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   男は昔、鳥になる夢を見ていた。

   青く澄み渡った空に向かって、その強靱な四肢を投げ出す。
 男は天高く舞い上がり、眼下の景色や自分より低いところを飛び回る他の鳥たちを見下ろしていた。
 男の翼は誰よりも速く、爪は誰よりも鋭かった。
 逆らえる者はいないかのようにみえた。
 不意に、男の視界に一匹の鷲の姿が飛び込んでくる。
 悠然としたその構え、優美な仕草、そして何より誇り高きその眼光に、男は目を奪われた。気高き雰囲気に圧倒された。
 鷲は男に対して誇示するようでも卑下するようでなない至高のまなざしを向けると、荘厳な翼を広げ飛び去って行った。
 男は鷲のあとを追った。いつまでもいつまでも
 千回日が昇り、千回日が沈んでも鷲の姿は見えなかった。
 どんなに速く飛んでも追いつくことはできなかった。
 どんなに巨大な翼をはためかせても鷲も影さえ見つからなかった。
 もう追いつくことはできない、そう感じ取った時何かが壊れていくのが分かった。  男は絶望した。

 それ以降、夢を見ることはなかった。




ジオフロント創世記

第7話

漆黒の妄執



 「05が強奪された?!ちょっとそれどういうことよ?!」
 「言葉通りよ」
 「で、でも強奪されたってことは・・・」
 「厳しい警備の中わざわざ来たのだから、使えるあてがあるのでしょうね。05は適格者が見つかっていないし、わざわざ探して出向いて来てくれるのであれば、逆に好都合だわ」
 ミサトが激昂するのをよそに、リツコは淡々とコーヒーを飲んでいる。まず湯気で香りを楽しんでから、かみ砕くようにして一口飲んで舌で味わい、最後にぐっと飲み干してのどの感触を堪能する。良質の豆からひいた入れ立てのコーヒーである。リツコはどこにいてもコーヒーで妥協をすることはしない人間だった。

   リツコはシンジに真っ二つにされた嵐天使サキエルのことを調べに来ていた。正体不明といわれた使徒のサンプルは、これから対抗していくためにはかかせない研究材料である。ネルフ本部・技術部を統括するリツコ自ら現場指揮にあたるのも当然と言えた。
 ミサトも様々な後かたづけに追われて未だ相模の街にいる。この街に駐留していたUN軍東部域方面軍第3師団第2連隊も、その兵力の四分の一を永久に失い、再編成に忙しい。街の混乱は激闘から二日経った今、ようやく沈静化していたが、人々の心の中には漠然とした不安がうずまいていた。
 民間人の被害も500人を越えていた。遺族には手厚い補償がなされるであろうが、永久にふさがらない心の傷を負ってしまった人間も多い。リツコは「その程度の数で済んで幸運だったわ」と冷淡に言っていたが、かけがえのない人を失った人間にとっては、一人の死が絶対であり、リツコの言葉は何の慰めにもならない。
 以前ミサトは、同じ様な冷たいセリフをはいたリツコに迫ったことがある。どうしてそんな風な考え方をするのか、と。
 「数字として処理しなければやってられないわ」
 リツコのそっけない答えには、どうしようもない暗さはあったが、濁りはなかった。それ以来ミサトは、内面をみせないこの科学者を少し違った目で見るようになっている。


 EVA05が奪われたという知らせを告げても、泰然自若としたリツコの様子を見たミサトは、それ以上深く追求することを諦めた。リツコは自分が必要だと思ったこと以外は、何があっても口にしないし、虚勢をはる人間でもない。
 (30年程しか生きていないのに落ち着いちゃってるのよねぇ・・・。こういう女にはなりたくないものだわ・・・) 
 自分の年齢を棚にあげて心の中でそう呟いたミサトは、話を進めた。
 「それで、警備の人間はどうなったの?」
 「全滅したわ」
 リツコは全く表情を変えないで驚愕の事実を口にした。
 「ちょっと待ってよ!05は1個連隊1500人が警戒にあたっている新北京の研究所にあったんでしょ?!それが全滅だなんて・・・」
 「事実よ、ミサト。それも相手は極めて少数、そして内部の事情を熟知している者ね。僅かな時間で、それも周りに全く気づかれることもなく奪われたそうよ。もしかしたら1人であったかもしれない。侵入者のものと思われる剣の痕は1種類しかなかったの。それも暗黒剣だったそうよ」
 暗黒剣とは魔法剣の一種で禁じられた剣でもある。混沌の黒き神々の力を龍脈に乗せて放つとも言われているが、使い手が極端にすくないため実際ののところはよく分からない。ミサトやリツコも実際に目にしたことはなく、書物で読んだにすぎない。
 「スプレイグ師範、いやスプレイグ大佐はどうなったの?!」
 ミサトは全滅した部隊を指揮していたはずの旧知の人物の消息を聞いた。彼女の剣の師匠でもあり、上司でもあった人物。天王流四天王には数えられていないが、それに近い実力を持っている剣士である。老いたりとはいえ、なまじっかな相手に後れをとるような男ではない。
 「殉職なさったそうよ」
 リツコは今までより少しだけ重い口調になった。それまでコーヒーカップしか見ていなかった視線を初めてミサト方に移す。ミサトは眉間にしわを作り苦渋としか表現できないような顔をしていた。軍人であるからには、ある程度の覚悟はいつもしているものだが、悲しみを消すことはできない。
 リツコは別のカップに新しいコーヒーを注いで、まだ動けないで居るミサトの前に静かに置くと、音を全く立てない足取りで部屋を出ていった。




   その日の午後、ネルフ作戦行動部隊は帰路についた。相模の街では未だ復興作業が続いていたが、それはネルフの仕事ではない。李大佐の疫病神を見るような視線と呆然とたたずむ兵士達、何が何だかまだ理解していない住民に送られてネルフは街を去った。
 馬を進めるミサトの表情は暗い。EVA05の喪失と守備隊の全滅はまだ極秘事項だったので、ミサトとリツコの他に知る人間はここには居ない、ミサトの後ろに付き従うシンジには、いつも陽気なミサトの変貌の理由を知る術はなかった。
 変貌と言えば、シンジの斜め後ろにいる栗色の髪の少女もそうであった。あれからも余り口をきいていないのだが、シンジの病室に食事を運んできたり、着替えを持ってきたりしていて明確な変化が見て取れる。話しかけてもまともに答えてはくれないのだが、無視しているというわけではなさそうである。単に何を返していいのか分からずにいるだけのようだ。
 顔を紅潮させて、何かと顔を背けるアスカだが、シンジは照れ屋のアスカらしいといえばアスカらしいやと思っていた。黄色の薔薇に関してはただ何となく持ってきたようで、まだ思い出していないらしい。しかし徐々にであるが、確実に縮まっていく距離にシンジは安堵していた。


 「何者だ?!」
 部隊の先頭に立っていた青葉シゲルは、街道の脇に待ち伏せるようにしていた人影に向かって叫んだ。立ち並ぶ木々から延びるの影と沈みかけた太陽の弱々しい残光で、顔は確認できない。しかしネルフが通りかかるのを待っていたかのように、道の真ん中に進み出た人物がただものではないことを、シゲルは直感で感じ取っていた。
 「これは申し訳ない。驚かせるつもりはなかった。近くを通りかかったものでね、知り合いに会いに来たのだが」
 淡々とした口調で言った人物は、全く隙のない歩き方で影から出ると自分の顔をさらした。ほっそりとした面もちに切れ長の目、背中につきそうな長い黒髪はきれいに纏められていて、清潔感がある。背はかなり高いが、がっしりとした体つきではない。それでも鋼をさらに精錬したような強靱さが漂っており、無駄な肉はまったくついていないようである。瞳には刃のような光を宿らせ、全身からは斬りつけるような気を発している。礼儀正しい言葉使いをしているが、、目の前にいるものに無言のナイフを突きつけているようでもあった。
 「あなたは・・・」
 シゲルはその人物を知っていた。知り合いというわけではない。一度だけ遠くから見かけたことがあるだけだ。しかし顔は、その凄まじい剣技とともに深く記憶に焼き付いていた。シゲルは複雑な気持ちでその人物の顔を凝視していた。天王流四天王最強と詠われる六分儀ショウの顔を。

 「それにしてもお久しぶりですね。今までどうしていらしたのですか?ショウ先輩。UN軍のほうをお辞めになったお聞きしましたが」
 六分儀ショウが姿を現してほどなくして、ネルフは野営の準備に取りかかっていた。日も沈みかかっているし、場所も悪くない。ミサトはたき火を囲みながら、兄弟子に話しかけていた。
 口調は少しよそよそしい。ショウはかつて同じ道場で剣を学んだ仲だが、それほど親しいかったというわけではない。天王流本部道場にはジオフロント世界各地から集まった腕利きの剣士が、常時3000人以上修行している。それだけ人が集まれば全員と親しくなることはできない。
 当時のミサトは、まだ四天王に数えられるような腕前ではなかったが、六分儀ショウの名前は最強という二文字とともに鳴り響いていた。目にも留まらぬ速さで双刀を使う天才剣士。重厚かつ流麗な剣は、彼の祖父にあたる剣聖六分儀ゲンシュウに匹敵する強さを持つとまで言われていた。まだまだ駆け出しのミサトは、声をかけるのも恐れおおかったし、生身の刃のような雰囲気を持つこの人物を余り好ましくは思っていなかった。
 ショウはミサトが皆伝の認可を受けて、上級道場でともに修行をするようになるのと入れ違いになるようにしてUN軍に士官したはずである。UN軍の最高司令官である天将の直轄部隊にいて准将まで昇進したというが、3年程前に一身上の都合という理由で除隊したと伝え聞いている。
   

「やはり私には剣を追求する生き方の方が合っていると思ったのでな。軍の生活も悪いものではなかったが、人付き合いもあまり得意な方ではないしな」
 ショウは腕組みをしたまま冷然といった。椅子に腰掛けどこを見ているかわからないような表情をしている。腰には左右に一本ずつ剣をつるし、鎧は身につけていない。服は簡素で飾り気のないものだ。いかにも武者修行中の剣士のようないでたちだが、ミサトには一つ気にかかることがあった。
 年齢と容貌の不一致である。ミサトの記憶が正しければショウはすでに40代半ばにさしかかっている。ジオフロント世界では精神が現実の力になるため、200年くらい平気で生きる人間もいるのだが、年相応に肉体は変化していくものである。一部の魔術師などは若返りの術もみにつけているとも言われるが、ショウは純粋な剣士で魔法は使えなかったはずだ。それなのにその容貌はミサトの記憶よりもまだ若く見える。30代になったばかりと言っても通用しそうな色つやである。

 「ショウ先輩。それでここには何のご用があっていらしたのですか?」
 ミサトの何でもない質問にショウは切れ長の眉を少しだけひそめた。
 「用事か、たまたま近くを通りかかったものでな。今では天王流四天王の一角に数えられるようになった葛城の顔を一度見ておきたくてな。あの時の少女がどう変わったのかも知りたくなった」
 「しゃべるのは勝手だけど、聞く方には限度があるわ。いい加減猿芝居は止めてもらえないかしら」
 ショウの何気ない言葉に対するものとは思えないほど、強烈なセリフが投げつけられた。放ったのはミサトではなく、いつの間にかショウの背後に立っていたリツコである。その表情にはいつものリツコにはない緊張と恐れが含まれていた。
 「ちょっ、ちょっとリツコ!いきなり何を言い出すのよ!失礼でしょう!」
 立ち上がったミサトを無視してリツコはいきなり呪文の詠唱に入る。
 「復讐を統べる残酷な女神  裁きを司るその力もて 我が意志の命ずる存在に魂の断罪を下せ!」

 「魂魔霊斬!」

 リツコの指先から放たれた魔力はショウを直撃した。蒼白く燃え上がるような炎に包まれたショウは、精神から崩壊し黒い灰になるはずであった。精神魔法の中でも最大の威力を誇る魂魔霊斬をまともに受けて無事で済む人間など存在しない。
 しかしショウは軽く瞬きすると、自分を包み込んだ炎を消し去った。何事もなかったように椅子から立ち上がると、少しだけ乱れた衣服を整え、首筋に手を当てて関節を軽く回してみせる。
 「さすがは赤木リツコ博士。最初に気がつくのはやはりおまえだったか・・・」
 「リ、リツコどういうことなの?!」

   「彼の魔力形成パターンは青、・・・使徒よ

   リツコは次の動作に入りながら言い放った。ミサトはカッと目を見開きショウの方を見るが、ショウは否定も肯定もしないでただ黙って立っている。おもしろくもなさそうに大きめの息を吐き出し、つい先ほど出てきた月を眺めている。
 何が事実を判断しかねたミサトは、リツコの方を振り返った。しかしその瞬間背後に絶対零度の殺気を感じた。反射的に身をよじるが一条の血線がミサトの肩の辺りを走る。ミサトの右腕は付け根から切り落とされ、血を吹き出しながら地に落ちた。
 「ミサト!」
 リツコの激しい声とミサトのうめき声が重なった。常人ならそれだけでショック死しかねない激痛に、ミサトは苦痛のうめきを1つ漏らすと転がりながら立ち上がりショウの顔を睨み付けた。気を右肩に集中して止血をする。致命傷ではないが、利き腕を無くしたミサトの戦闘力は著しく低下した。
 ショウはいつの間にか抜刀していた。右手に握られた剣先からは、ミサトの血が滴り落ちている。左右に手にした剣の先を軽く合わせると黒いオーラとともに火花が散って、ミサトの血が蒸発した。剣は漆黒の刃をした揃いの細剣である。刃元にはそれぞれ黒い宝玉が埋め込まれていて、不気味なまでの光を放っている。ミサトとリツコはその二振りの剣に見覚えがあった。

 「EVA05・・・」

 二人の震えた声が重なる。ショウの両手に握られているのは強奪された漆黒の双剣・EVA05だった。
 「使徒か・・・、間違いではないが正しい表現でもないな。60点といったところかな?」
 表情を凍り付かせながらショウの顔を凝視するミサトとリツコは声を発することができなかった。
 「今の私は恐怖天使・イロウルであり、EVA05の適格者であり、天王流四天王が一人・六分儀ショウだ」
 「それに人殺しでもあるわね?!スプレイグ師範を殺したのもあなたでしょう?!」
 「スプレイグ?ああ、あの男か。抵抗しなければ殺すつもりはなっかたのだが、馬鹿な男だ。説教などを始めるから部隊ごと抹殺してやった」
 ミサトの怒りは頂点に達していた。瞳からほとばしる炎が闇夜に赤く染まる。リツコは今にも飛びかかりそうなミサトを視線で制して前に出ると、冷淡な声で聞く。
 「使徒に身体をのっとられたというの?」
 「ふむ、その表現は実に的を得た解答だ。私が使徒に乗っ取られたのは確かに身体だけだ。精神は六分儀ショウのままだ。しかし私は肉体が使徒と同化したためEVAを操る力を得た。最もどのEVAでもいいというわけではないらしい。EVAと使徒にも相性というものがあるらしくてな」
 淡々と事実の説明をしているショウであったが、全身からわき出るどす黒い気はあたりを覆い尽くし始めている。ネルフの他の面々もようやく異変に気づき駆け寄ってくる。


「何事ですか?!葛城大尉!」
 血相をかえて日向マコトが走り寄ってくる。ミサトの片腕がないことに気づいたマコトは驚きの声をあげるが、ミサトは冷静さを取り戻しつつあった。
 「第一種戦闘配備!目の前にいるのは使徒よ!」
 マコトは一瞬何が何だかわからなかったが、ショウから放たれるまがまがしい気とただならぬ様子のミサトとリツコに圧倒されていた。それでも何とか呪縛を解くと戦闘準備を司令する。
ネルフのメンバーが動き始めてもショウは全く動じる気配がない。様子をうかがっていたリツコは、ミサトの切り落とされた腕をすばやく拾うとミサトの肩口につけた。癒やしの呪文を唱えながらもショウを睨み付け注意をそらさない。呪文を唱え終えてミサトの腕を一応くっつけたリツコはミサトに囁く。
 「シンジ君とアスカは、先日の戦いのダメージから回復していないわ。最悪あの2人だけは助けないと」
 「私が何とか隙を作るわ。その時は2人をお願いね、リツコ」
 気丈に言ったミサトだが、顔は土色に染まり生気がない。腕もくっついたものの自分の重い通りに動かないことは、ミサト自身が一番よく知っていた。
 「その身体では無理ね。足止めにもならないわ。転移の石があるでしょ。ここは私にまかせて行きなさい」

 「相談は終わったかな?しかし私の興味は君たちには全くない。君たちの相手は別のものがしよう」
 ショウはそう言って口を大きく開けた。死霊の叫び声のような、すり切れた音とともに、端正な形の口から黒い煙のようなものがいくつも出てくる。
 「な、何なのあれ?!」
 「負の障気の塊ね。ガス生命体のような魔族かしら?」
 リツコは冷静に話そうとしているのであるが、心の奥底の動揺が隠せない。黒い煙は何十体もの影を作って2人をとり囲んでいた。
 「では、私はEVAの適格者に挨拶してくるとしよう」
 「ま、待ちなさい!」
 ミサトの怒号もむなしくショウは闇に浮かび上がると虚空に消えた。周り寄ってきた人間にシンジとアスカを守るように言い放ったミサトは剣を抜いた。リツコとうなずき合うと黒い障気の群に突進する。とにかくこの場を切り抜けてシンジとアスカのところへ向かう必要があった。一刻も早く。




 シンジはすでに疲れて横になっていた。サキエルとの戦いで負った傷は表面上はふさがっていたが、まだダメージは残っている。使徒による攻撃には特殊な性質があるのかもしれない。シンジは気を集中することも精霊の声を聞くのも困難になっていた。できないというわけではないが、多大な労力を要する作業になってしまっている。しばらく休めば元通りになる、ミサトとリツコはそう言っていたし、事実少しずつ力は戻っていた。
 寝袋に入ってうとうととしていたシンジの背筋に悪寒が走る。よく分からないが、邪悪な意志の存在を感じ取ったシンジは寝袋から抜け出し剣を引き寄せた。
 シンジの目の前に突如として漆黒の空間が出現する。黒い穴からでてきた男は鋭く目を光らせ、まがまがしい波動を放出した。シンジのそばにいたネルフの人間は何もできずに吹き飛ばされていた。にじり寄ってくる長身の男はシンジの手に握られている剣を睨み付けると、表情をしかめてレクイエムを奏でるような声を出した。
 「なぜだ・・・なぜ貴様が極光の剣を持っている?!私には譲ってくれなかった剣聖の証をなぜ貴様のようなガキが持っているというのだ!!」
 シンジの前に現れた男・六分儀ショウは吼えていた。怒りや絶望や嫉妬、マイナスの感情を凝縮したような咆吼をあげショウは手にした剣を一閃させた。
 闇に紛れた黒い衝撃がシンジを吹き飛ばす。シンジは突然のことで何が何だかわからなかったし、身体も思い通りには動かなかった。ショウはうつぶせに倒れたシンジに忍び寄ると、胸ぐらを掴んでシンジの身体を持ち上げた。
 「答えろ!なぜ貴様が極光の剣を持っている!!それは本来俺が受け継ぐはずのものなんだ!!なぜ貴様が持っている?!」
 シンジは答えることができなかった。意識がまだはっきりしていないせいもあるが、胸ぐらを捕まれ宙に浮かされたせいで言葉を口にすることができなかったのだ。

   ショウッーーー!!

 闇夜を切り裂いて真紅のオーラがショウの背中に激突した。ショウはのけぞって掴んでいたシンジを放り投げると、こうるさそうに振り返る。
 「ちょっとアンタ何してるのよ?!」
 「02の適格者か?・・・。今は忙しいのだがな。死にたいというのであれば殺してやるぞ!!」
 ショウは叫ぶと同時に暗黒の気功波を放った。黒い斬撃は大気を切り裂きアスカに殺到した。アスカは目を見開いてかわすと上空に飛んだ。勢いをつけてショウに襲いかかると全身の力を使って剣をたたきつける。
 ショウはアスカの渾身の一撃を軽く受け流すと、受けた剣から黒い気を発してアスカを吹き飛ばす。吹き飛ばされたアスカは着地に失敗し、転がりながら落ちた。かろうじて立ち上がったアスカの足下には、先ほど投げ出されたシンジがうつぶせに倒れている。体勢を立て直したアスカにショウの斬撃の衝撃波が襲ってくる。
 足下のシンジを一瞥したアスカは、よけることなくその場で剣を横に掲げた。真紅のフィールドがアスカとシンジを包み込み衝撃波を防ぐ。しかしサキエルとの戦いで傷ついているアスカには3度防ぐことが限界だった。
 「ごめんね・・・」
 力つきて崩れ落ちていく瞬間アスカは小さく言った。
 「ふん、てこずらせたな・・・。では2人まとめて葬り去ってくれる!」


  「シンジ君!アスカ!」
 ようやく黒い影を片づけてきたミサトとリツコが見たのは、倒れているシンジとアスカに、剣を振り上げているショウの姿であった。間に合わない!絶望的な思いが2人の心を交錯する。ショウの剣から放たれた漆黒の波動は唸りをあげてシンジとアスカに疾駆し、2人を粉々にしてしまうはずだった。
 ショウが不意に眉をひそめる。黒い疾風が襲いかかった後でもシンジとアスカはまだ生きていた。防ぐ手段はミサトにもリツコにも無かったにも関わらず。EVAの力か?そう考えても見るが2人の宝玉は光を発していない。それでも2人の命はまだこの世界にあった。土煙の向こうで虫の息ながらも横たわっているのが見える。

シンジとアスカの前には悠然と佇む1つの影があった。

 





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ver.-1.00 1997-06/18 公開
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 ジオフロント創世記第7話です。またもやオリジナルキャラを登場させてしまいました。最後に登場した<影>とは一体誰なんでしょうか?察しがついた人はメールに書いて送って下さい。正解者には素敵な商品・・・とはいきませんがおめでとうメールをお送りいたします。設定資料はそろそろ書き換えの時期ですかな?魔法がもう少しでてきたら更新しようとは思っています。それではまた


 MEGURU さんの『ジオフロント創世記』第7話、公開です。
 

 数では表せない争いの結果、死。
 しかし数として受け止めなければやりきれない物、死。

 冷酷とも取れる態度に潜む辛さ。

 生と死の狭間で生きる厳しさが伝わってきます・・・・。

 わずかずつですが確実に戻りつつあるシンジとアスカの絆に救われました。
 

 

 嵐天使サキエルを退けたネルフの前に表れた新たなる使徒、
 圧倒的な力で彼らを蹂躙していきましたね。

 冒頭の詩の中で語られたこと、それが持つ意味。重いですね。
 最後に登場した影の正体も気になります。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 精力的にオリジナル世界を展開する MEGURU さんに感想メールを!!


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