対ブラジルの最終戦の前日の晩は雨だった。一組の男女がホテルの一室で睦
みあっていた。少しの声の高まりの後静かになった。
「はいお前えびちゅ」
男はビールのプルトップを開け女に渡す。
「ありがとうあなた」
ぐびぐびぐびぐひ…………ぷはぁー
「だけどベットでのえびちゅは一本だけだぞ」
「え〜〜水分補給のためもう一本いいでしょ。汗かかせたのはあなたなんだ
から」
「なに言ってんだい。おまえが好き者なんじゃないか」
ふ、ふふふふふ
どちらともなく笑いだす。
「えびちゅは一本だけかぁ。昔よくシンジ君に言われたっけ」
「三人で住んでいたころかい」
「そうよ。あのころシンジ君、完全に主夫やっちゃってたわ。私もあの子も
家事完璧にだめだったもんね。まぁでも、私は才色兼備でグラマァーな御姉様
兼保護者だったし、あの子は眉目秀麗金髪碧眼の飛び切りの天才美少女だったわ。
そんな二人に囲まれてたんだからそんぐらい当然よねぇ」
シンジ君の代わりって訳ね、今の俺。
「あれから12年も経ったのよね。早いわ」
「そうだよな12年だよなぁ。今考えるとあの時生き残れたのが不思議なぐ
らいだよなぁ」
「そうね。あの時あなたがいなければ私死んでたわ」
「おたがいさまだよ。お前がいなけりゃ俺も生きる目標が無かったさ」
「そんな事無いわよ。すぐ私の事なんか忘れて年下のピチピチした子とよろ
しくやってたわねきっと」
「そんな事無いよ。俺はお前一筋だよ」
「ふぅ〜〜ん。知ってた?あなた結構もててたのよ」
「ほんと?」
「技術開発ニ課のミキちゃん、広報部のクミちゃん、医療部のアサミちゃん、
ほかにも、そのおかげで結構私からまれたわ」
「へぇ〜〜。知らなかった」
「憧れのあなたが、なんであんな四つも年上の年増を慕ってるなんて。しか
もその年増には男がいるのにってね」
「男か」
「そっあなたをその男と笑いものにしてるって」
「あの人はそんな人じゃないのになぁ」
「ええ……」
外はまだやまない。
男も手にえびちゅを取る。
「あの人は俺の憧れだったよ」
「そうだったの」
「おまえががあの人といる時の顔って、大体怒ってたよね。だけどとても自
然だった。あの人はどんな時でもお前を守ってて、絶対重荷にならないように
して、最後はお前のために死んで……その情報を始めて知った時……俺もお前
の為に死ねば愛してくれるのかと思っ……」
パシ
女の平手が軽く男の頬に当たる。
「なにを言ってるのよ、冗談でも言わないでよ。……あなた……あの人は生
きたかったのよ。私と。だけど生き残れなかったの。負けちゃったの。だめな
のよ。カッコつけて死なれた身にもなってみなさいよ。だからあなたの方が上
よ。一緒にどうにかでも生きてくれたんだから」
雨はふりやまない。
男もプルトップを開けえびちゅを飲み干す。カンを置くと女を抱き寄せる。
「あなたごめんなさい。昔の男の話をあなたの胸に抱かれながらしちゃって」
「いいよ。さっきも言ったろ。あの人は憧れだった。ほんとは俺もお前の奪
いあいを真っ向からしてみたかった。負けただろうけどな」
「勝つ方法はあったわよ」
「どうやって?」
「掃除洗濯料理の家事一般全部をあなたがやって一日えびちゅ20本飲んで
いいって口説いたら」
「へぇ〜〜。それって今とあまり変わらないじゃないか」
「ちがうわよ。えびちゅは1日に10本しか飲んでないわ」
ふ、ふふふふふふふ
「まぁ、そうだよな。死んだらえびちゅも飲めない。死んだらシンジ君達と
こうやって決勝戦までたどり着けなかったし。そうだよな生きなきゃ。出来る
だけ長生きしてあの人をあの世で待たしておこう。そしていよいよ死んだらそ
ん時はあの世でお前の取り合いのリターンマッチだ」
「それは光栄だわ。でもその時は二人そろって下僕にしちゃおうかしら」
「やっぱり俺はそうゆう運命か」
「そうね。まぁそれも当分先ね。今はがんばって生きましょう。だからもっと
生きてる事を感じさせて。あ・な・た」
「やっぱり、お前は好き者だな。わかったよ。愛してるよおまえ」
「愛してるわ。あなた」
また二人は一つになった。
雨はやんでいるようだった。
決勝戦当日は晴れていた。今日も世界は日本晴れ、そんな天気だった。
試合前のミィーティングは少し長めだった。
「…………ていうことよみんなわかった?」
「お〜〜」
「最後に一つあんた達に言っておくわ。このワールドカップは、28年ぶり
に行われるわ。あんた達の多くはまだ生まれてなかったわよね。あの年のワー
ルドカップに始めて日本は出場できたの。でも予選リーグで敗退だったわ。そ
して2002年に、日本と韓国共催でワールドカップを開くはずだったの。で
もあの、セカンドインパクトでおじゃんになったわ。そうあの時、あなた達の
両親ぐらいの人達の夢が消えたの。いい、人はまず生きていかなきゃ行けない
わ。でもその次は何か夢とか希望とかを持たなきゃいけないの。そう私達日本
代表はそのためにいるのよ。みんなに夢を希望を分けてあげなきゃいけないの。
だからこの試合勝ってとびっきりの夢をみんなに配ってあげるのよ」
「く〜〜ミサトはんいい事いいまんな、やっぱ一生ついていきますわ」
「ホントだトウジ。やっぱミサトさんはいい」
とトウジとケンスケの意見だったが
「あっそれとこの試合終わったら、正式に私葛城ミサトとフィジカルコーチ
の日向マコトの結婚を発表するわ。それもあるんで優勝お願いね。さぁ、みんな、
おとこの子だったらばっちり勝ってえびちゅでわぁ〜〜〜〜と乾杯よ!!!!」
「おぅ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「日向さんおめでとうございます。おたがい長かったですね」
「シンジ君ありがとう。ホントに長かった」
「おたがいこれからも大変ですけどね」
「そうだよな。おたがいえらくたいへんな嫁をもらう訳だ」
「そうその嫁さん達のためにも今日頑張ります」
「おう。たのむぞ」
ミィーティングは終わった。
そして試合は始まった。
ブラジルも日本もフォーメーションは4−4−2である。しかし圧倒的にブ
ラジルの実力が勝っていた。
流れるようなパスワーク、的確なフォーメーションチェンジ、疲れを知らない
運動量、日本代表はFIFAランキング連続1位の実力を痛いほど味わっていた。
中盤の底で頑張っているボランチの碇シンジも例外ではない。本来ならチャ
ンスがあれば自らも上がって攻撃に参加するはずだが、防戦一方となりDFの
前まで押し下げられてしまった。歯を食いしばり頑張るシンジ。しかしもろく
も崩れるディヘェンスライン、そこをブラジルのスルーパスが切り裂き、走り
こんだFWがシュート。さすがのケンスケも止められず日本代表は1点を失った。
そのころNERVの所員用マンションの前ではかしましい事がおこっていた。
「あんたどうしてこんなに遅いのよ」
「だって急患が入っちゃってちょっと前まで手術だたったの」
「ほんとにもう。あんたは?また青白い顔しちゃって」
「酢豚」
「は?」
「あの人の為に酢豚作ったの。そしたら貧血おこして倒れちゃったの」
「あんたそれ2度目じゃないの」
「ほんとにみんなとろいんだから」
「そういう自分はなによ」
「え……あの……昨夜シンジと……その……激しかったから……寝過ごしちゃった……」
「あのねぇ〜〜。あんたら中学校の時から同棲してんだからこんな時ぐらい
我慢しなさいよ。ほんと私達3バカギャルズって改名したほうがいいかもね」
「と、とにかくこのまま車だと間に合わないわね。こお言う時は…………」
「ちょっとそこの諜報部保安課の、こっちへ来なさい」
「大声出さないでください。我々は一応諜報部なんですから」
「いいの。そんなことよりNERV本部との直通の携帯貸しなさい」
「はいどうぞ」
チルドレンには逆らえない、かわいそうな警備の黒服だった。
「もしもし、私。私よ私ったらわかるでしょ。5分以内にあれ持って来て。
そうあれよ。新横浜国際球技場にすぐ行かなきゃいけないの。早くしないと
EVAでアンタの部署つぶすわよ」
4分後、小型VTOLが所員用マンションの前に着陸した。
「みんな、いくわよ」
いっぽうシンジ達は苦戦していた。失点は1点で押さえていたが、ボールの
支配率はブラジルが9割近くを保っていた。むしろこれぐらいの失点で済んで
いるのが幸いと言えた。
ピッピー
それは後半35分の事だった。ブラジルFWのドリブルを止めようとした、
日本のDFがペナルティーエリア内でファールを侵したのだった。PKだった。
新横浜国際球技場はどよめいていた。この時間でのPKそれは日本代表にとっ
て死刑判決に等しかった。乗り切るには奇跡が必要かも知れなかった。
ペナルティーマークに慎重にボールをセットするブラジルの選手。
ゴールライン上で軽くフットワークをして気分をほぐすケンスケ。
その時であった。
球場の出入り口近くから誰ともなく声があがった。
「勝利の三女神だぁ」
入り口には三人の美しい女性の姿があった。
その内の一人がケンスケに声を掛ける。
「あなた。がんばって」
相田レイであった。青い髪に白い肌、赤い瞳に涼しい微笑み。彼女は奇跡を
呼ぶ月の女神ダイアナと呼ばれた。そう奇跡を求める人々の前に女神は舞い降りた。
小さいがよく通る彼女の声と共に球場を揺るがすケンスケコールが始まった。
「ケンスケ!!ケンスケ!!ケンスケ!!ケンスケ!!」
その声は刃物のようにブラジル選手を襲う。気押されるようにブラジルの選
手はPKを蹴った。
横っ跳びでボール押さえるケンスケ。
「へへへ。これで今日も空揚げだ」
球場は興奮のるつぼとなった。
ボールを押さえたケンスケはすばやくフィールドを見廻すと、フリーでいる
シンジへボールをフィードした。
「いっけぇ〜〜
ばっかシンジ〜〜〜〜」
そこには、黒服の肩の上にすっくと立ち大声を張り上げる、碇アスカの姿が
あった。
赤みがかった金髪に青い瞳、彫刻の様なナイスバディーに過激な服装。碇ア
スカは、勝利の軍神アテネの化身と呼ばれた。彼女の声が思いがかかった戦士
達は無敵になるのだった。
レイとはうって変わって、広い球場に轟き渡るようなアスカの声援と共に碇
シンジの伝説の七人抜きシュートが始まった。
当日のNHKの解説ではこうアナウンサーに言わしめた
アナウンサー
「碇シンジ行った、碇シンジ二人目抜いた、三人目も抜いた、四人目だ、
五人目も抜いた、六人目も抜いたァ〜〜、キーパーも躱したァ〜〜〜〜
ゴォ〜〜〜〜〜ル、碇シンジ、セカンドインパクト前の伝説の六人抜きを
上回る七人抜きだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」
どたんばで同点に追い付いた日本だったがさすがにブラジルの守りは固かっ
た。日本代表も限界近くまできて、動きが止まっていた。しかしGKケンスケと
MFシンジの活躍により失点は許さなかった。
そしてロスタイム、誰もがPK戦へとなだれ込むと思ったその時、
「あ〜ん〜たぁ、がんばりなさいょ〜、負けたら飯ぬきよォ」
手にサッカーボールほどの大きさのおにぎりを振りかざした鈴原ヒカリの姿
がそこにあった。
慈母の微笑み大地のやさしさ、自然の厳しさ、天の恵み、彼女は聖母と呼ば
れた。彼女の姿が見える時、彼女の声が聞こえる時、どんなに傷ついた戦士も
傷を癒され疲れが飛び去ると言われた。
そして、彼女の声と共にシンジからトウジへとパスが通る。
「どっけぇ〜〜ゴールは、おにぎりはワシがもろおたぁ〜〜」
ペナルティーサークル付近から放たれたトウジのミドルシュートは、ブラジ
ルゴールにつきささった。そしてタイムアップ。トウジの、愛と食欲のゴール
が日本をワールドカップ優勝へと導いたのであった。
おわり
後日談
「えぇ〜〜本日は私、葛城ミサトの引退記者会見にご出席いただきありがと
うございます。ヒック」
えびちゅ5本は入っていた。
「いきなりですが何で引退されるのですか」
「え〜〜と、今度ココにいる日向マコトフィジカルコーチと正式に結婚する
こととなりまして主婦業に専念したいので」
「おめでとうございます。でもサッカー界では公然の秘密でいまさらと言う
気もしますが」
「そぉ〜〜なのよねぇ〜〜。でもさすがにおっきいお腹抱えて監督はちょっ
ち出来ないでしょ」
「それじゃおめでたですかぁ」
「そおなのよ。うちの人毎晩激しくって……………」
「ねえシンジ。ミサトがまたテレビで恥かき記者会見やってるわ」
「ほんとだ。それにしても隣に座ってる日向さんってかわいそうだ」
「ほんとよぉねぇ。ああいう困った嫁さんもらうとたいへんよねぇ。だいた
いおめでたなんてそうはでに公表するもんじゃないのに。ところで私達のお腹の
子の名前考えてくれた?」
確かにアスカは真っ赤なマタニティドレスだった。
「えっと」
「言っとくけど。レイはだめだからね。」
「うっ」
「ほんとにあんた未練たらしいんだから」
「まっ。時間はあるんだしゆっくり考えよう」
「そうね。愛してるわシンジ」
「愛してるよアスカ」
ちゅ
いっぽう
「ほんまか、かあちゃんはらんだのか、でかした」
「すずはらぁ。大声ではらんだなんて言わないでよぉ〜〜。はずかしいわ」
「すまへん。よぉ〜〜し。明日からもがんばって働くぞ」
「がんばってねあなた」
「わかったかあちゃん」
ちゅ
またある所では
「レイ。何だか今日はとても嬉しそうだね」
「ええ実は…………おめでたなの」
「そうか!!それはよかった。お前と俺の間に子供は出来ないと覚悟してい
たのに」
「ええ。でも。いいの?生まれてくる子は私の血を受け継いでいるのよ。
人間じゃないかもしれない血を受け……」
「お前の子だ。そんな事は関係ないよ。愛してるよレイ」
「私も……愛しているわあなた」
ちゅ
そして彼達は彼女達を優しく抱きしめた。
あとがき という事で終わりです。書いてて思ったのは私が書きたかったのは、チルド レンがワールドカップで活躍する話ではなく、チルドレンやその仲間が幸せに なる事だったみたいです。それではまたの機会に。日本がワールドカップに出 場できますように。
まっこうさんの『チルドレンINワールドカップ』その3、公開です。
まっこうさんのデビュー作『チルドレンINワールドカップ』の第1校を見た時に
「設定の説明が目立つ」と感じ、それを伝えたのですが、
見事なリテイクですよね!
シンジxアスカ・レイxケンスケ・トウジxヒカリ・ミサトxマコト
みんな幸せを掴んでいます(^^)
夏の映画公開まで後わずか・・・・
こちらでも皆が幸せになって欲しいですね・・・・
さあ、訪問者の皆さん。
推敲をやり遂げたまっこうさんに応援のメールを送ってあげて下さいね!