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Evangelion
Ευανγελιον
Parallel Stage
Παραλλελ Σταγε
EPISODE:06 / Intermission 2
休日 U
消 |
Dパート
「市内G62ブロックにATフィールドの発生を確認!」
「固有波形パターン、判別不能! 電磁波遮蔽がされている模様です!」
「メインモニターに、位置を出します!」
オペレータの声がやかましく響く。
発令所は、にわかに大騒ぎになっていた。
その原因は、数十秒前に検出された、ATフィールド反応。
強さはそれほどではないが、そんなことが出来るのは…
「…レイね。」
リツコは、誰にも聞こえない声で呟いた。
一瞬、何かが頭の中を通り抜けたような感覚。
以前、使徒襲来のときに感じた感覚を、シンジは今一度感じていた。
そして、その元がレイであることも、シンジは知っていた。
「綾波…」
「ん、どうしたの?」
ミサトが呟くシンジに問う。
「2人の…居場所が分かりました。」
「本当!?」
「ええ。」
「すぐ、救出の手配を…」
興奮するミサト。
「いえ。」
ミサトの耳に、シンジのはっきりした声が入った。
「シンジ君!?」
「僕が、いきます。」
決意の表情で、シンジが言う。
「シンジ君…」
「大丈夫です。ちゃんと戻ってきますよ、3人で。」
「・・・」
ミサトは、しばし考え込むような格好をした。
「・・・」
シンジは、確かな視線でそれを見ている。
実質は数十秒だけだったが、数分にも思える静寂の後、ミサトは声を発した。
「…分かったわ。行ってあげて。」
「はい!」
駆け出すシンジの背中を見送りながら、ミサトは軽い既視感を感じる。
(そうだ、第15使徒・アラエルとの時も…)
軽く、ミサトは笑った。
シンジならばきっと大丈夫、と信じて。
そう、あの時もちゃんと帰ってきたではないか。
だから、今回も…
「な…うぐっ」
見張りの男が、また1人壁にたたきつけられる。
レイとアスカは、それに冷ややかな視線を送った後、再び歩き始めた。
レイは、何も持たないで。
アスカは、両手に男から奪った拳銃を持って。
2人は、ただ進んでいた。
内部構造がまるで分からないが、そんな事は関係ない。
今はとにかくここから出なくてはならない、それだけが頭にあった。
(シンジを、あいつらの好きになんかさせないわ!)
(碇君、碇君、碇君、碇君…!)
そんなことを繰り返す内、自然と連帯感が生まれてくる。
ちなみに、見張りの男が壁にたたきつけられたのは殴ったり蹴ったりぶつかったりしたわけでなく、単純にATフィールドによる攻撃だ。
普段なら死ぬほど驚くところだが、アスカはあえてそれを受け入れていた。
別の地下室。
机がいくつかあり、そこに男達が集まっている。
みんな黒い服を着て、
「くっ…やはりだめなのか!」
リーダー格らしき男が、唇をかんだ。
机の上に勢いよく振り下ろされた拳が震える。
彼の目の前にあるモニターには、無様な格好で気絶したままの自分の部下が。
そして、進み続ける人質が。
「…おい」
男は、傍らにいる別の男に呼びかけた。
「はい」
「爆弾を使え。なんとしても足止めするんだ」
「はい、わかりました」
そうきびきびと返事をすると、その男は早足で部屋を出ていった。
「・・・」
後に残ったのは、苦虫をかみつぶしたような男の顔。
無言で進む、2人。
どのくらい歩き回ったのだろう。
アスカが前に、レイが後ろを歩いている。
だが、そんな時に。
目の前がいきなりぱあっと明るくなる。
まるで太陽がこの狭い通路の中に入ってきたのかと思うような明るさが、2人の目を刺激した。
(う…何?)
固く目を閉じるアスカ。
身体の表面が、だんだんと熱くなってくる。
「アスカ…危ない!」
何かが爆発したのだとレイが分かったのは0.2秒後。
すかさず、レイはアスカをかばう形で前に出た。
そのまま、爆風と閃光を、フィールドで受けとめる。
(ATフィールド…全開…!)
ドゴオォォ…ン…
発令所のモニターに、火柱が映った。
ちょうど、ATフィールド反応のある辺りで上がった火柱。
ガタン!
「な…奴ら、爆弾か何か使ったわね!」
思わず、椅子を倒して立ち上がるミサト。
「落ちつきなさい、ミサト」
リツコがなだめにかかる。
「落ちついてられますか! 救援部隊、手配して即突入させてちょうだい!」
「いいから落ちつきなさい、葛城三佐!」
「・・・」
「今は、シンジ君を信じなさい。救援は、それからで間に合うわ」
「…そうね」
落ちついたミサトは、再び椅子に座ろうとして…こけた。
ガシャン!
「あいたたた…」
「…無様ね」
「しっかりしなさい、レイ!」
そのころ爆発の起きた場所では、アスカがレイを揺すっていた。
はぁ、はぁ…
苦しそうに息をするレイ。
さっきの連続的なATフィールドでついに体力の限界が来たらしい。
「アス…カ…あなたは…外へ…出…て…碇君…を…」
絞り出すように、レイが喋る。
「何バカ言ってんの! アンタを置いて1人でなんか出られるわけ無いでしょ! そんなことしたら…シンジだって悲しむわよ!」
「で…でも…今の…私だと…足…手まと…い…」
「いいから、行くわよ!」
そう言うと、アスカはおもむろにレイを背負った。
さすがに足に今までの疲れが来ていてがくがく震えるが、そんなことには構っていられない。
(早く行かなきゃ…)
アスカは、時折自分に喝を入れながら、おぼつかない足どりをなんとかこらえて歩き始めた。
ところが。
世の中そう上手く行くものではない。
通路、2人の後ろの方から声が響く。
「いたぞ!」
複数の足音が、こっちに向かっているのが分かる。
疲れた足にむち打って、何とか走ろうとするアスカ。
しかし、なかなか思うようには走れない。
そんなことをしている間にも、足音は近づいてくる。
アスカは、振り返らずにただひたすら走る。
…が。
ガンッ!
「あっ!」
轟音と共にふっと足の力が抜け、アスカはその場に崩れ落ちた。
ふくらはぎの辺りが、熱くなっていく。
同時に、痛みがじわじわと伝わってくる。
撃たれたと気づいたのは、数秒後のことであった。
痛みの元を押さえるアスカ。
だが、痛みはとどまるところを知らない。
(もう、ここまでなの…)
後ろでは、レイが相変わらず苦しそうに息をしている。
足音が、迫ってくる。
「シンジ…」
ふと、天井に開いた穴から空を見上げてその名前を呟いた。
(やだな…)
そう思って、アスカは目をつむる。
目から、涙が一筋こぼれ落ちた。
捕まえられる、そして殺される。そう思っていたにも関わらず、心だけは不思議と平穏だった。
「アスカ!」
頭上で声が聞こえた。
瞬間、迫り来る足音が消える。
そして、何かが激しく壁にぶつかる音が通路に響きわたった。
…静寂。
「…?」
顔を上げたアスカが最初に見たのは、少しだけ夕焼けの雰囲気が見える空をバックにしてこっちを覗き込んでいるシンジだった。
「シンジ…」
「アスカ、大丈夫?」
「アタシは大丈夫。それより、レイを…」
それだけ喋ると、安心したのか痛みのせいか、アスカは気を失った。
「アスカ!」
ふと、足下の血だまりに気づくシンジ。
その元をたどっていくと、アスカの右ふくらはぎから流れているようだ。
「アスカ…」
そしてシンジの視界に、レイが入る。
「綾波…綾波!」
苦しそうに息を続けるレイに、シンジは慌てて駆け寄る。
仰向けになって冷たいコンクリートの床に寝ているのを優しく抱き起こすと、シンジは心配そうに声を掛けた。
「綾波…ごめん、無理させちゃって。もっと早く僕が来ればよかったのに…」
「碇…君…そんなこ…とないわ…。私は…大丈夫だか…ら…」
「喋らないで。ごめん…僕の…せいで…」
レイの頬に、暖かい滴が落ちる。
「碇君…泣いて…いるの…?」
「・・・」
シンジは答えない。
ただ、肩をふるわせて、唇をかんでいる。
ポタリ。
もう一度。
「目標発見! 直ちに捕獲せよ!」
そんな言葉が、シンジの意識を現実へ戻した。
レイが見上げたその顔には、まだ涙が浮かんでいる。
それとともに、憎しみの表情が。
再び、大人数の足音が向かってくる。
ゆっくり、レイの身体を地面に再びゆだねると、シンジは立ち上がった。
「よくも…」
小さいつぶやきが、唇の間から漏れる。
男達は、近づいてくる。
手に手に武器を持って。
「よくも…よくもアスカと綾波を…っ!」
そして叫び。
ギンッ!
一瞬にして、彼らが吹っ飛ぶ。
何もせずとも目に見えるほど強力な相転移空間が現れ、向かってきていた男達を壁に逆戻りさせた。
「どうして…どうして綾波に! アスカに…っ! 狙ってるのは、僕だけじゃないのかっ!?」
そのまま、シンジは通路の向こう側、男達が吹き飛ばされて消えていった方を凝視しながら、感情を全て吐き出すように叫ぶ。
「シンジ…」
どうやら、今の騒ぎで起きたらしいアスカ。
ただごとではない雰囲気を感じとって、シンジの名前を呼ぶ。
「どうして…関係ない人を…巻きこむんだよっ!?」
吐き出される言葉。
そして、涙。
カツッ…
小さい金属音が、後ろで聞こえる。
シンジは即座に振り向くと、フィールドを張った。
轟音。
八角形の光の壁の向こうで、光と熱と音と振動がまき起こる。
それを完全に防いで、シンジは最後に絞り出すように叫んだ。
「もう…誰かが傷つくのは…見たくないのに…。」
それを皮切りに、シンジの身体がほのかに発光を始める。
「僕のせいで…誰かが傷つくのは…見たくないのに…っ!!」
そして、次の瞬間。
光と熱が辺りの全てを飲み込んだ。
『モニター、センサー回復します』
事務的な声が響く。
パッとメインモニターに第三新東京市のとある一角が入った。
「な…」
ミサトは驚く。
「何よ…これ…」
「これはまた…派手にやったわね、彼」
リツコは至極冷静に言う。
発令所のあちこちから、驚嘆、そして畏怖の声が漏れる。
無理もない。
さっきまで確かに建っていたビルが跡形もなくなり、そこにクレーターが出来ていたのだから。
直径100m程に及ぶだろうか、そのクレーターのちょうど中心部に、3人の人影が見えた。
即座に映像が拡大され、シンジとアスカとレイの顔がメインモニターに大きく映し出される。
『チルドレン3人の無事を確認』
響くオペレータの声。
やっと、2時間近くに及ぶ緊張の張りつめていたのが解けたのだった。
「ごめん…僕がもっと…しっかりしてれば…」
座り込んで、うなだれているシンジ。
「アスカに、こんな怪我させて…綾波だって、こんなに苦しんで…」
「何言ってんのよ。アンタのせいじゃないわ。」
「そうよ…碇君。碇君は悪くない。うっかりしていた私たちが悪いのよ。」
「・・・」
「アタシが撃たれたのは不注意だったんだしね。」
「私はフィールドを張り続けて疲れただけ。だから、もう大丈夫よ。」
「でも…でも何か…できた筈なのに…僕は…僕は…!」
「・・・」
「・・・」
「それを…しなかったんだ。だから、こんなに…」
「…ちゃんと、こうして迎えに来てくれたじゃない。それだけで十分よ」
「アスカ…」
「あの時何が出来たかは分からないけど…それをしなかった分、今埋め合わせをしたじゃない。マイナスはプラスで補えるのよ。」
「・・・」
「だから、元気だしなさい。」
「でも、怪我を…」
「何よ、こんな怪我、すぐ治るわよ!」
笑顔で言うアスカ。
だが、弾丸がまだ残っているのは分かる。明らかに、強がりではあった。
しかし、その笑顔がシンジにとってとても眩しく思えたのであった。
「…そうだね。いつまでも、こんなことしてても始まらないよね…」
ふっと軽く笑うシンジ。
その顔に、もう後悔のかけらは見えない。
数十分後。
3人は、ミサト・リツコと共にNERV本部の休憩所に来ていた。
シンジもアスカもレイも、今ではもう制服に着替え終えている。
「…おつかれさま、シンジ君」
ミサトが、シンジにジュースを差し出す。
「ありがとうございます」
笑顔でそれを受け取るシンジ。
「レイ、もう調子は大丈夫なの?」
「はい。疲れただけですから、もう問題ありません。」
「アスカ。撃たれたところは?」
「もう大丈夫よ。何てったって、シンジに治してもらったんだから。」
そう。
本部に帰ってきてから、「手術しないといかん」と言われたアスカだったが、シンジがどうしても自分が治すと聞かないので、結局アスカはシンジに任せられたのであった。
最も、アスカの元気はそのせいだけではなく、シンジが自分のことをこれほど思っていてくれたという嬉しさも含んでいる。
「…しかし、まあ派手にやったものね」
リツコが苦笑しながら言う。
「…す、すみません…ついカッとなって…」
「まあシンジ君もそうだけど…」
そう言って、リツコは視線をアスカとレイに向ける。
「あなた達、あそこまでする必要は無かったんじゃないの?」
「…碇君を危険な目に遭わせたくなかったの」
「それに、ただ待ってるだけじゃつまらなかったからよ。」
ひどくあっさりと答えるアスカとレイ。
「…まあいいわ。…それからレイ。」
「はい」
「あんまり人前でATフィールドを使わないようにね。今回は何も言わないけれど…まあ次回から気を付けなさい」
「はい」
「じゃあ、今日は3人とも帰っていいわ。せっかくの休日ラストだもの。十分楽しみなさいよ」
ミサトが明るく言う。
「はーい!」
3人の声がユニゾンした。
「…これで我々は戦力の3分の2を失ったわけだな」
「ああ。リリスの力の発動が予定外だった」
「世の中はイレギュラー、シナリオ通りには行かないと言うことか」
「しかし、約束の日は近いのだぞ」
「人類補完計画、その根底をなす筈のエヴァ初号機並びにロンギヌスの槍。今のままでは計画が水泡と化す」
「それだけは何としても阻止しなければならん」
「だが、いかんせん戦力が…」
「戦力は放っておいても集まってくる。さしたる問題ではない」
モノリスの会議は、長く続いた。
内容が同じ事を繰り返すモノばかりだと言うことに、気づく者はいない。
時も場所も移り、その日の夜。
葛城家居間。
シンジとアスカはテレビの前に陣取っていた。
(これでゼーレの方も多少は…)
「シンジ、シンジってば!」
アスカの声が、シンジを思考の海から現実に引き戻す。
「あ、ごめん。何?」
「…レイって、アンタと同じなの?」
急に小声になるアスカ。
顔は真剣だ。
「…まあ、そういうことになるのかな。」
「ふーん…そうなんだ…。」
そう言うと、アスカはどこと無く羨ましげな視線を送ってくる。
「…な、何だよその目は」
「だって、羨ましいんだもん。…アンタと同じなんでしょ、レイは。…あーあ、アタシだけ仲間はずれかぁ…」
「そんなこと無いよ。僕だって、アスカが羨ましいことあるから。」
「何が? アタシの美貌? それとも頭脳?」
「いや…そうじゃなくて…『人間』だってことが…」
「・・・」
「だって、僕達はみんなと違うんだよ? 何万人も何億人も『人間』がいる中でさ、僕と綾波だけが『人間』の姿をしてるけど実際はそうじゃない、ってこと考えてみてよ」
「・・・」
「…怖いんだ、正直。仲間外れにされそうで。」
「ふーん…。じゃあ、エヴァの身体なのも一長一短、ってわけね」
「そういうこと。」
「…ところで、綾波のこと、『レイ』って呼ぶようになったんだね」
「ええ…何となく、ね」
「そうなんだ…」
そんな事を話していると、突然チャイムが鳴った。
ピンポーン…
「あれ、ミサトさんかな?」
「でしょ?」
シンジが玄関に向かう。
バシュッ!
扉が開くと、レイが表に立っていた。
「あ、綾波…どうしたの?」
「眠れないの…だから、今日、碇君の隣で寝たい…」
「え? でも眠れないって…」
「碇君と一緒にいると、眠れそうな気がする…」
「そう…じゃあ、まあとにかく上がって。」
「おじゃまします…」
バシュッ!
扉が再び閉まる。
その閉ざされた扉の向こうから、アスカの驚く声が聞こえてきたのは、それから10秒程後の事だった。
結局。
その日ミサトは事後処理に追われて帰って来られず。
レイは「シンジと一緒に寝る」と言ったところ当然ながらアスカが怒りだし「アタシも一緒に寝る!」ということになって、真夜中に2人に挟まれている暑さのせいかシンジがうなされていたという。
こうして、波乱に満ちた3日間は静かに、しかしにぎやかに終わりを告げた。
ver.-1.00 1997-08/08公開
ご意見・感想・誤字情報などは
VFE02615@niftyserve.or.jp
まで。
次回予告
ゼーレとゲンドウ。
対立する1組織と1個人。だが、昔は同じ目的の元に集った仲間だった。
彼らの間には、一体何があったのか?
次回、「訣別の時」 この次も、サービスサービスっ!
あとがき
6話、終わりました。
な、長かったぁ…。
いつも1話当たりプレーンで40k位にしてるのですが、今回はぬわんと46k。ファイルサイズでも、パラレルステージ関係で一番大きかった「外伝」を上回っています。
…で、書いても書いても終わらなかったのですが、なんとか活動限界(をい)までには終わりました。
7話は、TVで言う「ネルフ、誕生」をパラレルステージ風にしてみたいと考えています。
感想など、待ってます m(_ _)m 。
Tossy-2さんの『』第6話Dパート公開です。
レイ、アスカ、シンジ。
それぞれの行動、それぞれの言葉。
無事危機を乗りこえた3人に新たなる心の絆が生まれましたね。
レイもゼーレの諜報員の前でその力を使ってしまい、
バレたぁ・・・という感じでしたが、
シンジがその全員を吹っ飛ばしてしまい・・・安心か(^^;
さあ、訪問者の皆さん。
第6話を書き上げたTossy-2さんに感想メールを送りましょう!
Tossy-2さん、ホント、マジで、細かく分けないで下さい・・・・
4回UPするの大変なんですよ。
同じストーリーにコメントを書くのも苦労してます(^^;
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