TOP 】 / 【 めぞん 】 / / [鈴木]の部屋 / NEXT





シンジ達が、第三新東京市立第一中学校に通うのも、今日で最後となったその日の朝。

「アスカ、何で起こしてくれないんだよ。」

「何言ってんのよ。アタシはちゃんと起こしたわよ、アンタこそ卒業式の日くらい自分で 起きなさいよ、バカシンジ!」

学校へとつづく長い坂道を全力で駆け上がりながらも、ポンポンと言い合っているのはもちろんシンジとアスカだ。

この2人以外に学生の姿はない。2人が中学に入ってから、ほぼ毎日 繰り返されてきたこうけいだった。




ガラッ




「おはようございま〜す、って、あれ?」

2人が息を切らしながら駆け込んできた3−Aの教室の中には誰もいなかった。


「あれ?どうしたんだろう」

シンジが間の抜けた声を出す。

「アンタバカ? きっともう皆体育館に行っちゃったのよ。ホラ、アタシ達も早く行くわよ」

シンジとアスカは息も整わぬままカバンを机に放り出すとまた教室から飛び出して行った。

こうしてシンジ達の、中学校生活最後の1日は始まったのだった。















EVANGELION
THE OTHER EDITION
TRACK 2
Like a Angel






「えー、今日皆さんはこの第一中学校を卒業されるわけですが――――」

眠気を誘う校長先生の、ありがたいお言葉が続いている体育館の中。シンジとアスカはどうやら 無事に潜り込めたようである。

「アスカだめじゃない、卒業式なのに」

ヒカリが、隣に座ったアスカに向かってボソボソと話し掛ける。

「シンジがいつまでも寝てるからよ、ヒカリ」

いつもの挨拶から、いつもの様なとりとめの無い会話へと発展していく。

きっと15歳の少女達にとっては先生の 言葉なんかよりもそんな会話のほうが大事なのだろう。

アスカにつられ、ヒカリも今は学級委員長としての立場など すっかり忘れてしまっているようだ。

やがて、話の内容が昨夜見たテレビドラマの感想なでに移ったころ、一緒に潜り込んで来た

シンジは校長先生の催眠術に、見事なくらいかかっていた。ちなみにのこりの2バカ、トウジ とケンスケ、それにレイもである。

そしてその、口をパカッと開けて眠るシンジの顔を、ニコニコと 眺めているのは渚カヲル。

7人が思い思いの時間を過す中、式は静かに進行していった。

そして、シンジ達があくびをかみ殺しつつ卒業証書 を受け取って卒業式は無事、終了した。










教室に戻ってきたシンジはいつものメンバー達とお喋りをしていた。

「しっかし高校に入ってもまたアンタ達と一緒じゃ新鮮味がないわよね〜」

「そりゃどういう意味や、惣流」

「言葉通りよ」

凄んでみせるトウジに対して、サラリと答えてみせるアスカ。

「ワイの方こそ、またお前らの夫婦喧嘩聞かされるんかと思うとうんざりや」

「なんですってぇ〜、もう1度言ってみなさいよ!」

「おい、2人とも止めろよ」

ケンスケが、眼鏡のツルをクイッと上げながら仲裁に入る。

「それより何で惣流は第一高校にしたんだ?お前の学力ならもっと上狙えたんじゃないのか」

ケンスケの、そんな質問に答えたのはアスカではなく、さっきから黙々とスイカジュースを飲んでいたレイだった。

「相田君、ヤボなこと聞いちゃだめよ〜。そんなのシンちゃんと一緒にいたいからに決まってるじゃん」

手をひらひらさせながら、楽しそうに喋るレイ。これにはアスカも過敏な反応をみせた。

「ちょ、ちょっとレイ!かってなこと言うんじゃないわよ!」

ちなみにシンジは茹でダコのようになっている。

「あれ、違うの?」

「あ、あったり前でしょ!アタシが第一高校にしたのは・・・そ、そう!制服が可愛かったからよ。
アタシは別に学校のレベルなんかにこだわらないし,それにヒカリとも一緒だしね。
だからシンジなんかぜんっぜん関係ないの! わかったっ?」

目を三角にして怒鳴るアスカ、しかし・・・・・

”あっちゃ〜、またやっちゃった。こんな事言うつもり無いのに・・・・・でもレイにあの顔で言われると
つい言っちゃうのよね”

見た目や発言と、その心の中はずいぶん違うようだ。

「ふ〜ん、そうなんだ。でもそんな事言っちゃっていいのぉ? 碇君さみしそうだよ」

「え・・?」

アスカが視線を巡らせてみると、シンジはややうつむいて目を伏せている。




チクッ


胸の奥がわずかに痛んだ。

「シン・・・・」

「かわいそうに、シンジ君。君の心を癒してあげられるのはやっぱり僕しかいないようだね」

カヲルが、アスカの言葉を遮って、シンジの手を取ってやさしく話し掛ける。その顔には独特 の笑顔が浮かんでいる。

「へ?な、何言ってんのさカヲル君!僕は全然平気だよ」

シンジは顔を赤らめながら、慌てて言う。

その手をやんわりとほどきながら、しかし親友に対して微笑むことも忘れてはいない。

「シンジ君、僕に対して遠慮は無用だよ。どうだい?僕と2人で卒業しないかい?」

カヲルは、その手を再び握り返しながら、ズイッと身を乗り出す。

「な、何を?」

「決まっているじゃないか、僕とシンジ君とで、禁断の」


ドボッ






カヲルが言葉を繋ぐことはできなかった。レイの手刀が、カヲルの喉に深々と突き刺さって いたからだ。

魂、必中、閃き、幸運、努力を掛けるのも、もちろん忘れてはいない。


カヲル、完黙。

「じゃましちゃだめじゃない、いいとこなんだから」

レイが、ニコッと笑いつつ、沈んでいくカヲルを一瞥する。





「ア、アスカ、別に気にしないでよ、僕は・・・全然平気だし、また一緒に学校行けてその・・ うれしいし・・」

シンジは柔らかく微笑む。



幼いころから、いつも一緒だった2人。


同じ布団で眠り、一緒にお風呂にも入っていた少年の立ち位置が、少女の中で変化したのは
いったいいつ頃からだったろうか。

幼稚園時代、いじめられ、ピィピィ泣いているシンジの代わりに仕返しをしに行ったアスカ。

小学校。初めて入る教室の前でオドオドしているシンジの手を取り、威勢良くその扉を開けた アスカ。

新学期の朝は、毎年こっそり神様に祈り、ドキドキしながらクラス替えの発表を見ていた中学生のアスカ

そして中学を卒業する今、勝ち気な少女は自分が恋をしていることに気づいていた。

相手は誰よりも、自分よりも大切な幼なじみ。


思い切り甘えたり、素敵なデートをしたいと思う。



今まで通り、ケンカをしたり、他愛も無いじゃれあいを続けていたいとも思う。



そしてそれは、時間の流れが許してくれないことも知っている。



けれど、言えなかった言葉の分だけ想いは募り、眠れなかった夜の分だけ想いは積み重なっていくのだろう。

心の扉を開けることができたなら、きっと世界は変わり、自分すらも気づかなかった自分を見つけられる。

やっと中学を卒業する少女は、そう思えるほどに大人にはなっていなかった。




「シ・・シンジ・・あの・・・・・」

「え〜と、シンちゃん。良い雰囲気のトコ悪いんだけど、そろそろ職員室に卒業アルバム取りに
行かないと、先生に怒られちゃうよ〜」

「え?あ、そうだね、綾波」

「そうだよ〜、私たちが最後の週番なんだから、オシゴトしなきゃ。そんなわけでアスカ、ちょっと シンちゃん借りるね」

「な、なんでいちいちアタシにことわるのよっ。いいからさっさとみんなのアルバム運んで来なさいよっ!」

アスカが、バンバンと机を叩きながら答える。って言うか、怒鳴る。

しかし、その内心はホッとしていたのかもしれない。なぜなら先に繋げる言葉を今は見つけることができなかったから。



「ハイハイ。じゃあ行こっ、シンちゃん」

「うん。じゃあみんな、ちょっと行ってくるね」

席を立つと、レイは跳ねるように教室を出て行く。そしてその後をテクテクとシンジは歩いて行った。






「あ〜あ〜、今日でこの学校ともお別れかぁ〜」

レイは誰に言うともなしにそう言いながら、手を後ろで組んで廊下を歩いていた。

ショートカットにシャギーを入れたスタイルがよく似合っている。

瞳の真紅。髪の空色。肌の白。

他の何色も、霞んでしまいそうなほどの美しさだ。健康的な美少女アスカとは対照的と言って良いだろう。

事実、第一中学校内でも、アスカと5分にわけるほどの人気を保っていた。

その2人がそろって同じ高校へ進学すると聞いて、第一高校を受験した者も少なくないと聞く。





「そうだね。なんか、ちょっとさみしいよね」

「でも、高校に行ってからもアスカ達と一緒だし、私は楽しみのほうが大きいなぁ〜、大好きな シンちゃんもいるしね」

「ななな、何言ってるんだよ。からかわないでよ、ヤだなぁ〜。ハハハ・・・」

シンジは真っ赤になってうろたえている。

「え〜〜〜シンちゃん、私と一緒の高校行くの、やなのぉ〜〜?」

途端に赤い双眸が曇る。

「そ、そんなわけないじゃないか。僕だって綾波達と一緒の高校行けてうれしいよ。そ、それより

ほらっ、はやくアルバム運んじゃおうよ」

2人は職員室に辿り着き、シンジがあわててそのドアを開ける。

「失礼しまーす。3−Aですけど、卒業アルバムを取りに来ました」

職員室の中ほどのデスクに居た、髪の真っ白になった初老の先生が、シンジの声に顔を上げた。

「こっちだよ。そうか、最後の週番は碇と綾波だったね」

先生はデスクの下からダンボールを2つ取り出した。

「これがうちのクラスの分だよ。私もすぐに行くからよろしくたのむよ」

「はい。わかりました」

シンジとレイはアルバムが入ったダンボルを受け取ると、職員室を退室した。






「ねえ、シンちゃん」

教室へと戻る途中、レイが歌っていた鼻歌を止めてシンジに話しかけてきた。

「何?」

「明日、ヒマ?」

「うん? 別に用はないけど、なんで?}

「そっか。じゃあ、明日ちょっと付き合ってくれないかな?」

「いいよ。どっか行くの?」

「ううん。そうじゃないんだけど、ちょっとね。待ち合わせは、そうだな〜・・」

レイが立ち止まって考えること、暫し。シンジもつられて歩みを止める。

「うん。お昼ちょうどに、学校の正門の前がいいな。おっけー?」

「12時に、正門だね。わかったよ」

シンジの答えを聞くと、レイは嬉しそうにニコッと笑った。それから2人は、中学校生活の思い出話などを

言い合いながら自分達の教室へ戻っていった。もっとも、シンジやアスカ、レイ、ヒカリ、トウジ、ケンスケ、カヲル達が

過した時間を語るには、職員室から3−Aまでの距離ではとても足りないのだが。








そして残りの5人も加わり、さらに思い出話に華を咲かせていたが、先日の冬休みにみんなで行ったスキーの話題まで進んだころ

先生が教室に来ておひらきとなった。

その後、アルバムなどを受け取り、先生と最後の挨拶を交わして、シンジ達は3年間過した学び舎を後にした。


校庭をぞろぞろと歩いていく7人。その時、さりげなくを装って、トウジの隣を歩いていたヒカリがあることを思い付いた。

「ねぇみんな、1つ提案があるんだけど」

みんなが一斉にヒカリのほうを見る。

「なんや、いいんちょ」

即座に尋ねたのはトウジ。

「うん。たいしたことじゃないんだけど、私たち、何をするのも一緒にやってきたでしょ。だから最後もさ、
同時に学校を出て、みんなで一緒にこの中学校を卒業したいな、って思って・・」

「よっしゃ、そうしよか!」

即座に賛成の声をあげたのもトウジだった。

「良い考えね、ヒカリ」

他のメンバーも、うんうんと賛成している。そしてそのまま正門まで歩いていき、あと1歩で門を出るという所で、

シンジ、アスカ、レイ、ヒカリ、トウジ、ケンスケ、カヲルの7人は1列に並んだ。




〜修学旅行、シンジと泳いだ沖縄の海のこと〜

〜修学旅行の前日、炎天下の下で1日中アスカの買い物に引っ張りまわされたこと〜

〜1年前の転校初日、あの曲がり角でシンジとぶつかった朝。それからのみんなとの毎日のこと〜

〜1年前から、毎日かかさずヒカリが作ってきてくれたお弁当のこと〜

〜毎朝、何にしようかと悩みながらも楽しく作ったトウジのためのお弁当のこと〜

〜アスカとレイのおかげで、随分こずかいを稼げたこと〜

〜冬休みに行った旅行で、シンジ達と入った温泉のこと〜




よぎる思いは様々だったが、誰かと共有できた思い出は、きっと彼らの一生の宝物になるだろう。




「じゃあ、せいので行くわよっ」

アスカの元気な言葉に、全員がうなずく。














「せ〜〜のっ!!」






きっと、子供達の背中には、翼が生えているのだろう
そびえる夢に辿り着くための翼が
そして、遥かな未来を目指すための、天使の翼が


7人の少年少女は、勢いよく一斉に飛び立ち、彼らの中学校生活は終了した。












つづくネ

ver-1.00 1998+04/27公開
ご意見、感想などは こちらですっ

ども、鈴木です。

標準語から、関西弁を引く辞書が欲しいと、マジで思う今日この頃です。


――カメの歩みでようやくTRACK 2が書きあがりました。

・・・が、何かとりとめの無い話になってしまいましたね。

まあ、きっとTRACK 3からは急展開するでしょう・・・・・・・・・そう思いたいなぁ。

見捨てないでね(笑)



それでは、今回も訳のわからない後書きになってしまいましたが、この辺で。

じゃね。



「黒夢」のナンバーから「Like a Angel」を聞きながら





 鈴木さんの『EVANGELION THE OTHER EDITION』TRACK 2 公開です。





 想い出いっぱい
 仲間いっぱい

 いいっすね(^^)


 はっきり意識しているアスカと、
 明るい行動に隠した気持ちのレイ。

 シンジを巡る三角が・・・



 明日の待ち合わせは
 たっぷり波紋を起こしそうです♪




 カヲルもマジなら、四角になるのか・・・(^^;




 ケンスケ (;;)

  ま、出てこなくても誰も気にしないけどね・・・悲しすぎ(^^;




 さあ、訪問者の皆さん。
 カカカと感想を書いて、ぽんとメールを送りましょう!



TOP 】 / 【 めぞん 】 / [鈴木]の部屋