昔,ある所に黒髪に黒い目の男の子がおりました.その子は大好きだったお母さんが目の前で死んでしまってとても悲しい気持ちでいました.
その男の子は残ったお父さんにも構ってもらえずに一人外で泣いていました.そこへ,昼間の太陽よりも眩しい閃光が男の子の周囲を包み込みました.閃光が収まって男の子が目を開けると,そこには男の子と同じ年ぐらいの青い髪の女の子が目を閉じて横たわっていました.
男の子は泣くのを止めて彼なりに一生懸命その子を介抱しました.すると,女の子は目を覚ましました.目をあけたその子はウサギのような真っ赤な目をしていました.
男の子はその子に名前を聞きましたが自分が誰なのかここがどこなのか分からない記憶喪失のようでした.男の子はどうしたら良いのか分からずに女の子を家へ連れて帰りました.
女の子を家に連れてかえるとそこにはお父さんと知らない白衣の人達がたくさんいました.女の子はお父さんとその白衣の人達に連れていかれました.男の子はよくわからないけどなんだか寂しくなりました.
…それから11年が過ぎて男の子は少年になっていました.あの後,男の子はお父さんと離れ離れで暮らし寂しい思いで育ちました.少年には本当の自分を見てくれる大人や同じ年ぐらいの友達が一人もいませんでした.
そんなある日,少年はお父さんに呼び出されました.巨大ロボット「えば」に乗って地球を侵略する異形の異星人と戦えというのです.少年は悲しい思いでした.お父さんに再び会った時のひとこと目が「戦え」だったのですから.少年が断るとお父さんは少年を見向きもしませんでした.少年の心は寂しさで一杯になりました.
結局,少年は「えば」に乗って戦いました.なぜなら,少年の目の前で深く傷ついた青い髪の少女が戦いに駆り出されそうになったからです.青い髪の少女とは幼い時出会っていることを少年は覚えていませんでしたが目の前で傷ついている子を見捨てるほど少年は冷たくはありませんでした.
青い髪の子も少年のことは覚えていませんでした.しかも,その子は機械的で無表情で何の感情もないように思えました.しかし,なぜだか少年はその子のことが気になり何かにつけて構うようになりました.
「えば」で戦うようになった少年に二人の友達ができました.
一人は最初,「えば」の戦いに妹が巻き込まれて大怪我をしたので少年を憎んでいました.少年を殴り飛ばしさえしました.しかし,少年がつらい思いをして戦っているのを知ってその友達は申し訳なさと好意を少年に感じました.
もう一人は「えば」に乗って戦える少年を羨ましがっていました.しかし,同様に少年のつらい思いを知って好意を抱きました.もっとも,それでもその友達は「えば」に乗りたがっていましたが.
日に日に敵は強くなるばかりでしたが少年の心の寂しさが癒されてきました.また,青い髪の少女も僅かながらも少年に表情を見せるようになってきました.
そんなある日,遠い国から少年と同い年の赤毛で青い目の少女が「えば」のパイロットとしてやってきました.その子は少年に対して辛くあたっていました.なぜなら,その子は「えば」のパイロットになるためにもの凄い努力をしていたのに,少年は何の努力もせずしてパイロットになったのですから.
辛く当たられてはいましたが少年は自分の持っていないものをたくさん持っているその少女にある面においてあこがれていました.青い髪の少女とは別の魅力がその少女にはありました.
パイロットが3人になってからも戦いは続きました.敵は強くなるばかりでしたがある時は協力しある時は反発しながらも何とか生き残り続けました.戦いの中で少年は自分と他人の絆が少しずつだけれども強くなっていくの感じていました.
…ところが,運命は非情でした.ある時,新たに加わった4人目のパイロットの乗った「えば」が敵に乗っ取られるという事件が起こりました.少年は出撃しましたが人が乗っていることを知って戦いを拒絶しました.が,司令のお父さんの遠隔操作によって「えば」は少年の意志を無視して敵「えば」を粉砕しました.中にいたパイロットを見て少年は愕然としました.なぜなら,パイロットは少年の最初の友達だったからです.
友達の命は助かりました.が,片足を失いました.そのことは少年の心に深い傷を付けました.少年は怒りに震えてもう二度と「えば」には乗らないと決めました.
少年の意志がどうであれ敵は容赦無く攻めてきました.少年は戦うつもりはありませんでした.もう誰も傷つけたくない.それが少年の意志でした.しかし,少年の尊敬する青年の言葉と目の前で赤毛の少女・青い髪の少女の乗る「えば」が敵にやられる光景を見て少年は再度戦うことを決意しました.その繊細な心から最大限の勇気を振り絞って.
その戦いに少年は勝ちました.が,少年の持っていた絆は一つ一つ切れてゆきました.
赤毛の少女は少年に助けられたことを受け入れることができませんでした.自分は常に一番でなくてはならない,幼い頃に受けた心の傷が彼女をそうさせていました.彼女は後の戦いで敵の精神攻撃を受けて心を閉ざしてしまいました.
青い髪の少女は少年を受け入れていました.が,その思いを少年に伝えることなく戦いで彼女の「えば」と共に少年の前から姿を消しました.後に彼女は助けられたのですが彼女は過去の記憶を一切失っていました.
少年が尊敬していた青年も紛糾に巻き込まれてこの世を去っていました.
ほかの友達も戦いの激化で遠地に疎開してしまったために少年はまた一人ぼっちになってしまいました.
そんな時,銀髪に赤い目をした少年が傷心の少年の前に現れました.その少年との出会いで傷ついた心が癒されていくのを少年は感じていました.そして「好きだ」ということをはっきりと少年に伝えてくれた初めての人との出会いでした.
しかし,彼はあの異星人達に仕組まれし者でした.少年は出撃し,彼を捕らえました.…そして,彼を殺しました….
彼を殺したことで少年は苦しみました.自分に好意を向けてくれた人を殺した,本当は自分こそ死ぬべきではなかったのかと.少年は救いを求めました.赤毛の少女に.が,彼女は壊れたまま少年を見ようとはしませんでした.青い髪の少女には求めようがありませんでした.なぜなら彼女はまた機械のように感情の無い状態に戻っていたのですから.
少年の心は闇で満たされました.誰も僕を見てくれない,誰も僕を知らない…少年は両手で膝を抱えたまま動こうとはしませんでした.
…異星人による総攻撃が始まったのはその時でした.地球側の「えば」を模した「えば」が9体,天より降ってきました.心を閉ざした状態から自力復活した赤毛の少女の「えば」が迎撃に向かいました.が,数の劣勢はどうしようもなく少女の「えば」は傷ついてゆきました.
少年は両手で膝を抱えたまま状況を聞いていました.お父さんの代わりに保護者を務めていた女の人が叱ったり励ましたりして少年を再度立たせようとしていました.
…闇に沈んでいた少年の心が再び光を求め出しました.何度も打ち砕かれ,壊され,潰されても立ち上がって再び歩き出す強さが少年にはあったのです.少年はまた立ち上がりました.絆を守るために.絆を取り戻すために.
少年は悲愴な決意で出撃しました.赤毛の少女の「えば」と協力して9体の「えば」を各個撃破していきました.それは奇跡と称えるに値する働きでした.戦いの中,赤毛の少女の少年に対するわだかまりはなくなっていました.
9体の「えば」を倒して勝利を確信した時,異星人の母船から7体の巨大なモノリスが降りてきました.そのモノリス群が振動を始めた時異変が起こりました.
赤毛の少女の「えば」が吹き飛ばされました.中の少女は無事でしたが「えば」は活動不能に陥りました.少年が吹き飛ばされた逆の方向を見るとそこには良く見知った青い髪の少女が立っていました.少女の目に表情のかけらは一片たりともありませんでした.青い髪の少女は手を少年の「えば」に向けました.少年の「えば」は程無く吹き飛ばされました.
天より降りてきた青い髪の少女は銀髪の少年と同じく仕組まれし者だったのです.そして,それが異星人達の最後の切り札でした.少年や赤毛の少女は知りませんでしたが,少年のお父さんは知っていました.お父さんは少年に現在稼動する唯一の「えば」で青い髪の少女の抹殺を命じました.
…少年の心は決まっていました.…少年は「えば」から降りて青い髪の少女に歩み寄ってきました.お父さんは残った「えば」を遠隔操作で動かそうとしましたが少女の出した衝撃波で最後の「えば」も粉砕されました.少年は悲しみと微笑みの入り混じった顔でゆっくりと少女に近づいていきました.
モノリスが唸って,少女から少年へと必殺の衝撃波が飛んできました.が,それはことごとく少年をかすめて外れました.少年は構わず少女に近づいていきました.少女の赤い目は表情を語っていませんでしたが,目から涙が頬を伝って流れていました.
少年と少女の距離が詰まっていき絶対に狙いの外しようの無い間合いに入った時,モノリスが唸りました.が,少女の手から衝撃波は出ませんでした.少女の手は震えに震えてモノリスの意志に必死に抵抗していました.少女の目に戸惑いが表れました.少年はさらに近づいていきました.歩き始めた時と同じ表情で.
少女の目は少年に近づかないでと訴えていました.今度,モノリスが唸ったら少年を殺してしまうと.少女の中ではモノリスの意志と未知の…忘却のかなたにあった感情が攻めぎあっていました.少年は少女の目を見てもなお前に進み,突き出した少女の手と少年の胸が触れました.
モノリスが唸りました.
…少年の口から赤いものが流れました.少女はモノリスの意志を完全に抑え切ることはできませんでした.威力を抑えられたとはいえ,少年の肋骨は何本か折れて肺に突き刺さっていました.少年は顔を一瞬顔をしかめながらも精一杯の笑顔を作って少女のもとにたどり着きました.そして,少女に寄りかかるように抱きつき気力を振り絞って口元より血をこぼしながら耳元で一言ささやきました.
それは,少年が口にするのを恐れた言葉.
それは,少女が伝えられなかった言葉.
…決着はあっけなく着きました.記憶を取り戻した少女はその力でモノリスと母船を瞬時で粉砕しました.が,今の少女の関心は傷ついた一人の少年にしかありませんでした….
その後,少年はすぐに治療を受けて命を取り止めました.そして,この時の戦いの記録は永きにわたって極秘となり表には出ませんでした.
…数年後,少年と少女は無事結ばれ,生涯仲むつまじく幸せに暮らしました.
おしまい.
(出典:日本戯作昔話集 第十五巻)
1997/06/03 Ver.1.1 Written by VISI.
筆者より
筆者は当初,シリアスな6月6日記念SSを書こうとしていました.
が,あえなく挫折した所へこの話が思いつきました.
本文を書き始めた時はこういう話にするとは考えていなかったのですが,結果として本編のストーリーを昔話風に語るという無謀なものとなりました.「史実」と異なっている箇所があるのは伝承(笑)されるうちに改ざん・脚色があったからです.(笑)ですから,別の伝承(!)ではきっと物語の過程・結末が違うはずです.(^^)
御都合主義な話ですが感想をいただけると嬉しいです.
誤字・脱字・文章・設定の突っ込み等は,
VISI.さん2本目のSS、『6月6日のUFO』公開です!
少年は神話になった(^^)
VISI.さんの手で神話になったEVAです。
本編EVAのダイジェストを伝承の雰囲気で書き綴っているだけでなく、
春映画、そしてその先のオリジナルと綺麗に繋がっていましたね。
シンジもアスカもレイも皆生き残る・・・こうあってほしいものです(^^)
・・・・・・・
うーむ、VISI.さんはシンジXレイの人だったのか・・・・ (;;)
エーン (;;)、エーン (;;)・・・(笑)
さあ、訪問者の皆さん。
2本目のSSを書き上げたVISI.さんに感想メールを!
前回のSSカウントで分かっている方も多いと思いますが、
VISI.さんは68K所有者です。その辺の事を話しても面白いと思いますよ!