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魔導王シンジ


第八話 鬼畜王誕生 




リーザス王国・・・・・大陸東北部に位置する、肥沃な大地を持った王国。その大地の恩恵は一年中、民に与えられ、民衆の生活レベルは大陸一高い。それ故、周りの国からの侵略行為の対象にさせられたこともあれば、その逆もある。豊かな故に、政治の中枢である貴族や王族の腐敗も進み、賄賂や権力の乱用などは当たり前のように横行している。このように決して安定した国ではなく、常にふらふらした状態の現状を保っている。

建国500年のこの王国に今、新たなる王が誕生しようとしていた。






アスカ達がリーザスに入って三日が過ぎた頃。アスカ達は今、王都リーザスの城下街の宿に滞在している。けっして豪華な宿ではなく、いかにも旅の宿といった造りだがアスカ達はそこが気に入った。
リーザス城下街は大いににぎわっている。いよいよ、明日にひかえた結婚式並びに戴冠式。普通、別々にやるべき二つの式は、またしても新王のわがままで一緒にされたらしい。
しかし、国民はこれを王様の気さくさと受け取り、新王への期待をさらに高めていた。

「それにしてもこの盛り上がりかたは異常ね。」

明日までやることもないので、アスカ達は全員一致の意見で、城下に見物に行くことになった。街はさながら祭りの最中といった風で、あちこちに弾幕や飾り、何故か出店までもが出回っている。
アスカ、マナ、ヒカリの女の子三人組が先頭で並んで歩き、そのだいぶ後ろをシンジと馬車から蹴り落とされて以来、三日ぶりにアスカ達に合流したケンスケが歩いている。このような隊列になった理由はもちろん、

「あんたバカ?こんな迷彩服を着込んだ怪しいやつと並んで街を歩けるわけないでしょう。」
「ごめんね、悪いけど私、変態さんと友達だって思われるのは嫌なの。」
「私はあなたのこと嫌いじゃないけど、アスカ達と一緒にいたいし悪いけど・・・・。」

だそうである。シンジも上の三人に続こうと思ったのだが、ケンスケに捨てられた子犬のような目で見られては、断れるはずもなかった。 ケンスケはその返礼かどうかは知らないが、シンジにリーザスに関しての話を熱心にしていた。そういう内情にうといシンジにとってはありがたいことであった。

「この王都リーザスはつい一年ほど前、ヘルマンの強襲をうけ、陥落の憂き目に逢ってたからな。そのリーザスを解放した張本人が王になろうっていうんだから、盛り上がりもするさ。」
「その前は誰が国を治めていたの?」
「この結婚式の新婦、リア・パラパラ・リーザス王女さ。若干18歳だって話だ。」
「王女が?凄いな。」
「全くね。まあ、侍女筆頭のマリスって人物が補佐していたらしいが・・・。」
と言って、二人は何気なく前を行く我らが国も王女を見やる。王女様は出店から買った綿菓子やらたこ焼きやらリンゴ飴やら両手いっぱいにもった食べ物を相手に一生懸命、格闘していらっしゃった。ネルフがここ数年間、平和で良かった。二人は心の底からそう思った。






散々、飲み食いし大騒ぎして、一行が宿に戻ってきた頃には夜もすっかりふけていた。みんなで夕食を食べ(あれだけ街で食べといて、どこにそんなに入るのかとシンジはあきれたものだが)数時間が経過した。すでに各人の部屋からは明かりが消え眠りに入っているようだ。ただヒカリだけは、明日の結婚式の料理の準備のため、リーザス城下に出向いていた。
明日も早い、僕ももう寝なくちゃ、そう思いつつもシンジの目はさえていてなかなか眠れなかった。

(なんでだろう、明日が結婚式で、そんなものに出るのが初めてだから?)
(違うな・・・・。リーザス新王、確かランスとかいったかな?その人が気になるから?)
(英雄・・・、そして王となった人。まだ若いっていう、20歳だったか・・・。)
(どんな人だろう・・・・・。)

シンジの脳裏に唐突に一人の人物が浮かび上がる。若き王という言葉から自然に連想されて浮かんだビジョン。銀髪の髪をした美しい少年、渚カヲル。ネルフの第一王子、並びに、後にも先にもネルフ最強の魔法使いであった。だが、彼はある日忽然と姿を消した。妹のアスカの前から・・・、弟の様にかわいがってたシンジの前から・・・、彼こそネルフをますます発展させるだろうと考えていたみんなから・・・。本来ならネルフの王となっていただろう彼は今どこに居るのだろうか・・・。

あれこれ、考えている内にシンジにもようやく睡魔の誘惑が訪れ、迷いもなくシンジはそれに身をゆだねた・・・・・。






そして、朝が、この日がやってきた。リーザスの新王の誕生する日。
しかし、人々は理解していただろうか?この日が終わりの始まりであることを・・・。
この日を境に世界が狂っていくことを・・・・。
後の人々は・・・・・後悔したのだろうか・・・・・。

小さな傷が化膿して死を招くように・・・・・・。
この日刻まれた小さな傷は次第に大きくなり破滅を招く・・・・。






この時点では「鬼畜王」の誕生など小さな傷に過ぎなかった。









リーザス城下のとある宿、この宿は特別、豪華でもなく、かといってみすぼらしくもない。いわば、どこにでもある宿だった。その宿が今、おそらく開業始まって以来だろう騒がしさに包まれていた。

「ちょーーーーっとーーー、なによこれ。地味すぎるんじゃないの。」
「それだけ真っ赤な色のドレス着ておいて地味は無いんじゃないの。」
「そうよ、アスカ。とっても似合ってるわよ。」
「それにウエストが異様にきついわよ。」
「ドレスってそういうものなのよ。」
「アスカが太っただけじゃないの。」
「・・・・・・着てるのがこの服じゃなかったら、蹴り飛ばすところよ、マナ。」

鏡の前で、アスカはぶつくさ文句を言いながらドレスを着ている。赤のグラデーションがあざやかなドレスで、肩の部分には宝石が止めてある。スカートは床まで届くほど長く、歩きにくいことこの上ない。アスカは王族のくせにこのような服を着ることを好まない。曰く「なんであんな着にくい、動きにくい服を好きこのんで着なきゃなんないのよ。」だそうである。だからアスカがぶつくさ文句を言うのも、ドレスのデザインが気にくわない、というよりドレスそのものが気にくわないからでてるのである。
一方マナは嬉々として、ドレスに身を包んでいる。マナは純白の服を着ており、遠目にみれば、新婦と間違えられそうだ。胸のところに色とりどりの宝石が飾ってある。

「二人とも、凄くきれいよ。」

すっかり着終わった二人を見て、ヒカリがため息をつきながら言う。マナは少し照れた顔を、アスカは憮然とした顔をしている。ヒカリは料理人のため、特別には着飾っていない。が、やはり申し訳程度には身なりを整えている。マナはしばらく鏡を見て、髪型を整えてみたり、ドスの裾をなおしたりしていたが、

「それじゃ、まずは殿方にお披露目しましょうか。」

と言ってマナが扉を開け、さっきから待っているシンジとケンスケの方へ行く。だいたいにおいて女の着替えの方が男より数倍かかるので、着替え中、待たされるのは男の常である。

「じゃーーん!どう、シンジ君似合う?」

マナがシンジの方へ向かって、スカートをちょんと摘み、くるりと一回転してドレスをみせる。とたんにフラッシュの嵐が飛ぶ。言わずと知れたケンスケが撮影機をしきりに瞬かせているのだった。シンジは少し赤くなりながら、ちょっと微笑んで、

「うん、とっても似合うよ、マナ。」

と言った。シンジのあたり障りのないセリフに軽く失望しながらも、にこやかに微笑み返すマナ。

「ありがと、シンジ君も似合ってるわよ。」

と言ってシンジの全身に目を通す。紺の背広にネクタイと、幼い顔立ちにアンバランスな格好であり、マナがそう言ったのは礼儀上というのは明らかだった。しかし、シンジに関してはいくつになってもこういう格好が似合いそうもない。

「ほら、アスカも早く行かないと。」

部屋でぐずっているアスカにヒカリがせかす。アスカは彼女らしくも無く、顔を少し染めうつむいている。

「でも・・・、よく考えたら私、こういう格好してシンジの前に出るのって子供の時以来なのよ。」
「・・・・アスカ、もしかして恥ずかしいの?」
「ち、違うわよ。ただ、あの馬鹿に笑われるのが嫌なだけよ。」

何を隠そう、さっきシンジが着替えたのを見て、遠慮もなく爆笑したのはアスカである。仕返しとばかり笑われても文句は言えまい。

「大丈夫よ、自信持って。」

と言ってヒカリはポンとアスカの肩を叩く。もちろん笑われはしないという意味ではない。アスカはそれを契機にすっと顔を上げると、

「アスカ、いくわよ・・」

と小さく呟いて、扉を開けパッと外に躍り出る。とたんシンジと目があってしまう。思わずうつむいて、目を下に背けてしまうアスカ。そしてそのままシンジの反応を待つ。しかし、シンジからは何の言葉もない。

(なによ、なんか言ったらどうなのよ。似合ってるよ、とか派手すぎるんじゃない?とか。まさか笑いを必死でこらえてるんじゃないでしょうね。)

アスカが不安になって顔を恐る恐る上げると、そこには呆然とした顔のシンジがいる。

「なにぼーっとしてんのよ、バカシンジ。あたしに見とれてるの。」

アスカが少しいらだった調子で腰に手を当て、いつもの調子で言い放つ。その言葉にシンジがはっとなって少し赤くなって言う。

「あ・・・・ごめん・・。その・・・あんまり綺麗だったから・・。」

シンジの言葉の最後の方は、本当にか細く小さな声だったがハッキリとアスカの耳に届く。そしてその言葉の意味を脳が理解した瞬間、アスカの顔がドレスに負けず劣らず真っ赤になる。普段、そう言うセリフを吐く人間ではないために、効果は絶大だった。

「ば、馬鹿。そ、そんなのあったりまえじゃない。」

誰がどう聞いても、照れ隠しにしか思えないセリフを残して、アスカは逃げ込むように自分の部屋に駆けていった。後には困った顔をしたシンジ、そしてそのシンジに冷やかしのまなざしをうかべる、三人の姿があった。

「綺麗ねえ・・・。私にはそんなこと言ってくれなかったのになぁー。」

シンジの背中を肘でつつきながら、マナが皮肉っぽい調子で言う。

「あ、もちろんマナも綺麗だと思うよ。」
「「も」ねえ・・。いいのよ、シンジ君、無理しなくても。」

シンジはマナの言葉に苦笑いしながら、さっきのアスカの姿を思い出していた。

アスカがあんな格好してるの見たの、小さいとき以来だからなぁ・・・。びっくりしちゃった。でも本当に綺麗だった・・・。まるで・・・・・・

ごーーーーん、ごーーーーん。

突然、鳴り響いた時を告げる鐘の音にシンジは思考を中断する。リーザス城下に響きわたる鐘の音。普段は時を告げる役割のこの鐘が、今日は祝福の役目も負うことに張り切ってか、いつもより高らかに街に響きわたっているように思える。

「そろそろ時間だわ。行かないと・・・。」

ヒカリがそう呟いて、アスカを呼びに部屋に入って見たものは、さっき散々不満をこぼしてたドレスを着た自分の姿を、嬉しそうに鏡で見ているアスカの姿だった。ヒカリはそれを見て、くすくすと笑いがこぼれてしまう。

(嬉しかったんなら、素直に言えばいいのに。アスカったら・・・。)






リーザスの象徴であるリーザス城。陽の光を照り返して白鷺の様に真っ白に輝いている。難攻不落であると同時に大陸一美しい建物として有名である。この城だけをとっても、リーザスがいかに恵まれた国かをうかがわせる。
最も、「難攻不落」という言葉は一年前、陥落の憂き目にあった故、外さなければならない文句かもしれないが。

アスカ達はうし車に乗りその城門をくぐる。車から降りた、一行に執事らしき人物が軽く敬礼をして、案内を務める。ヒカリは別の人間に案内され、厨房へと向かった。真っ赤な絨毯の引いてある、やたらと広い廊下を歩きながら、アスカ達はきょろきょろと周りを見渡している。

「はぁ・・・・、本当に豪華なところね。ネルフの無機的な内装とはえらい違いだわ。」

会場へと続く廊下を渡りながら、マナがため息をつく。無理もないことで、以前、リーザスから来た旅人が、ネルフの王宮を見て、

「さすが、魔法文明国ネルフだ。りっぱな魔法研究施設を持っているな。」

と感心したという。もちろん、リーザスにとっては笑い話でも、ネルフにとっては屈辱的なことこの上ない。

「だいたいからして、ネルフの王宮は廃物利用っていうのがなさけないのよ。しかも聖魔戦争時代の骨董品よ、骨董品。」

まだ、ぶつぶつとマナが文句を言っている。しかし事実だから仕方がない。ネルフの王宮、球殿・ジオフロントは聖魔戦争の遺物である。人間と魔物の戦争。その中で使われた武器の一つに闘神都市と呼ばれる物がある。いや、武器というのは正しくはない。一言で言えば「空飛ぶ要塞」である。ジオフロントは墜落した闘神都市の20%を改装し、造られている。残る80%は今も調査中である。

「そうね・・これじゃネルフで結婚式やるときは恥ずかしくて人を呼べないわね。」
「あら、心配ないんじゃない。こっちのお姫様は結婚するのは大分先になりそうだから。」
「あんたもその原因に一役買ってんでしょうが!」

アスカはつい半月ほど前に「塔の聖女」に就任した。聖女とはすなわち魔力の強い処女のこと。おかげで「塔の聖女」の任を解かれるまで、純血を守り通さねばならない。嫌がっていたアスカがこの役目を負う羽目になったのは、マナが大きく関わっている。(詳しくは第三話参照のこと。)

そんなやりとりをしている間に、アスカ達は廊下の突き当たりの大きな扉の前に連れてこられた。扉を通して、中のざわめきが聞こえてくる。案内役の人間が言うまでもなく、結婚式の会場がここであることがわかる。そのため、三人は扉が開けられるまで、所在なげに服装を直したりしている。

やがて、扉が開けられると、今まで扉に遮られていたざわめきがわっと大きく聞こえた。しかし、アスカはそんなことはお構いなしに、すたすたと会場に入っていく。それに続くようにマナ。ついで、アスカに隠れるようにシンジが入っていく。
式場は大広間を使用しているらしく、中央にヴァージンロードである赤い絨毯がしいてあり、その両脇に来賓の方への客席が並んでいる。奥の方に階段があり、その上に十字架とそして女神リリスをまつる像がある。
式場にはすでに大勢の人間が集まっている。式場の人間達は、今入ってきた客達を見て、格好の話題を見つけたとばかりに好き勝手言い始める。

「誰ですか、あのお嬢さん達は?」
「ネルフの姫君ですよ。すでに故人となった女王そっくりに美しい。」
「ネルフ王は不在か・・。ふん、まあのこのこ来れるはずもないか・・・。」
「あの、後ろの少年はどなたですかな?どこかで見た顔だが・・・。」
「ネルフの第一王子カヲルでは?」
「彼はすでに廃嫡されている。今はもうネルフにはいないはずだ。」
「ああ・・、あれですよ。件の「残酷な天使」。」
「あんな虫も殺さぬような子供が・・・・。なんと恐ろしい。」

アスカ達が広間の隅の方に用意された席に着いた後も、それらの声は嫌でも耳に入ってきた。賛美、尊敬、好奇、非難、侮蔑、様々な声。
シンジは知らない内に、テーブルの下でこぶしを強く握っていた。周りの人間への怒りのためか、恥辱のためか・・・、その両方か・・・。周りの人間にとっての「碇シンジ」とは、人を一瞬に大勢殺す魔力を持った魔法使いである。周りの人間が自分をそのような人間に思っていることに怒りを覚え、それが事実、自分の一面であることには悲しみを覚えた。
シンジのこぶしを握る力がますます強くなっていく。このままでは爪が肉に食い込むかと思われた頃、すっ、とシンジのこぶしに手が重ねられた。それを、アスカの手だ、と感じた瞬間、シンジの手から力が抜ける。シンジの心の、閉塞したものも開いていくような感じがする。
アスカはシンジに向かって少し微笑む。それが「少しは落ち着いた、バカシンジ。」とでも言っているようにシンジには思えた。

それから半時ほど経過して、ようやくアスカ達は周りの好奇の目から解放された頃、新たな客が会場に入ってきた。アスカ達は何となくそちらに目をやる。

「ふうーーー、間におうた。間におうた。いやあ、めでたい席で遅刻したら目も当てられんさかいなあ。」

独特のしゃべり方が大音声で響きわたる。その場にいた人間の視線が入り口に集まる。集まった先には一人の男がいる。似合わないタキシードに身をかため、金色の髪と鋭いと言うより、とぼけた細い目を持った男。その男は視線を気にするまでもなく、空いている席にそこが我が家のキッチンの椅子であるかのように、当然のように座ってふんぞり返っていた。

「だ、誰ですか、あれは。なんと下品なしゃべり方と態度だ。」
「座った席はシャングリラの方への来賓席ですよ。まさかあれが・・・・。」
「先だって、ウェポン家の当主の座を継いだ男か・・・・。」
「噂通りのドラ息子だ。先代が浮かばれませんな。」

先ほどのシンジと同じように、様々な非難の声があちこちでささやかれる。が、アルの方は平然としたままである。慣れているのか、諦めてるのか。

「シャングリラ・・・?」

シンジが周りの声を聴き、耳慣れない単語に疑問の声を上げる。

「あんたバカ?大陸最大の商業都市じゃない。砂漠の真ん中でリーザス、ヘルマン、ネルフの間を交易して利益を稼いでる都市よ。あのアルって男はシャングリラの支配者、ウェポン家の当主みたいね。とてもそうは見えないけど・・・。」
「でもああいうのに限って案外切れ者かもしれないじゃない。」
「それはないわ。あの見てるだけで気が抜けるような顔。開いてるんだかどうだかわからないような目。シャングリラのなまり丸だしの言葉。どっからどう見ても単なる間抜け野郎にしか見えないわよ。」
「そないに誉められると照れてまうなぁ・・・・。」

いきなり後ろから声が聞こえてくるので、振り返るとそこにはにこにこと微笑んでいるアル本人がいた。いつの間に背後に立っていたのか・・・周りの人間も気づかなかった。

「な?・・・あんたいったい?」
「いやあ、式が始まるまで時間あるやろ。その間、暇やしお話でもしようかな、思うて。」
「なんで見ず知らずのあんたと。」
「さっき俺の話、してくれとったやないか。俺も君らのこと知っとるで。この嬢ちゃんがアスカ王女様やろ。隣のお嬢ちゃんが「塔の聖女」の霧島マナ嬢。そのさらに隣の少年が王女様の婚約者の碇シンジ君や。」
「「誰が婚約者よ(ですか)!」」

アスカとシンジが同時に叫ぶ。が、アルは相変わらずにこにこしながら、冷やかすように言う。

「でもさっから、テーブルの下でずっと手を握りあったままやからなあ。そう思われても仕方ないやろ。」

その一言に真っ赤になって、パッとはじかれるようにお互い手を離すシンジとアスカ。手を握っていた位置はテーブルの下で、誰にも見えないと思ったのに、そんな疑問が一瞬浮かんで消えた。

「あなた達二人、何こそこそやってるの。ヒカリなら「不潔よ!」って叫ぶところね。」
「ヒカリっていうのは、料理人の洞木ヒカリの事か?」
「そうよ、知ってるの?」
「ついこの間まではよく通っとったで。彼女の料理は絶品やからなあ。ここにも半ばそれが目的で来たさかい・・・・。」

アルの口はその後も休むことを知らず動き続ける。殆ど初対面の人間に対して、十年来の友人のような馴れ馴れしさだが、それが不快には感じられない。この愛想のよさはさすが商人といったところか。

「えーーー、間もなく、式が始まりますのでみなさんお静かにお願いします。」

進行役の人が、そう告げると式場はしんと静まり返る。見ると、席は殆ど埋まっており、料理も全て並べられている。後は新郎、新婦の入場を待つばかりだった。全ての用意が整った旨を司会の人が確かめると、高らかに宣言される。

「それではこれより、新郎新婦のご入場です。」

その声を合図にクラシックが鳴り響く。録音したものじゃなく、周りに控えていた楽団が生で演奏しているのである。スモークがたかれ、ドアがゆっくりと開き、一組の男女が入場してきた。当然、新郎ランスと新婦リア・パラパラ・リーザスである。

「あれが・・・、ランス王・・。」
「なんか王様っていうより、盗賊団の頭みたいね。」

アスカの言うとおり、新郎であるランスという男はおおよそ王様という雰囲気からかけ離れた人間であった。容姿は美男と言えるだろうが、それを覆い隠すほど悪人じみた顔をしている。着ている正装も全く似合っていない。

一方、新婦のリア王女は少し青みがかった黒髪を後ろに伸ばした女性で美人というよりかわいいといった形容詞が似合いそうだ。ランスに腕を組み心底幸せそうな顔をしている。

二人は歩いて、壇の上に立ち、やたら派手な衣装を着た神父の前で宣誓をしている。この大陸で最も普及している宗教AL教団の神父である。女神リリスをあらゆる生命の母であり、帰るべき場所として祭っている宗教で、リーザスはおろか、ネルフも布教を認めている、この大陸、最大の勢力をもつ宗教である。

その神父が聖書を手に新郎に語りかける。が、その様子が戸惑った風になるのを見て、式場の人間がおかしく思う。

「新郎ランス・・・・・?ランス・・・ええっと・・・・・。」
「どうしたの?早く続けてよ。」

新婦のリアが急かすのを聞いて、神父は一度、汗を拭うと決心したようにランスに尋ねる。

「失礼でございますが・・・ランス様のフルネームは・・・?」
「そういえばリアも知らない。」
「ランス様、よろしければ今、お教え頂けないでしょうか?」

神父の声にランスは面倒くさげに手をしっしと振って答える。

「貴様ごときに教えてやるのはもったいない。名無しでやれ、名無しで。」
「は・・・はぁ・・・えーー、では、新郎ランス。汝は病めるときも健やかなるときも、新婦リアを一生愛し続けることを誓いますか?」
「多分・・・・」
「は?」
「いや、はい。」
「新婦リア・パラパラ・リーザス。汝は・・・・。」
「はい、はーーい。ついていきまーす。二人でおじいちゃんとおばあちゃんになりまーす。」
「でっ・・・・・では聖書に手を置き誓いの宣誓を・・・・」

二人のやりとりを式場中の人間が唖然として見守っている。もちろん、アスカ達も同様だった。

「な・・なんか無茶苦茶な奴らね。噂には聞いてたけど、ここまで噂通りってのも珍しいわ。」
「これから比べれば、ネルフはまだ未来が明るいわね。少なくとも、未来のネルフの王様候補は平和主義そうだし。」
「しつこいよ、霧島さん。」

そんなことを話している間に宣誓も終わりに近づいたようだ。

「それではこの者ランスを、リア・パラパラ・リーザスの夫と認め、王位を譲渡し、ここに我らが母、女神リリスの加護の元、リーザス国国王と認める。」

この瞬間、リーザスの新しき王が誕生したこの瞬間、歓声と拍手が辺りを包み込んだ。もちろんシンジ達も。シンジにとっては、知らない国の知らない男と知らない女が結婚して知らない王様が誕生した、という程度の認識だったが、それでも感動が胸からわき上がり、それを素直に拍手で表した。

拍手の波が引いていった風に思われた頃、満面に幸せの笑みを浮かべた新婦が壇の上からブーケを投げる。ざわめきの中、ブーケはまっすぐにシンジ達のいる方向へ落ちてくる。そのとたん、アスカとマナの目の色が変わる。二人は互いに牽制しあうように宙のブーケを見つめている。

「あら、マナ。現実主義のあんたがあんなもの欲しがるなんて意外ねぇ。」
「アスカこそ。ブーケを欲しがるほど子供じゃないと思ってたのになぁ・・・。」
「誤解しないでよ。私は唯、あの花が綺麗だなぁと思って見てるだけよ。」
「あれ、偶然だね。私もそう思ってたところなの。」
「気が合うわね・・・・ふふふ・・・。」
「本当にね・・・・・えへへ・・・・。」

シンジはそんな二人を不思議そうに見ている。もちろんシンジは結婚式におけるブーケの意味など知りはしないし、それが夢見る乙女にとっては、両腕いっぱいのバラよりも貴重とだということも想像にもつかない。

ブーケは風に揺られて不規則な軌道を描きながらゆらゆらと落ちてくる。それがアスカ達の頭上に来たとたん、二人とも同時に手を伸ばす。位置的には若干、アスカの方に分がある。「取った!」とアスカが心の中で叫んだ瞬間、

「スノーレーザー!」

と、マナの声が聞こえたかと思うと、アスカとブーケの間を真っ白い光が遮る。思わずアスカが手を引っ込めた隙にマナがぱっとブーケを奪う。

「ふっ・・・・、あまいわね、アスカ。」
「な、なんてことするのよ。あんたは!」
「アスカ・・・・、あなたには執念が足りないのよ、執念が。」

マナはそう言って、アスカに勝ち誇ったように指さし、戦利品のブーケを満足げに見つめる。
だが、この一連のやりとりを見ていた男性陣とマナが結婚する可能性が零になったことを考えると、ブーケの御利益も半減といったところだろう。

「えっと・・・・、これから何が始まるんですか?」

未だ口論を続ける二人を尻目に、シンジがアルに尋ねる。アルは、これが彼の考えるときの癖なのかどうか知らないが、頭をぼりぼりと掻いてシンジの疑問に思い出しながら答える。

「えっと・・・これから、新王の演説が民衆の前で行われるはずや。その後は大広間で夜通しでパーティーやな。そんな堅苦しいものやないから楽しみにしとれや。」

そう言ってばんばんと笑いながらシンジの背中を叩く。それから急に思いついたようにシンジに尋ねる。

「そや、これから暇か?少年。」
「そうですね・・・・。」

呟きながら、シンジはちらりとアスカの方を見る。口論はまだ治まりがつきそうに無いが、まさか他国の領土で、呪文を乱用することもないだろうと考え、肯定の返事として首を縦に振る。

「そうか、そうか。ほんなら、リーザス新王の演説、見学に行かんか?将来的には君も似たような立場につくかもわからんしな。参考のためにどうや?」
「だから違いますって・・・。」
「でも、それがいまのところ君の第一志望やろ?」
「う・・・・・。」
「なら決まりや、早速行こうか。」

言うが早いか、アルはシンジの手を取って、人混みをかき分けていった。






民達が新王に謁見するために特別に設けられたバルコニー。その下は早くから新王を一目見ようと集まった人でいっぱいになっていた。今日が、公式的には、リーザス新王が民の前に姿を見せる初めての日であり、初めてリーザス新王としての言葉が聞かせられる日でもあったからだ。
シンジ達が来た頃にはすでにざっと十万人ほどはいただろうか。シンジ達は人混みの遥か後方で立ち往生していた。シンジが困った風な表情でアルに言う。

「ここじゃあ、姿も声も聞こえませんよ。」
「俺に言われてもなぁ・・・。魔法使いなんやから空でも飛べんのか、少年。」
「・・・やれないことは無いですけど、目立ってしょうがないんじゃあ・・・。」

シンジがそんなことを言ったとき、わあっと歓声があがる。どうやらバルコニーにリーザス王が姿を現したらしい。あちこちから、ランス王万歳、リーザス万歳、と声が聞こえてくる。

「この騒ぎや。人が一人か二人飛んどっても気にせんやろ。あそこの木の辺りまで飛んでくれんか?」

アルは両手をあわせて、わざとらしくオーバーにシンジに頭を下げて頼み込む。自分より年上の人に頭を下げられたことと、自分自身の好奇心とも相俟って、シンジはそうすることにした。

人目に付かない木陰で、シンジは目を閉じ意識を集中させ魔法を発動させる。シンジの体がふっと白く輝いたかと思うと、一対の翼が背中でひらめく。

「白色破壊光線か・・・・。空まで飛べるとは便利なもんやな。」

アルが感心したように頷く。シンジは魔法が完成したのかゆっくりと目を開き、羽をはためかせる。するとシンジの体がふわっと地面から離れ上昇していく。アルはそれを見て慌ててシンジの足を両手で掴む。シンジはその拍子に少しバランスを崩したが、やがてタンポポの綿毛を思わせる様に、アルをぶら下げたままゆっくりと空に浮かんでいく。周りは皆、バルコニーに立つ王に注目しているので、シンジ達を気に掛ける者は皆無だった。

「おお、絶景かな絶景かな。」
「落ちないように、しっかり掴まってくださいよ。」

陽気にはしゃぐアルを見かねてシンジが注意する。高さはすでに木より少し高いくらいにまであがっており、落ちたら常人では怪我ではすまされないだろう。

「わかっとるて。それよりこれ以上、上昇せんほうがええな。権力者ってのは上から見下されるのは気にくわん人種やからな。」

商業都市シャングリラにおける最高権力者としての自覚ゼロのセリフをアルは吐く。しかし、このままの状態ではきついので、シンジ達は適当に背の高い木を見つけるとそこに降りる。バルコニーから少し低い程度の位置で、王の姿もよく見える。
リーザスの新王、ランスは心底面倒くさそうに、バルコニーから国民を一望している。しかし、十万人を越える人間の注目を浴びる中、欠伸すらしてみせる余裕はやはり凡人の所有するものではあり得ないだろう。
ランスは周りの側近達と何やら言葉を交わした後、やる気がなさそうに国民に向き直り、その第一声を放つ。

「ああーー、俺様が新しいリーザス王、ランス様だ。」

その言葉が終わるか終わらないかの間に、一斉に国民の声が爆発する。

「ランス王、ばんざーい!」
「リーザスばんざーい!」

熱狂的な国民の声が、新しい王への期待と歓迎をはらんでとぎれることなく発せられる。この声がもともと自信過剰のランスをさらに上長させる。

(うーーん、なんて忠実な国民共だ。そうか、俺は王様なんだな。つまりこいつらの上に立つ者だ。こいつらは俺の家来だ、奴隷だ。)
(よし、ここはこいつらになめられないように、ビシッとしつけといてやらないとな。)

ランスにはスピーチ用の原稿が手渡されていたのだが、この時すでにランスの頭の中からそんな物の存在は消え去っていた。そして、ランスがきっ、と国民の方に向き直って大きく息を吸い込むと、それこそ天まで響きわたるような声を出す。

「いいか、よく聞け愚民共!」

この言葉を聞いた瞬間、シンジとアルは思わず木からずり落ちて落下しそうになった。国民達の歓声は瞬時に静まり返り、呆然として次の言葉を待つ。

「これからは俺様のために働け!」
「俺様のために生きろ!」
「そして、命令があれば死ね!わかったな!?」
「おっと、ただし可愛い女の子だけは特別に扱ってやるぞ。」

すでに国民の中に変わらず期待と尊敬のまなざしを浮かべている者はいない。ある者は憎悪すらを浮かべている。周りにいた侍女らしき者が真っ青な顔をし、慌ててランスの方に駆け寄っていく。ランスはそれを視界の隅に認めると、侍女の体を抱き寄せキスをするともう一度、国民の方に、邪悪、と言うより無邪気な笑い声をたてながら叫ぶ。

「すべて俺様がかわいがってやる!」
「がははははははははははははは・・・・・・・・・・・・!」

ランスの笑い声だけがいつまでもリーザスの青空に木霊した・・・・・・・・。

LP歴3年。年表のこの年の欄には「リーザス王ランス誕生」のすぐ下にこう記されることになる。 「リーザスにて内乱勃発」・・・と。

第八話 終わり


第九話に続く

ver.-1.001997-11/09公開

ご意見・感想・誤字情報などは persona@po2.nsknet.or.jpまでお送り下さい!


あとがき

YOU「またもや、容量が50k近い上に、前作投稿から大分時間が経ってしまいましたね。」
アスカ「その上、内容が薄いんじゃ救いようがないわね。」
YOU「容赦ありませんねぇ・・・。しかし、ついにランス陛下のご登場と・・・。今回はゲーム中のテキストそのままですが、次回から活躍?しますんで。」
アスカ「あたしの身の安全は大丈夫なんでしょうね。大家さんや読者の方が懸念してるように、あたしがランスとかいう奴の餌食になるなんてことは・・・。」
YOU「大丈夫ですよ。アスカ様にはシンジ君がついているじゃありませんか。」
アスカ「ふん、バカシンジなんかあてになんないわよ。」
YOU「そんなセリフ言ってる悪い子は量産型エヴァにさらわれますよ。」
アスカ「・・・嫌なこと思い出さすなぁーーー!業火炎破!!」

ゴウォォォォォ・・・・・

YOU「ぐっ・・・本編未登場の魔法をここで使うとは・・・・・ぶすぶす・・・・・・。」


 YOUさんの『魔導王シンジ』第八話、公開です。
 

 ランスがついに登場だー

 やっぱりこんなヤツでした(^^;
 

 そうですよねー

 期待と喜びで迎えた戴冠式で
 いきなりこんなヤツが現れたら国民、ひきますよね(^^;
 

 このあとは・・内戦ですか・・
 

 もう、ホントに、シンジ〜
 王女様をお守りするんだぞ〜〜
 

 内戦だけで終わりそうもないようですし。。

 もう心配で心配で (;;)

 ついでにケンスケ!
 命を賭してお守りするんだぞ〜

 

 

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