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EPISODE:02 / Help and be helped.
Aパート
「…よし。」
やっと覚悟を決めたらしく、シンジは扉を開くスイッチを押した。
ピッ
電子音の後に、エア音が響く。
バシュッ…
「ただいまぁ…」
シンジは暗い家の中に向かってそう呼びかけてみる…が、返事はない。
「あれ、アスカ寝てるのかな?」
そうつぶやくと、シンジは家の中に入っていった。
「まだ時間、早いもんな…」
バシュッ…
再びエア音が響き、扉が閉まる。
奥から、朝の薄明りが見えた。
居間。
「…ありゃ。」
シンジが居間に入ると、そこでクッションに顔を埋めて寝ているアスカの姿が目に入った。
「全く…、風邪ひいちゃうよ。」
そう呼びかけてみるが、起きる気配はない。
まあ、まだ午前4時なのだから、無理もない。
「しょうがないなぁ…」
シンジは、アスカの部屋から布団を持ってきて、掛けてやった。
「…さて、僕も寝るかな…。」
もう朝なのだから寝なくてもいいような感じがするが、シンジは荷物を自分の部屋に運び込むと、布団に潜り込んだ。
ジーーワ ジーーーワ…
いつもと同じ朝。
でも、いつもと違う朝。
シンジが、この世からいなくなった日の朝。
その認識が、アスカの頭にのしかかってくる。
「ん…」
アスカは、周囲の明るさで目を覚ました。
クッションに顔を埋め声を殺して泣いていたアスカは、いつしか眠りに落ちていたのだった。
「寝ちゃったんだ、アタシ…」
そして、アスカは昨日の電話を再び思いだした。
『シンジが死んだ』
そのミサトの言葉を思いだして、再び胸に熱いものがこみ上げてくる。
ポタッ…
一滴の涙が、枕代わりのクッションに落ちる。
ふと、アスカは自分が布団を掛けられていることに気付いた。
「布団…誰が掛けてくれたの?」
一応口に出してはみたが、ミサトだろう、とアスカは目星をつけていた。
「なんだ。ミサト、帰ってきたのね。」
目をこすりながら、足はミサトの部屋に向かう。
コンコン…
「ミサト? ミサト、いるんでしょ?」
アスカは呼びかけるが、返事はない。
「ミサト? …開けるわよ。」
ガラッ
ちょっと遠慮がちに開けた扉の向こうには、カーテンが閉まったままの部屋。
そしてそこには、いつもの万年床に寝ているミサトが…いなかった。
「ミサト?」
…部屋から、返事はない。
ガラガラ
再び、アスカは戸を閉めた。
「ミサトじゃないの? …とすると…」
シンジ、という考えが浮かんだが、アスカは頭を思いきり振ってそれを否定した。
シンジは、もう死んじゃったんだ。もう、この世にはいないんだ。
そう考えると、非常に切なく、やるせなくなってくる。
次に向かったのは、シンジの部屋…だった所。アスカの足は、自然にその方向に向いていた。
でも、シンジは…
思わず表情が曇る。
「シンジ…」
そう呟いた時。
ガラッ!
扉が開いた。
アスカは、突然の事に驚く。
だが、その後に待っていたのはもっと驚くべきことだった。
「ふああぁ…あ。あれ?アスカ、起きた?」
あくびをしながらシンジが言う。
「シ…、シン…ジ…。」
思わずその名前が口から出る。
今自分が最も会いたい人物の名前が。
実際、アスカの前にいるのは、紛れもなくシンジだった。
「シンジ…どうして? だって、死んだんじゃ…」
「いや…この通り、生きてるよ。」
本当の僕は死んじゃったけど…
と言いかけて、思わず口をつぐむ。
アスカのこの嬉しそうな表情を壊したくない。
そんなことも知らず、アスカの顔は嬉しさと驚きに支配されていた。
「夢じゃ…ないわよね…?」
「え? 当り前じゃないか。」
シンジは微笑んだ。
「ホントに…ホントにシンジなのね…?」
「うん。ただいま、アスカ。」
「シンジ!!」
アスカは、シンジの胸に飛び込んだ。
「バカ…。心配したんだから…。」
「ごめん、心配掛けて。」
「ううん、もういいの…。だって、帰ってきてくれたから…」
「ありがとう…」
シンジが優しくアスカの肩を抱いた。
そのまま、しばらく二人はお互いの存在を確かめあっていた。
ふれあう肌の感触。
それは明らかに生きた人間のもの同士だった。
アスカは自分の心が、夜が明けるように明るくなっていく事を感じた。
数分が、あっという間に感じる。
先に口を開いたのは、シンジだった。
「さ、ご飯作るよ。学校に行く準備、しなくちゃ。」
「うん…。」
アスカが顔をあげる。
その顔には、こぼれんばかりの笑みが浮かんでいた。
ジュウゥゥゥ……
久しぶりに台所から聞こえて来る、美味しそうな音。
2・3日の間なのだが、ひどく懐かしく感じられる。
「ねぇ、まぁだあぁ?」
「ん〜、もー少し待って…」
そしてそれから数分。
アスカの前には(シンジの前にも、だが)、ヘルシーで美味しそうな朝ご飯が湯気をたてていた。
ぐ〜っ…
お腹が鳴った。
アスカは真っ赤になる。
「さ、食べよう。」
シンジが言った。
「そ、そうね…」
まだアスカはちょっと恥ずかしそうにしているが、早速食べ始めた。
「ん〜っ、おいしい〜ぃ!」
「そう、ありがとう。」
そんなこんなで朝食はきれいに平らげられていった。
「シンジぃ?」
アスカがシンジの部屋の前で呼びかける。
『なに?』
「準備できた?」
『もうちょっと。』
答えが返ってきた。
「早くしなさいよ」
『うん…』
…と言っている間に準備ができたらしく、シンジが扉を開けて出てきた。
「さて、行くわよ。」
「うん」
「いってきま〜す!」
誰もいないが、一応二人揃って言う。
そして、シンジとアスカは学校に向かった。
このあとの災難も知らず。
ジーーワ ジーーーーワ……
蝉はまだ鳴いている。
太陽はもうビルの間から顔を覗かせているが、車通りは少ない。
シンジは、アスカの反応が前と同じだということに安心していた。
だから、余計この状況を壊したくなかったのだ。
結局、シンジはまだ言い出せずにいた。
アスカは、シンジが帰ってきた事に浮かれている。
何故だかは自分でもまだ自覚していないのだが、とにかく嬉しいのだった。
そんな空気を壊すように、向こうの方から自動車の大きな音が聞こえてきた。
ブロロロロロロ……
だが、二人は気にも止めずに歩き続ける。
こんな広い道を車が走っていない方がおかしいのであって、むしろこの位は自然と言えるからだ。
だんだんと大きくなって来る音。
そして、坂の向こうから車が見えてきた。
二人はまだ、そんなことを気にせずに歩いている。
「ねえ」
先に車の異変に気づいたのはシンジだった。
さっきからこっちに走ってくる車が一台。
しかも、コースがふらふらとして見るからに危なっかしい。
「何?」
「あの車、なんか変じゃない?」
「そう? …そう言われてみれば、そうね。居眠りかな? ねえ、シンジ。」
アスカが振り返ってそう言った次の瞬間。
車が更にスピードを上げた。
まっすぐ、アスカ達の方に向かってくる。
しかも、進路の先にいるアスカはシンジの方を向いており、その車に対する反応が遅れた。
「アスカ、前!!」
シンジが思わず叫ぶ。
「?」
振り返っていたアスカは、前を向く。
その視界に飛び込んできたのは、猛スピードでこちらに向かってくるあの車。
「アスカ、逃げて!」
シンジの声が聞こえる。
とっさに「逃げる」という反射が出来ず、アスカはただ両手で自分の顔をかばって悲鳴を上げた。
「きゃああぁぁぁぁぁっっ!!」
ver.-1.00 1997-06/07公開
ご意見・感想・誤字情報などは
VFE02615@niftyserve.or.jp
まで。
次回予告
猛スピードの車がアスカに迫る。
その時シンジは。
そして、アスカが見た物は?
あとがき
読んでくれてありがとうございます m(_ _)m のTossy-2です。
今回もまたシリアス一直線です。
ところでこの話、結構設定がわかりにくいかと思いますので、一段落ついたら「設定資料」を公開する予定です。
(んー…世に言う「フィルムブック」とか「ストーリーガイド」ってやつです。)
ともあれBパートをお楽しみに!
Tossy-2さんの連載『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第二話パート、公開です。
シンジの”死”に深く闇に沈んでいたアスカの元に帰って来たシンジ。
目の前に立つ死んだ筈のシンジ・・・・
アスカの喜びと驚き。
シンジの胸に飛び込むアスカ、可愛かったです(^^)
シンジとの別れと再開によって、
アスカは自分の中で彼の存在がいかに大きいか気付いていったのでしょうか・・・
さあ、訪問者の皆さん。
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