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ネルフ村の平和な日常

第9話

「魔法都市ジオフロント」


喧噪があふれる街の中で、無数の人々が行き交っている。灼熱の日差しにも街の気配は全く衰える様子はなく、むしろ活気づいているとも言える。魔法都市、学者の街として知られるジオフロントも、住人全員が魔術師というわけもなく、ほとんどがただの一般市民である。だが、そんな一般市民こそが、真に国を支えるのだ。それを知る国は栄え、それに気づかない国は滅ぶ。太古の昔より繰り返されてきた歴史である。

そんなことを考えながら、ゲンドウは懐かしげにジオフロントの町並みを眺めていた。

この街に来るのも5年ぶりだ。

変化の少ない村の生活もいいが、絶えず変化し続ける街の生活にも楽しみは多い。

かといって今更街に戻る気はないが。

彼にとってはネルフ村で静かに余生を送ることだけが今唯一の望みなのだ。

だが、若い者達は変化を求めて街へと出ていくのだろう。

それもいいと思う。

ただ、彼らが疲れ果てて帰ってきたとき、ネルフ村が彼らにとって真に安らげる場所となればいい。

ふと若い者達――シンジ達に目を移す。

3人は、久しぶりに来る街に目を輝かせて走り回っていた。

さらに正確に言えば、目を輝かせてあちらこちらの店を覗くアスカとレイにシンジが引っ張り回されている。

(――シンジは尻に敷かれるタイプだな……)

自分のことを完全に棚に上げている。

ちなみに、彼の心に棚は今のところ348個あるらしい。

ゲンドウは、駆け回るレイ達の首根っこを捕まえると、

「遊ぶのは後にしろ。まずは目的をすませてからだ」

「……そう言えば、父さん。ここに着た用事って何なの?」

「……言ってなかったか? まあいい、魔法学院に用がある」

ゲンドウはそれだけ言うと、さっさと歩き出した。

シンジ達は顔を見合わせると、あわててゲンドウの後を追った。

 

 

 

 

魔法学院――

「へぇー、ここに来んのも久しぶりねー」

「あれ? 姉さん来たことあるの?」

「何言ってんのよ、5年前に一回来たじゃない」

「そうだっけ?」

悩むシンジをあきれたように見下ろすレイに、ゲンドウが声をかける。

「正確には、16年前と14年前にも来ている」

「……そうだっけ?」

先ほどのシンジと全く同じことを言うレイ。

「やっぱり姉弟ねー。あんた達」

「な、だ、だってそんな昔のこと覚えてるわけないじゃないの! 16年前って言ったら私0歳と2歳よ!」

「……あれ、でも父さん、僕たちの生まれた年にちょうど来てるんだね」

ふと気づいたようにシンジが言った。

「う、うむ。まあ、そういうことだ」

珍しく態度のはっきりしないゲンドウ。

シンジは、そんなゲンドウの態度に何となく違和感を覚えたが、考えても分かるわけでもないので、それ以上そのことについて考えるのはやめた。

「あら、イカリ先輩じゃありませんか」

そのとき、不意に横合いから声がかかった。

シンジ達が一斉に振り向くと、そこに立っていたのは、ゲンドウの陰謀によってゼーレ村襲撃事件の首謀者にまつりあげられ、その悪名をより一層轟かしたアカギ=リツコその人だった。

そんなこと、本人は知る由もないが。

「おや、アカギ君。どうしたのだね、こんな所で」

「いえ、私は学園から依頼されていたレポートの提出に……イカリ先輩達は何の用でここに?」

「うむ……少し学院長に用事があってね」

「そうですか。……それじゃあ、私久しぶりにこの辺りうろついてますから、用事が終わったら一緒に食事でもいかがですか?」

「断る理由はないな。お言葉に甘えよう」

「分かりました。それでは、また後で」

そう言うと、リツコは学院の外壁の方に歩いていった。

魔法学院は、中心にそびえる主塔と、東西南北それぞれの位置に置かれた4つの副塔からなっている。そして、副塔を互いに結ぶようにして、高い外壁がそびえ立っているのだ。ちなみに、外壁には扉は2つしかついていない。

「……父さん、用事って学院長に会うの?」

シンジが尋ねる。

その後を継ぐようにレイも問う。

「学園長ってフユツキ先生のことよね?」

「ああ、フユツキ先生は私の恩師だからな。……シンジ。おまえも5年前に会っているのだぞ」

「ええー? 記憶にないなぁー」

必死に首をひねるが、思い出せない。

「まあ、いい。会えば思い出すだろう」

そう言うと、ゲンドウは学院の中心部――主塔に向かって歩いていく。

シンジ達もあわててその後を追った。

 

 

主塔の第1階は、王都の高級ホテルのロビーを彷彿とさせるような立派なつくりになっていた。

バカみたいにぽーっと口を開けて見回しているシンジとアスカを後目に、ゲンドウは「受付」と書いてあるカウンターへと向かう。

横にはレイもくっついている。

「イカリ=ゲンドウだが、学院長にお会いしたい。――約束が入っているはずだが」

「ええと、少々お待ち下さい。……イカリ様ですね?」

どこかで聞いたことのある名前だなと思いながら、まだ新米の受付嬢は確認した。

ゲンドウは鷹揚にうなずいてみせる。

「――はい、確かに約束が入っております。学院長がお待ちです。どうぞこちらへ」

受付嬢の案内した先にあったのは、VIP専用の魔力エレベーターだった。どういう原理で動いているのかは忘れたが、発明された当時は「世紀の大発明」ともてはやされたが、その燃費上の欠陥から、魔法学院と王城でしか使われてないというかなりのレアものである。

レイはゲンドウの脇腹を肘でこづいて、

「へぇ、すごいじゃないの、お父さん」

「まあな。おい、シンジ、アスカちゃん。早く来ないと置いて行くぞ」

ゲンドウの声ではっと我に返ったシンジとアスカは、急いでエレベーターに乗り込んだ。

2人が乗り込むと同時、魔力エレベーターは教室のある23階までを抜かし、教員達の実験室などがあるフロアも通り過ぎ、最上階でやっと止まった。

全33階の魔法学院主塔を15秒で最上階まで行けるのだから、この発明ももっと燃費がよければまさに「世紀の大発明」だっただろう。

エレベーターが開くと、だだっ広い部屋に、机が一つだけぽつんと置いてある。

その机に――その机に付属している椅子に、1人の老人が腰掛けていた。

「……待っていたよ」

「お久しぶりです。フユツキ先生」

一礼するゲンドウ。

「シンジ君に、レイちゃんに……そちらのお嬢さんは?」

「昔の仲間達の娘です」

「おお、たしかキョウコさんとイルクとかいったかな」

「パパとママを知ってるんですか!?」

突然自分の両親の名が出てきたことに、アスカが驚いて叫んだ。

「うむ、まあ、昔会ったことがある」

曖昧な返事を返すフユツキ。

その後、フユツキはシンジやレイと「大きくなったな」とか、「お母さんは元気か」などと、他愛もない話をいくつか交わした。

1時間ほど話した後に、ゲンドウが口を開く。

「私は先生と話がある。お前達は下でリツコ君と食事でもしていてくれ」

そう言うと、ゲンドウはシンジ達をエレベーターに乗せ、一階まで降ろした。

どんどん下がっていく階表示を見つめながら、ゲンドウはフユツキに背を向けたまま呟いた。

「どうですか……5年ぶりにあの子達を見た感想は」

「うむ……二人とも年をとるに連れてユイに似てくる。安心したよ」

「はっはっは。何をおっしゃいますか。シンジなど成長すればするほど私の若い頃にそっくりです」

シンジ君可哀想に……

フユツキはこの時心からシンジに同情したという。

「それよりも」

と、ゲンドウはフユツキの方に向き直る。

「まだ、ユイと和解する気はないのですか…………お義父さん」

 

 

「…………もう少し、考えさせてくれないか」

フユツキは顔を苦渋にゆがめ、声を絞り出した。

「前に来たときも同じ答えでした。あれから5年がたっています」

「君なら分かるだろう、イカリ」

そう言うと、フユツキは椅子から立ち上がり、奥の壁から外を覗いた。

院長室の壁は、全てガラス張りになっていて、ジオフロントを一望することが出来る。

「……昔から、分かり合えない親子だった。いや、互いに分かろうともしなかったのだろうな、今にして思えば。ユイが出ていったときもそうだった。些細なことで口汚く罵り合い、あいつは出ていってしまった」

「……昔と今では違います」

「何も違わないさ。今私がユイと会っても、気まずい空気が流れるだけだ。それなら、いっそ……」

「シンジ達に、自分が祖父だと名乗りたくはありませんか」

自嘲気味なフユツキの言葉を遮るようにしてゲンドウが言った。

フユツキの肩がピクリと動く。

「シンジや、レイや、ユイと暮らしたいとは思いませんか」

「…………頼む。もう少し、もう少しだけ時間をくれないか……」

「……来年の今日、もう一度来ます。その時に答えを聞かせて下さい」

フユツキは、ゲンドウに背を向けたまま、かすかに頷いた。

「……失礼します」

一礼すると、ゲンドウは院長室から出ていった。

フユツキは、その後しばらく街を眺めていたが、自身の机に戻ると、引き出しから一枚の小さな肖像画を取り出した。

「……ユイ……」

そこに描かれていたのは、若き頃のフユツキと彼の妻、そして屈託無く笑う、幼き日のユイの姿だった…………

 

 


 

 

「リツコさん、どこかなあ」

院長室から半ば追い出されるように出てきたシンジは、横を歩く姉に話しかけた。

「さあ……まあ、そのあたりにいるでしょ」

脳天気に応える姉――レイ。

そんなレイの言葉に応えるかのように、見覚えのある金髪がシンジたちの視界に飛び込んできた。

「リツコさん!」

叫ぶと、その金髪の元へ走り寄るシンジ。

リツコは振り向いて、

「あら、シンジ君。レイにアスカも……あら? イカリ先輩は?」

「父さんはフユツキ先生と何か話があるって……それで、リツコさんと食事でもして来いって言われたから……」

「あら、そう。イカリ先輩とご一緒できないとは残念だわ。……それじゃあ、行きましょうか。行きつけのラーメン屋があるの。おいしいわよ」

そう言うと、リツコはくるりと背を向けてとっとと歩き出した。

その横に並ぶシンジ達。

4人は、他愛もない話を交わしながら、学院の外壁に向かう。

外壁の扉が見えた頃、シンジ達の後方から声が聞こえた。

「あれ? 先輩? ……やっぱりそうだ。せんぱぁーい!」

ぴしっ。

その声が聞こえたとたん、リツコが固まる。

「? どうしたの、リツコ?」

怪訝そうにアスカがリツコの顔をのぞき込むと、その顔ははっきりと青ざめていた。

「……走るわよ」

「え?」

「走るわよ。絶対に後ろを振り向いちゃ駄目よ。振り向いたらあの世に引きずり込まれてしまうわ」

そう言うと、シンジ達の答えも待たずにリツコはダッシュした。

「リ、リツコさん!?」

シンジ達もその後を追って走り出す。

「あれ? せんぱーい! せんぱぁぁぁぁい!」

後ろの声はさらに大きくなり、遠ざかる気配はない。

どうやら、声の主もシンジ達の後を追って走り出したらしい。

「リ、リツコさん、あの人、リツコさんのこと、呼んでるんじゃ、ないん、ですか?」

走りながらリツコにシンジが問う。

シンジ達は律儀に後ろは振り向かずに走っていた。

そのため、後ろにいる人物の姿は分からない。

分かるのは、その声がまだ若い女性のそれであるということだけである。

「違うわ」

それだけ答えるリツコ。

その表情には鬼気迫るものがあり、猟師に追われる鹿すらも連想させた。

「で、でも、なんか、こっち、追って来てる、みた、い、です、よ?」

息の切れてきたシンジ。

彼の名誉のために言っておくと、決してシンジの体力は少なくはない。むしろかなり多いと言っていいだろう。

ただ、リツコの走るスピードが尋常ではないのだ。その証拠に、レイとアスカはもうかなり後方にいる。

シンジだけが何とかついてこれているのだ。

「気のせいよ」

またも即答するリツコ。

「せんぱーい、せんぱぁぁい、せ・ん・ぱ・あ・い! ……おかしいなぁ……うーん……<フレア・ボム>

ちゅどーん。

突如足下で起こった爆発に、シンジとリツコは宙高く舞った。

爆発の届かない距離にいたレイとアスカは、呆けたようにその光景を見ている。

ひゅぅぅぅぅぅぅ

くるくるくるくる

べちゃっ

しゅたっ

なすすべもなく魔法学院上空の旅を終えて地面に顔面から自由落下したシンジと、空中で受け身をとり、回転しながら両手を広げて地面に着地するリツコ。

リツコの目には、怒りと恐怖と諦めの微妙に混ざり合ったような光が宿っていた。

学生時代、(色々な意味で)無敵を誇った自分と、唯一(色々な意味で)対等以上に渡り合った女。

リツコは、空気を深く肺に取り込むと、びしとそちらを指さし、ためていたものを吐き出すように叫んだ。

「人を攻撃呪文で呼び止めるなって言ったでしょ! マヤ!!」

リツコの苦難の日々が、再び始まろうとしていた……

 


つづく
ver.-1.00 1997-08/16 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは gyaburiel@anet.ne.jpまで。


どうも、ぎゃぶりえるです。

なんか今回、変な終わり方ですね(^^;

ようやく登場してくれたマヤさんには、リツコ博士のMAD強化人材として活躍(?)してもらう予定です。

より一層MADに磨きの掛かるであろうリツコさんをこれからもよろしく!(笑)

 

PS 月丘さん、いらっしゃい!\(^^)/


 ぎゃぶりえるさんの『ネルフ村の平和な日常』第9話、公開です。
 

 すっかり”お上りさん”しているアスカとシンジ(^^;

 きらびやかな街に興奮して、
 豪華な魔法学院ロビーに圧倒される・・・

 シンジはともかく、
 [都会の洗練された子]と言うイメージのアスカちゃんに珍しい一面です(^^)
 

 そして、マヤ。
 何かリツコ以上に”変”(^^;

 新たなるトラブルメーカーの登場にどんな騒動が巻き起こるんでしょうか。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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