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「やっと免許が取れたよ。これでオトナになったって感じかな?」

警察署から出てきたシンジは免許を見て
『オトナ』になった実感を感じていた。

この時代、免許は自動車学校で講習・実習をしたあと、
卒業試験を得て、証明書を警察署に申請すれば免許が持てるようになっていた。
だから自動車学校を卒業することが難しくなっていた。

ケンスケはそういう知識も豊富だったのですべての試験をパスし
トウジとシンジは最後の試験で2度落ちていて、
いわゆる『3度目の正直』ってやつだった。


そんな情報をどこから仕入れたのかミサトさんが警察署の前にいた。
それはあたかも偶然を装って。

「あら、シンジ君。どうしたの、警察なんかに来て?」
「ミサト先生、免許取ったんですよ」
「シンジ君、車の免許取ったんだぁ。
 誰のためにとったのかなぁ。」
「誰のためって...」

ミサトは小悪魔な微笑みをしてシンジの追求した。

「今はドイツに行ってしまった愛しのアスカのためかなぁ」
「なんでアスカのためなんですか!
 車の免許ぐらい持っているのが常識だったからじゃないですか!
 ケンスケもトウジも持っているのに、ボクが持ってないじゃ...」
「それもそうよね。車は買ったの?」
「いや、まだです。家に車はあるけど親が使っているし」
「じゃぁどうするの?」
「バイトして買おうとは思っていますが...」

ミサトはニヤリと心の中である考えが浮かんだ。

「じゃぁ私が運転を教えてあ・げ・る」
「い、いいです」
「でも車ないんでしょ?だったらいいじゃない」
「でもミサト先生に迷惑かかるしぃ...」

シンジはこの場をどうやって逃げるかを必死になって考えていた。



ミサト先生は中学時代、人気のあった先生だったが、
運転する車には乗りたくはないと思っていた。
学校に来るのに、校門から加速してスピンターンをして
車を止めるような運転をする先生だったからだ。

それに、1度台風が第三新東京市を襲ってきて交通機関がマヒした事があった。
ミニタリマニアのケンスケはどこにかくしてあったのか分からないが
迷彩服のレインコートで帰ったり、トウジはヒカリの傘で一緒に帰ったりしたため
シンジとアスカが教室で取り残された。

「シンジ、どうしようか?」
「止むまで待つしかなさそうだねぇ」
「止むまでっていったて、いつ止むのか分からないのよ。
 だいたいアンタが傘持ってこないからいけないんでしょう!」
「そんなこといったて、急いでいたんだからしょうがないじゃないか!
 アスカだって傘持ってこなかっただろう!」
「鞄の中に入っていると思ったんだけど、入ってなかったのよ
 それに朝は晴れていたし」

教室で大議論をしているところにミサトが入ってきた。

「あら、どうしたの。早く帰りなさい」
「ミサト先生、傘がないんで帰れないんです」
「じゃぁワタシが家まで送ってあげるわ。下で待っていてね」

この言葉を信用したのがすべての間違いだった。
ミサトの運転が荒いというのは周知の事実だったが
帰れないというのと引き替えに妥協したのだった。

「シンちゃん、アスカ、早く乗って」

ミサトさんが運転するアルピーヌA310に乗り込んだ。
シンジとアスカは後部座席に乗り込んだ。

「いやぁ、もう1人いるんだけどいいかしら?」
「よう、お2人さん」
「加持先生っ!」

アスカにとって加持は憧れの存在だったのだ。

「どうして2人は残っていたんだい?」
「シンジが傘を持ってくるの忘れたからよ」
「アスカだって持ってこなかったくせに」
「だいたいアンタがねぇ...」

教室で繰り広げた口論をここでも始めていた。

「おいおい...」
「シンちゃん、アスカ、
 ここはワタシの車の中なんだから静かにしていてね。
 どんなにいちゃついてもいいけど。
 一応中学生なんだから、ほどほどにねっ」
「葛城、言い過ぎじゃないか?」

ミサトの言ったことでシンジとアスカは顔を赤くして黙ってしまった。

「じゃぁ行くわよ」

エンジンをスタートさせると、
急発進して校門のところでドリフトをしたのだった。

「「あっ」」

バランスを崩したシンジとアスカは抱きつくカッコになっていた。

「あら、シンちゃんたら、大胆ねぇ。
 アスカをきっちり抱きしめちゃったりしてさぁ」
「ミサト先生、からかわないでくださいよぅ」
「そうよ、ミサト」
「ちゃんと捕まっていてね。ベルトもしていてねっ」

ニコニコしながら加速していった。
シンジとアスカは磁石の様に離れるとベルトをした。
加持はベルトはしていたが、いつものことのように平然としていた。

「加持先生、なんともないんですか?」
「いや、もういい加減になれたよ。葛城の運転には」
「慣れたって何よ、加持ぃ」
「イヤな慣れかたですね」
「シンちゃん、言ってくれるわねぇ」
「シンジは正しいことを言ったまでだとは思うわよっ。
 だいたいどうしたらこういう運転が出来るのかしら?」
「アスカ、そういうこと言っていると下ろすわよぅ」

ミサトは台風の中、傘もないアスカとシンジに『下ろす』という
脅し文句でおとなしくさせたのだ。


10分後、アスカとシンジはふらふらしながら家の前にいた。

「ミ、ミサト先生、あ、ありがとうございましたぁ...」
「いいえぇ、どうもいたしまして」

2人を残してアルピーヌA310は走り去っていった。

「ねぇ、シンジ。
 もうミサトの運転する車には2度と乗らない方がいいかもね」
「ボクもそう思う。これだったら濡れて帰ってきた方がよかったかも」

どっちが最適な方法だったのか分からぬまま家に帰った。
このあと、ミサトと加持は飲みにいったという話だった。



「じゃぁ、さっそく明日、シンちゃんの家の前で待っているからねっ」
「ミサト先生?」
「加持先生も呼んでくれませんか?」
「加持ぃ?いいわよ。どうせ暇しているだろうから」

半ば強引に約束をさせられて別れた。

翌日、ミサトは加持を連れてシンジの家の前に来ていた。

「本当に来たんですね」
「本当にってどういう意味ぃ?」
「葛城、そんなにシンジ君をいじめるもんじゃないぞ」

シンジはぐったりしてアルピーヌに乗った。
ベルトをしてエンジンをスタートさせた。車はゆっくりを動き出した。

「シンちゃん、こんな運転じゃダメよ。
 アスカを安心して乗せられないでしょぅ。
 運転とはねぇ『黄色まだまだ赤勝負』なのよ」
「本当ですか?」
「そうよ、じゃなければ危険でしょ?」
「そっちの方が危険だと思うんですけど...」

シンジはミサトの言うように黄色でも速度を落とすことなく、
また赤でも対向車線の信号が赤の時は止まることはなかった。
止まることはできなかったのだ。

「次は車の止め方ね」
「止め方?」
「そうよ、止め方。
 車を止めるときはスピンターンして止めるのよ」
「スピンターン?」
「それと、コーナーではアウトインアウトで抜けて
 ぎりぎりまでブレーキを我慢するのよ。
 でないとスピードが落ちるから。
 タイムを如何に落とさずに目的地に着くかだから」

ミサトはニコニコしながら言った。
シンジは『何を言っても無駄だ』と悟り素直に従った。

一通りの講習(?)を終えたミサトはシンジに

「シンちゃん、うまくなったわよ。これはワタシが教えたからねぇ」
「そうですかぁ?」
「これでアスカが帰ってきても大丈夫ねっ」
「そうですかぁぁ」
「じゃぁまた乗りたくなったらいってね」

ミサトは加持を乗せたまま夜の街に消えていった。


シンジが家に帰るなり、携帯が鳴った。

「もしもし、トウジ?」
「おうシンジ、今日ミサトセンセの車に乗ったんだって。
 幸せなやっちゃなぁ」
「幸せなんかじゃないよ」
「何をいっとる。中学時代の憧れのミサトセンセの車に乗れたんだぞ、
 これを幸せと言わずして何という」
「大変だったんだから。加持先生もいたからまだ良かったけど」
「加持センセもいたのかぁ。そうか。
 ほな、今度シンジが車買ったらミサトセンセ仕込みの運転乗せてな。
 切るで、じゃ」

トウジは加持先生という言葉を聞いてトーンダウンしてしまった。
トウジにとって、一番の憧れの大人の女性だったのだ。

免許を取ってミサトに教わったことを忘れようと
家の車が使われていない時に運転を練習していた。



そんなとき、シンジは“これじゃぁ運転は上達しない”ことを悟り
車を買うことを決めていた。

「なぁケンスケ、車買おうかと思うんだけど、何がいいかな?」
「シンジ車買うのか?そうだなぁ。俺なら戦車とかだな」
「戦車っていったって何処に置くんだよ。走れないじゃないか」
「冗談、冗談。どうしたんだいきなり車買うなんて」
「家の車じゃ運転慣れないから。それに自分の車があってもいいかなって」
「トウジ、シンジが車買うんだった、何がいいかな?」
「そやなぁ、ワシに車のこと聞かれても知らんからなぁ」
「碇君、車買うの?」
「そう、自分の車」
「じゃぁ一番最初に助手席の乗せてね」
「それはアカンやろ。シンジにはれっきとした許嫁がいるんだから」
「許嫁ってなんだよっ」
「アスカだってシンジの許嫁だろっ。なぁトウジ」
「そやそや。ドイツにいったって毎日メールが来る日々やだからなぁ」
「アスカに断っておこうかしら?
 『碇君が車買ったら、最初に助手席の乗るからね』って」
「レイ、そんなこと言ったらアスカに怒られるわよ」
「分かっているってヒカリ。
 アスカのことだからドイツからすっ飛んで帰ってくるわよ、きっと」

シンジは蚊帳の外でどんどん話が進められていた。
結局“このメンバーに相談するのは間違いだった”と後悔していた。

家でシンジは中古車専門誌を買ってきて、
今持っているお金で買えそうな車を探していた。
「あらシンジ、車買うの?」
「うん、自分の車買わないと運転上手にならないような気がして」
「じゃぁアスカちゃんが気に入ってくれるような車にしないとね」
「どうしてアスカが出て来るんだよ」
「だってアスカちゃんが1番最初に乗るんでしょ?
 だったら気に入ってもらえる車にしないとねぇ」
「そうだ、シンジ」

結局、ユイやゲンドウにも相談することは野暮だと思い、
1人で車を選ぶことになった。
『アスカに気に入って貰える車』というのが
かなりのプレッシャーになっていたのはいうまでもない。


それからしばらくたった。

「シンジ、車買ったんやって?!」
「うん」
「どんな車買ったんだよぅ。教えてくれよ、なっ?」
「FIAT Barchetta」
「FIAT?」
「FIATってイタリアのだろ?
 Barchettaってオープンカーで2シーターの車じゃないか、シンジ」
「良くしっているなぁ、ケンスケ」
「この俺が知らないわけないだろう。情報は常に入手しているからなっ」
「またどないして、オープンカーで2シーターなんや、シンジ?」
「いや特に意味はないんだけどぉ」

などとシンジがトウジ、ケンスケと話をしていたら

「碇君、車買ったんだって。じゃぁ今日家にいくからねっ」

綾波は流れ星のようにやってきて、どっかにいってしまった。
結局『シンジの買った車お披露目パーティ』が決まった。

放課後、シンジは嫌々ながらも半ば拉致されるかの様に
みんながついてきていた。

「これがシンジの買った車かいな」
「碇君、助手席には誰を乗せてくれるの?」
「レイっ!」
「綾波、それは言っちゃあかん。許嫁に怒られるで」
「アスカが知ったら、大変なことになるわよ」
「きっと殺されるわね、ワタシ。まだ死にたくないしぃ。
 こんなアスカいないあとの第三新東京市のミスはワタシだしぃ。
 そんなレイちゃん、殺されちゃうと碇君が殺されたちゃうしね」
「.......」
「綾波、暴走してない?」
「ちょっとしているかもあかん。こうなったら誰にも止められへんで」
「ほっといたほうがいいんじゃないのか?」
「そうかもしれないね」

綾波が暴走するというハプニングもあったが、
結局シンジは「悪いけど、今は乗せられないんだ」と言って
お披露目だけにとどまった。

シンジはこの車で自動車学校で習ったように復習をしていたということだ。

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ver.-1.00 1997-07/01公開
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LAGERですぅ。

シンジが免許を取って、車を買うまでの隙間を書いたのですが、
これ書いているときから考えていたんですよ。

アスカがいないので、他のキャラクターをどういう風に生かすか?が
課題だったのですが、綾波は自分の世界(良い方向のね)に入りやすく
暴走しやすいっていうキャラクターに落ち着きそうです(笑)
おとなしいレイちゃんもいいんですがねぇ>浮気者(^^;;

そうですね、外伝としてはアスカとレイの友情の話っていうのも
いいかもしれないですね(^^)

そういうネタ探さなくてはいけないのか...


 LAGERさんの『UN HOMME ET UNE FEMME』外伝第1話、公開です。
 

 ミサトに自動車・・・・

 ウナギに梅干し、
 天ぷらに西瓜、

 これは食い合わせか(^^;
 と、とにかく、

 危険な組み合わせです。

 アスカちゃんを横に乗せるのだからシンジ君には安全運手をお願いしたいです。
 アスカちゃんに汚させるな、シンジ(爆)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 今まで1度もメールを書いたことがない方も沢山いると思います。
 どうです?
 思い切って書いてみませんか?


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