EPISODE:01 / The Death and...
Aパート
初号機の覚醒、解放。
それにより、シンジは…。
19話から分岐する、TVとはちょっと違った世界。
今度は、シリアス路線を突っ走ってみました。
さあ、何はともあれ、始まります…。
「パルス消失!」
半ば叫びとなっているオペレータの報告が入る。
「だめです!初号機、起動しません!」
今、第14使徒がNERV本部に向けて侵攻中。
それを止めるべく出動した弐号機だったが、結局逆にやられてしまった。
片腕の零号機で、レイが出撃した。
「レイ!」
そう叫ぶ人々の視線の先には、N2爆雷を抱えて使徒に向かっていく零号機の姿が。
やっとATフィールドを破って爆発させたかと思いきや、使徒は無事だった。
零号機も、その攻撃を受けて地面に倒れ込んだ。
残る望みは、初号機だけ。
だが、レイの時も、ダミープラグでも起動する気配を見せない。
「もういちど、108からやり直せ。」
ゲンドウの指示。
そんなところに、声が聞こえてくる。
「乗せて下さい!!」
「ミサトさん!」
シンジが叫ぶ。
初号機は、その巨体で使徒(これも初号機に負けないぐらい大きいのだが)をリニアエレベータの壁に押しつけていた。
「5番射出、急いで!!」
ミサトの指示が飛ぶ。
オペレータの指がキーボードの上を走り…。
結局、帰ってきたシンジにより起動し、発令所にまで侵入した「最強」の名を持つ使徒ゼルエルを、本部施設よりなんとか追い出すことに成功した。
ピーッ
「エネルギーが…!」
無機質な電子音と共に、後一歩で倒せると言うところで内部電源が尽きた。
初号機は動きを止めてしまう。
形勢は逆転し、ゼルエルは初号機に対して猛攻を仕掛けていく。
ザッ!
「うっ!」
ゼルエルの帯のような手が、初号機の胸に突き刺さった。
その衝撃に、シンジが思わず声を上げる。
その手が抜けた後、初号機の胸からは血のような赤黒い液体が激しく吹き出した。
活動を停止した初号機はなす術もなくそれを受けている。
間髪入れず、ゼルエルの目が光ったかと思うと、辺りに再び衝撃が走った。
初号機の胸部装甲が融解、ついにコアが露出してしまう。
「あれは!」
外に出てきていたミサト達はその存在に驚いたが、ゼルエルはさして躊躇する様子もない。
それを確認したかのように、攻撃目標を変更するゼルエル。
ガン、ガン、ガン…
ゼルエルは、帯のような手でコアに振動を与え続けていく。
シンジの乗っているエントリープラグにもそれが伝わり、壁にひびが入り始めてしまった。
その頃、シンジはと言うと、
「動け! 動け! 動け! 動け! 動いてよ! …」
…と絶叫していたわけだが、そんなシンジの魂の叫び(?)に答えるかのように初号機は覚醒し、そして…。
「初号機のシンクロ率が400%に達しています!」
ノートパソコンの画面を見ながら伊吹マヤが言う。
覚醒した初号機は、「最強」の使徒・ゼルエルをも圧倒した。
零号機・弐号機をも沈黙させた使徒は、覚醒した初号機によってあっと言う間に弱っていく。
定期的にやってくるその刃を素手で切り裂き、ちぎる。
そして初号機は、ゆっくりと立ち上がった。
ゼルエルのちぎれた手を自分の肩口に当てる初号機。
帯の形をしていたゼルエルの手が、見る見るうちに人の手の形に変わっていく。
「初号機の覚醒と解放。ゼーレが黙っちゃいませんな。」
その光景を、加持はじょうろを持ちながら見ていた。
片手をちぎられながらも、ゼルエルは再び攻撃しようとする。
しかし、その刃が初号機に到達することはなかった。
初号機は、右手を振り上げると、空間を引っかくようにすばやく振り下ろした。
その攻撃の威力はすさまじく、初号機に向かっていたゼルエルの手だけでなく、ゼルエルの身体をATフィールドもろとも寸断した。
ゼルエルは、体液をまき散らしながら地面に倒れた。
「シンクロ率500%突破!」
マヤが叫ぶ。
リツコでさえも、だんだんと心配になってきた。
こんなに高シンクロ率になると、パイロットがどうなるかは全く見当が付かないのだった。
…生死さえ、分からない。
もしかしたら、生きている方が不思議であるかも知れない。
倒れているゼルエルのところに、初号機が這いながらやってくる。
ゼルエルは最後の力を振り絞って目からビームを放とうとするが、顔をつぶされ完全に沈黙した。
初号機は、そんなゼルエルを見て目を細め、そして…ゆっくりと食べ始めた。
だが、何故だろうか、シンクロ率の上昇は止まる気配を見せない。
「シンクロ率、600%に到達します!」
食べ始めてまもなく、初号機に異変が起こった。
上半身のあちこちでゆがみに耐えきれなくなって拘束具が吹き飛んでいく。
ミサト、リツコ他の人々は、ただそれを見守っているしかなかった。
「もう、私たちにエヴァを止めることは出来ないわ…。」
リツコは、誰にともなくつぶやいた。
エントリープラグ内のシンジにも、異変が起き始めていた。
時間は少し遡る。
「動け! 動け! 動け! 動け! 動いてよ!」
インダクションレバーを引きながら叫ぶシンジ。
「…今動かなきゃ、今やらなきゃ…みんなやられちゃうんだ!
もうそんなの嫌なんだよ!! だから…動いてよ!!」
そのとき。
どこからともなく心音が聞こえてくる。
まるでシンジの心音と共鳴するかのようにその音は次第に高まっていった。
そしてその数秒後、初号機、再起動。同時にシンクロ率は400%を超えた。
頭に何かが流れ込んでくるような感じ。
入ってくるモノ、それは何なのか?
それさえもわからないまま、シンジは自らを状況にゆだねざるを得なかった。
「また…あの時と…」
シンジの脳裏に蘇る、記憶。
それは、零号機との機体交換テストの時のもの。
シンジがいま感じているのは、あのときの感覚と全く同じものだった。
だんだんと、身体がしびれて来た。
背筋を、悪寒が走る。
意識も、どこかに飛ばされそうになっている。
自分が自分で無くなるような、そんな恐怖がシンジを襲う。
シンジは、それを止める術を持たなかった。ただ、叫ぶことしかできない。
「うああぁぁぁ……っ!!」
その叫びは、エントリープラグ内にこだました。
とどまることのない叫び。
しかし、シンジの意識と共に、声は薄らいでいった。
空腹が満たされると、初号機は突然活動を停止した。
ゼルエルの攻撃と食事の時に装甲兼拘束具が外れたことにより、上半身はその茶色の肉体がむき出しになっている。
だが結局NERVはケイジに拘束する事に成功し、再び紫色の装甲板が装備された。
S2機関を取り込んだ初号機だが、外見は前とほとんど変わらない。
元より少したくましくなった、と言った具合だろうか。
さて、一方シンジはといえば…。
「シンジ君、シンジ君! しっかりして!!」
ミサトが、シンジの肩を揺さぶりながら呼びかけている。
その目には、涙がたまっている。
ここは、NERV医学部付属病院、ICU。
その一室のベッドの上に、シンジは寝かされていた。
エントリープラグから出された時から、シンジの身体はぴくりとも動かず、ぐったりとしている。
いくら呼びかけても、シンジに反応はない。
目を軽く閉じたまま、なすがままにされている。
その身体には、心電図計測の電極などが付けられていた。
一方、部屋の片隅では。
ピッ……ピッ……
定期的に、電子音が聞こえる。
シンジの心臓はなんとか動いていた。
だが、彼の身体は冷たく…その鼓動が停止するのも時間の問題だった。
そして。
ピッ…………ピッ………………ピッ………………
電子音の間隔が、長くなってきた。
「シンジ君! 目を開けて、シンジ君!!」
ミサトは、まだ揺さぶり続けている。
ピッ……………………ピーーーー………
いつしか、シンジの生命の鼓動は消えていた。
「シン……シンジ君、シンジ君!?」
ミサトは、その異変に気づいた。
相変わらずシンジはぐったりとしている。
その身体も、更に冷えていくようだ。
「シンジ君、死んじゃダメ、シンジ君!!!」
更に大きな声で呼びかけるミサト。
だが、心拍は復活する気配を見せない。
「ミサト、どいて!」
リツコが飛び込んできた。
「心臓マッサージ、急いで!」
リツコは、傍らでミサトの行為を見ていた医師達に向かって叫んだ。
彼らは、てきぱきと仕事をこなしていく。
「電圧200!」
「パルス!」
「3、2、1!」
バシュッ!
シンジの身体がはねる。
「もう一度!」
リツコの指示。
「電圧、300に上げました!」
「パルス!」
「3、2、1!」
バシュッ!
再び大きくはねるシンジの身体。
ピッ…ピピッ、ピッ………ピーーーー………
電気のショックで一瞬心臓は動いたが、すぐ停止してしまう。
「だめか…」
リツコは、唇をかんだ。
シンジの身体に再び生命の息吹が戻ることは…
ついに、なかった。
「うそ…でしょ? シンジが死んだなんて…」
家で1人になっていたアスカは、真夜中にかかってきたミサトのTELで、信じられない事実を聞いた。
『残念だけど…本当なの。』
ミサトの声は泣いているのか妙に弱々しく聞きづらかったが、アスカの耳はその言葉を正しく聞き、そして理解していた。
いくら聞き返そうとも、間違えそうにない言葉。
『シンジが死んだ』
ミサトは、確かにそう告げていた。
「う…そ……」
思わず、受話器を取り落とす。
そのまま、呆然としてアスカは数十秒を過ごした。
無意識のうちに口が半開きになって、顎が微動を繰り返す。
アスカは、自分が役に立たなかったと考え、シンジに負けた事への屈辱を感じていた一方で、自分でさえ負けた敵に立ち向かうシンジの安否を気遣っていたのだった。
そして、シンジが死んだと言う事実を聞いたとき、アスカの頭の中にあったシンジに対する思いが溢れ出してきた。
「い…いやああぁぁぁっっ!! いやよ、そんなのは!!」
自分でも驚くぐらいの大きな声を、アスカは出していた。
頭に浮かんでくるのは、シンジの事ばかり。
シンジの笑顔、シンジの料理、シンジの言葉…。
いつの間にか、アスカは座り込んでいた。
部屋の隅で、膝を抱えて泣いている。
(シンジに…もう会えないなんて…)
「いやよ…そんなのは…。だって…アタシ、シンジに自分の気持ちを…」
伝えてないのに、という言葉は、嗚咽によって出ることは無かった。
「アスカ…」
電話機の向こうで聞こえる鳴き声に、ミサトの目からも涙がこぼれる。
いくら止めようとしても、次から次へとあふれる涙。
ついに我慢できなくなって、ミサトは電話をリツコに持たせると、走り出した。
あてもなく走り続けるミサトは、いつしかケイジに来ていた。
ここは、シンジとの最初の思い出の一つであると同時に、シンジとの最期の思い出の場所でもある。変わり果てたシンジとの。
「シンジ…君…」
初号機の紫色が、涙で滲んでいく。
ミサトは、立っていることが出来なくなって、ついに地面に崩れ落ちた。
その口から漏れるのは、泣き声。
「シンジ…君…帰ってきて…!」
遺体を処分してしまったため、それはあり得ないことだと分かっていたのだが、ミサトには、その願いを捨てることは出来なかった。
できようはずも、ない。
ミサトの涙が、冷たい鉄の地面に水たまりを作る。
その光景を、初号機はただその目で見つめているのみだった。
「碇君が…呼んでる」
病室で目を覚ましたレイが初めて口にしたのは、その言葉。
レイは、身体のあちこちに包帯をされている。
しかし、そんなことは関係ない。
レイは病室を出、歩いていった。
シンジに向かって。
レイの足どりは怪我の深さを物語っており、どことなくおぼつかない感じだが、その瞳にははっきりと決意が見て取れた。
シンジに会うのだ、という。
パタ、パタ…
誰もいない真夜中の廊下を、レイは1人ただ歩き続けた。
そのスリッパの音が、辺りにこだまする。
「ひっく…」
再びリツコがいる部屋に戻ってきても、ミサトは泣きじゃくっていた。
その悲しみは、リツコには痛いほどよく分かった。
だが、どうしてやることもできないと言うことも、リツコはよく分かっていた。
だから、リツコはあえてミサトに声をかけず、仕事を続けていた。
自分にとっても、シンジの死は辛い。
その感情を隠すためだったのかもしれない。
そんなとき、リツコはモニターにレイの姿を見つけた。
(レイ…何処へ行くの…?)
トレースしようかとも思ったが、何かそうしてはいけない気がして、やめた。
リツコは、再び作業を再開する。
ミサトのか細い泣き声と、キーボードの音だけが、その部屋の中に存在していた。
ver.-1.00 1997- 06/02公開
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Tossy-2@nerv.to
まで。
次回予告
シンジに、再び会いたい。
その願いが人々の間を交錯する。
かなわぬ願いを捨てきれないミサト達が見たものは?
あとがき
僕は、本来はギャグっぽい作品書きなのですが、今回シリアス物にも挑戦してみることにしました。
最初だけ見てると結構暗いですが、シリアスとは言いながらもちょっとは明るめに書いていきます。
さあ、果たしてシンジの、アスカの、ミサトの、リツコの…その他諸々の運命や、いかに?
Bパートをお楽しみに。(^^)
Tossy-2さん2本目の連載はシリアスな、『エヴァンゲリオン パラレルステージ』です。
第1話Aパートを公開します!
ゼリエルとの戦いに向かうところまでは同じなんですが、その後が・・・・
まさかのシンジの死。
泣き崩れるミサト、
放心状態のアスカ、
努めて冷静であろうとするリツコ、
そして、謎の行動を起こすレイ。
既に遺体を処理されたシンジの運命は?
「明るめ」というTossy-2さんの言葉にすがる思いです。
シンジはどうでもいいけど、泣き濡れるアスカちゃんを見たくない私です(^^;
アスカと言えば、このショッキングな出来事で「壊れていく」道程に填り込まなくて済みそう・・・・なのかな?
さあ、訪問者の皆さん。
精力的なTossy-2さんに激励のメールを!!