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[LAGER]の部屋/
「ねぇシンジってばぁ、ねぇ」
2人きりで生活するようになって初めての日曜日。
私はシンジにかまってほしかった。
それはここ数日間、邪魔する人間によって
『ラヴラヴ』な甘い生活を過ごすことが出来なかったからだ。
2人で暮らしていると分かった瞬間に、
周りのみんなは「おめでとう」と言ってくれた。
特にヒカリは自分の事のように喜んでくれた。
同棲することに関しては先輩だもんね。ヒカリは。
鈴原の妹さんが一緒とはいえ、同棲していることには代わりはないし。
事実が発覚したのは旅立ったその日の夜だった。
私はヒカリやレイが喜んでくれることは分かっていたけど、
3バカの2人がシンジをからかうことが目に浮かんだ。
そんな危惧をしていたので、いつかばれるけど、
自分たちから「2人きり」と言わないようにと決めた。
しかし、意志の弱いシンジのことだから
どっかでボロを出すだろうとは思っていたけど、
まさかその日にボロを出すとは思わなかった。
ウソがつけないシンジのことだからとは思ってはいたが。
でもそれをちょっとだけ期待した私がいた。
自分から「同棲してます」なんて言いづらいし、
そういうのはシンジの口から言って欲しかったっていうのもある。
これで私とシンジは公然の仲になるってことだし。
まぁ暗黙の了解という部分は中学の頃からあったのだけど。
「ねぇシンジってばぁ、シンジ!聞いているの?」
シンジはS-DATでクラシックをヘッドホンで聞きながら
昨日本屋で買ってきた雑誌を読んでいた。
音楽に集中しているんだか、雑誌に集中しているのだか分からない。
夢中になってご機嫌みたいだ。
「何アスカ?なんか呼んだ?」
素っ頓狂な顔をして私の顔を見ながらシンジはそう言った。
「アンタねぇ、今日は誰も来ないのよ。しかも日曜日。
さらにこんなに晴れている日に家でゴロゴロすることないでしょ!」
「ゴロゴロって...」
「アンタの今のカッコを見てどこを見ても
『ゴロゴロ』しているようにしか見えないわよ!ったく」
「.......」
「ワタシをどっかに連れて行きなさいよ、こんなに晴れているだから!!」
ワタシはシンジに
「こんなに晴れているんだから。どっか出かけようよ」と
言って欲しかったのに、コイツはどこまでドンカンなんだか...。
そんなドンカンな所も含めてシンジの事がスキなんだけど。
結局、シンジを無理矢理どこかに連れていくことになった。
シンジはワタシに「どこか行きたいところはない?」と聞いてきた。
いつもシンジはワタシがどっか行きたいとワガママを言うと
必ずそう聞き返してくる。いつもいつも。
「ワタシをエスコートするのがアンタの役目でしょ!」と
ワタシも必ず言い返してやる。そうじゃないんだけどなぁ。
「今日は海にでも行こうか」とちょっとキザな台詞でも言えないものか。
そんなこというのはシンジらしくないので、
いつもいつもこうやって喧嘩腰な状態がもう10年以上も続いている。
シンジももう慣れていると言う感じだ。
やっぱり幼なじみなだけのことはある。
アスカのことをどう扱ったいいのかは熟知している。
アスカ専用取り扱い免許1種を持っているようなものだ。
シンジはアスカは1度言い出したら、絶対に曲げないことを知っているので
「しょうがないなぁ」という顔をしながら自分の部屋に入っていった。
「しょうがないなぁって顔しなくたっていいじゃん」
私はそうつぶやくと、
私も自分の部屋に入ってデートに備えて着替えることにした。
シンジのことを考えながら、どういう洋服にしようか選ぶのって
結構真剣になっちゃうのよねぇ。
シンジには一番綺麗なカッコで見てもらいたいっていう気持ちもあるし。
でもアイツったら綺麗なカッコをしても
「綺麗だよ」の一言もいってくれないのよねぇ。
言ってくれないから、ワガママを言ってしまうんだけど。
しぶしぶ言われた「綺麗だよ」なんて、嬉しくないのに。
そんな事を考えながら、私は「これはこの間着た服だしぃ」と
クローゼットの前で悩んでいた。
目の前にはいつの間にか買ってもらった服がたくさん並んでいた。
全部私が「欲しい、買って?」と言って買ってもらったものだ。
その中でも一番のお気に入りは、日本を離れるときにシンジに
無理矢理買わせた春物の白のワンピースだった。
「これってしばらく着てないなぁ。
これ着ていったら、自分が買ったことって思い出してくれるかしら?」
そう呟くと、その服を取って着替え始めた。
いつものように赤い髪留めで長い自慢の髪を留めて、
白いソックスをはいて、赤いSWATCHをはめて鏡を眺めていた。
(何かが足りない)
この状態で何が足りないのか、何かを身につければ完璧なのに...。
胸にリボンをつければ...いや、ブローチがいいかな?...
薄い春物のカーディガンでも羽織った方がいいのかなぁ...。
そう様々なモノを思い浮かべては、違うとうち消しての繰り返しだった。
ふと自分が映っている鏡を見ると、壁に掛かっている麦わら帽子が目に入った。
(これだ!)
私はそう思ったらその麦わら帽子を手にって被っていた。
「お気に入りの髪留めが隠れちゃうけど、
その分は胸にリボンをすればいいわね」
胸にリボンをつけて、麦わら帽子を被って
鏡の前でポーズを取って、おかしいところがないかチェックしていた。
「そういやシンジったらどこに私を連れていてくれるのかしら?」
その頃シンジも服選びに頭を悩ましていた。
理由は明白。アスカがなんだかんだいって難癖をつけるからだ。
これでいいだろうと思ってキメてみると
「アンタ、どういうカッコをしているのよ。
このワタシを一緒に歩くのよ、もっとマシなカッコしなさい」と言って怒る。
でも、どうしようもないので、結局アスカが折れるのだ。
タンスの中の洋服を見ても、どれを着ていったらいいのか分からない。
シンジは悩みに悩んだ末に、濃紺のジーンズに青のカットシャツを選んだ。
もちろん腕には青のSWATCHをつけて、リビングでくつろいでいた。
ワタシは鏡の前でだれも見ていない1人のファッションショーの様に
ウォーキングなんかしてみたりして、ポーズを決めていたりしていた。
鏡を見ながらふと思った。
『ワタシってやっぱりシンジに恋しているのかしら』
そう思うと妙にウキウキしてしながら、小悪魔なことを考えついた。
“いつもワガママ言っているから徹底的に甘えてみよう”
「おまたせ!今日はどこに連れていってくれるのぉ」
ちょっと甘えた声でシンジの背中越し抱きついてみた。
シンジったら「どうしたんだよぉ」という顔をして驚いていた。
まったく可愛いんだから。こんな可愛いシンジも捨てがたいのよねぇ。
昔から頼りなさそうな感じを受けるけど、
そんなことなくてなんだかんだいって、ワタシのワガママにつき合ってくれて、
意外と芯が通っているのよ、それが本当に意外で。
ドイツから帰ってきたらなおさらしっかりしているの。
だからなおさらワタシはワガママをいって困らせるの。
そんないぢわるをしてもしっかりしているシンジは絶対に誰にも渡さないから。
最近人気あるらしいのよねぇ。
サークルでも先輩たちは『可愛い後輩』として狙っているみたいだし。
同期の女の子も『碇君』っていって駆け寄ってくるし。
ワタシもレイも言い寄られる男も多いんだけどね。
でも普段から一緒にいるから、最近減りつつあったのに、
コンテスト出た途端に他大学から声がかかるらしいのよ。
ぜぇーたいに渡さないから。シンジはワタシのものなんだから。
「今日はシンジが行きたいところにつき合ってあげるわよ」
「アスカ、さっきは『どっか連れて行きなさいよ』って言っていたくせに」
「そんなこと言っていたっけ?」
「ほら、そうやってとぼける!」
「こんな可愛い女の子とデート出来るのよ。感謝しなさい!」
「...結局、変わってないじゃないか!」
「でも今日はシンジが行きたいところにワタシを連れていくのよ。
いつもはワタシが行きたいところをシンジが連れていってもらっているじゃない」
「いきなり言われたって...」
ワタシはとびきりのワガママを言ってみた。
さっきまでシンジが言うように「ワタシがどこかに」だったのが、
「シンジの行きたいところ」に変わっている。
シンジのことだから「アスカの行きたいところに行く」って言うに決まっている。
たまにはデートらしく、男の子がリードしてもらうデートにならないかなぁ。
雰囲気によっては最後までいってもいいんだけどなぁ。
シンジと一緒なら、何でも出来るような気がするし。
「さっきまで言っていたことはナシ。
今日はシンジがワタシをエスコートするのよ。分かったぁ?」
「...う、うん。分かったよぉ」
ゴメンね、そんな気はないんだけど。
シンジにはこういわないと動いてくれなさそうだし。
「ねぇ、その服ってさぁ...。あの時のだよ、ね?」
「服?」
「中学卒業するときにボクが選んだヤツだよね?」
「そうよ。覚えていたの?」
「それを着ているアスカが一番綺麗な感じがしてさっ」
「な、な、何を言っているのよ!さっさとどこに連れていくのか考えなさいよね!」
「まったく...」
シンジったら覚えてくれたんだぁ。しかも『一番綺麗』だって。
似合わないことを突然言うからびっくりしちゃったじゃない。
鏡の前でじっくりと時間をかけていただけのことはあったわね。
シンジも青で統一して決めているみたいだし。
今日はシンジの服装も褒めてみようかな?
「ねぇ、それで今日はどこに連れていってくれるのぉ?」
「どこに...しようかなぁ...」
シンジはワタシを見ながら「どこがいい?」という顔をしている。
でも今日は『シンジが誘ったデート』ってことにするためには
ワタシが『あそこに行きたい!』と言わないようにしないとね。
「さっきもいったでしょ、今日はアンタが決めるのよ!」
「ったくワガママなんだから...」
「ワガママってなによー」
「い、いや、アスカらしくていいや」
シンジったらそういうワタシが気にしていることを平気で言うのよね。
逆に言えばワタシのことを分かっているという裏返しなんだけど。
どうしてこういうときに素直になれないのかしらねぇ。
素直にならなくてはと思うんだけど、なかなかなれない。
でもシンジがいないとワタシは生きていけないかもね。
生活の全部を頼っているし。カゴの中の小鳥みたいなものかもしれない。
結局、シンジは海に連れていってくれるらしい。
ワタシはどこだっていいんだけど、シンジと一緒なら。
シンジが運転するBarchettaで第三新東京市の港に向かった。
港の近くには公園が点在していて、デートする定番コースとなっていた。
湾内をぐるりと巡ることの出来る遊覧船もあったりする。
シンジとここに来ることは初めてだった。
いつも何かあると行く場所っていうのは家の近くの公園だった。
そこにあるブランコやジャングルジム、砂遊び場。
昔からそこでシンジを遊んでいた。
暗くなるまで遊んで、2人とも汚しては共に怒られての繰り返し。
ママもユイおばさまも諦めていた感じはあったけど。
そんなことシンジは覚えているのかなぁ?
車に揺られながらそんな回想に浸っていた。
海が見える公園までシンジの右腕に腕を絡めてエスコートしてもらった。
シンジはいつもと違う行動をするワタシを変な目で見ていた。
そんな風に見なくたっていいじゃん!
でも、いつもならワタシがシンジを連れ回しているんだから
怪訝そうな顔をするのは分かるけど、もうちょっとロマンチックにしてよねっ。
ワタシは少しだけいつもみたいな行動をしてみた。
シンジから逃げる感じで公園の柵まで走って、シンジを呼んでみた。
柵の向こうはもう海だ。
シンジったら“いつものアスカだ”というような顔をして追っかけてきた。
柵に平行に並ぶ形でしばらく海を眺めていた。
そこには言葉はいらなかった。シンジと一緒にいるという安堵感だけで
ワタシは胸一杯に幸せをかみしめていた。
2人を通り過ぎていく海風が心地良い風となって心を満たしてくれた。
ワタシは思わずシンジの腕に自分の腕を絡めて、
右肩に頭をもたれてかかってみた。
意識してやったわけではなかったけど
自然の成り行きでそういう行動をしていた。
そうしたらシンジったら、ワタシの肩に手を回して自分の元に
ワタシを引き寄せていた。
シンジも意識してというよりは無意識でワタシを抱いてくれたらしい。
そんなシンジの優しさみたいなものにワタシは甘えているのかもしれない。
どうなんだろう、シンジもワタシのこと好きなのかなぁ?
好きじゃなければこんなことしないよね?
でもシンジは優しいから、雰囲気に飲まれてこういうことしちゃうかもしれない。
ワタシだけに優しくしてくれればいいのぃ。
これが太陽が登っている時間じゃなければ、KISSの一つぐらいしてくれてもね。
シンジにはそういう甲斐性はないか。あったらプレイボーイになっちゃうしね。
そう思いながら、もたれかかっていた。
「ねぇシンジ?」
「何、アスカ」
「ワタシのことってどう思っているの?」
「どう思っているのって...」
「スキかキライかってことよ」
「そんなの突然言われたって分からないよ。
昔から隣にはアスカがいて、そういう生活をもう18年もしているわけだし。
キライじゃないからスキなんじゃないかなぁ」
「そんないい加減なことじゃ困る!」
ワタシは今までの『恋人同士』の雰囲気を壊すように
シンジの顔を直視して、真剣に聞いた。
シンジにとっては大したことない出来事かもしれないけど、
ワタシにとっては重要な問題だからだ。
シンジの事を誰よりも一番スキなワタシの事なんだから。
ワタシはシンジに「ボクはアスカの事が好きだよ」と
言ってくれることを求めていたのかもしれない。
もう子供じゃないんだし、お互いの両親だって認めてくれているし。
あとはシンジがどう考えているか、気持ちの問題だけだ。
ワタシはこの答えを求めるのが早いのか遅いのか分からなかった。
ただいつまでも『幼なじみ』という関係を脱したいという気持ちが
シンジに今の気持ちを聞くという行動をさせたと思う。
シンジはワタシが真剣な顔をして詰問したことで
困ったような顔をしながらちゃんと考えてくれているようだった。
そしてしばらくの時間がたった。
長い沈黙を破ってシンジがワタシの目を見ながら口を開いた。
「アスカ、ボクはアスカのことが好きだと思う。
スキと聞かれればスキと答える。それは長い間一緒にいるからかもしれない。
女の子に告白してOkeyをもらったからといったって、
その瞬間から『恋人』じゃないだろ。まだ『友達』だと思う。
ゆっくり時間をかけてお互いが信頼できるようになって
初めて『恋人』になると思うんだよね。
アスカは昔から一緒に遊んだり、学校に行ったりしていたから
そういうことを考えたこともなかった。
いや、考えないようにしていたのかもしれない。
今までのいい関係が崩れてしまうのかって考えていたのかもしれない。
今のボクにとってはこの関係が一番いいんだ。
アスカと一番いい関係でいられると思うし、
アスカの事は一番大切にしたいと思っているし...
どうしたの、アスカ?」
ワタシはシンジがそんな風に考えているのかなんて思ってもいなかった。
ワタシのことをそんな風に思ってくれているだなんて。
つくづく自分が我侭でどれだけシンジに迷惑をかけているかを
考えさせられてしまう、と思っていたら、涙が出てきた。
シンジはワタシが泣いてしまってどういう行動取っていいのかおろおろしている。
人がいる前で女の子が泣いていれば、男の子は悪者になっちゃうし。
シンジは周りの目を気にしながら、ワタシに「どうしたの?」を聞いてくる。
しばらくシンジはおろおろしているだけだったが、何かを決めたかのように
うつむいて泣き顔を見られないようにしているワタシの顔をあげた。
今まで周りの目を気にしていたシンジは
「へ?」という顔をしているワタシの顔を見ながら、
その次の瞬間にワタシのくちびるを奪っていた。
ワタシはさっきシンジが言ってくれていた
「いい関係」というのが分からなくなっていた。
いつもの様にワタシが我侭を言って、それにちゃんと付き合ってくれる。
その関係がワタシとシンジの関係のベストだと思っていたのに。
“どうしてワタシのくちびるをふさぐの?”
そんな思いがワタシの頭の中でぐるぐる巡っていた。
その答えを出す前に、シンジはワタシから離れた。
目から流れている一筋のラインを指でなぞりワタシの目を見つめながら
「今のボクの気持ちはこう気持ちだよ」
そうワタシの耳に聞こえてきた。
シンジはワタシの答えを聞かずに、
ただ呆然としているワタシの手を取って公園を後にした。
ワタシは何が起きたのか、シンジに何を求めていたのか、
その答えは自分が望んだものと同じだったのに....
と、様々な思いが未だに絡み合ったまま、答えが出せずにいた。
気がつくと、ワタシはシンジに連れてかれるがままに、
ドイツに行くことを話した公園、日本に帰ってきて最初に来た公園に来ていた。
シンジはワタシをベンチに座らせると、シンジも座り
何も言わず夕暮れまでずーっとワタシを肩にもたれさせて腕を回していた。
ワタシは
『言葉なんかなくても気持ちは伝わるものなんだ』としみじみ実感していた。
シンジは優しいヤツなんだとちょっとだけ再確認した。
“少しはシンジのことを優しくしよう。”そう思っていた。
L:なんでワタシったら素直になれないのかしらねぇ。
S:やっぱりそういうほうがいいんじゃないの?
好きな人の前になっちゃうといじめちゃうっていうのはさぁ。
L:アンタがしっかりしないからいけないんでしょう!
S:そんなところが好きだって自分で言っているじゃないか!
L:うっ、アンタねぇ...
S:こういうときって素直になった方がやっぱり勝ちだよなぁ。
LAGERですぅ。
めぞんEVA200000HIT記念で書いてやつです。これ。
『終わらない夏休み』が50000単位で書いていくつもりなので
こっちの話はジャストな数字の時に書いていこうかなという感じです。
でも続くのかなぁ、この話(^^;)
しかもこんな話題で。
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