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めそめそアスカちゃん3・泣く泣くダイバー
八谷タカオ通称たこはちは最近疲れていた。彼が担当する2−A組には問題児が多い。いつもジャージを着ている生徒、いつもカメラを持ちうろうろし変な写真を取りまくる生徒、何を考えているかわからないエバのパイロット二人、そして今度新たにもう一人加わった。今度の生徒もエバのパイロットである。学力自体はとても優秀である。ただしドイツ人とのクォーターの為いささか日本語に難がありテストの点はあまりよくない。容姿は教師のたこはちが見ても見惚れるほどで毎日下駄箱がラブレターで一杯になっているらしい。性格も良くラブレターも一々持って帰り読んでいるという話だ。ただ全て断っているらしい。ほぼ満点と思われる彼女だが、一点だけ問題がある。おとといも…………
「こら、なにをやっている」
たこはちが昼休みに校庭を散歩していると、一人の男子生徒がオロオロしていた。側ではアスカがぐすぐすと泣いていた。
「あの、その」
「お前が泣かしたのか?」
「いえ、その」
「名前は?」
「郡司ケイタロウです」
「なにをしたんだ」
「なにをって、あの、その」
「はっきりとせんか、はっきりと」
二人が押し問答になっていた時アスカが泣きながら言った。
「ケイタロウくん悪くないんです。ぐすん。私がケイタロウくんから……ぐすん……ラブレター貰ったけど……ぐすん……私、私ラブレター貰えないって断ったんですけど、ケイタロウくんに悪くって、悪くって……うううううぅわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん。ひぇ〜〜〜〜〜〜〜ん。びぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
その子は奇麗で可愛くて才能豊かで魅力的。
みんなも知ってる中学生。
でも彼女には一つ秘密があったのです。
彼女は
泣き虫だったのです
めそめそアスカちゃん3
泣く泣くダイバー
その場は何とか納めたが毎日最低一度は学校で大泣きする為、担任であるたこはちは疲れ切っていた。
「その上密かに警護までやれっつうんだから大変だよなぁ。加持主任に言って給料上げてもらわないと」
彼の本職はネルフの特殊監査部所属の警護班の隊員である。つまり加持の手下だ。彼はこんな面倒な仕事を押し付けた加持を恨んでいた。それはともかく担任として今日もホームルームの為教室に向かうのであった。
「え〜〜ホームルームを始める。まずは1週間後の修学旅行の件からだ…………」
昼休みになった。
「はい。シンジくん」
「ありがとうアスカさん」
アスカがお弁当をシンジに渡す。何気なくシンジはそれを受け取る。
「せっ、センセ、なんで惣流さんに弁当もらってんねん」
「え、だって。今日アスカさんの当番の日だし」
「当番って?」
ケンスケも気になり突っ込みを入れる。ヒカリも近寄って聞き耳をたてる。レイもシンジの横に寄ってくる。
「だからお弁当を作る当番。毎日交代で作る事にしたんだ」
「センセまさかあのまま同棲したっちゅうんじゃないやろうな」
「ちがうよぉ〜〜ただ一緒に住んでるだけだよ」
「「それを同棲っちゅうんじゃ。お前毎日惣流さんとなにやってる〜〜〜〜」」
おもわずトウジとケンスケがユニゾンで突っ込む。男性陣の会話におろおろしていたアスカは…………
「同棲じゃないもん。そんな不潔じゃないもん。うううううううう……シンジくんそんな事しないもん…………ううううううぅぇえええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
「あ、ああアスカさん、落ち着いて、ね、落ち着いて。トウジ、ケンスケ、謝ってよ。僕たち仕事でミサトさんの所に下宿している訳なんだし。同棲なんていったらアスカさんに悪いよ」
「わ、わかった。えろうすまへん。惣流さん許してや。このとおりや」
「惣流さんごめん。もう絶対言わないから許して」
「アスカさん。この二人悪気があった訳じゃないの。許してあげて」
トウジとケンスケがアスカを拝み倒すように謝る。ヒカリの取り成しもありやっとアスカも落ち着いてきた。
「ふぅ〜〜〜〜ん。アスカさん結局ミサトさんと碇君と一緒に住む事になったんだ」
アスカ、シンジ、レイ、ヒカリ、トウジ、ケンスケは机を集め輪になって昼食をとっていた。トウジとケンスケは学食で買って来たパン、残りは自前のお弁当である。レイは最近お弁当を持ってくるようになった。
「そうなの。日本にいる間はミサトさんのところにいる予定よ」
「ふぅ〜〜ん。シンジがうらやましいよ。惣流さんにミサトさん。僕の知っている限り5本の指に入る美人の二人に囲まれて生活してるんだからな」
「うん。二人ともいい人だし楽しいよ」
シンジが答える。
「そうかぁ。センセほんまいいわ。そやところで修学旅行の準備は終わったんか三人とも。三人はネルフの仕事でなにかと忙しいから大変やろ」
「うん。あした買い物に行く予定なの」
「碇君と行くの?」
ヒカリが聞く。
「僕明日はネルフでテストだから」
「加持さんていう人と行くの。お父さん替わりの人なのよ」
「ふぅ〜〜〜〜ん。どんな人なの?」
「すごく格好がいい人なの。ほんとはお父さんじゃなくて旦那さんがいいぐらい」
「碇君とどっちが格好いい?」
ヒカリちょっと意地悪。
「え、あ、その、そんな、う、う、意地悪よ、うううううううう」
「あ、アスカさんごめんなさい。そうよね。比べるものじゃないよね。どちらもいい人だものね」
あせるヒカル。横で少し赤くなっているシンジ。慌ててフォローを入れる。
「加持さんってアスカさんと一緒にドイツのネルフから来た人なんだ。ミサトさんとも知りあいの人だし。すごく渋くって格好いいよ」
「じゃ今度会わせてね、アスカさん」
「うん」
何とかアスカは持ち直したようだ。
「シンジくんは用意終わったの?」
「僕は特に持ってく物もあまりないし、終わっているよ」
「綾波さんは?」
レイはシンジの横で小さいお弁当箱の中身をウサギみたいに少しずつもぐもぐと食べている。ちなみにお弁当はご飯と野菜の煮付けとひじきの煮物にポテトサラダである。蛋白質は一緒に飲んでいる牛乳で取っているみたいだ。箸を止めたレイは、顔を上げるとぼそっと言う。
「まだ。私も明日買いに行くの」
「へぇ〜〜だれと?」
レイはちょっとの間シンジを見ていたが、またもぼそっと言う。
「ネルフの人」
「ふぅ〜〜ん」
無愛想なレイであるが、これでも昔の10倍は喋る。その後も昼飯時は修学旅行の話で盛り上がった。
翌日は晴れていた。朝食を済ましたシンジとアスカは、共にネルフへ向かった。ちなみにミサトは徹夜開けでぐ〜〜すか寝ていた。
「シンジくん今日はどんなテストなの?」
「初号機で試して見たい事があるってリツコさんが言ってた。内容は秘密だって」
「ふう〜〜ん」
「アスカさんは今日どうするの?」
「加持さんが一日中買い物つき合ってくれるの」
「よかったね」
二人は話しながらネルフの入り口ゲートへ向かった。入り口ゲートでは加持が待っていた。
「いよ。シンジ君アスカちゃん、夫婦でご来場だね。新婚生活はどうだい?」
「しっしっしんこんって……」
「私そんな、そんな、そんな事してないのに……うううううう……ううぇん……うぇぇぇぇん……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
「あ、ごめんアスカちゃん。新婚生活って、要は同じぐらいの年の男の子といっしょに暮らしてみてどうだって事だよ。別にシンジ君とアスカちゃんが一線を超えたとか言ってるんじゃないんだよ」
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。やっぱり思ってるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ。ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
「か、加持さん。ぼっぼ僕がそんな事まで出来るわけ無いじゃないですか。僕は寝てるアスカさんにキスしようとして諦めたぐらいですよ」
シンジもあわてて思わぬ事を口走ってしまう。一瞬アスカが泣き止む。シンジは加持とアスカの表情が固まっているのに気が付く。そして失言に気付く。
「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。何で言っちゃうのよぉ。ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
この後ゲート前でアスカは1時間にわたって泣き続けた。マヤ、リツコ、冬月らの説得?によりやっと泣き止み加持と一緒に買い物へと出かけた。冬月は半ば本気で、アスカが泣けなくなるように改造するようリツコに言おうと思った。シンジもリツコもマヤも疲れきり実験結果は最悪だった。
一方アスカと加持はリニヤに乗って街の中心部に来ていた。アスカは嬉しそうに加持とウィンドウショピングを楽しんでいた。アスカは加持にしがみつく様に腕を組んで歩いている。
「加持さんとショッピング出来るなんて嬉しい〜〜」
ただいま上機嫌。笑っているとまさに天使だ。一方加持は疲れて来た。なにを買うのだかわからずにいろいろな店をもう30店も廻っていれば男としてはそうだろう。ついそれが声に出てしまう。
「アスカちゃんまだなのかい?」
「加持さん私とショッピングしたくないの……ううう……うぇうぇ」
「いや……そ、そうじゃないんだよ。ね、アスカちゃん。ただ何を買うかまだ聞いてなかったから」
「う、うん。じゃそのお店へ行きましょう」
「わかったよ」
アスカの泣き声よりは妥協を選んでしまう加持であった。アスカは加持を引きずるように百貨店に入っていった。どんどんエスカレーターで階を上がる。
「な、なんだ。ここ水着コーナーじゃないか」
「ねえねえこれなんかどお〜〜」
「いやはや中学生にはちと早すぎるんじゃないか。あっシンジ君に見せたい訳か」
「そんなんじゃないもん……」
「いや〜〜ぁ若いっていいなぁ〜〜。でも気をつけろよ。シンジ君も男だから、刺激しすぎると危ないぞ」
「そんな事じゃなくて……新型の大人っぽいのを着てみたかっただけなのに……うううう……うえうえ………うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん。加持さんのバカァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。ひぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
「あ、アスカちゃん、わかったから頼む泣かないでくれぇ〜〜〜〜」
アスカはビキニの水着の上下を握り締め、床にペタンと座り込み泣き始めた。加持は自分の迂闊さを呪った。その後1時間にわたってアスカは泣き続け、おかげでその日の水着の売り上げは激減したという。
「……へえ〜〜そうなんだ」
ここは百貨店の屋上のパーラー。加持はアイスコーヒー、アスカはチョコレートパフェを楽しんでいる。
「うん。修学旅行とても楽しみなの。そおいう事全部パスしてきたから」
「で修学旅行はどこに行くんだい?」
「沖縄なの。予定にはスクーバダイビングも入っているのよ」
「スクーバねえ。そう言えばもう三年も潜ってないな」
「加持さんは修学旅行はどこに行ったの?」
「あ、俺達そんなの無かったんだ」
「どうして?」
「セカンドインパクトが有ったからな」
「しくしくしくしく。そんなの無いわ。うううう。ひっく。うっく」
ここはその日の葛城家の夕食後である。
「ごめんね、アスカちゃん。でもしかたないのよ。パイロット全員が修学旅行で居なくなるわけにはいかないのよ。ほんとごめんなさい。私達大人がしっかりしていないばっかりに、あなた達につらい思いばかりさせて」
ミサトはシンジとアスカに頭を下げる。
「ミサトさん……うっく……いいわ、もうあきらめる……ひっく……考えてみればそうね……うう……ひっく」
「ごめんね、その代わりと言ってはなんだけど、その期間内は完全休暇、第三新東京市内でならネルフの費用で遊び放題をしてもいいわよ。物運びに加持や他の人も貸してあげる」
「ミサトさん、ネルフの施設は使ってもいいんですか?」
「もちろんよ。言ってくれればできるだけの事はするから」
「わかりました。アスカさん、じゃ皆で楽しもうよ」
「ひっく。うん、そうね」
やっとアスカも、泣きやんできた。
「あ、そうだ。こんな時にちょっと言いにくいんだけど、担任の八谷先生から連絡があったのよ。シンジ君最近成績ががくんと落ちているって。まあ勉強の余裕が無いのはわかるけど少しはがんばってよ」
「はあ、やってるつもりなんだけど……」
「特に数学と物理がだめだって。せっかく大学迄出ちゃっている天才美少女と暮らしているんだから教えてもらったら?」
「大学?」
シンジはアスカに聞く。
「うん飛び級で去年卒業したの。ただこちらでは、同じぐらいの年の子達と一緒にいたかったから中学に入れてもらったの」
「アスカさんってすごいんだ」
「でも今考えると飛び級なんかしなければよかったと思うの」
「どうして?」
「だって周り大人の人しかいないんだもの。だから私とても寂しかったの。加持さんだけが私の気の許せる人だったの」
「そうだったんだ」
ミサトはえびちゅをすすりながら二人の会話を聞いたが、こう言う。
「アスカちゃん。加持に気を許しちゃだめよ。あいつ女には見境無いからアスカちゃんみたいなまだ13才の子でも襲いかねないわよ」
「加持さんそんな人じゃないもん。それに加持さんならあげてもいい」
「「へ?」」
ミサトとシンジが凍り付く。アスカも言ってから気がつく。
「え、その、あの、あああ、忘れて今の、お願い」
アスカがもう瞳に涙をいっぱい溜めてお願いする。ミサトとシンジは慌ててフォローする。
「シ、シンジ君今何も聞いてないわよね」
「え、ええ、僕はアスカさんがあげてもいいなんて言ったの聞いてませんよ」
「うううううう…………やっぱり後で……うう……からかう気なんだ……うぇうぇうわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
今日も葛城家はにぎやかであった。
「じゃアスカさん綾波さんお土産いっぱい買ってくるからね……」
「シンジ、二人と仲良くなぁ」
「センセ達の分もたっぷり遊んであそんでくるわナハハハハハハハ……」
いろいろな言葉を残し友達は修学旅行に旅立った。シンジ、アスカ、レイの三人は一緒に見送った。空港からリニアで街に戻る。レイと途中で別れ二人はミサトのマンションに戻る。昼過ぎになっていた。
「さあ今日は二人でみっちりお勉強しましょ。私が物理と数学教えるからね。その代わり私には漢字教えてね」
「そうだね。そしたら明日と明後日、綾波と加持さん、邪さん、マヤさん達と思いっきり遊べるし」
「邪さんって?」
「綾波とマヤさんの知り合いだって」
「ふぅ〜〜ん」
「勉強の前に何か食べてからにしない?」
「そうね。賛成」
シンジは余り物を使いチャーハンを作った。軽く昼飯を済ました後、二人はダイニングで仲良く勉強を始めた。
「シンジくんこれなんて読むの?」
「これはむじゅんだよ」
シンジとアスカはダイニングのテーブルで仲良く並んで勉強している。
「アスカさんここのところ何だけど……」
「え〜〜と。なんて書いてあるの」
「熱膨張に関する問題」
「熱膨張ね。熱膨張には体積膨張や線膨張などがあるの。とは言っても物は温めれば大きくなって冷やせば小さくなるっていう常識的な事が基本なの。…………」
「じゃここは……」
シンジは問題を聞く為にアスカの方に振り返った。
ボム
シンジの顔が何か柔らかい物にうずまった。その時アスカはシンジの問題を見るために椅子から立ち上がりシンジの方に身を乗り出していた。
シンジはアスカの豊かな胸の谷間に顔を埋めていたのだった。シンジは少しの間何が自分に起きたか判らなかった。一方アスカは唖然としてテーブルの上を見つめていた。アスカは急に立ち上がり、後ずさった。唖然とした表情のまま、部屋の入り口まで下がると急に振り向き自分の部屋に向かい走り、飛び込んだ。
「アスカさん」
シンジは慌てて部屋の前まで追い掛ける。シンジの足音を聞いたのかアスカの声がした。
「シンジくん開けないで。ぐす。さっきのはわざとじゃ無いのは判っているわ。でも……ぐす……恥ずかしいの。だから夕食時までほおっておいて」
「判った。アスカさん、ごめん」
「…………」
シンジはアスカの部屋の戸を少しの間見つめていたが、やがてすごすごとダイニングに戻って勉強を再開した。しかしシンジの頭はアスカの豊かな胸の感触から考えを離す事が出来なかった。彼は悶々としながら勉強をしていた。
一方アスカは自分の部屋でぺたんと座り込んでいた。とても恥ずかしくてボロボロ涙も出ていたが不思議に悲しくはなかった。むしろ困惑していた。あの時私どうしたのかしら。とても恥ずかしかったのに、シンジくんの頭を抱きしめたくなったわ。私悪い子にえっちな子になっちゃったのかしら。アスカは自分の胸を抱きしめてずっと座り続けていた。
こんこん
「アスカさん、夕ご飯出来たよ」
シンジはアスカの部屋の戸を叩いてそう言った。結局あの後勉強は手に付かなかった。テレビを見たり、本を読んだりして時間をつぶした。それでも時間はつぶしきれなく少し早めであるが夕食の準備をしたのだった。アスカの大好きなハンバーグにした。
「今行くわ」
部屋から声がする。シンジはほっとした。シンジはダイニングに戻ると夕食をテーブルに並べた。準備がちょうど終わった時、アスカがダイニングに現れた。アスカはシンジと視線を合わせずに席に付く。シンジはご飯と味噌汁を自分とアスカに給仕すると向かい合わせの席に座る。シンジは思い切って少し大きめな声で言う。
「いただきます」
アスカは少し肩をビクっとさせたが小声で言う。
「いただきます」
二人は俯き加減で食べ始めた。会話が全然無い。
「は、ハンバーグどうだったかなぁ」
「う、うん。とっても美味しいわ」
話も続かない。
「シンちゃん、アスカちゃんただいまぁ〜〜〜〜」
夕食が終わりかけた時、景気よくミサトが帰ってきた。二人は何となくほっとした。
「えびちゅ、えびちゅっと、あら今日は早い夕食ね。あシンちゃんのハンバーグね。これえびちゅのつまみにいいのよねぇ〜〜〜〜」
ミサトは自分の部屋に戻ると電光石火の早さで身支度を終えて、ダイニングに来て席に付く。
「シンちゃぁ〜〜ん、さっそくえびちゅね」
ここまできてやっと二人がぎこちないのに気がつく。
「あれ〜〜二人ともどうしたの。アスカちゃんシンちゃんに襲われでもしたの〜〜?」
お軽いミサトである。
ビク
二人の肩が震える。
「へ?……あ、あの、ま、まさかシンちゃん」
「ミサトさん違うのよ。落ち着いて」
「アスカちゃん庇わなくていいのよ」
ミサトはアスカをむりやり立たせると、アスカの部屋まで引きずるようにして連れていく。シンジは椅子に座ったまま動けなかった。
「どうしよう」
どうするも何も無いのだがシンジは悩んでいた。一方アスカはミサトに部屋で事情を話していた。
「じゃあくまでも偶然でシンちゃんがアスカちゃんにむりやり触ったりしたわけじゃないのね」
「うん」
「そう。でまだなんとなく気まずいのね」
「うん。だけどそれだけじゃないの」
「どうしたの?」
「あの……私……シンジくんの頭が突っ込んできた時、すごく恥ずかしかったけど、でもなんだか心地好かったの。頭抱きしめたくなっちゃったの。ぐすん。きっと……ぐすん……私えっちで悪い子になっちゃったんだわ……うううう」
鼻をすすり上げているアスカを見て少し考えた後ミサトは言う。
「アスカちゃんって、今までドイツで好きな男の人居た?」
「……ぐすん。加持さん……ぐすん」
「それは知っているわ。そうじゃなくって同じ年代の男の子で」
「……いない……ぐす」
「そう。……ねえアスカちゃん、シンジ君の事どう思う?」
「……どうって?」
「嫌い?」
「嫌いじゃないわ。そんな事絶対無いわ」
「じゃ好き?」
「え…………好きって、その…………よくわからない」
真っ赤になり俯いてもじもじするアスカ。一目瞭然である。
「ふぅん。まあいいわ。ようするに気まずいだけでシンちゃんに対しては怒っている訳ではないのね」
「はい」
「じゃミサトお姉さんにどぉ〜〜〜〜んと任せなさい」
ミサトはアスカを引き連れてダイニングに戻った。シンジはまだ悩んでいた。
「アスカさんこの家出ていくなんて言ったらどうしよう」
「シンちゃん」
悩んでいて気がつかなかったシンジは、急に後ろでミサトの声がしたため驚いて振り返る。
むぎゅ
シンジの顔面は柔らかいものに包まれた。後頭部はがっちりと押さえられ顔はぐいぐいとその柔らかいものに押しつけられた。
「アスカちゃん、えっちで悪い子ってこのぐらいやる子よぉ〜〜ん」
ミサトはシンジの顔を無理矢理自分の豊かな胸に押しつけているのだった。シンジはじたばたしたが、加持をネックハンギングツリー出来るミサトの腕力からは逃れられなかった。初めは唖然としていたアスカであったがにこにこと笑っているミサトとじたばたとしているシンジを見て、おもわず吹き出してしまった。
うふふふふふふふ
アスカに自然な笑みが戻った時ミサトはシンジを開放した。
「ミサトさん酷いですよ。あっアスカさん」
「ほんとシンジくんってえっちね」
にこにこしながらアスカが言う。
「今度あんな事したら。お仕置きよ」
「うん」
シンジもアスカがにこにこしているのでほっとする。
「じゃあミサトさんも帰ってきたし夕ご飯再開しましょ」
「そうだね」
「じゃ今日はえびちゅいつもより多くね」
葛城家の夕食は再開した。
翌日の昼過ぎ、ネルフのゲート前にシンジ、アスカ、レイ、邪、マヤが約束の1時に集まった。加持が少し遅れてくる。
「いよ、アスカちゃん、シンジくん、レイちゃんも。邪、マヤちゃんも付き添いご苦労さん」
「加持さぁ〜〜ん」
だきだき
アスカは加持の腕にぶら下がるように抱きつく。一方レイはそれとなくシンジに寄り添う。
「邪、マヤちゃん悪かったなぁ、付き添いに付き会わせちゃって」
「かまいませんよ。久しぶりの休日、遊園地、しかもただ。結構おいしいですよこの話。ね、マヤちゃん」
「そうね、邪さん」
こちらの二人は堂々腕を組んでいる。二人は赤木研究室公認カップルである。
「じゃ遊園地に向かって出発進行〜〜〜〜」
アスカの元気よい掛け声と共に一行は移動を開始した。リニアで20分ほど行くと第三新東京市のはずれの遊園地に着く。この遊園地の実質上の経営はネルフがおこなっている為、ネルフのC級職員以上はフリーパスである。今日のメンバーは全員該当していた。
「加持さんと遊園地!!!!」
「遊園地なんてひさしぶりだなぁ〜〜」
「私遊園地初めて」
三者三様であるが、チルドレン達は楽しそうである。邪とマヤも付き添いとは思えないラブラブフィールドを張っている。ネルフカードを見せて入り口を通るといつの世にも変わらぬ遊園地の姿があった。親子連れ、カップル、遠足、誰もがうきうきとしている。
「あっティーカップ」
遊園地の定番ティーカップが入り口の近くにあった。アスカが加持を引っ張って行く。皆も暗黙の了解で乗り込んだ。加持とアスカ、シンジとレイ、邪とマヤで一つずつのティーカップに乗り込む。ティーカップが動き出した。ティーカップのお約束として皆思いっきりティーカップを回す。
くるくるくるくる
回る回る世界は回る。皆降りても目が回る。
「「「あらら」」」
申し合わせたように女性陣が男性陣にもたれかかる。アスカは本当に目を回し加持のシャツにしがみつく。レイは静かにシンジの手を握る。マヤは邪の首に抱きつく。まさに三者三様である。少したつと女性陣の眩暈も収まってきたようだ。
「アスカちゃん次何に乗る?」
「メリーゴーランド」
アスカが目をきらきらさせて言う。
「そうか。ちょっと恥ずかしいなぁ」
加持は言う。
「え〜〜加持さん乗ってくれないの……」
すでにお目目うるうるのアスカである。
「まあまあ、お付きあいしましょ。あの馬車ね。シンジ君、レイちゃん、アスカちゃんがメリーゴーランドに乗りたいって言うんだけど君たちもどうかな」
「私乗りたい」
珍しくレイが積極的に言う。
「僕もいいですよ」
シンジも続く。
「邪、マヤちゃん君たちは?」
「かまわないっすよ」
「すてきなメリーゴーランドね」
仲良く六人で乗ることになる。ちょうどメリーゴーランドの回転が止まる。加持とアスカは馬車へ、シンジとレイはその前の馬二頭に並んで座る。邪とマヤは馬車の後ろの馬一頭に一緒に乗る。やがてメリーゴーランドは動き出した。
「やっぱりロマンチックだわ。いつか私もこんな馬車に乗るお姫様に成りたいわ」
「お姫様はなかなか難しいけど、きっと白馬の王子様が来てくれるよ、アスカちゃん」
「そうだといいなぁ」
「たとえば、シンジ君なんかどうだい」
「え……シンジくん」
アスカは真っ赤になる。
「ふぅ〜〜ん」
「加持さんのばかぁ……また私の事からかう気なんだ……くすん、くすん」
「ちがうちがう、アスカちゃんも年頃なんだから同じぐらいの年の彼氏がいたほうがいいと思ってね」
「でも私加持さんがいい、くすん」
「今はそれでもいいけどね。いつかはね」
「いつかは……なの」
馬車は揺れる。
「加持さん」
「なんだいアスカちゃん」
「相談があるの」
「実はね……」
アスカはもじもじする。時間が過ぎた。メリーゴーランドは速度を落とし静かに止まる。結局相談は出来なかった。六人は出口に集まる。よく見ると邪の唇が赤い。マヤの口紅のようだ。レイの頬も少し赤い。
「次はどうするか。そうだ邪、マヤちゃん。君たちはゆっくりデートを楽しんでこいよ。りっちゃんやミサトにはちゃんと付き添いやってたって言っとくから。5時ごろ出入口の側に来てくれ」
「そうですか。すいませんね加持さん。じゃマヤ行こう」
「うん。じゃ加持さんまた後で」
二人はお互いの腰に手を回し小鳥のようなキスを繰り返し去っていく。
「加持さんあの邪さんってどんな人なんですか」
あまりのべたべたぶりにシンジが聞く。アスカは見ているだけでも恥ずかしいのか目を覆い指の間から二人を覗いている。
「ああ奴はりっちゃんの研究室の所員でマヤちゃんの同僚だよ。二人は……まぁ見ればわかるか」
「はぁ。そうですか」
「なんだか凄い」
アスカも呟く。レイでさえも興味深そうに見ている。
「りっちゃんの研究室はラブラブなカップルが多いんだよ。だいたいからしてりっちゃんも共稼ぎだし」
「リツコさんって結婚してるんですか?」
「今長期出張に出てるけど、あそこの西田シンイチ博士って旦那さんだよ。6つの時からの幼なじみだってさ。ネルフにいる時は夫婦別姓なんだ。と言うより赤木リツコって名はネルフで仕事をする時の名だね。天才赤木博士親子は世界的に有名だから。ラブラブ度で言えばマヤちゃん達より上だね」
「そうなんですか。知らなかった」
「うらやましいなぁ。いつも愛する人といっしょなんて」
「アスカちゃんもすぐそうなるよ。さてと次どこに行く?」
「あの確かここには『冬景色の部屋』ていうのがありますよね」
この遊園地の売り物の一つに「冬景色の部屋」がある。サッカー場が入るほどの大きい建物の中にCGと人工降雪機とホログラフを使った装置があり、入った人たちが冬の第三新東京市にいるように感じる部屋である。常夏の国となった日本では、冬を味わった事のない子供や冬の思い出に浸る大人が多い為結構人気がある。10分ずつの総入れ替え制でいっぺんに入る人数も少なく押さえている為カップルにも人気がある。今日はクリスマスの第三新東京市駅前広場の設定になっている。ちなみに雰囲気を出すために冬物衣服も貸している。
「僕雪見た事なくって……」
「シンジくんって雪見た事無いの?」
「うん。だって日本出た事無いから。アスカさんは?」
「ドイツには冬があるから……」
「ふぅ〜〜んいいなぁ」
「じゃみんなで入りましょ」
「綾波はどうする?」
「入る」
「じゃそうしよう。加持さんは?」
「そうだな。アスカちゃんとレイちゃんの冬服もなかなかいいだろうし、つきあうよ」
アスカは加持の言葉に照れて頬を赤くする。レイは特に変化はない。4人は会場に入る。カウンターでそれぞれ貸衣装のリストと今日の地図を渡される。貸衣装はいくつかのパターンでいろいろなサイズがある。自由に選ぶ事が出来る。
「そうだ」
アスカが言う。
「貸衣装お互い見せないで別々の入り口から入りましょ。本当の待ち合わせみたいで素敵だと思うわ」
「そりゃいいね、アスカちゃん。シンジ君もレイちゃんもそれでいい?」
「僕はいいですよ」
「私もいい」
3人も賛成する。
「じゃ。加持さんはこの入り口、シンジくんはここ、綾波さんはここね」
皆特に異論は無いようだ。四人はお互いの衣装が判らないように一人一人手続きをし各入り口に付属している更衣室に向かった。待ち合わせは第三新東京市駅前の天使の彫刻の前とした。
「これが雪なんだぁ」
シンジは彫刻の前で皆を待っていた。クリスマスの夕暮れが再現されている。ホログラフをMAGIがコントロールしているため、まったく実物の街と区別がつかない。また催眠誘導の為、単なる強化プラスチックの置物は実際そこに建物がある様に感じられる。雪だけは人工降雪機で降らせている。シンジは初めての雪の感触にはしゃいでいた。
「よ。おまたせ」
加持がやってくる。結局シンジは普段の格好に厚いブルゾンにマフラーを加持は渋いコートを羽織っただけとなる。気温は冬にあわせているので下半身が寒い。
「加持さん。その格好ですか」
「まぁ男はこんなもんでいいだろう」
お互い苦笑いをする。
「おっシンジ君、お姫様達の登場だ」
加持が指し示すほうを見るとアスカとレイが並んで歩いて来た。
「ほぉ、これはなかなか」
アスカは赤で統一していた。赤い長靴、赤い長ズボン、赤いセーター、赤いふかふかしたコート、赤いベレー帽、みんな赤だ。赤いコートの上にきらきらと金髪が光る。火の妖精のお姫様が冬の国に遊びに来たというところか。いっぽうレイも申し合わせたようにほとんど同じ格好である。ただ全てが深い青であった。青い長靴、青い長ズボン、青いセーター、青いふかふかとしたコート、帽子はかぶっていないが青い手袋をしている。見ていると全てが朧に包まれそうだ。冬の精霊のお姫様の出迎えだろう。
「綺麗だなぁ」
思わずシンジは口に出す。アスカは衣服と同じぐらい頬を赤くする。レイもほんのり頬を染める。
「シンジ君これはすごいなぁ。さすがネルフが誇る美少女二人だな。後五年もすればミサトもりっちゃんもマヤちゃんも追い越すな、こりゃ」
「……」
シンジは見とれている。
「さて時間も限られている事だし、このシチュエーションだと二人ずつに別れて行動だな。シンジ君どうする?」
「え?あの…………」
美少女二人を前にして見とれていたシンジは、加持の言葉に戸惑う。
「その、えっと……」
「ほれシンジ君美人を待たせてはいけないぞ」
加持が意地悪そうに言う。その間、アスカとレイは美しい彫刻の様に立っている。アスカはシンジと加持のやり取りを見ている。一方レイは胸に手を当ててシンジをじっと見つめている。アスカはそんなレイの様子に気づいた。
「私今日は加持さんと一緒。さ、加持さん行きましょ」
アスカは加持の手を引っ張りその場を離れて行った。少し唖然としてシンジとレイはその場に残された。二人は何となく黙っていた。
「アスカちゃん、いいのかい?」
「なにが、加持さん」
「なにがって言われても困るが、シンジ君レイちゃんと一緒だよ」
「だって私、加持さん大好きだもん。それに綾波さん嬉しそうな切なそうな顔してたから……私わかるから、私毎日シンジ君と一緒だから、今日は加持さんと一緒」
ニコリ
アスカは微笑む。加持もつられて微笑む。
「アスカちゃんは気立てがいいなぁ。じゃ行こうか」
加持はそう言うと自分のコートの前を開きアスカを包む。二人はゆっくりと歩いていく。
「ロマンチックだわ」
アスカが少しぼっとした表情で呟く。完全に雰囲気に酔っているようだ。
「アスカちゃん」
加持が真剣な眼差しで顔を近づけてくる。
「えっえっえかか加持さん……」
アスカは吃りながらもミサトの忠告を思いだし覚悟を決める。ファーストキッスは加持さんにあげようと。が……
つんつん
「早く彼氏作れよ」
目を瞑って待っていたアスカの頬を加持の指が突っ突く。
「もう。加持さんの意地悪。泣いちゃうから」
少し残念なような少しほっとしたようなアスカであった。本当は少し怖くて目尻に涙が溜っていた。
「じゃ少し歩こうかアスカちゃん」
「ええ加持さん」
十分間は短い時間である。徐々に会場内が明るくなってくる。ホログラムという名の魔法が解けてそこは雪が降り積もるプラスチックの置物がある建物に戻っていた。大人は昔の夢から覚めた様にその場に立ちつくす。子供は残念そうにしょんぼりする。そして人達は出入口に戻っていく。
四人が再び会場の外に集まったのは5分後の事だった。
「アスカさんどうだった?」
「雪見たの久しぶりだったから嬉しかったわ。やっぱり雪の夕暮れを並んで歩くのってロマンチックね」
アスカは情景を思いだし、目がきらきらしてくる。
「ふぅ〜〜ん。アスカさん加持さんの事好きだものね」
鈍いシンジがぼけぼけとして言う。
「う、うん。加持さん。大好き」
アスカはにこにことしながらも何となくさえない表情をする。
「綾波さんはどうだった?」
アスカは気になるみたいだ。
「どうって?」
レイはいつもの様な答えだ。ただ少し困惑の表情が顔に出ている様にアスカは思った。
「えっと。雪を見て」
「よかった」
レイは答える。またしても表情が変わった様にアスカは思えた。少し微笑んだようにみえた。
「そう。それはよかったわ。シンジくんは?」
「うん僕も雪見るの初めてだし、ブルゾンなんか着るの初めてだったし楽しかった」
「そうか。俺も久しぶりに雪を見て嬉しかったよ。それにアスカちゃんとレイちゃんの冬服も見れたしいい目の保養になったよ。シンジ君も俺もラッキーだな。身近にこんなとびっきりの美少女が二人もいて」
「えっええ」
急に振られてシンジは慌てた。又も横ではアスカが顔を真っ赤にしていた。レイも頬が少し赤くなっていた。
その後も四人はいろいろな乗り物や施設を回った。アスカもシンジもはしゃいでいた。レイも微笑んでいる事が多かった。加持は嬉しく思った。過酷な運命を背負うこの子供達にいつも笑いが絶えないようにと願った。そしてその為に全ての力を傾けようと思った。それが彼の愛する者の意志でもあると思った。
「ねえ加持さんどうしたの?」
腕を組んで……というか腕にぶら下がるように歩くアスカは加持が少しぼっとしているのを見て言う。シンジとレイは後ろを言葉少なげに会話をしつつ並んで歩いている。
「あ、ごめん、ごめん。そうだ、そろそろ時間だから最後に一つ何か乗って終わりにしよう。何がいい?」
「観覧車がいい」
加持とアスカの後ろからレイの声がする。加持とアスカが振り返るとレイは微笑んでいるようだった。アスカはそんなレイがとても綺麗だと思った。
「私も賛成」
「じゃ決まりだな」
「僕の意見はなしですか?」
シンジが苦笑いしながら言う。
「まあこういう時は女性優先だからな、シンジ君」
加持は微笑みながら言う。
「そういうものですか。まあ僕も観覧車でいいですよ」
「それじゃ決まりだな」
一行は観覧車に向かった。
初めのゴンドラに加持とアスカが、次のゴンドラにシンジとレイが乗る。ゴンドラは徐々に上がっていった。
「あのぉ……加持さん」
「なんだいアスカちゃん」
アスカが少しおどおどと上目づかいに加持に言う。
「相談があるの…………」
「ふぅん。何だい、言ってごらん」
アスカは昨日の事を話した。話し終えた頃ゴンドラは一番上まで上がっていた。
「で何を相談したいんだい?」
「何ってその…………私どうしちゃったのかぁなあと思って」
「まぁ悪い子やえっちな子じゃないよ。葛城なんかはえっちな子だけどね」
加持はそう言ってウインクする。
「それで聞くけどシンジ君どう思う?」
「どうって……その……」
アスカの顔は真っ赤である。
「聞き方悪かったかな。シンジ君の事よく考えたりする?気になったりするかい?」
「う…………うん」
「そうか。それはね初めて同じ年頃のしかも似たような事をしている男の子が側に居るから気になってしかたがないんだよ。もう少したてばもっと自然にもっと仲良くなれるよ」
「加持さんとミサトさんみたいに?」
ちょっぴり残念そうに言うアスカ。
「まあね。もっとも葛城とは自然と言うよりどつき漫才だけどね」
「でもうらやましいなぁ。私加持さん大好きだけど、ミサトさんには勝てない気がするもの」
「そうかい。でも俺は浮気者だからアスカちゃんがもう少し大人になったらつきあうぜ」
ぱち
加持はわざと気障っぽくウィンクをする。
「ほんと加持さんって、ミサトさんが言っていた通り要注意人物ね」
「要注意人物とは酷いな」
うふふふふふふ
ははははははは
どちらともなく笑い声が上がった。
「お、そろそろ着くな」
「あ、ほんと」
ゴンドラは下に着いた。加持はアスカの手をとって降ろす。
「ありがとう加持さん」
「どういたしまして、お姫様」
少し待っているとシンジとレイのゴンドラも降りてきた。加持と同じくシンジはレイの手をとって降ろす。
「ありがと」
レイは短く礼を言った。少し伏し目がちになっていた。
「さっ邪さんとマヤさんが待ってるわ。急ぎましょ」
アスカはにっこりと笑い皆に言った。一行はおしゃべりをしながら出入口に向かった。するとそこにはディープキスをしている、邪とマヤの姿があった。
「ごほん」
加持がわざとらしい咳払いをする。邪はちらりとそちらを見ると、目を瞑って忙我の境地にあるマヤの唇から慌てて離れる。マヤはぼんやりと目を開く。ぼぉ〜〜とした表情で邪を見る。トロンとした目つきが何とも色っぽい。
「ごほん」
加持はもう一度咳払いをする。マヤはぼぉっとしたまま振り向く。一行が目に入る。いきなりマヤの顔が真っ赤になる。
「レッレッレイちゃん、アスカちゃん、シンジ君あああのこれは……」
マヤは手を顔の前で振り回ししどろもどろになっている。邪は横であきらめ顔である。
「マヤさんって…………凄い」
アスカは自分までもが真っ赤になり呟く。
「マヤさん。綺麗」
レイが呟く。
「マヤさんって……そういう人だったんだ」
シンジが唖然として言う。
「あああああ私のイメージがぁ〜〜〜〜」
マヤはショックで視線があっちのほうへ行っていた。
「まぁ、これでりっちゃんといつもひっついていてもその手の趣味があるとは誤解されなくなるよ。そう思って諦めるしかないね」
加持が肩を竦めて言う。他の皆は凍り付いている。マヤはしばらくムンクの絵の様な顔をして悩んでいたががくっと肩を落とし俯く。
「ふふふふふふふ」
皆が心配そうにマヤを見てるといきなり笑い声が聞こえてきた。思わず引く一行、さすがに邪は踏み止まったが。
「ふふふふ……もうやけよ。愛する人といちゃいちゃするのは若者の特権よ。…………加持さん」
じろ
マヤが加持をにらむ。加持でさえもう一歩引く。
「すいませんがレイちゃん家までお願いします。私達今日はこれからずっと二人で愛について語り合いますから」
マヤちゃん完全にキレたようだ。
「わ、わかった。葛城とりっちゃんには適当に言っておくから」
「じゃあ失礼します」
マヤは唖然としていた邪の手をむんずと掴むと大股でずんずんと出入口を出ていった。邪は唖然とした顔のまま引きずられていった。
「凄い物を見てしまった」
年の功か加持が一番初めに立ち直った。その声につられるように子供達も我に返った。
「もしかしてネルフって凄いところかもしれない」
「あんなディープキス、ドイツでも見た事無かったわ」
「あれがディープキス…………」
大人の凄さ?を再認識したみたいである。
「さてと、まあ……帰るとするか」
加持が言う。みんなも賛成する。遊園地を出るとリニヤでミサトのマンションに向かう。途中でレイが別れた。加持もレイ送る為別れた。マンションの近くの駅で降りるとシンジとアスカはマンションに向かう。あまりにも強烈な物を見た為二人とも無言で歩いていく。
「シンジくん少し休んでいかない」
いつぞやの公園を通り過ぎる時アスカが言った。
「うん」
二人は夕日の中、石のベンチに並んで座る。二人とも黙っていた。
「シンジくんって…………キスした事ある?」
「……ない……。あ、アスカさんは?」
「わ、私も無いわ」
「そ、そう」
シンジはアスカの顔をちらっと見る。恥ずかしいのか頬を染めているアスカの横顔が見える。さっきのマヤのキスの最中の妖艶な表情が重なる。
「アスカさん」
シンジは思わずアスカを抱き寄せてしまう。顔と顔が近づく。呆然としていたアスカであったが覚悟をし目を瞑る。シンジはアスカが目を瞑った事の意味に気づきかえって冷静になる。少し躊躇ってしまう。するとアスカの瞑った瞳から涙が溢れて来るのが見てとれた。
「アスカさん、いいの?」
もう一度声を掛けた。そこでアスカの我慢の限界が来た。シンジの手を振りほどくと顔を手で覆ってマンションの方へ駆け出していった。指の間からは涙が滴っていた。やはり初めてのキスは覚悟が出来てなかったのだろう。シンジはすこし躊躇っていたが、すぐに追いかけた。が、アスカの足は早く結局マンションまで追いつかなかった。シンジはエレベーターで焦れていた。ミサトの部屋の階に降りると全力で部屋へと走る。カードキーで戸を開けつつ叫んだ。
「アスカさん」
玄関にはアスカの靴があった。ミサトはまだ帰っていないようだ。シンジは居間とダイニングキッチンをさがす。アスカは居ない。最後にアスカの部屋の前に来る。シンジは迷ったが声を掛ける。
「アスカさん」
がさごそ中で音がする。シンジは言葉を続ける。
「アスカさん。ご免なさい。いきなりあんな事をして。凄くアスカさんが綺麗だったから…………思わずあんな事をしちゃったんだ。本当にご免なさい」
シンジがそれ以上どう言っていいかわからずアスカの部屋の前で立ち尽くしていると、戸と床のすき間から一枚の紙が滑り出してきた。まだあまりうまくない字で書いてあった。
「シンジくん。今日と明日ほおっておいてください」
シンジは部屋の前で立ち尽くした。アスカは帰ってきた格好のまま部屋のベッドの上でうつ伏せになり泣いていた。
翌日の朝アスカは起きてこなかった。一応声を掛けたが返事はなかった。ミサトからは昨日急遽出張が入り家には帰らないという電話があった。その時昨日の事を話したシンジはこってりと怒られた。
「僕酷い事しちゃったんです。二人で帰る途中公園で……あんまりにもアスカさんが綺麗だったから……無理矢理キスしようとしちゃったんです。アスカさんも目を瞑って許してくれそうだったんです。でも僕が躊躇していたらアスカさんいきなり泣き出して走って帰っちゃったんです」
「シンジ君。あなたはなんて事したの。アスカちゃんただでさえ泣き虫なんだから、そんな事したら凄いショックなのは当たり前でしょ。いくら好きな男の子からだって、13才の女の子にとって初めてのキスは重大な事なのよ」
「えっ、アスカさんが僕の事を……」
「そうよ、レイちゃんもそう。シンジ君の事を好きなのよ。好きという所まで行っていないか。ともかく、二人とも初めて心を開ける同じ年の男の子に会ったのよ。それがシンジくんよ。そのシンジ君にそんな事されたら……」
「……僕は、僕はどうしたらいいんでしょう。ミサトさん。どう謝ればいいんでしょう」
シンジの声が後悔でゆがむ。すこし声を優しくしてミサトが言う。
「シンジ君、アスカちゃんとレイちゃんに優しくしっかりと接してあげるのよ。あの子達には同じ体験をしている男の子がシンジ君しかいないのよ。いざとなったらシンジ君しか頼る人がいないのよ。私達大人じゃだめなの。ね、女の子は辛いものなのよ。だから何かあっても男の子のシンジ君はぐっと堪えて我慢するのよ。もしどうしても我慢出来なかったら、私が、ミサトお姉さんが相手してあげるからね。それで自信を付けてから正々堂々とアスカちゃんレイちゃんにアタックしなさい。わかったわね。さて、さしあたっては今日と明日は静かにしておいてあげなさい。ご飯とお風呂の用意だけしてね。一日泣いていればきっと気が済むわ。で、出てきたら素直に謝りなさい。ごめんなさいって。あの子気立てがいいからきっと許してくれるわよ。いいわね」
「はい」
「じゃ、アスカちゃんに心から素直に謝るのよ。ね、それが男の子というものよ」
「はい。判りました。ちゃんと謝ります」
「それでこそシンちゃんよ。アスカちゃんに優しくしてあげてね。じゃ電話切るわ。おやすみぃ〜〜」
「お休みなさい」
久しぶりに一人で食べる朝食はまずかった。さっさと済ますと後片づけをした。居間でTVを見つつぼっとする。
ぴんぽん
「はぁ〜〜い」
がちゃ
戸を開けるとレイが立っていた。青いワンピースに麦わら帽、手にバックを持っていた。最近のレイは制服以外も着る。
「あ、綾波」
今日はシンジ、アスカ、レイの三人でネルフのプールで泳ぐ約束をしていた。
「碇君、迎えに来た」
レイが呟くように言う。
「ごめん綾波、実は僕アスカさんをいじめて泣かせちゃったんだ。でアスカさん部屋に閉じこもっちゃって出てこないんだ。だから今日プール行けないんだ。ばたばたして綾波に電話しそこねちゃったんだ。ごめんなさい」
シンジはしどろもどろになって言う。シンジはミサトの話を聞いたせいでまともにレイの顔を見れなかった。
「そう」
レイは呟く。しばらくシンジをじっと見る。シンジは視線を合わせられない。
「じゃ一人で行く」
レイは呟くと。くるっと振り向きすたすたと去っていく。シンジは声を掛けるタイミングを失った。レイの姿はエレベータに消えた。
アスカは目を覚ましていた。目を覚ましてからもずっとしくしく泣いていた。昨日は泣いたまま寝てしまった。なぜ逃げてしまったのか、ユニゾン練習の時にキスされ掛かった時は大丈夫だったのに。その事ばかり考えていた。シンジの強引さや性急さが怖かったのかも知れない。確かにシンジの抱きしめる力の強さが怖かった。男の子の強さは怖いものだった。加持に指摘されて意識し過ぎたのかも知れない。とにかく悲しかった。何が悲しいかも判らなかった。
「アスカさん」
部屋の外からシンジの声がした。
「緊急召集の連絡がはいったんだ。一時間後にネルフの作戦会議室に集合だよ。ご飯とお風呂用意しておいたから、戸締まりをお願いします」
「わかったわ」
自分では思ってもいなかったような冷たい声が出てしまった。自分はやはり怒っていたのかも知れない、そう思った。
バタン
戸が開きしまる音がした。アスカはベッドからのろのろと起き上がると愛用の赤いバスタオルを手に取り浴室に向かった。
「これが使徒」
シンジが呟く。ここはネルフの作戦会議室である。床一面が大型のディスプレイになっている。そこには人の胎児のレントゲン写真みたいな像が映っている。その像を挟んでリツコとマヤ、アスカ、シンジ、レイがそれぞれ並んでいた。
「そうよ完成体に成っていない蛹の様な状態ね。今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします。出来うる限り原形を留め生きたまま回収する事」
「出来なかった時は?」
リツコの説明にアスカが質問をする。ディスプレイの為暗くした室内では皆の表情はわからない。
「即時殲滅いいわね」
「「「はい」」」
チルドレン達は返事をする。元気があまりない。リツコはその様子に少し眉をひそめたが言葉を続ける。
「今回の作戦担当はアスカちゃんよ。弐号機で出て頂戴。シンジ君は初号機で現場でバックアップ。レイちゃんは零号機で本部で待機。司令から捕獲命令が出たからにはすぐいくわよ」
「「「はい」」」
「これが耐熱耐圧耐核防護服局地戦用のD型装備よ」
リツコが説明する。ケイジでは弐号機が昔の潜水夫が着ていた潜水服の様な物を着ていた。アスカはその装備を見上げていた。ぽつりと言う。
「あまり格好がよくない」
周りにはシンジとレイもいた。みんな顔を合わせなかった。リツコは雰囲気を察して言う。
「アスカちゃんとレイちゃんはちょっと待機していて。シンジ君ちょっといらっしゃい」
リツコはシンジを物陰に引っ張り込むと言う。
「シンジ君いったいどうしたの。アスカちゃんもレイちゃんも全然あなたに目を合わさないじゃない。何があったの。このままじゃ作戦の遂行が危ういわよ」
「リツコさん実は…………」
シンジは手短に説明した。
「じゃシンジ君はアスカちゃんとレイちゃんに謝りたいのね」
「はい」
「わかったわ。このままじゃアスカちゃん使い物にならないわ」
リツコはそう言うと。アスカとレイの元にシンジと戻った。二人は所在なく立ち尽くしていた。
「アスカちゃんあなたは第8待合室、レイちゃんあなたは第15待合室で待機してて」
「「はい」」
アスカとレイはそれぞれ黙ったまま待合室に向かった。
アスカは待合室のベンチに座り俯いてぼーっとしていた。出撃前とは自分でも思えないぐらいだった。待合室のドアが開いた。アスカは俯いている顔を上げた。シンジが部屋に入ってきた。すぐにドアは閉まった。しばらくおたがいの顔を見合っていたがまたアスカが俯いた。シンジは少しの間立っていたが、すぐにベンチに座った。アスカから少し離れたところにである。少しの間二人は何も話さなかった。
「アスカさん。ごめんなさい」
シンジが話し始めた。アスカはぴくりとも動かなかった。
「僕あの時アスカさんがとても綺麗に魅力的に見えて思わずあんな事しちゃったんだ。もう絶対あんな事しないからアスカさん許してください。元気を出してください。もし僕と一緒に住むのが不安なら他に移るから。ごめんなさい。許してください」
シンジも俯いた。また部屋が静かになった。
「シンジくん」
アスカがぽつりと呟く。
「シンジくんは私の事どう思っているの。私の事好きなの。答えて」
少しまた時が経つ。
「好き……だと思う。でもはっきりとはわからない」
「綾波さんの事はどう思うの。好きなの。答えて」
「ごめん。アスカさんと同じぐらい好き……だと思う。よくわからないんだ」
「そう。私シンジくんの事を好きなのかもしれない。でも私もよくわからないの。ただ一緒に住んでいるからそう思うのかも知れない。綾波さんもシンジくんの事好きみたいに思える。私綾波さんも好き。みんな今まで独りぼっちだったから好きだと勘違いしているのかも知れない。だから……シンジくん、もしお互いが…………ううん、今は、今は仲良く家族として暮らしましょ」
「アスカさん」
シンジは言葉につまる。
「それと昨日の事はもう許してあげる。二度とあんな強引な事はしないでね。そんな事したら私出ていくから」
「うん。二度としないよ」。
「わかったわ、信じてあげる。もう私元気出たから大丈夫よ。もう顔をあげて」
シンジが顔を上げると。そこにはアスカの微笑みがあった。
「あ、でも一応お仕置きはしておかないといけないかなぁ」
ぺち
アスカは軽く平手でシンジの頬を叩く。ちょっぴり痛いぐらいだ。
「これで全部忘れてあげるわ」
「ありがとう。アスカさん」
「これからもよろしくね」
「うん」
「ところでここで何時まで待機すればいいのかなぁ」
「あ、この待機……リツコさんが、仲直りする為の時間をくれたんだ」
「そうなのリツコさんって優しいわね」
「うん、そうだね。じゃすぐケージに戻ってくれない。僕は綾波に伝える事があるから」
「わかったわ。そお言えばプールの約束守れなかったわね。今度謝らないと。じゃ私ケージに戻るわ。シンジくんも綾波さんに伝言したら、すぐにケージに来てね」
「うんわかった」
アスカは立ち上がるとドアが開くのももどかしげに部屋を飛び出していった。
「加持さんは?」
「今日あのばか来ないわよ。出番無いもの」
「加持さんばかじゃないもん。ぐす」
「私の口癖よ。アスカちゃん作戦行動中はこれぐらいで泣くのはやめなさい」
「はい。ぐす。加持さんにも勇姿見せたかったのに」
「代わりにシンちゃんが見ててくれるわよ。じゃ作戦の最後のおさらいよ。アスカちゃんの弐号機がD型装備を使いマグマの中を下降、電磁柵で目標を捕捉。そのまま引き上げるのよ。不可能な場合はその場で殲滅。初号機は火口付近で待機いいわね」
「「はい」」
「リツコ付け加えることある?」
「そうね、計算では後一月は羽化しないはずだわ。だけど今度の作戦は何かあっても助けには行けないわ。アスカちゃんと弐号機は欠けがえがないんだから、安全第一ね。他には特に無いわ」
「そうよアスカちゃん。無理は絶対だめ。捕獲が無理だと判ったら全員で避難してからNN爆雷たたき込めばいいんだから。羽化の前ならATフィールドもないから倒せるわ。だから何かおかしかったらすぐ引き上げるからね」
「わかりました。ありがとうリツコさん、ミサトさん。優しいのね」
「わ、私は科学者として冷静な判断を言っているだけよ」
「私も指揮官として言っているだけよ」
「はい」
アスカは明るく返事をした。
「アスカさん、頑張って」
シンジもSOUND ONLYで励ます。照れ臭いのだろうか。
「うん」
アスカは元気良く答えた。
「じゃ、アスカちゃんいいわね。発進」
使徒捕獲作戦が始まった。
「うわぁ〜〜熱そぉ」
弐号機が浅間山の火口に向けクレーンにより降ろされていく。
ぼじゃん
溶岩の中に弐号機は沈んでいく。
「弐号機溶岩内に入りました」
「現在深度170、沈降速度20、各部問題なし。視界は0。何も見えません。CTモニターに切り替えます。透明度120に上がりました…………やっぱり何も見えないわ」
「現在深度300、350、400、450、500……」
マヤの告げる深度が増えていく。
ぴし
「弐号機プログナイフ喪失」
「ミサト、プログナイフの取り付け部が故障して落ちたわ。どうするの?」
「リツコ、計算では羽化は一月先だわよね……作戦続行。目標地点まで沈降続行」
「了解」
「……1000、1100、1200、1300、1400、1500目標深度です」
「止めて。アスカちゃん見える?」
「居ないわ」
「マヤ、弐号機周辺の溶岩流の速さを測定、再度目標の場所を計算して」
「はい先輩」
「アスカちゃん少し待ってて」
「はい」
「アスカさん大丈夫?」
「うんシンジくん」
灼熱の地獄の中でシンジの一言はとても嬉しかった。
「アスカちゃん計算結果出たわよ。後300沈下よ」
「了解」
「再度沈下します。50、100、150、200……」
「あ、居たわ」
アスカの視界に黒い繭のような塊が見えてきた。
「目標を映像で確認」
「捕獲準備」
「いいアスカちゃん、ATフィールドを使って徐々に水平方向に移動して。垂直方向はこちらで合わせるわ」
「了解」
「目標接触まであと30」
「相対速度2.2……軸線に乗ったわ」
弐号機は繭の上に回り込んだ。アスカはアクションレバーを操作する。
ピキーン
繭の周りをバリヤが包む。
「電磁柵展開、問題なし、目標捕獲しました」
はぁ〜〜〜〜 ふぅ〜〜〜〜
一斉に皆のため息が上がる。
「ナイスアスカちゃん」
「ありがとうミサトさん。捕獲作業終了。これより浮上します」
「アスカさん大丈夫?」
「うん。シンジくん、案ずるより運がいいっていうとおりね」
「へ?それ案ずるより産むがやすしだよ」
「そ、そうなの……恥ずかしい……ぐす」
「はい、はいアスカちゃん。帰ったらシンジくんに国語教えて貰いなさい。泣いちゃだめよ」
「うん」
移動発令所にも穏やかな空気が流れて来た。
「緊張がいっぺんに解けたみたいね」
「そう」
「あなたも今日の作戦怖かったんでしょ」
「まあね。下手に手を出せばあれの二の舞ですもんね」
「そうね。セカンドインパクト、二度と御免だわ」
ビービービービー
「なによこれ〜〜〜〜」
アスカの叫び声が上がる。
ウゴォ〜〜
電磁柵内から振動が伝わってくる。振動は弐号機を震わす。
「まずいわ羽化を始めたのよ。計算より早すぎるわ」
「キャッチャーは」
「とてももちません」
「作戦変更。キャッチャーを破棄。弐号機は撤収作業をしつつ回避行動」
「了解」
どん
爆発ボルトによりキャッチャーは弐号機より切り離された。
「いいアスカちゃん、今あなたに武器は無いわ。ATフィールドを使い水平方向に逃げまくって。全速力で引き上げるから」
「了解」
「初号機は弐号機を引き上げたら火口付近で使徒の迎撃用意」
「了解」
ウルォ〜〜〜〜〜〜〜ン
沈んでいくキャッチャーが壊れると、中からエイに両手を付けたような使徒が現れた。溶岩の中を高速で弐号機に接近していく。
「早いわ」
アスカは十分使徒を引きつける。
「バラスト放出」
急に浮かび上がる弐号機の下を使徒が通り過ぎる。急激に遠ざかって行く。
「あ、使徒を見失ったわ」
「現在深度1700、1650、1600……」
「あ、また来た」
瞬く間に近づく使徒。またもアスカは十分引きつける。
「フィールド全開」
ATフィールドの反作用で横にずれる弐号機。使徒は横を通り過ぎる。
「現在深度1400、1350、1300……」
ミサトやシンジ達は見守るしかない。使徒と弐号機の命がけの鬼ごっこは続く。
「現在深度700、650、600、550、500……」
「はあはあ……」
「アスカさん頑張って」
あまりの神経集中にアスカも息が上がってくる。が……
「きゃぁ〜〜〜〜」
とうとう捕まった。使徒はその触手を弐号機のD型装備に絡めてくる。そして口を開け弐号機の頭に噛み付く。D型装備の頭部にヒビが入る。
「うっ……」
溶岩の一部が弐号機の顔に触れる。溶岩の感触がアスカの顔を襲う。アスカはほとんど気絶していた。薄れ行く意識の中で上の方から何かが近づいてくるのを感じた。
アスカは気がついた。目の前には黒髪のロングヘヤーの女性、ショートカットの金髪の女性、空色の髪の少女がいた。
「私生きてるの…………」
「そうよアスカちゃん、あなたをシンジ君が助けてくれたのよ」
「え、だって誰も助けに行けないって……え、すると……シンジくん、シンジくんは……」
アスカはベッドから上半身を起こす。赤いパジャマが着せてある。
「アスカちゃん起きちゃだめ。あなた二日も寝ていたのよ。それに顔に水膨れがあるの。溶岩の感覚のフィードバックのせいでね。へたに動くと顔に一生あとが残るわ」
ミサトはアスカを押さえ付けるように、ベッドに寝かし付けた。
「でもシンジくんは……シンジくんはどうしたの」
アスカは大粒の涙を両の瞳から流して言う。
「私が説明するわ、アスカちゃん」
リツコが言う。
「弐号機の頭部に使徒が食いついた瞬間、シンジ君は……初号機はプログナイフ片手に溶岩内に飛び込んだの。ATフィールドを全開にしてね。今までで観測された最強のATフィールドだったわ。あまりにも凄いATフィールドの為、溶岩の熱も圧力もシャットアウトしたぐらい。初号機はケーブルに添って下降して使徒を上から襲ったの。コアを上からプログナイフで突き刺して使徒を片づけたんだけど、使徒は断末魔のあがきでケーブルを切って滅んでいったの。弐号機が沈みそうだったんでシンジ君は慌てて弐号機とケーブルを初号機の両手で掴んだわ。今までATフィールドで熱を遮断していたけど直接触ったから一気に初号機の手が加熱したの。その感覚がシンジ君を襲ったのよ。その時のシンジ君の悲鳴は今でも気分が悪くなるぐらい」
アスカは声も出せず泣いている。あまりにも怖い考えが頭に浮かび涙が止まらない。レイはそっとアスカの手を握る。
「でもね彼気絶しなかったわ。もし気絶してATフィールドが無くなったら一気に初号機は壊れるわ。そうしたら弐号機は初号機ごとマグマの藻屑ね。シンジ君は最後まで耐え切ったわ。溶岩から完全に釣り上げたところでこちらから初号機の動きをホールドしたの、それを伝えた所で彼気絶したわ。当然よ。エントリープラグ内は摂氏50度近くになっていたもの」
「シンジくんは……シンジくんは……」
アスカはもうそれしか言えない。
「生きてるわ。ただあまりにも高温の場所に居たため、まだ昏睡状態なの」
「うぇぇううううううう…………シンジくん…………うううううううううう…………シンジくんにシンジくんに会わせて、私のせいでシンジくんはシンジくんは…………うううう」」
「アスカちゃん、あなたが悪いんじゃない。私が計算ミスさえしなければこんな事にはならなかったわ。私のミスよ。ごめんなさい」
リツコは俯く。眼鏡が曇る。涙かも知れない。
「そうアスカちゃんのせいじゃないわ。私があそこで無理しないで引き上げていれば被害が無く迎撃が出来たのよ。私の作戦ミスだわ」
ミサトはキッとした声で答える。歯をくいしばり顔を無理矢理冷静にしている。
「シンジくんに会わせてください。お願い……」
アスカは涙をボロボロ流して懇願する。
「それはだめよアスカちゃん。アスカちゃんだって体のあちこちに水膨れがあるのよ。特に顔にあるのよ。もしアスカちゃんの顔に痕が残る事があったらそれこそシンジ君に怒られるわ。アスカちゃん、シンジ君の事はこの赤木リツコにまかせなさい。世界最強のマッドサイエンティストの名にかけて絶対シンジ君は治して見せるわ。だからあなたは安静にして早く治すのよ」
俯いていたリツコの瞳に狂的な光が宿る。
「でも……でも……シンジくん……」
アスカは泣きじゃくる。
「惣流さん」
ずっと黙っていたレイが言う。アスカの手を握ったままである。
「碇君を信じましょう」
アスカはレイの顔を見る。ただでさえ白い顔は今では青白くなり、頬はこけ、目は落ち窪んでいた。この二日間寝ていないのであろう。
「綾波さん」
アスカは言う。彼女の気持ちがよくわかる。
「惣流さん。碇君は私が見てる。だから早く体治して」
レイは俯いてアスカの手をぎゅっと握る。少し手が震えている。
「綾波さん……ぐす……お願い。私が治るまで、シンジくんをお願い……」
「うん」
二人の少女は強く手を握る。
「じゃアスカちゃん、私はシンジ君を治療に行くから、あなたは一刻も早く治ってシンジ君を元気付けられるようにするのよ」
「はい……リツコさん……本当に……本当に……お願い」
「わかったわ。あなたはまず寝る事よ。いいわね」
リツコとミサトは病室を出ていった。レイは側の机から鎮静剤を取るとコップの水と共にアスカに渡す。
「これ、鎮静剤。飲んでゆっくり寝てて」
「うん」
アスカは鎮静剤を飲む。疲れているせいかすぐに眠くなってくる。
「綾波さん。シンジくんを見ててあげて。お願い」
レイはコクリと頷いた。アスカは眠りに落ちた。
三日後アスカはシンジの部屋に行く事が許された。レイがアスカの車椅子を押し病室に向かった。病室には峯マサヤが居た。病室にはリツコの配下が代わり番で詰めていた。
「アスカちゃん。来れるようになったのかい?」
「はい峯さん」
「シンジ君はまだ起きないよ…………」
ベッドにはシンジが寝ていた。あどけない寝顔である。ミサトのマンションで見た事がある寝顔と同じである。
レイが少しふらふらするアスカをベッドまで連れていく。レイも看病の疲れでふらふらしている。二人はベッドのヘッドボードの方からのぞき込む様にシンジの顔を見る。
「シンジくん」
「碇君」
二人の唇からは同じつぶやきが漏れた。レイの赤い瞳は見開かれてシンジの顔を見つめていた。アスカの青い瞳もシンジの顔を見つめていた。マサヤは黙って三人を見ていた。
ぽた ぽた
アスカが耐え切れなくなった。その青い瞳から大粒の涙が滴る。つられるようにレイの赤い瞳からも涙がこぼれ落ちる。その涙はシンジの頬の上に落ちる。
ぴくぴく
「「えっ」」
ぴくぴく
シンジの睫毛が動く。そしてうっすらと目を開く。
「碇君」
「シンジくん」
アスカとレイは叫ぶ。マサヤは緊急コールを使い医師団を呼び寄せる。
「アスカさん。綾波」
まだぼっとした表情であるがシンジが呟く。
「シンジくん……ぐす……よかった……ぐす……よかった……ぐす……ううううううううう」
「碇君」
レイとアスカはそこから動かなかった。シンジの顔は二人の涙でびしょびしょになった。病室にはリツコと共に医師団が到着した。
「それにしてもミサト」
「なあにリツコ」
数日後の事である。
「アスカちゃんの泣き虫も役にたつ事があるのね」
「そうね。五月蠅いだけだと思ってたけど、やっぱり男の子は女の子の涙に弱いみたいね。私の治療より効くのだから。そう言えば昔旦那に泣いてねだった事があるわ」
「へぇ〜〜リツコがねぇ」
「と言っても小学生の時よ」
「ふぅ〜〜ん。そう言えばレイちゃんも泣いてたんだって?」
「そうなの。少しづつ昔に戻ってるわ。よかった。本当に」
「そうね。こんどこそはね」
「シンジくんって泳げなかったんだ」
一カ月後シンジはすっかり回復していた。アスカの火傷もすっかり痕も残らずに治っていた。シンジをアスカとレイはネルフのプールに誘っていた。
「そうなんだ実は全然泳げないんだ」
「そう」
レイは泳げないのが不思議そうに言った。レイはカッパなみである。今日シンジはアスカとレイに泳ぎの練習を受けていた。ただあまりうまくいかなかった。それはシンジが元気な男の子だったからである。アスカは加持に「中学生の着るものかね」といわしめた派手なビキニの水着でこれまた中学生とは思えない凸凹したボディーを包んでいたし、レイは白く透けるようなワンピースのカットがきつい水着で人魚のようなスレンダーなボディーを包んでいる。この二人に手取り足取り教えられていたら、熱中出来るはずがない。熱膨張しっぱなしでなかなかプールから上がれなかった位である。
取りあえずひと休みしていた三人だがまた練習を始める為ベンチより立ち上がった。
が
シンジが足を滑らした。シンジは手を振り回した。
むに むに
シンジの両手は何か柔らかいものを掴んでいた。おかげでバランスを回復する。ほっとしたシンジであったが、次の瞬間気がついた。恐る恐る両手の先を見る。
左手はレイの、右手はアスカの……水着の胸を掴んでいた。レイは無表情、アスカは唖然としていた。シンジは慌てて両手を引っ込める。
「これで二度目」
レイはぼそっと言う。シンジはレイを振り向く。
「ひっく……ひっく……うえうえ……やっぱり……シンジくんって……うえうえ……すけべよぉ……びびびびぃぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
ばき
振り向いたシンジのあごにアスカのフックが炸裂しシンジはプールに落ちた。シンジはじたばたと溺れかけていた。
「だすけてくれぇ〜〜〜〜」
「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
「……二度目……」
シンジは危うい所をやっと正気に戻ったレイに助け上げられた。アスカはまだ泣いていて、顔中鼻水と涙だらけであった。
つづくんでしょうね、たぶん
NEXT
ver.-1.10 1997-12/10公開
ver.-1.00 1997-11/17公開
ご意見・感想・誤字情報・らぶりぃりっちゃん情報などは
akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!
あとがき
皆さんお気づきとは思いますが、「めそアス」はアスカちゃんの性格以外にも色々違います。シンジは頼もしいし、リツコさんは結婚しているし、マヤちゃんはえっちな子だし。まぁこれはアスカちゃんレイちゃんを幸せにする為と思ってお許しを。ではまた。
合言葉は「めそめそアスカちゃん」
ではまた
まっこうさんの『めそめそアスカちゃん3』公開です。
その3公開で、ほとんど連載ですね(^^)
遊園地での1日、
火口での戦闘。
アスカちゃんはチョットずつ・・・
病室にいるシンジに対する様子が
彼女の気持ちを見せていますね。
泣き虫アスカちゃんのがんばりと、
シンジ君のフォロー。
決まってました(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
着実に成長していく色々なことを描くまっこうさんに感想メールを送りましょう!
まっこうさん、
日本のW−CUP初出場、うっっっっっれしいですよね〜〜♪
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