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チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり その11

男ってバカね……






 「あ、マコト起しちゃった。ごめん」




 ミサトはへそ出しルック姿で紫煙をくゆらせる。まだ寝起きのせいか髪は少し乱れて眼も赤い。既に手にはえびちゅが握られている。ベッドの側に立ち頭を掻いている。




 「いやもう起きてたよミサト。朝の一杯はどうだい」
 「最高よ。昨日マコトが汗かかせてくれたから」
 「…………」




 マコトはなぜか黙ってミサトを見つめる。




 「どうしたの。私の顔に何か付いてる」
 「いや」
 「じゃなんで」
 「タバコ吸ってくれたんだと思って」
 「はぁ?それがどうしたの」
 「前さ、情事の後しかタバコは吸わないって言っていたから。そう言ってミサト少し沈んでたから」
 「そんな事言ってたかしら」
 「ああそうだよ。なんかさっきのタバコ見て一つ加持さんに勝てたなと思って……」
 「…………バカ。ほんと男ってバカね。くだらない事気にして……でも少し何だか嬉しいわ」




 ちゅ




 ミサトはマコトに近寄るとおでこに軽いキスをする。




 「でもさ、そんなに気張んなくてもいいのよ。加持は私にとって過去……というか思い出。忘れたくは無いけど囚われたりしない……つもり。私達でも未来は許されていると思うわ。それに対して生きればいいのよ」
 「……それだけでは済まない所が男のバカな所なんですよ。意地や見栄が邪魔をするんです」
 「……まあいいわ。そろそろ起きないとあの子達戻ってくるわ」
 「そうですね。これ以上淫乱カップルと思われたらたまらないです」
 「もう遅いけどね。大体子供達追い出して抱き合ってればね」
 「確かに」




 マコトも身を起しベッドを降りる。裸だ。




 「あらまだ元気ね」
 「それは若いですから」
 「悪かったわね。三十路で」




 すこしすねたような表情をするミサト。




 ちゅ




 「ミサト可愛いな」
 「生意気なんだから」
 「シャワー浴びてきます」




 マコトはバスタオルを持つと寝室を出て行った。












 「予備の服を置いておいてよかったわ」
 「そうですね」
 「裸で服を取りには行けないし」
 「でもその格好も相当過激ですよ」
 「いいのよ。どうせ知りあいしかいないんだし」
 「まあそうだけど」




 と、じゃれている。




 「朝飯どうするかな……」




 ぴんぽん




 「おっ子供達のお帰りだ」




 マコトは玄関へ行く。




 「日向さんおはようございます。ケンスケです。入っていいですか」
 「おはようケンスケ君。ああいいよ。二人とも起きたから。今開ける」




 マコトが戸を開けるとケンスケとレイとカヲルが立っていた。みんな既にきちんとした服装をしていた。




 「みんなおはよう」
 「「「日向さんおはよう」」」
 「そうだ皆朝飯はどうする?」
 「あれ日向さん忘れたんですか。今日は朝ご飯リツコさんの部屋で皆で取るって言ったじゃないですか」
 「忘却はリリンの特技だからねぇ」




 カヲルは相変わらずである。




 「ははは、ミサトの忘れっぽさがうつったようだ」




 がし




 「いて、何するんですか後ろから」
 「何するんですかじゃないわよ、男って甘やかすとすぐこれだから。レイちゃんもちゃんとケンスケ君の手綱握っときなさいよ」
 「ケンスケ君そんな事しない……」
 「……惚気られた……レイちゃんもやる様になったわね」




 ミサトも苦笑いする。ただケンスケとレイの後ろに立つカヲルを見ると少し笑いがこわばる。未だに少し含む所があるミサトである。しかしカヲルの後ろからひょこっと少女の姿が現れたのを見てびっくりする。




 「あ……なんで居るの……昨日泊まったの、山岸さん……」




 マユミが恥ずかしそうに立っていた。




 「……ちょっと皆隣の部屋に行っていてくれない。カヲル君ちょっと来なさい」
 「あ……渚さん悪くないんです……私が皆とおしゃべりしてて遅くなって帰れなくなっただけなんです」




 マユミが慌てて言う。




 「それは後でゆっくり聞くわ。御家族の方にも謝らなくてはいけないし。とにかく後でね。ケンスケ君頼むわ。カヲル来なさい」




 ミサトはカヲルを部屋に引っ張り込むと戸をしめる。居間まで引きずる様に連れてくる。引出を開けるとその天井にガムテープで張り付けてあるデトニクスを手に取る。その自動拳銃の銃口をカヲルの喉に当てる。




 「どうするつもりかな」




 カヲルは普段の口調だ。




 「さあどうしましょうかね。とりあえず喉を撃ち抜いてあげましょうか。どうせ怪我してもすぐ回復するし。ATフィールド張れば怪我もしないじゃない」
 「やめろミサト」
 「マコトは黙ってて。こいつは使徒よ、なんだかんだ言っても。やっぱり人間の敵いいえ違うわ、私の敵なのよ……今でも。ただ今は子供達の友達だから耐えているだけ。やっぱり使徒は私の敵よ」
 「そうですか。……綾波さんはどうなんです。彼女はボクに近いですよ。やはり敵なんですか」




 カヲルは微笑みを絶やさない。




 「レイは別よ。あんたとは違うわよ。あんたは一度は人類を滅ぼそうとしてるのよ」
 「確かに。ただ綾波さんも元をただせば使徒ですよ。少なくとも関係はある」
 「レイはレイよ。今はその事を言ってるんじゃない。やっぱり信用できないわ。いい人間の女の子に手を出すんじゃないわよ。何かやったらシンジ君やアスカやレイを騙してでもアンタを滅ぼさせるわよ」
 「そうですか。ご自由に。ただ今回は誤解です。山岸さんが帰りたくないって頼み込むので綾波さんや惣流さんがリツコさんの所に一緒に泊まっただけですよ」
 「ふん、どうだか。いいやっぱりアンタは信用できないわ。私にはね……」
 「結構です。ただボクも人間の文化や感性は学んだつもりです。シンジ君の悲しむ事はしませんよ。ゆえにシンジ君の知りあいに危害を加える気はないですよ」
 「そう……まあいいわ。とにかく覚えておいてもらうわ。アナタの立場と私の立場をね」
 「そうですか。覚えておくことにしましょう。そろそろボクはリツコさんの所に行きますよ。最近食事という事にも興味があるので」




 カヲルはくるりと振り向くと部屋のドアに向かった。しばらくミサトは拳銃を向けていたがやがて手を降ろす。拳銃を元どおりの位置に戻す。カヲルは部屋の戸を開けた。心配そうな顔をしてマユミが立っていた。




 「山岸さん。すまないけどちょっと来てくれる」
 「あ、はい」
 「マコト二人っきりにしてくれる」
 「判った。カヲル君行こうか」




 カヲルは部屋を出る。マユミに微笑みかける。マコトは少し厳しい顔をして後ろをついていく。マユミはカヲルを目で追いつつ部屋に入ってくる。




 「山岸さんこっちへ来てここの椅子に座って」




 ミサトは居間のソファにマユミを座らす。ミサトも横に座る。マユミは顔を伏せがちに座る。ミサトは隣に座る。




 「ねえ山岸さん、ずばり聞いちゃうけど……カヲル君とどういう関係。まさか変な事はされてないわよね」
 「そ……そんな事ありません。カヲル君は紳士です……。あの彼は長い間学校にも来れなかったから、いろいろな事知りたいみたいだから、私が相談に乗っているんです。彼今世界の名作文学に興味があるから、私これでもそういうの得意だから……」




 だんだんマユミの声が小さくなっていく。




 「マユミちゃん別に責めている訳じゃないのよ。ただねここにいる子供達はみんな特殊なの……こんな事私が言ってはいけないのだけどね。特に渚君はね」
 「どこがなんですか」
 「それは悪いけど秘密よ……とにかくつきあう相手としては薦められないわ」
 「……なんで一緒に住んでいる人を悪く言うんですか。カヲル君はミサトさんの事嫌っていないです」
 「……悪いけど理由は教えられないわ。ごめんなさいね」
 「そうですか……」
 「……ところでマユミちゃん、昨日はどうして家に帰らなかったの。まだ中三なんだから御両親が心配するわ」
 「心配なんかしません……。あの……アスカさん達に近づく人は身元調査がされるって噂で聞いたのですけど、それなら知っているんではないのですか」
 「……調査はされていると思うわ。だけど私はもうそんな事はしたくないから結果が安全なら報告を受けない様にしているわ」
 「……。あの……私の両親山岸財閥の責任者なんです」
 「あ……あの軍事関係の……」
 「はい。……いつも忙しくって私両親と一月に一度会えるか会えないかなんです」
 「そうなの」
 「家に変えればメイドの人達や執事の人がいるんですけど……でもお父さんもお母さんもめったに会えません」
 「そう」
 「実は……私不良なんです。学校の番長だしいつも遊び歩いているし、マナも遊び友達で彼女副番なんです」
 「意外だわ。ちっとも見えない……」
 「みんなと仲良くなったのは私がシンジ君にマナがケンスケ君にちょっかいを出してアスカさんとレイさんにこてんぱんにされた事からなんです。ただマナは本気だったけど。とにかく私いつも遊び歩いているから外泊しても誰も心配なんかしていないんです」
 「……そんな事無いわよ。きっと心配してるわよ。御両親だって……」
 「でも……私怒られた事無いんです。お父さんにもお母さんにも……きっとどうでもいいに違いないんです……」
 「……知らないだけかも知れないわ。とにかく誰かに連絡はしないと。誰にしたらいい」
 「……じいや……私付きの執事のお爺さんがいるんです」




 少しマユミの表情が安らぐ。ミサトは見逃さない。




 「そうなの。ところで昨日はどうしてたの」
 「昨日は綾波さんと惣流さんとリツコさんの部屋に泊まりました。夜遅くまで話をしました。鈴原君のリハビリでしているサッカーの事とかいろいろな事……。楽しかったです。……あの昨日泊まる前にリツコさんがじいやに電話をかけてくれました……。だからじいやはここにいるのを知っています」
 「そうなの……リツコったら何考えてんだか……」
 「リツコさんは悪くないです。私が無理に頼んだんです……。楽しそうだったから……」
 「そう……判ったわ。今日はこれからどうするの。どうせだから朝ご飯食べていく?作るのは私じゃないけど」
 「いいんですか」
 「いいわよ。その後私かリツコが送ってあげる」
 「はい」
 「じゃあ決まりね。リツコの部屋に行きましょうか」
 「はい」




 ミサトは手をとりマユミを立ちあがらせた。












 「オムレツ美味しいですね、リツコさん」




 ケチャップをたっぷりつけたオムレツを食べながらシンジが言う。




 「そう、うふふ。私はミサトと違って料理をやらないだけだから」
 「う……何よ。朝から喧嘩売る気」
 「まあまあ。どのみち作る気なんか無いんだから。怒らない」
 「何言ってんのマコトまで」




 10人もいるとさすがに狭い気がする。ここはリツコの部屋のダイニングキッチンだ。テーブルを囲んで皆それぞれの相方を隣に座っている。
 食卓には真ん中に大きなプレーンオムレツが二皿。一つは少し焦げている。こちらはゲンドウとリツコとシンジとアスカが食べている。もう一つは奇麗に出来ている。そちらはミサト達が食べている。各人にご飯と味噌汁、鮭と香のものと海苔が出ている。




 「リツコさんよく材料がありましたね」
 「昨日の内に仕入れといたのよ」
 「ごめんなさい。朝ご飯まで御馳走になって……」
 「いいわよ。カヲルがお世話になっているお礼」




 リツコは気軽に言うがミサトは微かに顔をしかめる。




 「遠慮しないでいいわ、マユミ」
 「アスカさん機嫌がいいですね」
 「ふふふふ。マユミちゃんそれはね……」




 リツコが言う。




 「オムレツだけはレイとアスカで焼いたのよ。マユミちゃん達が食べているのがレイが焼いた方。こっちで食べてるのがアスカが焼いた方」
 「そういう事ぉ〜〜。アスカぁ〜〜可愛いんだから。シンちゃんが美味しいって言ったらいきなり機嫌良くなるんだからぁ〜〜」
 「ちっ違うわよ。私はただ純粋に料理と言うものに興味をもっただけよ。将来ミサトには成りたくないからよ」
 「もぉ〜〜照れなくてもいいんだからぁ〜〜このこの」
 「実際アスカのオムレツ美味しいわよ。そうですわね。ゲンドウさん」
 「…………ああ」




 無理矢理つき合わされたのかゲンドウもいる。黙々と朝食を取っている。リツコはゲンドウの皿が空いているのを見てオムレツを取り分ける。




 「シンジ君そこのケチャップ取ってあげて」




 リツコが言う。ケチャップのチューブはシンジの目の前にある。なんとなく部屋が静かになる。




 「ほい」




 アスカがチューブをシンジの顔につき付ける。シンジは受け取る。




 「……父さん……ケチャップ……」
 「……ああ」




 シンジがケチャップのチューブを差し出すとゲンドウは受け取る。ゲンドウはケチャップをじゃばじゃばとオムレツに掛ける。




 「あらあらそれじゃ折角のアスカちゃんの味付けが……」
 「……濃い味付けが好きだ」
 「だそうよアスカちゃん。将来の為によく覚えておいた方がいいわよ」
 「そうねリツコ」
 「あらぁ〜〜アスカったらもう将来の嫁入りの心配ぃ〜〜やるじゃない。嫁姑で仲良くていいわね」
 「そうねアスカ。とても真剣に調理してたもの」
 「な……だからねぇ〜〜私は料理に燃えているだけであって…………」




 レイにまで突っ込まれている。だがそのせいか場が穏やかになった。アスカはぶつぶついいながら食事を再開する。シンジもだ。レイも安心したのか食べはじめる。




 「ケンスケ君……鮭ちょうだい。私のオムレツと交換でいいから」
 「いいよ。あ〜〜ん」




 ケンスケが鮭の切り身を箸で摘まむと言う。




 ぱく




 「美味しい?」
 「美味しい」




 ニコリ




 照れずにやるレイとケンスケである。




 「カヲル君、綾波さんと相田君っていつも家ではこうなの……」
 「そうだね。学校ではやっていないけどね。皆はこのぐらいならもう慣れているよ」




 びっくりするマユミである。最近マユミとマナはレイ達と一緒に昼食を取る様になったが、この光景は見ていないらしい。
 ゲンドウもこの光景には興味があったらしく少し見ていたがまた黙々と食べ始めた。




 「さすがレイというか……だわね」




 普段は子供達と食事はしないリツコが呆れつつも喜んでいた。












 「はいお茶」




 食後アスカがいれたお茶でくつろぐ一同である。まだゲンドウもいる。しかしすぐお茶を飲み干すと立ちあがる。




 「私は部屋に戻る。シンジいつでもいい。今日の予定は空けてある」




 そう言うと自分の部屋に戻って行った。また少し部屋が静かになる。




 「碇君あの……」
 「レイ黙って……はげましたりしちゃだめ。これはシンジが決める事……。シンジどうするの……」




 また静かになった。大人達も黙っていた。状況が判らないマユミは少しおどおどしている。カヲルだけがいつもの様に微笑みを浮かべている。




 シンジは立ちあがる。ドアに向かう。




 「行ってくる」




 小声で言うとドアの向こうに消えた。また少し静かになる。




 「どうしよう……」




 アスカが少し経った後呟く。




 「もしうまく行かなかったらどうしよう。突き離しちゃったけどどうしよう。ミサト、リツコ、ねえどうしよう」




 珍しく取り乱している。




 「山岸さん……」




 うろたえているアスカの代わりにレイが声をかける。




 「悪いけどこれから身内だけの話になると思うの……」
 「あ……うん。じゃあ私帰る。どうもいきなり無理言って泊めてもらって、朝ご飯までいただいてありがとうございました」
 「いいのよマユミちゃん。また遊びに来てね、歓迎するから」
 「はい」
 「じゃ私が送っていくわ」
 「頼むわミサト」
 「マユミちゃん。行きましょ」
 「みんなまた学校で。リツコさん、日向さんまた今度。さようなら」
 「え、あ、マユミまた明日。さようなら」




 アスカがやっと気がつく。




 「またね。さよなら」
 「気をつけて。ミサトの運転荒いから」
 「じゃ月曜日」
 「山岸さん、この前貸してくれた本また貸してくれないか。また読んでみたいんだ」
 「うんじゃあ月曜日に持ってくる、カヲル君」
 「じゃあ月曜日」




 カヲルと言葉を交わした後マユミはお辞儀をし部屋を出ていった。ミサトは少しカヲルを睨むと部屋を出た。




 「またボクはミサトさんに嫌われたようだ。あれは単純に使徒であるボクが嫌いなのか、山岸さんが使徒であるボクに好意を持っているのが嫌いなのかは判らない所ではあるね」
 「うるさいわよカヲル。それ以上騒ぐとEVAで潰すわよ。私やっぱり部屋で待ってる事にする」




 アスカはそう言い部屋を出た。




 「では黙るとしようか……」
 「……博士私……」
 「なあにレイ」
 「……私好きになってはいけないの……人……人間……」
 「え……そんな事は……」
 「でも……私半分は使徒……ケンスケ君と違う……」
 「何言ってんだレイ」
 「私……今の……ミサトさん私も嫌いなの……私が人好きに、好きになると……私」




 レイは立ち上がる。ふらふらと奥の部屋に向かう。




 「私……考える」




 ケンスケも慌てて立ち上がる。




 「ケンスケ君来ないで……」
 「私に任せて……」




 レイとリツコは奥のリツコの寝室に消えた。




 「カヲル……表に出ろ」




 二人の姿が完全に消えた時ケンスケが静かに言う。




 「いいが……なんの用かな」
 「うるせえ、表に出ればいいんだ。余計な事言いやがって。レイを……」
 「……喧嘩を売ると言うやつかい。面白いね。初めての体験だつきあうよ。ちなみに言っておくが綾波さんの考えは一理あるよ。彼女もボクの同類だ」
 「ケンスケ君カヲル君やめるんだ」
 「いえやめません。ボクは基本的には自由なはずです。まあケンスケ君を殺したりする気はありませんよ」




 カヲルはそう言い部屋を出る。ケンスケが続く。テーブルの反対の方にいてすぐには動けなかったマコトが慌てて追いかける。
 宿舎の廊下は無人だった。ここの階は彼等しか住んでいない。




 「二人とも落ち着け」




 すでに正対しているカヲルとケンスケにマコトは慌てて近付く。




 トン




 軽くケンスケの拳がマコトの胸に入る。マコトは尻もちをつく。




 「僕の師匠に教わった急所を突きました。1〜2分体が動かないだけです」 
 「ケ……ン……ス……ケ……君……カ……ヲ……ル……君……や……め……ろ」




 ケンスケは自然体に近いが微妙に違う形で立っている。カヲルはポケットに両手を突っ込んだままだ。いつもの微笑みを浮かべている。




 「どうしたんだいケンスケ君」




 その言葉がかかるか否かというタイミングだった。目にもとまらぬ踏み込みでケンスケの蹴りが飛ぶ。




 ガキ




 しかしその鋭い蹴りは八角形の光に遮られた。




 「ATフィールドか……」
 「そうだよケンスケ君。どうするかな」
 「……前シンジが言っていた。お前がATフィールドは心の壁だって言ったって事を。ならば心の力で破る……」




 ケンスケは今度は天地の構えに似た構えをとる。




 ふ〜〜




 呼吸を整える。




 「風光流奥義貫気閃」




 全ての気合を込めたケンスケの右の手刀がカヲルのATフィールドにぶつかる。




 バシ




 今度はケンスケごと弾き飛ばされた。彼の右手の中指は黒くなっていた。顔色が青白くなり廊下に転がっている。気絶したようだ。




 「ダブリス何をしたんだ……」




 麻痺が解けてきたマコトが壁を使って立ち上がる。思わずダブリスと呼んでいる。




 「何も。ATフィールドを張っていただけですよ。それにしてもリリンは面白い。ケンスケ君は素手でほんの指先だけだがATフィールドを破ってますよ。面白い。ただ精根尽き果てたようだ」




 カヲルはケンスケを軽々肩に担ぐ。




 「とりあえずリツコさんに見てもらいましょう」




 カヲルはさっさと部屋に入っていく。マコトはふらふらと続いた。
 カヲルはリツコの寝室の前まで行くと側のソファにケンスケを降ろす。まだケンスケは気絶している。マコトはふらふらとソファの反対側に座り込む。




 とんとん




 「リツコさんケンスケ君が怪我をしました。治療してもらえませんか」




 どたどた




 二人分の足音が寝室の中から響き戸が弾かれるように開いた。




 「ケンスケ君」




 二人はケンスケを見た。レイは悲鳴を上げる。ケンスケに飛びつこうとするがリツコが押しのけ様子を見る。レイはケンスケとリツコを見ていたがすぐにカヲルに顔を向ける。




 「何をしたの。カヲル君ね……」
 「彼が喧嘩を売ったので買ったのさ」
 「ATフィールドを使ったの」




 レイの周囲が微かに歪んで見える。




 「ボクは攻撃には使ってないよ。綾波さん落ち着いたほうがいい。ここで君のATフィールドを全開でボクを攻撃したらみんな死んでしまうよ」




 レイの表情が少し動いた。自分でも気付いていなかったらしい。




 「……そうね」




 レイの周囲は元に戻った。




 「それにしてもリリンには驚かされる。素手でATフィールドをほんのわずかだが破ったよ」
 「……そう。アナタはそれ以上の進歩はないけど、でも人間は進歩するから……」
 「そうだね」
 「なぜケンスケ君は喧嘩をしようとしたの」
 「ボクが君とボクが同類だと言ったのを侮辱と思ったのだろうね」
 「そう」




 ふ〜〜




 ケンスケが目を覚ました。起きあがろうとする。




 「カヲル〜〜てめえ……」




 立とうとするが手足が麻痺しているらしい。




 「ケンスケ君駄目よ。衰弱が激しいわ。寝てなさい」




 リツコはケンスケを制すと携帯をかける。




 「マヤ至急救急車よこして」
 「先輩、先輩達の部屋でATフィールドの反応2度続けてありましたそれも両者パターン青です。それと……」
 「そうよちょっと揉めたのよ。ケンスケ君を入院させるから。外傷はほとんど無いわ。打ち身だけ。ただ衰弱が激しいからチルドレン用の特別看護室入れるから。あと全身の特に脳神経関係の精密検査と病室の用意しておいて」
 「はい判りました」




 マヤは電話を切った。




 「私所長に言ってくるから見ててあげてね。動かさない様に」




 リツコは部屋を出ていった。レイはまた起きあがろうとするケンスケを押さえつける。




 「ケンスケ君やめて、ケンスケ君勝てないわ。カヲル君は強いの……怖くないの?」
 「……怖いよ。こんな奴に喧嘩売ってるのが。こいつは、やっぱり使徒は化け物だ」




 レイの顔色がさっと変わる。カヲルは相変わらずつっ立っている。




 「ケンスケ君……正直に答えて……私の事怖い?……私……使徒が入ってる」




 間が空いた。ケンスケはにわかには答えられなかった。




 「答えて」
 「……怖い……時々怖くなる……皆で同じ部屋で寝た夜ふっと起きた時に……一瞬でこの建物ごと壊せる力の主がいる……それが側に寝ている好きな女の子で……でも関係ないじゃないか。怖くても好きなんだし、怖くたって戦わない訳じゃない。そんな事どうだっていいと思う。使徒だろうが人間だろうが……」




 ケンスケは疲れたのか言葉を切る。




 「俺昔はこんな性格してなかったのに……トウジの影響受けたのかなぁ」




 丁度そこへリツコが戻って来た。シンジとアスカを引き連れてである。




 「あれシンジ君、どうしたんだいその顔は」
 「どうしたもこうしたも無いわ。叔父様とシンジ殴り合いの喧嘩よ。アンタ達もそうなんだって。っとにここの男達って……」




 アスカが濡れタオルでシンジの紫になった両頬を冷やしながら言う。




 「それにしてもシンジめちゃくちゃ弱いわ。ただ突っ込んでいくだけで張り飛ばされるのを繰り返すだけ。EVAの戦闘訓練とか完全に忘れてるわ。やっぱり鍛えてあげないとだめね」
 「……」




 シンジも疲れたのかケンスケの隣に座り込む。




 「まぁただ叔父様の顎に一発アッパー決めたからそれで良かったと言うべきかしら。今度やる時は勝てばいいのよ。ケンスケも無理したんだって。でもアンタ人間離れして来たわね。素手でATフィールド破るなんて。ん、あそうか。レイあなたさぁ」
 「なあにアスカ」
 「レイあなたやっぱり人間よ。と言うか人間も使徒も差が無いのよ。だってケンスケ素手でATフィールド破ったわよね。て事はATフィールドを物理的に使いこなす能力は別に使徒やEVAの専売特許な訳じゃなくて生物に共通している特性じゃないかなぁ。ただ使徒は完璧に使いこなせるしレイは普通の人より使えるだけなのよ。ね理屈が通っているでしょ」
 「そう……なの」
 「レイ、俺もそう思う。もっと修行をつめばカヲルをはっ倒せるような気がする」
 「おいおい。好きな事を言っているね。まあその可能性は否定しないよ。頑張ってみたらどうだい」
 「すかすな。後で見てろ」
 「期待してるよ。ところでリツコさん二人は大丈夫なんですか」
 「とりあえずは問題無いわ。ケンスケ君は右手中指の内出血と全身疲労、シンジ君は頬に平手でビンタを食らっただけ。二人とも精密検査はするけどね。あとケンスケ君は三日ぐらい入院ね。ATフィールド素手で破るなんて事したんだから。きちんと調べないと」
 「博士……」
 「なにレイちゃん。怖い顔して」
 「博士ケンスケ君を研究材料にしようとしているの」
 「違うわよ。ケンスケ君の健康、その為の入院よ」
 「そう」
 「……そうよ」




 その時廊下からどたばたと走る音が聞こえて来た。




 「あの足音はマヤね。とにかく検査だからね」












 「ケンスケ君起きたの」
 「……あ、うん」




 白い病室には夕日が挿していた。レイはケンスケが寝ているベッドの横の椅子に静かに座っている。




 「……ここどこだい?」
 「チルドレン用の特別病棟。ケンスケ君疲れていたらしくって検査の途中で寝ちゃったの」
 「そう」
 「詳しい結果は出てないけど多分問題無いって博士が言ってた」
 「そうなんだ」
 「碇君も問題無いって。アスカともう帰ったわ」
 「それはよかった」
 「…………」
 「どうしたの」
 「…………」




 レイは立ちあがる。ケンスケの顔のすぐ側のベッドの端に座る。ケンスケからは細い背中しか見えない。ケンスケは身を起す。




 「……ケンスケ君……私の事どう思う」
 「え………………その」
 「…………」
 「…………好きだよ」
 「嬉しい……けどその事じゃないの……怖くないの」
 「…………」
 「アスカも仲間だって、友達だって言ってくれた。でも私の事やっぱり怖いって言ってた……。私なんなの……」
 「君は……」




 ケンスケは言いよどむ。




 「……なに」
 「君は……」
 「……言って」
 「君は……レイは……俺の好きな人」




 ケンスケは優しくレイの細い体を背中から両手で抱き包む。




 「好きな人……好きな人だよ」




 ケンスケは静かに言う。




 「それに君は皆の仲間だよ。それじゃいけないの」
 「……私人の子じゃない。本当はお父さんもお母さんもいない」
 「そうだけど……」
 「私の体は博士の薬が無いと壊れていく。私いつもケンスケ君に見られない様に薬飲んでる。私の体いろいろな内臓が未発達。人と使徒の遺伝子がせめぎあってる。いつ遺伝子が暴走してただの肉塊になってもおかしくない。いつATフィールドが暴走して使徒そのものになってもおかしくない」
 「でも……」
 「……それでも好き?私の事好き?好きなの?ねえ好き?教えて」
 「…………好き」




 ケンスケは少し強く抱きしめる。




 「……よかった」




 少し夕日が赤くなった。












 「レイ起きなさい。風邪ひくわよ」




 レイは寝ているケンスケの胸に顔を埋める様にして寝ていた。リツコはレイを優しく揺り起した。レイは目を擦りながらおきあがる。




 「博士……何時ですか」
 「20:00時よ。もうそろそろ帰らないとね。ケンスケ君は明日の朝まで起きないわよ。レイに飲ませておいてって渡した薬に睡眠薬入っているから。今は彼寝る事が必要だから」
 「…………」
 「……残って見ていてあげたいの?」
 「…………うん」
 「そう……じゃあ仮眠用のベッド持って来てあげる。だけど明日は学校休んじゃだめよ」
 「うん」
 「博士」
 「なに」
 「私って何?誰も答えてくれない……」
 「レイは……そうねいい機会だから話してあげるわ」




 リツコは近くにある椅子を取ると引いてきて座る。




 「まずあなたの遺伝子は人間の遺伝子パターンと100%一致しているわ。その上ユイさん……のパターンとほぼ一致してるの。だからあなたは遺伝子的に見るとユイさんそのもの」
 「そう」
 「……あなたの一人目がEVAからサルベージされた時は1〜2才の幼児の姿だったらしいわ。これについてはデータが残ってはないの。所長が隠匿したの。私でさえも所長に聞いただけよ。当時の所長はあなたの事を徹底して調べたわ。ユイさんかどうかを……」
 「……」
 「そしてあなたのクローンをいっぱい作った……。私は秘密を知ってから……知らされてから加担したわ。その頃から私は所長の言うなりだったから……。……これは関係ない話だったわね。今のあなたはクローンのうちの一人。それは知っているわね」




 コクリ




 レイは頷く。




 「私も前のあなたの体を調べたわ。……あの頃の私はあなたを調べる為という言い訳であなたを切り刻むのが嬉しかったのかもしれない。あなたは私にとってはユイさんだったから。敵だったから。所長の心はあなたに……ユイさんにあったから。今でもそうかもしれない……」
 「博士……今の私は私です。綾波レイです。ユイさんではありません。私はもう私として生きている」
 「……そうね。……そうよね。私なんかよりずっと自分を持っているわね。ごめんなさい、話を戻すわ。私が調べたところでも遺伝子の有効部分はやはりユイさんだったわ」




 部屋は静かだった。窓の外は完全に夜になっている。言葉が途切れるとケンスケの寝息が聞こえる。遠くからは微かに車の音が聞こえてくる。




 「ただね、遺伝子の無効部分が相当人間と違ったの。本来なら体が育っていく過程で無視される遺伝子の部分ね。そこは相当違うのよ」
 「そう」
 「無効部分のはずだから本来関係無いはずだけど、現にレイの内臓は全体的に未発達なのよ。それに色素の欠落もね」
 「そう。普通の人間と違うところはあるのですか」
 「構造的な差という意味では今まで挙げた事以外はないわ。たとえばカヲル君は人間と同じ容姿を持っているけど決定的な所で違うの。それはコアとS2機関があるところね。彼の瞳はたまたま眼の機能も持っているけどコアなのよ。それに小脳の横に小さな内臓としてS2機関があるの」
 「私には無いの?」
 「無いわ。むしろその辺りは不思議なところね。もしかしたらアスカの言う通り人間はもともとATフィールドを物理的な力として使える動物なのかもしれない。あなたの場合少しだけ余分な能力が付け加わっているだけなのかもね」
 「私遺伝子の無効部分が……使徒の遺伝子が暴れ出す事は無いの?」
 「それは本来あり得ないはずなんだけど、それだったらATフィールドも使えないはず……正直言って判らないわ」
 「そう…………」




 夜のネルフは静かだ。




 「博士……」
 「なに……」
 「私がもし急に……使徒に変わっていったら……」
 「変わっていったら……」
 「お願い……私を滅ぼして……ううん違う。絶対違う。私を治して。私を助けて。博士が私を殺した分、私を苛んだ分、私を苦しめた分。…………私何が有っても生きたいの。皆と生きたいの。博士やマヤさんだけが出来る。私生きたいの。絶対に死んだりいなくなったりしたくない。そんなの嫌。私なにが有っても生きるの……」




 レイは静かに強く言った。特に表情は変わっていなかった。ただ小さい拳がぎゅっと握られていた。




 「判ったわレイ。何が有っても私が何とかするわ。嘘じゃないわ。あなたを憎んでいた時も、あなたを苛んでいた時も嘘はついてこなかったわ。私が赤木リツコが絶対あなたを見捨てないわ。だから皆で生きましょう。何があっても」




 コクリ




 レイは頷いた。部屋はまた静かになった。
















 「やっほー朝よ相田ぁ、レイ起きてるぅ〜〜……うぁ」
 「ケンスケ、綾波、朝だぁ……うぁ」




 朝から元気いっぱいのアスカと顔中アザだらけのシンジが病室に入って見たものは……簡易ベッドを抜け出してケンスケのベッドに潜り込んで寝るレイと、レイを抱きしめて寝ているケンスケの姿だった。




 「しシンジあんた起しなさいよ」
 「アスカが起してよ」
 「いやよ。なんかねぇ」
 「僕だって……」




 二人が騒いでいるせいかケンスケとレイは目を覚ましたらしくもぞもぞと動く。逆にアスカとシンジはぴたっと息を潜めた。と言っても戸の側で身動きせずつっ立っているだけだが。
 ケンスケとレイはパチっと目を覚ます。




 「おはようケンスケ君」
 「おはようレイ」




 周りは見えてない。




 「おはようのキス……」
 「うん」




 二人は身を起す。毛布が滑り落ちる。アスカは思わず目を覆ったがさすがに二人は寝巻きを着ていた。




 レイが顔を寄せた。ケンスケがレイの頭を引き寄せる。




 長いキスだった。2分ぐらいはしていただろうか。顔を離した後やっとレイが二人に気付いたようである。二人にぽへ〜〜とした視線を送る。




 「あ……レイ私達外で待ってるから身仕度して、これ着替えと鞄」




 アスカはそう言うと紙袋と鞄を置き、ぼけっと二人を見ているシンジを引っ張って病室を出た。




 「凄いわね……」
 「うん……」




 二人は廊下の壁に寄りかかる。




 「ねえシンジ」
 「なに?」
 「たまにはシンジあんな風にキスぐらいしてみなさいよ」
 「あんな風って?」
 「自然にと言うか男らしくと言うか」
 「いいよ」




 シンジは左手でアスカを抱き寄せる。




 「えっ」




 シンジの意外に強い力に驚くアスカ。シンジは乱暴に唇を合わせる。




 「むぐ……」




 アスカはじたばたした。




 「むぐぐ……」




 だがシンジは意にかいさない。やがてアスカも抵抗をやめ目を瞑る。相当経ってからシンジはアスカを解放する。アスカはぺたりと床に座り込んでしまった。




 「これじゃ男らしくじゃなくて乱暴よ」




 その割には顔が上気してぽーっとしている。




 「それにしてもシンジにそんなに腕力有ったなんて」
 「うん。ここ半年で随分体力ついたんだ。身長だってアスカより高くなってるよ」
 「うそ〜〜」




 アスカは立ち上がると身長を比べる。確かにシンジの方がほんの少し高い。




 「だって昨日まで私の方がちょびっと高かったわ」
 「きっと猫背だったからじゃないかな」
 「そういえばなんか堂々としてるわ」
 「うん。なんとなくね」
 「ふ〜〜ん。……えい」
 「いて。なんで足踏むんだよ」
 「シンジのくせに生意気だからよ。大体デェリカシーというものが無さ過ぎ……」
 「アスカ、碇君いい……?」
 「「うぁ」」




 レイが側に立っていた。レイは既に制服に着替えている。素早い。それともアスカとシンジのディープキスが長すぎたのであろう。




 「レイいつからいたの?」
 「キスの最中から……アスカってキスされている時の表情……可愛い」
 「な、なにを言うのよ」




 思わずレイの台詞を言うアスカである。




 「綾波、ケンスケはもう大丈夫?」
 「うん。ただまだ少しふらふらしている。明日退院って博士が言っていた」
 「入ってもいいかな」
 「うん」
 「アスカ入ろうよ」
 「……う、うん」




 真っ赤っかなアスカである。最近は何かにつけ真っ赤になりやすいアスカである。シンジとアスカ、レイの三人はケンスケの病室に入った。




 「ケンスケおはよう、大丈夫かい」
 「おはようシンジ、まあね。ただまだ体中だるいよ。やっぱり人間無理は禁物だね」
 「相田おはよう。確かに疲れた感じね。だけどやるじゃない。素手であのカヲルとやりあおうと思うなんてさ。シンジも少しは見習って欲しいわ」
 「悪かったね」
 「そんで碇はどうだったんだい」
 「喧嘩別れね。ついでにシンジったらバカみたいな約束したのよ。叔父様と喧嘩してクリーンヒットが一発入るたびに次の話し合いの時1分間ずつ話を聞いてもらえるってそんな約束したんだって。ほんとバカよね」
 「へぇ、なんか目茶苦茶だね。シンジらしくないというか。気張ったというか」
 「そうなんだ。僕も何であんな約束したか判らないんだ」
 「ともかくシンジの叔父様コンプレックス解消の第一歩だわ」
 「アスカ、なんだか自分の事みたい」
 「レイだってケンスケが弱々しいよりいいでしょ。同居しているんだから番犬ぐらいには役に立ってもらわないとね」
 「アスカひどいな。でもまぁいいかなぁ。僕って弱々しいのは確かだからね。ケンスケには差を付けられちゃったよな」
 「そうよ。アンタ私のパートナーって事になっちゃってるんだからしっかりしてよね。ところでさぁ、ケンスケとレイはどうだったの」




 アスカの言葉にレイはぴくっと反応する。




 「レイ」
 「なあにケンスケ君」
 「俺思ったんだけど、リツコさんの実験台になるよ」
 「えっだめ。なんで。博士今は信じてるけどでもやっぱり……博士って私を……」
 「知ってる。レイが言っていたもんね。でもATフィールドを素手で破ったのは人類で俺一人だろ。だから俺が実験台になればレイの体の秘密も早く解明されるよ。そうすればレイだって苦しまなくて済む。ごめん昨日俺起きてたんだ。リツコさんの気配で目が覚めた」
 「そう……」
 「あのケンスケ、綾波、昨日の事って」
 「それは…………」




 レイはリツコの説明を繰り返した。




 「俺さレイを守りたいんだ。どんな事からも。俺生まれて初めてこんな気持ちになったんだ。レイを好きになってからずっとそうなんだ。だから……なんだ」
 「ケンスケ君……ありがとう。私もケンスケ君を守る。どんな事からも」
 「あの僕もリツコさんとこで実験台になるよ。綾波に遺伝子的に見て一番近いのは僕だし」
 「私も。EVAパイロットだったらどっかしら類似点もあると思うわ。…………決めた。私生化学者と遺伝科学者になろっと。私天才でなんでも出来るから将来何をするか一つに絞りきれなかったのよね。リツコだけではこころもと無いわ。天才アスカ様がレイを何とかしてあげるわ」
 「…………ありがと。みんな……」




 レイは俯いてしまった。ごしごしと手首の辺りで目を擦る。




 「さてとレイそろそろ学校行かないと遅刻よ。ほら相田と挨拶をすましたすました。どうせキスでもするんでしょ」
 「うん」




 レイは顔を上げる。擦ったせいか泣いたせいか目の下が少し赤くなっている。
 ケンスケはベッドから少し身を伸ばす。レイは片足を少し折り曲げ、顔を俯かせてキスをする。ごく自然だ。すぐ顔を離す。




 「じゃケンスケ君行ってくる」
 「うん。行ってらっしゃい」
 「ケンスケ行ってくるよ。また放課後」
 「相田しっかり寝てるのよ。レイが心配するから」
 「うん。休める時はしっかり休む。これも兵法の極意だからね」
 「じゃ。いってくる」




 三人は病室を出て行った。
















 それから二週間がたった。ケンスケの入院は6日間になった。状態が悪化した訳では無くついでに目の手術も行ったからである。今ケンスケは度無しのメガネを付けている。ケンスケの入院中ネルフの研究室の方に寝泊りしていたカヲルは結局リツコと住むことに落ち着いた。
















 それから一週間後、ここは中学校のサッカー部の部室である。嵐山第壱中サッカー部キャプテン梅林シンゴは悩んでいた。先週二年生が一人転校して行き部員が10人になってしまったのである。しかもGKをやっていた部員がである。これではサッカーが続けられない。練習が終って他の部員が帰っても部室で悩んでいた。




 「あ〜〜あこれじゃ来年は廃部だな。一年生がほとんど入らなかったし……」




 暗くなってきた部室で椅子に座り一人彼は悩んでいた。




 こんこん




 部室の戸がノックされた。




 「はい。どうぞ」




 がらがら




 トウジ、シンジ、アスカ、ケンスケが入って来た。




 「あ、君達、どうしたの」




 君達とはチルドレンとその仲間達という意味である。




 「ワシら頼みがあるんや。サッカー部入れて欲しいんや」
 「僕も」
 「俺も」
 「という訳なの、こいつら入れてくれないかなぁ〜〜」




 アスカ、ブリっ子で頼む。が必要が無い様である。




 「君達本当に入ってくれるのかい。もちろんいいよ。ありがとう」
 「ワシまだ足完全や無いさかい別メニューで練習になるけどいいかぁ」
 「いいよ。よかったこれで廃部を免れる」
 「え、なんで廃部になりかかってたんだい」
 「そうだね」
 「そう言えば、ここの部室ってちっちゃい上に半分壊れかかってるじゃない。なぜなのよ」
 「実はうちの学校ってもともと男子の数が少ない上にバスケや野球にほとんど部員流れちゃって、今部員10人だったんだ。しかも三年生が6人、二年生と一年生が二人ずつなんだ」
 「サッカー出来ないやないか」
 「そうなんだ。それでとにもかくにも11人以上になって嬉しくて」




 シンゴはうるうると感動していた。




 「それにしても13人じゃまだ少ないわよね」
 「そうなんだ。紅白戦も出来ないし、特にGKやってた奴が転校したから困ってるんだ」
 「あ、俺GKやりたいんだけどいいかな」
 「いいよ。願ったりだ」
 「……梅林君さぁ」
 「うめりんでいいよ」
 「じゃうめりん、いい考えがあたしに有るわ。ようは部員を集めればいいのよね」
 「そうだけど」
 「ふふふふふ……この天才美少女アスカ様に任せなさい」
 「惣流なにすんのや」
 「そうだよ惣流って高笑いの割にはぼけた事やるから」
 「アスカ何やる気?」
 「シンジもメガネもジャージも黙ってなさい」




 アスカは携帯をポケットから取り出すと掛け始めた。




 「もしもしレイ実は…………なの。OKじゃぁ」
 「もしもしヒカリ……」




 アスカはいろいろと携帯を掛けまくった。




 「これでよしっと」
 「惣流さん何をしてたんですか」
 「ふふふ……用意万端…結果をこけろ」




 と左手を腰に当て仁王立ちで右手でピースをする。




 「アスカ、それ結果をごろおじろだろ」
 「そっそうとも言うわね」




 と冷や汗を流したまま固まるアスカであった。
















 一週間後校内の掲示板の前に人だかりが出来ていた。そこにはポスターが張ってあった。




 「きたれサッカー部へ」




 そのポスターの左側ではカヲルがサッカー部のユニホームを着て片足をボールに乗せ片手で汗を拭きつつさわやかな笑顔を浮かべている。




 「マネージャーやトレーナー、医療スタッフもいます」




 ポスターの右端には上から、セーラー服のスカートを風でなびかせ意味も無く夕日をバックに仁王立ちでピースをするアスカ、体操着にブルマ姿で部員のストレッチを手伝うレイ、ジャージ姿で手にファイルを持ち練習を見つめるヒカリ、ボティコンに白衣のいつもの格好で足を高く組み椅子に座るリツコと横に白衣姿で微笑んで立って居るマヤ。




 「練習場は総天然芝」




 ネルフの見事に管理された運動場が写っている。夜間設備や雨天用の室内練習場、立派な休憩所や準備室も写っている。




 「応援団もいます」




 ネルフマーク入りチャイナドレスでセクシーポーズを決めるミサトとお互い背中合わせで立ちセーラー服にそれぞれ金と銀の手袋とハチマキをし腕を組みきりっと前を見るマユミとマナ。




 それらがネルフの技術でホログラム3Dポスターになっていた。




 完璧だった。完璧なポスターだった。
















 一週間後ネルフの運動場では一挙に二年生が三人一年生が七人女子マネージャーが二人増えたサッカー部が練習をしていた。
 練習メニュー作成と実際の練習時のタイムスケジュール管理などをレイとヒカリ、部員の世話はマナと一年生の女子二人、交渉ごとはマユミとカヲル、部の監督はアスカがしていた。特別顧問として本来無関係なミサトが無理矢理加わっていた。カヲルを監視する気らしい。もちろんネルフの陰のバックアップもある。



 「どお、うめりん。この天才アスカ様にかかればざっとこんな物よ」
 「おっしゃる通りです。もうアスカ様には足を向けて眠れません」
 「当然ね。よろしい。うめりんをあたしの下僕第二号に認定してあげるわ」




 かっかっかっか




 と高笑いするアスカ。




 「おいセンセ。惣流あのままでいいんか」
 「でもあのモードに入ると止めよう無いから」
 「そうだねシンジ。ところでシンジ下僕第一号って誰だい?」
 「僕らしいよ……」




 まだ高笑いを続けるアスカを呆れた目で見つつストレッチをする三バカであった。




つづく






NEXT
ver.-1.00 1998+12/04公開
ご意見・感想・誤字情報・りっちゃん情報などはakagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!


 あとがき




 と言う事で最近はフランスWCUPから日韓WCUPに向け頭を切り替えているまっこうです。
 トルシエ監督はこれから日本代表をどう育てて行くのでしょうか?私も葛城監督自身と日本代表を育てて行かないと。




 それでは、省いてしまった岡野のゴールデンゴールに感謝しつつまた次回。




 それにしてもワールドカップ優勝への道のりはまだまだ遠いです。







 まっこうさんの『チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり』その11、公開です。




 ついにサッカー部へ(^^)

 着々と進んでいます〜


 つぶれ賭のサッカー部も
 きれいどころ衆やNERVの力であっちゅーまにっ


 いい感じ良い感じ♪



 綾波レイちゃんの方も。

 レイちゃん本人も、
 友達も、
 彼氏も、
 大人たちも、

 みんなみんな−−

 とってもとってもいいです〜


 「私生きたいの。」
 ぐっときましたです。。。


 こう言ってくれて嬉しかったですす。。。




 さあ、訪問者のみなさん。
 感じたことをメールにしてまっこうサンへ!




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