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魔導王シンジ


第十話 BREAK OUT! (前編) 




ヒカリがさらわれて数分後、荒れた厨房にはアスカとマナ、そして呼ばれてきたシンジと、呼ばれもしないのに来ているアルがその場にいた。リーザスの人間にも知らせようというシンジの提案はアスカが却下した。他国の人間がさらわれた程度で真剣に調査してくれるとは思えないし、直感的にそうしない方がいいという気がしたのだ。
明くる朝、何も知らず出勤してきた宮廷料理人が残状を見て目を点にしたというのは後日談。

「問題はヒカリがどうしてさらわれたのかってことよ。」

アスカがそう口火を切って、一同を腰に手を当てぐるりと見渡す。その行為は無意識のものだが、自分がイニシアチブを持っていることを確認するための行為である様だ。それにマナが真っ先に手を挙げて発言する。

「はいはーい、それはヒカリに料理を作ってもらうためだと思いまーす。」
「・・・・冗談としては場違いすぎるし、本気だとしたらなおさら質が悪いわよ、マナ。」
「いや、案外そうやったかもしれん。」

アルが料理の皿を物珍しげに見ていたかと思うと、それを少し口に含んでもごもごさせた後、ハンカチを取り出しその中にペッと口内の物を吐き出す。

「ただし、毒入りのやけどな・・・・。」
「毒・・・・?」
「ストリキニーネちゅう植物から抽出したやつやな。暗殺用としては申し分ない・・。」
「暗殺・・・・誰を・・・?」

シンジはその問いに誰かが答える前に、回答が頭の中に浮かんだ。ランス王・・・。ついさっき中庭でその人物への不満を口にする人物に会ったばかりだ。エクスとか言ったか・・その人が・・・?

「まっ、ヒカリ嬢ちゃんの料理にこいつを入れてランス王に運ばせようとしたところに、姫さん達に出くわして、とっさにさらって逃げてった・・・・。てとこやな。」
「問題は誰がそれをやったかってことよね・・・・・。」
「あの・・・・。」

シンジがおずおずと中庭での事を告げる。言っていいものかどうか迷ったが、事態が事態であったし、他に手がかりもなさそうだったからだ。中庭での出来事を出来るだけ主観を交えずにシンジがみんなに話す。

「じゃあ、そのエクスってやつがヒカリを・・・。」
「ちょっと待ってや。俺はその人物を知っとるが暗殺なんて姑息な手段を使う奴には思えん。」
「んな事言ったって、他に手がかりも無いでしょうが。」
「うーーーーーん・・・・・・・。」

全員がその一言に沈黙して考え込んだとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ありますよ・・・・。」

声は意外なところから響く。それは天井裏からだった。やがて、黒い影がさっと上から降りてくる。迷彩服を着込み、怪しげに眼鏡を光らせた少年・・・・。

「・・・・誰だっけ?」

無情な一言に思わずずっこける少年。最近、出番が無かったので改めて紹介しよう。彼の名は相田ケンスケ。魔法王国ネルフに存在する唯一の忍者である。この度は、アスカ達に護衛と称してくっついたはずだが・・・・・・。

「ああ・・・そういえばそんな人いたような気がするわね。ごめんなさい、どうでもいいことはすぐ忘れる質なの。」

マナが酷いことを言いながらポンと手を打つ。ケンスケはといえば、せっかく天井裏でスタンバって、タイミングを見計らってかっこよく登場したと思ったのに・・・・、とかなんとか呟いて隅の方で拗ねている。

「あ・・・あの・・ケンスケ、手がかりって・・・。」

いじけモードに入っているケンスケにシンジが恐る恐る声をかける。ケンスケは気を取り直す様に立ち上がって言う。

「実は私、先ほどのくせ者をずっと尾行していたのです。」

この一言にその場に居た者が一斉に注目する。その視線を満足げに受け止めてケンスケはさっきの落ち込み具合はどこへやら得意げに話し出す。

「相手もさる者。なかなかに素早く、感の鋭い男でした。途中何度も気づかれそうになりましたが、この相田ケンスケ、その天才的な尾行術と忍者としての技能をもって・・・。」
「前置きはいいから結果だけ話しなさいよ!」

アスカの蹴りを食らって再び、拗ねるケンスケ。それでも無精無精、話し出す。

「いえ、ですからね、結局、洞木が連れ込まれた場所を発見したんですが・・・。」
「怖くなって逃げ出したと・・・・。」
「違う!下手に手を出すのはまずいと思ったんですよ、これ見てください。」

と言ってケンスケは一枚の写真を取り出す。どこかの豪邸の門らしい。門柱の所に頭が鷲で体が虎のような不思議な生物を象った紋章が架かっている。当然、シンジ達には見覚え無かったが、アルがその写真をとりあげ、光に透かすように見ながら呟く。

「これは・・・・。ムスカ家の紋章・・・・。過去何度も皇后を輩出したリーザス大名門の貴族様や・・・。なるほどなぁ・・・・・。」

アルは声にはどこか楽しげなものが含まれている。それが感に触るのかアスカがかみつくようにアルに怒鳴る。

「何、一人で納得してんのよ。ここにヒカリが居るんでしょう、さっさと行くわよ!」
「でも・・・このこと王様に相談したほうがいいんじゃないかな・・・。」
「あんたバカァ?!これはネルフの問題よ。リーザスなんかに介入されてたまるもんですか!」
「まっ・・・それが懸命やろうな・・・・。」
「・・・・さっきからあんた一人だけわかった様な態度とちゃってどういうことか説明しなさいよ。」
「そうやな・・・。でも時間も惜しいことやし、話は目的地に向かいながらや・・・ええか?」

アルはひょいと肩をすくめて、アスカ達を案内するように外へと出ていった。




うし車はリーザスの舗装された道を猛スピードで走っている。夜の闇が窓の外を流れるように通り過ぎ、視界は良くなかったが真夜中という事もあって人を引く心配はまずないだろう。

「さて何から話せばいいもんかな・・・・。」

車の中には中央にアル、その両隣にシンジとケンスケが、その正面にマナとアスカが並んで座っている。頭上にはランプが輝いており、車が道の段を通る度不規則に揺れる。別にそれが落ちてこないか心配だったわけでも無いだろうに、アルはそれを見つめながら思案している。

「あんたに聞きたいことは三つよ。いったいどこの誰がヒカリをさらったのか。そして、何でさらわなきゃならなかったのか。そして最後に何であんたが首を突っ込んでくるのか。以上!」

会話にしても行動にしても、他人に主導権を握られるのは性に合わないらしい。不機嫌ここに極まれり、といった風にアスカが詰め寄る。
アルは動じた様子もなく、視点をランプからアスカの方に移して答える。

「わかった、わかった。そんならその順番で話していくで。ヒカリ嬢ちゃんをさらったのは・・・・、さらわせたのはリーザスの名門貴族、ムスカ家の当主ラファエル・ムスカ。あの紋章は間違えあらへん。」
「で、どうしてその貴族が?」

マナの言葉に、アルは再びランプに視線を戻し、独白するように、そのランプに語りかける様にアルは話し出す。それは夜眠れない子供に、物語を読んで聞かせるようなそんな話し方だった。

「リーザスって大陸一平和な国やな・・・・。」
「何言ってんの、あんた?」
「豊かな大地からは一年中農作物が穫れ、経済の発展も他に類を見ない。商人やからようわかる。民が飢えて死ぬことも無ければ、地理的に魔物の国からも離れとって人が魔物に襲われることもない。」
「だから関係ない話は・・・。」
「平和な国にはやる病気・・・・・・。何かわかるか?」

いきなり質問を浴びせられ、シンジは返答に窮している。助け船を出そうにも、質問の答えがわかる者はこの場にいなかった。アルは別に返答を期待していなかったのだろう。自分でそのまま答える。

「それはな、平和ボケや。」
「それが、病気なんですか?」
「ああ、立派な、やっかいな病気や。これにかかると、まず気力がなくなる。外敵と戦う気力、貴族の不正と戦う気力、現状を変えようとする気力がな。んでその結果が、一年前ヘルマンが攻めてきたときあっけなく征服されるわ、貴族王族が好き勝手やらかしても誰も止めんわで情けないことこの上ない・・・。」
「だーかーらー、話がずれてるじゃないの。あんたは!」
「まあ、聞けや。そんでこの度それを直すべく荒療治がなされたと。」
「それがランス王・・・ですか?」
「聡いな少年。そういうことや。ランス王が現れたことでリーザスは変わるわけや。んでそれが気にくわん奴らも当然おる。一方は荒療治が過ぎて、国ごと壊れるのを恐れている奴ら。もう一方はそういった病気が治ると都合の悪い奴ら。前者がさっき少年の話に出てきたエクス将軍、後者が貴族連合とそれを代表するラファエル・ムスカってとこやな。」

話が少し抽象的なせいかマナは内心首を傾げてアルに尋ねる。

「もうちょっと具体的に言ってくれない?」
「そうやな・・・。たとえば、ランス王が実施する改革の中に、貴族やら王族の払拭がある。今まで民から財産を吸い上げてきた数々の特権の廃棄、並びに正当な課税。さらに非常時における臨時徴収の対象にもなる。まあ、ランス王にしたら不正が許されんのやなくて、「自分の物」に手を出されるのが嫌なだけやろうけど・・・。」
「それで、ランス王を暗殺しようっていうの?安直すぎない?」

首を傾げるアスカにアルが少し苦笑して呟く。

「どんなに大げさで複雑そうに見えても、中身はそんなもんや。・・・・本当に安直な。」

その言葉は、この件以外のことも指している響きがあったがこの場にそれを読みとれる者はいなかった・・・・・。

「で・・・・?」
「で・・・・とは?」
「最後の質問の答えよ、なんであんたが首を突っ込んでくるのよ?」
「俺の趣味や。こんなおもしろそうなこと、ほっとけるわけないやろ。」

きっぱりとしたアルの口調に、アスカはあきれて二の句の継げようが無かった・・・・。




所変わって、アスカ達が目指すムスカ家のとある一室・・・。そこは客室だった。客室と一口に言っても、ムスカ家には客室はたくさんある。ここはその中でもとりわけ豪華な部屋だった。広さは無駄にと言ってしまっていいほど広く、床には人間の平均寿命を上回るであろう、年代物の絨毯が惹かれている。あちらこちらに置かれた成金趣味の置物。自分が腰掛けている高そうなソファ。そして目の前に座っている男。どれもが気にくわないとメルフェイス・プロムナードは思った。
その前に座っている男はこの家の当主、ラファエル・ムスカ。醜男・・・とまではいかないが、おおよそ健康的とは言い難い太った体をした男である。この男を目にした女性はまず間違えなく、その容姿よりその装飾品に目を奪われるだろう。高そうな色とりどりの指輪やら腕輪。服は特注で作らせたのだろう、意味もなく金やら銀に輝いている。
メルフェイスは美しい金髪をまっすぐ伸ばした美女で、彫像がそのまま動き出したかのような優美さを誇る。この女性がリーザス魔法軍「紫の軍」の隊長、つまりリーザス一の魔法の使い手であることはリーザスに住む者ならたいがいは知るところである。

「全く・・・、勝手なことをしてくれたものです・・・・。」

不快感を隠そうとするどころか、いっそう強めるようにメルフェイスが目の前の男をなじる。

「勝手なこと?私はエクス将軍のお手伝いが出来ればよろしいかと思ったまでのこと。私とてリーザスの民を憂う気持ちはある。あのような鬼畜王をのさばらせる訳にはいきませんからね。」

(手伝い・・・・、そう、ランス王に表立って立ち向かうのはエクス将軍であってこの男ではないわ。自分はその後ろで高見の見物か・・・。もし、暗殺が成功してれば、その罪をエクス将軍に押しつけかねなかったわね・・。)

内心の怒りを押さえるため、掌をグッと膝の上で握る。もし、この掌をこの男に突きつけ呪文で吹き飛ばしてやれたら、どんなに爽快だろうか・・・、そんなことを考えながら・・・。

「あなた達がエクス将軍の反乱に協力して資金援助を約束してくださったのは感謝します。ですが暗殺などという卑しい手段を用いては後に禍根を残します。」
「おやおや・・・、熱心な革命家ぶりだ。敵の大将一人殺すより、リーザスの民を巻き添えに戦火を巻き起こす方がよろしいとおっしゃるか・・・。私としてはなるべく平穏な道を模索した上での苦肉の策だったのだが?」

(詭弁家が!)

そう、視線に込めてメルフェイスが刺すようにラファエルを見つめる。がその視線は彼の分厚い脂肪に阻まれ跳ね返された。
自分たちはエクス将軍を中心として、リーザスの明日を憂い、反乱を決心したのだ。あんな男が王となればこの国は亡ぶ。そう思い立って・・・。
それがこんな薄汚い保身しか考えない貴族の手を借りざるを得ないとは・・・・・。そう、ラファエルがランス王を打倒するのに熱心な原因に民を救うためだとか、リーザスの未来のためだとかは一ミリグラムもあるまい。全ては自らの財産と特権のためである。だが、この男が自分たち反乱軍と、反ランス王の貴族連合との橋渡しになっていることは否定できない事実だった。

「・・・とにかく、勝手なご判断をされては困ります。そのうえ、ネルフからの客人を幽閉するとは・・・。」
「仕方ないでしょう。野放しにしては我々の動きを悟られる。かと言って殺してはネルフとの外交に影響を及ぼす。しばらく、ここに滞在してもらうしかありませんな。」

メルフェイスは、今頃この屋敷のどこかで閉じこめられているだろう少女、洞木ヒカリとかいったか・・・、に対して深く同情した・・・・。そして部外者を巻き添えにしたこの男に対し、激しく憎悪を感じた。もう、これ以上この男と話すのは耐えられない・・・。

「では・・・・、他の貴族達にも協力を要請しに行かなければならないのでこれで失礼します。」

そう、あなたと同じ寄生虫達に・・・・。そう心でつけ加えながらも、そうせざるを得ない自分に歯ぎしりする。蜂起の時までに少しでも戦力を整えなければいけない・・・。エクス様は他の軍の将軍達、「黒の将」のパレス将軍や「赤の将」のリック将軍にも協力を要請してみると言っておられた・・・。そう考えつつメルフェイスは立ち上がる。

瞬間、

ドオオオオオオオオオォォォォォォォン・・・・・・・・・・・

という大音響と共に屋敷が崩れるかと思うほど激しく揺れる。おかげでメルフェイスはバランスを崩し、気に入らないソファにもう一度腰掛ける羽目になった。最初からソファに腰掛けてはいたラファエルの方といえば、丸い体が災いし、ソファから文字通り転がり落ちた。

「な、なんだ、いったい何事が・・・。」

狼狽するラファエルの疑問に答えるように、慌てて屋敷の者が飛び込んでくる。その顔は青ざめきっており、一目でただごとではないと判断できる。

「た、大変でございます。ラファエル様!」
「だからいったい何が起きたと聞いておる。」
「そ、それが・・・、ネルフ国王女と他数名が例の娘を帰せと、その・・・門を魔法でぶち割って屋敷に進入してきております・・・・。」
「な・・・・・?」




「なんてことさらすんやーーーーーー!!」

あちこちで起こる爆音、人の怒号、建物の崩れる音。その音量に負けるまいとアルは怒声を張り上げる。叫びながらアルはこんな事に陥る羽目になった数分前のことを回想する。










「ここがその貴族の屋敷ってわけね・・・。」

アスカが真っ先にうし車から降り立ち、屋敷を見上げる。普段は豪華な屋敷も、夜の薄暗さ、さらにはその住人の悪評も相俟って、いかにも悪者のアジトじみて見えてくる。

「でもさ・・・・、どうやって洞木さん救い出すわけ?」
「そりゃあ、そこのブザーを押してやなぁ、ここの当主ラファエル・ムスカに交渉するんや、洞木嬢ちゃんを返してくれてな。」
「あんたねぇ・・・、そんなことして、素直にハイ、そうですって返してくれる訳無いでしょう。」

確かにアスカの意見がもっともなのだが、アルはちっちっちっとわざとらしく指を振って答える。はっきり言ってまったく様になってなかったが・・・。

「まあ、まかせてくれや。交渉は商人の十八番やからな。ムスカ家のは後ろ暗いところが今回の反乱の件も含めてぎょうさんあるからな。そこら辺をつついてやるんや。」

アルが、細い目では他人にはわかりにくかろうが、目が輝かせる。国家と法と言う名のゲーム盤の上で人、情報、金などを駒とし知略を尽くしてせめぎ合う戦いはアルの望むところであった。相手はリーザスの大貴族、自分と同類の人間のはずだ。そして、こいつらに恩を売りなおかつ、自分がリーザスに来た真の目的を果たせれば言うことはない。
そう思いつつ、アルが開戦の合図ともなろうベルを押そうとしたとき、

「ちょっと待ちなさい。」

後ろから静止がかかる。言わずと知れたアスカである。

「それはあたし好みのやり方じゃないし、だいいちあんたに頼るってのは後味悪いわ。」
「・・・そんじゃ他にどんなやり方があるっていうんや。」

肩をすくめるアルを尻目にアスカがすたすたと門の方に歩いていく。

「こうするのよ。白色・・・・。」

そう言いつつ、アスカが門に右手を当てる。アスカの体に白い光が渦巻いていく・・・。シンジとマナ、ケンスケはあーあといった風に、アルはキョトンとしてアスカを見ている。

「え?まさか・・・・・・。」
「破壊光線!!」

ドオオオオオオオオォォォォォン・・・・・・
パラパラパラ・・・・・・・

アスカの発した魔法により、堅牢な門が爆音と共に粉々に砕け散る。アルは門と共に自分の持っていた常識と言う名の壁まで砕け散った気がした・・・・。




「何故だ、何故ネルフの王族がそんなことをする?」

ラファエルは全く理解できないと言った風にわめき散らす。ラファエルの狭い世界ではたかが平民一人のために王族が体を張って、ともすれば自分の立場まで危ういこんな愚行を犯す理由などどこを探しても見つからなかった。だいいち、なぜあの娘がここに居ることがわかったのだ。答えのでないまま思考は新たに起こった地響きで中断させられる。
狼狽え、わめき散らすラファエルを哀れみすらこもった目でメルフェイスが見下している。自分にはわかる。あの娘はネルフの王女達にとって大切な、守るべき者なのだ。自分のことにしか興味の無い屑がわかるはずもない・・・・。しかし、このまま放っておく訳にもいかない。残念ながら、この男の援助はいま自分たちの反乱を成功させるために欠かせないものだ。自分も戦わねばなるまい。こんな屑のためではなく、自分の大切な人のため・・・・。
そう心の中で呟くとメルフェイスは立ち上がり、どこにゆくのかというラファエルの声を無視して、颯爽と部屋を出ていった。その表情はまるで戦の女神の如く・・・・。




「業火炎破!」

アスカの両手から放たれる戦術用の広範囲の魔法。それがムスカ家の私設団に向けて放出される。当然、直接当てるのではなく、側の壁やら床やらを爆破させ、爆風や轟音で気絶させたり倒したりしているのである。花火の様に炎が次から次へと爆砕し、辺りを赤々と照らしている。シンジやマナもそれは同様である。ケンスケはその忍者の技で次々敵を倒している。所詮、私設団といってもろくに訓練もされてなく、そこらのちんぴらと変わりない。アスカやシンジの相手になろうはずもない。

一方、アルはといえば・・・。

「あんた自分が何やっとるんかわかっとるんやろうな!?」

相変わらずアスカに叫んでいた。まぁ、彼からすれば相手とチェスで対決しようと駒を並べたところで、チェス盤ごとひっくり返された心地がするのである。
それに対してアスカは何をいまさらと言わんばかりに答える。

「当然、ヒカリを連れ戻そうとしてんのよ。」
「目的を問題にしとるんやない!手段や、手段。」
「実力行使がもっとも手っ取り早いじゃない。」
「ここはリーザス領やで、外交問題や!」
「あら、それなら平気よ。」

といってアスカはにっこり微笑む。右手で敵吹っ飛ばしながら・・・。

「誘拐に、反乱未遂、国王暗殺未遂・・・エトセトラエトセトラ・・・。これだけの犯罪者相手ならこれくらいの暴挙見逃してもらえるでしょう?」
「洞木嬢ちゃんが見つからなかったら?」
「・・・・そん時はそん時で何とかなるわよ。」
「・・・お、俺は関係ないからな・・・。帰らしてもらうわ。」

くるりと後ろを振り向いたアルの肩をアスカががしっと掴む。

「あらーーー?無関係だなんて謙遜しちゃって。情報提供アーンドここまで連れてきてくれた恩。このアスカけっっっして忘れないわ。・・・法廷に連れて行かれようともね(はぁと)。」
「・・・・・鬼やな、あんた・・・。」

アルは無言で涙ぐみながら天を仰ぐことしかできなかった・・・・。

一方、マナは戦意喪失してがたがた震えている私設兵の一人からヒカリの居所を聞き出そうとしていた。

「ねぇ・・・・、洞木って料理人がどこに掴まってるか知ってるかなぁーー?」
「し、知らない、俺は何も・・・・・。」

震えながら答える兵士に、マナがにっこり微笑みかけながら、相手の耳を触りながら語りかける。

「・・・ねぇ、あたしいつも疑問に思ってたんだけど、シャングリラの人たちって怒ったらよく「耳から手ぇ突っ込んで奥歯がたがた言わせたろうか」っていうじゃない?あれ、実際出来るかどうか私、試してみたくなっちゃった・・・。すっごく。 」
「こ、こ、この奥の地下室の一室です、ホントですホントです。だから助けて・・・・・。」
「ありがと。素直な人って好きよ。」

そう言ってマナは兵士の頭を雷を纏わせた手で撫でる。兵士はそれを受け恐怖に顔をひきつらせたまま気絶する。それを見届けもせず、マナはアスカ達の方にそれを伝えようと駆け寄った。

その時、今までとは比べ物にならない殺気が通路の奥から漂ってくるのをその場にいた全員が感じ取る。一斉に皆そちらの方を振り返る。通路の奥には黒装束を着た男が三人居た。明らかに私設団とは違ったが、そのうち一人はアスカ達には見覚えがあった。ヒカリ達をさらったあの男だ。

「?!あいつらヒカリをさらった・・・・。」
「アサシンギルドの奴らか・・・・。」

アルがぼそりと呟く。アスカが小声で尋ねる。

「知ってるの?」
「ああ、うちのシャングリラ内の組織、アサシンギルドで養成されとる暗殺者や。手強いで・・・。アサシンってのは職業やのうて、もはやそういう生物なんや。人間を欺き殺すためのな・・・。」
「そう・・・シャングリラの・・・・て?それじゃあんたの手下みたいなものじゃないの?」
「・・・金さえもらえば親でも殺すように教育されとる。」
「・・・あんたって人は・・・。」

すっとアスカ達の前に人影が立ちはだかる。マナとケンスケである。アスカとシンジが怪訝な顔で問いかける。

「マナ・・・・?」
「ケンスケ・・・・・?」
「さっさとヒカリを助けてきなさい。こういうのを相手にするのは私たちの方が適役だわ。・・・・・いでよ、「力」のベゼルアイ!」

マナの手から精霊が現れ、マナの体に光を浴びせる。マナに鋼鉄の体と万力を授ける精霊の祝福である。ケンスケも同じくして無言で刀を抜く。アサシン達もそのまま音もなく前進してくる。この狭い通路ではどのみち2、3人でしか戦えない・・・。シンジとアスカは互いに顔を見合わせ頷くと、ヒカリの囚われている所へ走り出す。

「わかったわ。マナ、気をつけなさいよ。・・・・やりすぎないようにね。」
「こんな時ぐらい、その憎まれ口やめなさいよ。」
「ケンスケ・・・。頼んだよ。」
「ああ、俺だってやるときはやる男だからな・・・。」
「んじゃ、二人とも後は任せたで!」
「「お前(あなた)まで行ってどうする(のよ)!!」」

三者三様の別れの言葉をかけ、シンジ達は奥の通路へと進んでいった。それを気配で悟りながらマナ達はアサシンと対峙する。アサシンはまず目標を魔法使いであるマナと定めたようだ。三者が一斉に縦に並んでマナに向かう。マナからはちょうど三人は重なって見える。一番前のアサシンがマナに手に持ったナイフとつきだして躍りかかる。マナはそれを腕ではじき飛ばす。

「霧島、上だ!」

ケンスケの叫びにマナが頭上を見る。飛び上がった真ん中にいたアサシンがマナの頭上から躍りかかる。いかな鋼鉄の肉体を持ったといえど、急所はそのままだ。ほとんど筋繊維に覆われていない頭を狙われたらひとたまりもない。しかし、常人離れした反射神経でそれを左手ではじき飛ばす。が・・・、横から回り込んだ残った一人が、その隙にマナの横腹を突こうと突進してくる。その瞬間、

「はぁ!」

とマナの気合いの声と共に、ドレスをはためかせ、あざやかな弧を描き回し蹴りが炸裂する。壁まで吹っ飛ばされて崩れ落ちるアサシン。それを見て残るアサシン二人が間合いをとる。マナがスカートをなびかせながら、ため息を吐いて言う。

「ふふ・・・。アスカの言うこともたまには的をつくわね。ドレスは動きにくいから好かないって・・・。確かにそうかもね・・・。ちょっと失敗しちゃった・・・かな。」

うっすらとマナの顔に汗が浮かんでいる。ケンスケが見ると、マナが左の脾腹を押さえている。そこには銀色のナイフが一本生えていた。そして、純白のドレスをあざやかに色づけしていく真っ赤な血・・・・。

「霧島??」

ケンスケが焦りの声にマナが大丈夫とジェスチャーする。傷が浅いという意味では無く、毒が塗られていないという意味だ。あるいは塗ってあっても効かなかったのか・・・。
しかし、マナが汗をかいているのは、傷のためだけではない。マナが蹴りを放ったあの瞬間、アサシンはそれをかわそうともせず、突っ込んできて相打ちにもちこんだのだ、ためらいもなく。人間に本来備わっている防衛本能を微塵にも感じさせない。マナはさっきのアルの言葉を思い出す。(アサシンってのは職業やのうて、もはやそういう生物なんや。人間を欺き殺すためのな・・・。)

「ちょっとまずいかな・・・・。」

マナは無機質な表情を見せている二人のアサシンを見ながらそう呟いた。




(時間がない・・・・)

アスカもシンジも焦りを感じている。それはマナ達のことが心配だからでもあったし、これだけの騒ぎなのだから、そろそろリーザスの兵が来てもおかしくない頃だ。そうなるとやっかいなことになる。そうなる前にヒカリを見つけなくては・・・・。

邪魔をする兵ももはやいなかった。シンジ達は一直線に進み地下室へと通じるドアを発見した。しかし、それと同時に、そのドアの前にたたずむ一人の女性に気がつく。美しい女性だった。彫りの深い顔立ちに、長く美しい金髪。真っ赤なドレスに近い形状の魔法衣と着ている。一目で魔法使いだとわかる格好だ。
この人も私設兵だろうか。そんなシンジの疑問はアルが背後で上げた驚きの声で解消される。

「メルフェイス・プロムナード?何故こんな所に?」
「誰なの?」
「リーザスの魔法兵団「紫の軍」の隊長や。つまり、こと魔法戦闘に関したらあの美女の右にでる者はリーザスにはおらん。」

そのリーザス最強の魔法使いが何故こんな所にいるのか?聞くまでもないことだった。今まで無言だったメルフェイスが不意に口を開く。

「あなた達、リーザス領でのこのような行為。決して許されるものではありませんよ。今ならばまだ見逃してあげられます。さあ、自分たちの国におかえりなさい。」

それは子供に言い聞かせるように、ゆったりとした、余裕ある声だった。アスカが、これまた聞き分けのない子供のような声をだす。

「嫌よ。あたし達は帰るときはヒカリと一緒に帰るわ。そこに居るね!」

と言ってびしっとメルフェイスの方を、つまり地下室へのドアを指さす。メルフェイスはそれでも表情を動かさず、揺るぎない声で答える。

「・・・あなたのお友達に関しては私は存じません。ですが、その子は後日、私が責任を持って探し出して保護し、ネルフへと帰しましょう。」

言外にこの場は一旦、引いて口を噤んでくれればヒカリは帰そうと言っているのだ。アスカは当然それを察したが・・・。

「信じられないわ。あたし達はあんたらが反乱起こそうが、鎮圧されようが知ったこっちゃないのよ。ただ、あたしの友達を巻き込んだのが許せないだけ。一刻も早くヒカリを助けたいのよ。」
「・・・あなたが私を信じていただけないのであれば、私もあなたを信じるわけにはいかないでしょう。」
「交渉決裂・・・ってわけね・・・・。」

とたんに戦闘態勢に入ったらしく、魔力がメルフェイスの周りを渦巻いていく。メルフェイスの体から立ち上る青白いそれは、魔法使いではないアルの目からもはっきりと見える物だった。それだけを見てもメルフェイスが非凡な能力を持つ魔法使いであることがわかる。

それを見て、シンジがアスカの肩を押さえて前に出ようとする。自分が代わりに戦おうというのだ。が、アスカはシンジに向き直ってそれを拒否する。

「あんたバカ?女の人相手にあんたが本気で戦えるの?この前のレイとの試合でさえ、あんた本気でやんなかったでしょう?」
「う・・・それは・・・・。」
「ここはあたしに任せなさいよ。」

そう言って、アスカはシンジの胸を軽くこぶしでドンと叩いて微笑む。が、シンジの心はそれでも晴れなかった。アスカはさっとメルフェイスに向き直る。メルフェイスはそれを見て意外そうに言う。

「あなた一人?そこの少年も魔法使いなんでしょう?」
「はん、あんたなんてあたし一人でお釣りが来るわよ。さあ、かかってらっしゃい!」

対峙する二人の魔法使い。そして、これから起こるであろう戦いを見守るシンジの心には漠然とした不安があった。さっきアスカに叩かれた時の胸のうずきが何故かなかなかとれなかった。

第十話前編 終わり


続く

ver.-1.001997-11/28公開

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作者の一番長いあとがき

YOU「えー、毎度の人もそうでない人も「魔導王」をお読み頂きまことにありがとうございます。つきましては今回、色々とおかしな点が見受けられると思われますので作者の方から、この場を借りて解説、補完させてもらいます。」
マナ「要するに、「自分で言ってしまえばこれ以上他の人に文句を言われることもないだろう。」というわけね。」
YOU「身も蓋もないですね・・・(^^;」
マナ「欠点があるというより、発想そのものが間違ってるような気がするけど、まあいいわ。始めちゃって。」
YOU「では、まず単純な物から。冒頭の毒物「ストリキニーネ」。これは実在する猛毒です。マチンから抽出されるもので、中枢神経を冒して窒息死させます。ちなみに少量は神経刺激剤として使えます。が、これが暗殺用に使えるかどうかなんて知りません。っていうか少量では効果がない時点で使えない気がするんですが・・・。」
マナ「無責任ここに極まってるわね。よくわからない物を無理して使うからよ。」
YOU「と言うわけで、実在の物と本作で使われている物は無関係ってことにしときます。どうせファンタジーですし。続いて、反乱という物が一日で起こるなんて突発過ぎのではという事については鬼畜王の方を忠実にしたということで・・・。反乱なんて元々突発的な物ですし・・・。後、鬼畜王ランスに登場していたキャラが数名出てきているんですが、性格、設定が大幅に違うのが居ることについては目をつぶってください。」
マナ「私もなんか性格がかなり違うんだけど・・・。それには目をつぶるとしても、出番が少ないのはどういうことかな?見せ場があったと思ったらいきなりやられてるし。」
YOU「エヴァキャラ均等に出番が少ないんです。それについては、話の流れ故今回説明的になっていること、そしてエヴァキャラに悪役をやらせたくなかった(若干名を除く)のが原因です。決して「オリキャラを目立たせ過ぎない」という初志を忘れたわけではございませんので・・・。そしてそれ故、前後編に分けたわけです。(ひょとしたら中編挟むかも・・。)」
マナ「へー。偉い偉い、じゃあご褒美にお茶をいれてあげるね。」
YOU「あ、これはどうも、話っぱなしで喉が乾いちゃって。」

ずずずずず・・・・・・

YOU「ふう、おいしい・・・。」
マナ「全部呑んだ?」
YOU「え?はい。」
マナ「じゃあ、そろそろね・・・・・。」
YOU「なんのこ・・・・。おお?!こ、呼吸が・・・。」
マナ「あれ?ちゃんと暗殺用に使えたね。めでたしめでたし。でも対象がこんな間抜けじゃ参考にあまりならないかな?」
YOU「・・・ぶくぶく・・・・。」


 YOUさんの『魔導王シンジ』第十話、前編、公開です。
 

 正面突破!

 やっぱりアスカにはこれが似合いますね(^^)
 

 ウダウダ駆け引きを画策するアルなんてほっぽっとけ!

 この男、
 なにやら裏で画策しているようですが、
 アスカにしてみれば知ったこっちゃ無い(^^;
 

 やることが荒っぽいアスカですが、
 その行動原理は身分差別なき思いやり。

 だからこそその行動には、
 みんななんだかんだ言いながら付いて来るんですよね(^^)
 

 内乱のドロドロした部分が初めから芽を出しています。
 この先一体どうなるんでしょう・・・
 

 民が苦しむ事態になったとき、
 アスカやシンジが首を突っ込んじゃうんじゃないかなぁ・・・

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 YOUさんに解毒剤となるあたたかいメールをお送りましょう!


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