最近の懐古ブームにのった―――とは、とても思えない昔ながらの畳敷き
の床。まるで隣の部屋の囁き声まで聞こえそうな安っぽい壁。慌てて掃除し
た後がはっきりわかるほこりの筋がついた電球。
確かに家賃相応の部屋であった。
そして窓枠をなぞった指を見て顔をしかめていたところに、
「あのねー、おじさん」
ドアもノックせず不躾ともいえる言葉を投げかけてきたのは、先程ベラン
ダで大声を張り上げていた少女であった。
新参者に対する警戒心が表情に表れている。
「おじさんの歓迎会やるから、6時になったら食堂に降りてきてね」
彼女は私にそう言い放つと、すぐに身を翻して廊下に消えた。
このご時世には珍しく、住人あげての歓迎会を行ってくれるというのだ。
私は人付き合いが苦手であるが、昨今の若者のように礼節をわきまえてい
ないわけではない。
断る理由は一つも見つからなかった。
それに食堂という存在が私の興味をひいたのである。
風呂もトイレも、洗濯機まで共同というこのアパート。そして食堂の存在
が遙か昔の思い出を呼び覚ます。
風のように彼女が去っていった後を私は見つめながら、この不思議な懐か
しさを感じさせるアパートを好きになれるかもしれない、と、心の中で思い
始めていた。
そして6時になるまで私は部屋の掃除を続けた後、頃合いを見計らって食
堂へと向かった。
廊下は静まりかえっており、住人は皆食堂にいるであろうコトを推測させ
る。
ギシギシと音を立てる廊下を歩いて、私は食堂にたどり着いた。
流れてくるいい匂いが空腹の胃を刺激する。
ざわざわとした雰囲気が伝わってくる食堂を前にして、私は大きく息を吸
い込むと食堂の「のれん」――そう、ここは「のれん」というものがまだ存
在しているのである――をくぐった。
その瞬間。
幾つもの破裂音が私を歓迎してくれた。
これまた昔懐かしいクラッカーという代物であった。
中には鼻付き眼鏡をかけている女性もいる。憮然とした表情、そしておそらく
染めているであろう金髪とのアンバランスに、私は2、3度目を瞬かせて
しまった。
まるで大昔のTVドラマで見たような風景に、私は一瞬タイムスリップを
してしまったかのような錯覚に陥ってしまう。
どのような反応をすればいいのか戸惑い無言で立ちつくしてしまっている
私を余所に、さっそく場は盛り上がりを見せ始めた。
仕切っているのはタンクトップに裾を切ったジーンズという、思わず目の
やり場に困ってしまう服装をした女性だ。
おそらくゲストのハズである私のことはお構いなしに会の進行を進めて、
気がつくとすでに乾杯の音頭を叫ぼうとしていた。
「グラス、どうぞ」
人なつっこい笑顔をしたショートカットの女性が、茫然としている私にビ
ールが注がれたコップを渡してくれた。
そして用意された席まで案内してくれた彼女に対して、その時はようやく
普通の人に出会えたと安心したのだが、それが単なる誤解であったことに気
づくのはまだ先の話である。
DARUさんの投稿『めぞんエヴァのとある一日』第一章公開ですよ!!
待ちに待った、そう、待ちに待った第1章です。
ああ、嬉しいなーーー!!
「私」がやってきたのはかなりガタがきたボロアパート「めぞんEVA」、
住人もかなり癖のある人々のようですね。
ショートカットの女の人が気になるな・・・・・・。
早く、早く続きをーーー!!
皆さんもDARUさんにメールを出して、パワーを与えてあげて下さい!