真っ暗の闇の中、彼女は目覚めた。 辺りを見回しても何もない空間、彼女はそこに浮かんでいるのだ。 刹那、一瞬にして今度は真っ白い明るい空間に変わる。 しかし、何もない空間にかわりはない。 ただただ、彼女はそこに何もしないまま浮かんでいるのであった。 いや、何かをすればその空間は一瞬にしてはじけ飛んだかもしれない。 しかし、彼女にその気はなかった。 この空間を壊して元の世界に戻ったところで、何か自分に得があるのだろう か。現実の世界では、嫌なことばかりだ。 彼女は今までどんなことにも逃げないで向かっていった。 その結果がこれだ。 負けた。あいつに負けた。 助けられた。あんなやつに助けられた。 もう、どうでもいい。アタシなんかどうなってもいい。 誰もアタシを必要としてくれない。エヴァに乗れないアタシなんてここに居 る必要なんてない。 そう考えると、この何にもない空間で、ただただ浮かんでいるのもいいなと 彼女は思う。 再び、真っ黒の闇になる。 光と影が交互に襲ってくる空間で彼女はあることに気が付いた。 あそこだけなんだか変。 白い世界から黒い世界に変わる一瞬、そこの場所だけ空間が湾曲したように 見えた。 彼女は何の抵抗もなく、その場所に行こうと思った。 思うだけでそこに行けるというのは、とても便利だと彼女は笑みをこぼした。 何年ぶりだろう? そんなに時間は経っていないはずなのに、久しぶりに”笑う”という事をし たような気がしていた。 近くまでくるとそこはどうやら壁であることがわかった。 今まで何もない空間だったと思っていたのだが、こんな所に壁があるとは思 わなかった。 しかも、壁かと思っていたそれは、触れてみると扉であることがわかった。 どうして扉が? しかし、彼女はわかっていた。 この扉を開ければ、現実の世界に戻る事ができる。 彼女は、扉に身を寄せ、外の様子をうかがった。 声が聞こえた・・・ やさしい声が・・・ 懐かしい声が・・・ かなしい声が・・・ 彼女はすぐに彼の声であることがわかった。 しかし、すぐに扉を開けずに彼女は考えた。 彼は、アタシを必要としてくれるのだろうか・・・ いつも、いつもバカにしてからかって、意地悪だったアタシ。 わがままで、すぐ怒るアタシ。 そんなアタシを彼は必要としてくれるのだろうか。 今までの出来事を走馬燈のように思い出し、彼女は後ろ手にノブを握りしめ 目をつぶった。 再び、空間が白い空間へと姿をかえる。 ひょっとしたら、彼は待っているのかもしれない。 でも・・・・ 彼女は、心の中で葛藤しながら涙を流した。 いつもの自分なら、何でこんな事で涙を流すんだろうと強気の態度をとるの だが、それは、相手がいたから出来たことで、今は誰もいない。 彼女一人だ。 自分の流した涙が、その何もない空間に溜まり出す。 次第に、湖ぐらいの水量があっと言う間に空間に溜まる。 その水を見て、彼女は吹っ切れたのか、顔を上げると、 「バカシンジー!!!!」 と叫んだ。 刹那、扉が開かれ、彼女は外へと飛び出した。 彼女は目を覚ました。 最初は、白い天井を見たため、まだあの空間にいるんじゃないかと勘違いし たが、彼女のそばで手を握っている彼を見つけて、自分は現実の世界に戻った んだと思った。 「アスカ・・・アスカ・・起きてよ、アスカ」 いつもの調子で、彼は呟くように彼女に語りかけている。 もう、今日だけで何時間こうしているだろう。 彼は、時間も忘れてそうしているのだ。 「起きてるわよ、アタシは・・・シンジ・・・」 彼女は、静かに答えた。 みるみる彼の顔が明るくなる。 「よかった、アスカ・・・本当によかった・・・」 彼女は、現実に還った。 それから、かなりの時が過ぎた頃。 某日、某所。 どこからともなく、赤ちゃんが泣く声が聞こえてくる。 辺りには誰もいない。 そこに、一人の男が走り寄ってくる。 「よしよしよし、まったく、お母さんはどこに行ったんでちょうね?」 端から聞いていると、鳥肌が立つような赤ちゃん言葉を巧みに使ってあやし ている。 どうやら、その赤ちゃんのお父さんらしい。 2分ほどしてから、別の場所から今度は女性が走り寄ってくる。 「アスカ!どこに行ってたんだよ!子供をほっぽりだして!!」 「しょうがないでしょ?帽子が飛んでいったのよ!」 たしかに、ちょっとでも風が吹いたら飛んでいきそうな帽子を彼女はかぶっ ている。 「だからって、全く僕がここを丁度通りかかったからよかったものの、何かあ ったらどうするつもりだったの?」 「あなたって、いつもそうね?最近、赤ちゃんのことばかりで、アタシのこと 全然かまってもくれないじゃない!アタシは必要ないのね?」 「な・・・」 口を開けたまま彼は思いだした。彼女が入院していた理由を思い出したのだ。 外傷はないのに入院していたのだ。 心に傷を負っていた。ようやくここまで復活したのだ。 「アスカ・・・ゴメン。アスカの気持ちを何も考えないで、僕は・・・」 「シンジ・・・」 次第に近づく、二人の唇。 触れる瞬間、彼は指で彼女の唇を押さえた。 「赤ちゃんが見てる。続きは僕が帰ってからね・・・さぁ散歩はもうおしまい だ。僕も残業をしないでまっすぐ帰ってくるから・・・」 「うん・・・・」 彼女は黙って頷いた。 こう言うとき、彼女は本当に彼を愛していてよかったと思う。 たのもしい存在。 そう、一時期の憧れでなく、本当の恋い。 くすぐったいような気持ちにさせてくれる。 しかし、それがどことなく気持ちがいい。 彼と一緒にいるだけで居心地がいいのだ。 その日、約束どおりはやく帰ってきた彼は、彼女と躯を交わした。 彼女にとって、幸せの一瞬であった。 何もしなくてもいい。躯を重ねて、ただ抱き合っていれればそれでいい。 それ以上のことがあっても、それはそれでかまわない。 しかし、彼女は考える。 本当にこれでよかったのだろうか・・・ 彼がいたから、ここに還ってこれた。 彼がいなかったら、アタシはまだ病院の冷たいベッドの上で一生を終えてい た気がする。 いや、その前に・・・そう、扉があった。 あれは、アタシの中にあった可能性。あきらめていたはずなのに、外へのア クセスライン。 アタシは、生きていたい。生きていたいんだ。 そう、彼のもとで・・・ね?シンジ・・・ 彼女は聞こえないように呟いた。 聞こえていたのか、彼は彼女の方を向くと、優しくキスをした。 空には幾千もの星が瞬いていた。 まるで、二人の幸せを育むかのように星が瞬いていた・・・ 目覚め
糸冬 1997-08/ 公開 不明な点、苦情などのお問い合わせはこちらまで!
作者による後書き どうも!OHCHANです! 今回は、何とも訳の分からない作品になってしまいました。 最初は、アスカがシンジの呼びかけに答えて目を覚ます。というのを書きた かったのですが、やっぱり、1時間程度で書き上げた小説は駄目ですね・・・ まとまりがないって言うか・・・やっぱり立ち上げからしっかりしたものでい かないと・・・こういう作品になってしまう・・・ だめだなこりゃ・・・駄文もいいとこ、苦情でもください。
OHCHANさんの『目覚め』公開です。 赤ん坊をあやすときのあの口調・・・ 他人がやっているのを見たときは鳥肌ものなのに、 いざ赤ちゃんを抱くと使ってしまう・・・ 皆さんも経験ありませんか? なんで、「でちゅか〜〜」なんて言えるんだろう(^^; 心の扉を開いて戻ってきたアスカ。 彼女を支える、彼女と支え合うシンジ。 二人で幸せな道を歩いていって貰いたいですね。 さあ、訪問者の皆さん。 苦情を求めるOHCHANさんに温かい励ましを!