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気になるあの子・第六話

 
−あの子の大ピンチ−


バナー







 さっさか さっさか






 「「谷内のおじいちゃんおはようございます」」
 「おはよう。りっちゃん。シンちゃん」




 さっさか さっさか






 今日は日曜日、朝6時である。リツコとシンイチは早起きして家の前を竹箒で掃いている。その訳はというと谷内のおじいさんに会えるからである。おじいさんは朝いつも通りをさっさかと箒で掃いている。リツコはこっちへ越して来て朝早く起きてみて初めてこのおじいさんにあった。そのおじいさんはいつも着物を着て赤い下駄を履いている。頭はトサカの様にポマードで固めて金色に染めていて、サングラスをかけている。一見とても怪しい。実際も怪しい。だが子供にはとても優しく、正義感溢れるおじいさんである。




 「きょうもりっちゃんは可愛いなあ。昔ワシが冒険者をやっていた時ルクセンブルグで出逢ったジョセフィーヌもそういう美しい金髪をしておった。そのジョセフィーヌはトラブルに巻き込まれておったのじゃ。簡単にいうと人さらいにかどわかされて危うくいけない事をさせられるところじゃった。その時にわしゃその人さらいのアジトにジョセフィーヌの恋人と共に乗り込んでいったんじゃ…………」






 さっさか さっさか






 このおじいさんは通りを掃きながら昔探検家として世界中を廻った時の話をリツコとシンイチにしてくれる。おじいさんの話はとどまるところを知らない。世界の都市や地方、ジャングル、草原、廃墟、荒野、砂漠、海、山、湖あらゆる所をおじいさんは探検していた。前日パリの社交界で貴婦人と踊っていたかと思うと今日はヒマラヤで雪男を探し、明日は古代遺跡で太古の超文明を調べていた。秘密結社と戦い、悪魔教団に潜入し、犯罪組織を叩き潰した。おじいさんは当時世界最強の冒険者通称「冒険者A」と呼ばれていた。そのおじいさんの話が面白くない訳がなかった。二人はたちまち夢中になった。初めはその話が楽しみでリツコとシンイチは一緒に通りを掃いていた。最近は通りが綺麗になるのも楽しみとなっている。






 さっさか さっさか






 「……と言う事じゃ」
 「へぇ〜〜。すごぉ〜〜い。おじいちゃんって強いんだ。ねえおじいちゃん、おじいちゃんってどうして髪の毛をニワトリのトサカみたいに立てて金髪に染めているの?」
 「これか。これはのぉ、昔パリでミュージシャンのミレーヌと言う娘と恋に落ちてのぉ。ミレーヌは髪の毛をいろいろな形にしたり、染めたりするのがとても好きだったんじゃ。ある日の事ミレーヌを好いておる他の男と決闘になった。ミュージシャンのミレーヌの愛を得る為の戦いじゃ。当然音楽での戦いになったのじゃ。そこでまずわしは…………」






 さっさか さっさか






 リツコやシンイチが質問するとどんな事でも愉快な話にして答えてくれる。気のいい優しいおじいさんである。時々通り過ぎる人々も親しげに挨拶をかわしていく。このおじいさんは町の人気者なのである。




 「すごぃなぁ〜〜。おじいさんってもてるんだぁ」
 「はははは。ぼうや、男は度胸と気合いが一番。びしっと頑張れば何とかなるもんじゃ。せっかくこんな可愛い許嫁がいるんじゃ。頑張るんだぞ」
 「はい」




 おじいさんの言葉に元気よく答えるシンイチ。その返事を聞いて横でリツコは真っ赤になっている。う〜〜んらぶりぃ












 キーキキキキキ






 だが、この朝ののどかな一時をやぶった一台の車があった。大型のワンボックスがいきなりリツコ達のそばに止まると中から6人ほどの黒い背広にサングラスの男達が飛び出して来た。リツコとシンイチ、おじいさんが驚いていると、男達のうち一人がいきなりリツコをつかまえ、口にタオルをあてる。リツコは目を丸くして驚いていたがいきなりからだの力が抜け気絶する。どうやら薬を嗅がされたようだ。




 「りっちゃんになにするんだ」




 シンイチが箒をふり回し男達に迫るが一人にはね飛ばされて転がってしまう。




 とりゃ〜〜〜〜




 その時であった、一緒にいたおじいさんの箒が一閃した。箒は黒服の男の鳩尾に吸い込まれる。黒服の一人が吹っ飛ぶ。




 「女子供に手を上げる不埒なやからめ。りっちゃんを返すんじゃ。わしゃこれでも山岸流杖術の免許皆伝じゃ。お前らなんぞにゃ引けは取らん」




 おじいさんは箒の頭をはずし一本の棒にした。その棒は橿の木で出来ていた。その棒を持ち構える。おじいさんの全身からは気迫が漂ってくる。男達は一斉に襲いかかってきた。




 おりゃ〜〜〜〜




 言葉通りの実力であった。おじいさんの棒が閃くたびに、男達は叩き臥せられていった。一人は喉笛を叩き潰され、一人は腋の下の急所を打たれ悶絶する。シンイチは唖然として光景を眺めていた。が、三人をおじいさんがやっつけた時、残りの内の一人が打ち出し型のスタンガンを使った。






 ばしゅ






 男の手にしたピストル型のスタンガンからワイヤー付きの針が飛ぶ。それはおじいさんの胸につき刺さった。




 「ぐふ」




 スタンガンの高圧電気によりおじいさんは枯れ木の様に倒れた。男達は倒れた仲間をワンボックスに運ぶとリツコも車内に連れ込む。シンイチは男達の一人にしがみつくがまたも撥ね飛ばされてしまう。男達が乗り終えるとワンボックスは発車した。




 「あっりっちゃんが……おじいさんだいじょうぶ」




 シンイチにとってリツコもおじいさんも大切であった。




 「シンイチくん……わしゃ大丈夫じゃ……早く車を許嫁のりっちゃんを追うんじゃ。早くしないと見失ってしまうぞ。わしゃ今体がしびれて動けん」
 「でもおじいさんもけがをしているし……」
 「え〜〜い。早く追わんか。男だったら自分の許婚を助けるのが先じゃ。こんな老いぼれの手当てより自分の嫁を取り戻しに行くんじゃ」
 「わかったおじいさん。プチ、パチたすけて!!!!」




 シンイチが叫ぶとどこからともなくプチとパチが現れた。おじいさんは冒険家として超常現象に慣れているらしく特に驚きはしなかった。




 「パチはなおこおねえさんにしらせて。プチはぼくをのっけてあのくるまをおいかけて」




 にゃ〜〜
 にゃ〜〜




 判った様だ。シンイチはプチに跨がり首輪を掴むと言う。




 「おじいさん。いまナオコおねえさんがきます。ぼくはプチにのっておいかけます」
 「わかったわい。この橿の棒を持って行くんじゃ。背中にわしの細帯を使って結び付けるんじゃ。きっと役に立つ。大猫さんや、シンイチくんを頼んだぞ」




 にゃ〜〜




 シンイチは橿の棒をおじいさんの細帯で忍者の刀みたいに背中に括り付ける。そしてシンイチはもう一度プチにまたがると首輪を掴んだ。プチは大声で鳴くとずいぶん離れて小さくなったワンボックスを大排気量バイク並みの加速で追いかけ始めた。シンイチは必死につかまっていた。




 一方パチはおじいさんのそばを少しの間うろついた。一声鳴いた後福音荘に向かって駆け出した。リツコ達の部屋の前まで来ると戸をガリガリと引っ掻く。リツコとシンイチの為に朝ごはんを作っていたナオコはその音をきいて不思議に思う。シンイチは最近よく赤木家でご飯を食べる。




 「なにかしら」




 ナオコが戸を開いた。表に出るとパチがにゃにゃ〜〜と声を上げていた。




 にゃ〜〜にゃ〜〜にゃ〜〜にゃ〜〜




 パチはナオコの周りをぐるぐる廻ったかと思うとしっぽをナオコの手に巻きつけた。しっぽでナオコを引っ張る。




 「どうしたのパチ?どこかへ連れていきたいの?」




 にゃ〜〜〜〜




 「わかったわ。連れていって」




 ナオコはパチが引っ張るほうへと駆け出した。表の通り迄来るとおじいさんがなんとか起き上がろうともがいていた。ナオコはおじいさんを抱き起こすと聞く。




 「谷内のおじいさんどうしたのですか?」
 「ナオコさんや、すまん事をした。娘さんがワンボックスに乗った黒服の男達にさらわれたんじゃ。それをシンちゃんが黒い大猫に乗って追いかけて行ったんじゃ。面目無い」
 「そうですの。私の研究を狙った者達がリツコを誘拐し身代金がわりに脅し取ろうとしたんだわ。よくも私の可愛いリツコを。それにシンちゃんも危ないわ」
 「わしゃどうにかなる。早く二人を追いかけるんじゃ」
 「わかりましたわ」




 ナオコは懐から携帯電話を取り出すとあるダイアルをプッシュした。




 「もしもし私です。事態bー3が起こりました。私の特許の内No5をそちらに適正価格で譲渡しますので、特殊警備員ALとGRを至急よこしてください」




 ナオコは電話を終えるとおじいさんを背負った。福音荘まで連れて帰り手当てをする。パチは付いてきて部屋の中にいる。ナオコは出撃の準備をしていた。カギが掛かった金属製のロッカーから白衣とバイザーを取り出し身につける。ロッカーの棚にあった銀色の筒を二本取り出す。緊急外科治療キットと野戦用手術キットも取り出す。その他もろもろの装備を取り出す。ちょうど準備し終わったころで部屋の戸が叩かれた。ナオコは筒状の物体を持つとすぐ動ける体勢で聞く。




 「どなたですか?」
 「ナオコさん。研究所から来ました。ALとGRです」
 「じゃ合言葉は?」
 「合言葉は『らぶりぃりっちゃん』」
 「たしかにそうね。入って」




 二人の中肉中背のダークスーツの男が入ってくる。一人は茶色の髪を持っていた。もう一人は黒い髪を持っている。それ以外はよく似ている二人である。




 「ALです」
 「GRです」




 二人はあいさつをした。




 「さっそく行くわよ。装備を車に積み込んで。おじいさんはここで電話番お願いできますか。シンちゃんやリツコから連絡が入ったらXXXーXXXーXXXXに電話するように伝えてください」
 「わかったわい。どうせわしゃ一人でひまじゃ」
 「お願いしますわ。じゃAL、GRいくわよ」




 ナオコは二人に装備を持たせ福音荘を出ていった。パチもついてくる。




 「武運長久を祈るぞ」




 おじいさんの声が後ろからかかった。




















 一方その頃シンイチはプチの首輪に必死になってつかまっていた。ワンボックスを大猫に乗った少年が追いかける。その光景を見たものは唖然とした。そしてそれらが通り過ぎた後夢を見たものとむりやり納得し忘れた。ワンボックスは首都高速に入った。それを追いかけてプチとシンイチも続く。




 「はあ?」




 料金所の係員は目を疑った。大猫が少年を乗せ料金所の方にすっ飛んでくる。目の前を通り過ぎる。




 「え〜〜と。そうだ。寝不足なんだ。そうに違いない」




 係員は忘れる事にした。




 ワンボックスはどんどんスピードを上げていった。プチもそれにつれてスピードを上げていく。シンイチは風圧で徐々につかまっているのが辛くなって来た。




 「うわっ」




 シンイチはつかまっている事が出来ず、はね飛んでしまった。




 ぱし




 するとプチのシッポが伸びシンイチの体に巻き付き見事にキャッチした。




 にゃお〜〜〜〜〜〜〜〜ん




 プチが大声で鳴くとシンイチの体がみるみる小さくなった。シンイチが5センチぐらいなったところでプチはシッポを使いシンイチを自分の首輪へと運ぶ。シンイチはズボンのベルトを使い首輪と自分を括りつけ落っこちないようにした。リツコの婚約者ともなればこのぐらいの怪現象は慣れっこである。




 プチは距離をおきワンボックスに気付かれないように追いかけた。














 一方ワンボックスの中ではリツコが気絶から覚めていた。ぐるぐる巻きに縛られた上、外から見えないよう細工された座席にベルトで固定されていた。その上目隠しと猿轡をかまされていた。暗やみの中で呼吸も苦しかった。幼い子供になんとも酷い仕打ちである。




 (シンちゃん、お母さん助けて)




 言葉を発する事ができない為、フラン研も呼べず、魔法もアイテムも使えないリツコは涙をボロボロ流し心の中で祈っていた。




 「お嬢ちゃん、まあがまんしな。あんたのお母さんが発明品を渡してくれたら返してやるよ。さすがに子供を始末するのは目覚めが悪いんでな。それと悪いが目隠しと猿轡は外せないからな。お嬢ちゃんは言葉を発すると超能力を使えるという情報があるんでな。さて眠ってもらうとするか」




 そう言うと男は注射器を取り出しリツコに注射した。リツコはもがいて抵抗したがやがて静かになった。麻酔が効いたようである。ワンボックスは中央高速に入ると一路河口湖方面に向かった。時速150KMはでている。他の車をどんどん抜いていった。一方プチも負けずに走っていた。路肩をやはり同じぐらいのスピードで走っていく。路肩が無ければ道路の防音壁の上を、道路の両わきが切り立っている土手ならばその土手を道路と平行になって走って行く。プチを見た一般ドライバーは幻を見たと思った。こうして中央高速にもう一つ言い伝えが加わった。




















 ナオコ達はナオコの改造ワンボックスに武器や治療道具を乗せた。ナオコが運転席につき、ALとGRは後ろの座席に付いた。エンジンをスタートさせる。ターボのブースト圧とサスペンションの切り替えを最速にする。




 「パチ、いいわよ」




 ナオコの声を聞くとパチは走り出した。その後をナオコのワンボックスが追い掛けて行く。パチもワンボックスも0〜400メートル12秒をきっていた。




















 犯人のワンボックスは大月分岐を河口湖方面に抜けた。まだリツコは目覚めていない。しばらく飛ばし河口湖ICで一般道に降りると富士の樹海の方へと向かう。わき道にそれると奥のほうに入っていった。やがて道の奥に工場が3棟見えてきた。山上肥料工場と看板が有った。今日は休日なせいかひっそりとしている。ワンボックスはその前に止まった。少したってぐるぐる巻きに縛られたリツコがワンボックスから運び出され道に一番近い工場に運びこまれた。




 プチは音も立てずわき道のその横の獣道を移動していた。そしてリツコが連れ込まれた工場のすぐ側まできた。




 「プチありがとう。もとのおおきさにして」




 シンイチはプチの首輪から体をはずすと言う。 




 にゃ〜〜




 プチが小さい声で鳴くとみるみるうちにシンイチは元の大きさになった。




 「じゃぁプチはナオコおねえさんさんやパチをよんできて」




 にゃ〜〜




 一声鳴くとプチは走り出していった。




 「さてどうしよう。はやくたすけないとりっちゃんひどいめにあうかもしれない。でもどうやってたすけたらいいんだろう。あっそうだ」




 シンイチはポケットを探るとある物を取り出した。銀色のブレスレットである。




 「これのつまみをさいきょうにすれば……」




 シンイチは遊園地に行った時にリツコから貰ったブレスレットを右手に付けた。調整用の刻みを平らな石の先端で回す。そして2のボタンを押した。




 ぶう〜〜ん




 唸り音と共にシンイチの体が白い光に包まれる。




 「よ〜〜〜〜し」




 シンイチは工場の前に飛び出すと、背中から棒を抜き構えた。入り口の戸に蹴りを入れた。




 「シンちゃんきっ〜〜く」




 戸はばらばらになって吹っ飛んだ。シンイチは飛び込んだ。机が整然と並んでいる。事務所の様だった。奥に応接セットらしいソファがありその側の床に縛られて猿ぐつわをされたリツコが転がされていた。誘拐犯はその周りにたむろしていた。




 「りっちゃんをかえせ〜〜」




 誘拐犯達は無言で襲いかかってきた。子ども相手に武器はいらないと思ったのか素手だ。




 「シンちゃんブレード」




 シンイチの力はブレスレットによって増幅された。シンイチの手に握られた棒が一人の脇腹に当たった。男は吹き飛んだ。




 男達の一人がまたスタンガンを使う。しかし打ち出されたワイヤー付き針はバリヤに跳ね返された。




 「シンちゃんダイナミック」




 シンイチは上段に振りかぶった棒を男の一人に向かって振り落とす。その動きに合わせバリヤの一部が光の弾となって男を襲う。男は光の弾に撥ね飛ばされ、部屋の端まで弾き飛ばされる。シンイチはTVのヒーローの真似をしただけだが、偶然それは技となった。




 が、そこまでだった。ブレスレットの唸り音が聞こえなくなったかと思うとシンイチを包んでいたバリヤが消えた。




 「うわ。でんちきれちゃった」




 シンイチは懸命に逃げ回った。小さい体を利用して机の間や椅子の陰を走り回った。逃げ回りながらもどうにかリツコに近づこうとした。しかし追いつめられ誘拐犯の一人につかまった。




 「小僧よくもふざけた真似を」
 「はなせ〜〜〜〜」




 シンイチは両手を片手でつかまれ持ち上げられた。シンイチは自由になる足をじたばたとさせた。誘拐犯はシンイチに平手打ちを何回も頬にくらわす。大人の力で殴られたシンイチはぐったりする。シンイチはやはりリツコの様に縛られ一緒に転がされた。シンイチは意識を失っていた。頬が真っ赤に腫れあがり痛々しい。鼻から血を流し、口の中も切ったのか床は血だらけとなった。一方リツコは意識を回復していた。




 (シンちゃん!!!!)




 リツコはシンイチの惨状を見てボロボロと涙を流した。縛られて動かない手足を何とか動かし芋虫のようにシンイチに近づく。が足に括り付けられたロープのせいで後20センチの所でそれ以上は近づけない。




 「さてとお嬢ちゃん。お嬢ちゃんは取引材料だから粗末に扱えないが、この小僧は違う。指でも切り落としてお嬢ちゃんの家に送り届ければ交渉が楽そうだな」




 誘拐犯の一人はそう言うとナイフを取り出した。リツコはじたばたして何とかしようとしたが無駄だった。




 (だれか。だれか助けて。シンちゃんが〜〜〜〜)




 その時だった。




 「サイバーウイップ!!!!」




 建物の外から怒りに満ちた女性の美しい声が響いて来た。




 シュン




 何かが部屋の上の方を通り過ぎた。誘拐犯達は上を見上げた。




 ズズズズズズズズ




 建物は1階の上の方から斜めに切れ目が入り少しずつずれていった。誘拐犯達は唖然としてみていた。青空が見えてくる。




 ズズ〜〜ン




 建物の二階から上がずれて落ちた。




 「加速装置」「影分身」




 二人の男の声がしたと思うと、リツコの前にはGRが、シンイチの前にはALが立っていた。誘拐犯達が再度リツコ達のほうに振り向くと、リツコとシンイチと共にGRとALは消えていた。誘拐犯達は再度唖然とした。外からまた女性の声がした。その声は美しくとてつもなく冷たかった。




 「よくも私の可愛い娘と彼氏に酷い事をしてくれたわね」




 入り口から白衣を着てバイザーを付け両手に一つずつ筒状の物を持ったナオコが入ってきた。普段なら可愛い感じの美人であるが今は違った。怒りで切れ長の目は吊り上がり頬は紅潮し般若のようであった。そこには凄絶な美があった。あまりの美しさの為誘拐犯達は凍り付いていた。




 コツン




 ナオコがまた一歩部屋の中に進んだ。ローヒールの音がやけに響いた。誘拐犯達はその音に誘われる様にショルダーホルスターから拳銃を抜き撃ちした。確かに彼らの抜き撃ちは早かった。だが撃った弾はナオコの前の空間で止まり床に転がった。




 「私の娘の試作品のブレスレットでさえあれだけの力があるのよ。私の特殊強化白衣のバリヤは戦車でも破れないわ。じゃ私からお仕置きよ。サイバーウィップ!!!!」




 ナオコの両方の手の筒から光の鞭が伸びた。左手の鞭が誘拐犯達全員を牽制し右手の鞭で一人一人空中に撥ね飛ばす。




 「悪い事をしたのはこの手ね、この足ね。お仕置きよ〜〜」




 ビシバシ




 全員の手と足を叩き折り武器を使えなくする。誘拐犯達は赤木母娘を敵にまわした事を後悔しつつ全員気絶した。




 「これでよしっと。こいつら1日ぐらいは目を覚まさないわ」




 ナオコはそう呟くと外に出た。外ではALとGRがリツコとシンイチの縄をほどき治療を行っていた。ALは伊賀忍者、GRはサイボーグでそれぞれ影分身、加速装置が使えるのである。先ほどリツコとシンイチを助けたのもそれであった。




 「お母さん。うわぁ〜〜〜〜ん。シンちゃんが…………」




 リツコはナオコに泣きながら抱きついた。




 「ALどう?」
 「大丈夫です。多少の外傷と口の中に傷がありますが、特に問題は無いみたいです。ただ頭を殴られていますから早く医者に見せたほうがいいです」
 「わかったわ。ここは引きましょう」




 が、しかしこの建物の横にある工場から手に拳銃や自動ライフルを持った男達がわらわらと飛び出してきた。強化装甲服を着た者達の姿もある。




 がらがらがら




 工場の奥から軽戦車も進んでくる。




 「こいつら、やはり勝負は付けておいたほうがいいわね。私はシンちゃんの治療をするから二人ともやつらをやっておしまい」




 GRは手を胸の前で交差させると叫んだ。




 「シャインスパーク!!!!」




 GRの体が白い光を発した。GRは戦車に加速して突っ込んだ。GRの体の形通りに穴が開き軽戦車は爆発した。その爆発に時を合わせたように装甲服の敵の姿が消えた。GRも姿を消す。加速状態での戦闘に移った為目には見えなくなったのだ。森の空中で激しい戦闘音だけが響く。一方他の敵の一般兵が自動ライフルを連射しながら近づいてくる。ALは素手だ。




 「忍法・影分身」




 ばらばらばらばら




 突如ALの姿が十何人にも増える。あっという間に敵の兵士達は倒されていく。が、他の工場からどんどん敵は湧いてでてくる。戦いは膠着した。




 ナオコはバリヤを張りつつシンイチの治療をしていた。ふっと気が付くと空気がイオン化する匂いを嗅いだ。そばにいるリツコが敵達の方を向いていた。金髪は逆立ち体の周りを小さな放電が踊っていた。やがてリツコの体を白い光が覆ってくる。




 「やばい。AL、GR戻って」




 戦闘中でも聞こえたのかALとGRが戻る。ナオコは二人をバリヤの中に入れた。




 「二人とも伏せていて」




 ナオコはシンイチに覆いかぶさるように伏せた。ALとGRも伏せる。ナオコの白衣のバリヤは敵の攻撃を全て受けきっていた。




 一方リツコは心底怒っていた。




 「よくもシンちゃんを!!!!」




 皆の前に立つと右手を前に出す。敵の猛攻にも耐えているバリヤが簡単に破られる。バリヤの外に出たリツコを敵の銃弾が襲う。だが全身を覆う白い光が全てを跳ね返していた。リツコは呪文を唱える。




 「右手には天の光、左手には地の暗黒…………」




 リツコの緑色の瞳は光を発してきた。そして徐々に体は浮かび上がってきた。プチとパチもいつの間にか足元に来ていた。




 「……陰と陽とが合わさる果ての全ての力を操りて、今時の狭間へ旅だたせん……」




 リツコの右手には白色の塊、左手には黒い塊が生じていた。




 「……わが意に逆らう者達に永遠の流刑を与えたり…………タイム・ストライク!!!!」




 リツコは右手と左手を敵に向かって振り降ろした。黒白の塊は敵のど真ん中に落ちた。空間がひきつった。次の瞬間敵が居たあたりは何も存在していなかった。そう何も。半径100メートルほどの空き地が樹海の中に出来ていた。リツコはふっと空中で力が抜けると気を失ない落下する。GRが受け止めた。




 「今のは何ですか。それにりっちゃんは大丈夫ですか」




 さすがに驚いたのかALが聞く。GRも聞き耳を立てている。




 「魔法よ」
 「魔法????」
 「家系なの。子どものうちは魔法を使える家系なの。後でゆっくり説明してあげるから。リツコは力使い果たして寝てるだけ。それよりシンちゃんの治療が先よ」
 「そうですね」




 ALの返事と共に皆は乗って来た特殊改造ワンボックスに戻った。後部座席をフラットに倒すとシンイチを寝かせ固定する。寝ているリツコはGRが抱き後部座席の横に座る。ALは助手席に座る。プチとパチはいつの間にかに消えていた。ナオコは運転席に座るとエンジンをかける。




 「ALこの辺で一番近い研究所の施設はどこ?」
 「大月にあります」
 「わかったわ。飛ばすわよ」




 ワンボックスは勢いよく飛び出していった。中央高速に乗ると平均時速250KMで飛ばす。




 「うちの旦那の……って言っても去年死んじゃったけど……家系ってイングランドの有名な魔導士の血筋が入っているの」




 運転しながらナオコはALとGRに話し出す。




 「代々その家系に金髪の女の子が生まれるとその子は大人になるまで……お赤飯炊くまでね……魔力が使えるの。リツコもそう。リツコはここ10世代では最大の魔力を持つそうよ。ちなみにプチとパチはその魔力を持つ女の子を護衛する使い魔の化け猫よ」
 「そ、そうですか」
 「さっきの魔法は空間に巨大なエネルギーを集中させゆがめて、対象を時間の彼方に送り込んでいるらしいわ。8代前の女の子が過去に送り込んだ鏡がOパーツとして100万年前の地層から出土した事もあるのよ」




 あまりの話にALも二の句がつけられない。もっともこの男も影分身を使うなど十分変だが。




 「この話は内緒よ。まあ誰かに言っても信じてもらえないでしょうけど。それとあの戦闘の跡研究所で始末お願いね」
 「わかりました」




 GRが答えた。ナオコは速度をどんどん上げていった。




























 「シンイチ君何でもなくてよかったわ」
 「うんぼくもりっちゃんがたすかってよかった」
 「シンちゃんほんとうにありがとう」




 ここはナオコの所属している研究所の施設であった。結局シンイチはなんともなくすぐ目を覚ました。リツコもほぼ同時に眠りから目覚めた。シンイチは医師の診断の結果脳に異常はなく、このまま帰っても問題が無いそうだ。ただ顔の腫れは三〜四日たたないととれないらしい。おかげで顔にべたべたと絆創膏をいっぱい貼っている。三人は来客用の部屋でくつろいでいた。今はコウイチが中央高速をふっ飛ばしてこちらへ向かっている最中で、それを待っていた。ALとGRは元の職場に戻っていった。谷内のおじいさんにはすでに連絡を入れておいた。




 「コウイチさん許してくれるかしら。シンイチ君をこんな目にあわしちゃって」
 「だいじょうぶだよ。おとうさん、ナオコおねえさんのことすきみたいだし」




 思わぬシンイチの言葉に赤面するナオコである。そのそばではリツコとシンイチがにこにことして並んで椅子に座りお菓子を食べていた。




 だだだだだだだだ バタン




 「シンイチ、大丈夫か」




 コウイチが部屋に飛び込んでくる。到着したようだ。




 「だいじょうぶだよ。りっちゃんも」
 「そうか。ナオコさん電話で話せなかった事詳しく教えてください。秘密は守りますから」
 「わかりました」




 皆は再度ソファに座る。ナオコが事の次第をコウイチに説明する。




 「コウイチさんごめんなさい。私達母娘の為にシンイチ君をこんな目に合わせてしまって」




 ナオコとリツコは共にうなだれていた。コウイチは二人には答えずに隣に座るシンイチに聞いた。




 「シンイチ、りっちゃんをちゃんと助けたか?」
 「うんわるいやつらのうちふたりはやっつけたよ」
 「そうか。よく頑張ったぞ。これからも自分のお嫁さんは自分で守るんだぞ。お父さんにはそれが出来なかった。それでお前につらい思いをさせてきた。だからりっちゃんをこれからも守るんだ」
 「うん」
 「返事はハイだ」
 「ハイ」




 リツコとナオコが顔を上げる。




 「りっちゃん」
 「シンちゃん」
 「これからもぼくがまもってあげるよ」
 「シンちゃん……大好き」




 リツコが嬉し泣きをしながらシンイチに抱きついた。シンイチは顔を真っ赤にしている。シンちゃんもけっこうらぶりぃ




 「コウイチさん。ありがとうございます」
 「いえ。好きな女性を守るのはいつの世でも何才でも男の仕事ですよ」




 コウイチは笑いかけた。ナオコは思わず目頭が熱くなった。




 「ナオコさん、今日はお疲れでしょう。僕の車で皆で帰りませんか。あのワンボックスは置いていけるのでしょう」
 「お願いしますわ。さすがにつらいので」




 四人は帰ることにした。そろって研究所の建物を出る。その時であった。




 ぐわぁ〜〜




 潜んでいた強化装甲服の兵士がナオコに襲いかかってきた。装甲服はあちらこちらから火花を吹き壊れかかっていた。生き残りの兵が追い掛けてきたのであろう。しかしナオコは特殊強化白衣も光の鞭も置いてきていた。




 きゃ〜〜〜〜




 ナオコの顔が恐怖にひきつった。ナオコは死を覚悟した。が、コウイチが強化装甲服の兵士の前に躍り出るとナオコを掴もうとしていたその手を掴んだ。




 どぉぅりゃ〜〜〜〜〜〜〜〜




 野太い咆哮がコウイチの喉から放たれた。鍛えぬかれた全身の力を一気に腰と腕にかける。強化装甲服と兵士の体重合わせて200KGが宙に舞う。日本が世界に誇る柔道の必殺技一本背負いが炸裂した。敵の兵士はその自重ゆえにダメージが大きくコンクリートの道路の上で気絶した。強化装甲服も動きを止めた。




 「「おとうさん」」
 「コウイチさん」




 三人がコウイチに言う。ちょうどその頃になって研究所から警備員が飛んできた。




 「シンイチ、好きな女性を守る時はこうするんだ」
 「コウイチさん」




 ナオコがコウイチに抱きついた。コウイチは顔を真っ赤にした。こちらも似ている父子であった。








        
つづく





NEXT
ver.-1.00 1997-10/29公開
ご意見・感想・誤字情報・らぶりぃりっちゃん情報などは lovely-ricchan@EVANGELION.NETまでお送り下さい!




 あとがき




 ま「今回はやたら派手になったなぁ」
 り「まっこうさん、こんにちわ」
 ま「あ、こんにちわ。今回は酷い目に合わせてごめんね」
 り「ううん。いいの。その代わりシンちゃんすごくりりしかったし。私早く大人になってシンちゃんのお嫁さんになるわ」
 ま「そうだね。頑張って書いてあげるよ。そうそうこの前フラン研さんのエヴァトレに出ていたね」
 り「うん。フラン研さんに呼ばれてこの原稿呼んでねって言われたの。いつもと違う話し方だから苦労しちゃった」
 ま「そうだね。まるでタカビーアスカ(まるしー大家さん)ちゃんみたいな口調だったよね」
 り「うん。そういえば「めそアスお姉ちゃん」も出てたわ。でもなぜか耳がとがっていたの。それに私と同じリツコて言う博士も出ているの」
 ま「そのようだね。こんどあいさつに行かないと」
 り「そうね。シンちゃんとまっこうさんで会いに行きましょう」




 二人ののんびりした会話は続いた。




 つづく




 次回は




 「あの子とライバル」





 合言葉は「らぶりぃりっちゃん」





 ではまた



 まっこうさんの『気になるあの子』第6話、公開です。
 

 ほんわか遊園地編に続いては、
 緊迫感溢れるアクション!
 

 シンイチくんは
 この年でしっかり”男”ですよね(^^)
 

 おじいさんから譲り受けた樫の棒と
 りっちゃん謹製のブレスレットを手に立ち向かう。

 強力な武器を持っていると言っても
 やはり最後はシンイチくんの勇気ですね。
 

 うん、男だ(^^)

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 サッカー日本代表の不甲斐なさに私と共に歯ぎしりするまっこうさんに感想メールを送りましょう!


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