TOP 】 / 【 めぞん 】 / [フラン研]募集コーナー:友達サークル結成、君も仲間に入らないか! カラオケ・ボーリング等皆でわいわい騒ぎましょう。普段の遊び場は池袋・渋谷等。女性歓迎。なお僕はキエフ在住のウクライナ人なので参加は一切出来ません。/ NEXT
バナー

虚空の宇宙空間を浮かぶ、一本のフルーツゴルピス(オレンジ)。
フルピスはゆったりと宙を舞い、はんなりと一回転し、めっぴょりと光を放つ。
やがて、そのフルピスの前に特殊ダンボールの壁が立ち塞がる。
めきょっ。
壁に当り、割れるフルピスの瓶。
 

窓越しにそれを見て、一斉に歓声を上げる人々。
純白の巨大なおまる型宇宙船、エバンゲリオン弐号機の就航式が今始まった。


Evan Trek Datsui mah-jong

Evan Trek Degeneration
ジェレネーションズ


零号機・初号機より遥かに広く、立派な弐号機のブリッジは、報道陣でごった返していた。
「提督! カーク提督!」

報道陣達のカメラのフラッシュに眩しそうに目を細めるヒデオ・D・カーク。隣にはミスター・スネック、ドクター・タケシ・G・マッコイもいる。
「提督、今回就航するエバンゲリオン弐号機はこの30年間で初の、カーク提督の手を離れたエバンゲリオンとなる訳ですが、何か御感想は?」
ブリッジにやって来たカークにまとわりつくように記者がインタビューをする。

「いや、気分は最高さ。それはもうメレンゲな気持ちと思ってもらって構わないよ。」

「なるほど。ところで、提督はエバンゲリオンを離れられてからこれまで何をされていたんですか?」

「知らないのかい? これでもパッチワークの道場荒らしとして、バーモント州方面を放浪していたんだけどなあ。」

「ああ、すまねえ。」
報道陣達はブリッジ中央から聞こえてきた声に振り返った。
「提督へのインタビューは、後にしてもらえないか。まずは提督に俺の船を見てもらいたい。」
コーニッシュ犬を抱いた、ドクター・マッコイ並にゴツイハゲ男が立っている。

「ああ。」
デオ(カーク)は微笑み、艦長席の人物へ手を差し出した。
「君が、エバ弐号機のハリガン艦長だね。」

男は苦笑し、頭を振る。
「いや、ハリガン艦長はこいつさ。」

「ワン。」

「…。え。」

「彼はUSSエバンゲリオン弐号機艦長のアイン・ハリガン大佐。俺はジェット。ただの通訳だ。」

「は、はあ…よろしく、大佐。…お手。」

「ワン。ウー、ワン、クワァアン、ワン。」しっぽを振っているコーニッシュ犬。

「「こちらこそよろしく。あなた達クルーは生きる伝説です。カーク提督、あなたの御活躍は子供の頃から聞いていました。」と言っている。」

「そ、そう…」


「おい、カーク。」

「何だいドクター。」
ブリッジ脇の操舵用パネルの方を向くカーク。マッコイの前には東洋人の若い女性士官が立っている。

巨人帽を直しつつ、ジャイアンは微笑んで彼女に手を向けた。
「紹介しよう。当船の操舵手、エド・カトー少尉だ。」

ヒデオは驚いて聞き返す。
「カトー? ノビタの娘さんか?」

「ああ、もち」

「ふえええ、ばしっ、きゅーっ、ずどーん。」

「「…」」
目の前でタコ踊り中の物体士官を前に固まるカークとマッコイ。

「…あ、あー、カトー少尉?」

「なあああー、しゃあーっ。じしん・かみなり・はしだすがこぉ。」

「…日本語通じるの?」

「彼女は現在、初就航を前に精神統一中のようですね。」

「そうなのかスネック?」

「あ、あんなところにごきぶりはっけーん!」
エド少尉はブリッジの向こう側へ駆けて行った。4つ足で。

「「「…」」」

「ああ見えても一応彼女は、コンピューターの扱いは天才的だそうだ。」

「…そうか。」ドクターに答える提督。

「彼女は若さに溢れているんだビッチ。僕が零号機に初めて乗った時よりも、ずっと若いんだスキー。」

「…(いたの?)」隣でしみじみ呟くチェコフにビク、となる提督。

提督は軽く息をつき、かぶりを振った。
「それにしても。ノビタの野郎、二次元と八次元にしか興味が無いと思っていたが、いつ家族なんて持ったんだ?」

「それはアレですよ提督。」スネックが言う。
「提督もよく言っていたでしょう、「スープは少なめにしておくのが、コツよん(はぁと)」、と。」


「皆、聞いてくれ。」
スネックに何かツッコミを入れようとしたカークを含めブリッジの面々は、艦長席の艦長(の通訳)の言葉に顔を向けた。
「当船はこれより初飛行を行う。今日は、これより太陽系内を航行、冥王星で折り返し当基地まで戻ってくる、簡単なテスト飛行だ。少尉。…エド少尉!」

「はにゃ。ごきごきさんでてらっしゃーい。」

「ワン。」

「あ。かんちょお、なにい。」
(ジェット通訳の腕の中の)アイン艦長に近寄り、耳を傾けるエド。
「うんうん。はーい、りょうかい。しゅっぱつじゅんびしまーす。」

「そう、それで良いんだ少尉…はあ。少尉、ダンゴムシエンジン、始動。」

ジェットの声に頷き、パネルを押すエド。
「えんじんしどー。」


艦長(の通訳)は微笑み、脇の椅子に並んで座っていた伝説のクルー達の方に目を向けた。
「提督。「発進」の言葉を、お願いするぜ。」

艦長(の通訳)の言葉に、一斉にヒデオの方にカメラを向けストロボをたく報道陣達。
「いやいや、遠慮しておくよ。」

「はは、何言ってやがる。本当は言いたくてうずうずしている癖に。お前さん、自己顕示欲を取ったら何も中身なんて残らないんだろ? それこそ恋愛ネタを取ったロンブー並に。」

「な、」

「と、艦長が言っている。」「ワン。」

今か今か、という表情でカメラを向ける報道陣。

「…」溜息をつき、カーク提督は立ち上がった。
「仕方が無いな。まあ、よく見て、よくメモっておく事だ。…はああああああああああっ、カメ、ハメ、波あああああっ!」

「「「「「…」」」」」
今か今か、という表情で
「いや、あの……えと…発進。」

パチパチパチパチ…
拍手をする、ジェット艦長(通訳)を始めとしたクルー達。何度もたかれるフラッシュ。


「私が地球人なら、今の提督の言葉に感動して思い出ぽろぽろでしょうな。」

「今の間が、放浪の成果だな。」

「お前ら後でワッコさん(Risky)が後輩に対してするかの如くシバいてやる。」
真っ赤な顔で座り直しながら、両隣のスネックとマッコイに答えるカーク。

ドックをゆっくりと抜け、ライトアップされた美しい巨大おまる、こと、セイントフォー級宇宙船、USSエバンゲリオン弐号機、NCC-1701-Bが今、未知なる宇宙へその第一歩を踏み出した。


後方のスタッフが、ヘッドホンに耳を傾けつつジェットの方を向いた。
「艦長。救難信号が入っています。…エル・サターンという、宇宙人の民間船のようです。未知のエネルギー波に襲われているそうです。ここから3光年、方位466、マーク8。」

「…」少尉の言葉に眉を寄せるジェット。
「あー、今この船には装備らしい装備は無い。他の連邦の船に頼むしかないだろう。」

「艦長?…」
思わず声を上げるヒデオ。

「今この船には、クルーもまるで乗っていないんだ。」
ジェットがヒデオに説明する。

「艦長、この付近にいる連邦の船は当船だけです。」

「…」ブリッジのクルー、報道陣達に不安気な空気が広がる。
「…そうか。それでは…カトー、ワープ2でそこへ向かってくれ。」

「え?」とっても素の声で聞き返すエド。

「…」「ワン。」

「りょーかーい。わーぷ2ぃ。はっしーん。」


ブリッジ後方、戦略パネルの前に立っている黒人系ヴァルカスカ人女性の保安士官が微笑みながら報告する。
「艦長、遭難している船とエネルギー波を映像でとらえました。」

「スクリーンへ。」

前方のスクリーンに、オレンジ色の津波のような不思議な現象と、その波にのまれつつある小さな宇宙船が映っている。
「あら、こんな感じの映像前も見たような記憶が…」

「何だ、少尉?」

「いえいえ。」艦長(通訳)の言葉に、微笑みながら頭を振るヴァルカスカ人。

「んっとねえ、える・さたーんじんのふねは2せきあるよ。せんさーのはんのうによると、りょうほうとも、もうえんじんがていししちゃってるみたい。このままだと、2せきとも、こわれるのはじかんのもんだい。」
エドの言葉にざわめく報道陣。


「カーク?」
ジャイアンは隣で落ち着き無く椅子を立ち上がりかけては座り立ち上がりかけては座りしているカークに声をかける。

「…もしかして、いつも付けているおむつを今日に限ごぶうっ」
マッコイに正拳突きの提督。


「…カトー、船をトラクター・ビームでこちらに引き寄せる事は出来るか。」

エドはジェットに首を振る。
「ううん。トラクター・ビームはこないだエドがたんけんしてるときにこわしたから、げんざいしゅーりちゅー。らいしゅうのかようびになおるよていなんだ。」

「…。じゃ、じゃあ、この船のシールドを拡大して包む事は?」

「ああ、しーるどはちょっとぶひんをつかったから、いまつかえないよ。それもらいしゅうのかようび。」

「…。」「ワン。ウー、ワン。」

「なになにかんちょお?」艦長(本物)に耳を貸す少尉。
「なるほど! なうまんびーむでへんどうはをおいかえせるかもしれないとな?」

エドの言葉を確かめるかのようにヒデオを見るジェット。首を傾げるヒデオ。
「ちょいちょい、なー。」

ひゅー、ずがああん。

エバからのビームが直撃し、エル・サターン船の内の1隻が爆発した。
「「「「「…」」」」」
「あちゃあー。えどしっぱあい。」

沈黙の流れる弐号機ブリッジ。


「艦長、もう1隻も既に半壊していますねえ。うふふ。このままでは全滅ですよ。」
保安士官が微笑む。

艦長(通訳)は顔を上げ、立ち上がった。
「…提督。指揮を、頼めないか。」「ワン。」

「艦長…」

「私は一体、この状況でどうすれば良いんだ。教えてくれ!…と艦長が言っている。」「ワン、ワン。」

「やれやれ…」


ヒデオは頭を振りながら(しかし明らかにニヤニヤ嬉しそうにしながら)立ち上がり、ブリッジ中央に歩いてきた。

「提督、いや、セムパイ。私はまず、どうしたら良い?」
犬を抱きながらジェットが聞く。

「全く、何も使える装備が無いみたいじゃないか。まあ、まず第一に、遭難船に近づいて、乗員を転送救出するしかないだろう。」

「だが、今の状態でそれは危険なんじゃないのか?」

提督は笑って、艦長(通訳)の肩を叩いた。
「危険手当の査定に有利だぞ。」

「そうか…カトー、スピード二分の一で船に接近、」

「それから第二に報道陣の彼等にこの私の雄姿をまんべんなく撮らせる! ふはははは、撮れ、撮れ、そして舞い戻ってきた私の偉大いいいいな姿を再び全宇宙の平民共に伝えるんだあああー!」

「…転送可能域に入り次第…転送開始…」
前艦長のアクションにやや圧倒されつつ現艦長(通訳)が命令を下す。

「転送は私が手伝いましょう。もう、なりふり構ってられないわね。」
スネックがトサカを振りつつパネルを操作する。


弐号機はエネルギー波に慎重に近づいていく。
「転送開始。」

保安士官が報告する。
「エネルギー波はこちらに接近してきています。エネルギー波のエル・サターン船接触まで、後30秒。」

「全ての転送機を使用して、カーゴ・ベイに直接転送するんだ! ちょっと位転送に失敗して体のこっちの部分がそっちに付いたり、そっちの人とこっちの人が混じっちゃったりしても構わん!」
声を上げるジェット。

「後10秒。9、8、7、6、5、4、3、2、1、」
ずがああああああん。
モニターのエル・サターン船は、オレンジ色の巨大な嵐にのまれて崩壊、爆発した。


「スネック!」

「47名の救出に成功しました。」駆け寄るカークにスネックが振り向いて答えた。
「全乗組員、165名の中から。」

「…」

「ウサギ。」トサカを曲げて見せるスネック。

カークが艦長(通訳)に振り向く。
「艦長、医療室の方は?」

「ああ、それが、実は、カトー少尉がドクターを…」

「分かったぞ。」ヒデオはジェットの言葉を遮った。

「来週の火曜日、だな?」

「…」

「さあ、お前ら、仕事の時間だぞ!」ドクター・マッコイが腕をまくり、ターボ・リフトに歩きながら報道陣達に呼びかける。


「艦長。エネルギー波は後3分で当船に接触しますねえ。」
保安士官の言葉に艦長(通訳)と提督は目を合わせた。

「カトー、ワープ4でここを退却だ。」「ワン。」

「だめだめちん。えねるぎーはのえいきょうで、わーぷこあがせいじょうにさどうしないみたい。」

「「「…」」」

「提督。私達も彼等同様の危機に瀕していると考えて問題無かろうと思いますが?」

「そうだなスネック。…どうすれば、このエネルギー波を回避できる?」

「犬…」
影絵を作りつつ考え込むスネック。


「提督。艦長。蟻動力ディフレクターを使い、蟻重力エネルギーを反射させれば、あるいはエネルギー波を通り抜ける道を作る事が可能になるかもしれません。」

「それだ!」
指を鳴らすカーク。

「ただし当然その為には機関室で蟻動力ディフレクターと蟻重力コイルの接続、修正が必要になりますが。」

「俺が行こう。」
ジェットがヒデオに犬を渡し、ターボリフトに乗り込もうとした。

「ワン。ワン、ワン。」

顔をペロペロなめてくる犬に口を引きつらせるカーク。
「い、いや、いや、艦長、私が行こう。艦長は、ブリッジを守るものだからな。」

「いや、艦長は俺じゃない、そいつだ。俺はただの通訳だから、」

「と、とにかく、君が艦長と一緒にいないと困るだろ? 機関室は私が行く。」
ジェットに無理矢理アイン艦長を押し付ける提督。提督はターボリフトに乗り込んだ。

「スネック、ブリッジを頼む。」

「命令なら。」
スネックの言葉に頷き、カークはブリッジを離れた。


「皆、落ち着くんだーニャ! こっちへ順序良く歩いていくんだビッチ!」
溢れかえるエル・サターン人達の人波で騒然としている弐号機の廊下で、ドラが懸命に誘導をしている。

「もう大丈夫なんだスキー! 安心してストロイカ!」
がつっ
「ああーっ」
周りを行くエル・サターン人達にぶつかり、頭のグルミを落すチェコフ。中に入っているのはカレリン似の筋肉マン(肉印)だ。

「あ゛ーっ、あーっ、あーっ、危ねー。ギリギリセイフ!」
何とか床に落ちた頭を被り直し、勝手に自己判定を下しているドラ。

ふとドラは、廊下の脇で脅えているエル・サターン人に気付いた。メガネをかけた、黒髪のおかっぱ頭の女性だ。
「あ、大丈夫なんだスキー。もう転送されて助かったんだビッチ。」

「…」

「さあ、向こうへ行くんだーニャ。」
女性はドラに何か言いたげな様子で口を開きかけたが、口を閉じ無言で頷いた。


「ちょおっとぉ! あたしは戻りたいのよお! 放してっ!」
向こう側では、一人の、ショートカットでナイスバデエのエル・サターン人が錯乱したように暴れている。

「落ち着くんだーニャ! もう助かったんだフスキー!」
慌てて彼女のもとに駆け寄るドラ。

「違うの! あたしはあっちの船に戻りたいの! 大事な用事があるのよ! 放してよっ!」
士官達が集まり、何とか彼女を抑えようとするが彼女は暴れるのをやめない。

「あたしは用事があるの! 早く戻して! 今行かないとダメなの! 早く戻…して…」
ドラが何とか彼女に鎮静剤(を彼は常にグルミの中に隠し持っているのだが)を打ち、彼女は意識を失った。

「医療室へ連れて、少し落ち着かせるんだフスク。」

「了解。」
チェコフの言葉に頷き、彼女を引きずって連れて行く士官達。

「…戻りたいなんて、一体何を考えてるんだビッチ?」
右往左往するエル・サターン人達の中、ドラは頭を振った(落ちない程度に)。


既に震動が激しく、ぴしゅんぴしゅんバッタの漏れ出している機関室をカークは走っていた。


「艦長、後1分でこの船にもエネルギー波が接触しますねえ。」
ブリッジでは保安士官が微笑んでいる。

「カトー、蟻動力は?」

「ううん、まだだめ。」


煙りや湯煙りや美人OLが立ち込める中、はしごを下りるカーク。煙を手で払いつつディフレクターのパネルを開ける。
パネルの中には、ピンで刺さった虫の標本がいくつか並んでいる。システムの基本設定操作板だ。カークは標本を手でつまみ、次々に順番を入れ替えはじめた。


「後30秒でエネルギー波が接触しますよ。」

「非常警報! 全員衝撃に備えろ!」
犬(艦長(本物))を抱いたまま艦長席に座り直すジェット。


びしゅうううう
「うっ」
後ろで飛び立つイナゴの大群に背をまるめつつ、汗をぬぐうヒデオ。ディフレクターの接続はまだ出来ない。


「後10秒。」
衝撃の激しくなる船内。唾を飲むクルー達。

ヴァルカスカ人女性士官が微笑みながらカウントダウンをする。
「9、8、7、6、5、」


「やった!」


「かんちょお、つながったよ。」

「発射!」「ワン!」

エバンゲリオンからオレンジ色のエネルギー波に向けてビームが発射される。それとほぼ同時にエネルギー波に接触するエバンゲリオン。

「うわあああっ」「にゃあああ」「うふふふ」「ワン。」
大きく揺れる船内。投げ飛ばされるクルー達。


何とかパネルの前に戻ったエドが、声を上げる。
「ふおおおお。かんちょお、とおりみちできたよ。」

「ありがとよ、提督! カトー、通常出力で発進だ!」

「りょうかい、はっしいん。」
エネルギー波の中に穴を作ったエバンゲリオンは何とかその中を通りぬけ、間一髪、通常の宇宙空間に抜け出す事に成功した。


「被害報告。」

ようやく震動の収まったブリッジで、保安士官はメガネを上げた。
「確認中…右舷外壁に大幅な損傷。機関室の一部も被害を受け、緊急用フォースフィールドが作動中ですねえ。」

「場所は?」

「セクション松の間から鶴の間。デッキ13、14、15。」

「「「「…」」」」
保安士官の言葉に凍り付くクルー達。

「あらあら、提督のいた所のようですねえ。」

ぴろりろりん。
「スネックよりカーク。」
沈黙がブリッジを覆う。

「…提督、黙ってないで何とか言いなさいよっ!」
トサカをいからせるスネック。

ぴろりろりん。
「ジェットよりカーク。」
静寂。

スネックは歩き出した。
「機関室へ行きます。スネックよりドクター、チェコフ。至急機関室に来るように!」


「これは…」
スネックが機関室にやってくると、その大半は既に消え去り、ただ宇宙の暗闇が目の前に広がっていた。壁も含め、機関室の殆どが既に先程の衝撃で吹き飛んでいたのだ。自分と宇宙空間を遮るのは、目に見えない緊急用フォースフィールドだけである。

立ち尽くすスネックの後ろから、チェコフとマッコイが駆け寄ってきた。
「これは酷いんだーニャ…」

「…誰か、このセクションにいたのか?」

スネックは片眉を上げ、タケシの言葉にゆっくりと頷いた。
「お母さん、って感じがした…」

「「(又言ってる事訳分からない…)」」


エバンゲリオン弐号機はその下部をさらけだした、痛々しい姿で初飛行の帰路についたのだった。


−それから76年後−

プラグスーツに身を固めた面々が、ここ第3新東京市、ジオフロントの基地に集合していた。
彼等の目の前には、人造人間エヴァンゲリオンの零号機、初号機、弐号機が並んで座っている。

お立ち台に立った、黄土色のプラグスーツに身を包んだスキンヘッドが、メガホンを持って口を開いた。
「整列!」
びし、と並ぶチルドレン達。もちろん3人ではない。

フユツキ・コウゾウ・ピカードの後ろでバニー衣装のダンサー達が、華麗なサンバステップを踏みはじめた。
ちゃちゃちゃっ、ちゃっちゃ、ちゃちゃちゃっ、ちゃっちゃ、ちゃちゃちゃっ、ちゃっちゃ、ちゃ。

ダンサーのステップが終わる。厳粛かつバカ和尚な空気に包まれる一同。

「拘禁室から、罪人を連れてこい!」
ライカーの声に合わせ、マギの中部屋(=拘禁室)から、手錠をかけられたゼレンゴン人がトロイとラ・フォージに連れられて出てきた。当然彼等も全員、ピチピチのプラグスーツである。

ぴっ、ぴっ、ぴっ。
「今から、この罪人の罪状を呼び渡す!」フユツキの隣に立つリョウジが、パッドの文を読み上げる。
「この罪人、ゲォーフ大尉は、常日頃からその義務以上の仕事とボケを果たし、更に、最も許し難い事に、全クルーの中でも最も小心者かつ善人としてその名を知られている物である!」

ピカードはライカーの言葉に微笑みながら頷いた。
「よって、その罰として、ここに犯罪人、ゲォーフ大尉を少佐へと昇進させる物である。」

歓声に沸くジオフロント本部。ミサトがゲォーフの手錠を外す。

「おめでとう、少佐。」

「…ふん、下らん。」
フユツキの言葉に目をそらすも、頬の紅潮は隠せないゲォーフ。


「度胸試しタアアアアアーーイムッ!」
メガホンをとり絶叫する副長(カラス色のプラグスーツ)。再び沸くジオフロント本部。

「コンピューター、度胸試しシークエンススタート。」
ぴぴ。

ライカーの声と共に電子音が鳴り、エヴァンゲリオン初号機の巨大な手がゲォーフの元に下りてきた。
「お、おい、何だこれは?」

「知らないのかいゲォーフ? 少佐になる者は皆経験する度胸試しだよ。1分間、泣いたり漏らしたりしなければ良いんだ。簡単だろう?」
マコトの説明にゲォーフが何か言おうとする前に、ゲォーフは初号機に握られ上空ウン十メートルに連れ去られた。
トライアングルをトレモロで打ち鳴らすクルー改めチルドレン達。応援の意味である。

「いくらゼレンゴン人でも無理ですよ。今まで泣き叫ばなかった奴はいません。」
ピカードに耳打ちするライカー。

「お、おおおおいいい放してくでええふうっ。」
4.35秒程でゲォーフは気を失った。どうやら比較的高所恐怖症らしい。

「「「「「…」」」」」
上空を好奇の目で見守るチルドレン達。しかし鳴き声も、漏れサウンドも聞こえてこない。

「一分経ったわよ!」

「「「「「おおおおお!!」」」」」
ミサトの声に、再び歓声を上げ、トライアングルを打ち鳴らすチルドレン達。


「副長、一つ私が知っている事は、ゼレンゴンの我慢強さは往年の稲川淳二にも優るという事だよ。」
黄土プラグスーツはカラスプラグスーツに微笑んだ。肩を上げる副長。

副長が叫ぶ。
「コンピューター、ゲォーフを食べろ!」
ぴぴ。

エヴァ初号機はあんぐりと口を開け、握っていたゲォーフを口に放り投げた。
ぽいっ。ぱりぽり、めきょっ、めきょっ。
「「「「「おおおおお!!」」」」」

「…副長、食べろではなく、下げろとか、せめて投げろとか、言うべきだったな。」

「…ええ、うっかり間違えましたね。ゲォーフ、済まない!」
上空に大声をあげるリョウジ。

ぱりぽり、ぱり、ぽり。げぷ。

チルドレン達は楽しそうに笑いあっている。


「聞いても良いかしら。」

「ん、何だい、レイタ。」

大騒ぎする人々の一角で、レイタは無表情に小首を傾げた。
「ゲォーフ少佐に危害が加えられているのに、誰も悲しんでいるようには見えないどころか、私の観察では皆喜んでいるように思われるわ。何かの異常ではないかしら。」

にっこりと首を振るラ=フォージ。
「違うんだよレイタ。これはちょっと、「悪ふざけ」をしているだけなんだ。」

「悪ふざけ?」

「そう。面白いだろ? ゲォーフの予測のつかない事をして、楽しんでいるんだよ。」

「そう…人間は、予測のつかない事を「楽しい」と感じるのね。」
素直に納得しているらしいレイタ。

「そう言う事。」
頷くマコト。

「分かったわ。」
ふんぬっ

ぴゅうううううううううう
「おうわあああああああああああああああっ」
すぽっ、もぐ、ぽり、ぱりぽり、うーげっぷ。

マコトはレイタにラグビーボールよろしく上空に放り投げられ、エヴァ初号機のお口にジャストミートして消えて行った。
「レイタ。」

声をかけてきたリツコににっこり笑って見せるレイタ。
「今のは」

「面白く、ないわ。…直すの大変なのよ。」
不機嫌そうに息をつくドクター。

「…」レイタは笑顔を止め、やや申し訳なさそうに上空を見上げた。


ピカードは頭を振り、マギデッキ内に再現された地下都市を見回した。
「副長。このジオフロントを、エヴァンゲリオン達を見給え。この時代の装置の、何と原始的で、何と危険な事。…しかしここには、真の戦いがあり、真のヒーローがいた。…時にはラブラブストーリーもな。…うむ。一度この「新世紀エヴァンゲリオン」の世界の住人に、なってみたいものだな。渋知で、副司令辺り等どうだろう?」

「俺は遠慮しますね。確かこの世界じゃ、麻薬は違法だったんでしょう?」

「さあ…どうだったかな? 確か大麻なら、」
ぴろりろりん。

「ブリッジより艦長。」

「ああ何だ。」

通信の声が響く。
「地球から艦長当てにメッセージが入っています。緊急です。」

「分かった。第3マギデッキに送ってくれ給え。」


フユツキはジオフロント本部の一角に歩いていく。
「アーチ。」
フユツキの周りに船本来の壁と、ついでにトーテムポールが現れる。壁面のモニタを操作し、通信内容を見るフユツキ。

「…」
ピカードはピクリとも動かなくなった。

「…艦長?」

ピカードはカウンセラーの声に振り返り、彼女のプラグスーツ(透明)を間近で見てギョ、となった。
「大丈夫っすか?」

「…ああ、私は大丈夫だ。…失礼するよ。」
ずううううん。
ピカードはアーチの下に出来ているドアを通り、マギデッキを退室していった。


「この変な格好、どうにも好きになれないわ。」

「充分魅力的じゃないか?」
溜息をつくリツコに、リョウジが微笑みかける。

「…体の線が出過ぎるのよ。特に男の…体の線、はあまり見たい物ではないし。」

「そりゃま、ノンケの婦女子はそうは思わないかもしれないぞ?」

「…大体、この服に科学的根拠があるとは到底思えないわ。服に意思伝達や防護的役割を持たせるなら、まずは頭部に重点的にヘルメットでもつけさせるべきね。こんな妙なヘアバンドなんかじゃなく。」

「ん、でも、結構猫耳風でドクターにも似合ってアイダダダ」
ドクターに(スパイクで)足を踏まれる副長。

ぴろりろりん。
「ブリッジより全艦。近くの宇宙基地からの救難信号を受信しました。上級士官はブリッジへ集合を願います。繰り返します。近くの宇宙基地より…」

ライカーはクルー達を見回し頷いた。
「行くぞ。レイタ、(胃の中の)ラ=フォージ、(ほぼ完全に消化されかかっている)ゲォーフ!」


「状況報告してくれ給え。」
艦長室からブリッジに歩いてきたフユツキにレイタが答える。

「ナマダラ宇宙基地の機能は、生命維持装置以外は完全に停止。周囲に船の反応は見られないわ。」

「遅かったか…」
ライカーが自分の髭をムシャムシャ食べながら呟く。

メインモニタには、機能を停止した小さな科学研究用基地が映っている。
「生命反応は?」

フユツキの言葉にパネルを操作するレイタ。
「6名と3ジュゴンの生命反応を確認。」

「あそこには25名、5ジュゴン、3夏木ゆたかの研究員達がいたのだ…」
呟くピカード。
「副長、捜索班を結成、直ちに調査を始めてくれ給え。」

ライカーは頷きつつ、何やら焦った様子で自分の顎を押さえている。
「ちょ、ちょっと待って下さい。むしってたら血が」

ごすっ
「一人カイジごっこ等に興味は無い。とっとと行けぇ!」

「れ、レイタ、ゲォーフ…」
艦長にけとばされ、必死にほふく前進しながらブリッジを出て行く副長。

「…」
ミサトはマイバスの中から顔を出し、艦長の様子を不思議そうに眺めた。


ぴぎゅいいいいいいん。

ライカー、レイタ、ゲォーフ、その他クルー達は頷き合い、それぞれ分かれ基地の中の捜索を開始した。


びく。
「うわ、うあああああ」

「お、落ち着けゲォーフ!」

ぴろりろりん。
「どうしたの。」

「ああ、大丈夫だレイタ。今、研究員を見付けたのさ。ディスラプターでやられている。」

「そう。」基地のやや離れた場所から通信で答えるレイタ。

まだ震えの止まらないゲォーフが、トリコーダーの表示を見て背後の副長に報告する。
「ふ、副長。でぃ、ディスラプターのあとから、ケムクジャラリン反応が見られる。」

「ケムクジャラリン反応のある武器を使う種族はかなり限定されるわ。」

「ああそうだ、ゼレンゴン、ネルガリーン、ロミュラスカ位だな。」
レイタに同意する副長。


ぐちゃっ。
「…あ。」

ぴろりろりん。
「レイタより副長。」

「どうしたレイタ。」

「こっちに来て。」

ライカーとゲォーフは、レイタの立ち止まっている場所までやってきて顔をしかめた。
「ロミュラスカか。」
彼等の前には、既に息を引き取った(そのうえレイタが気づかずに歩いてぐっちゃりと踏み潰した)ロミュラスカ兵士が緑色の血を流し横たわっていた。


「ねえ、ちょっと、誰かあ。」
向こうの方から聞こえてきた微かな声に、リョウジ達は目を合わせる。声のする方に駆け寄るレイタとゲォーフ。その一角は天井が崩れ、がれきの山となっている。

「ふんっ、ううう…くっ。」
汗を流しながらがれきをかき分けるゲォーフ。

「そっちよ。」
面倒なのか、方向のみ指示するレイタ。

がしゃん、どしゃん、ずさっ。
「くううっ、ふんっ、うううっ…ふう。」

ゲォーフが何とかがれきをどかすと、隙間から20代の地球人とおぼしき女性の顔が現れた。
「安心して下さい。俺達は連邦艦隊のものです。俺は、USSエバンゲリオンのリョウジ・ライカー副長です。」
ダラダラ顎から流血しつつ、クリス・ペプラーのような声を作る副長。

苦しそうな様子の女性は頷いた。
「…あたしは、ソランよ。ドクター・フェイ・ソラン…」

「博士、もう大丈夫ですよ、安心して下さい。」

「…あ、そうよ! 実験は?…じ…」フェイは興奮したのか、気を失った。

ぴろりろりん。
「副長より転送室、今から俺のバッジに合わせて医療室へ直接転送だ!」


自室に戻ったレイタは、鏡に向かって何やらやっていた。
「うふ。」
(自分に向かって)微笑んでみせるレイタ。15秒程そのままの状態で固まっていた彼女は、ふいにいつもの無表情に戻り首を振った。

「(…やはり駄目なのね。私が全く隙の無い美少女であるという明確な事実の確認以外、私には、何も得られる認識が存在しないわ…)」

ぽろろん。
「どうぞ。」

ドアが開くと、やや緊張した様子のマコト・ラ=フォージが立っていた。
「レイタ、呼んだかい?」

「ええ。」

「そ、それじゃやっぱり、ミサトさん用のビール醸造プログラムの設定を手伝ってくれるんだね!」
嬉しそうに歩み寄るマコト。

「構わないわ。」

「やった! ミサトさん例によってムチャな事ばっかり言って来るし、ちょっとでも難しいって言うと「まず親戚縁者から出家して貰うわよ」位の事を言われるし…本当に助かるよ。やっぱり、持つべき物は潰しの効く友人だな。」

「その代りに、私からもして欲しい事があるのだけど、良いかしら。」

「うん、何だい? 肝臓の一つや二つなら、いつでも」

「そう困難な事ではないわ。これよ。」


マコトはレイタが右手に持っている物に気付き、目を開いた。
「それは…リナーの残した感情チップじゃないか!」

「ええ。」

「ま、まさかそれをレイタに付けろって事じゃ…」

「その通りよ。」

「…でも、それはリナー用にセッティングされているチップだから、そのチップが君のポジトロニック・ミソに対応できるとは、限らないんだろう?」

こくり。
「そうよ。でも、私にはやはり感情が必要よ。」

「どうして! そりゃ、今までだってレイタがずっと感情を求めていたのは知ってるけど…」

「今日の事よ。」レイタは無表情に口を開いた。
「今日も私はマギデッキで、感情を持つ人間達の反応が理解出来ず、人間の感覚で言う突飛な行動を起こしてしまったわ。いつまでもこのようでは、知的生命体として他者とのコミュニケーションに大きな障害となる事が容易に推測されうるわ。」

「れ、レイタ…」

「それに何より、今のままでは他のクルー達の更に突飛な数々の行動を見ていても、心の底から嘲笑する事が不可能だわ。」
アンニュイに視線を落としているアンドロイド。

「…」

「少佐、やって貰えるかしら。」

「あ、うん…分かったよ。僕の親類縁者の事もあるし…でも、ミソの働きに支障が出るようなら、いつでもチップの機能は止めるよ。良いかい?」

「構わないわ。」
チップをマコトに渡し、椅子に座るレイタ。


マコトは軽く溜息を付くと、レイタの頭皮を軽く左右にひねる。頭皮がぱかっと取れ、強化麺と半導体で覆われたポジトロニック・ミソが現れた。


ぽろろん。
「入れ。」

艦長室にやってきたリョウジはフユツキにパッドを手渡した。
「現場の検証報告です。」

「読んでおこう。」
と言いながらパッドを置くピカード。

「ああそれから、ソラン博士が至急艦長に会いたいと言っていました。もちろん忙しいとは伝えましたが、どうしても緊急の用事があるんだそうです。」

「分かった。行って良いぞ。」

「はい。」
すたすたすた。

「って少しは何かあったのか聞けようううう!」
絶叫する艦長。


ぴこぴこぴこ…
グルグルヘッドはあくびをしながら振り返った。
「は、はあ…じゃあ、艦長、どうされたんですか? いつになく深刻な顔ですけど。」

「き、聞いたな! 艦長のプルァイベイトに立ち入ったなああっ!」
カチッ。

「うああああああああああ」
副長の立っていた床がすっと開き、副長は消える魔球よろしく下の階へ落ちて行った。

「フッ。聞かなければ良かったものを…」
頭を振るフユツキ。


テンフォワードでは、大災害が発生していた。
「あなた…この前ドリームズカムトゥルーを歌っていたわね。そのツラで。」
ごすっ。

「あなたの耳毛は毎日0.4ミリづつ伸びているわ。目障りよ。」
がすっ。

「あなたの声優トークにはうんざりしていたわ。誰が何といおうと、日本のベスト声優は広川太一郎よ。」
ばきごすっ。

「れ、れれれれレイタさああん」

向きっ
「何!」


「の、飲んで取りあえず落ち着こうよ。まだ、感情がうまく制御出来ていないんじゃないか?」

「大丈夫よ。感情がこれほど面白い物とは知らなかったわ。」
血まみれのレイタは隣のマコトに微笑んだ。

「…そ、そう? でもとにかくさ、」

「アカサビミュールうっ!」

ごんっ。
「アカサビ一丁。」
レイタの声に応じ、マユミ・ガイナンがフケの大量に浮かぶ液体を持ってきた。

「それは、初めてで気分が高揚しているのは分かるけどさ、」

「気分?」
マユミがマコトに聞き返す。

「あ…後で説明するよ。」

ごく、ごく、ごく。
「…」
がしゅうっ。

「もうイヤ…(バタッ)」

飲んだグラスを持ったまま、取りあえずマコトを殴打するレイタ。
「…これは、何?…この気持ちは…」

「気に入りませんでしたか。」

「そう、気に入らなかったのね、私。このキーンとくる酸っぱさ。舌にねっとりと絡みつく粘液とザラザラのフケ。これはレジで並んでいる時にスポーツ新聞を買うお客だけ勝手に先に行ってしまう不快感、の発展形ね。」
レイタは興奮した表情で一人頷いている。

「もう一杯いきますか。」

「お願いするわ。」マユミに嬉しそうに頷くレイタ。

ごく、ごく、ごく。
「…気に入らないわ。私はこれを気に入らないわ!」
がすどすびしゃっ。マコト絶命。


その頃テン・フォワードに新しい客が歩いてきた。艦長だ。
艦長は人を探しているらしくきょろきょろしていたが、やがて奥にいる人影に気が付き、近づいた。
「ああ、あなたがドクター・ソランですな。」

「あ、ああ、ピカード艦長。会えて嬉しいわ。忙しかったんでしょ?」

「いや、んん、まあ、それ程でもないですが。」
博士のパイケツラインに視線がいくピカード。

注:ぱい−けつ−らいん【パイケツライン】女性の胸部の盛り上がりから生まれる谷間の形、及び線を臀部のそれに比喩した表現。パイじりラインとも。大鏡道長「−などにかほをうづめさせ給ひしか」(広辞苑・第五版より)

「…ねえ艦長、ちょぉっと、お願いがあるんだけど、構わないかしら?」

「ああもちろん言ってみて下さい?」

フェイはフユツキに妖艶な笑みを浮かべて見せた。
「艦長さぁん、一刻も早く、あたしの基地に帰してくれないかしら? とっても大事な仕事が残ってるのよ、だ・か・ら」

「ああ、そうですか。それでは事件の調査が終了し、安全が確認され次第そうする事にしましょう。それでは私は忙しいので」

艦長の意外に冷たい反応に博士は声を上ずらせる。
「そんな…お願いなの! 何としてでも、あの基地に帰らないといけないのよ! 80年の研究がかかってて、今、あそこの基地にいないと、その研究の成果が全部水の泡なのよ! 昔「VISUAL SHOCK」とか何とか言ってバケモノアゴ男に群がっていたファン達の如く、全部跡形も無く消え去っちゃうのよ! 80年かけて、ようやく成果が目の前に来た所で、艦長だったらみすみすそれを逃す?」

「しかし博士の危険を思えばこそ、今あそこに博士をお戻しするわけには」

「危険は全部、承知ずみよ! でも今このチャンスを逃したら、もう、この実験は失敗なのよ。」

溜息をつくフユツキ。
「…しかしですね、博士、私達にこれ以上の事は出来ません。」

「か・ん・ちょ・う・さぁん。」
フユツキの腰を引き寄せるフェイ。
「そうつれない事言わないで。何なら、これからゆっくりその事について話し合っても良いのよぉん。」

「悪いのですが今そういう話し合いをする気分ではないので。…失礼。」
艦長はすっと腰を引き、ぽかんとした様子の博士を置いてさっさと歩いて行った。


「…失敗したわ…艦長の趣味は女じゃなかったのね…いや、あるいは…サクレロリス?」
唇を軽くかみ、頭を振るソラン。

注:サクレロリス【sacrerolice】1・おさない子供を、性別に関わりなく偏愛する傾向。一般に、異常性欲の一形態という意味で使われる。2・年齢、性別に関わりなく性欲を持つこと。また、持つ人。人類愛。3・三十路。(広辞苑・第五版より)

「あ…」
ソランがふとカウンターに目をやると、何やら暴れている女性士官と死体の山、の向こうで、不思議なヘルメットヘアーの女性が黙々と同人誌を書いている。

「あれは…!」
フェイは一瞬目を細め、やがて早足でバーを出て行った。


「…」
ピーポ君の絡みのシーン線入れの途中だったマユミはふと顔を上げる。ショートカットで、ビーチパラソルか何かの素材で出来てそうな派手な服を着ている民間人がバーを出て行った所だ。マユミはやや眉を寄せ考え込むような表情を見せたが、すぐに視線をピーポ君に戻した。


「ひゃっはっはっはっは。あは、あはは、あはっ、うふっふっふっふっふっくっくっくっく、あは、うふ、はっはっはっは。」

レイタとマコトは非常用照明のみのともるナマダラ宇宙基地に戻り、再び事件の調査を行っていた。と言うかレイタは、調査そっちのけで涙を流しながらお腹を抱えている。
「あは、あははは、あはっ、うふっふっふっふっふ…」

「レイタ。…レイタさん?」

笑い過ぎて息も絶えだえになっているレイタが、頭を振りながらマコトに答える。
「ねえ、あれ、あの話最高よ! ラ=フォージ少佐のあだ名。「メガネ君」だなんて…ひゃっはっはっは。」

「レイタ?」

「あれのおかしさが今ようやく分かったわ! 少佐のかけている物はバイザーであってメガネではないのに、そんな基本的な事すらどうでも良い位の端役であるという意味の揶揄だったのねえ。最高! …あは、あはは、うっくっくっくっく、ふ、ふはははは。」

眉を上げるマコト。
「そのあだ名は…ファーポイント宇宙基地に行った頃の話じゃないか?」

「ええ、そうよ。今から約7年3ヶ月14日5時間56分17秒前の頃の話ね。…ふはははは。」

「はあ…」
かざしているトリコーダーの表示を見るラ=フォージ。
「この周囲に特に変わった物は見られないな…」

「ええ。検出されている成分は全て安全な物で、事件と関連付けられて考えうる成分は見られないわ。ぐふ、ふふ、くくくく。」

今まで見た事も無いレイタの様子に冷や汗をかきつつ、マコトは壁を眺めた。
「いや…ちょっと待った。」

「何、篠原ともえに好かれそうな「トランプマン風仮面」君。くっくっくっくっ…」

「…ここに隠された扉があるな。バイザーに反応している。」

マコトの言葉にレイタが頷き、トリコーダーをかざす。
「確かにこの周囲は材質が異なるようね。壁を通してスキャンする事は不能。壁の材質に妨害されているものと推測されるわ。」

「開けられるかな?」

「恐らく私のアブラゲビームを調整する事で扉を開ける事が可能よ。」
レイタは自分の右腕のすそをまくり上げ、ふたを開き中にあるつまみを調整する。

ぴきゅーんぴきゅーんぴきゅーん…

ふたを開いた腕を壁の前にかざし、腕からビームを発射するレイタ。
「これで良いはずよ。…腕からビームが出る美少女なんてちょおヤバイって感じぃいいいい! ふははは、ふはははははは。」

ずずーん。
二人の目の前の壁が音を上げ、埃を巻き上げつつ上昇した。
「マジでコゲちゃう5秒前、ってか? きゃは、きゃはははははは。」

「…」
見てはいけないものを見るような表情のラ=フォージ。


扉の向こうにはやはり研究室と思われる部屋があり、虫やらウサギやらの実験機材が並んでいる。トリコーダーで周囲を調べる2人。
「…ん、ちょっと待てよレイタ、この台が怪しいぞ。微量だが、強化ワラの反応がある!」

「そうね。インターフェイスは…ここね。」
素早くパネルを操作しだすレイタ。

ぴぴ。
彼等の前の台のふたが開いた。

マコトは頭を振る。
「これは凄い。こんなに高純度の強化ワラは…レイタ。レイタ?」

「ふは、ふはははは、ふはっはっはっは、ふはははは、はっはっは、は、ははははは」

「レイタ、いい加減にしてくれよ! 今はギャグの反芻をしている暇はないんだ!」

「はははは、ごめんなさい、どうやら笑いの感情のコントロールが不能になっているものと推測されるわ、ふは、ふははは、あっはっはっは、ははははは、だって、あの、艦長とカウンセラーの心と体が入れ替わったのに誰も信じなかった時なんて、うっくっくっくっく」

「(そんな話は初耳なんですけど…)」

「あはははははは、それにあの、少佐が実は失敗したホムンクルスの泡からドクターがあははははは」

「え、え、え、え?」

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは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ばたっ。
「レイタ、レイタあああっ」

倒れこんて数秒動きの止まったレイタは、ふと無表情に上半身を起こし、機能の自己点検を始めた。
「…感情制御チップが暴走して不正な処理を行ったため、制御アプリケーションの一部が強制終了された物と推測されるわ。」

「そ、そう。…それじゃとりあえず、ラボでポジトロニック・ミソの調整をしないと、」


「あら、何か怪我でもしたの?」

マコトは背後から聞こえてきた声に顔を向け、ほっと微笑んだ。
「え? ああ、博士。実は」
ばきぐじゅっ。

「きゃあああっ」


「かーんーちょっ。」

「何だねカウンセラー。今はストレスを増加させたい気分でも、プロポリスを消化させたい気分でも、メトロポリスの片隅で…気分でも、ないのだがね。」

「そんなつれないあるいは訳分からない事言わないで下さいよお。」
艦長室にやってきたトロイはまだ開いたままの落とし穴を回り道しながら、レイちゃん型のねるねるねるねを一生懸命練り中の艦長に歩み寄った。

「艦長。何か話す事があるんじゃ、ないっすか?」

「…何だね。一体何を話すというのだ?」

「普段はブリッジ内でカヌーを漕ぎ回し、パンチラの為にロケットパンチを発射する艦長が、今日に限ってそんな、まるで宇宙船の艦長みたく部屋にこもってねるねるねるねなのに、話す事は何もない、ですか?」

「カウンセラー、…」
どこかから引かれているゴムホースから出てくるビールを一しきり飲んだミサトの目に、フユツキは降参したように息をついた。
「…分かった。…カウンセラー、君は私の家族を知っているかね。」


レイちゃんが表紙のシステム手帳(風)を開き、プリクラを見せる艦長。
「え? えーっと、確か、フランスの新潟県でしたっけ?」

「ああそうだ。」

手帳には、目のくりっとした少年とフユツキ以上に頑固そうな老人、それに30代程度の美しい淑やかな女性のプリクラが沢山貼られている。
「ええと…この子が甥っこさんですよね?」

「モチツキ・シンイチだ。この子は空想家で…艦隊に入るのが夢だった。」
頭を振るフユツキ。
「それからこれが、私の兄のキツツキ・ガダルカナル。まあ、頑固者で、「仕事中にロケットパンチはするな」だの「ブルマ姿で街中を出歩くのはやめろ」だの、まあ、口うるさい男だった。何よりムカつくのはこんな奴が、こんなに若いウソツキ・マリーと出来ていやがって、全くこれだから世の中という奴は」

「にしても、」感心した声で遮るミサト。
「全員見事にツルツルですねえ。」

「ん? ああ。それはこの地方の特色なのだよ。」

トロイは頷いた。
「で…彼等に、何か?」

「…おととい、ポマト園で…バスガス爆発が、起こった。この時期はガスの充満する時期だ。そこへたまたま通りかかった暴走バスが…3人は家もろとも爆死&焼死したそうだ。」

「…略すと爆焼ですか…」

「正直こたえたよ。ギャグが出来る気分には、到底なれなくてな。」

「艦長…それは、なれなくて当然です。家族がバスガス爆発(ぷっ)で亡くなったら…」

「今何か括弧で言ったか?」

「いえいえ。」

「…モチツキはまだ子供だった。これから、人生の色んな事を…女装とか、放置プレイとか、椅子プレイとか、おあずけとか、ふせとか、おてとか、色々な事を経験していくはずだったのだよ。それが…」
うっ、うっうっ。
「こ、こんな事で…バスガス爆発(ぷぷっ)で、その未来をなくしてしまうだなんて…大体まだ私も彼のつぼみを食っていなかったのに…」
うっ、うっうっうっ…
黒い涙を流すピカード。

フユツキの様子に言葉を失うミサト。
「艦長…ねるねるねるね、もう固まりましたよ。」

「そうか。…」
ピカードは立ち上がった。
「私は…どこか、シンイチに自分の希望を押し付けていたのかもしれないな。…私はこの通り、宇宙艦隊に入ったから、誰か代りにバルベールのポマト園を守ってくれる者を求めていたのだよ。ポマト園と、ピカード家の伝統を、引き継いでくれる者をな。…しかし、もう、誰もいなくなってしまった。もうピカードは私一人だけだ。しかもこの私はパイプカットをしているから絶対に子孫は残らないし、」


カウンセラーが申し訳無さそうに唇をかんだ。
「あ、そうそう。あのー。悪いんっすけどお、別に私、そういう話をするつもりでここ来た訳じゃないんっすよねえ。ほら私、カウンセリング出来ないし。」

「……え?」

頭をかくミサト。
「いやあ、もしかしたら今月分の上納金が集められなかったのかなあと思って、単にそれを聞きに」

ずががががーん。
「「…」」
窓の向こうで、ナマダラ基地方面からまばゆい光ととどろく爆音が伝わってきた。

ぴろりろん。
「ライカーより艦長、緊急事態です。ナマダラの恒星が爆発しました!」


艦長が首のネジをまき直しつつブリッジに歩いてきた。
「副長、爆発の衝撃波が本艦に到達するまでの時間は。」

「後5分です。」

フッ
「艦長、レイタ少佐とラ=フォージ少佐はまだ基地にいるようだ。」

ぴろりろりん。
「ピカードよりレイタ。ピカードよりラ=フォージ。」

通信の答えは帰ってこない。
「副長、捜索班を結成、基地を見てくれ。」

「でも今行ったら危険じゃ」

さっ
「日記読むよ。」

艦長に敬礼するライカー。
「イエッサ! ゲォーフ、一緒に来てくれ。」


ぴぎゅいいいいいん。
基地に転送されたゲォーフは、周囲を見回してソランの姿に気付き、眉を上げた。

「ソラン博士! こんな所で何をしている? 良いか博士、今、大変危険な」
ぴしゅん

「うぎゃああっ」「きゃあああっ」

フェイの撃ったフェイザーに倒れるゲォーフ。悲鳴に気付いた副長は(ひとまずゲォーフはほっぽって)コンテナの陰、声の聞こえて来た方に走りよった。
「…レイタ!」

「あ、ふ、ふくちょおー。こ、こ、こここ怖いのですううー。クルクルー。」

がーん。
「「(ち、知的所有権チャレンジモード!!)」」

レイタの様子に(色んな意味で)かなり引くライカーとゲォーフ。

がたがた震えているレイタにライカーが聞く。
「レイタ、一体どうしたんだ。ラ=フォージは?」

「しょ、しょしょしょ少佐どのはああー、あう、は、博士さんがふぇいざーでぴきゅうんとうってあややや」
がたがたがた。

ぴしゅん、ぴしゅん、ぴしゅん。
「きゃああああっ!」
頭を抱えこむレイタ。


「あの博士、何をするつもりだ!」
ぴしゅ、ぴしゅん。
物陰から飛び出しフェイザーを撃ちかえすリョウジ。しかしフェイには当たらない。

「副長、ラ=フォージ少佐が!」

「何!?」
ぴしゅん。ぴしゅん。

「「うっ」」
フェイからのフェイザー攻撃に身動きのとれない3人。

ぴぎゅいいいいいいいん。
副長とゲォーフが反撃をしようと再び陰から出ると、フェイは気を失っているらしいマコトと一緒に転送ビームで姿を消していった。

「「…」」「あう、あうあうあう…」

ぴろりろりん。
「ピカードよりライカー。もう時間がないぞ。」

「…りょ、了解! エバンゲリオン、3人を収容!」
ぴぎゅいいいいいん。


ずがががががががーん。
彼等が基地から転送されるのとほぼ同時に、爆発した恒星からの衝撃波が基地を襲い、基地は消滅した。ワープスピードで衝撃波から脱出するエバンゲリオン。


フェイは大きく溜息をつき、頭を振りながら歩いてきた。
「ったく、いい加減にしろっていうのよ!」
ばしっ、がしっ、ずかっ、ごーん。

「「「「「殺す気かあああっ!」」」」」
フェイの周囲に押しかけ、彼女を椅子に座らせるゼレンゴン人兵士達。

「お静かにっ! 私が合図をするまでは、手出しは許しませんよ。…お客様にはね。」

「ノリーサ。このヒゲオ達、汗臭くて嫌なのよね。もう少し離してくれない。」

「マン・ガラ・リン!」フェイの言葉に頷いたノリーサが、兵士達に何やら命令を下す。


「「「「「くっ…」」」」」
うなりながらも手を離すゼレンゴン人達。

「博士、ようこそ私達の船へ。むがあっ」

「あんたらいい加減にしなさいよ。強化ワラの情報が漏れてたじゃない! それを狙ってロミュラスカの奴等が基地を襲ってきたのよ、エバンゲリオンが来てなかったら今頃ここにはいなかったわ。」
ナディトアの首根っこをつかみ唾を飛ばすソラン。

「むががが」

「ったくこんな危険、話には聞いてなかったわよ! そのうちあんた達姉妹の顔の黒白を入れ替えさせてあげましょうか?」

すちゃ。
「まあまあまあ。とにかく、ここに無事辿り着いたんですから、良しとしようじゃありませんか。博士。」
コユビブローカー(ゼレンゴンの武器)をフェイの足の小指前に構えるノリーサ。

「ふう…まあ、契約は、契約よね。キャッシュが貰えれば、それで何も言う事はないって事。」

「引き換えの強化ワラ武器の研究は完成したんでしょうね?」

ソランはナディトアに肩を上げた。
「安心しなさい。ところで良ければ、その妙なバネ付きカナヅチみたいなのをどけて欲しいんだけど。」

ノリーサはコユビブローカーをフェイから離した。
「それがあると、安心して足も組めやしないわ。」
首を振るフェイ。彼女は胸元から小さなチップを取り出した。

「ここに強化ワラ武器に関するあたしの研究の全てが詰まっているわ。でも、」
チップを取ろうとしたナディトアに取らせないソラン。

「これは暗号化されているの。例の惑星に無事ついたら、解読コードを教えるわ。」

「今解読コードを教えてもらえると、とっても嬉しいんだけどなあ。」

ノリーサに頭を振り、ソランは立ち上がった。
「ブっても無駄よ。あたしを安全に運んでくれればコードを教えるわ。」

「「…」」

「そうすれば、超強力な強化ワラ兵器であんた達のゼレンゴン帝国での復権もやりやすくなる、ってもんでしょ?」
白黒姉妹に横目を見せ、フェイはブリッジを出て行きかけた。

「ああ、そう言えば、あのメガネ男はどうすんのよ。」
ふと立ち止まって姉妹に尋ねるフェイ。

「あんたに答える義務なんか無いわっ。だいたいあんた、ババ」

「ちょっと待って。」白は黒の肩を押さえた。
「ねえ博士、ちょっとお願いがあるんだけど、良いかしら?」


「ドクター・フェイ・ソラン。エル・サターン人科学者。約500歳、78年前、エル・サターンがペングに襲撃された際連邦に救出された生き残りの一人だ。」
会議室で、パネルの前に立ったゲォーフがクルー達に説明する。

「それって、エバンゲリオン弐号機? …確か、正体不明のエネルギー波で事故を起こした…」

ライカーがトロイに頷く。
「ああ。あの「殺しても死なない」、「1匹いたら30匹いると思え」と言われた伝説のカーク船長が死んだ事で有名な船だな。」

「連邦初のオス犬艦長の船としても有名だったな。それまでメスは2隻あったが…」
腕を組む艦長。

「博士とラ=フォージ少佐が乗ったと思われるゼレンゴン船はすぐに遮蔽してしまい、現在行方は不明だ。」

「でも、どうして彼女がゼレンゴン船に? それにミサイルを発射して、自分の科学基地まで巻き込んで恒星を爆破したりして、一体何を考えているんでしょう?」

「さあ、博士がどういう人間か分からん内は、推理のしようが無いな。」
副長に答える艦長。


ゲォーフはメガネを上げる。
「実はこの船に、当時の事を知っている民間人が1人乗船している。あるいは博士の事も知っているかもしれん。」

「…マユミ君か。」


「え。」

「という訳で君の力が必要なのだよ。」

ガイナンは自室にやって来たピカードに首を振った。
「すいません、今タウンページの珍名さんデータベース作りに忙しいんです、その話は又後で…」

「マユミ君助けてくれ給え。何ならピーポ君ファミリーのハードコアCGを用意しても構わんぞ。」

「あれは砂嵐の吹き荒れるイエメンの大地でした…そこは既に昔の面影はなく、ただ海を漂っていました。」
瞬時に回想モードにチェンジするガイナン。

「(漂う…何が?)」

「その頃私は自分の夢に自分が押しつぶされ、生きる価値も見出せないでいた純情少女が彼でした…」

「(誰?)」

うんうんうん…
一しきり頭を振りおわったマユミがフユツキに顔を上げた。
「…で、何の話ですか。」

「あ…ああ。ソラン…ドクター・ソランというエル・サターン人を知っているかね。」

「ソラン…その名前は久しぶりに聞きましたね。…確かバスケットボールを」

「良いから。ボケは。」
遮る艦長。

「…実は立原あゆみ式熟字訓な所がそこはかとなく」「分かったから。」

ガイナンは無表情に頷く。
「そうですか。…で、ソランさんが、どうかされたんですか?」

「彼女は恒星を爆破した。しかも、強化ワラという危険な物質の研究をしていたのだ。一体彼女は何を企んでいるのだろうか? …彼女の目当ては何なのか、分からないかね?」

「…ふ。」
眼牙熱子はほくそ笑んだ。

「何かおかしいかね?」


「いえ。…ソランさんは、別に世界征服をしようとか、お金を儲けようとか、している訳ではないと思います。恐らく、彼女の目的はただ一つ。…LCLです。」
どーん。
人差し指をピカードの眉間に突き付けるガイナン。

「…LCL?」

「ええ、確かラブラブ・C・Lの略だったと思います。」
眉を寄せながら話すガイナン。

「(…CとLは?)」

「LCLというのはこことは全く別の世界です。そこには悲しみも、人々の境もなく、ただそれぞれの思い描く理想の世界がふわふわと漂っているのです。時間もありません。ですから始まりも、終わりも、老いも、死もない世界です。」

「君も行った事があるのかね?」

「ええ、あの時の事は…忘れられないでしょう。全世界の電話帳に囲まれて一日中のんびりと…」
うっとり。

「(今とおんなじじゃん…)」

「でも。私達はあの世界から引き離されました。私達はあの世界へ戻ろうと必死で抵抗したんですが…LCLというのは、天国でした。しかも歌うボキャブラ天国。」
マユミは息を付いた。
「私はもうあそこへ戻るのは、諦めました。でも、おそらくソランさんは、まだそこへ戻ろうとしているんじゃないんでしょうか。」

「そうか…有り難うマユミ君、参考になったよ。」フユツキは立ち上がった。

「艦長、気を付けて下さい。もし、艦長もLCLに行かれたら、…多分二度と戻ろうとはしな」「うっわーぜってー行きてえ。何でもやり放題じゃ」
「は?」

「あ、いやいや、私は大丈夫だ。何しろ艦隊士官だからな。」

「だから心配なんです。」

フユツキは手を頭に当てた。
「はは、これは一本取られたな。山田くーん、全部持ってきなさい!」


「「…」」


ゴホ、ゴホン。
「あ、あー、とにかく、参考になったよ。」

「どう致しまして。」
ガイナンはピカードに微笑んで見せた。


航星日誌、補足。レイタ少佐の感情チップはポジトロニック・ミソと完全に融合しておりドクター・クラッシャーにも除去出来なかった。彼女は気分が優れないと訴えたため通常の任務からは一時的に外れたが、その代りに天体観測室での任務を手伝ってもらう事にした。


小型のプラネタリウムのような部屋の中央のブースに、ピカードとレイタがいた。

「これまでの資料によると、この恒星系付近には30.7年の周期で特殊なエネルギーの帯が現れる事が知られているわ。」
パネルを操作しながら報告するレイタ。

「このエネルギーの帯は…今から、54時間後に、再び現れる、わ。」

「そうか。帯の現れる場所を表示してくれ。レイタ。…レイタ?」

「あう、わたしがあそこで倒れなければ…しかも少しちびってしまったのです。あうあう、やっぱりあたしには」

「レイタ!」

はっ
フユツキの声で、瞬時に顔がシリアスに戻るレイタ。
「レイタ、帯の現れる場所を表示するんだ。」

「了解。現在コンピューターが過去の観測結果からシミュレーション中…計算完了。」
ぴっ。
ドーム型ディスプレイの一点が点滅する指印で示される。

ぴっ、ぴっ。
表示が拡大され、天の川のような線が星図上に表示された。

「ナマダラ星はどこだ?」

ぴっ。
指印が小さな白い点を指す。LCLの帯の近くだが、帯に重なってはいない。

「これに、一体どういう意味があると言うのだ…」考え込むピカード。
「ソランがLCLに行きたがっているとして、どうして強化ワラ兵器を作る必要がある? 恒星を爆発させた意味は何だ? レイタ、何か理由は」

「あうあう、あうあうあう、おひさまはくるくるでおつきさまはぱきぱきのいぬがわんでからすがかーのまっきっきのこばやしさんちのせんたっきのまーらいおんががおーとなくとたいへいようがもりもりとべりーろーるでとくみつさんが」

「レイタ!」

はっ
「何、艦長。」

「レイタ…大丈夫か?」

レイタは悲しげに目をつむり、首を振った。
「…いいえ。任務のみを考える事が不能になっているわ。通常の人間で言う、「集中力の低下」と同等の状態であると考えられるわ。…どうしても、艦長、自責の気持ちが頭から離れないわ。艦長、基地で私が通常通り機能していれば、ラ=フォージ少佐ももう少しマシな死に方が出来たのに…あんな地味な死に方になってしまったわ。」

「いやレイタ、別にまだ死んではいないと」

ひしっ
「わわわ、わたしがつううじょう通りに機能していればあああ、あう、そんな事にはなってしまったのかなかのったですなのですう。あう、あうあうあう。」
レイタは泣きながら艦長に抱き付いた。

「れ、レイタさん、急に体重をかけられると辛いんですけど。」185キロの重みに顔を引きつらせる艦長。
「れれレイタ、辛い気持ちは分かるが、今はこの任務に集中してくれないか。」

「嫌。もうこんなのあたし耐えられませんなのです。あたしの冷静でハーボドイルノなメージかたいなしなのてす。あう。かんちょお、かんじょおチップが取りはすじ可能になるまでレイタちゃんを機能停止にするのが妥当と考えられるわなのです。ぺこぺこ。」

「そういう訳にはいかない。私達には君の力が必要なのだよ。それからちょっと呼吸が苦し」

「あうあう、だめなのです、このままでは私は任務に集中が不可能よ。ですからあたしはきのおお停止シナいと」

「い、良いかレイタ、人間は誰しもがそういった辛い思いを乗り越えてやっていくものなのだ、一時の感情で任務を破棄するようでは」

「あやややや、あたしがあそこであのひあのときあのばしょできみにあえなかったら♪ あう、あうあうあう、このままでは任務に支障が現れる可能性が85.さんパーせんトあるのです、かんちょお、とってもつらいのです、おなかスンスンよ。ぐす、ぐすっぐすぐす、ずず、ずずっ、ずーずーずる」

「レイタ、レ゛イ゛ダ、デイ゛ダ!」

はっ

「デ、デイ゛ダ、ごの任務から君は外さないし、機能停止も゛しない。艦隊の士官どしてぢゃんと責務をはたし給え、これ゛は上官命ぼごうううっ(どさっ)」
「分かったわ。」
レイタは急に普段の顔に戻り、(フユツキを突き飛ばし)頷いた。

「ごぼ、ごぽ…」
胸を叩きながら何か赤い物を吐いているように見えるピカ。

「…どうしたの、艦長。」


フユツキ(我慢強い)はレイタに微笑んで見せた。
「確かに…レイタ…確かに、感情というのは中々大変な物だ。ごほ。…それをコントロールする方法は、人間も簡単にはマスター出来ない。…しかし、それでも努力していく、そうするしかないのだよ。そうでなければ、私のような一流のスマップにはなれないぞ。」

「…」

「…いや、スマップはジャンルじゃないし。」

「……」

ごほん。
「…よろしい、普段のレイタに戻ったようだな。…レイタ、ナマダラ星が爆発した事で何か周囲に影響は報告されていないか?」

「…」
ようやく動作を再開したレイタはパネルを操作する。
「検索中…ナマダラ星系付近を航行予定だったUSSヤエンが針路変更をしたわ。」

「針路変更…何故だね?」

ぴぴ。
「恒星の爆発に伴い、重力場に変動が生じた為進路の変更を余儀なくされた物よ。」

「重力場の変動か…レイタ、ナマダラ星が爆発した事による重力場の変動を計算に入れて、LCLの帯の位置を計算し直してくれるか。」

ぴぴ、ぴぴ、ぴ。
星図上の線が数度下に下がる。

「A-9を拡大してくれ給え。」

ずううううううん…
ピカードとレイタのいるブースが、そのまま上昇、天井近くの壁面へ接近していく。
「わわわわわ」「…」
うううううん、ぴた。

壁面ぎりぎりまで近づいて停止するブース。
「間違ってるぞ、このズームイン法…」
溜息を付くピカ。
「この位置に、一体何の意味があるのだろう。帯の位置を移動させた意味は何だ? 単に帯に行きたいのに、何故わざわざ動かす必要がある?」

考えこむような表情を見せるレイタ。
「…記録によると、LCLの帯に近づいた船は必ず全壊もしくは大破しているわ。」

「それだ! だから自分から宇宙船でLCLに行くのではなく、自分にLCLを引き付けたかったのだな。…レイタ、この帯のラインの上にMクラスの惑星はあるかね?」

ぴぴ。
「無いわ。最も近い惑星はヒッパレ恒星系の第三惑星よ。」

「表示。」
ぴぴ。

「拡大。」

「…これ以上壁面に接近すると事故の危険性があるので、画面表示のみを拡大するよう設定するわ。」

「あ、ああ、そうしてくれ給え。」

ぴぴ。
二人の目の前の画面に、恒星系とその中を横切るLCLの帯とが表示されている。
「レイタ、もしここの恒星を爆破したら、LCLの帯はどうなる?」

ぴぴ。
線は更に移動し、第三惑星を横切る形になった。

「…これだ。これが彼女の求めていた軌道だ! 彼女は第三惑星にLCLが来るのを待っていたのか!」

「問題は恒星を爆破すると衝撃波で恒星系全体が消滅する事よ。」
冷静に言うレイタ。

「第三惑星に人はいるのかね?」

ぴぴ、ぴ。
「…第三惑星は無人よ。でも第四惑星には、中世レベルの文化を持つヒューマノイド社会が存在するわ。」

「人口は?」

「…2億5千万よ。」

「「…」」ピカードとレイタは目を合わせた。

「急いでソランを止めなければならないな。ピカードよりライカー、ワープ5でヒッパレ恒星系に向かってくれ給え!」
ピカードはふと、壁面に近づいてふわふわ浮いている自分達のブースの周囲を見回した。

「…レイタ。これ…どうやって下りるの?」

首を傾げ、肩を上げるレイタ。



ソラン博士は椅子に縛りつけられているマコトに近寄り、手に持っているバイザーを見て「ふふん」と笑った。
「な、何がおかしいんだい。」

目が見えない状態で不安を隠せない様子のマコちん。

「いや、やっぱり連邦の技術は進んでいるわね。高性能なのが良く分かるわ。」

「そりゃ、どう致しまして…出来れば、バイザーを返して欲しいんだけどな…」

「ねえ、知ってた? あたし、エル・サターン人なのよ。あたしの種族は情報を得る事が大好きなんだけど…少し聞きたい事があるのよ、エバンゲリオンのシールドの構造なんかについて教えてくれると、嬉しいんだけど…」
さわさわ

言わなかったら何をされるか分からない+言ったら色々してくれそう>連邦での待遇(0.001秒@マコトブレイン)
「そ、それはもう僕の知ってる範囲なら何でも聞いてくれよ。」

フェイは猫目でマコトに顔を寄せる。
「そうね。じゃあ、エバンゲリオンのシールドのパスワードなんて、機関部長のあなたなら知らない訳ないわよねえ。」

「ああ、それなら…」頷くマコトは、ふと考え込んだ。
「…あれ? えっと、何だったっけ?」

「あのね。下らない時間稼ぎはよしてくれる? スーパーニュースの「今日のキャスター」じゃあるまいし。」

「い、いや、もちろん知っているさ。あ、えーと…あれ? いくつだったっけ?」(汗)

マコトの様子にフェイは首を振り、自白剤らしき薬品を用意しだした。
「あれ?…ま、まさか「君は信用出来ないからパスワードは教えられない」って、冗談じゃなかったのか? じゃ、じゃあ、僕は今までどうやってエンジニアリングをやってきたんだ!? ぼ、ぼ、僕の存在意義は一体、まさかミサトさんのお付き専門だったなんて事じゃ」

「…」
自問自答をしだすラ=フォージに細目で汗をかくドクター。


「着いたのね?」
ブリッジにやってきたフェイに、ノリーサが頷いた。

「ええ。お望みのヒッパレ3号星に到着ですよ。」

ナディトアが右手に例のカードを持ち、左手をフェイの肩にかける。
「ねえ。そろそろ、これの解読法を教えてくれても良い頃なんじゃないかしら?」

「星に転送してくれたらコードを教えるわ。」

ぶーぶー。
「「「「聞いてないよー。」」」」
ブーイングの起こるブリッジ。

黒が腕を組んで立ちはだかった。
「確かに、聞いてないわよ。そんな話。あんたゼレンゴンを舐めてんじゃないでしょうね!」

「舐めないわよそんな汚いツラ。大丈夫よ、約束は守るわ。…それにあのメガネ君にも、細工はしたのよ。」
猫目でニヤリと笑う博士。

「で、でも、本当にそれって効くんでしょうね?」
念を押す白。

「ふっ。」フェイは頭を振る。
「500年選手の科学者の言う事なんだから、信用なさいって。…ま、あれをバラされたくないなら、」

「な、何の話よ!」

「いいええ。大した事じゃないわ。ただ、あんた達が帝国の外では、自分達が出演した「これぞ本当に丸見え! 愉快な仲間達内臓編」を売りさばいて小金を稼いでいる事を知られたく」

「ちょ、ちょっとどこでそんな」
何か言い返そうとする黒の肩を白が押さえた。

「…分かりました。そこまで御存知とは、ドクター、あなたの情報収集能力も侮れませんね。」
冷や汗でややメイクが落ちかけているものの、最後の虚勢を張るノリーサは、そばのゼレンゴン士官に何やら命令した。
「シュバババ、バン!(彼女を転送室にお連れして!)」


「ヒッパレ恒星系、第三惑星軌道上に到着しました。」
ブリッジにやって来た艦長にアゴフィーバー(副長)が告げる。「そうか」と答え隣の椅子に座る艦長。

「…うふっ。」
背後から聞こえる吐息に毛が逆立つ艦長と副長。

「ぞ、どうしたゲォーフ。」

ゲォーフはピカの声に我に帰り言った。
「ああいや…前方に、遮蔽を解除中の船と思われる物体が」

「スクリーンへ!」
スクリーンには、ツバメよけの目玉印がたくさん描かれた小型の宇宙船が姿を現していた。


きゅっきゅっ。
自分の首のビスを締め直しながらピカードがゲォーフに言う。
「呼びかけてみてくれ給え。」

「…返答があった。スクリーンに出す。」

「あら、お久しぶりですね。元気印してました? ミニ4ファイターさんとメカニックマンさん。」
スクリーンの前で、見知らぬゼレンゴン女性がまるで知り合いのような憎まれ口を叩いている。

「「…」」
顔を見合わせるミニ4ファイターとメカニックマン。

「…ど、どこかで以前会ったかね?」

「ちょ、ちょっと? まさか私達の事を忘れたとは、言わせませんよ?」
カチンと来た様子の彼女に、隣から現れた女性が耳打ちする。

「どうせこれも、あいつらの作戦なんじゃないの? 奴等、ウチらの強さに脅えて、(ヒソヒソ)…だから、…で、…」

画面の向こうで話し込む2人をぼーっと見ていたカウンセラーが、ふいに大声をあげた。
「あああ! 何だ、ノリーサとナディトアじゃんっ!」

「「何いいいいいいいっ!!」」驚愕する艦長と副長。

「何を今更。もうとぼけて見せる作戦はやめたんですか?」

「何だ、言ってよー。化粧が大分落ちて顔変わっちゃってるから、全然気づかなかったっスよー。」

「「…(がーん。)」」
砂化するモニタ上の姉妹。

「ああ、なるほど、確かに言われてみればガイナラス姉妹ですね。白と黒のコントラストが相当崩れているから最初気づきませんでしたが…」
頷くライカー。

「ちょ、ちょっと、化粧だなんて失礼な事言わないで頂けます? 私の肌の白さは全くの地で、…あ」
額の汗を拭おうとして、同時に額のセメントと言うか生クリームと言うかも拭ってしまった事に気づくノリーサ。
エバンゲリオン、ブリッジのスクリーンには、額に手の指の跡がくっきりと、曇りガラスに絵を描いたかの如く残っているノリーサが映っている。

「と、と、ととにかく。エバンゲリオンの皆さんお久しぶり。…お元気でしたか?」

「…あ…あ、ああ。」意識を取り戻したらしいピッカ中が呟いた。
「ああ、ノリーサ、ナディトア、久しぶりだな。ところで尋ねたい事があるんだが…」

「ええ、何でしょう。」
ホワイト土砂崩れが笑顔を作る。

「実は人を探しているんだ。君達の船にドクター・フェイ・ソランという科学者がいるだろう。彼女に会いたくてね。」

雪崩と土石流は目を合わせた。
「もう彼女はここにはいないわよ。ドクターはね、今自分の研究で忙しいの。」

「つまり、惑星に降りたという事か?」
顎から小松菜を生やしている(どうやって生やしているのか本人も知らない)ライカーが尋ねる。

「ええまあ。ただ…博士は非常に多忙な方ですから、もしあなた方が惑星に降りられるようでしたら大変不愉快に思うでしょうねえ。」
雪崩の方が微笑みながら答える。

「…ああそれからついでだが、君たちの船には、当艦のマコト・ラ=フォージ少佐が乗っているはずだな。」

「え?…ああええ、確かに少佐も乗船していましたねえ。勿論少佐には御客様としてくつろいで貰っていますけど。」

「しかしもうそろそろ、彼も帰りたいと思い出している頃ではないかね?」

「うーん、どうだったかしら…」
クリームを塗り直しながら勿体ぶる姉。
「でもわざわざお客として来て頂いたのにもう帰すのは、忍びないんですよね。誰か代わりにこちらに来て頂けるのであれば、考えないでもないですけど…」

雪崩に土石流が何やら耳打ちをしている。ニヤリと頷く雪崩。
「…そうですね。艦長。もし艦長がしばらくの間、少佐の代わりに私達の船にいて下さると言うのなら、喜んでお迎えしましょう。少しの間なら、惑星に降りて頂いても構いません。これでどうです?」

「艦長騙されないで下さい、奴等はくず餅(ラ=フォージ)の代わりに艦長を人質にとろうとしているんです。」

ナディトアが両手をあげ首を振った。
「人質だなんて、副長も人聞きが悪いわねえ。…フ。今なら応募券のシール5枚であのレイちゃんグルミがもれなく2000名様に当たると言うのに。」

彼女の言葉を副長が馬鹿にするように笑う。
「はっ。そんな下らない誘い文句にうちの艦長が引っかかる訳があ゛ああああっいない゛いいっ」
周囲を見回す副長を置いて、艦長は既にブリッジから消えていた。


「転送。」
艦長は自分のかけた声とともに転送されていく。それと同時に艦長の隣に別の転送ビームが照射された。
ぴぎゅいいいいいん。


ばたっ。
消えた艦長の隣には憔悴しきった様子のマコトが転送されて来た。無言で倒れるマコト。
白衣のドクターは肩を上げた。
「まあ、彼の場合は急がなくても大丈夫でしょう。アリサ、引きずって医療室まで運んでくれるかしら? ああ、と言っても形は崩さないように。」

「わ、私が、ですか?」
ぶくぶく言っているマコトを前に、口元を引きつらせるナース。

 


ぴぎゅいいいいいん。
何やら等身大の少女のイラストの描かれたビニールらしき物を大事そうに抱え、ピカードは惑星の地表に転送されてきた。

第三惑星は赤茶けた岩場の大地と青空が広がっている。ビニールを抱えにやにやしていたピカードは、ふいに陽の光に眩しそうに目を細めた。

岩場の数十メートル向こうに、鉄骨風の建材で組み上げられた、建物と呼ぶには小さすぎる、施設と言うか巨大な科学実験装置と言うか、があった。施設に張られたフェンス越しに、機器を操作している黄色い服の女が見える。
「ソランだな。」
艦長は呟き岩場を歩いていった。

艦長がしばらく歩いていると、突然艦長の目の前に見えない壁が立ちはだかった。
びりびりびりびり。
「はか゜か゜か゜か゜か゜か゜ああっ」

光線の壁に「感電」し、白黒のガイコツ映像(パカパカ)が現れるピカ。

フェイは物音に顔を上げ、周囲を見回し立ち上がった。
「…あら? 艦長じゃないの。こんなところで……何着てんの。」

知らない内にグルミを着込みつつ焼けただれていたピカが自分ののどを指差し、バッテンマークを作る。
「え? 喋れない? あっそ。確かにそこにはかなり強力な電磁式フォースフィールドが張られているから、ま、普通の人間は2秒で蒸発するし。良くもったわね。え? 良く分からないけど怒ってるみたいね。ああ、ごめんなさいね。でも勝手に人の研究施設に忍び込んでくるのもどうかと思うけど。え、「置いといて、」? 「それ」…うん、…コギャル? え、違うの? 分からないわ、女子高生? え、歌手? あ、そうなの。…「歌手」で? 歌手で、女子高生? 違うの? 宇多田ヒカル? 違う。え、首をくくる? くるくるぱー、あ、華原朋美! あ、正解! そう、「華原朋美」…がどうしたの? え、「置いといて」?」
思わず焼けグルミの動作に夢中になって答えてソランだが、急に我に帰った。

「って、…艦長。残念だけど、今はあたし、あなたに付き合ってる暇は無いのよ。ごめんなさい。」
尻上がりのアクセントでそう言うと、フェイは肩を上げ装置のコンソールの前に戻っていった。

しばらく機器を操作していたフェイは、殺気を感じ顔を上げた。
「あら。良くフォースフィールドの抜け道が分かったじゃないの。」フェンスの向こうに立つピカに目をやり、微笑みながら髪をかき上げるフェイ。

「あ゛あ゛。しかしここにはフェンスがあるから君のそばには行けそうに無いな。…げほっげほっ」
口から黒い煙を吐く艦長。

「あなた…ゼレンゴン船から来たのね。だから丸腰なんでしょ。」

「ああそうだ。君とはただ、話し合いに来たのだよ。」

「話す暇は無い、って言ってるでしょ。」ドクターは軽く息をつき、視線をコンソールのディスプレイに戻した。
「前も言ったと思うけど、あたしの研究にはタイミングがとても重要なのよ。今邪魔されると、今までのあたしの研究が水の泡になる訳。分かる?」

「泡…バブル…ガムブラザーズ……バブルガムブラザーズが、バブル経済華やかなりし頃の深夜番組によく出ていたのには、もしや何か深い意味が!?…」

「…。」シリアスな艦長の様子に2、3、四つ角を作るドクター。
「あの、とにかく。今は残念だけど話す時間は無いから。」

「…LCLだな。」

ピッカチュー。の言葉に驚くでもなくフェイは肩を上げた。
「あら、知ってたの? ってそうよね。知らなかったらここには来れないものね。」

「あれがここに来たら、第四惑星の住民達はどうなる!」
フェンスを揺らす焼け人形。

「知った事じゃないわ。」機器を操作し続けるフェイ。
「ちょいちょい、なと。」

ぴぎゅいいいいいん。
どこから転送されて来たのか、数メートル向こうの施設上部に全長4m程度の小型のミサイルが姿を現した。
「ふふ。」
口元を歪めるドクター。

「…ドクター、君も以前、LCLの帯に遭遇して危険な目にあったのではないかね? …君達エル・サターン人は、今まで苦難の歴史を送って来た民族だ。そんなに簡単に人の命をもてあそんで楽しいかね? 君に、家族はいないのか?」

立ち上がり階段を上ろうとしていたフェイは、焼けピカの言葉にふいに立ち止まった。
「いたわよ…家族じゃないけど、仕事仲間がね。」

「仕事仲間?」

頷くフェイ。
「まあ、ガキで、バカな男だったわ。って、勘違いしないで。別に変な関係じゃないわよ。ただ、…そうね。アイツが死んでからは、何やっててもイマイチハリが無くなったっていうのは、確かにあるかもね。」

「なら」

「だからこそ、」遮るフェイ。
「LCLに行きたいと願うのよ。あそこには…全ての喜びがあるの。口で説明できるものじゃないけど…まあ、敢えて例えるならパチスロの目止めが成功しまくって玉が止まらないって感じかしら?」

「(カウンセラーに近い物を感じる…)」

「人間にとって…エル・サターン人でも、よ、人生は、常に自分を追いたてて来る物なの。時間には限りがある、そう、まるで手持ちのお金が全く残ってない時のコインシャワーのようにね。」

「(分かるけど…)」

「あたし、もう行かなきゃ。…楽しかったわ艦長。でもあたし、永遠を今から手に入れる所で、忙しいのよ。じゃね。」

「ま、待ってくれ給え」
艦長に軽く手を振ると、ソランは階段を上り、ロケット発射台の方に歩いていった。


「ドクター!」
無視して歩いていくソラン。

「ま、待ってくれ給え! 無視するなっ!」
艦長はありったけの声で叫んだ。
「こ、このぉ、乳離れええっ! クサレ漫湖恥垢ちゃんんんっ!」

「ちょ、ちょっと、嗅いだ事無いくせに何て…」
憤然として戻りかけたドクターだが、
「…か、勝手に言ってんのねっ。」
何とか怒りを押さえて発射台へと行ってしまった。

「この、太陽とシスコムーンんんんっ! ちぇきべええええっっ! NITROおおおおおおっ! 少女隊'99んんんんんんんんんっ!」
発射台に行ったフェイは、フォースフィールドの向こうの艦長がもう何を叫んでも、我関せずで機器の操作を進めている。

「くううっ…」
焼ミは奥歯をギリギリとかんだ。


イライラしきった様子でナディトアが歩き回っていた。
「まだなの? んんまだ、スイッチが付かない訳ぇ?」

「そう焦らないで。ゆっくりと、待ちましょう。」
口ではそう言いながらも、ノリーサも神経質に足を鳴らしている。

「姐さん、スイッチが付きました!」

「「え。」」
兵士の声に、2人はスクリーンの方を向いた。

「「「「「おおおおお。」」」」」
どよめきが起こるゼレンゴン船ブリッジ。スクリーンには、エバンゲリオンの一室とおぼしき天井が映っている。

姉妹はニヤリと笑い合った。腕を組み、画面を見やるナディトア。
「ドクター・ソランのお手並み拝見、って訳ね。…って、え゛ええええっ」

画面には、目からビームを出して何かモンスターと戦闘中の女性が現れた。


ぴぎいいいいい、ごーん。
「まだこれでも足りないようね。仕方が無いわ、こんな時の為に用意していた秘儀を使うわよ! 秘儀・ありさん魔法っ!」
ぼうわああっ。

「あの…」

「あら、起きたのね。今ちょっと減量エクササイズ中だから気にしないで。もうあなたは大丈夫よ。任務に戻って構わないわ。…はああっ!」
ぴしゅう、ぴしゅう、ぴしゅう、ずがああああん。ばしっ、ぼがああん。
ベッドから起き上がったマコトには目もくれずに、ドクター・クラッシャーは壁近くの赤黒い大蛇のような魔物と戦闘中である。そこかしこで起きる爆発。


「「…」」
目の前の映像にあんぐりと口を開け、ピクリとも動かなくなっているガイナラス姉妹。


マコトは「ど、どもドクター!」と言いながら何とか医療室から逃げ出し、エバゲリオンの廊下を歩き出していた。


石化から開放されたナディトアが疲れたように溜め息をついた。
「はあ。ようやくまともな映像になったわね。これ、音は入らないの?」

「そこまでバイザーを改造する暇は無かったんです。…それにしても、やっぱり妙ちきりんな船ですね。…な、何でフラミンゴの大群が廊下の向こうを走ってるんです?」


ばさばさばさ…
「少佐、お体の方は…」

フラミンゴ達をかき分けて現れた士官の言葉に、マコトは微笑んだ。
「ああ、大丈夫だよユミちゃん。…これから機関室だろ? じゃ、一緒に行こうか。」

「あ、はい。」
2人はターボリフトに乗り込んだ。


「かーっ。どうしてこう、地球の女って地味なのかしら。」
微笑むユミのアップに顔をしかめるナディトア。


マコト達はターボリフトを降り、機関室に来ていた。
「…それでハサミムシコンバーターの効率はアップしたんですけど、まだ全体としては…あ、大尉。」

ゴメスは立っていたバークレイに会釈をした。2人に気づくバークレイ。
「ああ、少佐、ちょっとお話が。」

「どうしたんだい、バークレイ?」

「また、チリカラ回路の方に故障が発生したようなんです。よろしかったら…」

「またかい? どうもバッタにチリカラソースは合わないのかなあ…」困ったように首を振るラ=フォージ。
「えーっと。故障の回路はやっぱり丁?」

「いえ、乙の方です。」

「うーん…」機関室コントロールパネルを前にラ=フォージは考え込んだ。


「ちょっと待った!」ノリーサが上ずった声を上げた。
「今の所です、今の所! ちょっとプレイバックして!」

部下が頷きボタンを押すと、スクリーンの映像が巻き戻し状態になる。
「そこで止めて! 再生。」
再び動くマコトの視界。目を細めるゼレンゴン達。

「ストップ! そこのディスプレイの表示を拡大して!」
映像の一部、エバの機関室操作ディスプレイの部分がズームインされる。

しかも全然笑えないし。

「「「「「おおおおおっ!!」」」」」

「これよっ!」ノリーサが叫ぶ。一気に慌ただしくなるゼレンゴン船内。
「パスワード打ち込んで!」

「「…まで後、03:00」。シールドパスワード打ち込み完了!」

照明の当たったその子はデビル笑いを見せた。
「これでエバは無防備ね。積年の恨み、思い知りなさい! 暴れカンガルー砲、装填!」

「暴れカンガルー砲装填っ。」
潜望鏡型のコンソールに座り操作するナディトア。

「発射!」


「ひいいっく」

「だ、大丈夫かゲォーフ? しゃっくりなんて珍し」

「ふ、副長、ゼレンゴン船が暴れカンガルー砲を発射して来たぞ!」

小松菜は眉を寄せた。
「何だって? 向こうもこっちが防御シールドを張ってる事位分かってい」
ずがががががががーん。

「な、何だ!?」

「シールドが無効になっているわ!」
慌てた様子でレイタが副長に叫ぶ。

「何だって? そんなはずは」
ががががーん。ずがーん。

「あるわっ!」振り向き怒鳴るレイタ。
ブリッジの照明が一時的に消え、非常用照明に切り替わる。一部のコンソールから火花が飛び散る。

「くっ、ゲォーフ、反撃だ!」

「承知した。フェイザー発射!」
ぴぎゅ、ぴぎゅん。

エバンゲリオンから発射されるフェイザーは姉妹の船に命中はするが、防御シールドの為船体に直撃はしない。
「レイタ、なぜ向こうにパスワードが分かった?」

「分からないわ、とにかく現在パスワードを変更設定中…くううっ」
近くで飛び散る火花に顔をしかめるレイタ。
「変更設定終了!」

「ふう、これで少しは落ちつけるか。」
副長は額の汗と顎のかいわれを拭う。


きええええええ、がしゅうう。
モニタに映されている戦況を見てナディトアは目を細めた。

「エバのシールドが復活したみたいね、姉さん。」

「今頃彼等はすっかりほっとしていることでしょうね。」頷くホワイト・イルミネーション(北へ)。
「私たちが何の為に以前ラングレフさんに近づいたと思っているのかしら。うふっ、彼女の「連邦研究ノート」をパクらせて貰う為に決まっているのに。…まだまだお楽しみはこれからです! 第二作戦、開始!」

姉の言葉に土石流がニヤリと笑った。
「了解! ポティッ・トナー!(ポチッとな)」


「ワープコアの破損は何とか防げましたね。」
未だに赤ランプの鳴っている船内で、ユミはほっと息をついた。

「でもこれから出力を回復しないと、まだ状況は安心出来ないからね。」

マコトの言葉に頷くユミ。
「そうですね。…あの、少佐。」

「ん、何だいユミちゃん。」

「こんな時に何ですけど、…いや、こんな時だからこそ、あの、」手を固く握り、目を潤ませるゴメス。
「私、少佐の事が、」
ぶばばばばばばばばばばっぼばっばばばばばごおおおおん。

「が…」(バタッ)
突如爆発し、四方八方に飛び散るマコト・ラ=フォージ少佐。ユミ殉職。


ぴろりろりん。
「機関室よりブリッジ!」

「どうした?」顔を見合わせるリョウジとレイタ。

「大変です、ラ=フォージ少佐が、少佐がああああ↑」
ぶちっ

「何、ラ=フォージがどうした? 機関室? 応答しろ! …ゲォーフ、レイタ、機関室へ!」


機関室のドアが開くと、レイタとゲォーフは中の様子を見て額に縦筋が入った。
「「「「「うぎゃああああああ」」」」」
クルー達が、爆発し続ける赤いドロドロしたいくつもの小物体から逃げ惑い続けている。

「…あ、あれは一体何なんだ?」

「恐らくラ=フォージ少佐の肉体ね。ゼレンゴン船に拉致された際に爆弾を体内に埋め込まれたものと推測されるわ。」

「え゛ええっ! しょ、少佐…」
びしゅん、びしゅん、びしゅん、びしゅん…

ひょうのような燃えないひとだまのような物体群が飛び交うのをよけながら悲しみにくれるゲォーフ。

「少佐が死んでくれていればよかったのだけど…」

「え。」

「少佐はこれ位では死なないわ。元々ホムンクルスなので肉体を失ってもある程度耐えられるの。ただ問題は、」びしゅっ。
自分に向かって飛んで来た肉片をフェイザーで蒸発させつつレイタが言う。
「彼の肉体は自己復元能力が高すぎる為、爆弾も含め何度も自己再生してしまうの。だから、」
びしゅっ、びしゅっ。
「この爆発を押さえるには彼の肉体がこれ以上増える前に全滅させておかなければならないの!」
びしゅっ、びしゅっ、びしゅっ。

「そ、そんな、人をイナゴみたいに…」ぼがーん。
「あ、あわわ」

「放っておかないとエバンゲリオンもろともやられるわ! ああっもうシャキッとしなさいシャキッとっ!」
ゲォーフに怒鳴るレイタ。

「わ、わわわ分かった。」
ぼがーん。ぴゅー、ぴゅー。ぴゅーん。ぼがーん。


燃えながら飛び跳ねる肉片群にフェイザーを打ち続けるレイタとゲォーフ。しかしマコちんの生命力は異常に高く、彼等がフェイザーを打っても次から次へと増殖する。
「ゲォーフ少佐、もっと保安班を、」しゅー…
「あっ。」

「ど、どうしたレイタ?」

「エンジン内に肉片が!」

「え。」
ずが、ずががががああああああああああん。

「「きゃああああっ」」
頭を抱え、全く同じリアクションをとる2人。


「機関室、応答しろ! レイタ! …ゲォーフ!」

爆発の絶えない機関室内で、レイタは何とか自分の胸のバッジを叩いた。
「こ、こちらレイタ。」

「大丈夫か? 何が起きている?」

「説明は難しいのだけど、状況は不利よ。先程エンジン内に爆発があったわ。…いえ、エンジン自体はまだ無事ではあるのだけど、崩壊は時間の問題よ。」

「何だって!? …レイタ、相手は旧式のゼレンゴン船だ、何かこちらに勝つ方法は無いのか?」

「方法って、そんな簡単に、」言い返しかけたレイタはふと周囲を見回した。
「……あるわ。」


「姐さん、敵船のエンジン出力異常をキャッチしました!」

「クックック、効いてる効いてるぅ。」
肩を揺らすナディトアを横目に、ノリーサは兵士達に声を上げる。

「さあ、総仕上げですっ! とことんやっちゃって下さい!」

その時兵士の一人が声を上げた。
「あ、姐さん、敵船が魚雷を発射しました!」

「ビクビクしない! シールドはまだ30パーセントあるでしょ!」ナディトアが眉を上げる。

「いえ、それが、今までの魚雷とは数値が全く異なります! 魚雷自体が自己増幅し、なおかつ魔界中和力を持っているようです!」

「はぁ? そんな魚雷ある訳、」

「敵船より通信文です! 「クラエ マコトギョライ バイバイキーン」…」

ぶしゅっ。
エバンゲリオンから発射された魚雷はいくつにも分裂し、その一つがまるでめり込むようにゼレンゴン船のシールドを通り抜けた。

ノリーサは呆然と呟いた。
「マコト、魚雷………」



ずが、ずがががががががががががががあああああああああああああああああああんんんん。ずがああん、ずが、ずが、ずがずがずがずがずがずがずがががずががががああああああああああああああああんん。
大爆発が起きるゼレンゴン船。吹き飛ぶ兵士達。

ゼレンゴン船は(今一つ鬼畜的にツメが甘かった為)宇宙のもくずと消えた。



「いよおっしゃああっ!」
マコトの肉片群が転送で消えようやく静かになった機関室(跡)で、豪快にガッツポーズを決めるレイタ。

ぴこーん、ぴこーん、ぴこーん。
「あー、レ、レイタ?」

「何、少佐。私は今勝利の余韻に浸っているのだけど。」
笑顔でゲォーフの方を向く(そしてまだガッツポーズは取り続けている)レイタ。

「あー、さっきのエンジンの爆発のせいでバッタ制御システムの方に問題が発生して、い、今、凄くマズいような気がするが…」

「え?」ディスプレイの表示を見るレイタ。
「な、何で今まで言わなかったの!」

「いや、さっきから言ってたし、ほら、ずっと警告メッセージも鳴り続けてるのに、少佐が聞かなうおおおおお」
ごしゅっ。
レイタはゲォーフを(3メートル向こうの)壁に投げつけ、胸のバッジを叩いた。

「レイタよりブリッジ。」

「どうした。」

「エンジンに重大異常発生。至急全乗組員を円盤部に避難させる事を提案するわ!」


ピカちゅーはつまらなさそうにして、谷の岩場で小石を投げていた。
ひゅーっ…びりびり、ぽとっ。

小石は空間を遮るフォースフィールドに当たり、放物線の途中で垂直に落下する。

「…それが、出来る精一杯?」
フォースフィールドの向こう、数10メートル先の発射台のフェイが、呆れたように声をあげる。

「…」
ピカは無言で、フィールドの周囲を歩き回る。首を振り操作パネルに目を戻すソラン。


「…」
ふとピカは、かなり大きい岩の前で立ち止まった。
「…」
岩は横に5メートル以上ある大きな物で、丁度アーチのようにそった形状になっているので下部中央に少し空洞空間が出来ている。

「…」
ピカはその隙間を狙い、小石を投げてみた。
ひゅーっ……ぽとっ。

石は岩の下の隙間を通り抜け、そのまま飛んで行き、フォースフィールドの向こう側で落ちた。
フユツキはビスを締め直した。


「早く避難しろ! ほら、落ち着いて! 大丈夫だ、安心しろ! ほら、こっちだ、急いで!」
エバンゲリオン四号機の船内は大混乱に陥っていた。

ゲォーフはドアの向こうに人々を半ば無理矢理押し込めると、バッジを叩く。
「Dブロックの避難は完了した!」


別の場所で、ゲォーフと同じように乗組員やその家族達の避難を誘導していたレイタは、少し驚いたように目を向けた。
「ドクター。こんな所で何をしているの。」

「ああ、レイタ、あなたを探していたのよ。ちょっと、プチットを貸して貰えるかしら。」

「プチット? …何故?」
首を傾げながらも、背後(の何も無いはずの空間)からプチットを持ち上げてドクターに渡すレイタ。

「ああ、ありがと。ラ=フォージ少佐なんだけど、彼はまだ心は生きているから、一時的にプチットを寄り代として貸して欲しいのよ。彼の新しい体を作るまでの間。」

「…確かに、少佐は(そこそこ)大切な友人…でも…」
露骨に嫌そうな顔になり、普段より声のトーンが1オクターブ下がっているレイタ。

「大丈夫、プチットに迷惑をかけるつもりは無いわ。ただ、比較的開異界性の強い寄り代の方が少佐にも馴染みやすいでしょう。あるいはプチットの人格、いえ、猫格、を圧迫しないように、少佐の人格の容量を多少圧縮をかけて削って移す、というのでも構わないわ。」
化け猫の喉をくすぐりながらリツコが言う。

「…それなら、良いわ…」ゆっくりと頷くレイタ。
「少佐にここで死んでしまって欲しくはないもの。」

「ええそうね。突然変異とはいえ、私の研究…この話は又にしましょう。それじゃあレイタ、この「猫」、しばらく預かるわよ。」

「分かったわ。」

数分後レイタは廊下を見回し、自分自身も非常用隔壁をくぐりながら通信を入れた。
「レイタよりブリッジ、Bブロックの避難完了。」


「よし、全員の避難が完了したな。他にクルーがいないから、すまんがミサト、円盤部切り離しシークエンスをスタートさせてくれ。」

「…え、私が? も゛ー面倒くさいなあ。ふあああ」

「まあーまあ、後で木村太郎傑作選のビデオでも買ってやるから。」

「へえ? しょうがないなあったく。」
マイバスも攻撃を受けてしまった為、椅子に普通に全裸のカウンセラーが、自分の前のパネルに手を触れた。
「円盤部切り離しシークエンス、スタートお。」


エバンゲリオンの船体がゆっくりと2つに割れ、アンテナやバラックがゴテゴテとついた前方の円盤部が、コンセントコードの繋がった機関部から徐々に離れていく。円盤部後方のダンゴムシエンジンが始動し、円盤部のスピードが加速していく。
エバンゲリオンは機関部を残し、円盤部のみで航行を始めだした。


ブリッジではレイタが自分の場所に戻り、報告をしていた。
「計算では、現在の円盤部の出力ではこの惑星の軌道を離脱するのは不可能よ。」

「円盤部で、惑星に着陸しろって事ぉ?」

「そうなるわ。」
声を荒げる全裸をレイタがちら、と見て答える。

副長が快活に笑う。
「はっはっは、別に不安に思う事は無いぞトロイ。お前は知らなかったかもしれないが、この船にはちゃんと円盤部着陸装置というものが付けられていて、それの蟻重力スラスターを使えば安全に」

「だってあれ使う事あるなんて思ってなかったし、」
呟くカウンセラー。

「は?」

「…売っちゃっ…た…」

「…え。」

「副長、何度指示を出しても、円盤部着陸装置が作動しないわ!」声を上げるレイタ。

「って言うか無いって事か?」
エバ円盤部は、惑星地表に燃えながら落ちていく。その向こうで遂に大爆発を起こしているエバ機関部。


どがあ、どががががががががががががが
「既存のダンゴムシエンジンで逆噴射をかけるんだ!」

「それでコース調整をしてはいるのだけど、これ以上のショック回避は困難であると推測されるわ!」
大地震のような揺れの起きるブリッジ内で、レイタが副長に大声で答える。

スクリーンには、目の前にどんどん迫る惑星の地表が映し出されている。
「着陸まで後30秒!」

「副長より全クルーに告ぐ!」
どがががががががががががががががが。

副長が最後の声を張り上げた。
「起こっちゃいやああああんっ!!」


ひゅうううううううううん…………
どが、どが、どが、どがががががががががががががががががががががががががががが…

遂に惑星地表に着陸(というか激突)する円盤部。しかし重力に勢いづいたスピードは止まらず、そのまま地表を削り前進していく。
円盤部が着陸したのは森林地帯であるらしく、進行方向の木々が瞬く間に円盤部になぎ倒されていく。

…ががががががががががががががががががががががががが…
びしっ、びばばっ。
後方で飛び散る火花をよけるライカー。

木々をなぎ倒し続け、どこまでも止まらない円盤部。丈夫な特殊ダンボール製とはいえもはや崩壊寸前で、既に衝撃で上部のバラック等は完全に吹き飛んでいる。

…ががががががががががががががががががががががががが…
「「「うあああっ」」」
天井の一部が崩れ落ちる。逃げ惑うクルー達。既にブリッジのフォースフィールドも一部が破損し、風や埃が直接吹き込んできている。

ようやくスピードの落ちてきた円盤部は、それでも森を直進し揺れ続けていたが、やがて大地の抵抗に答え、
…がががががががががががががががが、が、が、が、が、があ、があ、があ、がああああああああ…
その前進を止めた。
…ああああああああああああああっ。あ。

「「「のあああああうっ」」」
慣性の法則に従い前方に吹き飛ばされていくクルー達。

 

びばしっ、ばしっ。
「副長、副長。」

「…ああ、レイタか。」
まだ飛び散る火花に目を細めながら、リョウジは答えた。ブリッジ内は埃が立ち込め、何の故障かヒステリック・ブルーの曲がエンドレスで流れ続けている。

「…ライカー…」

「ああ、大丈夫かトロイ。ってお前全裸でよく怪我してないな。」

「慣れてるから…」

「…そうか。」

「副長。」

「どうしたレイタ。」
横に立つレイタを見るライカー。

「上…」

「ん?」
小松菜と全裸無傷はレイタの向く方を見上げる。
「「…」」
天井の壊れたフォースフィールド(というかただの窓枠)越しに、木だちと青空、そしてこの恒星系の太陽が、まるで何事も無かったかのように平和な顔を見せていた。



ミサイル発射台の設定が済んだらしいフェイは、一しきりのびをしながら、がけの向こうから向こうへかけられたつり橋を渡っていた。
「ふう…って、あら? なんれあらひ、はなれいきがふがあああっ」

目の前のピカードから飛びのくソラン。
「あ、あんたどうやってここに来たのよっ!」

「私はこう見えても、フィールドの隙間をくぐり抜ける位にはトランジスタ・グラマーちゃんでな。ふっ、自分の鼻ホールも守れないようではまだまだ甘いなっ!」
突っ込んでいた自分の指をペロペロ舐めだした。

ぞわぞわぞわ…
「き、気持ち悪い事しないでくれる?」
すちゃ。
「うっ」

フェイはフェイザーを構えた。
「ったく、無駄な抵抗で面倒かけないでよね。ほら、どいたどいた。」
ピカをフェイザーで指差し、「向こうへ行け」と合図するソラン。

「…はあああああああああっ!」「ふんっ」
がすっ
「あ、うううう…」

「無駄な抵抗は止めろって言ってるでしょっ!」
すれ違いざまにフェイザーを取ろうとして、見事に蹴り飛ばされる焼けレイ。

「ったく…」「…」
頭を振りながら吊り橋を渡っていくフェイの背後で、フユツキはニチャッと笑った。

…すくっ。
「ぴかああああんち!(←ピカパンチの略)」どごおおお。

「え? おわああああごぶっ」
振り返ったフェイは飛んできたピカ右腕をモロに喰らい、細い橋の上で倒れ込んだ。
「…ぷっ、やってくれるじゃないのっ! 観念しなさ」「ぴち!」

どごおおおお。
「きゃあっ! …、ふう。…あ」
フェイは更に飛んできた左手を何とかよけてかわすも、はずみでフェイザーを落としてしまった。
「ちっ」
たったったったった


何とか走って吊り橋を渡りきろうとするフェイに、ボログルミは哀れみの笑みをうかべた。
「…これで最後よ! ピカ黒ひげ砲おおおおっ!」

「えっ!?」
驚いた声で振り返るソラン。

「のわあああああああああああああ」「…」
ぴゅううううううううううううううううう、ずごーん。

「…」
黒ひげ危機一髪よろしく飛び出したピカの首は、そのままきれいに放物線を描き、砂化するフェイをかすめそのまま橋の下の遥か谷底へと落下していった。


「…」
10秒程静止状態でただずんでいたドクターは何とかまばたきを再開し、ミサイル発射に伴う危険を避けられる岩陰まで走っていく。

「遂に研究の成果が得られるのね…」
一瞬感極まった表情を見せたフェイは目を開き、手元のリモコン装置のボタンを、ゆっくりと押した。

ずごおおおおおおおおおん。
がけの向こうの発射台から、ややワラのはみ出したミサイルが噴煙を上げ発射される。みるみるうちに上空へと消えていくミサイル。

「早くしてよ、後2分でリボンはこの星系から離れるんだから!」
時計を見ながら呟くドクター。



数十秒後、それまで惑星の青空をさんさんと照らしていた太陽が、ふいに光りを失った。

「…」
歓喜と焦燥の混じった様子で見上げるフェイ。

「…」
谷底で(どうやってか)元の体に組み戻っていたフユツキも、急に暗くなった空を見上げる。



………………にゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅる……………
やがて、どこからともなく妙な粘着質の音が聞こえて来た。

はっ、とした表情で立ち上がるフェイ。

にゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅる…

やがて空に、オーロラのような稲妻のようなオレンジ色の光がさしてきた。

「これよ!」
光は渦を巻き、徐々にその姿を大きくし、まるで津波のようにこちらに押し寄せてくる。

「LCL! あなたを待っていたわ! …さあ!」
フェイは両手を広げる。周囲を嵐のように風がふきあれる。光の波に飲まれ、フェイの姿が見えなくなった。


「…LCL…だっちゃね…」
目を細め呟くピカード。

にゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅる…
やがて彼の周囲も波に飲まれ、視界から全てが消えた。

目の前を何かが回っている。
暗闇の中を、何かの光がぐるぐると回っている。
「…」
フユツキは目を開くが、周囲がよく見えない。

「…で…ゆ…はっ…す…ゆー。はっぴ…ーさーん。」
フユツキは周囲を見回した。
「はっぴーばーすでい、とぅーゆううう。」

「「「わあああっ!」」」
クラッカーを打ち鳴らし、お祝いをする子供達。

「お父さん、お誕生日、おめでとう!」
子供達の一人、次女の碇レイが、フユツキの所へ駆け寄りデコにキスをする。

「ああ、レイ、有り難う。」

「どういたしましてっ。」
ニッコリと笑うレイ。
フユツキはバルベールの自宅の居間で、子供たちに囲まれ安楽椅子に座っていた。そう、今日はフユツキのマイ・バースデイだ。
外は吹雪いているようだが、部屋の中には暖炉が置かれ、暖かな雰囲気に包まれている。

次女の隣の子供が、じれたようにフユツキの袖をひっぱる。
「ねえねえ、早くロウソク!」

「あ、ああ、そうだったな。」バースデイケーキの前に立ち、息を吸うピカ。
「はああ…ふううううう。」
バースデイケーキの上に立てられた6本のロウソクの火を一気に吹き消した。

「「「わあああっ!!」」」
再び大騒ぎをする子供達。フユツキはその様子を微笑みながら眺めている。

「ねえ、お父さん、お父さん!」
次女が椅子の陰から、何やら包みを持ってきた。

「プレゼントっ!」
ニコ、と青いリボンでラッピングされた箱を手渡すレイ。

「ああ、レイ、有り難う。」

その様子を見て、次女の隣の子供が次女に抗議した。
「あーっ、お姉ちゃんだけずるいーっ」

「レイも自分で何か用意すれば良かったでしょっ。」

「ぶーっ」
次女の言葉にむくれる三女の碇レイ。

「あー、まあまあ、レイも、気持ちだけでも嬉しいよ。」
包装を開きながら、ピカがレイ(三女)に向かって言う。

「ほんとに?」

「本当だ。」

「お父さん…大好きっ。」安楽椅子に座っているピカに抱き着くレイ(三女)。
「あははは、本当にレイは甘えん坊だな。」
ピカはレイ(次女)のプレゼントの箱を開けた。

「これは…実にプリチーな、ミカヅキモのぬいぐるみじゃないか。」
透明で、筋の入ってるプヨプヨした物体を手に言うフユツキ。

「う、うん。レイとお揃いの。」
レイ(次女)は頬を赤らめる。

「そうか、どうも有り難う。」

「…うんっ。」

「お父さん。」

「ああ、レイ。何だい。」
フユツキは最後に碇レイ(長女)の方を向いた。

レイ(長女)は落ち着いた様子で語り掛ける。
「お誕生日、おめでとう。できたら今度の週末、サプリの方で開催されるウツボ園芸展を一緒に見に行きましょ?」

「ああ、そうだな。そうしよう。」

「うん。」


食卓の方から、彼女たちの母親、つまりフユツキの妻が顔を出す。
「皆、食事の用意が出来たわよ。」

「「「はーい。」」」
食卓へかけていくレイ(長女)、レイ(次女)、レイ(三女)。

「…あなた。」
子供達が食卓についたのを見計らうと、母はフランス人らしい情熱的な態度でフユツキの方へやってきた。立ち上がるフユツキ。2人は抱擁する。
「…幸せ。愛してるわ。」

「ああ、私もだよ、レイ。」
碇レイ(妻)と熱い口付けを交わすピカ、ちゅうう。
レイ(妻)と微笑み合い、ピカは再び彼女を抱きしめる。

「「例えばオレ達生まれなければ 生きる意味など分からなかった 開けてはいけない扉もあるよ Everybody!♪」」
抱擁したまま、バルベールの民謡を一緒に歌い出す夫妻。


「Hey hey へ、…」
その時ふとピカは、妙な臭いに気が付いた。
「……こ、これは、確か…」

「へいへいへ、…どうかしたの?」怪訝そうな表情で尋ねるレイ(妻)。

「ねえー、お食事まだあ?」
食卓の方からレイ(三女)の声が聞こえてくる。

「ちょっと待ってなさい。…あなた、大丈夫?」

「ああ、いや、大丈夫だよレイ。(この賞味期限切れのエスカルゴにも似た臭いは、確か…)」
ピカはレイ(妻)に向き直る。
「すまない、忘れていた用事があるんだ。何分もかからないから、先に食事を始めていてくれないかね。」

「…でも…」
眉を上げる碇レイ(妻)。

「大丈夫、すぐに戻ってくるよ。」

「…分かったわ。」

フユツキはレイ(妻)に微笑むと、居間を後にし玄関の方に向かった。


「…」
玄関に来たフユツキは言葉を失った。

「ボン・テンキ。」
そこにはお揃いのモスグリーンの雨ガッパを着た、キョダツムリとマユミ・ガイナンがたたずんでいた。

「ま、マユミ君…何故君が、ここに……あ、ああ、ボン・テンキ。」

「どうも。…あらよっと。」マユミは頷くと、上げていた手を下げ、タウンページ青森県南部版を(まるで宣教師の如く)小脇に抱えつつ、乗っていたツムリから飛び降りた。

マユミはいつもの無表情でフユツキの目を見た。
「艦長…あなたは、何故、ここへ?」

苦笑するピカ。
「何故? 何を言っているのかね? ここは、私の家だよ。フランス、バルベールの自宅だ。…ああ、上がってくれ給え、ここは代々ポマト農園をやっていてな、ここのポまんは新潟県内でも」

「…艦長。」マユミはフユツキの言葉を遮った。
「バルベールには、もうあなたの家はありません。バスガス爆発で燃えてしまったんでしょう?」

「…いや…それでは、…そんな事がある訳はないだろう。現に今こうして、この家はあるではないかね。それに家族も、…ああ、私の妻と、可愛い子供達を、君にも紹介しよう、」

「艦長、…艦長には、家族はいなかったはずです。違いますか?」

信じられない、と言った様子で眉を寄せるピカード。
「そんな…そんな馬鹿な事があるはずは…」
廊下の奥の方から、子供達の楽しそうな歓声が聞こえてくる。


「艦長。艦長は、エバンゲリオンの中でも、一二を争って言動に信用があるこの私の言葉でも、信じる事は出来ないと、そう言われるんですか。」

「…誰?」
思わず呟くピカ。

ガイナンは怒るでもなく続けた。
「…分かりました。艦長、それではお聞きしますけど、艦長の一家は、伝統的に皆スキンヘッドだったと思いますが…艦長の「御家族」は、」
目で廊下の方を指すガイナン。
「何故皆髪の毛があるんですか? しかも皆さん「碇レイ」だし。」

「…」フユツキは一瞬狐につままれたような表情を見せ、ゆっくりと、廊下の奥の方を向いた。
「………そう言えば…何で全員同じ名前なのだ……今の今まで全く気が付かなかった…」

「更に言えば、皆さん全く同じ外見でもあります。」冷酷に付け加えるマユ姫。
「お分かりですか。今私達がいるこの世界は、全くの幻想、夢の世界であって、現実ではないんです。」

「…LC…L…」

「そうです。」
マユミは満足気に頷く。

「…今なら艦長も、御分かりになるでしょう? LCLが何故、LCLと呼ばれているのかを。」「いいや全然。」

無視して続けるマユミ。
「LCLでは、全て自分の望み通りの物が手に入るのです。そして艦長の望みは、御自分が持たれる事の無かった「家族」、って言うかハーレム、だったのでしょう。でもここは現実の世界ではないんです。」

「しかし、マユミ君…君はLCLの外の世界に戻ったはずだろう? 何故今、ここにいるのかね。」

タウンページをまるで扇子のようにあおぎながら、ガイナンが微笑む。
「本物の私はLCLの外に戻りました。私は…言わば本物の私の影、足跡のようなものだと思って下さい。」

「良く、分からないが…」

マユミは軽く肩を上げた。
「その辺りを突っ込まれても困ります。私も分かっちゃいないんです。」


「あ、そ。」
ピカは息をついた。
「いや、話は中々面白かったよ。それでは、レイが待っているのでそろそろ」
ひゅううう、ひゅうううう、ずがああああん。

「「…」」

べっとり汗をかいたフユツキは、居間の方を見やった。
「…何か今、ズズの頭から、居間方面にトマホーク砲が発射されたように見えたが…」

「正確には感熱自動追尾型ム弾です。」
几帳面に答えるマユミ。
「艦長の事ですから、どうせドリームから簡単に戻る気にはならないだろうと思っていましたから、事前に用意させて貰いました。にこっ。」
擬音入りで微笑む姫。

「………」
パチパチ、パチパチという音と肉の焦げる臭いが充満するピカード家玄関で、フユツキはしばし呆然と立ちすくみ、
「っておい、ひ、人の家族簡単に虐殺すんなや! おいいいいぃ! 何さらしとんやワ゛レェエエ!」
ぼがああん。ぼがあああん。

「うわ、わ、わわ」
足元に発射されるム弾をよけようと必死で「踊る」フユツキ。

「「ああ、マユミ君、私が間違っていた! 確かにここは現実ではないらしいな!」」
ダンシングピカを前にマユミは勝手に一人芝居を始めだした。

「その通りです。艦長も、早くこの世界を脱け出さなくては。」

「「そうか、…しかし問題がある。私がここに来たのは、ドクター・ソランが恒星系を犠牲にしてLCLを引き寄せてしまったからなのだ。」」

「そうでしたか。それでは、彼女が実験を成功する前に、戻らなくてはいけないという事ですね。」

「「…どういう事かね?」」

「ここでは、一般の時空上での「時間」は無意味なのです。ここには始まりも無ければ終わりも無い。つまり戻ろうと思えば、好きな時間に戻る事が出来るんです。」

「「そうかね…しかし、私一人では、彼女は止められないだろう…誰か、私に力を貸してくれる人物が必要だ。…マユミ君、君なら力になってくれる。」」

「御言葉は有り難いのですが…艦長。言った通り、私は本物のマユミ・ガイナンの影でしかないんです。残念ですがお力にはなれません…」

「「そうか…」」

「ですけど、きっと力になってくれるであろう方は知っています。その方は、この世界では…まだ、昨日来たばかりという事になっていますけれど…」


「……劇は終わったのかね?」
疲れた様子で尋ねるフユツキ。

マユミは「なるほど」という様子で頷いた。
「分かりました。そうまで言うならその方の所へお連れしましょう。さあ、こちらへ。」

「いや、私は何も言ってないが…、お、おい、人の話を聞いているかね?」

マユミはズズの殻のドアを開けた。
「どうぞ。」

「え、え、え?」
ぼがああん、ぼがあああん、ぼがああ
「わ、分かった分かった、入るから! 入れば良いんだな! 入れば!」

ツムリの中へ足を踏み入れるフユツキ。同じく乗車するマユミ。
「うわ、く、く、くクサッ、何だこの腐敗臭は、だ、出してくれ、だ、だ、おわ、足がめり込む! どこも粘着質で、おう、むー、むーむー」

「しゅっぱつ、しんこー。」
棒読み台詞のガイナンが片手を上げると、ツムリバスはピカード家(跡)を後にした。


のどかに広がる水田地帯。そこを一気に横切る国道沿いに、瓦屋根の一軒家がある。
空は雲一つ無い快晴。時折ダンプが道を走り、田には物干しざお製のかかしが立ち、それのまとうボロきれが風に揺れている。
「…ここは…」
ピカは気が付くとバスから降ろされていたらしく、キョロキョロしながら道を歩いていた。

「ふんふふふふふんふふんふーん、ふんふんふふふんふふんふーん♪」
生け垣の向こうから、機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえる。

「ラルカンシェルですかな?」
フユツキは敷地に入り、鼻歌の主に尋ねた。
「……って言うか、何編んでんです?」

自宅の庭先で趣味の編み物をしているらしい男がフユツキの方を向く。
「鯉のぼりだよ。君は知らないのかい?」

「鯉のぼり?」

「ああ。ここテキサスでは、5月5日のチルドレンズ・エラディケイション・デイには、鯉をかたどった吹き流しを庭に飾る習慣があるんだ。」

「て、て、テキサス? ここが?」
周囲を見回すピカード。

「当たり前だ。大丈夫か? …そこの看板を見てみろ。」

「「電話金融 マルフク ダラス 808-」…」
塀にある看板を見るピカ。
「た、確かに…それにしても、いや、私も鯉のぼりは知っていますが、…鯉のぼりとは、編む物だったのですか?」

「現に今、編んでる。」
両手に編み棒を持って、庭石に腰掛けている男は肩を上げる。

「毛糸で?」

「ああ。」

「しかも、異常にリアルな図柄ですな…」
フユツキはかがみ込み、男の編む、群青色で目の死んでいる鯉のぼりをしげしげと眺めた。

「それはまあ、可能な限りリアルに編まなければ、恋の神に申し訳ないからな。ああ、分からなかったかもしれないが、つまり「鯉」と「恋」をかけている訳だな。昔の人々も中々ユーモアが、」

「あ、あの、テキサス、でしたな?」

「…勿論さ。何かおかしいか?」

「…いえ…」
呟くピカードは、拉致られて来たやって来た理由をふと思い出し、改まった様子で男の顔を見た。
「ああ、カーク提督。私は…」

ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ…
「ん?」腕時計のアラームを止めるカーク。
「ああ、もう2時か。「ダサイ亭主改造計画」の時間じゃないか! こうしてはいられない!」
カークはピカードの存在をまるで忘れたかのように、すたすたと自宅へ歩いていく。

「あ、あの、提督? す、すいませんが、提督?」
後を追うフユツキ。


「提督、話を聞いてくれませんか。実は大変重要な事があってですな、一つの恒星系が今、危機に瀕している所なのです。ヒッパレ第三惑星のドクター・フェイ・ソランという科学者を止めなければ、大変な…提督?」

「いやあ、やはりきよ彦のファッションセンスには毎回圧倒されるな。特に紫の色使いと、清潔で、それでいてどこか色っぽさを忘れないヘアスタイルは大いに参考になるよ。」

「は、はあ…」
2人は居間で、テレビを見ていた。部屋にはビジュアル系バンドのポスターやら「カンザス」「みししっぴい」(勘亭で)等のテナントがびっしりと貼ってあり、ラガービールの空缶が奇麗にピラミッド状に積まれてある。

「おお、今日のご亭主は…うーん。ダメなんだよな。こう、最初からある程度イケてるのが見えるような亭主は、やっぱりこうカタルシスがなあ。」
腕を組むカーク。

「あの、提督、力を貸して頂きたいのです。私は24世紀の未来から来た、フユツキ・コウゾウ・ピカード大佐です。USSエバンゲリオン四号機の艦長を…」

「未来だって?」鼻で笑うヒデオ。
「とんでもない、これは過去の事じゃないか。私が艦隊に入る前、アカデミーで…そうだ、思い出したぞ。この後アミーゴが来るんだ。そして私は彼女と一緒に今の番組のビデオを見て良い雰囲気になり…そして私は、プロポーズするんだ!」

「…」

カークは頭を振り、苦笑しながらピカードに言う。
「25年前の私は、艦隊のキャリアや負債の事を考えると、結局プロポーズは出来なかった。…でも、今回は違う。」


ぴんぽーん。
カークはチャイムの音に立ち上がる。
「ああ、ついに彼女が来たぞ。」テレビデオの取り出し口からタイマー録画中だったテープを取り出すカーク。

「提督、どうか分かって下さい、この世界はLCLと言って、現実とは違う幻の世界なのです。」

「何を言ってるんだ。」
台所へ行き、メッコール缶を3つ取り出したヒデオは、そのうちの1つをフユツキに投げてよこした。
「この缶の冷たさも、」
ぷしゅ。
「…麦っぽさも、全部本物じゃないか。…もう艦隊の規則に従い、仕事に次ぐ仕事をこなしていくのはこりごりだ。今度は、私の好きなようにやらせてもらうよ。」

「…しかし提督、…記憶を確かめて下さい、ここに来る前は、提督は何をされていました?」

「え?」考え込むヒデオ。
「そうだな、確か…そうだ、私は、来賓としてエバ弐号機の処女飛行に立ち会っていて、未知のエネルギー波に襲われたので、脱出の為必死で船のディフレクターの調整をしていた…そして、調整は成功したが、時間が間に合わず、エネルギー波が衝突し、……そして、気がつくと、ここで鯉のぼりを編んでいた。」

「そのエネルギー波がLCLなんです。良いですか提督、」


ぴんぽん、ぴんぽーん。
「ああ、いけない、アミーゴを待たせてしまった。」ヒデオは慌てて玄関のドアを開け、外に出て行ってしまった。

「…」
困った様子のピカも(メッコールを置き)ドアを開け、カークの後を追う。


「「…」」
2人は周囲を見回していた。
「ここは…さっきまでの玄関先とは違いますな。アミーゴさんもいないようですが。」

2人が玄関を開けて出た先は納屋だった。
「ああ…しかし、こっちの方が良いな。ああ、レオナルド!」

ふごっ。
納屋の端に貧相なロバが繋がれている。
「丁度乗馬をしたい気分だったんだ。」ロバにまたがるヒデオ。
「さあレオナルド、おーよしよしよし良い子だ、さあ行くぞ! はあっ!」

ぽか、ぽか、ぽか、ぽか…

「あ、て、提督、待って下さい、…」カークに置いていかれ、慌てて周囲を見回すピカ。
徒歩で追っても充分間に合いそうではあったが、フユツキはすぐそばの田植え機に目が行った。


「レオナルドぉおおおおおおお!」
ぽか、ぽか、ぽか、ぽか…(小休止)…ぽか。ぽか、ぽか、ぽか、ぽか…

「提督ぅうううううううう!」
ががががががごごごごごががががががごごごごごごごがががががが…


農道を越え、川岸に着いた2人。カークはふと止まり、川向こうの景色(水田)を眺めた。追いつくピカ。
がごごごごごがが。
「提督。お願いします。力になって下さい。」
田植え機を止め、運転席から声をかけるピカード。

「…君は確か、これが現実ではないと言っていたな。」

「え、ええ。」

「それではこのレオナルドの走りも、今向こう岸で待っているアミーゴも、全てかりそめの物にすぎないと言う事か?」

カークの視線を追い、向こう岸を見るピカ。
「野良ロバ1頭しか見えませんが…」

「ああ、彼女が私の最愛の恋人、アミーゴだ。本名鈴木あみ。」

「え、え゛?」

「…彼女の事で、レオナルドとはよく喧嘩したものさ。」
目をつむり、思い出に浸るヒデオ。

「そ、そうですか…」

「しかし、それも全て本物ではないというのか…」


「…残念ですが、幻です。提督。」

カークは初めて、はっきりピカードの方を向いた。
「君は、エバンゲリオンの船長をしていると言っていたな。…24世紀で?」

「ええ。」


ここでの見た目はむしろ年下に見えるヒデオは、自分の教え子か何かを見るような目でフユツキに微笑んだ。
「一つアドバイスをしよう。エバンゲリオンを離れるな。…あの船には、他の船には無い不思議な力がある。他の船では許されない事でも、あの船でなら許されるんだ。」

「…」

「ここだけの話、私がエバの船長だった時のクルーは協調性のかけらも無く、最悪だった。船の装備も、未来の君たちから見たら貧弱なものだったろう。…しかし、それでも…」
カークは首を振った。
「あれだけ好き勝手に出来る職場は、何物にも代え難い…」

「…」ピカードは誇らしげに頷いた。
「同感です。」


「…提督。私が、私の船が、惑星の住民達が、提督を必要としているのです。又歴史に名を残すチャンスですぞ!!」

「そ、そお?」

「勿論ですとも! その後また、若いロバを探す事も出来るでしょう。本物のね。」

「そうか…その、ドクター・フェイ・ソラン?という奴を止めれば良いんだな? 戦況はどうなんだい? 不利か?」
ヒデオはレオナルドの向きを変え、フユツキの方を向いた。

「…ええ、まあ…」

笑って首を振るカーク。
「ミスター・スネックが聞いたら、「また地球人は危険手当の為に無茶をする」と言いそうだな。」

「提督…」

「…でもあれは、税率が低い。」カークはニヤリと笑った。

「提督。」

「行くぞ大佐! そいつの所へ! レオナルド、行けえっ! はいやっ!」
ぱこ、ぽこ。…ぱか。ぱか、ぽこ。ぽか、ぽか、ぽか、ぽか…
ががごごごがーがーがーごごごごごごごご…


フユツキは田植え機のエンジンを再開しながら、後ろを向き、川の向こうに友達の輪、ばりの「OK」サインを出した。
向こう岸の物陰には、明らかにこちらに何かの照準を合わせていたバス生命体と眼牙熱子の姿があった。

やがてカーク(とロバ)とピカード(と田植え機)は何かの光に包まれた。


どがあ、どががががががががががががが

エバ円盤部は大気摩擦に赤い炎を上げつつ、惑星地表への「着陸」コースを取っていた。
「既存のダンゴムシエンジンで逆噴射をかけるんだ!」

ブリッジは椅子に座るのも困難なほど揺れ、その騒音で会話もままならない。
「それでコース調整をしてはいるのだけど、これ以上のショック回避は困難であると推測されるわ!」
レイタが副長に怒鳴り返す。

目の前に、どんどん迫る惑星の地表が映し出された。
「着陸まで後30秒!」

どがががががががががががががががが。
よく見ると、後方のゲォーフは既に尿だけ残しどこかへ飛んでいってしまったようだ。
「副長より全クルーに告ぐ! …怒っちゃいやああああんっ!!」

ひゅうううううううううん…………
どが、どが、どが、どがががががががががががががががががががががががががががが…

円盤部が地表に接触する。しかしスピードはまだまだおさまらず、円盤部はそのまま木々をなぎ倒し進んでいく。


ミサイル発射台の設定が済んだらしいフェイは、一しきりのびをして、がけを渡りかけられている吊り橋の上を渡っていた。

「ふう…って、あら? あんた誰よ?」
怪訝な様子のソラン。しかし目の前に立ちはだかる相手から何らかの殺気は感じ、すぐさま後方へ逃げようとする。

「彼はヒデオ・デキスギ・カーク提督だよ。歴史の本で習わなかったかね?」
彼女の後方にはフユツキが立っていた。

「ちっ」
フェイは2人をうまくかわし、橋の向こうへ走っていく。
ぴぎゅん、ぴぎゅん。

「「わわわ」」
途中で振り向き2人をフェイザーで撃とうとするフェイ。踊るピカとカーク。
ぴしゅん。
「「うわあああああああああああああああっ」」
橋の綱を撃たれ、さっそく谷底へと落ちていく2人。

「…」
しばらく走り岩陰まで来たドクターは唇をかみながら、再びリモコンに手をかける。彼女がリモコンのスイッチを押すと、どこから転送されて来たのか、ミサイルが発射台の上に姿を現した。

ぷすっ
「!」
フェイの立つ岩壁のすぐ横に細い矢のような物がささった。驚き周囲を見回すフェイ。

「ここだ。」「…くっ!」
物陰から現れ、フェイを押え込もうとするヒデオ。抵抗するフェイ。
「どうだったかい? 今の必殺・濡れ編み棒は?」

「(…濡れ?)…あんたの顔、あたし、知ってるわよ。」

断崖絶壁の細い道で取っ組み合いをしながら、ソランはヒョウのような笑みを見せた。
「あたしこう見えても、結構歴史には詳しい方なの、カーク提督。…でも確かあんた、もう死んでるはずじゃなかったっけ?」

取っ組み合いをしている内に、フェイはミサイル発射装置のリモコンを落としてしまった。
「あっ! …くっ。ふんっ」「おわああああ」
カークも再び谷底へ。


谷底では、ようやく組み立て直ったらしいピカの上にカークが落っこちて来ていた。
「おわあああああああ」ばふっ。
「もぎゅ。」「…あああああああっ! っつう…」

「…た、大佐。大佐! 起きるんだ!」
起き上がり、下敷きのフユツキを助け起こすヒデオ(2人とも丈夫である)。

「…あ、ああ。提督。」
2人が岩壁を見ると、フェイは何とか谷を渡りまた発射台に戻ろうとしているらしい。

「…大佐。私には、あの女はどうも馬が合わない。」

「え、え、えええ」

「こう見えて、昔から人間の女は苦手なんだ。あっちは君に任せた。」
ぽんぽん、とピカの肩を叩くカーク。

「は、はあ…じゃあ、ミサイルの方をお願いします。」

「どうするんだ?」

「えー、発射装置を無効にするか、ロックをかけてしまうか…あるいはミサイル内の誘導装置を取り外すか…」

「分かった、やってみよう。」
頷き合う2人。

「頑張って下さい、提督。」

「「ヒデちゃん」で良いさ。」
再びピカの肩を叩くと、カークはミサイル台の方へ走っていった。

「…」
ピカ絶句。


岩肌を登るフェイは、急に息苦しさを感じた。
「フ…フガ…っておいいいいい」
上からスパイダー・萬(コギャル)の如く鼻の穴を狙ってやって来たピカを投げ飛ばすソラン。
「(あれだけ気配を隠す才能があって直接戦闘に使わない辺りがアホよね…)」

ひゅうううがしっ。
「かあっ」
途中の岩肌に着地を決めたピカードは挑戦的な言葉を吐く。
「どうした? ビビっているのかね。ビビリ入ってるのかね? お姉ちゃん、それシャバくない?」「…」

「フッ、今度は失敗しないぞお。ピカちゃんパンチ、略してぴかあああんち!」

ぽろっ
「あっ。」「…」

「くっ、気を取り直してえええっっ! セカンドピカンチ、黒ひげパンチ連打あああっ!」「…」

ぽろっ。ぼすっ。
ピカンチは下から上方の物を狙うには非力でありすぎるらしく、フェイのいる場所に届く前に重力に従い落下していった。
「ああああああ、私の腕と頭はどこへ行ったあああ」
迷走するピカ胴体。

「……(どうやって喋っているのかしら…)」
じっとりと汗をかくドクター。


ぴっぴっぴ、ぴっぴっ、ぴっぴっぴ…
カークは顔をしかめながら、発射台の装置を設定しなおしていた。
「(分からん。…24世紀のシステムだと?…分かる訳が無い! そもそもひらがな以外の文字が使われているじゃないか!)」

漢字混じりの設定メニューを前に頭をかきむしるカーク。
「(…くう、一体どうすれば…)」

すちゃ。
「はーい、そこまでよ。」
ヒデオは後頭部にフェイザーを付けられるのを感じた。ゆっくりと両手を上げるヒデオ。

鼻で「フン」と息をつくフェイ。
「はーい。良い子だからそのままこっち向いて。おとなしく発射台の外に」ぷすっ
「う、ううううううう!」
カークが口にくわえていた濡れ編み棒を吹く。喉を押さえ倒れ込むソラン。カークはソランのフェイザーを奪い取り、谷底へと投げる。


「…ううむ、一体どうすれば……誘導装置?」
カークはピカの言葉をふいに思い出した。ミサイル発射台の上に上がり、ミサイルによじ登り出すカーク。

「誘導装置…誘導装置…」
カークはミサイルの先端部までやってきて、フタを開ける。制御チップらしき物を探すカーク。

「これか!」

「待ちなさい!」
カークの下から、同じくミサイルをよじ登って来たフェイが現れた。制御チップを奪い取るフェイ。2人はミサイルの上で取っ組み合い出した。

「こらっ」「くっ」「ああっ」「このっ」「ちっ」「ふんっ」「むう」「はっ」「発射5秒前。」
「くのっ」「ふんっ」「あっ」「ちいっ」「いっ」「はっ」「ふうっ」「くっ」「発射2秒前。」

ふと我に帰るヒデオとフェイ。
「「え?」」「発射。」


ずごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。

コアラよろしくよじ登ったカークとソランを乗せたまま、ミサイルは発射されていった。からんからん、と発射台近くに落ちるミサイル誘導装置。

ぼが、ぼがぼがあああああああああああああああん。
誘導装置の無いミサイルは、恒星に至る前にコアラ達を乗せたまま爆発する。


谷底では、(再び組みあがった)ピカードが「たまやー」と呟いていた。(リモコンを手に。)
恒星系とエバンゲリオンの危機は回避された。


フユツキは悲嘆にくれた表情を見せていた。
主に自分が殺った(しかもかなり計画的に)事とはいえ、連邦の伝説と呼ばれた、バンコクのゲテモノ料理屋では油揚げにされているらしいと呼ばれた、そしてオレンジの汁にはなぜか弱いと呼ばれたあのカーク提督が、今度こそ本当に亡くなってしまったのだ。

ざくっ、ざくっ、ざくっ。ざっ。
「…(せめてもう少し、パッチワークの話が出来れば良かった…)」
岩場の頂上で、アイスの棒を立て、カークを弔うピカード。

その時夕日の向こうから、カークの大きな笑顔がピカに語り掛けて来た。
「気にする事なんか無いぞ!」

「て、提督!」
立ち上がるピカード。

「大佐…いや、コウちゃん。一つだけ言わせてくれ。ラルカン・シェルじゃない、ラルク・アン・シエル、だ。それからビジュアル系じゃないぞ! 客観的に見てどうであろうと、ビジュアル系じゃ、ない。ビジュアル系なんて呼ばれた日にはファン激怒だぞ! それだけは、忘れないでいてくれ。じゃっ」
それだけ言うとカークの顔は消えた。

「提督…(でもフランス語では、「ラルカン」って繋げて発音するのがふ…ま、良いけど…)」


艦隊本部から派遣された救助用シャトルが、ピカードのそばに着陸して来ていた。


「重傷の怪我人が6名、軽傷多数ですが、幸い死者は出ませんでした。マイマイカブリ等も含めてです。」
ライカーとピカードは、惑星に軟着陸し、ほぼ大破した円盤部の艦長室にいた。天井から日がさす以外に明かりはなく、どこも埃がひどい。

「良かったよ。死者が出ないのが何よりだからな。」
カイワレに答える殺人犯。

「ええ…しかし、船の方はもう、修復は無理ですね。」

「ああ、そうだな。」
本来机があった場所の付近のダンボールをかきわける艦長。

「…何を探してるんです?」

「いや、この辺にあるはずなのだが…ああ、これだ。ぽすた、ぽっすた! ああっ、もう埃が」
ぺし、ぺしっ
「ああんもうレイちゃん怖かったでちゅねー。もぉおう大丈夫でちゅよー。ちゅううっ」

「…まあ、おおむねそんな事だろうとは思ってましたが…」


ブリッジではカウンセラーとレイタが落ちてきたダンボール類を片づけていた。
「ねえレイタ、もう感情の方は平気になったの?」

「ええ。3種類の基本的感情をベースに発生しうる3の24乗つまり2824億2953万6481パターンの内、5万7833パターンまで経験した時点で、87.6パーセント以上の信頼性で感情をコントロール可能であるという結論に達したわ。」
全裸に微笑んで答えるレイタ。

「そ、そう。良かった、わね。」

「ええ!」溢れんばかりの笑みを見せるレイタ。

ぴぴぴ…
「あら?」
レイタはトリコーダーの表示を見る。

「非常に微弱なエネルギー反応が見られるわ。トリコーダーは、生命反応であるかどうかの判断を保留しているのだけど…」
ミサトとレイタは目を合わせた。

がしゅっ、がしゅっ、ずざっ、がごごがが、ばきっ。
「「…」」
反応のある地点のダンボールや機械類、椅子等をぶん投げていくレイタ。
レイタは中から出て来たものを見て嬉しい驚きの表情を見せた。

「みゃー。」

「プチット!」「え?」

「みゃー。(あー、助かった、このまま置いていかれるかと思いましたよ!)」

「こっちに来て。そう。怖かったでしょう。でも、もう大丈夫。」
黒猫を抱いて頬擦りするレイタ。

「みゃー。(ああ、少佐、あの、あ、気持ち良い…じゃなくて、早く元に戻して貰えると有り難いんですが)」

「あの、レイタさん。…何やってんの?」
眉を寄せて聞くトロイ。

「私の飼っている猫が見つかったの。」
笑顔で答えるレイタ。

「にゃー。(あの、僕の事は? …忘れてないですよね?)」

「どこにも見えない…けど。」

「今度見えるようにさせてあげるわ。」

「…あ、い、いや、結構っス、結構っス…」ブンブン、と手を振るミサト。

喜びと使命感に満ちた顔で、レイタはすくっと立ち上がった。
「いいえ、カウンセラー、是非あなたにも見せてあげるわ! この感動を船の皆に分けてあげたい! そうよ、簡単な手術だから心配はいらないわ、さ、今すぐ一緒にドクター・クラッシャーの所へ」

「れ、レイタさあん、勘弁してくださいい(涙)」

「みゃー。(忘れてないですよね!?)」


「…」
ブリッジにやってきた副長は、埃だらけの艦長席を前に感慨深げに立ち止まった。

「どうしたのかね、副長。」

「…結局、この船で艦長を殺す事は出来なかったのかと思うと…」

フユツキはリョウジの言葉に笑う。
「安心し給え。数字はまだたくさんあるさ。四号機の次は伍号機だ。伍号機の次は六号機。六号機の次は…七号機は無いから飛ばして、八号機だ。」

「ええ、な、何故ですか。」

「ここでは言えん。」

「…」

「ところで、ある人が言っていた言葉があるんだが…人生とは、お金が無い時のコインシャワーのような物、だそうだ。時間が足りない、という事だな。しかし私はこう思う。人生とは、テトリスみたいな物だ、と。終わる時は終わるし、続く時は続く。まあ、余り意味のある物ではないが、かと言って全然つまらないという訳でもない。…どうだ、そう思わんかね。」

「俺は、ぷよぷよの方が良いですね…可愛いし。」

「人の話聞いてる?」


フユツキは不敵に笑って見せた。
「とにかく、これが最後のエバンゲリオンという事はない、副長、いつでもかかってくると良いぞ。」

副長は顎のカイワレを食べながら頭をかいた。
「いや、艦長、実を言うと俺…」

「何だ?」

「俺…(モジモジ)…お、俺…」

「…(何かヤな予感…)」

「お、俺、艦長の事がっ、艦長の事がっ!」「て、転送!」
ぴぎゅいいいいいいいいいいん。

副長と艦長は、ラブコメチックに追う体勢と逃げる体勢で、四号機ブリッジから転送されていった。

つづかない


ver.-1.00 1999_5/17公開
 
感想・質問・誤字情報・次回はいつですか?・FLIP FLAPとユリマリの見分けかた・次回はあるんですか?・どんぶらこー、どっこいしょー・フラン研さん自殺しちゃダメだっ!・モリマン今何やってんだろ?等はこちらまで!

映画予告

しがない大学生だったシンジに一通のメールが届く。そこにはベラルーシの芸能ゴシップがびっしり書かれていた。一方レイはJR全線乗り潰し計画を遂行中だったが、効率良い関西圏の回りかたに頭を悩ませる。それを尻目に無事ミンスクに着くアスカ。しかしそこで彼女を待ち受けていた物は、クマさんの鉄のゲージツだった。一大スペクタクルお受験ロマンス、「着メロ作って楽しいの?」。御期待下さい。


後書きコーナー

「おおおお、志保ちゃん、志保ちゃあん。しーほーぢゃあああんっ。」
「あー。何なんだ、これは。一体。」
「しほぢゃあああああん。志保ちゃん萌えも…ああ、ジェットさん始めまして。御覧の通り今回の映画版は、皆さんに出演して頂いたんですよ。」
「皆さん…って、つまり俺達、ビバ」
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい。その名前を出すと色々事情が…ですね。えっと…「カウホーイ・ヒハッフ」の皆さんという事で、どうでしょう。」
「言いにくいな…」
「カウホーイ・ヒハッフの皆さんは、今回出演されて、御感想等何か(ごすっ)う、ううう…」4秒後作者死亡。(死因どんぐり好き。
「今のが、御感想よ!!」
「お前さんが、一番出てたじゃねえか。何が不満なんだ?」
「あのね。不満に決まってんでしょ! 清純派で売っているこのあたしが、どうしてマッドサイエンティスト役なんかやらされんのよ! 本当の私は、虫も殺せない、清らかな心の持ち主だ、って言うのに!」
「…自分で言ってて気色悪くないか?(ばき、ごす)い、つう…」
「ったく…それにねえ、あたしは500歳のババアなんてそもそも想像もつかないわよ!」
「それも大差無いんじゃないのか。寝てただけで、お前さんだって(すちゃ)…な、何でもない。」
「そう、分かれば良いのよ分かれば。」
「…。それにしてもなあ、やっぱり、お前さんは恵まれてるぞ。他の俺達は出るシーンが随分少なかったじぇねえか。」
「そりゃまあ…やっぱり、この作者も少しは、あたしの重要性を認識してるって事じゃないかしら。」
「いや、単にお前の性格とキャラが(すちゃ)…そうだな。」
「でも結局、ジェットもちゃんと出番があっただけまだ良いじゃねえか。」
「あれ、あんた生きてたの?」「おお、スパイク!」
「知らねえよ。作者は衛星放送見れないから、まだ生きてるって事で良いらしい。」
「よく、分からんな…」
「そういえばあんた、今回一切出てなかったわね…」
「エド、何でだか知ってるよお。」「ワン。」
「げ、あんたもいたの。」
「うーんとねえ、艦隊の宇宙船のクルーに、賞金稼ぎみたいな一匹狼達がいるのは何か変だから、使わなかったんだってえ。」
「じゃ最初からあたし達使わなきゃ良いじゃない。」
「…って、俺はいて良いのか?」
「でもここのエド、へーん。エドひらがなだけで喋ってなんかいないよ。」
え。
「…」

「…KSHHHHHHHHEEEERRRRRRRRRRRR!!!!!!!!(怒)」
「人間語で喋ってくれよ、頼むから…」
「ワン。」
「そう、そういえばジェット、あんた喋れるんだ。犬語。」
「エドも喋れるよー。」「ワン。」
「はいはい…」
「…ん、まあな…」
「え?」
「お前、ガニメデ時代は犬相手の事件をよく担当してたんだろ?」
「まあな。」
「実際犬語は奥が深い。あのブルース・リーも、「犬語の流れるような鼻息をマスターした者は、そのリズムを体の動きに応用出来るだろう」と言っていた。」
「それがお前さんの始めた理由か。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って、あ、あんたも喋るの、犬語?」
「そりゃ、当たり前だ…って、お前、もしかして喋れないのか!?」「ワン。」
「え、え?」
「じゃーねー。」
「え、ちょ、ちょっと、これで終わりなの?」

イカリング


おまけ・新・衝撃のオフ会レポート

これは某ウェブサイト「4○4 File N○t Pr○f○und」のオフ会に赴いた作者のノンフィクション記録である−

1月16日(土曜日)

オンボロの、いつ壊れてもおかしくないようなB727。その窓越しに見える、埃っぽい街並み。私は緊張した面持ちでヨルダンの首都、アンマンに向かっていた。
今この文を読んでいる者で知らない者もいないだろうが、ここでこれから、非公式ではあるが歴史的な会談がなされようとしていた。カザフスタン現政権の大統領である砂漠谷麗馬氏と、解放軍ゲリラの指導者と目されている伯爵。氏が初の直接対話を行うのだ。ソ連からの分離独立当初から、必ずしも経済的に恵まれた条件が揃っているとは言い難かったカザフスタン。更に現在は長期的な紛争に伴う経済の疲弊で、国民の不満は限界に達していると言っても良く、反戦気運が高まっていた。今回のこの会談は、形こそ某ウェブサイトのオフ会という形を取ってはいたが、実際にはこの2人と、あのあおぎりない師を含めた3人による和平会談と言ってしまって良い内容のものであった。
ここであおぎりない師について説明しておこう。彼女は、私たちあおぎり派を結び付ける唯一にして最高の良識であり、知の結晶である。我々は皆、コートジボワールにある彼女の研究所で学んだ仲間達なのだ。ナナイヤフガフフ研究所に於いて、いやコートジボワール、いや全世界の政界に於いて、設立者であるあおぎり氏の功績、人徳は高く知れ渡っている所である。現在進む道はそれぞれ違うといえど、砂漠谷氏も伯爵。氏も、元は同じ研究所で学んでいたのだ。
と言っても私達の誰一人として、いや、研究所員の誰一人として、彼女の姿を直接目にしたという者はいないのであった。(厳密には、りっちゃん氏のみは以前一回だけ彼女と会った事があるらしい。)あるいはそのミステリアスさが、更に彼女の評判を高めていたのかもしれないと言えるであろう。
また、伯爵。氏も、その名前はよく知られているものの素性については情報が殆ど知られていない。実は性別すら分からないのだ。伯爵。氏も、あおぎり師も、本当に約束の場所に現れるのだろうか? そしてカザフの和平は? 私が相当の場数を踏んだジャーナリストであるとはいえ、今回の「オフ会」に緊張の面持ちを隠せないのも、分かって頂けた事と思う。

今回のオフ会でまず最初に会ったのは、りっちゃん氏と齊藤りゅう氏であった。
アンマン空港の到着ゲート前で、金髪の少女が葉巻をふかしながら片手を上げる。(ちなみに会談の場所がヨルダンに決定したのは、「ヨルダンってインディー・ジョーンズのロケ地なんでしょお? きゃーっ、行ってみたいっ!」というあおぎり師のギリの一声であった。)
「Hiiii。研君、元気してた?」
「ああ、りっちゃん久しぶり。最近調子はどう?」
「そうね、ようやくアジア経済も下げ止まり感が見えてきて一安心って所かしら。むしろ今はアメリカの方が心配ね。…国民の過半数がマネーゲームに興ずるのは、あまりポジティブな兆候には見えないわ。」
相変わらずグラストロンをかぶりながら、困ったように腕組みしているりっちゃん。
「相変わらず大変、だねえ…」
「…あ、気づいてる? 私が今持ってるこのPC。実はこの中に、りゅう君のマン格が入っているのよ。」
葉巻を投げ捨て、スーツケースからWindowsCEマシン程度の大きさのマシン(特製だろうが)を取り出すりっちゃん。
「…漫革?」
「違う。マンボウの人格よ。ほら、この前のオフ会の時。あの後研君逃げちゃったでしょ? 薄情なんだからさあ。私は一回戻って、何とか彼の脳だけ持って帰ったのよ。彼が意識を持っている間にこっちに移すの、大変だったんだから。」
「この、中に、齊藤さんが?」
「そうよ。ハロー、ナビ。」PCに呼びかけるりっちゃん氏。
「りゅう君、りゅう君、ほら、研君よ。」
「ぬ? おおおおお、フランどんでごあすか、大変会いたかったでごあすよ。あれから汝は無事にお過ごしカイヤ川崎? いやあ、相変わらずでごあすなあ。その変な髪型。」
「…」
「あ、ちょ、ちょっとりゅう君、前より辛口になったかな? ま、とにかく、生きてて良かったでしょ?」
「え、え、まあ…(どうやって「見て」るんだろう?)」

しばらく市内のバザール等を見学した3(?)人は、アンマン大学構内で砂漠谷氏と落ち合う。
「おお、ひさしぶりじゃな。赤木君もますます母君の面影に似てきておる。」
「…そう。」
何やら気まずい雰囲気の2人。
アンマンの照り付ける強い日差しのせいかもしれないが、砂漠谷老人の皺はこの半年で更に増えたように見えた。まだ60代とは思えない風格だ。
「まるで死にかけ仙人でごあすう。もう片方の足はお花畑につっこんでぶっひゃっひゃっひゃっ」
「あ、ちょ、ちょっとりゅう君!」
手持ちのPCを焦って叱り付けるりっちゃん氏。
「(…本当に齊藤さんなのか?)」
「フラン君はどうだね? 元気でいたか?」
「え、ええ、まあ、落ち着きなく色々な所を飛び回っていましたが…」
「フラン君はこう見えて凄いのよ。」フォローを入れてくれるりっちゃん氏。
「この間なんか、スーパーガールとスパイスガールズの相関関係のルポルタージュを発表して、今年度のノーベルやんちゃで賞を受賞したんだから! まあ、見た目は見ての通り、電波少年で四畳半ロケをやらされそうな風貌だけど、」
「え、え?」
「おお、それはたいしたものじゃなフラン君、あれは中々狙って取れるものではないからな。」
「ねら…ど、どうも。」
それから3人はスークを見て回り、アンマン・ヒルトンに宿泊。明日の会談に向け、英気を養った。

1月17日(日曜日)

私たちはチャーターした軽飛行機で、一路遺跡のあるペトラに向かっていた。ここが今回の会談の場所である。
切り立った谷の中に、微かなピンク色の遺跡が眠っている。先日から観光客は全てシャットアウトされた為、この地を全くの静寂が包んでいる。
砂漠谷氏、りっちゃん氏、齊藤氏?、私の4人?はここでしばし休憩。トルココーヒー等を飲んでいると、やがてハリアー型戦闘機が上空をかすめた。
「「「「…」」」」
やがて遺跡の入り口から、アタッシュケースを抱えた黒服にサングラスの男達が2人歩いてやってきた。
「伯爵。さん…ですか?」
「…」
私が男に尋ねると、男は首を振り、無言でアタッシュケースを指差した。
「「「「?…」」」」
「「…」」びしっ。
2人は私達に敬礼をすると、向こうへ行ってしまった。
「これを開けろ、って事なのかしら?」
「危ないでごあす、テロの危険もあるでごあす!」
「伯爵。が、ここでわしを殺すような下劣な輩だとは思わん。開けてみるのじゃ。」
「で、でも、」ぱかっ
「早いっつうの!」呆気なく開けるりっちゃん氏に思わず突っ込んでしまう私。
「「「「…」」」」

ケースの中には、不思議な生き物がうごめいていた。
「やあ、皆始めましてっ! 僕達伯爵。だよっ! よろしくっ!」
「(カランコロン)…丁か半かっ?」
「「丁!」」「半!」
「…その夜ベアトリクス王女の元に、ツバメの使いがやって来てこう言いました。…」
「(カパッ)3-4の半っ!」
「「かあっ」」「よっしゃっ!」
「眩しぃんだよ、急にフタ開けんなよ! ちっ」
「…フ。クックック。クス。グフ、グフ、クックック…」
「ったくダリーんだよ、調子コイてんじゃねーよ!」
「…でも私がベネディクト家の王子と駆け落ちしてしまったら、我が王室はどうなってしまうの?」すると、…」
「あ、あの、見ての通り僕たち伯爵。は、7人組のユニットなんだ。一見まとまってないように見えるけど、心は一心同体さっ!」
「あーはいはい、勝手に言ってれば?」
「…フックックック、アハ、ク、フッフッフッフ、フ、フフ…」

「「「「………」」」」

「…何をどう会談しろというでごあすか?」全員の声を代弁して齊藤氏?が言う。
7人、というか7粒、の生命体が、ケースの中を所せましと動き回っていた。一粒14ミリ程度の大きさで、形状はカプセル的な物からパチンコ玉のような物まで様々だ。
「わしはこんなのと国を分けて戦っていたというのか…」
思わず呟く砂漠谷氏。
伯爵。達の中でもどうやらリーダー格らしい1粒が、両手(ちゃんとある)を上げて笑う。
「心配はいらないよ。僕が7人を代表して喋るか」「てめえさっきからうっせーんだよ!」「や、止めろ! わああああ」「クス、クス」
「「「「…」」」」
重い沈黙(ケースの中のみ小うるさい)が流れる中、どこからともなく低い震動音が聞こえて来た。

ごすーん。…ごすーん。…。ごすーん。…ごすーん。
「こ、今度は何でごあすか?」
PC(ナビ)の言葉に、りっちゃん氏がいつになく強ばった声で答える。
「…来たわ…先生が。」
「「「!」」」「きゃー」「わー」「クス、クスクス」「5-3で丁!」

地平線の向こうから、何やらコンクリートのマンションらしき物体が、ゆっくりと姿を見せている。
「…随分、大掛かりな移動法なんですね、先生は…」
「…いいえ。あれが、先生よ。」「「「…」」」
ごすーん。ごすーん。ごすーん。
「「「…えええええええ!?」」」

コンクリートのマンションらしき物体改めあおぎりない先生は、巨大ロボであった。
ごすーん、ごすーん、ごすーん。…ごすーん。うぃいいいいいいん、ががが。
先生は、土偶と大魔神と都庁を足して3で割ったような神々しい威容を放ってらっしゃっていた。
「…久しぶりね、先生。」
ビルに向かって、緊張した面持ちで言うりっちゃん氏。
ぴかーん。ぴかぴかぴかーん、ぴか、ぴかぴかーん。
何やら先生の目が明滅する。…すると、私たちの脳に直接先生のメッセージが聞こえて来た。
「あ、りっちゃん、超ぉひっさしぶりぃ。最近エッチしてるぅ?」
「え゛、ええ、…勿論よ。それなりにね。」
先生のテンションに呑まれたか、りっちゃん氏の金髪が心なしか色落ちしているように見える、のは気のせいか。
ぴかぴか、ぴかーん。うぃいいいいいん。ごごご。ぴかぴか、ぴかーん。ぴかーん、ぴか、ぴかーん。
「駄目よお、愛に飢えた女って、結構肌に出るらしいわよぉ? 仕事も良いけど、りっちゃん素材がイケてんだからさぁ、」
「あ、あの、先生。紹介するわ。」先生の目の明滅を遮る?りっちゃん氏。
「皆先生の事を慕っているからこそ、今日こうやって集まってくれたのよ。まずこちらが、カザフスタン大統領の砂漠谷麗馬閣下。それからこちらが、解放軍指導者の伯爵。氏。それからこちらがシンクタンク「まきちゃんファイヤー」所長の齊藤りゅう氏、こちらが国際ジャーナリストのフラン研氏よ。」
ぴかーん。ぴかーん。ぴかーん。ぴか、ぴかぴかーん。
「ねぇ、ここがロケ地だったんでしょ? えっと、何だっけ、スター・ウォーズだったっけ?」
「…インディ・ジョーンズ…じゃ、なかったでごあすか?」
「そうそうそれ。きゃあっ、ロマンチックぅ。ここでハリソン・フォードがさあ、…あれ? あれってジャック・ニコルソンは出てたんだっけ?」
どうもお話好きらしい先生の性格を察し、僭越だが私が口を挟んだ。
「あ、あの、先生、色々お話もあるでしょうが、まず、和平会談の方をですね、」
ぴかぴか、ぴかーん。ぴかぴか。
「ええっと、ごめえん、君、誰だったっけ?」
「…」

それから4時間程の間は、私たちはノンストップで明滅し続ける先生の有り難いお話に(半強制的に)耳を傾ける事となった。
「…で、っさあ。結局、仮にクソゲーのリスクが高くてもぉ、キラーソフトをどれだけ出せるかって事なんだよねぇ。セガが目測を誤ったのはその点なんでさぁ、」
ぴー、ぴー、ぴー。
「バッテリーを交換して下さい。バッテリーを交換して下さい。バッテリーを」「…あら。」
冷や汗をかきだすりっちゃん氏。
「せ、先生。そろそろりゅう君のバッテリーも切れそうだし、今回のオフ会の本題に入ろうかと思うんだけど。」
ぴかぴか、ぴかーん。ぴかぴか。うぃいいいいいいいいん。ぎぎぎぎ。
「えっ、そうおお? まだ話し足りないんだけどなぁ。」
「で、でもりっちゃんさんの言う通り、そろそろ、ね。」
「う、うん、そうよね研君。じゃあ早速、大統…大統領!」
「…ん! あ、あああ、わしは別に寝ておらんぞ。大丈夫じゃ。」
姿勢を直す砂漠谷氏。
「それからはくしゃ…伯爵。さん!?」
ぴかーん。ぴかん、ぴか、ぴかーん。
「あれえ、伯爵。ってそこにあった変な豆っころみたいなの? さっき私が来た時、全部震動でどっか飛んでっちゃったよ?」
「「「「(がーん)」」」」
「さ、探さないと!」
「そ、そうね研君! え、えっと…」
周囲を見回すりっちゃん氏と私。しかしサイズがサイズだけに、もう砂の中に埋もれてしまったかもしれない。
「…駄目、見つからないわ。」
「そ、そんな!」
「セルゲイがわしを恨む理由がまた一つ増えたな…」
「そんな悠長な事言ってる場合じゃないでしょう閣下!」
「バッテリーを交換して下さい。バッテリーを交換して下さい。バッテリーを」「ああっもううるさいわねっ!」
ばきっ、ごきっ、ばきっ。
PCを投げ捨て、ついでに踏んづけるりっちゃん氏。
「「あ、あーあー」」
ぴかーん。ぴか、ぴかーん。ぴかぴか、ぴかーん。
「ねえぇ、超つまーんなーい。これからカラオケするぅ? あーもうずぅっと立ってんのナナイヤ疲れちゃったぁ。ここ座ろうっと。」
うぃいいいいいいいん。ごすーん、ごすーん、ががが、ごすーん、ごすーん。ぎ、ぎぎぎぎぎぎ…

「「「あ、せせせ先生」」」
ごごごごごごごごおおおおおおん。がらがらがっしゃあああん。
先生がふいに歩き出し、遺跡の上に腰掛けようとする。当然粉々に砕け散る世界文化遺産。

ぴかーん、ぴかーん、ぴかーん、ぴかーん、ぴかぴかぴかぴかーん。
「何これ、チョーむかつくぅ。超ホワイトキックって感じぃ。あーもうあったま来た!」
ごごごごごおおおおおん。ごすーん。ごすーん。ごごごごごご。
「「「うわわわわああああああ」」」

…その後の私の逃避行は省略しよう。ハルマゲドンの起こったヨルダンを何とか脱出した私は、今こうやってパリのホテルの一室で文を書いている。…え? お前がママに膝枕で抱かれ、あまつさえパイオツをモミモミしたり、母乳をチューチュー吸っている光景が見える? それは確実に気のせいだ。って言うか病院行け。とにかく私はオフ会を終えた。オフ会は途中まではなごやかだったが、最後には伯爵。氏散乱&カザフ和平失敗、そしてもちろん齊藤さん死亡、という悲しい結果に終わってしまった。しかしこのままでは我らがあおぎり派は「音楽的方向性の違いから発展的に解散」だ。先生も悲しまれておられるに違いない。…多分。

閣下その他略へ、和平だけは、諦めないで欲しい。あのコートジボワールでのほろ苦く、ややとんがらCだった青春の日々を思い出し、友情パワーの真の威力を信じて欲しいと心から願うふり。

1月19日(水) ル・コンコルドにて

フラン研

注・本物のカザフスタン・ヨルダン・コートジボワール関係者の方へ:ごめんなさい。





 フラン研さんの『激情版エヴァントレック』公開です。




 がーん!
 ごーん!

 ・・・フラン研さんの意地悪・・・

 次の休みに見に行くつもりだったのよ・・・映画トレック・・・

 なんてね(^^;



 原作小説を読んでから映画を見るってやり方もあるしね。
 パロを予習してからってのもあるしね。

 トレック初心者の私にとっては良いHELPだ〜ね(^^)





 ・・・・ある程度わかったから・・・
 もう、見に行かなくてもいいや。

 なんてね(笑)





 さあ、訪問者の皆さん。
 新年一発目、フラン研さんに感想メールを送りましょう!




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