第七話
「私、出番ないんです」
「なんやシンジ、辛気くさい顔してどないしたんや?」
試合前のアップを終えた鈴原トウジは、先ほどから何回もシューズの紐を結びなおしている碇シンジに、いぶかしげな視線を投げかけた。
「今日母さんが仕事休みなんだ。それで応援に来るって・・・」
シンジの声は重い。
しかし心はそれ以上に重かった。2015年には、中学校の週休2日制が確立しており、今日は午後まで練習試合が予定されていた。一日中ユイの応援にさらされなければならないと考えただけで、シンジの心は沈み込んだ。
「シンジの母ちゃん、ベッピンさんやからいいやんけ」
何度か会ったことのあるユイの顔を思い浮かべたトウジはそこまで言って思い出した。去年の体育祭のことを。
「・・・そうか、そうやったな。シンジも大変やな」
毎年秋に行われる体育祭には数多くの父兄が応援に駆けつける。しかしその中でも碇家の両親は異彩を放っていた。日本人にしてはかなりの長身で髭面、怪しげな雰囲気が漂う父・ゲンドウ、20代と言っても通用しそうな謎の37歳、母・ユイ。この組み合わせだけでも、存在自体かなり強烈なのだが、彼らの行動は更に強烈だった。
ユイは「シンジ・アスカちゃんガンバレ!!」という巨大な垂れ幕を持参してきていた。それだけでもシンジとアスカは赤面ものだったが、「ファイト!!」とかかれた旗を振りまくったり、三々七拍子を生オーケストラの伴奏付きでやられた時には、自殺したくなったものである。
なおこの準備にあたっては財団ネルフ特別調査室・室長加持リョウジが「なんで俺が・・・」とぼやきながら駆け回ったことも明記しておく。
「今日はアスカも来てくれるんだ。だからアスカが母さんに歯止めをかけてくれることを期待してるんだけど・・・」
シンジはアスカに一縷の望みをかけていた。アスカは意外と照れ屋だから、羞恥心のかけらも持ち合わせないユイを止めてくれるのではないかと。それでもシンジは過剰な期待はしていなかった。
あのゲンドウですら屈服させてしまうユイである。いくらアスカでもかなうはずがない。
「でもまあいいやないけ。たかが練習試合やけど、親が応援に来てくれるっちゅうのはええことやないか?」
セカンドインパクト以後、世界の人口は激減していた。様々な自然災害に食糧危機、追い打ちをかけるようにして起こった民族紛争。日本は比較的被害が少ない方であったが、家族をなくした人間は多い。
第一中でも両親がともに健在な生徒は全体の六割程度にずぎなかった。トウジも母親を亡くしている。
「ご、ごめん、トウジ。そんなつもりじゃなかったんだけど。そうだよね、感謝しなきゃいけないんだよね・・・・・」
母親のいないトウジに気づいたシンジは、すまなそうな声で謝った。
「何も気にすることあらへん!!それより、シンジの母ちゃんの料理は極上やからな。ワイにも弁当少しわけてくれへんか?」
明るく答えたトウジが、シンジにはありがたかった。気分を取り直したシンジは負けないように明るく返した。
「それなら大丈夫だよ。昨日アスカが洞木さんも誘ってたみたいだし、母さんもトウジのことは頭に入れてるはずだから」
「碇君・・・」
「ん、綾波。どうしたの?」
スコアブックを小脇に抱えた綾波レイがいつのまにか立っていた。
「特に用事はないわ」
レイは無造作に言った。怪訝な表情を浮かべるシンジとトウジを後目に、シレッとした顔でレイは続ける。
「こうでもしないと。だって私出番少ないんだもの・・・」
「そ、そんな言い方しなくてもいいだろ?!ミサトさんやリツコさんだってそれほど出番があるわけじゃないし、赤木ナオコ博士とマヤさんはまだ名前だけだし、日向さんにいたっては名前すら登場してないいんだよ!!」
「シンジの言うとおりや!!ケンスケだって最近自分が登場せえへんちゅうて悩んでいるのに・・・・、綾波も我が儘言うたらあかん!!」
シンジとトウジが一斉に発した声に、レイは両手で顔を覆って両膝をついた。
「二人して私をいじめるの?・・・」
レイは泣き崩れた。すくなくとも外見は悲しんでいるようだ。
「だって作者は地味にアスカ派だし、前々回は作者が勝手に作った山城ユリカなんてキャラが活躍しそうな気配を見せるし、もう一人のオリジナルキャラも近日登場予定だって言うし、映画でも私は登場が少なかったし。一体私はどうしたらいいの?」
顔をかくしてうずくまる姿とは裏腹に、レイの内心で会心の笑みを浮かべていた。
(ふふ、計算通りだわ!!この後のシンちゃんのセリフはきっと「笑えばいいと思うよ?」だろうし、そうしたら全国5000万人のエヴァファンを卒倒させたあの笑顔を見せて・・・これでProject Eのヒロインは私に決まりね!!)
しかしレイの期待は無惨にも打ち砕かれた。
「作者にお願いしてみればいいと思うよ・・・」
「試合開始5分前です!!」
その声に振り向いた瞬間シンジの背筋には緊張が走った。試合が近いのに緊張したわけではない。入り口に母親の姿を発見したからである。
シンジは少しだけ安心した。アスカとヒカリと連れだって体育館に入ってきたユイの手には、お弁当を詰めたと思われる包みしかなかったからである。それでも油断はできない。いざとなればゲンドウを使ってネルフの全戦力を動かすことくらいやりかねない。
「シンジ、シンジ!!頑張るのよ!!」
なおも大声で叫び続けようとするユイをアスカが止めに入る。
「お、おばさま、シンジも試合前だから集中したい時間帯だと思います・・・。それにシンジ案外プレッシャーに弱いタイプだから、あまり過剰に応援しないほうがいい結果がでると思います」
ユイはアスカの言葉に振り向くと、後光がさしているのでは、と思もえるくらいの至高の笑みを浮かべた。
「やっぱりシンジにはアスカちゃんがついてなくちゃ駄目ね。そんなにシンジのこと考えていてくれて私も嬉しいわ!」
「え?ああ、は、はい・・・」
ユイの前ではいつものペースを取り戻すことができないアスカは、そう返事をすることしかできなかった。
(碇君のお母さんってすごい・・・。あんな風なアスカは初めて見たわ・・・)
ゲンドウはかつてユイにこう言ったことがあった。「ユイ、おまえ保険のセールスをやってみたらどうだ?絶対トップになれるぞ・・・」
「碇!鈴原!」
試合が始まって10分が経過した頃、バスケ部顧問青葉シゲルは2人を呼んだ。
ゲームは相手の第二中有利に展開している。平均身長で勝る二中はインサイドに確実にボールを集めて、得点を重ねている。一方の一中は外からのシュートの確率が悪い上に、ゴール下をゾーンでがっちり守られ思うような試合運びができずにいた。
「碇、相手のインサイドは堅い。おまえが外から打ってディフェンスを広げさせろ。鈴原は碇にスクリーンをかけて助けるんだ」
「「はい!!」」
シゲルは大声で答えた二人の背中をドンとたたいて、コートへと送り出した。シンジとトウジはかなり強ばった面もちである。
シンジは気持ちを落ち着かせるようにユニフォームの胸の辺りをグッとつかんでみたが、心臓の高鳴りを実感してしまい、余計緊張してしまった。一方トウジは自分の顔を三回ほどたたいて気合いを入れてみたが、一層顔を硬直させただけだった。
「あ、ヒカリ!シンジと鈴原でるみたいよ!」
「うん、アスカ・・・・」
ヒカリは胸の前で手を組むとグッと力を込める。
(鈴原!!ガンバレ!!)
「気負いすぎね、二人とも・・・」
2階席からシンジとトウジの様子を見たユイは淡々とした声で言った。ユイほどの観察力のないアスカとヒカリにはすぐには読みとれなかったが、シンジとトウジはプレーで緊張の具合を露見させた。
シンジは体が固くなってボールが手につかず、トウジは気合いが空回りして無駄なファウル連発してしまう。
「ほら2人ともこんな時こそ、応援しなかいけないでしょ?」
試合の成り行きをただ心配そうにみつめているアスカとヒカリにユイが声をかける。
「で、でもおばさま・・・こんなシンジに何て言ったらいいか・・・」
「そうねえ、今の2人は脳波が25ヘルツでβ波ね。ノルアドレナリンが分泌されていて筋肉は硬直状態、頭の中は真っ白ね。ちょっとやそっとじゃ駄目ね。何か強烈な刺激を与えて平静にしてあげないと・・・」
「でも具体的にはどうすれば・・・」
「そうだ!アスカちゃん。シンジに向かって好きよーー!!って叫んでみてくれない?」
ユイの予期せぬ一言にアスカは顔を真っ赤にした。
「そそそっそんなことできるわけありません!!」
「あら、アスカちゃん、シンジのこと嫌いなの?」
「そ、そういうわけではないですけど・・・」
ユイはアスカが顔を紅潮させたり、うつむくのをしばらく楽しむように眺めていた。
「まあ、それは冗談だけど、そのくらい強い刺激が必要ってことよ」
「す、鈴原!!」
ヒカリは周囲の人間がビックリして注目するほど大きい声をだしていた。緊張でシゲルの指示も耳に入っていないトウジがハッとして見上げたほどである。
「鈴原!もっと頑張らないとお弁当抜きよ!!」
「そ、そんな殺生な!!イインチョ!メシ食わへんと力がでんがな」
「い、今の鈴原にはお弁当抜きくらいが丁度良いのよ!!そのほうが力が抜けて好都合だわ!!」
いつもと違うヒカリをそばで見たアスカも負けじと大きな声を上げる。
「シンジ!!アンタもしっかりしなさいよ!じゃないとテスト前にノート見せてあげないわよ!!」
(まあこんなものかしら。今の状態で愛の告白をしろっていっても無理だろうしね。でもアスカちゃんもシンジのこと満更でもないようだし・・・。お楽しみはこれからってとこかしら)
二人の少女のけなげな姿をほほえましく眺めた後、ユイも息子の応援に加わった。
「シンジ!!しっかりしないと今月のお小遣い抜きよ!!」
(そうや・・・・。ワイは気負いすぎとった。いくら力を入れても今の自分の力以上のことはでけへん。平常心や)
(ヤバい・・・もうお小遣いほとんど残ってないんだった。ここで減らされたらケーキ奢るかわりにアスカにノートみせてもらうことができなくなってしまう・・・。え、逃げちゃ駄目だ!!って言わないのか?って・・・ワンパターンはよくないよ・・・)
心の中の多少の葛藤を済ませたシンジとトウジはゲームに集中し始めた。
(もう余計な応援はしなくていいのに・・・。どうせそのうちわたしが仕込んだ薬が効果を発揮すれば相手はバテバテになるわ。薬?内容物は聞かない方が身のためよ・・・。でもあまり大変なことになるとこまるし、たかが練習試合だから体の力が徐々に抜けていく程度よ、今回はね。っくっくっく)
ベンチ脇でスコアブックをつけながら、綾波レイは今日も危険だった。
「おつかれ様、シンジ!!」
「鈴原も頑張ったね・・・」
「よくやったわね、二人とも」
アスカは元気よく、ヒカリは少し照れながら、ユイは包み込むような満面の笑みを浮かべて、午前中の試合を終えた二人を迎えた。
シンジとトウジも出場したレギュラー同士の試合は第一中の負けだった。後半急に運動量の落ちた相手にも助けられて、かなり追い上げたのだが、前半に開いた差を埋めることができず3点差で破れていた。
だが次に行われた二年生同士の試合ではシンジとトウジの活躍もあって第一中が圧倒的な勝利を収め、一時期不機嫌だったアスカとユイも上機嫌になっていた。
「今日は天気もいいし外で食べましょうか?」
ユイの言葉に促されてシンジ達は、体育館の脇にある芝生の方に歩きだした。
鈴原トウジは幸せの絶頂にあった。
ユイとアスカとヒカリが共同で作ってきたお弁当は黒漆の重箱に収められていて、蓋をあけてもいないのに芳醇な香りが漂ってきそうな雰囲気だった。
「運動の後だからあんまりくどいものはどうかと思ったんだけど、しっかり食べないと力もでないでしょ」
「い、いえ!全て食べさせていただきます!!」
トウジの即座の返答にユイはニッコリ微笑むと重箱の蓋を開けた。初めの重箱に入っているのは、まず昆布締めにした真鯛の向付。生醤油の濃口と薄口を半々にまぜたものに、すだちの汁が加えられた加減醤油が添えられている。
それからウニを塗ってさっと焼いた車海老に、鰻を巻き込んだ上品な卵焼き。その横には子持ちの鮎を煮浸しにしたものと合鴨のみそ漬けローストがおいてある。
2段目の重箱には湯葉と伊勢海老の炊き合わせ、隠し味にウィスキーを加えることによって香ばしく揚がった鶏の唐揚げ、ういきょうの風味をいかした中華風ちまきが綺麗に並べられている。そして最後の箱には松茸ご飯。
トウジでなくてもこみ上げる食欲を押さえられなくなるような、ご馳走がいっぱいつまっていた。シンジとトウジはものすごい勢いで食べ始めた。女性陣は苦労が報われたことを自覚したのか3者3様の笑みを浮かべている。
「この鰻を巻いた卵焼き最高ですわ!!こないなうまいもん食うたの初めてです!!」
「それはね。ヒカリが作ったのよ!!ヒカリに感謝しなさいよね!鈴原!!」
「うまいわ!!最高の味や!!」
トウジの言葉にヒカリは顔を真っ赤にすると、重箱の蓋を裏返しにして鶏の唐揚げをトウジに差し出す。
「鈴原・・・・、この唐揚げも私が作ったの。食べてみてくれる?」
「もちろんや!イインチョはほんまに良い嫁さんになれるで!!」
トウジの感想は素直なものだった。しかし素直すぎるトウジの言葉は、ヒカリの心にに微妙な影を落としていた。
(鈴原いつになったら気づいてくれるのかな?・・・)
そう思ったヒカリだったが、すぐに気を取り直していた。彼らはまだ中学2年生。過去よりも無限に思える未来に思いを馳せる年頃なのだ。
「アスカはどれを作ったの?」
シンジの何気ない一言に女性3人は内心ドキリとした。料理の達人であるユイとヒカリに囲まれれば、アスカの出番は少なかった。実際アスカは2人の手伝いをしていただけで、自分で作った料理といえるものは1つもなかった。
「この鴨のローストとね、松茸ご飯はアスカちゃんが作ったのよ」
不測の事態を予期していたのかユイのフォローは速かった。アスカは一瞬ユイの顔をみるが、目配せしながら微笑むユイに感謝して、その好意に甘えることにした。
「そうよ、心して味わいなさいよ、シンジ!!」
そう言ったあとアスカは右手を強く握った。
(今にみてなさいよ、シンジ!!そのうちヒカリやユイおばさまに、負けないくらいおいしい料理をつくってやるんだから!)
アスカの様子を見守りながらユイは思った。
(それにしても男2人は鈍感ね・・・。ほんとに大丈夫かしら?シンジの鈍感なところは誰に似たのかしら?)
ユイの脳裏には、シンジが似たと思われる人物の顔がすぐに浮かんできた。ユイは頬に手を当ててクスクス笑うと食後のお茶を入れ始めた。
「あ、もうこんな時間よ。鈴原、碇君、そろそろ行かなくてもいいの?」
「午後の最初は女子の試合なんだ。だからもう少しゆっくり・・・」
シンジが何気なく言った「女子の試合」という言葉にトウジはすばやく反応した。
(そうや!!自分のことばっかりで山城先輩のことすっかり忘れとった!!男・鈴原トウジ一生の不覚じゃ!!)
その時寝転んでいたトウジの視界に、偶然通りかかったユリカの姿が映る。
「や、山城先輩!午後の試合頑張って下さい!!」
飛び起きると同時にトウジは叫んだ。
「ええ、でも午前中の試合では鈴原君も碇君もよく頑張っていたわね」
すみれを連想させるような可憐な微笑みに、トウジはもう頭がクラクラ状態だった。
「いや、先輩の足ばかり引っ張ってしまって・・・」
舞い上がっているトウジに替わってシンジがそう答える。
「そんなことなかったわよ。2人の活躍で随分追い上げたじゃない。・・・でも緊張しすぎだったのは確かね。2人とも顔面蒼白だったもの」
そこまで言うとユリカは思い出したようにクスリと笑った。
「でも、私が最初に上級生の試合にでた時もそうだたわ。周りはみんな私より大きいし、うまいし、経験もあるし・・・。でもね、いくら緊張しても自分の力以上のことはなかなかできないものよ。開き直って自分にできることをやるしかないわ」
「あ、そろそろ行かなくちゃね」
体育館の入り口にかかっている時計を見上げるとユリカは最後にニッコリ笑い。足早に体育館の中に入っていく。
「頑張ってくださいね!!応援しますから!!」
無理に標準語を使ったトウジの叫び声がその背中に重なった。そんなトウジの背中をヒカリだけが寂しそうに見ている。鈍感なトウジに怒りを覚えたアスカが腕に力を込め始めた。
しかしユイの温かい手がそっとアスカの肩に触れた。振り返ったアスカに対して、ユイは小さく首を振る。アスカは仕方なく手をおろして、ヒカリの横顔を眺めていた。
アスカたちが昼食の片づけをして、少し遅れて体育館に行った時、試合は白熱していた。第一中の山城ユリカと第二中の鳳翔マイ。県下を代表する両エースの撃ち合いは激しいものがあった。
ユリカがゴール下に切れ込んでカットインを決めれば、マイはローポストからのターンアラウンドを入れ返す。ペネトレイトからのジャンプショットをユリカが沈めれば、マイはこぼれたシュートをタップして得点を重ねる。
ユリカが左45度、得意の角度から3Pシュートを決めて突き放せば、マイもゴール下でファウルをもらってバスケットカウントをもらい、フリースローも入れて同じく3点を追加する。二人の活躍で試合は熱気で満ちていた。
「リバウンド!!」
第二中のシュートがはずれた瞬間、ユリカは叫んだ。ルーズボールはスクリーンアウトでせめぎ合っていたユリカとマイの上に落ちてくる。
二人は同時に飛んだ。
体格に勝るマイがユリカに競り勝ちボールを手にする。しかしユリカは着地と同時に、下からボールを跳ね上げる。所有者を失ったボールを渡すまいとユリカは飛び込んだ。アウトオブバーンズになる寸前でボールに触れたユリカは、振り返ると一瞬で味方をさがし、倒れ込みながらもパスを成功させた。
しかし勢い余ったユリカはコートの外に飛び出してしまった。
「危ない!!」
壁に激突しそうになったユリカに、見ていた人間全員が叫んだとき一人だけ動いた者がいる。
ゴール下で応援していた鈴原トウジである。トウジはユリカと壁の間にかろうじて体を入れ、彼女の身を守ることに成功した。
ユリカとマイのプレイに見とれていた大多数の人々の目には、トウジが最初からそこにいたように見えた。ただトウジの姿のみを凝視していたヒカリだけが、ユリカをかばうようにして動いたトウジを見ていた。
「トウジ大丈夫か?!」
「鈴原!!」
「キャプテン大丈夫ですか?!」
重なるように倒れ込んだ二人に様々な声が飛ぶ。
「私は大丈夫。鈴原君がいてくれたから・・・」
ユリカはそう言うと即座に振り向いてトウジに顔を向ける。
「鈴原君大丈夫?!」
「は、は、平気ですよ。ワイは頑丈だけがとりえですさかいに・・・」
気丈に言葉を返したトウジだったが、壁にしたたかにぶつけた肩は赤く晴れ上がっていた。肩がむき出しのバスケットのユニフォームからは痛々しい傷が露出している。第一中の白いユニフォームは赤い箇所を一層無惨にさらしていた。
「大丈夫か?鈴原!!」
駆け寄ってきたバスケ部顧問青葉シゲルはトウジのケガの具合をみながら叫んだ。
「骨に異常はなさそうだな・・・。今日は当直で赤木先生がいらっしゃるから誰か保健室まで連れていってやれ」
「それなら私が連れていきますわ」
騒ぎの中一人冷静な声をしてユイがシゲルに声をかけた。
「あ、確か」
「はい、碇シンジの母です。息子がいつもお世話になっています」
最後にいつものように笑ったユイはトウジの元に真っ先に駆け寄ってきたヒカリに「ヒカリちゃん、一緒に行ってくれる?」と言うと、トウジとヒカリを連れて体育館を出ていった。
「大丈夫、ただの打撲よ。2,3日腫れるでしょうけど、すぐに良くなるわ」
トウジを手際よく手当したリツコは淡々とした調子で言った。
「鈴原!まだ寝てなきゃ駄目よ!!」
「大したことあらへんがな。鎮静剤のおかげで痛みももうあらへんし」
「で、でも」
「ほんまに大丈夫や、イイチョ」
「ワイは体育館に戻ります。赤木センセ、ありがとうございました」
ヒカリの静止を聞かずに起きあがったトウジは保健室を出ていった。心配そうなヒカリはトウジにつきそって部屋をでる。
「久しぶりね、リツコちゃん」
トウジとヒカリが意外にしっかりとした足取りで出ていったことに安堵したのか、ユイはリツコに声をかけた。
「はい。ご無沙汰してます。ユイ先輩」
何気ない挨拶をかわす2人に、リツコに用事があって居合わせたマヤが訊いた。
「お二人とも知り合いだったんですか?」
「そうよ、リツコちゃんのお母さんと私は、研究所の同僚だしね」
「それにマヤ、あなたの大学の先輩でもあるのよ」
「あ、そうなんですか。2年B組の担任をしている初登場の伊吹マヤです。吹奏楽部の顧問もしています。映画でヒステリーを起こしていたので、作者に疎まれ登場が遅くなってしまいました。全国3000万人のマヤファンのみなさま申し訳有りません。それから趣味は・・・」
ユイとリツコの補足説明にお辞儀をしながら自己紹介したマヤの頭をリツコがポカリと殴る。
「ちょっとマヤ、説明長いわよ!!そのくらいにしときなさい!!」
「それにしてもリツコちゃん。ナオコも心配してたわよ」
「心配ですか?」
「ええ、いつになったら女の幸せを掴んでくれるのかって」
「幸せの定義なんて、人それぞれですわ」
そっけなく返しながらリツコは怒りで拳を握りしめていた。
(そんなこと言ってもエヴァにまともな男性キャラなんてでてこないじゃない!!自閉症のガキに、ロリコン髭眼鏡オヤジ。すでにイッちゃった白髪ジジイにロンゲにメガネの脇役キャラ・・・・。外見は少しまともな無精髭男は、西瓜とミサトにとち狂ってるし・・・。女性陣はハイクォリティなのに、男性陣はそろいも揃って変態ばかり。ああ、私はなんて不幸なのかしら!!)
「そうね、あ、でもこの前いい人が研究所にはいってきたのよ。リツコちゃん一回会ってみる気ない?」
「わ、私はべつに・・・。それにもしかして名前は、日向とかいうのでは?」
そう言いかけたリツコの白衣の端をマヤが引っ張った。耳元に口を寄せ、息を吹きかける、じゃなくて小声で話しかける。
「先輩。日向さんは2年D組担任・国語科教師・弓道部顧問という設定なんですよ」
「詳しいわね、マヤ。でもそれならどうして五話の冒頭ででてこなかったの?」
「邪魔だったんじゃないですか?もしくは単に作者が忘れていたとか・・・。いずれにしても、お会いしたほうがいいんじゃないですか?」
「どうしてそう思うの?マヤ」
「だってボケキャラはすでに冬月副司令じゃなくて、副会長が大御所的存在ですし、同じく3枚目の日向さんがスタンバイしてるんですよ。これ以上同じ系統のキャラをだしてくる可能性は低いと思われます。だから今度はきっと美形キャラですよ」
「なるほど、ロジカルね、マヤ」
満足げにうなずいたリツコはマヤを不思議そうに見やると囁いた。
「でも潔癖性のマヤがそんなこと言うなんて・・・。あなたも汚れたわね、マヤ」
「セリフは選んでられません。こうでもしないと、私、出番ないんです・・・」
「そう、お互い大変ね、マヤ・・・」
サブキャラの悲哀を感じさせるリツコとマヤであった。
一方その頃
マヤにボケキャラの大御所呼ばわりされた人物は、まだネルフの地下に軟禁されていた。
「アンタバカァ?!」
ポーズを鏡で確認したあと、くるりと体を回転させた冬月は呟いた。
「よし、今のはよかったぞ。もっと練習を積んでいつか碇を・・・。それにしてもワシはいつまでここに閉じこめられているのじゃろう?・・・コウゾウ寂しい・・・」
第六話です。やっとマヤのセリフが書けました。ちょっと暴走気味ですが・・・。ユイの無敵モードが今回も続行中です。 さて次回はオリジナルキャラ暁カスミが登場予定。それよりも日向マコトはいつセリフが与えられるのか?それではまた
MRGURUさんの連載『Project E』第七話、公開です!
MEGURU さんとは一体何者? と思わせる実に美味しそうな料理、料理、料理・・・
ここを読んでいてお腹が減ったので今から夜食です(^^;
ごちそうさまでした。
1時間弱UPが送れることになりました(^^;;;;;
ちなみに私が食べたのは、冷凍物のざるそばとハムエッグ、晩の残りの冷や奴です。
ああ、侘びしい食事だ・・・・・ (;;)
戻ります。
女性陣の応援を受けてのシンジとトウジ。
初めは堅かったですが、熱い思いがこもった声援で息を吹き返しましたね!
・・・・もう一人の危険なフォローもありましたが・・・・レイがドンドン危なくなっていく(^^;
今まで出番がなかったマヤちゃんもセリフを貰えて大喜び!
ってほどでも無いですが、名前さえ出てこない人たちに比べれば幸せですよ。たぶん。
次回登場予定のオリジナルキャラに食われて消えていく運命なのか(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
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