【 TOP 】 /
【 めぞん 】 /
[LAGER]の部屋/
NEXT
UN HOMME ET UNE FEMME
第８話 天使みたいに踊らせて
ゴールデンウィークも過ぎたある５月の日曜日のことだった。
シンジとアスカは大学の生活にも慣れ、余裕が出てきていた。
サークルの方も、シンジはコツをつかみはじめていたし、
アスカもレイも腹式発声法をマスターしつつあった。
１分間という時間を与えられて、フリートークをする練習もしていた。
そんな生活から解放されて、ソファーで２人してぼーとしていたところに
ユイがアスカに声をかけた。
「アスカちゃん、ちょっといいかしら？」
「何ですか、おばさま？」
ユイはアスカを呼ぶとキッチンの方まで連れていき、
アスカの前にラベンダーのハーブティーを入れたカップを出した。
「あのね、アスカちゃん、シンジの事なんだけどねぇ...」
この日からアスカの手料理をシンジに食べさせる猛特訓が始まった。
事の発端はユイにこんな事を言われたからだ。
『来月にシンジの誕生日があるんだけど、アスカちゃん、手料理を披露してみない？』
シンジは中学の時から寝坊するクセは直ってなかったので、
アスカがちょっと早く起きて、朝食を作ってみては？ということだった。
どうせなんだからついでにお弁当も作ってみては？まで言われてしまった。
というより、そういう風に仕組まれたというところだった。
既にユイは２つのお揃いのお弁当箱まで用意していて、
あとはアスカちゃん次第なのよ、という状態になっていたからだ。
ユイはアスカの性格を見抜いていたので、
こういう状態になれば、プライドが許さないことを上手く利用した。
ユイにしてみれば、花嫁修業をさせるようなものだしと考えていたからだ。
シンジとアスカが一緒になれば、ユイは姑になるのだ。
姑と嫁の関係を悪化しないようにするには、
今から良い関係と築いておこういうしたたかな元科学者としての計算があったのだ。
この事に関しては、アスカの母キョウコも納得はしている話だった。
いつかこういう日が来てもいいように、
キョウコもアスカに料理は教えていたのだった。
だからアスカが料理するのが全く出来ないということではなかった。
親友の元にわが子を出すのに料理も出来ないなんていうことになったら
親友としても恥ずかしいだけだし、どういう教育をしてきたのか疑われてしまう。
親友でもありライバルでもあるユイに何を言われるかが
キョウコにしてみればちょっとした屈辱になるのだ。
親友だから逆に言わないだけに、恥をかくことになるのだ。
ジリジリジリ.....
いつもより早いお目覚めだった。
アスカは目覚まし時計をベットから降りてどうにか止めると洗面所に向かっていた。
洗面台の鏡を見て顔をバシャバシャと洗い、パンパンと頬を叩いた。
『アスカ、行くわよ』
と心の中でつぶやくと、服を脱ぎ、シャワーを浴びる準備をしていた。
キッチンではユイはアスカがいつ来てもいいように準備していた。
シャワーから上がると、ラフなカッコに着替え、ドライヤーをかけていた。
髪が乾いたところで、キッチンに向かった。
「おばさま、おはようございます。お願いします」
「おはよう、アスカちゃん」
アスカは一礼すると、ユイからエプロンを渡された。
「これはキッチンで仕事する人の正装よ。制服なか？
アスカちゃんに似合うと思って。ワタシからのプレゼントよ」
ユイはアスカの為にエプロンを用意していたのだった。
エプロンには[Parmalat]と刺繍がしてあった。
「ありがとうございます」
「じゃぁさっそく始めましょうか、じゃぁその大根を切ってくれる？」
ユイはそう指示するとアスカはてきぱきをこなしていった。
今日のメニューは大根の味噌汁とサラダ、目玉焼きだった。
これといって腕を振るうものばかりではなかった。
どちらかというと持っていくお弁当の方が腕を振るうものだった。
卵焼き、焼き肉が入り、そぼろがご飯の上にかかっている。
「桜でんぶでハートでも描く？」と言われて真っ赤な顔をしていた。
ユイはアスカに
「味噌汁に入れる味噌は赤味噌、白味噌半分ずつね」と指示していた。
出汁に煮干しを使うなど、細かい味にはこだわっていた。
卵も有精卵を使っていたり、サラダは無農薬野菜を使っていたりだ。
途中、教えながらなので効率としては悪いのだけど、
アスカも教わろうという気持ちがあったので、思ったほど効率は落ちなかった。
一通りの品とお弁当が出来ると、ユイは
「おつかれさん、アスカちゃん」
「おつかれさまでした」
「でもどうだった？初めてでしょ、うちで料理作るの」
「ちょっと緊張しました」
「じゃぁ料理しながらシンジの事を思って作る余裕はなかったのね」
「えっ、えぇ」
「今日の夜はシンジの事を思う浮かべて作ってもらおうかな？」
ニコッと微笑むと、アスカに着替えてシンジを起こしてらっしゃいと言った。
（まったくシンジはいつになったら
『アスカを嫁さんにする』って言ってくるのかしら。期待しているのに）
ユイはアスカが着替えてシンジの部屋に入っていくのを見てそう思っていた。
アスカはシンジの部屋に入ると
「ほらー、起きろー。朝だぞー」
「何アスカ？はぁぁぁ。今何時？７時じゃん、もうすこしぃぃぃ」
「あ、あんたねぇ、一体どういうカッコで寝てるのよ！」
「ど、どぉんなカッコってぇぇ」
「毎朝、ワタシが起こしにくるの分かってるのなら、
もっとちゃんとしていなさいよね、分かっているの！
分かったなら起きなさい!!」
シンジはこんなに早く起こさなくたっていいじゃないかと思いながらも
アスカを怒らせるとロクなことがないだけに、しょうがなく従った。
実際のところ、アスカが起こしに来ていたおかげで
中学の時は遅刻ぎりぎりでも寝坊で学校をすっぽかすということはなかった。
高校の時はさすがに遅刻していくと「アスカがいないからなぁ」と
からかわれて以来、遅刻しないように心がけていた。
アスカが部屋から出ていくと、
寝ぼけ眼をこすりながらポロシャツとＧパンに着替えた。
洗面所に行き、顔を洗ってテーブルに座った。
「シンジ、そんなんじゃアスカちゃんに逃げられちゃわよ。
しっかりしなさい」
「そんなぁ...」
「今日の朝ご飯はいつもとは違うかもしれないわね、早く食べなさい」
シンジは何が違うというのだろうと
？マークを頭の中に思い浮かべながら味噌汁をすすった。
アスカはシンジがどういう反応を示してくれるかドキドキしていた。
ユイはそんな２人をほほえましく思っていた。
ゲンドウは新聞で顔隠していたため、視野には入っていなかった。
「ん、何が違うの？いつもの味噌汁と変わらないじゃない」
「あら気がつかなかったのかしら？まぁいいわ、アスカちゃん１段階終了よ」
「アスカがどうしたの？ねぇアスカ？」
「な、なんでもないわよ」
「どうしたのアスカ？今日のアスカ変じゃない？
だっていつもなら、『美味しいですは、おばさま』とか言っているし
ボクよりも先に食べるのに、今日はまったく手を付けてないじゃない」
（まったくよく見ているわねぇ。シンジってこんなに洞察力あったの？
こんな日に限ってこんなこと言わなくたっていいじゃない、まったく）
アスカはシンジの発言に狼狽えていた。
シンジはアスカに質問をして答えを待っていたが、
アスカの表情の変化まで察することは出来なかった。
単にいつもとは何がかちょっとだけ違うとは感じていたものの
どこが違っているのか分からなかったのだった。
間違い探しをするシンジの頭はすでに停止し、目の前にある味噌汁をすすっていた。
わけが分からぬままシンジは朝食を食べ終えると、アスカを待っていた。
アスカはいつもと違いながらゆっくりを噛みしめながら食べていたのだった。
（いつもと同じ味だと思うんだけどなぁ。これじゃぁいけないのかな？
ワタシのオリジナルの味を付けなくてはいけないのかな？
でもシンジはおばさまの味付けがスキだろうし、ワタシもスキだし...）
そんな想いをしているとも知らず、シンジはお茶を飲んでいた。
「ごちそうさまでした、おばさま」
「どうだったかしら、今日の朝御飯は？」
「いや何が足りないのかなって」
「それはねぇ、最後は愛情よ」
今日は朝からでしょ、お弁当作ったからもって行きなさい」
シンジは何だかまだ分かっていないようすだった。
シンジとアスカの分のお弁当がテーブルの上に並べられた。
「「行って来ます」」
シンジとアスカはお弁当を持って大学に向かった。
「どうして母さん、お弁当なんか作ったんだろう？」
「それは昼飯代がかさむからじゃないの？
学食の食事って美味しくないから、お弁当の方がいいわよ」
「そうだね、学食って美味しくないからね。そんなに安くないし」
「おばさまの手料理が食べられるんだからこの上ないわよっ」
「そうだね、学食よりはマシかもしれないね」
アスカは「シンジはマザコンか？」と疑いながらも
『まぁいいわ。おばさまの味を盗めばシンジはワタシのとりこね』と考えていた。
今日の２時限目は「情報理論」だった。
何度かこの講義を受けているのだが、何をやっているのか分からないのだ。
プログラムに関するアルゴリズムを勉強するのだけど
LCLだのA10神経など、関係ない用語が自分たちの端末のモニターに表示されるのだ。
他学部からの受講も許可しているのでレイも一緒に講義を受けていた。
講師は赤城リツコ博士という先生なのだか、訳が分からないといって
日に日に受講人数が減っていった。
アスカもレイも講義内容には飽きているのだが、
なにせシンジが真面目なものでそれに付き合っているというのが本当のところだった。
退屈な講義も終わり、お昼になった。
いつもの待ち合わせ場所になっている構内の噴水前の芝生にトウジとヒカリがいた。
トウジはお腹が空いてしょうがなく、ヒカリのお弁当が待ち遠しいのだ。
ケンスケが売店でパンと飲み物を買ってきて合流したところに
シンジたちが駆けつけてきた。
「シンジ、今日は美女２人同伴か、いいよなぁ」
「鈴原君もたまにはまともなこというのね、美女だなんて、アスカ」
「当たり前のことをいったまでじゃないの」
「よかったわぁ。今日は余計なこと言わんかったら、どつかれんわ。
ほなメシにしよや。メシやメシ」
「あれ、シンジ。今日は弁当なのか？珍しいなぁ」
「今日は何だか知らないけど母さんが作ってくれたから」
シンジは母さんが作ってくれたと思いこんでいる弁当に箸をつけた。
アスカはその様子をじっーと見ていた。
シンジが卵焼きを口に入れるとホッとしていた。
そのことに気がついたヒカリとレイはアスカを呼んだ。
「ねぇアスカ、あのお弁当作ったの？」
「う、うん」
「またどうしてお弁当なんか作ろうなんて気になったの？」
「だっておばさまが『作ってみない』って言ってくれて...」
「ははん、来月は碇君の誕生日だもんね。だからなのかな。
碇君のお母さんがアスカにそんなこといったのは」
「そうなんだけど...」
「よかったじゃない。もう後はいつ籍を入れるかじゃないのぉ」
「な、なにをいうのよぉ、ヒカリはぁ」
「あら、まんざらでもないんじゃない。
だって碇君のお母さんって言ったらお姑さんになるのよ。
今から仲良くなっておけばいいじゃない」
ヒカリとレイはアスカをからかうことしか頭の中にないみたいだった。
そのころからかうことにかけては
誰も止められない人間が大学の正門をくぐっていた。
「おっかしいわねぇ。この地図どうやってみるんだろう？
リツコのヤツ、はめたかなぁ」
ミサトは強制的に休日を取らされて
リツコの研究室にくるように言われていた。
リツコから渡されたメッセージにはは
『正門をくぐって、まっすぐいって突き当たった噴水のところを右に曲がり、
目の前にある実験施設のＤ棟の１階』
と書いてあった。ミサトはさっきまで地図とにらめっこしていた。
どうにか場所が分かり、リツコの研究室に向かう途中、
まさに「ワタシのためにそこにいた」といわんばかり、
ミサトの視界にはシンジとアスカが入っていた。
（これはからかわないとねぇ。やっぱりお約束だしねぇ）
ミサトはシンジの背後に回ると
「あら、シンちゃん。アスカの手作りのお弁当なのかなぁー」
「何を言っているんですか....。あっ、ミサトさん」
「あら愛情弁当ね。じゃなくて愛妻弁当かしらん」
「ミサト！なんでここにいるのよ！」
突然のミサトの登場に驚く６人だった。
一番驚いているのは当然シンジである。
ミサトの発言にアスカが反応する。
トウジはかつての憧れの人の登場で目を輝かせている。
その恋人の姿に怒りをあらわにしているヒカリ。
どっから出てきたか分からないカメラを回すケンスケ。
レイは５人の様子を見ている。ミサトの思惑道理だ。
「あらワタシはリツコに招かれたからよん。
シンちゃん知っていると思うけどなぁ。
赤城リツコっていうんだけど....」
「ミサトさん、その赤木先生って変な先生じゃないですか？」
「変なって...まぁ変っていえば変だけど。
いいヤツなんだけどなぁ、リツコは。
付き合ってくれる？シンちゃん？」
「なんでシンジが付き合わなくてはいけないのよぉ！」
「アスカが怒る義理ないけどなぁ、アスカも付き合う？
それにリツコは理工学部の先生よ」
アスカは見透かされた感じでヒクヒクと頬がひきつっていた。
弁当を食べ終わるとミサトはもう講義のないシンジとアスカ、
何故かついてきたレイを連れてリツコの研究室に向かった。
「リツコ入るわよ」
「ミサト遅かったわよ、10分も待たせるとは。その子たちは？」
「ワタシの中学校の時の教え子よ」
「あら、さっきワタシの講義聞いていなかったかしら？」
「はい、講義取ってます」
「リツコ、あんたどういう授業しているの？さっき見せてもらったけど」
「あら、ミサトみたいなずぼらな授業はしないわよ。
そうだったんでしょ？碇君？」
リツコはシンジ、アスカ、レイに中学校の様子を聞いていた。
ちゃんと授業しないで有名だったとか、車の運転が危険だとか
放課後になるとビールを飲んでいるとか...。
「呆れた、ミサトそれでよく教師が努まるものねぇ」
「何を言っているの。リツコだって何の研究しているんだか」
「あら、ワタシは遺伝的アルゴリズムを使った
人間に近いコンピューターを開発しているのよ」
「で、その実験にワタシを呼んだってワケぇ？」
「ご明解」
リツコはミサトをまともな教師にするために呼んだのだ。
元々中学校の実体は加持君から情報は得ていたので問題なかったが
偶然にも元教え子が来てくれたおかげで
詳細がコンピュータにインプットされていった。
ミサトはどこで拾ってきたか分からない真空管やら大きい碍子やらで
構成されたイスに座らされていた。
座らされたというより、固定されたという表現の方が適切だった。
その様子を３人は黙ってみていた。
しばらくして、ミサトの人格を移植したコンピュータが出来た。
「リツコ、高いわよ、このバイト代」
「そう？これで基礎理論を展開していけば、まともなミサトが出来るわよ。
教師として適切な。すればミサトの代わりが出来るわね」
「それってクローンって意味じゃないの？」
「違うわよ、100％のコピーじゃないもの」
などとリツコをミサトはやりとりしていた。
一通りのデータが取れたところで、４人は研究室を後にしていた。
一体どういう関係なのか、分からぬままアスカは質問した。
「ねぇミサト、赤木先生は一体何のスペシャリストなの？」
「リツコはこの都市を任されているスーパーコンピュータの管理者よ」
「この都市のスーパーコンピュータって、MAGI？」
「そうよ。都市の防犯からワタシの給料の支払いまでこなすのよ」
「へぇ、意外だったわ」
すでに講義のない３人は、ミサトのおごりで喫茶店に入っていた。
様はこういうことだった。
リツコは都市のスーパーコンピュータの管理者で全権を任されているのだが
すでにMAGIの理論は遅れを取りつつあり、新しいシステムが必要だからだそうだ。
その実験台に普段ぐうたらと言われているミサトを使ったってことらしい。
ミサトのぐうたらな性格のないコンピュータができれば
第１段階はクリアされるのだそうだ。
実験台にミサトを選んだ理由っていうのが
「結果が分かりやすい」ということらしい。
MAGIの管理者なので、今日のバイト代はミサトの給料に書き込むだけで
話が済んでしまうということでもあるのだが。
まぁ大学に入っての生活についていろいろ話していたり、
コスメティックに関してアスカとレイはミサトからいろいろと聞いていた。
アスカには「綺麗になるのはシンちゃんの為ぇぇ？」と
からかうことしか頭の中に入ってない様子だった。
さすがに喫茶店ってことでお酒を飲むということはなかったが。
ミサトとレイと別れて、シンジをアスカは家に帰ってきた。
「「ただいまぁ」」
「おかえりなさい。アスカちゃん、さっそく準備しましょうね」
「はい、おばさま」
「アスカちゃん、買ってきたところ悪いけど、買い物に行きましょう」
ユイはアスカを連れて近くのスーパーまで買い物ににいった。
シンジはユイがアスカをわざわざ連れ買い物に行くんだろうと疑問に思っていた。
そんな疑問も一瞬だけ頭の中をよぎっただけで、
鞄の中から放送技術マニュアルを出し、ソファに転がりなら読んでいた。
ユイは近くのスーパーまで来るとアスカにカゴを持たせて
菜の花、グリーンアスパラ、ブロッコリー、カリフラワー、アサリ、海老、
いさき、ズッキーニ、イタリアンパセリを次から次へと入れていった。
「おばさま、今日は何を作るのですか？」
「和風サラダとイサキのグリルでも作ろうかなって。
あとは香草を適当に買って帰らなくてはね。どうしたの？」
「いや、上手く作れるかなって...」
「大丈夫よ。サラダは茹でて和えるだけだし、
難しいといったらイサキを３枚におろすぐらいだから」
「はい...」
「夕食はシンジに食べてもらいたいって思いながら作ってね。
一番好きな人の事を思い浮かべて、その人が美味しいって言ってくれるかをね」
「でもシンジは優しいから...」
「言わなければいいのよ。
食べたあとでアスカちゃんが作ったって言えばいいじゃない」
プレッシャーに悩んでいるアスカを励ますようにユイは言った。
アスカは上手く作れるかどうかすごく不安になっていた。
（今日の朝食もお弁当だって、シンジはワタシが作ったとは思ってないし、
シンジの事だから、ワタシが作った料理がまずくても美味しいっていってくれる。
おばさまはシンジの事を思ってと言ってくれたけど、
意識しちゃうと逆にプレッシャーとなっちゃうのよね。）
シンジは優しいから、絶対にアスカが作ったと知ったら
『美味しかったよ、今度も作ってね』って言うと自信を持っていた。
ユイはアスカの気持ちがどういう状態なのか分かっていた。
（アスカちゃんたら。うまい具合に働いてくれそうね、きっと）
不安を抱えたままのアスカを見つめながらユイは帰ってきた。
シンジはというとさっきからずーっと本を読んでいた。
ミキサーの原理は可変抵抗器とハイパスフィルター、ローパスフィルターを
複雑に組み合わせたもので、信号のプラス、マイナス、グランドと３回線ある。
プラスとマイナスを逆にすると位相がずれて逆相になる。
正相と逆相のマイクを組み合わせると相殺されて音が聞こえなくなる。
これを解除する機能としてフェイズがある。
また可変抵抗器も直線的に可変するのではなく、二乗曲線的に可変すると。
しかし、まだその本の前半部分でしかなく、まだまだページが残っていた。
シンジは分かったようで分からないような、分かった気がしていた。
そんな調子だったので、アスカが帰ってきたのすら気がついていなかった。
アスカは気がついていないシンジを見ながらエプロンを付けてキッチンに立った。
キッチンは女性にとって華やかでいられるお城みたいなところだと思っていた。
しかし、ここの城の主はユイなので、
アスカはご主人さまのいうことを聞きながらテキパキとこなすしかなかったのだ。
（ここももうじきここもアスカちゃんのものになっちゃうわね。
その方がアスカちゃんの為にも、シンジの為にもいいと思うんだけどね）
ユイはそんなことを思い浮かべながら指示していた。
そうこうしているうちにアスカが作った料理は出来上がった。
端からみているとアスカがお手伝いしたように見えていたが
実はユイがアスカの手伝いをしていたのだった。
「うまくできたじゃない、アスカちゃん」
「そんなことないですぅ...」
「ちゃんと好きな人の事思い浮かべながら作った？」
「...はい」
「なら、あとはあそこでくつろいでいる王子様が
『美味しかったよ』と言ってくれれば完璧ねっ」
ユイはアスカにウインクで答えた。
アスカは出来上がったという満足感からか顔が紅潮していた。
「シンジご飯にするわよ」
「はぁーい。いただきます」
シンジはアスカがじぃーと見ているのが気になったが
まぁいいっかてな感じでサラダから口に入れた。
アスカはシンジが口に入れるのと同時に喉が鳴ってしまった。
「これ美味しいね。菜の花ってこんなに美味しかったんだ」
「ここにある料理は全部アスカちゃんが作ったのよ」
「アスカ、そうなの？」
「そうよ。ワタシがおばさまに教わって作ったの。どう味は？」
「美味しいよ、お世辞じゃななくて、ほんとに」
「じゃぁワタシも食べてみようかな？」
アスカはシンジがお世辞でも、お世辞じゃなくても
美味しいと言ってくれたことで満足していた。
この一言がアスカのプレッシャーを解放してくれて、
いつものアスカに戻ったことで、食卓は賑やかなものになっていた。
「おじさま、味はどうですか？」
「問題ない」
「美味しいですか？」
「あぁ」
アスカはゲンドウにも感想を求めた。
ゲンドウは淡々としていたが、ユイに言わせると美味しかったってことよと
アスカの料理を誉めていることを代弁していた。
アスカの手料理にシンジは満足していた。
アスカもシンジが喜んでくれたことに満足していた。
２人は「いつも作っていて欲しいな」「いつも作りたいな」と思っていた。
LAGERですぅ。
いつもとは違った感じで書いてみました。
今までのは会話が多く、文章で表現するとこがあんまりできなかったと思います。
今回は敢えて会話の部分を削り、文章に頼る方法を採ってみましたが
あまりうまくいかなったようですね(^^;;
そんなことはさておき、量産型のプラモデル作っていたのですが
羽根つけるとかっこいいことが分かりました。
やっぱり９体買ってきて、天井から吊して、
弐号機が見上げるというを再現しないとねぇアスカな人としては(^^)
LAGERさんの『UN HOMME ET UNE FEMME』第８話、公開です。
ユイさんによるアスカの花嫁修業。
エプロンを買い与えて、朝御飯・昼の弁当・夕御飯・・・
手取り足取りで将来の娘を教育していくユイさん。
シンジをアスカ味に合わせる意味もあるのかな(^^)
後はシンジさえその気になればこのプロジェクトは完了ですね。
・・・シンジに肝心の一言をいう勇気があるかな？
さあ、訪問者の皆さん。
モデラーLAGERさんに感想のメールを送りましょう！
【 TOP 】 /
【 めぞん 】 /
[LAGER]の部屋