シンジが再び目を覚ました時、彼は病院の個室の中のベッドの上だった。
「どうして、こんな所に……」
つぶやいて、自分にとってはつい最近のアスカとの別れのことを思い出した。
「そうか……あの時僕……倒れちゃったんだ」
丸一日飲まず食わず寝ずでは倒れるのも当然だろう。
そしてシンジはその時に棺桶の中にいた少女のことを思った。
あの後、きっとアスカは灰になってしまっただろう。
そして、これからシンジが取る道は……アスカの後を追ってあげること……
シンジは改めて周りを見て、何かないか探してみた。
シンジが今いる所は、アスカが入院していた病院と同じで、部屋の作りがアスカのものとまったく一緒
だった。ただ一つ違うのは、枕許のタンスの上に、林檎と果物ナイフが置いてあること。
シンジはその果物ナイフを手にとった。
「アスカ……寂しかった?今すぐ会いに行くから……」
シンジとジュリエット
Part D -We are here... that's enough, isn't it?-
シンジが手首にナイフを持って行こうとした瞬間、病室のドアがノックも無しに突然開いた!
そして赤い髪の毛の美少女が部屋に飛び込んできた!
「ハロー、シンジ。元気?」
少女は部屋に入るなり大きい声でシンジに声をかける。
「へ……?」
そう、その飛び込んできた少女は……
「あ、アスカ……?」
「そうよ……、ってあんた、果物ナイフなんか持ってなにしてんの?」
「え……、いや林檎でも食べようかな〜、なんて……」
アスカの後を追って死のうとしてました、とは当人を前にして言えるはずが無い。とっさの言い訳にし
ては上出来だ。案の定、アスカも納得したようで
「ふーん」
とあいずちをうつ。そして、
「ちょっと、そのナイフ貸しなさい!」
「は、はい!」
シンジは素直にアスカにナイフを渡す。
アスカは林檎を一つ取ると、お世辞にも器用とは言い難い手つきで皮をむきはじめる。危なっかしくて
て見ていられないシンジが声を掛ける。
「ちょ、ちょっとアスカ、危ないよ……ねぇ、僕がやるからさぁ」
しかしアスカはキッとシンジをにらみ、
「うっさいわねぇ!あたしがやりたいの!あたしにやらせてよ……イタッ!」
よそ見をしながら皮をむいていたせいか、人指し指に小さく傷を作ってしまったようだ。傷口から血が
流れ落ちる。
思わずシンジはアスカの手を取っていた。暖かい。火葬場でのあの冷たい感触が嘘のような感じ。
アスカの腕をたどって、指の傷を見つける。シンジは自分の口をその傷口近づけていく。
「ちょ、ちょっと」
慌てるアスカもおかまい無しに傷口を舐めるシンジ。血の味、血のにおい、エントリープラグに似たあ
の匂い。これは間違いなく人の血だ!そして……
「イキナリなにすんのよ!バカシンジ!」
久々だけど聞きなれた声、アスカの反応!
ナイフと林檎共々床に落とし、アスカが傷のない右手を振りかぶったところで、シンジはアスカを抱き
しめた。
「アスカだ……本当にアスカだ!生きてる!」
シンジの目から涙がこぼれて、アスカの方を濡らす。
思いがけないシンジの熱い抱擁にアスカは振りかぶった右手を優しくシンジの肩にまわして、
「シンジ……心配してくれてたんだ……やっぱり……」
言いながら、アスカの瞳にも涙が浮かぶ。
「当たり前だよ!大事な……仲間で、戦友で、家族で……そして……」
「そして?」
「……今の僕にとっては……」
「とっては?」
シンジは少し考え込んだ後、アスカの瞳を見つめ、こういった。
「『愛しのアスカ姫……あなたのいる所へならたとえそこが砂嵐吹き荒れる砂漠の中へでも、そこが未
開の広野であろうと、必ず……冒険をしてみせます』」
「シンジ……」
「……好きだよ、アスカ」
「とても……とても嬉しい……」
見つめ会う二人、そしてどちらからか再び体が近づきはじめる。
シンジの胸に顔を埋めながら、アスカは人知れずつぶやく
「死んじゃ……死んじゃいやだよシンジ……」
病室のベッド脇、二人の影が重なっていった。
『でも、どうして急にこうなっちゃったのかなぁ……』
林檎の皮をやっとむき終えて、今度は食べやすい形に切っているアスカを見ながら、シンジはふと当然
の疑問を考えた。
『本人に聞くわけにもいかないし……』
った。
そこでミサトの目に入ったのは、開かれた棺の中にうつぶせに倒れこんでいるシンジの姿。
慌てて、駆け寄ろうとすると、シンジの体が少し持ち上がる、そして聞けるはずのない声がした。
「ちょ、ちょっとシンジ?ねぇ、シンジ、返事して!お願い!」
ミサトは当初、自分の耳を疑った。なぜならその声は……、
「あ、アスカ?」
そう、一昨日からずっと完全に息のなかったアスカだった。
アスカもその声に気付いて、
「ミサト?ちょっと来てよ。シンジが……、シンジが大変なの!」
あんたの方が大変だと思うんだけど、と思いながらミサトもシンジのもとへいく。
そして、シンジの状態を確認していると、
「ねぇ、シンジ大丈夫?」
と、間中アスカが突っ込みを入れてくる。
意識を失ってはいるようだが、特に目立った外傷があるわけでは無いし、脈もあったので、
(格好からして……ただの衰弱ね)
と、ミサトは判断した。
そのことをアスカに告げようと思ったが、ミサトにふといたずら心がわいた。
(どうせシンジ君もおなじ想いをしたんだし……)
そう考えたミサトの行動は早かった。
ミサトは悲痛そうな面持ちで、首を垂れて、力無く首を横に振る。
それを見たアスカは豹変して、
「な、なによそれ!どういう事なの!ねぇ!」
と、ミサトに問い掛けるが、ミサトはうつむき笑いをこらえる……もとい沈黙する。
その沈黙を肯定と受け取ってか、アスカもうつむいて力無くつぶやく。
「そんな……」
そんなアスカを見ながら、ミサトは思った。
(うふふふ……アスカも可愛いわねー)
その瞬間、アスカの目元が輝き、水滴が眼から流れ落ちてくるのをミサトは見て、
(ちょっち……やりすぎたかな〜)
と反省し、ミサトはアスカに声をかける。
「あの……ちょっとアスカ?」
しかし、アスカはミサトの事など眼中に無いようで、シンジを腕に抱えて、
「シンジ……どうして?ック…、あたし、シンジがいてくれるって思ってたのに……」
「いや、だからアスカ……」
「ずっと……ずっと励ましてくれてたじゃない。ック…なんで死んじゃったのよぉ……、これってあたし
のせいなの?ねぇシンジ……」
アスカは泣き続けた。シンジのために、自分のために。 「ック…ねぇ、シンジぃ、お願い、生き返ってよ……じゃないとあたし……あたし……」
と、アスカはシンジの胸に顔を伏せる。すると、アスカの耳に微かにではあったが、とくん、とくんと
いう音が気がした。
「……?」
アスカはこんど、シンジの左胸に耳を当てる。そして、間違い無いシンジの心臓の鼓動を感じた。
「生きてる……?」
つぶやきながら、アスカはミサトの方を見る。ミサトは罪悪感からか、青い顔をしている。アスカの頭
の中で、一つの考えがまとまった。
(……つまりミサトはあたしをかついでたってわけね……)
その事に気付いてアスカは最初自分のやらかしたことにけ恥ずさを感じたが、徐々にかつがれた怒りが
ふつふつと沸き上がってきた。
その時、アスカの視線にシンジの腰に差してある短剣が入った。それを見て、アスカは一計を案じた。
(まずいな〜)
ミサトは完全に声をかけるタイミングを失っていた。
アスカはシンジの胸に顔を埋めたまま、動こうとしない。
(今更冗談だったとは言いにくいわよね〜)
これからどうしよう、と頭を悩ませはじめた時、それは起こった。
「ウェック、うぇっく……もういい。シンジが居ないん世界になんて居たくない!」
アスカはそう叫んで、シンジの腰から短剣を引き抜く。
ミサトはアスカのその突然の行動に仰天して、
「ちょ、ちょっと!」
と、慌てて止めようとするが、間に合わずに、
「さあ短剣……今からあたしの胸があなたの鞘よ……ちゃんとあたしを死なせて、シンジの所に連れて
いってね……」
と、おもむろにその短剣を胸に突き刺した。
「アスカ!」
とミサトが叫んだ瞬間には、アスカは胸の短剣を抑えたまま、シンジの体に重なるようにうつぶせに倒
れていった。
それはミサトの眼にはどう写ったのだろうか。
「あ、あ、あ、……って慌ててるバヤイじゃないわ、えっと……消防しゃ……じゃなかった救急車!え
っと番号は……110?違う、それは警察よ……911?これはアメリカのだわ……ああ、何番だった
っけ」
(……思いっきり慌てまくってる。)
アスカは倒れた姿勢のまま、横目でミサトが携帯と格闘しているのを眺めていた。
当然ながらアスカは無傷……さっき胸に刺したのは劇で使う、先の引っ込む短剣だ。
(あんな性質の悪い冗談であたしをかついだんだから、いい気味よ)
とアスカが思っているさなか、ミサトはようやく救急車は119とダイヤルすればよいと言うことを思
い出したようで、受話器に向かって
「もしもし、救急車?早く来て!アスカが大変なの!……場所?第三新東京火葬場よ……は?いたずら
なわけないでしょ!無駄口叩いてる暇があったらさっさと来なさい!さもないと殺すわよ!」
と、一人でまくしあげて、電話を切る。
その様子が可笑しくてたまらなかったアスカは、思わず声を上げて笑ってしまった。
「アハハハハハ」
その声にハッとしたミサトは再びアスカの方を見る。そこにはお腹を震わせて笑い転げるアスカの姿が
あった。
「あ、アスカ、どうして……?あなた不死身なの?」
まぁミサトにとっては当然の疑問だろう。
アスカはその言葉にも再び大笑い、してから、
「んなわけ無いでしょ!ほら、これ見なさい」
と短剣を手にとって、先の部分を引っ込めたり戻したりした。
そういう短剣だったのだ、とミサトが認識するまでしばらく時間がかかった。
思惑以上に事が運んで、アスカは上機嫌だった……て誰かシンジの心配は?
(それには及ばないわ。ミサトが救急車呼んだでしょ)
……お見それしました。
さて、ミサトはしばらく茫然自失していた。
その間にアスカは起き上がった。そして、いきなりの質問をアスカは受けた。
「じゃぁ、その前のあれも……死んだ振りだって言うの?」
「?なにそれ?」
ミサトの疑問にアスカは疑問で答えた。
「だってあなた……死んでたじゃない。ついさっきまで」
「アンタ馬鹿ぁ?あれはふり、よ。この短剣が見えなかったって言うの?」
「その前よ!シンジ君が倒れる前まで!確かにあなたは死んでいた筈よ」
「へ?」
(言われて見れば……眼を開けたらシンジが倒れてたんで……そのことで頭がいっぱいだったわ、そう
言えばここどこなの?)
ふと、アスカは自分の体に眼を落とす。そこには普段着などではなく、真っ白な着物があった。
(これって……何?)
「ねぇミサト!なんであたし、こんな変な格好してるの?」
そう言われてミサトはなんとなくだが、アスカに死んだと言う自覚はなかった事を推測した。
「変って、着物?ああ、それは…」
再びミサトは本当の事を言うのが躊躇われた。が、
(もう一回言ってるし、すぐに気づいちゃうわよね)
と、考えて、
「……白い着物を、本来の着方と反対合わせに着るのは死装束の着方よ」
「死装束?何よそれ……」
と今度は体の下の方へ視線を巡らすと、棺桶があった。
棺桶、死装束、化粧、そして良く覚えていない経緯……
そこからはじき出される結論は、
「……あたし、死んだの?」
「……そのはずだと思ってたわ……」
アスカの問いにミサトはゆっくりと答えた。
しばらくの間、二人の間に沈黙が走る。
(あたしが死んだ?でも今あたしは生きている……こうして起きて、呼吸もしているもの。でもどうし
てそんな事が?なんだかもやもやした感じが頭の中に残ってるけど……)
(死んでたと思ったアスカが生き返った……というか死んでた本人にも自覚は無いみたいだし……時間
的タイミングが良すぎるわ。火葬の直前だなんて……ってことはこうなった原因はあいつね)
おのおの考え事をしていると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
その音はだんだんとこちらへ近づいてきていた。
「あれ……なんで救急車が……?」
「アンタ馬鹿ぁ?あんたが呼んだんでしょ!」
「そう言われれば……でもわたしはアスカが大変だと思って呼んだんだけどアスカは平気みたいだし」
その瞬間、二人ともある大切なことを思い出した。
「シンジ(君)!」
シンジは棺桶の中に倒れ込んだまま、忘れられていたのだった。
程なく救急車がやってきて、シンジを運んでいく。当然ながらミサトとアスカもそれに付き添い、車上
の人となった。
アスカ、というと、最初救急隊員達に白い着物を不信がられたが、「死人が動く訳無いでしょ、アンタ
馬鹿ぁ?」の一言で隊員達をねじ伏せた。
車内では先ほどとはうって変わって静かで、二人とも考え事に没頭していた。
(どうもおかしいとは思ってたのよね〜、アスカの体調がおかしくなった時の電話もあいつからだった
し、無理矢理火葬にしようとしたのもあいつだし……シンジ君連れてきたのはマヤだったけど、あいつ
とマヤの関係を考えたら……)
(あたし……本当に死んだのかな……だったらどうしてシンジが側に倒れてたんだろう……も そこまで考えてから、アスカはシンジをあらためて見る。
ただ単に衰弱してるだけなので、とりあえず点滴しか打たれていない。が、例の衣装のままだ。
(酷い格好……着てるものからして変だわ。まるで王子様の衣装じゃない。腰にささってた短剣といい。
それもボロボロ。なんでこんなになってるんだろう)
そこまで考えてから、アスカは口を開いた。
「ねぇミサト……」
アスカの声がかかって、ミサトはとりあえず先ほどの考えを中断させた。
「なぁに?アスカ」
「シンジ、さぁ……どうしてこんな変な格好してるの?それもこんなにボロボロで……」
「さぁ……詳しい経過はわたしは知らないわ……でもこんな格好になってまであなたに会いに来たのね、
シンジ君」
「どういう事?」
ミサトはお見舞いのこと、劇のこと、アスカの死を告げた直後のシンジのこと、そして戻ってきたとき
のことをアスカに話した。
話を聞き終えるころには、アスカは再び涙を流していた。
「こいつ……なんて馬鹿なの?あたしなんか……あたしなんかどうでもいいはずなのに……」
そう言って泣き崩れるアスカにミサトはやさしく言う。
「どうでもよくなんか無いわ、きっと。特にシンジ君にとってはね……」
泣き顔のまま、アスカは再びシンジの顔を見つめる。アスカの涙は嬉し涙へと変わった……。
切り終えた林檎を一切れ楊枝で刺しとって、シンジの口元へ運ぶアスカ。
「いや無理にそこまでしてくれなくても……自分でできるし……」
「あら遠慮しないで、それともあたしの切った林檎が食べられないとでも言うの?」
「……それじゃ、あーん」
シンジは口を開け、その林檎を口にする。しゃり、しゃりとりんごのかまれる音がする。そして、
「おいしい?」
「うん、おいしいよ」
「それじゃ、次、アーン」
と、楊枝に突き刺した林檎をシンジの口元へ運ぼうとした瞬間、病室の扉がまた、ノックも無しに開いた。
「よ!シンジ……ってげ!」
その失礼な人間の正体の一人、トウジは入って中を見た途端固まった。
「どしたのトウジ……ぐ」
ケンスケもまた、アスカとシンジを見た途端固まった。
「何、二人とも病人の前でノックもせず、失礼よ……あら?」
ヒカリも固まった。
ドアが開いた瞬間にシンジとアスカも固まっていたから、当たりに静寂が訪れた。どこかからかウグイ
スのSEでも聞こえてきそう。柏手でもいいかも。
いちはやく硬直状態から回復したのはシンジだった。そして3人にねぎらいの言葉をかける。
「み、みんな、わざわざありがとう……」
その瞬間、シンジは開きっぱなしのドアの奥の廊下で水色の髪の毛を見た。
「綾波?」
一緒に来た3人が入った後も、レイは病室になかなか入れなかった。
入ろうとしても、体がまったく動こうとしてくれなかった。
(どうして……)
レイは自分でもなぜ、こういうことをしているのかが分からなかった。
部屋の中の人間が硬直してる間、レイもまた、お見舞いの花束を抱えてドアの側で固まっていた。
しばらくの後、意を決して中に入ろうとした瞬間に、シンジから声がかかった。
「綾波?」
びくっ
レイは自分が緊張するのがわかった。また、動けなくなりそうになる。
「あれ、まだ部屋にはいっとらんかったんか?」
とは二番目に硬直を抜け出したトウジ。
その緊張感の無い声に安心してか、レイはゆっくりと病室のなかへ入っていった。
「碇君……」
「ファースト?」
レイの声に答えたのはシンジでなく、そのそばにいたアスカ。
レイはアスカの姿を認めると、
「あら、あなた、回復したの……良かったわね」
「ええ、おかげさまでね」
思いっきり敵意の視線を向けるアスカにはそれ以上目もくれず、レイはシンジの方へ近づいていく。
シンジの側まできてから、レイは持っていた花束をシンジに手渡し、言う
「はい、お見舞い……」
「あ、ありがとう」
「具合はどうなの?」
シンジが口を開くよりはやく、
「あたしの看護のおかげで大分良くなったわよ……ねぇ、シンジ?」
と、アスカから横やりが入る。
シンジは苦笑しながら、
「そうだね……」
と、答える。その言葉でレイは一瞬、とても悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに、
「そう……良かったわね」
とシンジを一瞥し、アスカの方へ向き直り、
「大変でしょうけど、頑張ってね、惣流さん」
と、言う。突然のこんな言葉に驚くアスカ。
「あ、ありがと……」
「じゃぁ」
と、レイはまっすぐとドアの方へ行き、戸口ではっきりと言った。
「さよなら」
「行っちゃった……」
レイが出ていった直後に、ぽつりと言うシンジ。それを聞きとがめたトウジ、
「行っちゃったはないやろが!」
ケンスケも後を追って、
「綾波どーすんだよ」
「追っかけなくていいの?」
と、問い詰めてくる三人にシンジは少し憤慨し、
「どうして僕が……」
「そうよ!レイは自分で勝手に出ていったんだから、ほっとけばいいのよ!」
横やりを入れるアスカ。しかし三人はアスカには目もくれずシンジを凝視して、
「シンジ……、そうかぁ、シンジがなぁ」
「良かったわね、アスカ」
「綾波じゃなくて惣流を選んだか……そうか……」
と、思い思いの感想を述べる。
「へっ?」
話の飛びかたについていけないシンジ君。
「綾波さんのこと全然気にしてないみたいだったもんね、碇君」
「まったくや」
「まぁぼくらもお邪魔虫だろうから消えた方がいいんじゃない?」
「そうね」
「じゃぁな、シンジ」
と、いいたいことを言って、出て行こうとする三人。シンジは慌てて声をかける。
「ちょっと、もうちょっとゆっくりしてってよ」
トウジが振り返り言う、
「せやなぁ」
もう少し……と言おうとした瞬間に、トウジはアスカとヒカリが睨み付けているのが眼に入った。
「……やっぱ帰るわ」
懸命だぞ、トウジ君。
「じゃ、お大事にね!」
「また来るよ」
「じゃぁな」
そう言って今度こそ本当に三人は去っていった。
「……みんな、何しに来たんだろ?」
完全にいなくなってからシンジはつぶやく。
「……お見舞い、でしょ、多分」
アスカも力無く言った。
そこで、ドアの外から再び声がかかる。
「あ、シンジ、劇の分の埋め合わせはいつか必ずしてもらうからな!」
「本当……まさかここまで行くとは思わなかったわ」
「……何がうまくいったのかしら?」
病院の特別監査室の中で、シンジの病室に仕掛けた特殊カメラの送る映像を眺めていたリツコとマヤは、
二人の背後からかかった怒気の含まれた声に一瞬、背筋が震えた。
「あ、あらミサト……どうしたの?」
努めて平然を装いながら、リツコは振り返る
ミサトは微笑んでいた、だが眼は笑っていない。
「何がどう、うまくいったのか、説明してくれるかしら」
「あら、何のことかしら?」
「とぼけないで!説明しなさい、最初から、さもないと……」
と、言ってミサトは懐から、何枚かの写真を取り出す。
それはリツコとマヤの絡みが写されたものだった。
リツコ、マヤともども顔を引き攣らせる。
ミサトがとどめをさす。
「これ、会社中にばらまくわよ」
リツコとマヤが平謝りし、全てを説明しだしたのは言うまでもない。
小一時間後……
「……なによそれ」
全てを聞きおわったあとのミサトの第一声はそれだった。
「でも、このとおり動いたわけですし……」
と、マヤがフォローを入れようとするが、
「そういう問題じゃないでしょう?大体、それならどうしてわたしには何の説明もなかったわけ?」
「……あなたはそう言うと思ったからよ」
突っぱねたミサトに、リツコは冷や水をかけた。
ミサトはリツコを睨む。が、横から今度はマヤが
「で……どうなさるんですか」
「どうって……」
「シンジ君達に言うんですか、このこと」
マヤの視線がモニターに動く。ミサトもそれにつられる。
そこにはアスカがかいがいしく、でも嬉しそうにシンジの事を看病している姿があった。
少し考えた後、ミサトは答えた。
「言えないわ……この事はあの子達にとってはそれこそ神様がおこした奇蹟よ……」
(命懸けの愛に神様がこたえてくれた……ってところかしら)
「分からないことばっかりだ。トウジ達といい、綾波といい、アスカといい……」
そこまで言ってはっと口をつぐむ。
しかし、もう既にその呟きはアスカの耳に入っていた。
「あたしが……わからない?」
「え、あ、いや……」
「どうして蘇ったのかってことでしょ?」
図星を突かれて何も言えなくなってしまったシンジ。
アスカは続けた。
「そうね……あたしにも良く分かんないな……でも、」
「どうでもいいじゃない、そんなこと。いまこうしてあたしがいて、シンジがいる。それで十分よ……」
そう言って、アスカはにっこりと微笑んだ。
(……綺麗だ)
その微笑みは、今までシンジが見たものの中で最高のものだった。
シンジも微笑み、
「……そう……だね、きっと」
と自分の言葉をかみ締めるかのように言った。
(そう、どうでもいいのよ……)
(そう、ど 《どんな形であれ、今こうして一緒に居られる……それだけでいい》
リツコさんとマヤさんが何をしでかしたんだか、説明が入ってませんけど、
なんか、それを入れるのも野暮な感じがしたから、抜きました。
その辺は、御想像にお任せします。<無責任
さて、このお話、誰がどうみても William Shakespeare の「Romeo and Juliet」がベースです。
原作を読んでいたとき、墓場のシーンで、
「火葬場で棺桶の中、死装束に身を包んだアスカのもとへ、シンジが行く」
というのを連想し、そこから全部の話を作りました。
結果として、ハッピーエンドになりましたけど。
原作がTragedy(悲劇)ですから、このお話はComedy(喜劇)でも良いかなと自分に言い訳してます。
ほら、ケンスケ君の劇でも「これ以上の悲劇は嫌!」と(言い回しはちがうけど)言ってるじゃないで
すか(^^;
yukiさんの『』Dパート、公開です。
な、何が起こったんだぁ(^^;
アスカに何が起こったんだぁ(^^;
死んじゃったはずが生き返って、
精神崩壊からも無事回復!
でも、まあ、
アスカもシンジも無事ですから、満足・・
[それはリツコとマヤの絡みが写された]写真が欲しい(爆)
さあ、訪問者の皆さん。
SSを書き上げたyukiさんに感想を送りましょうよ!