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[LAGER]の部屋/
「シンジ、来週の水曜日にアスカちゃん、日本に来るんだって」
「ホント?」
「さっきキョウコから電話あってね、そう言っていたから。
1時に到着する飛行機って言っていたから迎えに行ってあげてね」
夕食のひととき、ユイはシンジにアスカが帰ってくることを伝えた。
アスカがドイツに引っ越しをしてから4カ月が経っていた。
日本の高校は夏休みに入っていて、トウジは妹さんの面倒を見ていた。
何故か洞木さんも一緒という話だった。ケンスケは戦艦を追っかけに。
夏休みに入って、一緒に遊ぶといったら綾波しかいなかったが、
綾波と2人きりでいると、緊張してしまい、会話が出来ないことが多かった。
どうも周りから見ていると、友人なのに、カップルと間違われて、
中学から一緒だった同級生からは“乗り換えたのか?”と言われる始末...。
綾波はそんなこと何とも思っていなかったが、ボクはアスカの存在が気にはなっていた。BR>
ちょうどそんな時、アスカが日本に帰ってくることになった。
帰ってくるといっても、1週間しかいないんだけれども、
4カ月ぶりに会うボクは、無意識なうちに心がウキウキしていていた。
その話を聞いたボクは時差も考えて、
日付が変わるころにアスカの携帯の番号を自分の携帯からかけた。
ドイツに行ってから初めてかける電話だった。
普段はメールで済ませることが多かったからだ。
そのころ、アスカは遊びに出かけていて、
ドイツに来て初めて出来た友達、ミキとファーストフードに向かっている途中だった。
ルルルルルルルルル....
「まったく誰よ。人がいい気分で帰っているときに電話だなんで。
デートのお誘いだったら断ってやるんだからねっ!
もしもし?シンジ?
どうしたのよ、電話するならするって言ってから電話しなさいよね」
いきなりの電話で驚いているアスカだった。
隣にいたミキはさっきまで言っていたことはどこへ行ってしまったの?
という感じで見ていたが、妙に嬉しそうな笑顔しているアスカの表情をみて察しがついた。
(電話の相手が日本にいる彼ね。
そういえばアスカ、日本に行くって言っていたっけ)
「なんだよ、電話するのに電話で連絡するのって無理じゃないか!」
「シンジはそういう細かいことを言うの。
いきなりかけてくるから心構え出来なかったじゃない...」
「今、何て言ったの?聞こえなかったんだけど?」
「そんなことはいいのよ。どうしたの、電話なんかしてきて」
「いや、今日母さんからアスカが日本に来るって聞いたから」
「来週の水曜日よ。遅刻しないように迎えに来なさいねっ」
「分かっているよ。遅刻していったらアスカに殺されちゃうからね」
「ワタシは殺さないわよ!」
「分かってるよ、遅刻しないように努力するから」
「...ありがと。電話してきてくれて。声聞きたかったから」
「いや、ボクも声聞きたかったから。じゃそろそろ切るね」
「...うん」
ツーツーツー
アスカは耳に当てていた電話を切ると、電話を両手に持って呆然としていた。
目線はどこを見ているか分からなかったが、視界には携帯が入っていた。
いきなりの電話でどういう態度を取っていいのか分からなかった。
でも正直言って、シンジからの電話は嬉しかった。
ワタシが日本に帰ってくることを気にしてくれていた、
忘れていなかったことが、アスカはすごく嬉しかったのだ。
呆然としているアスカを現実の世界に引き戻したのはミキだった。
「アスカ、アスカ?どうしたのぉ、携帯見つめちゃってぇ。
あら日本に残してきた彼氏からのラブラブコールかしらん?」
「そんなんじゃないわよぉ」
「あらそう?でも顔がにやついていたのは気のせいかなぁ〜」
「そ、そ、そんなことないわよぉ。早く行くよ、ミキ!」
動揺を隠しきれないアスカはその話題から逃げるようにして
ミキをおいていくような感じでファーストフードに向かった。
そしてアスカが帰ってくる水曜日、ボクは目覚まし時計よりも早く起きた。
目覚まし時計を止めると、ベランダの戸を開けて、朝日を見ていた。
ぼさぼさの髪の毛をかきながら、あくびをしながら、
(今日、アスカ帰ってくるんだよな、怒られないようなカッコしていかなくては。
変なカッコしていくと、平気で怒るからなぁ)
ぼーとした頭でアスカの事を考えながらシャワーを浴びにいった。
暑かったのでびっしょりとかいた汗を流し、身を清めるように体を洗った。
シャワーからあがると、アスカがボクのために選んでくれた服に腕を通して
お気に入りのジーパンをはいて、鏡で髪にブラッシングしていた。
(ここまですればアスカも怒らないだろう)
そう思うと、顔も引き締まっていった。
「ちょっと早いけど、空港で待とう。遅刻するよりはいいだろう」
朝食も取らずに、駅までは高校の通学用に買った真っ赤な自転車で行き、
そこからリニアで空港に向かった。リニアでは1時間半かかる距離だった。
駅の駐輪場に自転車を止め、空港までのカードを買って
7時43分、第三新東京国際空港行きのリニアに乗り込んだ。
電車の3両目の角に座り、S-DATを聞きながら。
この第三新東京市も遷都されたばかりだったが、
まだまだ工事の方が行われていた。
政府機関は完全に遷都させていたが、企業の入るテナントビルや
大企業の本店などのビルの工事が完全には終わっていなかった。
駅を発車したリニアの窓越しにはそういう光景が見られた。
アスカに会えるという緊張で昨日はぐっすりと寝れなかった。
ボクはリニアのなかで、どんな顔をすれば喜んでくれるかな?などと
考えているうちにうとうとしてしまい、もたれ掛かるように寝てしまった。
気がついたらリニアは空港と直結している駅に到着していた。
駅を出て、腕時計を見ると9時半になるかならないかだった。
アスカが到着する飛行機は予定では11時と表示されていた。
シンジは空港内にあるファミレスに入り、
モーニングセットのパンケーキとコーヒーを頼んだ。
1人で潰すには長すぎる時間だった。
ファミレスに入る前に本屋に入って単行本を買っていた。
パンケーキを食べ終わると、コーヒーを飲みながら単行本を読んでいた。
腕時計を見ると10時を回っていた。
あと1時間もすれば、アスカと逢えるという嬉しさから顔から笑顔が自然に出来る。
本を読んでいたが、その内容なんか頭の中に入っていない。
ページはひたすら先に進み、飲みかけのコーヒーは冷えていくばかりだ。
(アスカも休みになったから帰ってくるのかな?
なんか4カ月しか経っていないのに、アスカの事が気になるのって
やっぱりアスカの事がスキなのかな?
でもアスカはどうなんだろう?昔から一緒にいたからそういう思いはないのかな?
ボクもアスカの事、スキなのか?と言われれば分からない部分あるし。
ただ15年も一緒にいたのに、たった4カ月しかいないだけで
アスカの事が恋しくなるなんて、やっぱりスキなのかもしれない...)
「コーヒーのおかわりはどうですか?」
「...えっ、あ、お願いします」
「ごゆっくりどうぞ」
「...はい」
ウェイトレスがコーヒーを注ぎ終わると、にっこりと笑って他のテーブルを伺っていた。
ボクはウェイトレスがコーヒーのおかわりを伺ったときだけ現実に戻されたが、
3口つけただけで、冷えるまで本に目線を落としながら考え事をしていた。
腕時計のアラームがアスカが到着する15分前を示した。
「そろそろ、迎えに行こう。
ここまで来て遅刻したら何言われるか分からなくなるからなっ」
席を立ち上がり単行本を脇に挟み、会計を済ませてコンコースに出た。
ボクは到着ロビーに足早に向かってた。
到着ロビーでしばらくすると、
「遅刻はしなかったのね、ちゃんと待っていただけ偉いわ」
黄色のワンピースを来てるアスカが小さい鞄を持ちながらシンジの前に現れた。
「ボクが遅刻するわけないだろっ」
「よく言うわよ、中学の時はいーつも遅刻ぎりぎりだったくせに」
「そんなことないよ」
「ワタシが迎えに行かなかったら遅刻していたでしょうが!」
「...そうかもしれない」
「ほら、みなさい。シンジはワタシがいなかったら何もできないんだから。
ほら、荷物持ちなさいよ」
「何だよ、迎えに来てやったのに。荷物持ちかよ」
「このアスカ様の荷物を持てるのよ。光栄に思いなさい。
ワタシの荷物を持ちたいと思っている男は多いんだから...」
「...はい」
ボクはアスカと再会出来たことがすごく嬉しかった。
たった4カ月しか経っていないのに、すごく長いように感じられた。
その長いように感じられた時間が忘れる瞬間でもあった。
結局再会したっていうのにケンカをしてしまった。
素直にならなくてはいけないのは分かっていたが、
何故かアスカの前になると、反対の行動をしてしまう。
アスカもシンジが迎えに来てくれることを嬉しく思っていた。
ワタシの為に来てくれたという事実だけが心を豊かにしてくれる。
素直にならなくてはいけないことは分かっているんだけど
シンジの前に出ると恥ずかしくて、全部逆の行動になってしまう。
結局ケンカしちゃうのよね、シンジと。
そんなのでシンジがワタシの事を嫌いにならなければいいなと考えながら、
荷物をシンジに預けて、駅に向かった。
「なっ、なっ、いきなりどうしたんだよ。アスカ」
「いいじゃない、ワタシの荷物もってもらっているお礼よ。
それともワタシと腕組むのイヤ?」
「そ、そ、そんなことないよ」
「イヤならイヤって言っていいわよ」
「もし“イヤ”って言ったて、腕組んだまんまなんだろ?」
「バレてた?」
「アスカがボクのことを判っているなら、ボクだってアスカの事は判っているって」
(ワタシったらどうして腕組んだんだろう?
無意識なうちにシンジの右腕を奪い取っていた。
誰のものにもさせたくないシンジの右腕。
高校に入って、『碇君って人気あるんだよ』とヒカリは言っていたけど、
どうなんだろう?もう誰かのものなのかなぁ?)
(いきなりアスカったらどうしたっていうんだ?
腕組んできたりして。でも腕組んでいるアスカの顔ってなんか可愛いなぁ。
普段もこんな感じでおとなしかったらいいのに。
...でもそれじゃぁアスカじゃなくなちゃうし。
イヤってわけじゃないし、イヤって言ったってアスカは組んだままだし。
イヤって言ったら怒ってしまうかも知れないし。
でもアスカの腕ってこんなに細かったのかな?イメージが違うなぁ)
2人はそれぞれお互いのことを思いながら第三東京駅行きのリニアに乗り込んだ。
電車に乗ってもアスカは組んだ腕を離そうとはしなかった。
シンジは左腕でアスカの荷物を抱えながら、アスカの顔見ると、
すやすやと右肩にもたれ掛かりながら寝てしまっていた。
「まったく、日本に帰ってきたばっかりだっていうのに。
疲れたのかな?飛行機も結構疲れるみたいだし」
(でもアスカの寝顔見たのって小学校以来かな?
中学の時は、うちで寝たことってなかったからなぁ)
(シンジに会ったらホッとしちゃったな。
誰にも取られたくないと思って空いている右腕奪っちゃったけど。
なんだか暖かいな、シンジの右腕。
右肩に頭もたれ掛かっても怒らないかな、シンジ?
いいや、シンジに怒られても、きっと許してくれる...zzz)
シンジとアスカを乗せたリニアは第三東京駅に着いた。
駅に到着する前から、アスカを起こそうとしていたが
アスカの可愛い寝顔に負けてか、起こすのをためらっていた。
「アスカ、着いたよ。ほら起きないと。アスカ、アスカ」
「....zzz。はぁぁ。着いたの?」
「なんかさぁ、ぐっすり寝ていたから起こすの悪いかなって思っていたけど」
「ん?」」
「ほら、降りるよ。アスカ」
「...はい」
寝ぼけ眼状態なので、普段の思考回路が停止してしまって
妙に素直になっているアスカだった。
改札を出たところで、アスカの思考回路は正常に戻った。
「ねぇシンジ、駅まで何で来たの?」
「ちゃんと起きたみたいだね。自転車で来たんだけど...」
「ワタシはどうするのよ!」
「いや、乗らないで押して帰ろうかなって思ってさぁ...」
「押して帰るくらいなら、2人乗りしようよ」
「2人乗りは危険だよ、それに警察に怒られちゃうじゃないか」
「見つからないように乗れば大丈夫よ」
駐輪場までいってシンジが自転車のカゴに鞄を入れると
シンジがサドルにまたがり、アスカはうしろの荷台に座った。
「じゃぁ行きましょう。久々に海が見たいな、連れていってくれる?」
「了解、アスカ。しっかり捕まっていてよ」
ボクはアスカに抱きしめれながら、自転車のペダルをこいで
アスカが望んでいる海を見に行くことにした。
またがって座っているのではなかったのでバランスを取ることが難しかった。
でもアスカがしっかりとボクのことを抱きしめていたから、
運転が難しいとは感じていなかった。
第三東京駅から海までは自転車で1時間の距離にあった。
通り過ぎていく風はアスファルトの照り返しで、決して爽やかなものではなかったが。
でもボクにとっては、熱風でしかない風も、
なぜかアスカが後ろでしっかりと捕まっているというだけで
熱風でしかない風も爽やかな風に変わっていった。
ボクは後ろのアスカが『早く見たい』と急かすので、必死になってペダルをこいだ。
アスカはスカートが巻き込まないように、
片腕をボクの体から離してスカートを押さえていた。
片腕でしか捕まっていないので、アスカは今まで以上に体を密接にしてきた。
(アスカって結構胸あるんだよなぁ。なんかアスカの胸のふくらみが背中に当たる。
変な想像するとアスカは本気で怒りそうだから、この辺にしておこう..)
(自転車から落ちないようにシンジのこと抱きしめているけど
ワタシのドキドキしている音聞こえないかな?
でも、シンジの心臓の音が聞こえる。なんか落ちつくなぁ...)
2人はそれぞれの思いを胸にしまいながら、アスカがリクエストした海を目指していた。
ボクとアスカは誰もいない防波堤に腰掛けながら、バックには真っ赤な自転車があった。
これといった話をアスカとするわけでもなく、海を見つめていた。
「たった4カ月しか経っていないのに、懐かしい感じがするわ」
「でも、アスカとここに来たのって小学校の時以来じゃない?」
「そうね、中学のときって周りにいろいろといたからねぇ....」
「そういえば、何でアスカは日本に帰ってきたの?」
(な、な、何でそんなこと聞くのよ。アンタに会いたかったからじゃないの)
「いや、夏休みだったしさぁ。ドイツから出たかったのよ。
他の国でもよかったんだけど、日本が一番落ちつくからさっ」
「...ふーん、そうなんだ。なんかがっかりだなぁ」
「何ががっかりなの?」
「い、いや、なんでもないよ。アスカ」
アスカもしばらく見ていたが、リニアの中と同じように
ボクの右腕に左腕を絡ませながらにこっと笑うと、右肩にもたれていた。
途中海風でアスカのスカートが舞い上がるシーンもときどきあったが
そんなことがあっても、フリーの右手で押さえるだけで、腕を離そうとはしなかった。
これといって話をするわけでもなく、ただ2人でいるという時間が流れていた。
目の前の海は遠くに港に入ってくる貨物船や客船は汽笛をあげ、
漁場から引き上げてくる漁船が行き交っていた。
真上にあったはずの太陽も傾きかけてきて、海風で寒さを感じるようになっていた。
ぽかぽか陽気で何時しか寝てしまったアスカを起こすと、
ボクは坂道を自転車を押しながら、家に帰った。
今度はアスカは腕を組めなかったのでただ横を一緒に歩くだけだった。
おもむろにアスカが立ち止まったかと思うと、後ろから抱きついてきた。
「ねぇシンジ?」
「何アスカ?」
「あのさぁ、この自転車の後ろは誰にも座らせないって約束してくれる?」
「いいよ、そんな約束なら」
「レイも乗せちゃいけないのよ、判っている?」
「アスカと約束したんだから。絶対に守るよ」
「じゃぁ今度帰ってきたときも、後ろに乗せてまた海を見に行こうね。
来年も来れるかどうか判らないけど...」
「じゃぁボクがドイツに行こうか?」
「シンジが来たってドイツ語話せないでしょ」
「そうだけど...。今からドイツ語勉強してさぁ...」
「でもダメ。したらワタシが戻ってくる場所なくなっちゃうから」
「判ったよ、まったくアスカって強引だよなぁ」
「このワタシのどこが強引っていうのよ!」
「そういうところ」
「どういうところって聞いているでしょ!」
そうこうしているうちにボクはアスカとケンカしていた。
ケンカというより、じゃれているようにしか見えないんだけど、
アスカはムキになって否定している。
必死に弁解をしている姿を見て思わず笑ってしまった。
アスカも何故かおかしくなって一緒に笑っていた。
そんなやりとりをしながらアスカを迎えに行った日は過ぎ去っていった。
「ただいまぁ」
「あら、おかりなさい」
「おじゃまします。おばさま、おじさま」
「あらアスカちゃん、いらっしゃい。ゆっくりしていっていいからね。
ちゃんとアスカちゃんが休みの間はシンジが相手をしてくれると思うから」
「じゃぁお言葉に甘えさせていただきます」
「もうちょっとでご飯にするから、シンジの部屋で待っていてね」
ボクの部屋に入るなり、エアコンを入れろなど、喉が乾いたなど我侭の言いたい放題。
さっきまでの「深窓の令嬢」はどこに行ったんだ?と思いながら、
ボクは麦茶を取りにキッチンまで行った。
アスカは相変わらずなんにも変わっていないシンジの部屋に
「こんな部屋じゃ、女の子を誘えないでしょ」とつぶやきながら、
シンジの机に飾ってある1枚の写真に目線が止まった。
「これは...」
そうつぶやくと、フォトスタンドを手に取った。
その写真は中学の修学旅行の時に撮った写真だった。
アスカがみんなが見ていないと思って、
シンジの右腕に左腕を組ませた瞬間の写真だった。
アスカがしてやったりという顔をしていて、
シンジはいきなりどうしたんだよ!という表情をしている。
ケンスケがこっそりと撮った写真だった。
転校してきたばっかりの綾波と2分する人気を誇っていたアスカ。
その2人に挟まれていた割には、女の子からは人気のあったシンジ。
その3人の生写真となれば、売れないわけがない。
修学旅行では3人は同じ班になり、それにトウジ、ケンスケ、ヒカリも一緒だった。
ケンスケにしてみれば、美味しい獲物が目の前にあるだけに
ひたすらシャッターチャンスを待ちかまえていたのだった。
その時ケンスケのファインダーの映った1枚だった。
この出来事でミサトからは卒業するまでからかわれていた。
出来事を発覚させたケンスケはアスカにすべてのネガを没収され
すべてのチェックを受けた上で、生写真の利益の3割を納めることで話をつけた。
レイもアスカを見習って、そういう約束を取り付けていた。
その時に、ケンスケが「これはプレゼントさ、売れないからなっ」と言って
渡してくれた何枚かの1枚だった。
アスカがシンジのことを好きだってことを判っていた上でくれた写真だった。
ちょっとしたケンスケの優しさの証だった。
「アイツ、この写真を飾っておいてくれるなんて....」
「アスカ、どうしたの?持っていたよ、冷たい飲み物」
「ありがと、シンジが入れてくれた飲み物を頂こうかしら?」
アスカはシンジのベットに腰掛けると
シンジが持ってきてくれた麦茶を飲みながらお菓子を食べていた。
「何を見ていたの?」
「こんな部屋じゃ、女の子呼べないわねぇって思っていたのよ」
「だって女の子なんか呼ばないもの」
「レイとかヒカリとは来ないの?」
「来るっていってもリビングまでだし、部屋には入れないよ」
ボクがそういうとアスカの表情は笑顔を見せたような気がした。
確かに洞木さんや綾波が来ても、ボクの部屋に入ることはない。
入りたいともし言ったら、たぶん断るかもしれない。
この部屋に入ってくる女の子はアスカしかいないからだ。
(だってこの部屋にはアスカしか入れたくないんだよなぁ。
綾波や洞木さんアスカに怒られるというのが判っているみたいで
入りたいとは言わないんだよなぁ。
ほかの女の子は家には連れてこないから、
アスカ以外には誰も入らないんだけど。)
(そうか、レイもヒカリも入ったことないんだぁ。
入ったことあると思っていたのにぃなぁ。
たぶん、ワタシが怒るからって思ってるのかもなぁ。
あの2人なら入っても怒らないと思うし。)
シンジの部屋にいたボクとアスカは、
夕食を済ませて、リビングでくつろいでいた。
母さんはアスカといろいろ話していた。
ボクには聞こえないように話をしていたが、アスカの様子を見る限りでは
きっとボクのこととか聞いていたんだろう。
ボクもいつかははっきりしなくてはいけないのかもしれない。
仮にボクがアスカにスキと言ったら
アスカはどうするんだろう?なんと返してくれるのだろう?
そういう事を考えると何も行動できなかった。
アスカはボクのことをどう考えているのか判らない。
スキなのかもしれないし、スキとかそういう感情はないのかもしれない。
幼なじみとしてしか見てくれていないかもしれない。
ボクはそう思いながら、夏休みの課題をやっていた。
その日の夜は、アスカとこれといった話はしなかった。
アスカはお客様が泊まる部屋で1週間泊まることになった。
翌日からはレイやヒカリ、トウジやケンスケなどが遊びに来ては
いろいろなところに出かけていった。
芦ノ湖に行って遊覧船に乗ったり、温泉に行ったり、
6人で過ごした時間はあっという間に過ぎていった。
アスカが帰る前日はみんな偶然にも用事が入って遊びに来ることはなかった。
ユイもゲンドウも出かけてしまって、家にはボクとアスカだけだった。
「ねぇシンジ、ショッピングしに出かけない?」
「ショッピング?」
「そうよ、こっちのおみやげ買って帰らないとまずいのよね。
日本に帰ってきたのに、おみやげなしじゃぁ何をいわれるか判らないし」
「じゃぁ出かけようか」
ボクはそういうとアスカの腕をとって、自転車置き場まで連れていった。
迎えにいったように、アスカはボクの自転車の後ろに座るとしっかり捕まっていた。
アスカはニットシャツにパンツルックなかっこだったので
風でスカートが舞い上がるというような再会した日みたなことはなかった。
ボクはジーパンは変わらなかったが、青のポロシャツをきていた。
アスカは「ワタシとデートするんだから、もうちょっとマシなカッコしなさいよね」と
言ってはいたが、しょうがないわという顔をして納得していた。
駅の近くのショッピングセンターまで来ると
自転車を駐輪場に止めて、中に入っていった。
日本のおみやげって何がいいんだろうねとかいいながら
ボクはアスカのおみやげを考えていた。
ありきたりなものがいいんじゃないと言うと、
「一体何を買ってきたの?」と言われちゃうじゃないといっては
ボクは完全に困らせていた。そんな様子をみてはアスカは楽しんでいる様子だったが。
結局、温泉地が近いということもあって、湯ノ花と日本タオルを何個か買っていった。
「ねぇあれ買って帰らない?」
「あれって浴衣?」
「浴衣って1度着てみたかったのよねぇ。なんか風情あるじゃない。
浴衣着て花火やるのっていいじゃない?」
「でも浴衣着るのって花火大会とかじゃないの?」
「だって花火大会ってワタシが帰った後じゃない。それじゃ着れないもの。
だから花火買って公園かなにかでやれば、いいじゃない」
「...アスカって1度決めると、絶対に考え曲げないよね。
じゃぁ買って帰ろうか」
「ねぇ、ワタシのために浴衣選んでくれない?ワタシもシンジのを選ぶから」
結局はアスカの考えに巻き込まれるように、
浴衣コーナーでお互いの浴衣を選ぶことになった。
男性ものの浴衣はそんなに種類がなかったので、
アスカはあっさりと藍染めの浴衣を選んでくれた。
笹の葉が白で描かれた浴衣だった。
アスカはそれを選ぶと、満足したそうな顔をして会計を済ませていた。
「ねぇワタシはちゃんと選んだんだから、しっかりと選んでよね」
と、小悪魔みたいな笑みを浮かべながら、腕を組んでいた。
女性用の浴衣となると、いろいろと色も柄もある。
どの色や柄がアスカに似合うのか?とボクは悩みながら浴衣を選んでいた。
アスカに「どんな柄がいい?」と聞いても「シンジに任せる」としか答えてくれない。
アスカはシンジが選んでくれたものなら何でもいいとは思っていた。
いつもなら「なんでこんなのを選ぶの!」とグチグチと言うのだが、
今回は言うのをやめようと決めていたのだった。
だから自分の我侭を言わないように心がけていた。
ボクは普段なら「これがいい!」と断言するアスカが何も言わないことが
かなりのプレッシャーになっていた。
それに最初に見せた小悪魔みたいな笑顔が脳裏から離れなかった。
自分が思う、アスカに着てもらいたいと思う浴衣を探していた。
「ねぇ、この浴衣はどうかな?」
「これ?」
「そう、アスカにはやっぱり赤が似合うと思うから、
真っ赤というわけにはいかないけど、朱色なんだけどさっ」
「シンジに任せるって言ったじゃない。
シンジが似合うと思って選んでくれたなら何でもいいわよ」
「じゃぁこれにしよう。きっと似合うと思うから」
シンジはその朱色に百合の花を描かれた浴衣を選ぶと、
レジに持っていき会計を済ませていた。
店の人は“女の子の浴衣を選ぶなんていいわねぇ”と思いながらラッピングをしていた。
ボクはアスカのおみやげと、2人の浴衣、花火を自転車のカゴに入れると
来たときと同じように、帰りも同じように2人乗りで帰った。
帰ってくるなり、浴衣を見たユイは
「あら、アスカちゃん、浴衣買ってきたの?」
「はい、1度来てみたかったんですよ。来たことなかったから。
着て花火をシンジとやりたいなっと思って」
「じゃぁ着付けしてあげようかな?」
「お願いします。でもシンジも浴衣買ってきたんですけど」
「アスカちゃんの着付けが終わったら、シンジの着付けをしましょうね」
夕食の準備をしていたユイはそういって最後の仕上げをしていた。
日本で最後の夕食は、アスカが大好きなものを作ってくれた。
アスカは昔から碇家で夕食を食べることも多かったので
ユイが作ってくれる料理は何でも良かったのだった。
ママが作る料理もスキだけど、ユイおばさんが作る料理もスキなアスカだった。
夕食は4人でワイワイガヤガヤしながら食事をした。
今日買ってきた浴衣はシンジが選んでくれたというと、
ユイとゲンドウは嬉しそうな笑顔をして、シンジをみた。
シンジは普段見たことのない笑顔に驚いていた。
そんな夕食が終わるとユイはアスカの着付けをしていた。
「どう、シンジ?似合う?」
ボクが選んだ浴衣を着たアスカは絵にはならないような状態だった。
朱色の浴衣に黄色の帯、長かった髪の毛をアップにしてうなじが
妙に色っぽさを醸し出していた。
それに見とれてしまったボクは思わず「綺麗だ」と言ってしまったために、
アスカは顔を真っ赤にしていた。
「何をいうのよ...」と照れてしまったアスカはリビングで
シンジを待っていることにした。
ボクは思わずアスカに言ってしまったことを母さんに突っ込まれ
「女の子はスキな人に綺麗ということが一番嬉しいのよ」と最後に言った
リビングで待っていたアスカはゲンドウに
「おじさま...」
「シンジを頼む。あれでもアスカちゃんが気に入ってくれているなら」
「判りました。ちゃんとシンジの面倒は見ます!」
ゲンドウは何も言わず、自分の書斎に戻っていった。
ボクも浴衣に着替えると、アスカと花火をしてくるといって近くの公園まで家を出た。
公園での花火は禁止されつつ傾向にあった。
火の始末を最後までしないということであった。
アスカはカラのバケツを中に花火を入れて持っていた。
公園まで着くと、アスカはバケツだけを渡して水を入れてくるようにいった。
公園のベンチに座りながらろうそくにマッチで火を付けた。
街頭の明かりのなかで、ろうそくの明かりは違った雰囲気を作っていた。
アスカの白い肌が、ろうそくが照らす赤っぽい色で、
頬が照っているように見えた。うなじに出来る陰がなんとも言えなかった。
アスカは本当に花火がやりたっからしく、
買ってきた花火を手当たり次第に付けては楽しんでいた。
赤くなったり、黄色になったり、緑や青といった様々な色の変化を楽しんでいた。
昔懐かしいねずみ花火や煙玉、プロペラなどを思い思いに楽しんでいた。
しばらくしていると、ろうそくも花火の火力で溶けてしまい、
もうちょっとでなくなってしまうところだった。
買ってきた花火も線香花火を残すだけとなっていた。
「最後にこの線香花火をしないと、花火をした気をしないわよねぇ」
「そうだよねぇ。この最後に出来るタマを落さないように終わるのって難しいんだよね」
「じゃぁ勝負よ。ここに2束あるわ。1束はシンジ。
どっちがタマを落とさないように終わることが出来るかを競うのよ」
「絶対に勝ってみせるよ。自信あるんだ。線香花火は」
「言ったわね、じゃぁ負けた方が勝った方のいうことを何でも聞くっていうのは?」
「なんでそうなるんだよぉ」
「自信ないかなぁ〜。シンジ〜」
「そんなことないよ。判った、その勝負乗った」
「そう来なくちゃ!。じゃぁ始めるわよ」
アスカのその言葉が合図となって、線香花火を楽しんだ。
最初のうちはボクも本気になって、タマを落とさないように必死になっていた。
アスカも必死になって線香花火が作り出す様々な模様に集中していた。
しばらくして、あと1本となったところで、
ボクもアスカも落とさなかった花火は5本ずつだった。
アスカは「絶対に勝ってみせる」と意気込んで最後の花火に火を付けた。
この花火をタマを作ったほうが勝ちになるのだ。
火を付ける瞬間のアスカの表情が今まで見たことないような顔をしていた。
それはろうそくが灯す明かりがそういう風に見せていたのかもしれない。
ボクは間近でアスカの顔を正面からみることは、
アスカの事を意識するようになってから、初めて見ることだったのかもしれない。
アスカってこんなに可愛かったのか?と思うと火を付けた花火の事なんかどうでもよくなっていた。
「やったー。これリーチよ。あとはシンジがタマを落とせばワタシの勝ちよ」
アスカが喜びの声をあげている。そんな声はボクの耳には入っていなかった。
ボクの頭の中は、アスカが思っていたよりもめちゃくちゃ可愛いという思いで
いっぱいになっていた。そんなことを考えたこともなかっただけにだ。
ボクの線香花火の最期が来ると、渾身の輝きをしていた火花は静かに消えていった。
そして、その最期の証となる黒いタマは、
アスカの願いを聴くかのように地面に落ちていった。
「これでワタシの勝ちね。何を言うことをきいてもらうかな?」
アスカは妙にウキウキしながらベンチに座っていろいろ考えていた。
ボクは負けたことが悔しいとは思ってもいなかった。
花火も終わったことで、溶けてなくなってしまいそうなろうそくの火を消して
バケツの中に入れた。戦績の証の線香花火もバケツのなかに入れた。
一通りの片づけが済むとボクは罰ゲームの内容をアスカに聞いた。
「ねぇ、アスカ。約束だよ。何を聞けばいいのかな?」
「............」
「アスカってばぁ。ここから家までおんぶして帰るかとか?」
「...........」
「どうしたの、アスカ?何か変だよ?」
「...ねぇ、キスしてくれる?」
「キス?」
「...ワタシが日本に来て、シンジに会ったという証が欲しいの。ダメ?」
「そんないきなり...」
「だってワタシのいうことは何でも聞いてくれるんでしょ?」
「そうだけど...」
ボクは何かを言いかけると、アスカは目をつぶっていた。
ボクはここから逃げることは許されない。
今、目の前にいるアスカに思いに答えることが、最前の選択でしかなかった。
まだ花火をした火薬の匂いが残る中、ボクの唇はアスカの唇と重なった
。
短いような時間だったか、長い時間だったかか覚えていなかった。
ただ、アスカの唇は思った以上にやわらかく、甘い感じがしたということだった。
翌日、アスカはドイツに帰っていった。
今度は綾波や洞木さん、トウジやケンスケも見送りにきてくれた。
ボクと目線が合うと、昨日の出来事が思い出されてしまう。
どうもアスカもそうだったみたいだ。
2人の妙な雰囲気を察した他の4人はいろいろ追求してきたけど
ボクもアスカも「何にもないわよ」と言って難を逃れた。
空港で買った単行本は何故か高校に行く鞄の中に入っていた。
その読みかけの単行本のしおりには、アスカは日本に帰ってきた時の
2人の写真が使われていた。あの時の浴衣をきた2人の写真.....。
続くのかなぁ...
ver.-1.00 1997-07/30
ver.-2.00 1997-10/07
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LAGERですぅ。
書き忘れていましたが時間軸では、高校1年の夏休みという設定です。
これは前に投稿したものを同じです。
加筆しようかと思いましたけど、めんどくさいので辞めました(笑)
この続きは350000HITになったときに書きます。
それでこの話は一応終わりにはしますが、また続くかも。
書き手がいい加減なもんで(^^;)
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