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その声を聞いたとき、ヒカリは出て行くのを止めて、気づかれなさそうで、二人の見える場所までこっ

そりと移動した。

飲み屋で今日何本めかのビールの大ジョッキを一気飲みの途中だったミサトも、それをあきれたように

眺めながら、ちびちび飲んでいたリツコも、その声が盗聴機の受信機から聞こえてきた途端、ジョッキ

を口から離し、受信機に注意を向ける。

たいした野次馬根性と言ってしまえばそれまでかもしれない。

だが、三人とも、一つの事を願っていた。


続(!?)シンジとジュリエット
まごころ Part D - True Heart -


家へと戻る途中で、ちょうど外にいたシンジに気がついたアスカは、ゆっくりとシンジに近づいていっ

た。

アスカが街灯にの下に差し掛かったあたりで、シンジもアスカがやってきていることに気づき、近づい

ていく。

お互い、会話できるくらいの距離に近づくと、動くのを止める。

先に口を開いたのはアスカだった。

「ただいま……、シンジ……」

「アスカ……」

シンジはぽつりと、つぶやいた後、言う。

「おかえり……」

シンジの言葉を聞いた途端に、アスカはさっきまでの強い気持ちが萎えかけたのを感じた。が、

(逃げちゃ駄目……、行くわよ、アスカ、わたしの、本当の思いを、伝えるの!)

そして、今度はちゃんとできた。

アスカは頭を下げて

「ゴメンナサイ!」

と大きな声で謝る。

その、唐突な行動に、シンジは面食らっていると、アスカが続ける。

「その……、わたし、とんでもない事言ったよね、さっき、晩御飯の時に。『バカ』とか『大嫌い』と

か……。きっと、わたしどうかしてたのね。今日一日、シンジの気を引こうと、色々してたのに、うま

くいってなかったからかな……。けど……本当はうまくいかなくて当然なんだよね、そんなこと……」

言ってるうちに、アスカの目に涙が溜まっていく。

「なのに、一人で騒いで……、ほんと……お笑いよね。わたしが悪いのに、あんなひどい事言って……

、ゴメンナサイ。だから……」

アスカは顔を上げ、

「わたしのこと……嫌いにならないで!」

と、大きい声で言う。側から一筋の涙が零れる。

(アスカが、泣いてる……それだけ、追いつめちゃったんだ)

その事実がシンジを少し辛くした。

アスカのこういう風に悲しんだり、辛くなったりするのが嫌だった筈なのに。

前の時、やりそこなったことだから、今度こそと思っていた筈なのに。

こうなる前に、何とかしたかった筈なのに。

そして、そんな自分を好いてくれるアスカに、シンジは自分が嫌な気分になる。

シンジはアスカの涙を指で拭う。

驚いてアスカがシンジを見上げる。シンジは言った。

「僕が……アスカのこと嫌いになれるわけないじゃないか」

その言葉を聞いた途端、アスカ顔が輝く。

「本当?」

「もちろんだよ。それに……謝らなきゃいけないのはアスカじゃなくて、僕だよ」

「えっ?」

アスカは突然のシンジの言葉に目を見張る。

シンジは続けた。

「僕さ……、自分で言うのも何だと思うけど、ずっとアスカのこと、気にかけてたんだ、いや、気にか

けてるつもりになってた、って言うのが正しいかな。だって、ずっと気にかけてて、気がづいたのが、

今日のアスカはなんだか……、僕の知ってるアスカじゃ無いような気がしたってことだけだったから」

言いながら、シンジは不甲斐なく思える自分が悔しくなった。

「それが何なのかなんてことは、ろくに考えもしなかった。本当は、それが一番大切なことだった筈な

のに。あの、煎り鶏だって、アスカがどういう気持ちで作ったのか、なんて、気づきもしなかった」

そう言うと、シンジは首をうな垂れる。込み上げてきた悔し涙を見られたくなかったから。

「……だから、何も気の利いた事ができなかった。アスカにまた辛い思いをさせちゃった。もう二度と、

そんな事がないようにって思ってたのに……」

そこまで言って、シンジは頭を上げた。目に溜まっている涙が零れる前に、ちゃんと頭を下げようと思

ったから。

そして

「ゴメン……、本当に……ゴメン」

そう言って、シンジは頭を下げる。

下げられた頭に、アスカは何を見たのだろう。

少しの間の後に、アスカは言った。

「言われてみれば……確かにアンタの方が悪いわね」

「……うん」

「謝られただけじゃ気が済まないから、一発ひっぱたいてもいいかしら」

「……それで、アスカの気が済むんだったら……」

「じゃぁ顔を上げて……ただ上げるんじゃなくて、目をつぶって、歯を食いしばって!」

シンジは言われた通りの姿勢になる。

「こうかな……」

「黙って!」

アスカの叱責が飛ぶ。

シンジは、これ以上アスカを刺激しないように、黙って痛みをこらえる準備をする。

そして、しばらくの時が過ぎる。

アスカの張り手は、未だ飛んでこない。

シンジが不思議に思っていると、今度はくすくす、と笑い声が聞こえる。

さすがにシンジもおかしいと思って、目を開けて見ると、そこには笑っているアスカの姿があった。

「アスカ……?」

「あら、ようやく気づいたの?」

そう言って、アスカは再びくすくす笑う。

「気づいたって……何が?それに何がそんなにおかしいのかな?」

シンジは訳が分からなくて、聞き返す。

アスカは笑いながら答える

「ただ頭をを上げてほしかっただけなんだけど。ちょっと冗談で、ひっぱたくなんて言ってみたら、本

当に殴られるみたいな顔するんだもの……もう、おかしくっておかしくって……」

シンジは唖然とする。

「本当。あんたって良いわね〜。正直で。まぁ正直の前にカタカナで二文字付けたくなるけど」

その言葉にシンジはすこしカチンときたが、アスカが楽しそうに笑っているのを見て

「酷いなぁ」

と、苦笑しながら答える。

そして、いつしかシンジも笑い出す。

「そうかしら……、それじゃ、わたしのこと、嫌いになっちゃった?」

アスカは笑いながら聞く。

「僕はアスカの事嫌いになんかなれないってさっき言っただろう?」

シンジも笑いながら答えた。

すると、アスカは急に笑うのを止めて、シンジの手をとり、

「本当?」

と、真剣な顔で聞く。

「う、うん」

うなずきながらもシンジは驚いてアスカの顔を見詰める。

誰もが可愛い、と言うであろう整った顔立ち、そのなかでとりわけ目立つサファイア色の瞳。

シンジにはそれがまぶしく見えた。

アスカは再び口を開いて、

「じゃ、じゃぁ……」

と、そこで息をついで、

「わ、わたしのこと……、好き?」

と、頬を真っ赤に染めながら消え入りそうな声で、聞く。

そんなアスカが、シンジには心底可愛く思えた。

答えは最初から決まっていた。

「もちろん」

シンジがそう言うと、アスカは顔を輝かせる。

「だ、だったら、さ、き、きちんと、言って、くれる?」

途切れ途切れに、アスカはシンジに言う。

「きちんとって?」

「……わたしの事、好きって……」

真っ赤な顔で言うアスカに、シンジは微笑んで言った。

「僕は、アスカの事、好きだよ」

「……嬉しいな……」

そうつぶやいてから、アスカは微笑んで言った、

「ありがとう……わたしもシンジのこと、好き……」

「アスカ……」

「シンジ……」

そして、二人は抱き合った。


「けど……やっぱりわたし、ずるかったね……」

シンジの耳元で、アスカはそうつぶやく。

「シンジみたく、最初から正直に言えれば良かったのにな……」

「いいよ……僕はそう言うアスカが好きなんだから」

「ありがと……わたしもそう言う優しいシンジが、好きよ……」

ちょうどその時、

くぅぅぅぅぅぅぅ

二人分のお腹の音が道に響く。

途端に、二人とも夕食がまだだった事を思い出した。

とりあえず、二人とも体を離して、

「……夕御飯、途中だったよね」

「そう、ね」

「じゃぁ、戻って、食べようか……」


しかし、

部屋に戻って、テーブルをみたアスカとシンジの第一声は

「あ、あれ?」

「どうしたの……、ど、どーして?」

と、いう、不思議なものだった。

とゆーのも、テーブルの上に食器こそ残っているものの、その食器に乗っているべきものが空だったか

らだ。

「シンジ……アンタよほどお腹すいてたのね」

「ぼ、僕じゃないよ!」

「へぇ……じゃあアンタ以外に誰がこの家に居たっていうのよ!」

その時、居間に寝そべっていた黒い生き物が元気良く答えた。

「クェェェェェェ!」

「ぺ、ペンペン?でも、どうしてこんなたくさん……!」

その時、とんでもない事実に二人は気づいた。

((そう言えば……))

(この一週間……)

(久しぶりだったんで……)

((ペンペンに餌やるの忘れてた!))

……ペンペン……可哀相に。

二人とも思わずお互いに向き合う。

「た、食べられちゃったみたいだね、ペンペンに」

「そ、そうね」

当のペンペンは、一週間ぶりの食事を平らげ、満足そうにうとうとしだした。

とりあえずシンジは、台所の鍋、炊飯器を確認するが、全て空になっていた。

「あちゃ〜、全然残ってない……」

「ど、どーするのよ!」

「……また作るしかないかな」

そう言うと、シンジはエプロンを身につけ、冷蔵庫を開ける。

シンジが中を物色していると、アスカもやってきてシンジの背後から冷蔵庫を覗き込む。

「アスカは……」

と、何か言いかけたシンジに、アスカははっきりと言った。

「わたしも手伝うわ。いいでしょう?」

シンジは微笑んで答える

「もちろんだよ」

おしまい

ご意見・感想・誤字情報などは mayuki@mail2.dddd.ne.jp まで。

はい。これでおしまいです。

「シンジとジュリエット」に続いて、再び四部作。yukiはきっと四部作か単発しか書けないのでしょう。

しかも、前作と違い、元ネタがあるにも関わらず、全然それが繁栄されてない(^^;

おかげでオリジナル色がでた……というよりもマンネリ感が出てしまったような気も。

さて、

今回、yukiが一番気合入れて書いてた場面は……ヒカリちゃんの愛情料理のコメントだったりします(^^;

と、いうのも、昔、森高のグラタンの歌(正式な曲名は忘れてもうた)で、恋人の誕生日の前日になっ

て、グラタンを作ろうっていって、ろくすっぽ練習もせずに、本番で失敗しても「私なりの精一杯」と

かとんでもない終わり方をした歌があったでしょう?(物凄く古い話ですが)

あれ、yukiはすごく頭にきたんです。本当に愛情のこもった料理というのはそんな付け焼き刃なじゃな

い、と思ったのですが、その時に考えたのが、では本当に愛情のこもった料理というのは何なのだろう

と考え、今回、見つける事ができたと思ってます。この件に関しての反論、ないし議論は大歓迎です。

その他の感想、指摘、批判なども……大歓迎します(^^;


 yukiさんの『まごころ』Part D、公開です。
 

 やっと伝わった二人の気持ち。
 

 伝わることで変わること。

 それに臆病になっていた二人ですが、
 ホッと一息(^^)

 時間がかかりましたね。

 でも、
 それだけにじっくり自分の気持ちを確かめ余裕も。

 辿り着いた今、
 まごころがあたたかいです(^^)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
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