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68000HIT記念SS

Vの悲劇

(このSSは神田@大家さんの「Mの喜劇」を先に読まれるとより一層楽しめるかもしれませんが「めぞんEVA」の本筋とはべつものです.)



「Vくん,いるー?」

日曜日の午前中のこと,玄関からこだまする女性の声に私はいやな予感がした.




思えば一ヶ月前,居酒屋の宴会の席で酒に酔っ払って調子に乗ったのがまずかった.私は宴席でさいころを取り出して狙った目を自由にだす芸をやっていた.最初はふつうのさいころで丁半,次に四面ダイスで狙った目,それから六面,八面,十面,十二面,二十面のさいころで狙い目を出していき,最後に百面ダイスでたった一つの狙い目を出していった.

「へぇ,すごいじゃない.」

隣の宴会にいた女性に私は声をかけられた.素面だったら彼女の目に浮かんでいた妖しげな光を見抜けたかもしれなかったが悲しいかな私は酔っていた.さらに言うなら彼女は冷静な判断を狂わせるには十分な美貌の持ち主だった.

「ぢつは,これはにぇ,てぢなぢゃないんでゃ….」

宴会が終わった後,私は意気投合した彼女と何軒かはしごした.私は酒に弱い方ではないが彼女の酒量はケタが違っていた.私は呂律の怪しい状態で自分の秘密を彼女に喋っていた.

…実は私には何のタネもしかけもなしにさいころの目を自分の思った通りに出すという「サイコロキネシス」という一種の超能力があった.もっとも金銭などの現実的な利益がからむと裏目ばかり出るので宴会芸ぐらいにしか使えなかったが.

もし彼女がただのうわばみだったら酒の上の冗談ぐらいに思ったかもしれない.が,私にとって不運なことに彼女はギャンブル狂だった.泥酔状態の私の言葉を彼女はしっかりと覚えていて,数日後の日曜日その時聞き出した私の電話番号に彼女はかけてきた.

その時,私は素面だったのであれは酒の上での冗談だと能力を否定したが彼女は引き下がらなかった.とにかくやってみてという彼女のお願いに押し切られる形で私は彼女と会った.もっとも私の方も美人の彼女ともう一度会ってみたかったというのもあったが.

「…ですから,お金とか現実的な利益がからむとまったく駄目なんです….」

人生経験の差と彼女の巧みな誘導尋問の前に私は能力のことを認めさせられていた.観念した私は今度は洗いざらい正直に自分の能力とその欠点を話したのだが彼女は能力の欠点については信じてくれなかった.

確かに相手が思い込んでいることを翻させるよい手段を私は持っていなかった.なぜなら,私が能力を使っているのかいないのかは私にしか分からないからである.仮にお金を賭けて私が負けたとしても能力を使ってわざと負けたと思われかねない.

「…これまでですね….」

納得させるのを諦めた私は席を立とうとした.

「待って.」

彼女の言葉に『脅迫か?』と思いながら動きを止めて私は次の言葉を待った.

「別に当たらなくてもいいわ.ただ真面目に能力を使ってやってみて.わたしはそれに賭けてみたいの.」

その時私は彼女の言葉をいぶかしんだ.が,後になって当時彼女が競馬で連戦連敗中でツキに関するものなら何でも当てにしていたということを知って納得した.

「大体私の能力はどの目を出すかであって,どの馬番がくるかなんて未来のことは範囲外ですよ.外れても責任取りませんからねっ.」

そう断って私はその日の彼女の勝馬投票券の番号をさいころで決めた.結果は悲惨だった.全レース外れ.連にもからまなかった.言葉通り彼女は私を怨んだり責めたりするようなことはしなかった.もっともその日の飲み代は私のおごりになったが.

ギャンブルが絡まなければ彼女はさばさばとした好感の持てる女性だった.酒にしても「ある一線を超えなければ」人に無理強いすることもなかったし,むしろ楽しく飲める相手だった.また,あれから私をギャンブルに巻き込むこともなかった.




…そのはずだったのだが日曜の午前中に彼女が来た.酒を飲むためだけなら午前中に私を誘うことは絶対に無い.また,「お馬さん」だろうか….私はため息をつきながら扉を開けた.

「おはようございます,ミサトさん.」

「おっはようっ,Vくんっ.」

「その呼び方は力が抜けるから止めてください.ところで何の用です?」

「いやぁ,またさいころを振ってもらいたくて….」

「先日オケラになったのを忘れたんですか?」

「あの時はあの時,今は今よ.」

ミサトさんは私の皮肉をお気楽に受け流していた.私は『ま,オケラになるのは私じゃないし.』と無責任に考えながらさいころを取り出した.もっとも今日の酒代は私のおごりになりそうだが今月は残業代がたくさん出たから大丈夫だろう.

「サイコロキネシスッ!」

私はミサトさんが持ってきた競馬新聞を脇において真剣にさいころを振っていた.能力を使うのに雄たけびをあげる必要は無いのだがこの方が気合が入る.

出た目は,最終レースを除けば本命か対抗が絡んでいてまずまずの手堅いものとなった.もっとも「裏目」が発揮されて今日のレースは「穴」ばかりという可能性も十分あったが.




「どうして最終レースになって勝ち金全額をつぎ込むんですかっ!!」

私はミサトさんの破天荒な賭け方に呆れて叫んでいた.その日は私の「裏目」が発揮されることも無く全戦全勝で最終レースまで来ていた.「穴」の目になっている最終レースを降りてもこの日の勝ちは一回あたりの配当が少なかったとはいえ十分なものであった.

「あーらっ,だぁいじょうぶよぉ.今日はVくんの能力が発揮されてるみたいだしぃ.」

「最後になって地獄の底に叩き落とされるって可能性を考えてないんですか?」

「だぁいじょうぶ.だぁいじょうぶ.」

ミサトさんは根拠の無い自信でそう言うと勝ち金全額をその「穴」の馬券につぎ込んだ.私は『今夜は荒れるなぁ』とひとりごちながら視線を最終レースに向けた.

ゲートが開く.ミサトさんの賭けた二頭が先頭に出る.二頭共「逃げ馬」って新聞に書いてあったから当然か.どうせ捕まるに決まっている.第二・第三コーナー,十馬身の差.あれ?第四コーナー,追いついてくる気配なし.おいおい.そのままゴール,審議のランプ無しで順位確定.ってことは….

「やったぁ,Vくんっ!」

気がついたときは私はミサトさんに抱きつかれていた.嬉しい…じゃなくて…いや確かに嬉しかったがそれ以上に私は呆然としていた.

『そんなばかな.』

生まれてこのかた何度か賭け事にこの能力を使ってみたことはあったが成功したことは一度もなかった.むしろ自分の思った逆の目が出て大負けしていた.私はお金がらみで自分の能力が発揮されたことにいぶかしんでいた.

レース終了後,ミサトさんと私は百万円の札束のセットを生まれて初めて目の当たりにしていた.最終レースにつぎ込んだ馬券の金額が6万円強で配当が1万6千円強だったから一千万円近いお金がミサトさんに転がり込んだ.ミサトさんは札束を一束私に渡してくれたが私はそれを辞退した.

…今思えば素直に受け取っていれば災厄はなかったのかもしれない.もしあったとしてもよりましだったかもしれなかった.その日はあまりにも多額の現金を手にしていたので帰り道に気をつけるようにとミサトさんに言って早々に別れた.

その日の晩,私はミサトさんから電話を受けた.今日のお礼に明日の晩食事に招待するとのことだった.私は承諾の返事をした.翌日,私は会社を定時であがるとミサトさんの家へ向かった.

「いらっしゃーいっ.今日は私が 腕によりをかけて作った食事をご馳走するわ.」

…賢明な読者ならもうお分かりだろう.が,その時の私は無知だった.私はテーブルに出された豪勢な料理に目を奪われていた.実際「見栄え」は素晴らしかったのだ.ミサトさんと私は席についた.

「さあ,どんどん食べてね.」

「いっただきまーすっ!」

料理を口に運ぶ直前まで私は幸福の中にいた.が,口にした瞬間私は地獄の底に叩き落とされた.

口の中にポジトロンライフルを突っ込まれた感覚がした.

私は絶句しながらもそれを咀嚼して無理矢理飲み込んだ.すると,

胃の中でNN爆雷が炸裂したんじゃないか.

と思うくらいの激痛が私の体を走った.それから程なく私は白目を剥いて倒れたらしい.

…次に意識を取り戻した時は病院のベッドの上だった.医者の話ではあの後一週間意識が戻らなかったそうだ.ずっと後になってミサトさんの友人…実は私の住んでいるマンションの管理人さんなのだが…に教えられたのだが彼女の料理で一週間も意識不明になったのは彼の知る限り二人目だと言っていた.一人目は誰なのかと私は訊ねたが彼は笑って答えてくれなかった.

意識が回復して一週間後,病院の適切な処置もあって私は無事退院した.入院中,ミサトさんは見舞いに来てくれたが私の入院の原因が彼女の料理にあったということを最後まで理解してくれなかった.

二週間も会社を休んでいた私は退院後たまりにたまった仕事を片づけるため毎晩真夜中まで仕事をしていた.ついでに言うとたまっていた年次休暇も殆どはき出してしまった.これで当分の間どこかに遊びにいくことはできなくなった.

『ううっ…しくしくしく….眠いよう…つらいよう….』

深夜の職場,私は心の中で涙していた.


(Vの悲劇 おわり)

公開05/31
お便りは qyh07600@nifty.ne.jpに!!


1997/05/21 Ver.1.1 Written by VISI.



筆者より

思わぬラッキーにより(笑)ミサトさん大金ゲットです.(^^;)
念のためですがこのお話は実在の人物とは一切関係ありません.あしからず.(笑)
タイトルは神田さんの「Mの喜劇」から韻を踏んでいます.(ミサト信奉者から「どこが悲劇だ!?」と刺されそう(笑))
話に登場したさいころですが筆者自身は百面ダイス以外はすべて持っています.(由来はテーブルトークRPG...)
68000HITというカウンタ数は「一度この数字で何かやってみたかった」というだけです.(汗)
最後にこのお話を思い付くきっかけを与えてくださいました 大家の神田さんと 208号室のひろしXさんに感謝いたしましてあとがきをしめさせていただきます.


誤字・脱字・文章・設定の突っ込み等は,

までお願いします.


 VISI.さん初のSS『Vの悲劇』公開です(^^)

 ミサトさん大暴れですね。

 驚きの「サイコロネキス」!
 VISI.さんのこの超能力も
 彼女にしてみたらいい退屈しのぎを見つけた程度なんでしょうか?(笑)

 ああ、「めぞんEVA」の住人はミサトのオモチャなんでしょうか(^^;
 

 でもVISI.さん。この力をリツコには気付かれないように。
 間違いなくモルモットにされます(笑)
 

 これから雨のうっとうしい梅雨の季節です。
 訪問者の皆さんも食事に気を付けて下さいね。
 ミサトがいないからと安心していると157にやられますよ!
 体調にいい今のうちにVISI.さんにメールを出しておいて下さいね(爆)


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