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注意 これは、『シンジとジュリエット』のオプションの一つです。

したがって、本編を読んでからでないと、意味が通らないと思われます。

また、医学にはちと疎いんで、少しいい加減な医学的描写もありますが、

展開上に必要だと、ご理解頂けるようお願い致します。


シンジが再び目を覚ました時、彼は病院の個室の中のベッドの上だった。

「どうして、こんな所に……」

つぶやいて、自分にとってはつい最近のアスカとの別れのことを思い出した。

「そうか……あの時僕……倒れちゃったんだ」

丸一日飲まず食わず寝ずでは倒れるのも当然だろう。

そしてシンジはその時に棺桶の中にいた少女のことを思った。

あの後、きっとアスカは灰になってしまっただろう。

そして、これからシンジが取る道は……アスカの後を追ってあげること……

シンジは改めて周りを見て、何かないか探してみた。

シンジが今いる所は、アスカが入院していた病院と同じで、部屋の作りがアスカのものとまったく一緒

だった。ただ一つ違うのは、枕許のタンスの上に、林檎と果物ナイフが置いてあること。

シンジはその果物ナイフを手にとった。

「アスカ……寂しかった?今すぐ会いに行くから……」

そしてシンジは、

そのナイフで、

手首を切った……


今更な学園EVA(!?)

シンジとジュリエット - if - Shinji and Asuka -



切った瞬間、シンジは不思議と痛みを感じなかった。

が、意識が急速に薄れていくのを自分で感じていた。

そんな中、シンジは一言つぶやく。

「アスカ……できれば、一緒に死にたかったな……」

想い人への最後の言葉。

それは、はたして別れの言葉だったのだろうか。

それとも、再会への挨拶だったのだろうか。

傷口から、どんどん血が流れ出る。

そして、

碇シンジは、完全に気を失い……

息をひきとった。


ちょうどその時、

何人もの医師団がシンジの元へ駆けつけてきた。

その中に一人、少女が混じっていた。

医師の一人が、シンジの手首を取り、傷口をみる。

見事な静脈の切り方に、本人の意思が含まれて、何リットルもの血が、床に流れ落ちているように見え

た。

別の医師が、首から脈をとろうとする、がすでに脈はなかった。

その二人が静かに首を振ると、同行していた少女が泣き崩れた。

「どうして……どうしてなの?シンジ……この馬鹿……」

そう、それは……

死んだ、と思われていた、惣流・アスカ・ラングレーだった。




話は少し前に溯る。

シンジが手首を切った瞬間、アスカは何をしていたのか。

アスカは、その時、病院内の特別監査室――院内に配置されている隠しカメラの映像が見れるところ―

―内で、今回、リツコとマヤから、一連の事柄についての説明を受けていた。

話す方も、聞く方も、話に熱中しすぎていたため、シンジの行為に気づくのが遅れたのが致命的だった。

モニター内のシンジの様子におかしいのに真っ先に気づいたのはアスカだった。

アスカは気づくなり、話を中断し、監査室を断りもせずに出ていった。

その様子を不思議に思ったマヤ、リツコはモニターを見……その光景に愕然とした。

その瞬間に、二人とも大切な見落としに気づいた。

すなわち

『シンジは、アスカが本当は生きていることを知らなかった』

マヤはすぐさま医師をシンジの病室へ派遣するよう手配し、手術室の準備もするように院内に指示をだ

した。

だが、結果として、それは全て無駄に終わったのだ。

一つの、大きすぎる見落としが、全てを破綻させた。

リツコはこころ、ここになしという感じでつぶやいた。

「こんな結果になるなんて……無様ね」




シンジがすでに息が無い事を知ると、同伴の看護婦が無念そうに白い布を顔に被せようとした。

が、アスカによって止められた。

アスカが、一番つらい想いをしていただろう。

精神崩壊して、要らないと思い続けてた自分を見続けていてくれたシンジ。

死んだ、と思ったときには、ぼろぼろになりながら駆けつけてくれたシンジ。

そして……、自分のために、自殺した、碇シンジ。

「この、馬鹿、大馬鹿……」

アスカはその瞬間ほど自分の存在を呪ったことはなかった。

シンジの顔を見ていると、そういう想いがふつふつと沸き上がる。

(あたしのせいで、シンジは死んでしまった。やっぱり、あたしは、あたしは要らない存在なんだ!)

せっかく、癒えかけた、アスカの傷は、今度こそ修復不能となった。

そして、

アスカはシンジの持っていたナイフを手にとり、

周囲の人間が、それに気づいて止めようとする前に、

左胸の、心臓の元へと、ナイフを突き刺し、

シンジに覆いかぶさるように、倒れ込んだ。

医師達は慌てて、アスカの容体を見る、が

深く刺さったナイフは、心臓に達しており、

誰が見ても、致命傷だった。


そして、

惣流・アスカ・ラングレーも

息を引き取った。




「もう行きましょう」

『Shinji Ikari and Soryu Asuka Langley』と彫られた墓石の前で泣き尽くすミサトに、リツコは端的

に言った。

どうして、二人とも同じ墓なのか……

それは、現世ではともに生きられなかった二人へのせめてものはからいということで、マヤがそう手配

したのだった。

肝心のマヤは、というと、墓前にはいない。

「自分には墓前に立つ資格なんてない」

と言うのがマヤの言葉だった。

「あんたねぇ、自分のしでかした事がどういうことだか分かってるの?」

半狂乱になりながら、ミサトはリツコの胸座をつかんで、つるし上げようとする。

リツコは、ミサトの顔をまともに見る事ができず、目をそらして

「十分、分かってるつもりよ」

と、淡々と述べる。

ミサトはそれで納得するはずもなく、

「だったらどうして、どうして……」

と、彼らが死んだ日からずっと繰り返された質問を口にする。

すなわち、

『真相の説明を、どうしてすぐにしなかったのか』

『なぜ、一時でも、シンジから目を離したのか』

『なぜ、アスカまで死ななければならなかったのか』

リツコはどの質問にも答えを持たなかった。

言い訳もしなかった。

ただ、「全て、私の失敗よ」と述べるだけに過ぎなかった。

そして、ミサトもそれ以上、責める手だてを持たなかった。

何よりも、そうすることで、アスカとシンジが帰ってくる訳ではないのだから。

ただ、一つだけ分かっていた事は、

本来なら、喜劇になるはずの、この恋物語は、

大人達のおせっかいと、それに伴うたった一つの過ちのため、

とても、とても悲しい悲劇として、幕を閉じるのだ、と。


END



「……なるほどね」

リツコはマヤの持ってきた文書を読むなりそうつぶやいた。

「はい……私、とんでもない事をしたんだなぁ、って今更ながら思ったんです」

そう、二人とも見落としていた、「シンジにアスカが生きていたことを伝える事」が、今回、たまたま

アスカがシンジが行動を起こす前にシンジの元へと行けたから良かったものの、もしそうでなかったら、

というのを想定して、最悪の結果を考えたマヤは、その結果に恐怖し、こうして、リツコの元へとやっ

てきたのだった。

マヤの気持ちを理解してか、リツコは優しく諭す。

「まあ、済んでしまった事なんだから、あまり悩む事も無いわ」

「でも……」

「あなたが気に病むのも分かるけど、結果的に、アスカもシンジ君も元にもどった、いやそれ以上になっ

たのだもの。自分のやった事の結果だけ見なさい」

「それは、そうですけど……」

まだ、煮え切らないマヤ。

リツコはしょうがないかな、と思いながら、

「じゃぁ、忘れられるように、努力なさい、手伝ってあげるから」

そう言うと、リツコはマヤを……

今度こそ本当に お・わ・り


ver.-1.00 1997-08/31公開
ご意見・感想・誤字情報などは mayuki@mail2.dddd.ne.jp まで。


なはははは、やってしまった。

本当は、こんな話作るつもりなかったんですけど、

まぁ、こういう終わりもあっても、それはそれで美しいかな、と思って書いてしまいました。

けど、どうも悪人になりきれないんですね、私。

思わず、お約束のオチがついてきてしまいました。

一応、悲劇の形の一つとして、受け取って頂けると嬉しいです。

(もちろん、落ちの部分は除いて(^^;)


 yukiさんの『シンジとジュリエット』 -if-、公開です。
 

 「あの時ちょっと遅れていたら」・・のifバージョンですね。

 僅かなすれ違い、
 僅かな気のゆるみ、
 僅かの勘違い

 が生み出す悲劇。

 逆に言えば、

 その”僅か”に支えられた幸せ・・・

 幸せをかみしめましょう(^^)

 

 

 「手首を切ったぐらいであんな短時間で死ぬか?」
   というツッコミは当然却下です(^^;

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 このもしもバージョンに対する感想をyukiさんに送りましょうね!


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