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湯煙の中で















「あ゛〜〜〜〜〜〜!!」


バスルームから轟く叫び声。


ドタドタドタドタ・・・・


勢いよく近づいてくる足音。


そして、


「ちょっとバカシンジ!!こぉのアタシに火傷させる気!!!?」


ビシッと彼を指差しながら、空いた手を腰に当てて仁王立ちしているアスカが現れた。


「ごめん」


キッチンで夕食の後片づけをしていたシンジは、彼女の勢いに呆気にとられながらも、それでもいつものように直ぐに謝罪の言葉を出していた。


「ごめんごめんって、ほんっとに悪いと思ってんの!!!?」


腰に手を当てたまま怒りを顕わにしている彼女だが・・・・


「うん、お湯が熱かったのは僕の不注意だから・・・、けど、アスカ・・・」

「なによ」


頬を赤くしながら出されたシンジの言葉に、アスカは訝しげに顔をしかめる。


「いくら僕たちそういう関係になったからって、やっぱり、そういう格好はよくないと思うよ・・・」

「え?・・・・」


シンジに言われて初めて自分の姿を目の当たりにするアスカ。


「ひゃあっ!!!」


慌てて胸と下腹部を手で押さえるかと思いきや、


「シンジのエッチ!!!!」

バシンッ


その一言とともに紅葉を彼の頬に残してバスルームへと戻っていった。


「エッチって・・・・、寝るときになったら僕のベッドに潜り込んできて求めるくせに・・・」


そう独りごちた言葉に、出来たての紅葉を撫でながらそれが判らなくなるほど更に顔を赤くするシンジだった・・・。










「ちょっとシンジ、こっちにいらっしゃい!」


シンジが一人、キッチンで人参と化していると、不意にバスルームからアスカの彼を呼ぶ声が聞こえてきた。


「なんだよいったい・・・」


ぶつぶつ言いながらバスルームへ向かうシンジ。

そこでは、申し訳程度にタオルで身を隠したアスカが横柄な態度で彼を待ちかまえていた。


「来たわね、バカシンジ。さ、アンタがお湯をうめるのよ!」

「え〜!?」

「なによ。アンタがぼけぼけっとしてこんなに熱くしたんだから、責任とりなさいよ!」


不平の声をあげるシンジをよそに差し出されたアスカの手には、一つの洗面器がぶら下がっていた。


  ふぅ


アスカに聞かれないように注意しながら小さな溜息をついた彼は、しぶしぶそれを受け取り、バスタブの前へ座り込むのだった。


目の前には、もうもうと湯気を立ち上らせるお湯。

とりあえずそれに手を浸けてみるシンジ。


「あっちー!」

  こんなに熱いなんて・・!


突如襲ってきた灼熱の感覚に咄嗟に手を引いたシンジだったが、そんな彼の様子を当然の報いと受け止める少女が一人。


「そうよ!アタシをこんな熱湯に入れようとしたなんて、ほんととんでもないわ!!」


そんな怒気をはらんだアスカの声に、先程とは違い心を込めてシンジは謝る。


「ごめんねアスカ」

「ま、やったことは仕方ないわ。とにかく早くしなさいよ、アタシ風邪ひいちゃうじゃない」


どうやらアスカはこのままシンジの後ろで待っているようだ。

そんなこと言うくらいなら服着て待ってればいいのにと思いながらも、それを口にした後の反撃が恐いシンジは、黙々と水を注ぎ込み、洗面器でかき混ぜるだけだった。










「こんなもんでどう?」


両手を熱で真っ赤にしながらも、自分の仕事の成果をアスカに尋ねるシンジ。


「ふん、まあこんなもんね」


彼女は手をお湯に浸けると満足そうに頷いた。


「そう、よかった。じゃあゆっくりね」

  ふう、今度からもっと気を付けないとな


「ちょっと、待ちなさいよ・・」


ほっとしてバスルームから出ていこうとするシンジの背中に、アスカのどこかためらいがちな声が聞こえた。


「え?」

「風呂、アンタも入りなさいよ・・」


そう言ったアスカの頬が桜色に色づいているのは、決して湯気に当てられた為だけでは無いだろう。


「い、いいの?」

「なによ、いいじゃないお風呂一緒に入ったって。アタシ達、そういう関係なんだし・・・」

「・・そ、そうだね。・・判った。一緒に入ろうか」


そっぽを向きながら投げやるように言うアスカの姿が愛らしくて、思わず微笑むシンジだった。










ざぁぁぁぁ


アスカを背中に感じながら赤い顔をしてお湯を被るシンジ。

彼の頬が赤い理由は、まあ、言うまでもないだろうが。

いくらそういう関係になってるとはいえ、明るく、それでいて狭くて、湯気の立ちこめるバスルームにふたりっきり。

さっきは簡単に同意したことだけど、こう改めて体験してみると妙に気恥ずかしい。


ざぁぁぁぁ


さっきからシンジは、何するでもなくただただお湯を被っていた。





コシコシコシ


アスカは手に持ったスポンジを泡立てながら、シンジの掛けるお湯を一緒に浴びている。

自分から言い出したこととはいえ、いくらそういう関係になってるとはいえ、さすがにアスカも気恥ずかしいらしい。

ほんのり色づいた頬がそのことを物語っている。


コシコシコシ


いいかげんに泡立たなくなってきたスポンジに、慌ててボディーソープを付け足すアスカだった。










「ねぇ、シンジ」


「なに?」


「さっきからお湯被ってばかりね」


「あ、そうだね」


「アタシが背中洗ってあげよっか」


「え、うん、ありがとう」


「いいのよ」


さっきから泡立てっぱなしのスポンジを持って、アスカがシンジの方に向く。


目の前に現れたシンジの背中を見て、ある感覚がわき上がるのを感じるアスカ。





  大きい?

  いや、そんなことない。

  背はアタシとそんなにかわんないもの。

  たくましい?

  まさか。シンジに限ってそんな言葉は当てはまらない。

  じゃあなんなのこの感じ。




アスカは、スポンジをシンジの背中にあてがったまま洗いだそうとはしなかった。


「どうしたのアスカ?」


いつまで待っても動かないスポンジを訝しく思ったシンジの声に、アスカはハッと我に返る。


「なんでもないわ」


慌てて背中を洗い出すアスカをシンジは不思議に思いながらも、他人に、アスカに洗ってもらえる気持ちよさに目を瞑るのだった。





洗いながらも、アスカはさっきから感じている感覚に、気持ちに、心が揺れていた。


  大きい背中じゃない。たくましい背中じゃない。だけど・・・


ともすれば、このまま後ろから抱きつきたくなる感覚。

その理由は極簡単。しかし、それを導き出すには、あまりにも簡単すぎたかも知れない。

とにかくアスカは、その感覚と戦いながらひたすらにシンジの背中をこするのだった。










「ほら、今度はシンジの番よ。アタシの背中洗ってよ」


そう言うと、アスカはシンジの目の前にスポンジを差し出した。


どれだけ彼の背中を洗っていたのか、アスカには判らなかった。ただ気が付いたときには、彼の背中に泡の無い所などどこにもなかったのだった。


「え、うん」


目の前に差し出されたスポンジを素直に受け取ったシンジ。


アスカがこちらに背を向ける気配を感じながら、アスカの方へと向き直る。


白く、そして華奢な、少女の素肌がそこにはあった。


  背は僕とそんなに変わらないのに


触れることさえためらわれる滑らかなその肌に、湯気の滴が珠となって流れている。


  なんだろう、この感覚


アスカとはまた違った、それでいてどこか同じ様な感覚に捕らわれるシンジ。


しかし次の瞬間、彼は彼女を抱きしめていた。


「きゃっ」


小さな悲鳴の後、訪れたのは静寂。

お互いの鼓動だけが、世界を支配しているような。


アスカは、包まれることに安らぎを覚え、

シンジは、包み込むことに想いの丈をのせて。


「アスカ、大好きだ」

「うん」


それは静寂の果てにもたらされた言葉。


「絶対、放さないからね」

「うん」


そして、ふたりの想いの全て。










結露した滴の、湯船を打つ音が、静かに響く。


アスカの背中を流す少年の顔が、


シンジの手を背中に感じる少女の顔が、


とても柔らかいのは、


とても自然な姿だった。










「ね、シンジ。また、一緒に入ろうね」


「うん、そうだね」





























ver.-1.00
1997-12/04 公開
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<あとがき>

ども〜、たこはちです。一月余のご無沙汰でした。

アスカちゃんの誕生日にSSをUPする事が出来て、とりあえず満足してます(^^;
だからと言って、これが誕生日モノかと言えば、全くそうではなくて、相変わらずやってます。
いや、何をやってるかって言われても困るんですが(^^;;

”そういう関係”なのに一緒にお風呂に入るだけでこんなに照れちゃってる初々しい二人ですが、
この関係がいつまでも続けば良いんじゃないかと思ったりしながら。

たこはちでした。


 たこはちさんの『湯煙の中で』、公開です。
 

 あふん・・・・アスカちゃんがかわいいん

  と、私、壊れちゃいました(^^;
 

 
 お風呂が熱いことを逆手にとって、
 シンジくんと一緒にはいることに持ち込んじゃって。

 シンジくんの背中を洗って、
 色々考え感じて・・・。
 

 
 いきなり抱きつくシンジにちょっとドキドキしたけど(爆)
 それからの二人の会話はドキドキした自分が恥ずかしくなるような暖かいものでした。
 

 あぁ・・LASは良いなぁ(^^)
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
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