「もう、ちょっと待っててよ、今、昼食できるから」
「早くねー!」
アスカも女の子なんだから料理くらいやらないかな?
そんなことを考えながら、料理に専念するぼく。
さて、今日は日曜日なのですが、両親はいません。
父さんは、会社のつきあいとかで、ゴルフ。
母さんは、学校の保険医なので、休みの日に部活がある週は、学校で待機している。
とは、言っても学校の保健室でTVを見てるだけの仕事らしい。
母さんに言わせると、
「母さんがヒマだということは、ケガ人、病人がいないってこと。みんな元気だということだからいいことなのよ」
だそうだ。
確かに、母さんがヒマということは、いい事なんだろうな。
でも、僕らは、こういう日、手持ちぶさたで、することがないのだ。
アスカは趣味と言えば、オシャレにゲーム。
ぼくは、料理にチェロの演奏、園芸。
これじゃ、話が合うわけない。
まぁ、そんなことで、ぼくらの日曜日は割と何もなく送ってしまうことが多かった。
「アスカ、できたよ」
「待ってました!ごはん、ごはん」
ぼくは、えさを待つひな鳥みたいだなとアスカの事を思いつつ、自分は、親鳥かな?などと考えていた。
「また、チャーハンで、ごめんね」
「たしかに、またよね。でも、いいわ、シンジのつくるチャーハン美味しいから」
「そう、よかった」
「いただっきまーっす」
「はい、めしあがれ」
そう言いつつぼくも食べ始める。うん、今日もまずまずの出来かな?
「美味しい!」
「そう?よかった」
そう、言ってもらえるととても嬉しい。
美味しいと言う言葉はとても不思議な言葉だ。その一言があると、普通くらいの味も、美味しく感じられる。逆に、不味いの一言も同じように、美味しい料理も不味く感じさせる。
言葉って不思議だよな。そんな事を考えつつ食べていると…。
「なに、考え事しながら食べてるの?」
「いや、こういうことさ…」
と、考えてた事を話す。
「あんた、バカァ?そんなの当たり前じゃない?」
「当たり前って…」
「人間って生き物は、言葉を使い始めた時から、言葉に影響を感じながら生きてきたのよ。言葉に力があると言う考え方は、この日本じゃ言霊と言う言葉で表すわ。今、シンジが言った言葉も、何千年も昔の哲学者がとうに言ってるはずよ」
「そうなんだ」
「そうよ。でも、シンジが言葉に力がある事を気付くなんて大した進歩ね」
「って、ぼくが馬鹿みたいじゃないか」
「馬鹿みたいじゃなくて、あんたは馬鹿なの!」
「きっついなぁ、アスカ」
「でも、いいわ。言葉の力、考えて使うのもいいことよ」
「そうだね」
「ごちそうさま!シンジ」
「はい、ごちそうさま」
「さて、今日のテレビは、っと」
「ぼくも、後片付けするかな?」
といいつつ、キッチンへ、食器を持っていく。
そして、水を流して、ため水にして、食器を水に浸ける。
「シンジ」
「なに?アスカ」
「朝顔市やってるって」
「朝顔市?ああ、毎年やってるね」
「シンジ、行ってみない?」
「そうだね、行こうか」
「うん!」
「じゃ、待ってて。後片付け、急いでやるから」
「早くね!」
と言うと、アスカは二階に上がっていった。
「了解!」
あらかた、食器を洗い終えた頃、アスカは二階から降りてきた。
「どう?」
と言うアスカは、ノースリーブのシャツとタイト気味のミニスカートで夏らしい姿だった。そんなアスカに見とれていたぼくは、
「あ?似合うよ」
としか、言い返せなかった。
「あ?似合うよ。じゃないわよ、気持ちがこもってない」
アスカにそう責められるのは当然だろう。
「ああ、ごめん」
「っもう。さっき、言葉の力の話したばかりじゃない」
「あ、そうだったね」
「まったく、シンジは鈍感と言うか鈍いと言うか」
「鈍感も鈍いも同じ意味だと思うよ」
「んなことはどうでもいいのよ。シンジも早く準備するのよ」
「うん、わかったよ」
そう言って、ぼくも二階に行き着替え始める。
とは、言っても夏向きの服なんてそんなに持ってないから(服自体そんなに持ってない。オシャレに興味ないからね、ぼくは)適当に選んで着てしまう。
ぼくが今回選んだのは、白と青の横縞のTシャツと、白のチノパンのハーフパンツだった。
とまあ、着替えも終わり1階に降りると、アスカはテレビを見ていた。
しかし、アスカもテレビ好きだね…。
「アスカ、着替え終わったよ」
「じゃ、いきましょ」
と、言ってぼくの格好をジロジロ。
「ま、こんなもんね」
と、小声で一言。
「聞こえてるけど」
「あら、なんのこと?」
アスカは、しれっとそう言う。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
と言って、ぼくらは、家を出た。
とりあえず、ぼくらの行き先は、朝顔市だ。
朝顔市は、第三新東京市立公園で行われてるので、バスを使う事にした。
そのバスの車中。
「あたしって、乗り物弱いのよね」
「へー、意外だね。こんなの平気かと思ってた」
「そうなのよねぇ、みんな、あたしが乗り物酔いするって言うと意外だ…って言うのよね」
「うん、アスカ、いつも元気だから、そういう悩みないと思ってた」
「悩んではいないわよ。でも乗り物に乗るといつも思うのよ。早く目的地に着かないかなって」
「じゃあ、歩きの方がよかったかな?」
「ううん、いいわ。だって、歩きじゃあそこまで遠いし。それにせっかくシンジとデートだって言うのに疲れたくないわ」
「で、デートォ?」
「あら、あんた、何だと思ってたの?これがデートじゃなくて何がデートなのよ」
「う…」
「だから、あんたは鈍感だって言うの。でもそれがかわいいとこなのよね」
「かわいいって、そんな」
「かわいいわよ、あんたは。昔っから変わんない」
「そんな…」
「そういう表情もかわいいわ」
「からかうなよ」
「からかってないわよ、正直な気持ちよ」
「…」
と、怒った振りをする。
「怒っちゃった?ごめんね」
「怒ってないよ」
「ホントに?」
ちょっと心配そうなアスカの顔。こういうのも、ちょっとかわいいかも。でも余り意地悪するのもかわいそうだから、
「ホントだよ」
って返事した。
「そ、よかった」
やっぱり、アスカは笑顔がいいや。
そうこうしてるうちに、朝顔市に着いた。
いろんな朝顔。
キレイキレイとはしゃぐアスカは夏の花に囲まれ夏の妖精の様。
アスカの何気ないしぐさ、笑みに魅了されていくぼく。
アスカは夏が似合うな…。
あ、アスカの髪の色って…。
そんなことを考えていると。
「シンジ、なに、ボーッとしてるのよ」
「いや、ええっと。アスカ、キレイだなって思って…」
「なななに言ってんのよ、あんた、自分で言ってる事わかってんの?」
アスカの顔は、ちょっと赤い。
慌てるアスカもかわいいかも。
「わかってるさ。今、言った事だって正直な気持ちだよ」
「シンジ…」
「なんかさ、アスカって夏が似合うんだね。さっきも、アスカの顔見てたらボーッとしちゃってさ」
「シンジ、あんた、あたしを口説いてるの?」
「いや、そうゆうつもりはないんだけれど、そう聞こえたかな?」
「聞こえたわよ。やっぱりシンジね。こういうところがあるから夢中になる女の子が増えちゃうのよね」
「え?」
「何でもないわよ!さ、次行くわよ」
「う、うん」
と返事を聞くより早く、手を引っ張るアスカ。
まったく、シンジったら。
あんな事言われたら、赤面しちゃうじゃない。
あんなだから、鈍感だって言うのよ。
まぁ、あたしは、シンジのお嫁さんになる為に日本に来たようなもんだし、シンジには、いつ口説かれても良いんだけど。
時と場合があるわよね。
やっぱり、ムードって大事じゃない?
あいつ、きっと無意識でいろんなところで言ってるんだわ。
レイもきっとそれでシンジのこと好きになったのね。
「ねぇ、アスカ」
シンジが手を引いて、返事を待ってる。
「なに?シンジ」
「なんか、アスカの髪の色みたいな朝顔があるよ」
「あ、ホントだ」
「ね、似てるだろ」
「うん、朝顔ってこんな色の花もあるのね」
「そうだね、ぼくもこの色は初めて見たな」
「明るいオレンジの花も珍しいわよ」
「そうだね。アスカ、この花、気に入った?」
「うん、きれいだしね」
「じゃ、買ってあげるよ」
「え、いいの?」
「いいよ、そんなに高い物じゃないし」
「そう?じゃ遠慮なく」
「いいさ、このくらい。おじさん、この朝顔ちょうだい」
「はいよ、1800円だよ」
「はい」
「はい、どうも。あんちゃん、彼女にプレゼントかい?いいねぇ」
「あ、はは、まぁそんなところです」
「あんちゃん、うまくやんな」
「ははは、どうも。じゃ」
「はい、アスカ」
「ありがとう、大事にするわね」
「うん」
今度は、あたしがシンジに手を引かれてる。
今日は、シンジ少し積極的だな…。
「あそこに連れて行こうかな?」
小声で言うシンジ。
「なに?シンジ」
「あ、いやなんでもないよ、あはは…」
「何、慌ててんのよ…」
「…」
なんだろ?あそこって。
「まだなの?シンジ」
いい加減、まだかしら?
「まだだよ、もう少しだから我慢して」
「そんなこと、言っても、もう夕方よ」
「そうだね。ちょっと急ごうか。あ、それ貸して」
「それ、って朝顔?いいわよ、せっかくシンジにもらったプレゼントなのに」
「重いだろ?重いもの持つのも、男の仕事だと思って、渡しなよ」
「そう?じゃ持ってくれる?はいっ」
「うん」
「ああ、重かった。シンジがいつ気付くか待ってたのよ。シンジってやっぱり鈍感ね」
と、ホントはそんなこと、毛ほどにも思ってないのにちょっと意地悪言ってみる。
「鈍感。そうかもしんない。こんなに、重かったんだね。気付かなくてごめん」
「だから、鈍感って言うのよ…」
女の子は好きな男の子にもらったプレゼント、重いなんて思わないのに…。
「え、なに?」
「なんでもないわよー」
「そう?」
「そうよー」
「ふーん」
と、言いながら、気になってるみたい。
「ねーまだーー?」
「もう少しだよ、ほら、見えてきた」
「見えてきたって、あれ?」
「そう、あれ?」
「あれって、変な形の岩じゃない」
「そうだね、この辺の人は首なし女神像なんて、怖い名前で呼んでるね」
「首なし女神…?」
「そう、でも、ぼくには思い出の場所でとても好きな場所なんだよ」
「どうして?」
「ここは、日本での初めての友達、レイとカヲルさんに出会った場所なんだよ」
「ふーん」
「でもね、今日、アスカをここに連れてきたのはね」
と言うと、あたしの肩をつかんでくる。
うわ、キスを迫るのかしら?
今日は積極的ね…。
って思ってると、夕日の方にあたしの身体を向ける。
「この夕日を見せたかったんだ」
「夕日?」
なぁんだ、キスじゃないのか。
ちょっと、がっかり。
シンジが積極的になるわけないよね。
「ここの夕日の色がさ、とても、ぼくには懐かしかったんだ。小さい頃からね」
「ふーん」
夕日なんてどうでもいいけど…、でもキレイね。
「でさ、さっき、気付いたんだ。アスカの髪の色みたいだなって」
「えっ?」
「きっとね、夕日がアスカの髪の色に似てたから懐かしかったんだよ」
「シンジ、覚えててくれてたんだ」
「どうかな?今もアスカの事、思い出せないんだけどね…」
そう言うシンジ辛そう…。
そんなに思いつめなくてもいいのに。
「…」
「でもね…今ならはっきり言える」
「なに?」
「ぼくは、アスカが好きだ」
「え?」
シンジが告白?
「ぼくは、アスカが好きなんだ。きっと。記憶を失う前から」
「シンジ……」
うそ…。シンジがあたしのこと好きって言ってくれた。
「アスカは、どうなのかな?」
「あたし…、あたしも、シンジが好き!」
もちろん、あたしも好きに決まってるじゃない!
「そう、よかった」
シンジの優しい微笑み。あったかい微笑み。
「シンジ、やっぱり男の子だね。告白は、自分からしなくちゃならないかなって、思ってたのに。キスも」
「えっ」
「…キスもしてく…」
人差し指であたしのくちびるに触れるシンジ。
「アスカ、瞳つぶって」
「…うん」
瞳をつぶっていると、シンジがあたしを優しく抱きしめる。
シンジの鼓動。
シンジの息遣い。
シンジの心も感じる。
あたしとシンジの心がひとつになる。
「…」
カナカナカナカナカナ………
………
…
ジージージージージージージーッ。
トントン。
「ねぇアスカ、寝てるの?」
「…ん?」
トントン。
「寝てるの?もう、お昼だよ」
「うん?ええーーーーっ!」
ガチャ
「どうしたの?大きな声だして!」
「シンジ、今日何曜日?」
「なに言ってるんだい。今日は日曜日じゃないか」
「日曜日?あれは夢?」
「アスカ、寝ぼけてるの?もうお昼だよ。起きた起きた」
「もう、起きたわよ!それより、レディの部屋に勝手に入って来ないで!!」
「ごめん、じゃ、昼食つくるから下に降りてきて」
ガチャ
「なんだ、夢だったんだ。そうよね。シンジがあんなに積極的なわけないし。あたし、欲求不満なのかな?独身OLでもないのに…」
「アスカ、夢がどうとか、言ってたけど、まさか………?そんなわけないよな」
一階、リビング。
付けっぱなしのテレビがニュースを流している。
「本日、第三新東京市で、朝顔市が開催されます……」
了
峯さんの『シンジとアスカの日曜日』公開です。
「アスカの髪色の朝顔」
「この夕日が懐かしい、アスカの色だから」
シンジの口から出る女心を直撃するセリフの数々、
アスカのハートをがっちりGETして、そして・・・・
・・・・夢かぁ(^^;
アスカの願望が顕在化した夢。
シンジも同じ夢を見ていたようですね(^^)
テレビから流れる「朝顔市」のニュース・・・夢が夢で終わらないのかな?
さあ、訪問者の皆さん。
部屋内カウンタ記念を飾った峯さんにおめでとうメールを!