらない蒼い瞳のまま力無く微笑むアスカ・・・そんな彼女の唇が一つの言葉を呟いた・・・

 「・・・・・パパ・・」

 

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 しばらくして、ハングアップした筐体の中からシンジとアスカが出てくると、二人共店舗奥の事務室に連れて行かれた。その間彼は俯いたままの彼女に何度か声を掛けようとしたが、その度にその声を胸の奥に飲み込んでいた。

バンッ!

 その後沈黙が続いた部屋のドアがやや乱暴に開くと、そこから三人の男が姿を現した。一人はゼーレ社日本支社長であるキール・ローレンツ、そしてその脇に白髪の穏やかな雰囲気を身にまとった同社統括事業部部長でもある冬月コウゾウ、二人に続いた後ろにはシンジの父であり、ゲルヒン社の代表取締役でもある碇ゲンドウその人であった。

 「どう言うことなんだ!!これは!」

 「・・・・・・・・」

 部屋に入るなりわめき散らすよう怒鳴りながらにアスカに詰め寄った。そのままローレンツは頭越しに非難し続けるが、彼女は俯いたまま何の反応も示さない。

 「・・この!!」

 その態度に苛立ちを覚えたローレンツは、彼女の顎を持ち上げると、その顔には嘲笑が浮かんでいた。

 「っっっこ、この、小娘が!!」

 その表情がかんにさわったのか右手を高々と振り上げる。が、しかしその腕が振り下ろされることは無かった。それは、いつにない厳しい目で睨みながら、側にいたシンジが咄嗟にその腕を掴んでいたからである。

 「・・・あなたは女性に手をあげるほどくだらない男ではないでしょう・・・?」

 「ふんっ!・・・碇の小僧が聞いた風なことを・・・」

 静かに、それでいて力強くシンジが腕を掴んだまま言い放つ、それに対してローレンツは苛立たしげに腕を振り解くと目の前の少年を一瞥し一言呟くとゲンドウと冬月に近寄っていった。

 「・・・大丈夫だったアスカ?」

 「・・・笑いなさいよ・・・」

 「えっ!?」

 「・・・惨めでしょ・・・そうよ・・・復讐したのよ・・・パパを殺した奴らに・・・そして、あんたの父親でもある碇ゲンドウに・・・・」

 「な、なんで・・・」

 嘲笑を浮かべたまま話すアスカに、驚愕の表情で聞き返す。

 「・・・その男は、DPの開発にあんなに心身を打ち込んで・・・そして・・身体を壊したパパが・・亡くなった後・・その死が周りに与える影響・・・金のために全てを隠蔽したのよ!」

 「そ、そんな・・・」

 彼女の独白に、シンジは目を見開いたまま立っているとその後ろから、彼の肩を掴んでゲンドウが声を掛けた。

 「シンジ、先に帰っていろ・・・」

 「・・・と、父さん・・・ほんとなの・・・今のこと・・・」

 前を向いたまま問いかけるシンジ、しかし、ゲンドウはそれに答えず部屋の隅にいた警備の者に目配せをすると彼の肩から手を離した。

 「答えてよ父さん!!」

 シンジは、振り向き叫ぶように問いかけながら近寄ろうとするが、警備員に両腕を抱えられ部屋から連れ出されてしまった。そして彼と入れ違いになるようにしてアスカの母親である惣流・キョウコ・ラングレーが到着し、息を切らしながら部屋に入ってくる。

バンッ!!

 「アスカ!!・・・・・!?碇社長に、冬月先生・・・どう言うことですのこれは?」

 「久しぶりだねキョウコ君・・・しかしその台詞は我々のものだと思うが・・・」

 今までキールをゲンドウと一緒に宥めていた冬月が答える。するとその後ろから怪しげなサンバイザーを掛けた男が押しのけるようにしてキョウコの前に立ちヒステリックにわめき散らす。

 「惣流社長!!あんたのとこの小娘が乗っていたEVAのデータにウイルスが入っていて、事もあろうか本社のマスターシステムを破壊しおったのだ!!」

 「なんですって!何を証拠に・・・・!!」

 「ふん!証拠ならここにあるわ!!」

 そう言って傍らにいる冬月に目配りをすると、彼は懐から一枚の写真を取り出しキョウコにそれを手渡した。

 「!?・・・マイルス・・・・」

 そこに写っていたのは、アスカの父親でもあり彼女自身の最愛の夫でもあった惣流・マイルス・ガッシュであった。

 「・・・これがシステムダウンの直後にモニターに割り込んできたのだよ・・・悪いが我々はこれを犯行声明と受け取ることになる・・・」

 「ふん!そこの小娘のEVAのデータを調べればさらに詳しいことが解るはずだ!ともかくこの事件でむこう一週間”デンジャープラネットV”は稼働できん!我が社の被る損害は信用・収益共にはかりしれんな!!これは賠償問題になるだろう・・・覚悟しとくんだな!!」

 

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 同日夜 碇家

 

 薄暗い部屋のベットに横になる一人の少年、結局シンジはあれから何度部屋に入ろうとしても警備員に遮られ渋々ながら帰宅したのだった。

 『・・・アスカ・・・どうして・・・少なくとも友達だと思っていたのに・・・・』

 帰宅してからはずっと部屋に閉じこもり、彼女のことを考えている・・・とその時

ピンポーン・・・

 「シンちゃん・・お客さんよ・・・女の子」

 『アスカ!?』

 下から聞こえたユイの声に、勢い良く飛び起きると急いで階段を駆け降り玄関に向かった。

 「こんばんは・・・碇君・・」

 「ほ、洞木さん・・」

 しかし、その玄関に立っていたのは彼が想っていた人物ではなくその親友である洞木ヒカリであった。

 「どうしたの?こんな時間に・・・」

 「あの、実は、これを・・・コクピットから回収した専用ディスクと、コンバータで書き戻しした”九朗”のデータディスク・・・あんな事の後だからデータ壊れてないか調べときなさいってお父さんが・・・それと、これ・・・アスカから・・・・」

 そう言って渡されたものは、あのときシンジがアスカにあげた小さな紙袋だった・・・その真意を読みとり俯くシンジにヒカリが訊ねる。

 「・・・碇君一つだけお願いしても良い?」

 「・・・なに?」

 「・・・その、アスカのこと・・・嫌いにならないであげて・・・」

 「そ、そんな!!嫌いになんて!!・・・嫌いになんてならないよ・・・」

ヒカリの言葉に勢い良く顔を振り上げると大きな声で反論する。彼女ははそんなシンジを見てほっと安堵の一息をつくと、また俯いてしまった彼に微笑みながら優しく語り掛ける。

「それを聞いて安心したわ・・・きっとこれから大変だと思うけど頑張ってね、誰がなんと言って私は応援してるから」

 「・・・・・ありがとう・・・洞木さん・・・」

 「じゃあ、私は帰るから・・・またね碇君!」

 ゆっくりと顔を上げ微笑みながらそれに答えるシンジ、それを見て本当に安心したのか一言挨拶すると振り返り帰っていった。それを黙って見送ると、自分の部屋に戻った。

 『嫌う事なんてできないけど・・これを返してきたって事は・・・・きっと・・もう会わないって事なんだ・・』

 ベットに座り、紙袋ただ黙って見つめているシンジ、そして何かに気づいたように立ち上がると机の上にあるパソコンを起動させ、”九朗”のデータディスクを入れた。

カシャッ・・・ヴィィン

 『・・・”九朗”・・もう戦う相手がいなくなっちゃったよ・・・』

ピッ・・

 ツールソフトが起動しディスクを読みとると、短い音と共に警告の小さなウインドウが表示された。

 「あれ?・・・開けないファイル?・・・やっぱマスターシステムと一緒にバグったのかな」

カタカタカタ・・・

 「!!・・・EVAの複座構想取り入れによるDPのバージョンアップのだって・・」

 キーボードを操作してその見覚えのファイルを開くと、画面いっぱいに膨大なデータと、文書が映し出された。シンジは、30分掛けてそれを読み終えると、側にあった受話器を取った。

RRRR・・・RRRR・・・RRガチャ・・

 「Hello?」

 「Hello・・・This is Shinji Ikari・・・」

 「あっ!シンちゃん!!ほんとにシンちゃんなの!?私よレイよ!どうしたの急に電話くれるなんて」

 受話器の側で大声ではなすレイに苦笑しながら話を続ける。

 「・・実は日本で大変なことがあって・・・」

 「それって、ゼーレジャパンのマスターがおしゃかになったってこと?・・・今こっちでもTVで大きくやってるわ」

 「・・・・・・実は・・・それ、アスカがやったんだ・・・」

 「うそ!?・・・・ほんとなの?」

 「・・・うん」

 部屋にあったTVを見ながら答えるレイに、シンジは、ためらいながらもしっかりとした口調で答えた。

 「・・・その事で、カヲル君の力を借りたいんだけど・・」

 「いいわ!そう言うことなら意地でも言うこときかせるから!!」

 

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 「Hello?君から電話くれるなんて・・・嬉しいよシンジ君!!」

 「・・・・」

 「おや?どうしたんだい?」

 「い、いやなんでもないよ・・はは・・・・」

 受話器の奥から感激の声を出すカヲルに、ちょっと引きながらも返事を返す。

 「・・さて、大体の事情はゼーレジャパンから聞いているよ・・・で、話を聞かせてくれるかい?」

 「・・・実は・・・・・」

 「なるほどね・・・それで、まだあるのかい?」

 「・・・ついさっきのことなんだけど、システムダウンの影響を受けた”九朗”のデータディスクに別のデータが入り込んでるのを見つけたんだ・・・」 

 シンジが事の起こりから一通りをかいつまんで話すと、カヲルは納得したように相づちをうつとこの電話の意味を悟ったように話を続けた。

 「それは、S・マイルス・ガッシュのDPW開発構想のデータなんだ」

 「!!な、なんだって!ホントなのかいシンジ君!?」

 この電話の意味が、単に彼女を助けてほしいとの事と思っていたカヲルはシンジの言葉に驚きの声を漏らした。

 「ゼーレ社と取引がしたいんだ・・・・もし、このデータが必要ならアスカとネルフへの追求を取り下げてくれるように・・・」

 「・・・僕に彼女を助けろと?・・・なぜだい?シンジ君・・なぜそれをお父上に話さない?・・・そうすれば・・・」

 「・・・・・君にしか頼めないんだ・・・・」

 カヲルの問いかけに静かに答えると、話を続ける。

 「押収された”ベンケイ”のディスクに同じデータが残っていれば免罪符にはならないかもしれない・・・だから、イギリスならゼーレジャパンがマスターシステムの復旧に総力を傾けている間に”DPW”開発計画を発表しこっちを出し抜くことができる・・・データに入ってるサンプルEVAは明日にでもロケテストができるよ・・・」

 「わかったよ・・・せっかくの君の頼みだからね・・何とかするよ」

 「ありがとう、じゃあ、早速データを送るよ!」

 ほっとした声で礼を言うシンジ、それをきいたカヲルは、にこやかな笑顔を浮かべるとおもむろに話し始める。

 「ところでシンジ君、このデータを僕が会社のためにだけ使うと思うかい?」

 「へ?・・・・ど、どういうこと?」

 「次に日本に行ったときに一晩つきあってくれないかい?」

 「・・・・あ、あのカヲル君・・・・い、一応ビジネスの話しだし・・・・」

 頭の後ろに大きな汗マークを浮かべながら答えるシンジに受話器のむこうから笑い声が聞こえてくる。

 「ははは、冗談だよシンジ君・・・でもちょっとは期待してくれると嬉しいね」

 「は、はは、や、やめとくよ・・・じゃ、じゃあよろしくね・・・・」

カチャ・・・

 ひきつった笑いを浮かべながら返答すると、一抹の不安を覚えながらも静かに受話器を置いた。

 「シンちゃんがあんたに助けを求めるなんて・・・・いい、絶対に何とかしなさいよ!!何とかしなかったらどうなるか解ってるでしょうね(はぁと)」

 「・・・・解ってるよレイ・・・じゃ、早速今からゼーレジャパンの爺さんを脅すとしよう・・・じゃじゃ馬お姫様を助けるために・・・」

 『それに、僕の命のためにもね・・・・』 

 側で笑顔を浮かべているレイを横目で見ながら受話器のボタンを押した。

 

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 十日後

 

 あれからカヲルの命がけの脅しがきいたのか、アスカが逮捕されることもなく時が流れていた。学校帰り、トウジ達と別れたシンジは、帰路をはずれいつか二人で来た小高い丘の公園に来ていた。彼は街を一望できる場所で手すりに組んだ腕を乗せ、日が落ちかかりオレンジの光に浸食されている街を眺めていた。

 「・・・・・シンジ・・・・」

 「!!」

 背後から聞こえてきたのは、この数日間どんなに聴きたくてもそして、聴こうと努力してもかなわなかったアスカ自身の声だった。驚きながらも咄嗟に振り向くとそこには、真っ赤なコートに、赤い帽子を被った彼女が立っていた。

 「あ、アスカ・・・どうして・・」

 「・・・・お礼を言いに来たの・・・シンジでしょう・・・DPW開発計画と引き替えに・・・ゼーレの奴らに働きかけてくれたの・・・」

 「・・・僕の力じゃないよ・・」

 シンジは、彼女から目をそらすと静かに答えた。そんな彼を見つめたままアスカは言葉を続ける。 

「・・・ありがとう・・・そして、ごめんなさい・・・・あたし、パパを殺した仕事が憎かった・・・そして、その死を闇に葬った人々が・・・」

 「・・・・・・・・」

 シンジは黙ったまま彼女の話を聞いている。頭の中には、昨日の夜の出来事を思い出しながら。

 

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 昨日の夜

 

 真っ暗にしたままの部屋の中、シンジは、ベットに横たわったまま天井を見上げている。

 『・・・あれから何の連絡もない・・携帯も電源が切れてる・・・アスカ・・・やっぱり・・・』 思考の海に沈んでいくシンジを現実に引き戻したのは、玄関前に停まったと思われる車のドアの開く音と、それに続いて聞こえてきた玄関が開く音・・・

 「!?・・・父さん?」

 あれから一週間以上経ったが、父であるゲンドウは家に帰ってきていなかった。シンジは、上半身を起こし一瞬部屋のドアを見たが、すぐに向き直ると再びベットに横になった。

 『父さん・・・どうせ僕には・・・・僕は・・・・』

 あの日の出来事と、何も答えてくれなかった父のことが思い出され、気持ちが沈んでいく・・・と、その時、ゆっくりと部屋のドアが開いた。咄嗟に彼は、ドアに背を向け寝た振りを決め込む。そしてその開いたドアから姿を見せたのは、若干窶れた感のする父であった。

 「・・・シンジ・・・・すまなかった・・・」

キィ・・・パタン

 ゲンドウは、暗い部屋でベットに横たわる息子に、一言そう告げるとドアを閉め戻っていった。後に残されたシンジは、そのまましばらく考えていたがおそってくる睡魔に夢の世界へと誘われていった・・・しかしその寝顔は、ここ数日とは違いとても穏やかなものだった。

 

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 「・・・シンジ?」

 「えっ!あ、ああ・・・ごめん・・・」

 「・・・・・・・」

 アスカの呼びかけに、はっと我に返り顔を上げるが、彼女と目が合いそうになると慌てて視線を逸らす。

 『逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ・・・・・そう逃げちゃダメなんだ・・』

 「アスカ!」

 「な、何!?」

 二人の間に流れた沈黙を破ったのは、決意を固めた表情で顔を上げたシンジだった。

 「その・・・・憎んでるって・・・やっぱり父さんも?」

 「うん・・・・・・でも・・」

 「そうなんだ・・・・だから僕なんか相手にしてくれたんだね・・・・」

 シンジは、一瞬悲しそうな顔をすると、ぎこちない笑顔を浮かべながら静かに答えた。

 「!?・・・」

 「・・・僕を利用するために・・・」

 シンジの独白に、はっと息をのみ顔を上げるアスカ・・・彼は最後の一言を絞り出すと俯き肩を震わせていた。

 「こんな・・・こんな事になるのは解っていたのに・・・・やっぱり無責任な約束なんかしないでただの友達でいた方がよかったわね・・・」

 そんなシンジから眼をそらすと、言葉を紡ぐ・・・・それを聞き、彼は静かに、それでいてしっかりとした口調で語りだした。

 「ありがとうアスカ・・・偽りでも楽しかったよ・・・・でも・・そんないてもいなくてもいい友達になるなんて嫌だよ・・・僕は・・僕自身はアスカのこと・・・好きだよ・・・いつまでも・・・だけどどんなに好きになっても絶対に振り向いてくれないなら・・・一生会わない方が良いよ・・・・・さよならアスカ・・・」

 そこまで言うと、振り返りアスカの元から離れていく、彼女は、そんなシンジの後ろ姿を見ながら一人たたずむ。

 「・・・・やだ・・・行っちゃイヤ・・・・・いなくなっちゃイヤァ!!」

 両手で顔を覆い、叫ぶようなアスカの声に、シンジは足を止め振り返ると彼女の元に戻って来る。 

 「ダメだよアスカ・・・人に嫌われるときは悪役になりきらなきゃ・・・」

 「・・ひっく・・だ、だって・・・・!!?」

 アスカが何か言い終える前に、シンジは彼女の両肩を引き寄せその唇を奪った。重なり合ったシルエットが夕暮れの公園にのびていた。

 「ねぇ、シンジ、さっきの話だけど・・・」

 「さっき?」

 「うん、シンジのお父様の話・・・」

 しばらくシンジの胸に頭を預けていたアスカが、そのままの姿勢で静かに語り出した。

 「実は昨日の夜あたしの家に来て・・・・玄関の前で土下座していったの・・・君のお父さんのことはすまなかった・・・そしてそこまで君を追いつめたことにもって・・・」

 「父さんがそんなことを?」

 シンジが、驚きの顔で自分の顔を見ているのを見て、クスリと笑みを浮かべると話を続ける。

 「あと、こんな事も言ってたわ・・・自分のことはどんなに恨んでもかまわないから・・・シンジ、あなたのことは嫌わないでやってくれって・・・」

 「そう、そんなことを・・・・」

 「でも、あたし、今日あんたに会うまでは絶対に許せなかったの・・・・あんたのお父様のことを・・だから・・・だけど・・・だけど、シンジ、あんたの顔を見たら・・あたし・・・」

 「もう良いよ・・わかってるから・・・アスカ・・・・・好きだよ」

 「シンジ・・」

 胸の中で俯いている最愛の人を強く抱きしめるシンジ、アスカは、その彼の言葉に自分からも強く抱きついた。その後、薄暗くなるまで公園で、二人はしばらくお互いの気持ちを確かめ合うように寄り添いながら、ベンチに座っていた。

 「あ、そうだこれ・・」

 しばらくして、シンジは思い出したように鞄から小袋を取り出した。あの日から鞄の中にずっと入っていたそれは、やっと目的である人の手に渡った・・・・渡す側の気持ちと共に・・・

 「・・・可愛い・・・ねぇ・・つけてくれる?」

 「うん」

 そう言って、今までしていた髪飾りをはずすと眼を瞑りシンジに身を任せる・・彼は、アスカの手から彼女のイメージカラーでもある真っ赤なリボンの形をしたバレッタを受け取ると茜色の髪にそれをつけ、もう一度彼女の唇を奪った・・・

 「可愛いよ・・・アスカ・・・」

 「もう・・・バカ・・・でも、ありがとう・・・」

 そのまま永遠と思える時間が流れたが、楽しい一時もやがて終わりを告げ、アスカを送って帰宅したシンジは、リビングに母ユイとこの時間には珍しいゲンドウの姿を見つけた。彼は、一瞬躊躇したがそのままリビングに入っていく。

 「父さん・・・」

 「・・・シンジか・・・なんだ?」

 「・・・アスカのこと・・・ありがとう・・」

 「・・・・・」

 不器用な親子の対話を、ユイは暖かい笑顔で見守っていた。

 

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 翌朝

 

 「うわ!!もうこんな時間!!・・・かあさんなんで起こしてくれなかったんだよ!!・・」

 朝、いつものように寝坊して階段を駆け下りてきたシンジは、ユイが朝食を作っているいつもの風景を見る代わりにできあがった朝食と、一枚の手紙をテーブルで見つけた。

 

 

 

 

 シンジへ

  お父さんと私は、仕事の関係でちょっと(5年位)アメリカに行って来ます(はぁと)

 くれぐれも身体に気をつけて、アスカちゃんと仲良くね!

 

 PS  生活費は毎月送りますから無駄遣いしないでね

 

 PS2 ふっ問題ない・・・・・

 

                            ゲンドウ

                            ユイ      より

                            

 

 「そ、そんなぁ〜〜〜」

 手紙を読んだシンジは力無く床に座り込むと情けない声を出す事しかできなかった・・・合掌

 

 

 

第一部終了 


続くと良いな・・・
ver.-1.10 1998+01/10 加筆・修正
ver.-1.00 1997-12/04 公開
ご意見・感想・誤字情報などは klein@mxh.meshnet.or.jpまでお送り下さい!
Ohtuki: だいぶ遅れましたが第6話お届けします(^^;;奇しくも遅れたおかげで作中の
        日付と同じになってしまいました(笑)さてさて、これでBREAK−EVAは第
        一部終了です(^^)ちなみに、この話自体は、原作をみなさんに知ってもらいた
        いと言うコンセプトでやってましたのでほとんどまんまであり、盗作と言われても
        仕方がないと思っております(^^;;;ゆえに、原作を見て、お怒りの方がいた
        なら深くお詫びいたしますm(__)m
        さて、話は2部へ行くかどうかはメールしだいで決めたいと思っています(^^;
        誠に勝手であり我が儘だとは思いますが、ご容赦のほどをお願いいたします。
        では、またお会いできる事を祈りつつ(^^)/~~~

Mizuno: 俺はなぜここにコメントを載せているのだろ〜か?(^_^;

Ohtuki:(^^;;;


 Ohtuki&Mizunoさんの『BREAK−EVA』第6話、公開です。
 

 ラブラブ色から一気にシリアス!
 

 仕組まれたウイルス。
 アスカを守るための取引。

 シリアスハードですよね。
 

 アスカのパパへの思い
 シンジのゲンドウへの複雑な・・。

 シリアスクールですね。
 

 プレゼントや言葉にやり取りに見られる
 アスカとシンジの繋がり。

 シリアスホットですね。
 

 次をそうするかはメール次第とのことですが、
 読みたいな(^^)
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 Ohtuki&Mizunoさんにやる気を起こさせる熱いメールを送りましょう!


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