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 発令所でATフィールドの計測センサーが悲鳴を上げ始め、再びあの「フィールド共鳴攻撃」が来るかと騒然となっていた頃。
 戦いの最先端では、とある小さな異変が生じていた。

 「え…?」

 シンジは、空間に、ふと違和感を感じた。ごくごく小さなゆらぎだったが、何故か気になって仕方がなかった。
 今は戦いの最中。集中力を欠くことは即、死につながる。しかし、何か嫌な予感が心の中を支配していた。
 そちらの方に意識を向けると、確かに、量産機のATフィールドとは異なった、何らかのエネルギー場が展開されている。全センサーを動員してみると、ディラックの海のように、別の次元とつながっている空間らしい。

 (誰が、こんなものを…?)


 その答えは案外あっさり姿を現した。
 エネルギー場…「窓」あるいは「門」とでも呼ぶべきか…を通って、一つの人影が出てきたのだ。

 銀髪の男性。ちょっと見でも、かなりハンサムに見える。
 普通の人間に見えた。背中の翼を除けば、そこらにいる男性と全く変わりはないように思えた。
 軽く目を閉じ、『彼』はその場に浮かんでいた。何の助けもなく、それがまるで(彼にとって)当たり前のように、落ち着き払った表情で。

 量産機もその存在に気づいたようだ。一体が、持っているブレードで斬りつける。
 その瞬間、『彼』は目を見開いた。
 紅く輝く瞳。

 「あれは…っ!」
 瞬間、脳裏を何かが駆けめぐる。
 シンジは、思わず声に出して叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



エヴァンゲリオン パラレルステージ

EPISODE:12 / "What is your hope?" asked he.


 

第12話

未来
  


A PART



 ドオオォォォォ…ン…!


 次の瞬間、大地は轟音で震えた。
 シンジはロンギヌスの槍を地面に突き立て、先に量産機の共鳴ATフィールド攻撃の時と同じように、肉眼でもはっきりと視認できるほどのATフィールドを作り出した。NERV本部と零号機・弐号機を背に、それをかばうかのように…。
 それでもフィールド全体がびりびりと揺れるような衝撃が伝わってくる。けた外れのエネルギー量だ。

 もうもうと上がる土煙が晴れると、そこには、ただの大地が広がっていた。
 一機を除いて、そこにいたはずの量産機は、見る影もなくずたずたに切り刻まれ、ただの肉塊と化している。こうなってしまえば、いかなS2機関をもつEVAといえど再生はできないだろう。
 残った一機は、息も絶え絶えに、『彼』に向けて手を伸ばす。
 それを『彼』は、一にらみしただけ。それだけで、腕はつぶれ、量産機は声にならない悲鳴を上げた。

 本当に、それだけだった。
 もう、量産機は動かない。

 それを満足げに見つめた後、『彼』はシンジの方に向き直った。

 「これが、リリンの造りだしたコピーか…」
 口元には、微笑を浮かべている。しかし、その笑顔の中には、もう一つ、相手を見下すような…そんな匂いも含まれていた。

 「…久しぶりだな、アダム…」
 『ミカエル、か…?』

 シンジの答えに、彼は拍手をして応えた。

 「当たりだ。一応、記憶は残っているみたいだな」
 『今頃、何をしに来たんだ?』
 警戒心のこもった口調でそう尋ね、シンジは身構えた。
 零号機と弐号機は、その間に、そっと初号機の後ろに隠れた。
 相手については、記憶の奥底から見つけだすことができた。シンジのものではなく、アダムの記憶の一部から。
 熾天使・ミカエル…それが、彼の正体だった。

 「私は、さしあたって君と今戦うつもりはないんだがな。…リミッターを外されていないお前は、私にはかなわん。違うか?」
 『・・・』
 確かにその通りだった。
 シンジは初号機と融合して以来、自分の能力の把握に務めてきたが、どうもまだ自分でも隠された部分があるような気がしていたのだ。
 記憶でさえシンジのものとユイのもの、ついでにアダムのものまでごちゃまぜになっている状態だが、なんとなくアダムの記憶の部分に、意図的にアクセスできなくされた記憶があるように思えてならなかった。

 「ところで、その暑苦しい鎧は脱いだらどうだ? 話がしにくくてたまらない」
 『・・・』
 少々からかうような口調のミカエルに対し、シンジの警戒心はまだ解けてはいない。
 人間態に姿を変える。だが、槍は持ったまま。

 「おや、別のリリンと融合したのか。…しかし、これまた物騒な歓迎だな」
 「何故、わざわざ君がこの世界に干渉しに来た?」
 「観光…と言ったら怒るか?」
 「嘘はやめて欲しいんだけど」
 「ふ…。まあ、正直に言えば、『下見』だ」
 「何の?」
 「『審判』の、だ。…やはりリリンは傲慢すぎたようだ。この星は、次世代へと移行せねばならない。」
 「そんなことは、させない」
 「お前は反対か、アダム?」
 ミカエルの問いに、シンジは軽く頷いた。




 「わからないの? 彼らは、君たちが思っているほどそんなに愚かじゃない。それは、僕が一番良く知っている。だって僕が一番近くで見ていたんだから。」
 「ふん。我らとてずっと眠っていたわけではない。第一、内部で見ていて正しい判断ができるはずがあるまい。アダム、お前はリリン達と暮らす内に、彼らに感化されてしまったらしいな。残念だ。」
 「…たとえ相手が神様だって、この世界を好きにはさせない。リリンたちは、自分達で精一杯生きているんだから…。もうその事実に干渉してはいけないんだ。」
 「星が、滅びの道を歩んでもか? 間違いは訂正されるべきなのだ。そして、リリスの子供たち…リリンは、一つのエラーだ」
 「リリンはエラーなんかじゃない。何故今頃になって手を出そうとするんだ? もうこの世界は君たちの手を離れて発展し始めた。もう、ここはリリンのものなんだ。なぜそれに気づこうとしない? それでいいじゃないか。なのに、どうして、今頃…」

 「リリンは我々の力を手に入れようともくろんでいる。たいそうな思い上がりだ。それだけでも十分『審判』に値する」
 「そんなの、たった一部じゃないか。それだけで種全体を滅ぼすなんて…あまりに馬鹿げてる。」
 「アダム…貴様、『主』を貶めるつもりか?」
 「堕天したって構わない。僕は、リリンにつく。」
 「ほう。…ならば、こちらもそのつもりで処理させてもらわねばならんな。」

 「それでも『審判』を下すというのなら、僕を倒してからだ。」
 シンジは、ミカエルの顔を睨みつけながら言った。
 対するミカエルの方は、その視線を逆に冷ややかな目で見返していた。まるで、あざけっているかのようだった。

 「…いや、今日は止めておこう。折角の再会だ。…それに、私も少し疲れたのでな。そろそろ帰ることにする。」
 言うと、ミカエルの後ろに、再び次元の穴が開く。
 その中に、ミカエルは身を委ねようとした。

 「ミカエル」
 シンジは、ふと彼を呼び止めた。いつの間にか、右手に持っていたロンギヌスの槍は姿を消している。

 「ん?」
 「僕は、命を懸けても、リリンを守る。…それだけは、絶対にゆずれない。」
 「…また、いずれ会おう」
 そう言い残し、ミカエルは空間の狭間へと消えていった。




 『…馬鹿な!』
 しんと静まり返った闇に、怒号が響きわたる。
 それをきっかけに、ざわざわと声が騒ぎ始めた。

 『信じられん。我らの計画は完璧なはず…』
 『量産型EVA、4体を一瞬のうちに、か…』
 『だが、「ミカエル」だと? ありえん!!』
 『しかし…確かに奴は、我らが「使徒」と同等、いやそれ以上の能力を持っているではないか』

 『静粛に』
 そこへ、苛つきを隠せぬ声が響いた。
 それを聞いて、全員がおし黙る。

 『落ちつけ。我々の計画はまだ費えたわけではない。まだ、最後の切り札がある』
 『…そうでしたな』
 『不確定要素が入り込んでは来たが…しかしまだ計画の誤差範囲内だ。修正は効く』
 どこか熱に浮かれたような口調で喋る、「01」のモノリス。
 闇の反響を介して、それが全員に感染(うつ)っていく。

 『碇には悪いが、最後に笑うのは、どうやら我々のようだ』
 『ミカエルとやらの存在も、せいぜい有効に利用させてもらうことにしよう』

 『では、我らの悲願が達成される日まで。』
 『それまで、もうしばらくの辛抱だ』

 だが彼らは、間違っていた。
 「しばらく」では無かったのだ。
 しかし、この時点でそれを知る由もない。




 静寂が、ジオフロントに訪れた。
 天井が破壊され、その向こうから日光が差し込んでいる。
 地面には、真っ赤な血だまりと肉塊が、いくつか転がっていた。

 さて、ところは変わって弐号機・ならびに零号機エントリープラグ内。
 呆然と眼前の光景を見ていたアスカとレイの意識を、通信のコールがあったことを知らせるビープ音が現実に引き戻した。
 コンソールを操作してつなぐと、発令所にいるミサトの顔が現れた。

 『シンジ君、レイ、アスカ。作戦は現時刻を持って終了。直ちに、帰還して』
 「わかりました」
 レイとアスカはそれぞれそう答えて、回収ルートのところに機体を向かわせる。
 そこに、もう一つ通信が入った。

 『2人とも、お疲れさま』
 言わずもがな、シンジである。
 自分より他人を心配するところが、本当にシンジらしい。
 アスカはそのことを知っていながら、それでもやはり、少しあきれてしまった。

 「…アンタもね」
 (何言ってんのよ、アンタが一番疲れてる癖に)

 「ともあれ、これで戦いもひと段落、か…」
 『うん、そうだね…』
 「でもアンタもやるもんじゃない。あんな交渉ができるほど、度胸があるとは思わなかったわ」
 『…でも、あの時の言葉は、嘘じゃないから。…僕は、みんなを守らなきゃ、って思ったんだ。』
 「ふーん…。でもアンタ、ホントにバカよ」
 『…なんで?』
 「だって、力の差があんなにはっきりとしてるのに…それでも立ち向かおうだなんて。…ま、結果オーライだけどね。…じゃ、またあとで」
 ちょうどその時ゲートに到着した。
 アスカは通信を切って、弐号機をキャリアに乗せた。
 シンジは一般の出入口の方に向かう。

 機体が固定され、キャリアが移動を始める。
 射出の時とは違って、ゆっくりと動いていた。
 エントリープラグの中で、アスカは暫し目を閉じて思いに耽った。

 今までの戦いが脳裏に浮かんでくる。
 何度も助けられたこと…それを思い出して、アスカは呟いた。

 「毎回毎回、無理しちゃって…。何にもならないのに、ホントにバカよ…」


第12話Bパート につづく

ver.-1.00 1997-10/21公開
ご意見・感想・誤字情報などは Tossy-2@eva.nerv.to まで。


 あとがき

 え〜、おひさしぶりです。Tossy-2 です。

 さて、Evangelion Parallel Stage も第二部に突入しまして、ここに第12話Aパートをお届けします。
 感想や催促のメールを下さった方々、なんだかんだと忙しくて、遅れてしまったことをまずお詫びします。

 しばらく1話1本式で書いてきましたが、だんだんと忙しくなってくるようなので、主な連載は今度からまたパート分割して執筆していくことにしました。
 少しはアップのペースが上がるかと思いますので、お楽しみに。

 現在、裏でまたソフト開発とかもしてます。そのうちページもちょっと改装する予定も無いわけではありませんので、ホームページの方もよろしく。
 掲示板も開きましたので、訪れたら是非書き込んでいって下さい。
 感想メールがめんどくさいという方は、掲示板に書き込んで頂いても構いませんので。
#ただ、ここのサービスは、11月末で終了してしまうそうです。
#まあ、別の所に確保して移行しますから、ご安心を。


P.S.
 ところで、「プロジェクト・リムーバー」第三巻発売になりましたね。内容は見てのお楽しみですが、巻末に「第一部終了」…やられた(爆)。






 Tossy-2さんの『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第12話Aパート、公開です。




 っよっし。
 難関をどうにか、クリア。

 でっも。
 更なる難敵が現れて。


 マジにマジに難敵だよね。



 とにかく、
 今は一時の安らぎを。


 この先ドンドン辛いのかな、
 そりゃやっぱり、辛いんだろうなぁ




 連携がますます大事だね。



 さあ、訪問者の皆さん。
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