「僕が行きます!!」
発令所に響く少年の声。
強い意志をその瞳にまとった少年、碇シンジは単身、ある人の救出に向かおうとしていた。
「シンジ君、危険が大きすぎるわ。あなたにまでもしものことがあったら ・・・・」
「大丈夫ですミサトさん。アスカを助け出して、全てを終わらせるまでは ・・・・」
渚カヲルという最後のシ者を、自分の手で握り殺したそのときから彼は変わった。
自分を必要としている人の存在、自分が必要とする存在、そして愛すべき存在。
そのことに気づいたシンジは、以前とは比べものにならないくらい強くなった。
そして、
「アスカの病室までは、このルートで行けるわ。」
ミサトがシンジにルートを説明する。戦自が侵攻してきているため、かなり大回りをせざるを得ない。
「病室からは、ケイジへ直行します。」
「でもアスカはシンクロできるの ・・・・?」
「大丈夫です、僕が何とかしてみせます!!」
ミサトの不安に、それをうち消すかのような強い言葉でシンジは答えた。
「がんばってね。」
「はい。ミサトさん達も ・・・・」
「・・・ 死んじゃだめよ ・・・・」
「分かってます。・・・ じゃ。」
血のにおいがたちこめる戦場にひとり飛び出していくシンジ。
今、大人達は、その姿を見送ることしかできなかった。
シンジの右手に握られた一丁の拳銃。彼の身を守るものはこれだけだ。
そして、彼は狭いダクトの中を進んでいく。
確かにこれなら敵に遭遇する確率は低い。とは言っても、爆破されたダクトもあり、油断はできない。
「・・・ アスカ、今行くから ・・・・」
思わず彼の口から漏れる、大切な人の名前。
絶望的な状況の中で、『アスカ』というその人の存在が、彼にとって唯一の希望だった。
「葛城さん、シンジ君の進んでいるルートに戦自の奴らが!!」
「何ですって?」
・・・・ シンジ君 ・・・・
ミサトにはもう祈ることしかできなかった。
恐らく発見されれば、即射殺。
そんな考えが彼女の脳裏をよぎる。
事実、エヴァパイロットは発見次第、射殺せよという命令が出ていた。
「近くにいる戦闘員をまわして!! 早く!!」
これが彼女にできた唯一の援護だった ・・・・。
「!?」
シンジもそのことに気づいていた。
駆け込んでくる軍靴の音、そして銃声。
・・・ 音を立てれば間違いなく殺される ・・・
しかし彼は進むことを選んだ。
こうして止まっているうちにも、アスカに危険が迫っている。
その事実が彼を前へ前へと進ませた。
・・・ アスカ、アスカ、アスカ ・・・
彼の思考の中にはもはや彼女しかいなかった。
そして彼は病室の近くまでたどり着く。
が、ダクトからは直接部屋には入れない。一度、フロアに降りる必要があった。
銃をもう一度持ち直し、トリガーに指をかける。
・・・ 行くぞ! ・・・
スッとダクトから飛び降りるシンジ。
そして、周囲を見回したそのとき ・・・・
バンッ!!
一発の銃声と共にシンジの左腕から赤い血が噴き出す。
「グッ!!」
激しい痛みに耐えながら、相手に向かって拳銃を撃つ。
カーン!
しかし、銃弾は甲高い音をたてて大きくはずれた。
・・・ しまった!! ・・・
シンジは死を覚悟した。
・ ・ ・ ・ ・
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・ ・
・
ふとシンジの視界に飛び込んでくる一つのボタン。
『フロア閉鎖用シャッター』
彼はそれに気づくと素早く、そのボタンを押した。
シャッターの降下音と混じる銃声。
そして、その空間に残ったのは、左腕を押さえる少年の姿。
・・・・ 助かった ・・・・
間一髪のところでシャッターが全て降りた。
「うっ」
立ち上がろうとする彼の顔が苦痛にゆがむ。
しかし、シンジはそれの手当をしようとはせず、前に進む。
「・・・ アスカ アスカ アスカ ・・・ 」
うなされるように彼女の名前を呼ぶシンジ。
応急処置すら施していない左腕の出血は止まらない。
シンジは壁にもたれかかりながらアスカの病室を目指した。
このフロアにはそれほど重要な施設がないためか、戦自の姿は先ほどの奴以外に見受けられなかった。
アスカも無事なんだろう、という安堵感が彼を包み込む。
そして、厳しかった彼の表情に笑みが戻ってくる。
「ふぅ」
シンジはため息を漏らす。
彼は『惣流・アスカ・ラングレー』そう書かれた病室の前に立っていた。
「アスカ ・・・・」
もう一度、その人の名前を口に出す。
プシュー
病室の扉が開く。
そして、その中でアスカは体を曲げて震えていた。
唇も真っ青になってガチガチ震えている。
「死ぬのはイヤ ・・・・」
そう言いながら。
以前の彼女からは考えられないほど変わり果ててしまった、その姿をまのあたりにしたシンジは絶句するしかなかった。
・・・・ 僕がアスカを傷つけたんだ ・・・・
・・・・ ごめんねアスカ。何も分かってあげられなくて ・・・・
・・・・ だから、だから ・・・・
彼は自問する。
僕は本当にアスカを助けられるのか・・・・
今まであった、『アスカを助けてみせる』という自信が崩れていく。
しかし、彼の瞳から、強い光が消えることはなかった。
・・・・ 僕じゃないとダメなんだ ・・・・
自嘲気味の笑みを浮かべて、おびえているアスカに向かってゆっくり足を進める。
「アスカ ・・・・」
今度は彼女に聞こえるような声で、その名前を呼ぶ。
「アスカ! アスカ!」
が、彼女は答えない。未だおびえたままだ。
「アスカ、僕だよ。分からないの?」
ピクッとアスカがその言葉に反応する。
「・・ だ ・・・ れ ・・・・」
弱々しい声ではあったが、彼女はシンジの言葉に気がついた。
「アスカ、僕だよ。シンジだよ!!」
シンジはさらに呼び続ける。
「・・・・ し ・・ ん ・・・ じ ・・・・?」
「・・・ そうだよ、アスカ。」
自分の名を呼んでくれてホッとしたのか、今度は柔らかい口調で言った。
「もう大丈夫だから、心配しなくていいよ ・・・」
そっとアスカの肩に手をやるシンジ。アスカのふるえが直に伝わってくるが、それもゆっくりとおさまっていく。
「落ち着いた?」
「・・・ う ・・ ん ・・・」
まだ声にはおびえが感じられるものの、その返事はシンジに希望をもたらした。
・・・・ 何とかなりそうだな ・・・・
「ねぇアスカ。」
笑みを浮かべながら、シンジは優しく話しかける。
「ずっと僕のそばにいて欲しいんだ ・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「やっと気づいたんだよ。僕にはアスカが必要だって。だから、だからアスカも ・・・・」
「・・・・ ば ・・・ か ・・・・」
「えっ?」
シンジが驚いてアスカの顔を見上げると、彼女はその蒼い瞳に雫を浮かべている。
「・・・ どう ・・ して ・・・ アンタは ・・ そんな ・・ に優しい ・・・ の?」
「どうしてって、アスカを失いたくないから、そんなのイヤだから ・・・」
「アタシはもう何にもできないのよ・・・、アンタにも勝てないのに ・・・・」
「・・・ アスカ、それは違うと思うよ。
人間の価値っていうのは、そんなんじゃないと思う。
もっと何か言葉に言い表せないような、深いものだと思うんだ。」
「・・・・・・・・・?」
「ふふ、僕らしくないこと言ってる、って顔してるね、アスカ。」
「・・・ もう、ばか ・・・・・」
次第に頬に朱がさしていくアスカ。
「僕はこれから全てにケリを付けに行くよ。」
「全てに?」
「そう。そしてその中で真実を見つけようと思う。」
「・・・ 強くなったね、シンジ ・・・・・」
「・・・・ ありがとう、アス ・・・ 、ぐっ!」
お礼を言いかけたシンジの言葉がとぎれる。どうやら左腕の傷が痛み出したらしい。
「どうしたのシンジ? !? 腕、血が出てるじゃない!」
「ちょっとそこで撃たれてね、でも大丈夫だよ。かすり傷程度だから ・・・・」
もちろんそんなはずはない。アスカを心配させまいと強がってみせる。
「無理しないの。そんな嘘通じないわよ。」
いつのまにかアスカには笑顔が戻っている。
「ごめん、アスカ ・・・」
「ほらっ、アタシが手当してあげるから。」
そう言うと、近くにあった布きれをシンジの腕に巻いていく。そして、
「シンジ、アタシも一緒に行くわ。」
そう、シンジに伝える。
「アスカ・・・・、じゃあ行こうか。」
「うん!」
立ち上がる二人。その瞳にはもう消えることのない光が灯っていた。
そして二人は歩いていく。
未来を手に入れるために。大切な人のために。
光を求めて ・・・・・
<あとがき>
そう、全てはこれでよい(笑)
やいシンジ!! 左腕だけで済んでありがたいと思えよ!!
アスカ様なんて ・・・・・ あ゛あ゛・・・・・・
えー、完結編補完企画第一弾をお届けしました(笑)
ちょっとアスカ様の復活が強引でしたが ・・・
これで少し心の傷がいやせましたね。3回も見て辛かったから。
いちおう、第2弾も考えてます。何か、こうして欲しいというアイディアなどがあったら、メールをいただけるとありがたいです。
ちなみに、レイファンの人には申し訳ありませんが、レイの登場はあんまり考えていません。なぜって、ややこしくなるから。ドロドロしたのはあんまり好きじゃないし(笑)
やはり、ラブラブしてゴロゴロするような話にしたいですねぇ。
ではまた!!
AGOさんの『光を求めて』公開です。
夏映画を3回も見て苦しんだAGOさんの叫びが聞こえるような補完ものでした(^^;
シンジにはこの位のことをして欲しかったような、
でも、ここまで自分から動くとシンジじゃないような・・
でもでも、やっぱりアスカを救って欲しかったなぁ。
AGOさん、スッキリさせてくれてありがとう(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
アスカ人に救いの道を見せてくれたAGOさんに御礼のメールを!