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26からのストーリー


第二十五話:無色透明(後編)





正方形の化粧板で出来た小さなテーブルの上には飲みかけのコーラと食べかけのハンバーガー、さっきまでつまんでいたフライドポテト。
いつもの休日と同じように人の溢れ返る歩道が、テーブル越しに見える。
アスファルトの路面を切り取って張り付けたような空が高層ビルの隙間から見え隠れし、それが子供の描いた幼稚な風景画のようにも見えた。
ファーストフード店の二階から望む第三新東京市の中心街は、降る雪をものともせずいつも通りの賑わいを見せ、それが景色の幼稚さに拍車を掛けているようだった。
先週の休日もこんな光景だったろうし、その前の休日も……十年一日のごとき光景が延々と繰り返される。
歩き回る人々はその役をあてがわれたエキストラ、晴れ渡った空と同じ色の瞳を持つ少女にはそう映った。
そして自分もまたその中に紛れ込めば、誰かの目にはエキストラとしてか映らないだろう。

「アスカどうしたの?さっきからボウッとして……ポテト落ちるわよ」

いつの間にかフライドポテトの入っていたカップが白い手の中で斜めになり、今にも中身が滑り落ちそうだ。
かなり危ういところでカップを立て直し、秀麗な顔に苦笑いを浮かべた。

「ねえヒカリ、映画まで後どれくらい時間有る?」

白いセーターに身を包んだ級友が、映画ガイドを開きながら腕に巻かれた小さな時計を眺めた。
今日見る予定の映画が始まるまではまだ四十分ほど間がある。
夕べ急に決めた予定だ、映画を見て街中をぶらついてお昼はレストランに行って親友と休日を楽しむ。
ごくありふれた珍しくもないが楽しい休日の過ごし方、この二人にとってその筈だ。
だが栗色の長い髪を煩わしそうにかき上げる少女は、映画を楽しみにしているようには見えても時折街中を眺め心此処に在らずと言った様子だった。
その深いまでの蒼さを湛えた瞳から放たれる視線は、誰かを捜し出すかのように人の波をかきわける。
ヒカリには彼女が誰と誰を捜しているのか判っていたが、その事には触れなかった。

「映画館混まないといいね。でも人が多いから無理かな……」

当たり障りのない事を言いながら再び映画ガイドに目を落とした。
本来ならここに座っているのは自分ではなく、アスカと共に寝起きしている二人の同級生の筈だ。
何故そうできないのか理由までは判らないが、それを聞きただすのは友人としての領分を越すような気がしていた。

「ヒカリ……ゴメンね、付き合わせちゃって……」
「そんなことないよ、丁度この映画見たかったし。それより終わったら何食べようか?」
「朝はハンバーガーだから……お昼はスパゲッティーにしようか」

アスカはそう言って微笑む。
だがその微笑みは長くは続かず、再びその瞳は誰かを捜そうとするだろう。
この場にいるべき二人は今頃どうしているのか、ふとヒカリはそんなことを考えながら飲みかけのコーラを啜った。








指先まで油まみれになった手が碇シンジの前に差し伸べられた。
その指先が何かを要求するように動き、そして一度では意志が伝わらなかったのを悟ると今度は口を開いて直に要求する。
その声は年上の女性の物だったが、やけに馴れ馴れしい口調だった。

「シンちゃーん、悪いけど8番のメガネレンチ取ってくれる?そう、両端に輪の付いてる奴」

足元の工具箱を漁り、要求された工具を渡すと青い車の下から伸びていた手はスッと引っ込んでいった。
カチャカチャと軽い金属音が聞こえ始め、更にモンキーレンチだの六角レンチだのを要求し、それに応じてシンジが次々と手渡していく。
全ての工具が行き渡ったのか更に要求しては来なかったが、代わりに質問が車の下から転がりだしてきた。

「で、その後どうなのよ?」

たった一言の質問は、だがそれ以上はないほど明確に少年に伝わる。

「どうって……別に変わらないよ……いつも通りだし」
「ふーん、あたしはてっきり惣流さんが友だちのとこ逃げ込んで帰ってこなかったのかと思ったわ」

まるで見てきたようなことを言っているが、実際ミサトにはある程度想像が付いていた。そしてシンジの様子は彼女の言葉を裏付ける。

「土日だからただ遊びに行ってるだけだよ……逃げ出す理由なんてある訳無いじゃないか」

それが詭弁に過ぎないことぐらい口にした本人が良く知っている。
理由もあり、そして何より自分と顔を合わせるのが嫌でヒカリの家に逃げ込んだのだろう。
もしアスカが家にいたら自分がそうしたかも知れないのだ。

「12番のボックスレンチとって、そうそう、その小さい奴……んっと。逃げたつっても何時までも洞木さんの家に居られるわけもないし……この後どうすんだかねぇ」
「どうするって……帰ってくるに決まってるじゃんか。遊びに行ってるだけだよ」

およそ説得力のない台詞だとシンジ自身痛いほど判っているが他に言いようもない。

「ふーん、帰ってこなかったら?」

だからミサトのたった一言で簡単に押しつぶされ、続けるべき言葉を失うのだ。
無口と仲良くなったシンジはその事を誤魔化すように工具箱を意味無く漁り、手にしたドライバーを弄んだ。
暫くその様子を見つめていた少年だったが、再び声が掛かることがなさそうだと見定めると、背後にある機械に興味を示し始めた。
と、言うよりはむしろ無言でいるとその考えがどんどん暗澹としていくのに耐えられないのだろう。

「ねえミサトさん、あれ乗ってみてもいい?」

鉄の塊と言って良い乗り物を指さす。

「何、フォーク乗りたいって?別に良いけど車にぶつけないでよ、鍵は付いてっから」

車の下から聞こえた声に大丈夫だと答え、黄色にとそうされたフォークリフトに乗り込む。
今まで目にする度に一度自分で乗ってみたかった代物だ。
以前青葉二尉に頼んだことがあったが、けんもほろろに追い返されたことがある。

「綾波も乗る?後ろ空いてるから」

NERV地下施設の雑用倉庫の一角で中学生が二人を乗せた電動フォークリフトが静かに滑り出した。
雪のぱらつく薄ら寒い休日に地面の下で、と、碇シンジは思わないでもなかったがこんな地下倉庫に面白い物があるはずもない。
それにたかがフォークリフトとは言え、乗ろうと思ってもその機会は中学生の身にそうそうあるわけでもなかった。
ハンドルを握りあちこち弄りながらも後ろにレイを乗せた電動フォークリフトは音もなく
滑り出す。
初めて動かすのだからまっすぐ走るはずもなく、右に左に曲がりくねながら倉庫内を疾走する。
スピードなど出る代物ではないがゴーカートにでも乗った気分で、積み上げられているコンテナの山を縫って走っていた。
ハンドルを切る度にシートのない場所にちょんと乗っているだけのレイが、その都度振り落とされそうになり、掴んでいるシンジのセーターを伸ばさんばかりの様子でしがみついている。
揺れる蒼い髪から覗く少女の顔に恐怖や不平不満は微塵も見あたらない。
天気のいい休日の朝から薄暗い地下倉庫でフォークリフトを乗り回すのがそれほど楽しいかと問われれば、シンジは首を縦には振らないだろうが彼女はそうでもないらしい。
もっとも能面のごとき表情からそれを推し量るのは、他者にとって困難ではあったが。

やがて満足行くまで乗り回したシンジは、全面に取り付けられた爪を上下させ遊び始めた。
最初は単にレバーを適当に弄って爪を動かしていたが、やがて積まれていた荷物を運んでみたりレイと運転を交代し爪の部分に乗って走ってみたり、挙げ句の果てにはその爪の上に乗ったまま上昇してみたりと、彼らの上司が愛車の車の下に潜り込んでいる間やりたい放題だ。
そのミサトがようやくオイルで真っ黒になった顔を車の下から覗かせたとき、すぐ目の前に偉く頑丈そうなタイヤがすぐ目の前にあり、視線をゆっくり上に向けるとレイとシンジの少し青ざめた真剣な顔に向けた。

「……あんた達、今あたしを轢きそうになったでしょ……すぐそこから降りなさい!!ったく、ちょっと目離すとろくなことしないんだから!」








「リツコ、怪我はどう?まだ傷むかしら?」

道を覆っていたアスファルトはその大半が剥ぎ取られ、本来の地面が顔をの見せていた。
装甲車のような大型ジープがその巨体を揺らしながら傷だらけの路面を蹴り上げていく。

「あまり酷いようなら言いなさい、痛み止めもう一錠あげるから」

ハンドルを握っている女性は助手席に目を向け、サングラスの隙間から少女の呆然とした顔を眺めた。
細かいかすり傷が顔中に点在し、額には包帯が巻かれているその少女は、無言のまま窓の外を眺め質問に答えようとはしなかった。
だが彼女の左手は右肩を押さえたまま離れようとはせず、車が揺れる度に眉をひそめるのだから痛くないわけでもなさそうだ。

「痛み止めはダッシュボードに入ってるから我慢できないようなら飲んで」

女性はそれだけ告げると再び荒れた路面に集中し、少女は変わらず窓の外を眺め続ける。
見慣れている街並みだ。
いつも使う通学路、いつも休日に遊ぶ駅前、寄り道するコンビニに本屋、何も変わることなく少なくとも自分が学校を卒業するまで何も変わらずにあると思った街並み。
だが虚ろな瞳に映るのは積み木を叩き崩したような景色だけだった。
横倒しになったビル、マッチ棒のそれより簡単に潰れた民家、昨日の続きでない今日が無限に広がっている。
地面に横たわったまま動かない人々、力尽き座り込んで助けを求める人々、燃える廃屋と辺りに漂う焼けこげた臭い、悪夢を切り取って張り付けた出来の悪い地獄絵に思えた。

「お母さん……何があったの?……」

それが質問なのか独り言なのか、だがこの車に乗ってから初めて口に出来た言葉だった。
そして答えが返ってこの二人の間に最初の会話が成立した。

「あの無能な連中が失敗したお陰でこの有様……低能共が寄り集まっても所詮何も出来やしないのにわたしを排除しようとするから……これは罰よ、思い上がった役立たずがどういう目に遭うか」

「お母さん」の顔はサングラスに隠され、その表情を伺い知ることは出来ない。
いや、リツコは顔すら見ようとせず、彼女の口にした言葉を理解もせず疑問にも思わず、人形のように瓦礫の街を見つめ続けた。
いつも目にしている街なのに、いつも歩いている街なのに一体ここは何処なのかそれすら判らないほど破壊された街。

「東京の半分は沈んだのよ、あと半分は時間の問題ね。この国はまた一からやり直しよ」
「……この後、どうするの……」
「私たちはこのまま横須賀に向かうわ。そこから取り敢えず米軍基地で保護して貰って……」

言葉は途中で途切れた。
誰か集めたのか、それとも偶然にここに集まったのか、夥しい数の死体が広場らしい場所にスクラップ置き場を彷彿とさせるほど積み上げられていた。
流石に表情の変わる車内の二人に、この場所以前は何だったのか……それを伝えるかのように一枚の板が道端に落ちていた。
焼けこげ一部は破損し車内からは良く読みとれなかったが確かに「中学校」の文字が読みとれる。

リツコという名で呼ばれた少女の悲鳴が響きわたった。
泣き声なのか、それとも……少女はサイドウインドウに何度も頭を叩き付け、彼女にしか判らない恐怖をうち消そうと必死だった。
何度制止したか判らない、打ち付ける衝撃で彼女の意識が朦朧とするまで止められなかった。

赤く染めたガラス越しの景色を呆然と見つめ、リツコの唇は何かを呟いていた。

「……香奈……香奈……助けてよ……」








灰色で飾り気のない事務机の上に置かれた腕時計がささやかなアラーム音を響かせると、壁際の長椅子で何かが蠢いた。
水色の毛布にくるまったこの部屋の主が不機嫌そうに顔を覗かせる。
髪は乱れ、化粧も色褪せているがそれでも美人と称される見栄えを保っていた。
彼女は数回目を擦り体を起きあがらせると、壁に掛かっていた白衣を羽織る。
額には微かに汗が浮かんでおり、頼みのしないのに再生した過去の記憶が快くなかった事を思い出させた。
寝起きに加え更に不機嫌そうに眉を歪め、いつの間にか乾いたのどを潤すため部屋を後にした。
この廊下を進めば自販機のある休憩所に着く。
そこにはソファが二、三有るだけで他の娯楽設備など無いのだが、何故か今日は軽快な音楽が響いていた。
ロックなのかポップスなのか不明だが、ギターの音なのはすぐに判った。
不思議そうにNERV技術主任、赤木リツコ博士が休憩所を覗き込むとカーキ色の制服を纏った職員が数名屯している。
彼女が寝ている間に休憩時間が来たのだろう、見知った顔の輪の中心でやはり見知った男がギターを奏でていた。
無糖の缶コーヒーを買いながら彼の様子を眺めていると、最近の流行歌か何処かで聞き覚えのある旋律が暫く流れ、それが止むと周囲からの拍手が沸き起こった。

「ずいぶん上手だと思ったら青葉君だったの」
「あ、ちわっす。最近ライブ行けないモンでたまには弾かないと腕がにぶっちまうんすよ」
「そう言えばバンドやってるとか言ってたわね……まだ何か弾ける?出来れば明るい曲が良いわ」
リクエストというわけでもないが寝起きに相応しい曲が聞きたい。
この場で缶ジュース片手に休み時間のひとときを楽しんでるメンバーは青葉二尉を始め、日向、伊吹二尉の三人が顔を揃えていた。
階級こそ同じだがこの中では日向二尉が一応三人の先輩格にあたり、伊吹二尉が一番年下になる。

「先輩は今まで仮眠ですか?いっそ家に帰った方が疲れ取れるんじゃないですか?」

マヤにとってリツコは大学時代の先輩に当たるらしく、その当時の呼び方が未だに続いている。
その心配りに相づちはうつものの、実際に帰れるかと言うとそうでもなく帰ったところで四、五時間程度の休みではどうしようもないのだ。

やがて青葉のギターからロック調の軽い音楽が流れ出す。
かなり前に流行ったロックグループの曲だが、彼は殆ど完璧に弾き終え再び拍手を受けた。

「ホント、青葉さんて上手ですよね。昔からやってたんですか?」
「いやぁ、誰でも取り柄ってあるもんだな。ここクビになっても流しで食って行けるぞ」

両極端な賞賛の声に苦笑いを浮かべながらギターを撫で回す。
どことなく自慢げな表情なのは別にリツコの見間違いでもないようだ。
彼女は隣りに腰を下ろすと使い込んであるギターを借り、抱えて見せた。

「なかなか様になってますよ、結構似合うじゃないっすか」

適当なお世辞混じりに誉めてはみたが、リツコが指で弦を弾いた途端青葉の口が半開きのまま閉じなくなった。
彼女の指もとからは単に音が鳴った、ではなくちゃんとした音楽が流れ出したのだ。
それも辿々しい弾き方ではなく、自分に匹敵するほどの腕前で古いロックを披露していた。
他の二人も青葉と同じ表情で驚きを隠そうともしなかった。
特に伊吹二尉などは時たま一緒にカラオケに行くが「先輩」に音楽的才能は欠片ほども無いだろうと思っていたのだ。
有り体に言えばミサトと並んで音痴と言って良かった。
それが今見事までにロックを一曲弾き終えたのだから驚くのも無理はないだろう。

「……凄いですね……何時ギターなんか覚えたんですか?」

その問いはこの場にいる三人全員が共有していた。
やはり伊吹と同じ疑問と驚きをいだいたのだろう、だがリツコはそんな様子を気にすることなく他の曲のさびを弾いて見せ、ギターを元の持ち主に返した。

「昔ね、大学時代バンドやっていたのよ。メタルバンドだったけどその時ギターの弾き方覚えて……結構忘れないものね」

意外そうな顔を禁じ得ない周囲に懐かしそうに語る。

「でも……あたし先輩がバンドやってたなんて全然知りませんでした……」
「言わなかったもの。ヘビメタバンドだったから凄く派手で知り合いには言えなかったのよ。知ってるのはミサトぐらいじゃないかしら?あの子は裏方やっていたから……」

流石のリツコもあの当時のことを思い出すと思わず苦笑してしまう。
良くも悪くも派手に過ごした時期だった。
光り輝く青春などという生ぬるいものじゃなく、消し忘れた原色ネオンのように四六時中点滅しているような日々だ。
高校時代の三年間は一年と半年を海外で、残りを国内で過ごしたがそのどちらでも友人と名の付く者を持とうとはしなかったし、周りもそれになろうとはしなかった。
その反動からか、あるいは内向的になりがちな性格を変えようと思い立ったのか、大学入学と同時にやたら派手なだけのロックバンドに自ら身を置いたのだ。
ヴォーカルとしての才能は無いに等しかったがそれでも女性と言うことでメインヴォーカルに任ぜられ、更にギターを弾く能力は有していたようで、て仲間からも大切に扱われていた。
髪を金色に染めステージ衣装を着込み、歌とも絶叫とも言えないモノを文化祭やライブハウスのステージで披露した日々。

「どんなライブだったんですか?それにどんな衣装着ていたのか興味有りますね」

日向二尉の質問もごく当然だった。
リツコの語った昔話には何故か衣装の話題だけが抜け落ちていたのだ。
興味津々と言った部下と後輩の視線にたじろぎながらも、幾分小さな声で何処か恥ずかしげに呟いた。

「どんなって……革のレオタードに……ロングブーツ履いて鎖ぶら下げて……メイクして……」
「うわぁ……なんて言うか……一度見たかったです」

実に残念そうにマヤはしげしげと先輩を見つめる。
その当時の写真はバンドメンバーだけが持っており、リツコ自身も持っているかも知れないが恐らく絶対に見せないだろう事は想像に難くない。
あの頃のまま未だに染めていた金髪をかき上げ、無糖の缶コーヒーを飲み干し自販機の上に放り上げると、当時を窺わせるエピソードを一つだけ語った。

「今思い出したけど文化祭の時、ステージ衣装着てメイクしたあたし見て泣きながら逃げて行った子供がいたの……姉弟だったかしらね、二人して走って逃げたのよ」










繁華街の人通りは多く、特にカラータイルの敷き詰められた若者向けの店が建ち並ぶ通りは、十代の若者で埋め尽くされ色彩豊かな地面を覆い尽くしている。
その一部を惣流アスカ・ラングレーと洞木ヒカリ二人のスニーカーが占めていた。
これまで洋服屋を四軒周り靴屋を二軒周りアクセサリーショップを五軒周り、その他雑貨屋だの本屋だの洋服屋だのが入ったテナントビルを三つ見て回っている。
その間に買った物と言えば靴下一足なのだから、あまり良い客でもなかったろう。

それでも多少なりとも当初の目的は達したのか、アスカの表情は普段に近い明るさを取り戻していた。
それは表面的な物で、単に抱えていた問題を一時的に忘れることが出来たに過ぎないだけなのかも知れないが。

「さっきのワンピースアスカによく似合ってたよ、買えば良かったのに」
「うん、でももっと見て廻りたいし……ね、あそこで一休みしない?」

アスカの指先は街路樹の下に設置されているベンチに向けられた。
二人は青色のベンチに腰を下ろした。
流石に立ちっぱなしで足が少々疲れ始めている。
もしシンジが一緒にいればアスカが休むという遙か前に、彼が文句タラタラ更にそれを口にしただろう事は容易に想像が付く。
認めたくない喪失感を感じながらベンチの側にある自販機にコインを入れ朝食、靴下、そして三品目の買い物になる缶ジュースを購入した。
喉を酸味の効いたグレープフルーツ味の液体が潤していく。
冬場で汗は掻かないとはいえ、これだけ歩き回ると体の水分は奪われるらしい。

散々歩き回り暖まった体に積もりきれない雪が一瞬だけ留まって、そして消えていく。
未だ葉の付かない銀杏の枝が薄ら寒そうに揺れ、二人に落ちた黒い格子模様を踊らせた。
そのダンスに誘われるように栗色の髪の少女は口を開く。

「ねえヒカリ、鈴原と上手くいってる?ケンカとかしてない?」
「ちょ、ちょっと、いきなり変なこと聞かないでよ……別に上手くいってるとかいってないとかじゃないし……ヤダ、ホントに何でもないんだから。そりゃ嫌いとかじゃないけど……たまに街で会うぐらいだし」

頬を染め否定しきれない様子の友人を微笑ましく眺めた。
ケンカなどしていないことは良く知っていたし、時たま一緒に映画を見に行ったりしていることも知っているのでわざわざ確認するまでもない。

「そうよね、二人ともケンカする理由なんか無いモンね」

ヒカリはこの愚にも付かない問答の中に、友人の望んでいることが微かに見えた。
それは彼女が今までなるべく口にしないよう心がけていたことだけに、今ここで聞くのは躊躇われたが、アスカは聞かれることを望んでいるように思えた。
それを卑怯だとは思わないし弱いと非難するつもりもない。

「ねぇアスカ……碇君と何かあったの?別に立ち入るつもりはないんだけど二人の様子変だし……それに綾波さんもどっかようすが変だったし」

名をあげた三人とも血縁関係になく、それでも同じ屋根の下で過ごし、それだけに余人には伺い知ることの出来ない事情もあるだろう。
ヒカリが今までその事に口を挟まなかったのも無理はない。

「別に何もないわよ、いつも通りだモン。ケンカする理由なんて無いし」
「そんなこと無いわ。だって一言も喋らないし……だって変じゃない。アスカだってどっかおかしいわよ……」

どこがと具体的に言えないもどかしさを感じながらも、三人の変化は感じていた。

「……ケンカなんかしてないモン……」

言い訳などと言う高尚な物ではなく幼い子が大人に悪戯を見つけられた時のような弱々しさがアスカの全身を包んでいる。

「なら何であの二人を避けてるの?今日だっていつもなら必ず碇君や綾波さん呼び出すでしょ?何でそうしないの?」
「……だって家に居るかどうか判んないじゃない……別に避けてないモン」

言い訳であればアスカは幾らでも筋道の通った、誰もが納得せざる終えない理に適ったことを言える。
その彼女が子供より幼稚な抵抗を見せたこと自体、ヒカリには普段と違う何かを感じさせた。

「ねえ、無理に話せなんて言わないけど……あたしにだって愚痴ぐらい聞けるつもりよ……」

言えば少しは楽になるのだろうか。
冷たすぎる風に頬を撫でられながら絵の具を流し込んだような蒼い空を見上げた。
全て話せば少しは気が晴れるだろうか……全て話せるだろうか?
シンジがあのロボットに乗っていること、レイがあのロボットに乗っていること、そしてあの化け物と戦っていたこと……
シンジに口止めされているわけじゃない、だが喋って良いことではないことぐらいよく解っている。
誰かに言えばシンジやレイに迷惑が掛かることぐらい幾らでも想像が付く。
関わりのない者には別世界の出来事だ、自分だってろくに理解できていないモノをヒカリに説明することだって難しい。

……だからあいつ何も言わなかったの?……

ほんの一瞬だけシンジの影を踏んだような気がした。
それを認めるのは彼女にとって途轍もなく難しいことだったが。

「……また後にしよ、その話は……それよりさっきのブラウスやっぱり買うことにしたわ。もう一度お店に戻る」

ヒカリの気遣いに応えることも出来ないまま、あるいはその気遣いを重荷のように感じながらベンチから立ち上がった。
雑踏に逃げ込みたい、そして忘れてしまいたい。

「ね、ヒカリ、早くいこう」

懇願に近い誘いに友人は快く応じてくれた。
自分は我が儘だと思う、聞いて欲しかった癖に聞かれると口を閉じ逃げようとする自分は我が儘だと思う。
それを承知で付き合ってくれるヒカリに甘えている自分からも逃げ出したい、そう思いつつ精一杯の意地で笑みを浮かべていた。








地下から地上に場所を移してもあまり気分が晴れないのは、今日の天気が雪だからか。
恐らくは夕べから降り続けていたろうに、それでも積もらないのはこの第三新東京市の人口がそれを許さなかったからだろう。
絶え間なく歩み続ける人々の群に視線を向け見知った顔を探すが、百にも千にもなろう言う人の数、探し出せるはずもなかった。
仮に探し出したところでどうするのか、勿論そんなことは何も考えてはいない。
特に落胆した様子もなく碇シンジは、天を仰ぎ舞い落ちる雪を一粒一粒数えるように眺める。
そして手にしていたマフラーを紺色のジャンバーの上から首に巻き付け、半歩ほど後ろに立っている少女に声を掛けた。

「寒いね、雪降ってるし……取り敢えず喫茶店行かない?」

白いロングコートを身に纏った少女は、小さく頷くと淡いピンク色の手袋をはめた。
ともすれば舞い落ちる白い粒に紛れてしまいそうなほど淡い存在感の少女、だがシンジが振り向けば必ずそこにいる。
何も言わず、何一つ表情を変えることなく、初めての道を親の後に付いて歩く幼子ように付き従っている。
シンジが喫茶店に行こうと言えばそれに逆らうようなことはなかった。

第三新東京市に一体いくつ喫茶店があるのか見当も付かない中で、シンジはかつてリツコと雑談した際に聞いた店を探す為に約十分ほど街中を歩き回った。
そして駅前のメインストリートから離れた路地でようやくそれらしい店を見つけだし、分厚い木の板で作られた扉を押し開く。
未だ降り止まぬ雪の中を歩いてきた二人の体を暖炉型ヒーターが出迎えた。
全体的に大人びた雰囲気の漂う店内には数人の客がおり、入ってきた十代前半のカップルに一瞬だけ目を向ける。

「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」

気を使ってくれたのかウェイトレスは、小綺麗な路地がよく見える窓際の小さなテーブルに案内してくれた。
焦げ茶色の木の椅子に腰を下ろそうとシンジが屈み込んだとき、白い手が彼の肩に掛かった。

「……雪、付いてるわ……」

シンジの肩にいつの間にか積もっていた雪を払うと、レイは着ていた白いコートを脱ぎ椅子に掛ける。
普段は主に小遣いの理由から滅多に喫茶店など寄らない二人だが、こんな雪の日は注文したホットココアがたいそう魅力的に見えるのかも知れない。
古いが座り心地の良い椅子に身を沈め、大人しく注文した品が出されるのを待つ。

窓の外ではいよいよ雪が本降りになったのか、眺めている間にも辺りにうっすらと積もり始めていた。
「……あたし、雪見るの初めて……」
「え?あ……そうなんだ、此処は毎年この時期から降り始めるんだよ。結構積もるし……」

シンジは外を眺めながら何とか会話を続けようと話題を探すが、然したる物は見つからなかった。
彼はもともと話の得意な方じゃないし、レイに至ってはシンジやアスカが居なければ一日中口を開かない。
いつもならアスカが話題を提供してくれるので、こういう場所でも沈黙とは無縁で居られるのだが今日はその彼女が居ない。
……明日なら居るのか、来週なら居るのか、その疑問は二人同時に思い浮かんだ。
そして同時に言いようのない寂しさが、葉の落ちた街路樹のように胸の中に林立していく。

「……アスカのこと、どうするの?……このままじゃ……」
「判ってるよ……でも説明はしたんだ。これ以上何も説明することなんか無いし……」

自分達がエヴァに乗って使徒と戦っている、その事をアスカに黙っていた……ただそれだけのことだ。
簡単に告げられることではなかったし、告げてどうなる物でもない。
現に告げても納得などしなかったではないか。
再び現れたウェイトレスが湯気の立ち上るカップをテーブルに置くと、甘い香りが二人の鼻をくすぐる。
何か言おうとしたが第三者の出現に貝のように口を閉じたレイは、ウェイトレスが下がるとココアに口を付けた。

「……綾波はどうするつもりなんだよ?多分何言ってもアスカは聞き入れないよ……」

小さな音がレイの手元から聞こえた。
そして赤い瞳はカップの中身を注視したまま、凍てついたように動こうとはしない。

……どうする?あたしはどうすればいい?……

途方に暮れたように自問自答を頭の中で繰り返す。
かつては誰かが命令を下し、それに従うだけで良かった。
自ら何かを望んだことのない生き方の中で、自分で何かを決定する必要もなく、自分の考えを問われることもなかった。
葛城三佐も赤木博士も碇司令もレイに意見を求めるようなことはしなかったのだ。

「……よく解らないけど……このままじゃ……」

このままじゃ駄目だと思うから変えたい、変えるためには自分で何かをしなきゃいけない。
だけど何をすればいいのか、何を言えば望んだ事が叶うのか……何をどうすればまた三人で一緒にいられるのだろう。
どれだけ頭の中を漁ってみても答えになりそうな物は見つからなかった。

思い詰めた深紅の瞳がテーブルの上から窓の外に向けられる。
本格的に降り始めた雪は彼女が自分の中に沈み込んでいる間に街路樹に、窓の枠に、街灯に積もり始めていた。
路地を抜ける人も幾分早歩きになり、どこかに向かって消えていく。
もしかしたら、そんな淡い期待を込め行き交う人の顔を追い続けるがその中に青い瞳の少女は居ない。

「……碇君、あたしはこのままじゃない方がいい……でもどうすればいいのか判らないの」

意を決したように顔を上げ、自分の意志を伝えた。
さして長い時間ではないが今までで一番密度の濃い時間だった数ヶ月、その時間をかき集め作り上げた自分の意志だ。
二人に出会ってから降り続ける雪のように積もった想いで作った、形を持たない透明な雪像だった。

「……元のようになりたいの……」

どれだけの思いが込められているかはシンジには想像も付かないだろう。
誰かに頼ることも助けを求めることも自分の気持ちを訴えることも初めての彼女にとって、望むことを全て伝えるには言葉の器がまだ小さすぎた。

互いの間に流れる無言の時間を店内のBGMが埋めてくれる。
二曲目の古いロックが流れ始めた頃、頼られた少年はココアの最後の一口を飲み込むとゆっくりと口を開いた。

「うん、帰ったら三人でもう一度話そう……僕も多分綾波と同じだから」

別にエヴァに乗っている事を告げなかった自分達が悪いのだとは思わない、納得してくれないアスカが悪いとも思わない、多分三人とも少しすれ違ってしまっただけだ。
今ならまだそれを修正できる、明日では間に合わないかも知れないが今日なら、夜では手遅れかも知れないが夕方なら……

まだ間に合う、シンジは空気を振動させない言葉で自分に言い聞かせ、窓の外に目を向けた。
白い化粧を始めた路地に見覚えのあるスカイブルーと聞き覚えのあるダミーノイズが現れたのはその時だった。










「アスカ、止めなさいよ。あたし本気で怒るわよ」

友人の制止は紛れもなく自分の身を案じての事だろう、それだけに無視するわけにも行かず蒼い瞳は困惑に彩られていた。
耳には叩き付けるようなサイレンが鳴り響き、避難するよう急かしている。

「早くして。そろそろシャッターが閉まっちゃうわ」

ヒカリの手が痛いほどの力で手首を掴んでおり、簡単に離してくれそうにない。
勿論彼女の方が正しい、避難命令は出ており法的にも常識的にも自分達は避難所へ速やかに駆け込まなければならない身だ。
少なくとも街中に居続ける必要も意味ヒカリにはない。
普段の数倍は重い足取りでなかなか進もうとはしないアスカを力ずくで引きずり避難所入り口へ向かった。

これから映画を見ようと思った矢先の避難命令だ、馴れているとはいえ余りにも唐突だった。
過去何回避難させられたか数える気にもならないのは、ついさっきまで溢れ返っていた他の第三新東京市市民も同じだろう。
避難所内でまず最初に耳にするのが街の被害や現在の状況などではなく、毎度繰り返される避難命令への苦情だった。
過去に人的被害はなく都市部にもこれと言った被害が出ていない事がそうさせるのだが、ヒカリには今回もそうなのか疑わしく思える。
現に前回の一戦で中心街の一部が立入禁止になっているのだ、今回だってどうなるか判らない。
もしかしたらもっと非道いことになるかも知れない、そんな危険な場所に留まろうとするアスカに不審の念を抱かざるを得なかったし、それを言葉にするのにさしたる葛藤はない。

「アスカ、面白半分で外に居るつもり!?」
「違うわ!!……絶対そうじゃないけど……そうじゃないけど……」

説明できるはずもない、口を真一文字に堅く閉じ俯いて視線を逸らすことがアスカに出来る唯一の抵抗だった。
避難命令が出てどれくらい時が立ったのだろうか、激しく鳴り響いていたサイレンが止み、繰り返された放送もいつの間にか消え去り、時が止まったように静まり返った街中で立ちすくむ二人の少女。
その二人の肩にうっすらと雪が積もり始めた頃、不意に誰かの声がした。
最初に思い浮かんだのは警備に当たっている警官の姿だったが、それにしては声が若いようにも思える。
もしそうなら自分達は避難所に強制退去させられるか、パトカーに乗せられ市外の留置場に放り込まれるか。
だが恐る恐る振り返って目にしたのは制服を着た大人ではなく、私服を着た自分と同じ歳の少年だった。

「惣流に委員長か、何してるだよこんな所で。早く避難した方がいいんじゃないか?」
「……相田君?こんな所で何してるの?」

ケンスケとヒカリの間で情報交換が成立したのは、更に多くの言葉を重ねた後だ。

「危ないから見に行かない方がいいぞ、破片が飛んでくるし……」

ビデオカメラ片手ではおよそ説得力がないのだが、正論には違いないのでアスカは何も言い返さなかった。
梃子でも開きそうにないほど堅く口を結び、それだけに外に留まる意志は固い。

「ねえ相田、あんたそれで撮影しに行くんでしょ?あたしも一緒に行くから連れてって」
「一緒にって……勘弁してよ、大体見つかったら後でどうなるか判ってるんだろう?」

ケンスケは助けを求めるようにヒカリに辟易とした顔を向ける。
自分が何を言っても聞きはしないだろうが、彼女が言えばあるいは此処から引き上げてくれるかも知れない。
そのことを読みとってかそうでないのか、お下げ髪の少女は友人に向き直ると静かに問いかけた。

「……アスカ、理由は聞かないけど……アスカは見なきゃいけないのね?見たいんじゃなくて……」

三人の中学生を包むように雪は降り続ける。
灰色のビル、黒ずんだアスファルトを純白に染めていく。
上空のヘリが彼らを急かすように編隊を組んで乱舞する。

「ヒカリ、ゴメンね……あたしは見ておかなきゃいけないの……何も言えないけど、でもちゃんと見ておかなきゃいけないの」
「そう……判ったわ、じゃああたしも一緒に行く!相田くん、見える場所に案内して!!」

事の推移が全く見えないケンスケは困惑するばかりだ。
彼は自分一人だけでこれから起こることを見に行くつもりだったのに、何でこの二人が付いてくるのか理解できない。
どう考えても足手まとい以外の何ものでもなだろう、ケンスケにいい顔が出来るはずもなかった。
だが暫しのやりとりでどうしても付いていくと言い張り、挙げ句の果てには自分達だけでいくと言い出すハメになり、ついにケンスケも折れた。
時間も惜しいしこれ以上の抵抗は無駄だと感じたからだ。

「多分場所は町外れだよ。此処から10分ぐらい行ったところにビルがあってそこの屋上から見られると思うけど……」
「そう、なら早く行きましょ。ぐずぐずしていたら見つかっちゃうもの」

相田ケンスケを先頭に三人はケンスケの言うビルを目指し走り出した。
避難命令が出ている以上警備に出ている警官や自衛隊員に注意しながらの進撃なので、思いの外時間が掛かる。
自然災害の避難とは違って、外に出ていると逮捕されることもあるのだ。
今までの警察発表では逮捕者の総計は12名とのことで、その大半がマスコミ関係者らしい。
一般市民の場合、その場で咎められればすぐさま避難所に戻るので逮捕までは至っていないようだ。

もし自分達が見つかったらどうなるのだろうか、ふとアスカはそんなことを頭によぎらせていた。
やはり警察に連れて行かれるのだろうか、そして家に連絡されるのだろうか。
そんな危険を冒してまで、ヒカリを巻き込んでまで見なければいけないことなのか。
普段のアスカならそんなことはせず避難所で大人しくしていただろう、行くにしてもこっそり自分だけ抜け出してヒカリを巻き込むことは避けただろう。
状況判断が出来ていない、アスカ自身にその自覚はあるが行動を止めることができなかった。
これから起こることにシンジとレイが深く関わっている、それを知っている今の彼女に避難所で大人しくしていられるはずもない。

……見なきゃいけない……

何も知らされなかった、あの家の中で自分だけが知らされなかった……その思いは彼女の根底にしっかりと巣くっている。
迎撃戦の現場を見たところでどうなる物でもない、だが自分の目で事実を見たかった。
何も知らないままではいたくなかった。

……あたし除け者になりたくない!……
この眼で見れば納得できる、誰も恨まずに済む、足を一歩進める度にその思いが強まっていく。

「おい惣流、あそこでヘリがホバリングしてるの見えるだろう?きっとあの辺りでやるんだよ。これ以上近づくと警備が厳しいからあのビルの屋上に上がるんだ」

ケンスケの指先に第三新東京市初期に建てられたビルがそびえていた。
あそこに立てば見える。
今まで見えなかったモノが見える、初めてシンジに逢った時より伸びた身長、昨日より僅かでも伸びた身長が今まで見えなかったモノを見せてくれるはずだ。








第三新東京市の一角を巨大な二体の影が覆い隠した。
それに付き従う爆装した戦闘ヘリの影が通り過ぎ、その後を数台の兵員輸送車と一台のジープが走り去っていく。
林立するビルの幾つかが駆動音を響かせ砲門を南西に向ける、蠢く無人都市の様子は全て設置されている監視カメラによって地下に運び込まれていた。

「さっすが陸自ね、展開の早いこと……あの子達は予定通りの配置に付いた?」
「はい、陸自、エヴァ両機とも配置完了、指示があり次第行動に移れます」
「OKOK、ンじゃそろそろ始めるか……シンジ君、レイ、装備確認したら通信頂戴。フォーメーションは変更無し、ヨロシク」

エントリープラグ内の通信モニターに映った指揮官の顔を横目に、エヴァンゲリオン初号機パイロットはL.C.Lを目一杯吸い込んで心を落ち着かせた。
出撃命令が出されてからというもの、シンジは逸る気持ちを抑えるのに苦労していた。
気を緩めれば今すぐ目標に向かって走り出してしまいそうなほどの昂揚した意気込みをまだ若すぎる彼が押さえきるのは難しい。
リアクションレバーを手の平で弄びながら、幾度も深呼吸を繰り返し心を落ち着かせる。

冷静に、いつもより冷静に。
呪文を唱えるように頭の中で繰り返す。
冷静に戦闘をこなす、前回より効率的に動いて前回より多くの弾丸を当てる、シミュレーション通りの作戦展開を実現する……誰に言われたわけでもなく、自分で決めた目標だった。
無我夢中でエヴァを操っていただけでは何も見えてこない、知らなくてはいけないことも解らないまま過ぎてしまう。
自分で何をやるか冷静になって確認しながら使徒と戦う、そうしなければアスカに何も説明できない……

「綾波、装備確認は大丈夫だよね……こっちは終了したからミサトさんに連絡入れるよ」

初号機の手にプログナイフが鈍く光る。
モニターの中で蒼い髪が縦に揺れるのを確認し、通信を切り替えた。

『エヴァ初号機、零号機共に装備確認終了、行動に移れます』

抑揚を無理矢理押さえ冷静を装った声が伝わると、作戦本部長の指示が出されると全てがそれに従う。
四機編隊を組んだヘリは先行し、巨大な塊に向けミサイルが放たれる。
全て使徒の展開したATフィールドに阻まれるが、それでも怯むことなく陸上自衛隊のヘリは旋回させつつ攻撃を続行した。
ダメージは与えられず進攻も防げないが、データ収集としては十分に役立つ攻撃だ。
巨大な使徒の体が赤く染め上げられて行く光景を地下のメインモニターが映し出し、それを確認しながら指揮官は指示を出していく。
今のところ使徒がどんな攻撃をしてくるか不明なのでいきなり接近戦は指示できない、零号機、初号機によるATフィールド中和をするのが先決だった。
使徒との間に必要な距離を取らせると戦闘ヘリに援護させそれらを実行させる。
発令所メインモニターに変化し続ける数値が、使徒の異様な形状に重なって出力された。

「しかし毎度毎度節操のない形ね……なんつうか……お椀を縦にしたような……」

ミサトが呆れたような感想を思わず口にしたが、聞いてる余裕のある者は発令所にいなかった。
光沢を持つ黒色の外殻がモニター全面に映し出される。
彼女が言うようにお椀を縦にした半球体の使徒は、先程からの攻撃にも髪の毛ほどの傷すら負っていない。

「毎度のことだけどね……マヤちゃん、ATフィールドは?」
「はい、現在84%まで進行しました。そろそろ通常兵器でも効果を上げられると思いますが」
「OKOK、シンジ君聞こえる?前進して敵との間合いを詰めて、まだ何してくるか判らないから十分慎重にね。日向君はヘリを初号機の両脇に展開させて援護するように伝えて頂戴。レイはATフィールド干渉を続行させながらポジトロンライフルで攻撃」

一瞬の不安がミサトの脳裏をよぎる。
もしかしたらシンジが猪突して作戦遂行どころじゃなくなる、そう危惧していたのだが今回はそんなこともなく、シミュレーション通り兵装の影に身を隠しながら慎重に接近していく。
そしてヘリと初号機はほぼ同時に半球体の断面部分に攻撃を開始した。
先程とは違い相手の進行を阻止し破壊を目的とした攻撃だ、兵装ビルからの砲撃も相まってその勢いは小型台風のようだ。
爆発音と爆風が第三新東京市の外れを襲うが、避難命令と同時にせりあがった防護柵がそれを防ぐ。
秒針が進むごとに攻撃は激しさを増し、それまで無人の野を行くように進んできた使徒の前進を止めた。
ほぼ中和されたATフィールドを火薬と金属と電子の牙が突き破り、本体にダメージを与え始めたのだ。

「さぁ、本性出してくるわよ……シンジ君、これからが本番だから気ぃ抜くんじゃないわよ」

真正面に立った初号機はパレットガンを構え直し、シンジもレイも使徒を注視する。
銃身に雪が舞い落ちると短い一生を終え湯気となって立ち上った。
立ちこめる黒煙がゆっくりと風に散らされるまでの静かな時間、それだけに緊張が地上と地下に圧縮される。
誰もが息を飲んで地上の二体の巨人と巨大な人類の敵を見つめていた。

いくつもの視線を浴びる中、半球の断面が歪な盛り上がりを見せるとそこから白い触手が無数に伸び始めた。
さながら闇から這い出したヘビを思わせる光景だ。

「距離……もう少し取った方がいい、綾波ももっと下がって」

当てになるかどうか判らないが二体のエヴァは触手の届かないと思われる距離まで後退する。
この時点で攻撃を仕掛けようと言う判断はシンジは元よりミサトにもできなかった。
不用意に攻撃して手痛い反撃を喰らうのは今までにも何度も有ったことだ。
エヴァのそれと同調されているシンジの視覚に映り混む十字架から、使徒の体を外さずに一歩一歩距離をあける。

うねる無数の触手の中心に赤く光るコア、縦にしたお椀のような甲良……その形を一つ一つ確認するようにシンジは見つめた。

……使徒って一体なんだろう、なんで此処に来るんだろう……

生物とも機械とも言えない巨大な物体、誰もが人類の敵と言うよく解らない物体。
どこからくるのか、どうして存在するのかも判らない謎の物体。
本当に敵なのか、それすらもシンジには判らない。
ただ戦うように言われ、エヴァを与えられ、自分の意志など介在せぬままに……だが今は自分で望んでこの場にいる。
林立するビルの谷間で暮らす、なんの変哲もない暮らしに割り込んできたEVA。
多分あの日以来自分が知らなければいけないことが増えたのだろう、今まで気付かぬ振りをして見過ごしてきた事を知らねばならなくなった。

改めて目前の使徒を見つめ、自分がこれから成せばならない事を考え始めた。








巨大なロボットが大きく跳躍し、巨大な刀を振り回すと激しい火花が周囲に撒き散らされる。
それに抵抗するように白い触手が鞭のように躍りかかるが、長剣を振るい凪ぎ払われもう一体のロボットが放つ射撃に漆黒の体を灰色の空の下で照らし出していた。
その光景は離れた場所に立つビルの屋上からよく見えた。

「……ねえアスカ、こんなのと一体何の関係があるの?」

ヒカリの目に映る光景は余りにも非現実的で、にわかには信じられないものだった。
巨大なロボットに巨大な化け物、どう受け止めればいいのか判らない光景だった。

「オイ二人とも、頭は低くしておけよ。破片がこの辺まで飛んで来るんだからな」

ビデオを回し続けるケンスケに言われ、慌てて屋上の排気ダクトの影に身を隠し覗くように日常からかけ離れた光景を見つめる。
普段なら目にすることのない戦闘ヘリが空を飛び交う。
そして普段アスカが目にすることのないシンジがあの場にいるはずだ、見えるはずもないが同居人の二人を捜すように目を凝らす。

……あんた達のやってる事って一体何なの?……

言葉にならない疑問に応えてくれる者はいない、だがこの信じられないような光景に間違いなくシンジもレイも関わっているのだ。
腹の底に響く爆発音が三人の中学生に叩き付けられた。
ヘリから発射された対地ミサイルが一斉に命中したらしく、爆風がビル全体を揺らし流石に頭を抱え地面に伏せる三人の上を駆け抜けていく。

……何でこんなに危ないことしなきゃいけないのよ……

爆風に間近で晒されているはずの二人、彼らをどう捉えればいいのだろう。
一緒に暮らしてきたのに何も教えてくれなかった二人に腹が立った、だが今その彼らは最も危険な場所にいて知らなかった自分は安全な場所でこうしてその様子を見ている。
一緒に暮らしてきたはずなのに自分だけが安全な場所にいる。

絶え間なく輝く閃光に秀麗な、だが曇った顔がうっすらと浮かび上がった。
肩に積もる雪を払おうともせず彼らが隠し続けてきたことを見つめ続ける。
答えなどでない光景、問いだけが残される光景。

何も言わなかったシンジとレイ、その事に腹を立てた自分、一体どっちが正しいのだろうか。
一体どっちが間違っているのだろうか。

「ヒカリ、あたしもう一度ちゃんと二人と話しようと思うの……聞かなきゃいけないことがあると思うから」

閃光に浮かんだ友人の顔を見つめ、轟音に掻き消されながらも何とか届いた声。
何故アスカがこれほどまでに拘ったのか、ヒカリには何となく判った。
彼女がちゃんと話をすべき二人が今、あの非現実的な光景の中にいるのだと……
それだけにヒカリには言うべき言葉がない。
ただ静かに頷いた、どう言った事情があるにせよヒカリもそれが一番良いと思えたからだ。

「あたし碇君や綾波さんの事は何も聞かないし何も知らないわ。だけどアスカのしたいようにするのが一番いいと思うし……もし辛かったら何時でもうちに来れば良いんだから」

寄り添うように排気ダクトの陰に隠れ、轟音と爆風から身を隠す。
アスカに今出来ることはこうして見ていることだけだが、きっと何時か答えは見つかるだろう、結果は出るだろう。
初めて見た昨日より高い場所からの景色、背伸びして覗き込んだだけの光景。
抱えたいくつもの疑問の一つに「元のようになりたい」と言う答えをあてがう、それは決して難しい事じゃないようにアスカには思えた。

……バカシンジ、バカレイ、必ず帰って来なさいよ。あたし聞かなきゃいけないことが沢山あるンだから……

ダクトの影から身を乗り出して見つめる青い瞳に映ったのは、深紫の鎧を纏ったロボットが宙を舞う光景だった。








『シンジ君、返事しなさい!!』

混濁する意識に届く声の主がミサトだと認識できたのは、ビルに叩き付けられてから二、三秒後だった。
それでも兵装ビル一棟を粉砕するほどの衝撃だ、自分が今まで何をしていたか改めて思い出さないと状況を把握できない。
確か接近戦を挑んで触手相手のとチャンバラをやらかし、足に絡まれ放り投げられたのだ。

『一旦後退して体勢を立て直して、レイは援護!マヤちゃん被害報告して』
『損傷はごく軽微、活動に支障ありません』

初号機は転げるようにレイとその周囲を飛び回る戦闘ヘリが作り出した弾幕の影に身を隠す。

「油断しちゃったな、攻撃だけ夢中になりすぎた……」

零号機の側で体制を整えた頃には、シンジは冷静さを取り戻し再攻撃の準備に入った。
ある程度の反撃は覚悟していたし攻撃方法そのものは効率的に進み、そのダメージは使徒の体に刻み込まれていた。
ATフィールドは引き剥がされ光沢を放っていた使徒の本体には亀裂が無数に走り、無数とも思えた触手はその本数を減らしている。
多少の計算違いはあったとはいえ初号機も零号機も予定通りの動きを見せ、全体で見れば作戦通りの結果を出せた。

『後一押しってとこか……よっしゃ気合い入れて行くわよ!シンジ君、レイ、残弾確認して』

火力で圧倒して押し切る。
シンジに接近戦をさせ敵に長距離攻撃の手段がないと判った以上、無理に接近戦を挑む必要はない、戦闘ヘリにエヴァの携帯火器、兵装ビルからの砲撃全てを集中させとどめを刺す。
葛城三佐の指示が伝わるとエヴァ二機を中心に戦闘ヘリが扇形に配置を広げ使徒を半包囲する。

その間の静寂はそう長くは続かない、号令の元落雷のような爆裂音が響き太陽が地上に生まれたと思えるほど輝いた。
衝撃は大地を伝わり第三新東京市を揺らした。

「勝てた……かな……」

シンジはパレットガンの弾倉を交換しながら、湯気の立っているポジトロンライフルを構え直すレイに話しかけた。

「……まだ判らないわ、反応があるもの……」

煙の中ではまだ使徒の蠢く気配が感じられ、レイが紅い瞳に緊張の色が消えることはない。
シンジも油断していたわけではなかった。
煙が晴れ現れた使徒の姿は、文字通り穴だらけにされ黒い本体は今にも崩れ落ちそうだ。
周囲には引きちぎられた触手が散らばり、地面は流れ続ける透明な体液で濡れていた。
それだけに注意していたとはいえ勝敗は決したと思い込んでいたし、ましてや背後からの攻撃は想定していない。

シンジの耳に通信機から伝わるレイの呼び声が辛うじて伝わった。
初号機の頸部に巻き付いた白い触手は紛れもなく目の前の使徒の物だ。
地中を掘り進み背後から隙を窺っていたのだろうか、ほんの一瞬で巻き付くと初号機の杭を締め上げる。
レイは間髪おかず本体のとどめを刺すべく使徒に駆け寄り、ポジトロンライフルを至近距離から撃ち込む。
だが粉砕したのはコアではなく使徒の外殻だけで、自分の瞳と同じ色のコアを含めた中身は引っ張られるように初号機に向かっていった。

「ちっ!!各機攻撃……初号機が近すぎるか……」

ミサトも指示を出し倦ねた。
機体全体に絡みついた使徒だけを攻撃するのは、百戦錬磨のヘリ部隊にとっても至難の業だ。
レイもプログナイフを装備させ攻撃を試みたが、動き回っている状態ではかなり難しい。
だが難しいなどと言っていられない状態になったことを青葉二尉は告げた。

「拙いっす!初号機に異物進入、使徒は初号機の内部に入り込むつもりです!!」







恐らくは頸部の締め付けが多少緩んだのだろう、シンジは大きな口を開け目一杯のL.C.Lを吸い込みやっとの思いで体中に酸素を送り込む。
それと同時に奇妙な異物感が首や腕、胸の辺りから感じ始めた。
痛覚は刺激されていない、ただ体内を這いずり回るような……ソレが体中に溶け込んでくる感覚。

「クソ……何だって言うンだ……」

エントリープラグの中で思わず独り言が出る。
手足の自由は奪われておらず、敵の意図する物が読みとれない。
もっとも生き物か機械か判らないようなモノに意志があるのかどうか不明だが、それだけにシンジを苛立たせていた。
助けを求めるように視線を周囲に巡らせるが、誰もが攻め倦ねているようだ。
ならばとシンジは自らの手で窮地を脱すべく、絡みついた使徒を引き剥がしに掛かるが入り込んだ触手が彼の痛覚を刺激した。
何処まで融合しているか判らないが無造作に引き剥がそうとすると、初号機とソレを通じた自分にもダメージが及ぶようだった。

沸き立つ不安を深呼吸で押し隠す。
通信機から誰かの声が響いたが、耳の中に水が入り込んだように聞き取りにくかった。
意識は明瞭で手足にも異常はないが、聴覚に障害が生じてきているようだ。
手で体中を触り感触を確かめるが、エヴァとシンクロしている最中なので自分で自分の体に触れても殆ど判らない。
シンクロ率が高まれば高まるほどその傾向は強くなり、100%になれば理論上自分自身の体に何が起きても一切感じることが無くなる。
その代わりにエヴァに何か起きればダイレクトでシンジの体に返ってくる。
それを防ぐためにも80%を最高値に設定し、更に上回るようなら自動的に回路を遮断するようになっている、とシンジは聞いていた。

そんな不鮮明な境界線に囲まれた彼は、外部と連絡を取ろうとするがどうにも思うようにならない。
体の機能が、と言うより連絡の必要性は十分認識しているがそれを実行するための意志が上手く働かないのだ。
ただ何となく周囲を眺めながらシートに身を沈め、慌ただしいことだけは伝わる辺りの様子を感じていた。

自分とエヴァの境目がどの辺にあるのかが判らなくなる、そんなときだった。
はっきりと通る声で誰かが呼びかけた。

「……シンジ、ねえシンジ……」

殆ど機能を失った耳に聞こえる声は誰のモノか、通信機からは何を言っているのか判らないほど不鮮明にしか聞き取れないのに、その呼び声は頭の中に直接響いた。

「そんなところで何してるのよ?」

誰が……そう問う必要はなかった。
語りかけてくるのは間違えようもないくらいよく見知っている少女だ。

「アスカこそ何でこんな所にいるんだよ、此処はアスカが居ていい場所じゃないんだ」

何故か彼女がこの場所に突然現れたことに何ら不自然さを感じ取れなかった。
それよりも自分達エヴァパイロットだけが居ていい場所なのに、何の関係もないはずのアスカが出現したことに腹立たしさを感じていた。
シンジはエヴァの内部エントリープラグの中にいる筈なのに、目の前に浮かぶアスカとの距離を感じられない。
エヴァの視覚を通しての映像の筈なのに、肉眼で見ているかのような感覚だ。

「早く帰れよ、此処は危ないんだ」
「へんっ!シンジが偉そうな事言わないでよ、あんたが居られるンならあたしが居たって平気よ」

薄ら笑いを浮かべた彼女は自信たっぷりにそう答えた。
誰にも立ち入れない聖域に足を踏み込んだアスカに腹立たしさだけが募っていく。
使徒殲滅は自分達だけに与えられた役目だ、エヴァを操れる自分達だけが携われ、そしてこの場にいる権利を有するのは自分達だけだ。

「大体エヴァなんてシンジじゃなくっても動かせるのよ、自分だけが特別だなんて思わないで」
「そんなことあるモンか!誰も動かせないから僕がやってるんじゃないか!」

現実と妄想の境界線が曖昧な中、目の前の『アスカ』はどちら側に存在するのかシンジには見極められない。
彼女の背後にはさっきまで戦場だった第三新東京市が、支援攻撃をしていた戦闘ヘリとレイの乗った零号機が蜃気楼のように揺らぐ。

「自分だけなんて勘違いよ、あたしだってエヴァを動かせるわ。貸してみなさいよ、あんたより上手に動かしてみせる」

リアクションレバーを掴んでいる手にのし掛かった重さはエヴァが感じた重さなのか、シンジ自身の体が感じた重さなのか。

「離せよ!エヴァは僕のだ!!アスカのじゃないんだ!!」
「ふん、ピアノだってあたしの方が上手に弾けるわ。勉強だって運動だってあたしの方が良くできるわ。あんたがあたしに勝てるモンなんて何もないじゃない、昔っからそうでしょ。何もできない癖に居座らないで!!」
彼女の言葉を否定すべき物が見つからなかった。
自分と比べ何もかも優れたアスカはエヴァも同じように自分より上手に動かせるのか。
自分で認識しないまま万年雪のように溶けることなく積もってきた劣等感、それは気付いてみれば支えきれなくなるほどだ。
姉弟でもない他人でもない少女との同居という変則の関係が、シンジにその事を気付かせなかった。
自分が傷つかないために、アスカの居場所を無くさないために認識の外に放り出してきた事実。

それはもう限界だった。

「アスカはどっか行けよ、何の関係もないじゃないか!!エヴァは僕が乗らなきゃダメなんだ!!」
「恐いんでしょ、あたしに動かせることが。そうよね、そうなったらあんたの価値なんてなくなっちゃうもんね」

無価値じゃない自分、エヴァに乗ることによって『優れた』自分。
だが彼女は聖域を踏みにじり、大事にしている宝物に手を伸ばして奪おうとする。
奪って叩き壊して……
やっと見つけた宝物を……アスカは……今までと同じ、彼女がしてきたように……

「早く貸しなさいよ!!あんたより上手く動かせるんだから!!」

白い手が伸びてくる。
自分に向かって伸びてくる。
細い指が自分の肩を掴もうとする……シンジにはその様子がはっきり見えた。
そして加速を始めた激情。

拒絶せよ、誰かが命じた。
もう一人の自分が命じた。
昨日までの自分が命じた。
ほんの少し背の低い自分が命じた。
自分自身が命じた。

拒絶せよ。

「嫌だ!!」

少年の右手は吸い込まれるように少女の胸に向かう。
その手には積もった雪を映すほど磨き込まれたナイフが握りしめられていた。
刃先が皮膚を切り裂き白い乳房を抉り、肋骨を削りながら胸腔内に滑り込み肺と筋肉の塊を抉る。
見えるはずのない映像が刃先から伝わった。
無言のまま鍔口まで赤く染まったナイフを引き抜き、再び勢いをつけ突き立てる。
引き抜く度に返り血が自分を染めていった。

体の奥から沸き上がる衝動は消えない。
自分を見つめる蒼い瞳に恐怖しながら、見知った少女を今まで共に暮らしてきた少女を切り刻む。

薄ら笑いを浮かべ、ナイフを振るう自分を冷ややかに見つめる少女。
雪のように白い肌は切り刻まれ、秀麗な顔には傷が刻まれ……ソレでも彼女は薄ら笑いを消そうとはしなかった。
全て見透かしたような瞳はナイフ以上の鋭さを持ち、逆にシンジを切り刻んでいるように彼をなめ回す。

今自分が居るのは果たしてどちらだろう……
今自分が刺したのは一体どのアスカだったろう……

現実に近い悪夢の中か、それとも消えることのない現実なのか。
どちらであっても、彼に命令を下すのは自分だった。

その命令に従い両手でナイフのグリップを握り、頭上に掲げた。

大切な宝物を守るために。










避難命令が解除された第三新東京市は、さっきまでの騒ぎがまるで白昼夢だったかのように平常を取り戻す。
避難所にいた誰もが現場を見ておらず、今日の夜辺りのニュースで放送される映りの悪い映像を見て何が起きていたのか初めて知るのだ。
無論そこに巨大なロボットの姿など映っているはずもない。
誰も何も知らぬうちに全ては終わり、用意された日常に埋没していく。

彼女、洞木ヒカリもそうするはずだった。

「……アスカ、ジュース飲もう……」

本来なら見ることの出来ない出来事を見続けた彼女は、疲労の極地にあった。
巨大ロボットと化け物の大喧嘩は、大きなナイフを振りかざしたロボットが勝った。
まるで殺人鬼のようにナイフを突き立てたロボットに言いようのない恐怖を感じはしたが、その感想を口にはしていない。
いい絵が撮れたと喜んで帰ったケンスケがいっそ羨ましい。
取り敢えずガードレールに腰掛け、手近な自販機で買ったホットココアをアスカに手渡す。
蒼い瞳の友人は殆ど口を開かずあの光景を見つめ続け、恐らくは自分より疲労しているように見える。

互いに缶を口に運ぶとそれ以上の会話は無く、ほぼ同時に大きな溜息をついた。
ヒカリより情報を持っている、あのロボットの操縦者を知っているアスカは頭の中の情報を整理するので精一杯だ。
目にしてきた光景は余りにも非日常的なものだった、だがあの中にいるのは日常で顔を付き合わせている少年だった。
その事を一体どう捉えればいいのか、どう理解すればいいのか皆目見当がつかない。
だからこそ話をしなきゃいけない、この前雨の中で見たこと今日雪の中で見たことを納得するために。

もう止むことのない雪は明日の朝には第三新東京市を純白に染め上げるだろう。
小さなアスカの肩などアッという間に白くなってしまう。
まだ何も理解できていない、だがやらなければいけないことは解る。

早く帰ってあの二人の顔を見たい。
シンジもレイもあんな非日常の住人じゃない、自分の側で暮らすべき普通の中学生のはずだ。
ココアの最後の一口を口に流し込み、空き缶をクズカゴに放り投げる。
そして立ち上がると今までのわだかまりを払うように、両肩に留まっていた雪を勢いよく散らした。
何も理解できない中でたった一つだけの望み、まだ時間は取り戻せる……まだ元の三人に戻れるはずだ。
自分は除け者にされたわけじゃない、それを確信するために話をしなきゃいけない。
目の前で起きたことを理解して納得しなきゃいけない。

「アスカ、今日はうちに泊まらないんでしょ?」

立ち上がった友人を見つめ、ヒカリは質問の形をした応援を送った。
真意は簡単に伝わり、曇っていた蒼い瞳にいつもの輝きを取り戻して大きく頷く。

「じゃあ早く帰ろう、もしかしたら碇君達も家に着いてるかも知れないし」

気付いてるはずなのに何も聞かないでいてくれるヒカリが有り難かった。
礼を言うには避難命令解除後に交通量の増えた道端では騒々しすぎる。
言葉に頼らない意志の疎通を計ると二人の少女は、この先にあるバス停に向かって雪を蹴って走り去っていった。








その短い問いかけは紛れもなくNERV総司令としての物、何の理由もなく確信したのは自分に家庭が無いせいだろうか。
自嘲気味に唇を歪め、だが明確な回答を返す。

「……処理は全て終了しました。B-13管区第八、第九兵装ビルが崩壊しましたが他に被害はありません。初号機は現在MAGIによる点検が進行中ですが、七割終了時点で異常は見つかっておりません」

時折吹き抜ける風より遙かに冷たい声が、湿った空気の中を漂う。
辛うじて届いている照明が浮き上がらせる二体の人影は余りにも淡く、ともすれば闇の中に溶け込んでしまいそうだった。

「……パイロット両名は検査の結果、異常所見はありませんので帰宅させました」

薄暗い中で浮かび上がる金色の髪が僅かに揺れた。
暫しの時を過ぎ返ってきた無言の解答をどう捉えればいいのか、反応を楽しみにしていたリツコは失望するハメになった。
無音と言う鉛を詰め込まれた室内、いや、むしろ洞窟内の空洞と言ったほうが正しいか。
最先端技術の塊であるNERV本部という建造物内にあって、この場所にそれを匂わせる物は何もない。
僅かに二人の手元にある膝丈ほどの装置が唯一の人工物に思えた。
その装置の上を細い指がなめらかにダンスを踊る。

「こちらも順調に進行しています、現在のところ初期計画との誤差は3.2%に過ぎません」
「……そうか、問題はないな。このまま進めてくれ」

そう告げるとNERV総司令は、何ら表情の浮かばない冷淡な目を正面に向けた。

……第三新東京市地下、NERV本部の最下層フロアから更に地下に潜った場所にそれはある。
数多居る職員のごく一部、A級職員と呼ばれる最大限のアクセス権限を持つ者達ですら此処に立ち入ることは出来ない。
ターミナルドグマと呼ばれるこの場所を目にした者は三人に過ぎず、此処で何が行われているのかそれを知る者もその三人だけだった。

「計画は問題なく進んでいる……この先変更はあり得ない……最後までな」
「はい、此処からの変更はそれ自体が致命傷になります。彼らとてそこまで無謀な事は行えないでしょうね」
「ああ……全ては終焉に向かっている、今更引き戻すことは不可能だ……苦労だが後少し頼む、赤木博士」

それは労いではなく確認に過ぎない事は、リツコ自身よく知っている。
自分は関わるしかないのだ。
かつて母が関わり、その後を引き継いで此処まで来た、今更無関係になることなど不可能だしそのつもりもない。

「母の残した物ですから……せめて最後まで見届けたいですわ。どんな結果になっても」

かつて存在したもう一人の赤木博士が立ち上げたこの計画、それを引き継いだ娘に何の躊躇も存在しなかった。

「言ってみればこれは母の子供かも知れません……私より多くの期待を母に背負わされた子……例え鬼子であっても最後まで……」
「エヴァシリーズは全て此処から始まった……E計画もな。そして再び此処を始点に動き出す……」

リツコの白い指が操作盤のスイッチを押し込んだ。
闇の中に吊され乏しい灯りを放っていた白色灯は、一斉に青白い輝きで『それ』を浮かび上がらせる。
そこにはかつて赤木ナオコ博士が生み出した『子供』が居た。
浮かび上がった『それ』は巨大な上半身だけの体を十字の保定器にくくりつけ、七つある目で見つめる二人を見下ろしていた。
純白のタイツで包み込まれた体に張り付いた七つ目の仮面。
異形の姿を持つそれは何も語らず、ただ時を待っているようだった。

「これは器に過ぎん、舵のない方舟だ……リリスとなるまであと僅かだ」

節くれ立った指が操作盤に触れ、照らし出した照明を落とすと『方舟』を闇の中に沈めた。
そして碇ゲンドウは誰に告げるとも無くそう呟くと巨大な上半身に背を向け、その後を赤木博士が無言のままついていく。

……お母さん、せめて見届けて上げるわ。あなたのやったこと忘れないためにも……

彼らがNERV本部から出発するのに多少手間取ったのは、去年使ったチェーンが見あたらなかったからだ。
三人で倉庫の段ボール箱を漁りやっと見つけだした頃には、時計の針が午後四時を差していた。

「しかしこれガシャガシャってうるさいね……」
「しょうがないでしょ、ゴムの奴無かったんだから。っかしーなぁ、あたしは絶対あの棚に去年しまったのよ……きっと誰か勝手にどかしちゃったのねぇ」

何時からあるのか今時見ることのないかなり古い金属製のチェーンを引っぱり出し、タイヤに装着させること30分。
普段なら煽ることはあっても煽られることなど無かったミサトが、後続車にクラクションを鳴らされるような速度で第三新東京市環状線を走行していた。
シンジとレイを自宅まで送る、それ自体は何も作戦本部長葛城三佐がわざわざやらなくても良いことだったが、彼女なりに少々気がかりなことがあってハンドルを握っている。

「ところで本当に何ともないの?エヴァに乗ってるときダメだの何だの喚いていたけど」
「うん……あんまりよく覚えてないんだ、あの時放り投げられて……その後はプログナイフ持って立ってただけだし」

専門医から心理検査を受けたときも同じような返答をした。
記憶の一部がすっかり飛んでいるのだ。
現場の様子と初号機内部を撮影したビデオを見せられたが、特に何かを思い出したりする事はなかった。
殻を脱ぎ捨てたイソギンチャクのような使徒にナイフを突き立ててる初号機と譫言を口にしながらそれを動かすシンジ、余りにも黙々とこなす様子はミサトにしてみれば気掛かりで仕方がない。

「んだってさぁ、こっちじゃ使徒のエヴァ浸食が確認されてるのよ?何でもないって事はないでしょうに」
「そう言われれば多少は変な感じがしたかも知れないけど……やっぱりよく解らないよ」

嘘を付いている様子もないし付かなければならない理由もないだろう。
専門医ですら記憶欠損以外は異常なしと言うほか無かったのだ、これ以上はミサトに判るはずもなかった。
「ま、いいか。だけど何かあったらすぐに連絡しなさいよ。夜中でも良いから……あたしのTELは知ってるわよね。レイも良いわね」

二人が頷くのをバックミラーで確認すると再び運転に集中する。
何しろ使い慣れていないチェーンなので運転しづらい事、この上ないのだ。
散々煽られた環状線から外れ脇道に逸れると、いよいよ積もった雪の厚みが増し碇家が近づく。
アスカは恐らく戻っているだろう。

「そう言えばさ、監視カメラに惣流さんと洞木さんとシンちゃんのお友達が映ってたわよ。保安から連絡があってね……一応見ない振りしておいたけどあんまり出歩かないように言っておいてね」

一瞬シンジの顔が険しくなった。
迎撃戦をやっている最中に外を出歩いて万が一何かあったらどうするつもりなのか。
自分やレイが命がけで最前線に出ているのに、それを無にされたような気がした。

「……何で外にいたのか判るような気がする……」
「綾波の言いたいことは判るけど……うん、判ってる、ちゃんと話すよ」

紅い瞳に見つめられ軽く深呼吸をして気を静める。
ある程度事情を知っているアスカが外を彷徨いた理由も判るし、その事を責めるのは筋が違うだろう。

「……そうした方が良いと思うわ……」

安心したようなレイは小さなサイドウインドウに顔を押しつけた。
シンジの荒れ始めた感情を宥めようとした、たったそれだけのことで顔が熱くなるほど緊張してしまった。
氷点下まで下がった外気に晒されたガラスは火照った顔に心地よい。
普段より早くなった鼓動がチェーンの音に掻き消されていく。
やがて見慣れた住宅街がレイの脇を通り過ぎ、三人でよく利用する自販機が目に飛び込んでくる。
いつもなら此処で車を止め、此処から歩いて帰宅していたがその必要は既になくなっていた。

「ミサトさん、アスカともう一度ちゃんと話すよ。僕の知ってることは全部話すつもりだから」
「……まあ、しょうがないわね。シンジ君もレイもそうしたいならお互い気が済むまで話しなさい。こっちのことは気にしなくて良いから」








聞き慣れないダミーノイズが碇家の二階にある一室に届いた。
部屋の主は大きく深呼吸し、跳ね上がった心臓を落ち着かせると窓の縁から恐る恐る外を眺める。
車の跡が雪の道に刻印され、その上に二人の人影があった。
僅かな躊躇が部屋の扉を重くするが、もう一度元に戻るためならノブを回すことが出来る。
だが部屋から出た途端に蒼い瞳の少女はちょっとした問題に直面した。

……何て言って出迎えれば良いんだろ……

昨日までのわだかまりがある以上、素直に出迎えるのは気恥ずかしい。
それにお疲れさまと声を掛けるのもご苦労様と声を掛けるのも、どこか物足りない気がする。
淡い栗色の髪を軽くかき上げると、腰まで届く髪が軽やかに揺れた。
そして躊躇いながらも階段を一歩一歩と下りる度に、足の動きは加速していく。
燕のような身軽さで本来の半分の歩数で階段を駆け下り玄関まで来ると、一枚の扉を隔てた向こう側から二人の気配を感じ取った。
その扉が開くまでの短い間、靴箱の隣りに張り付いている鏡に姿を映し、ごく簡単に髪を梳く。

少し厚手の生地で出来た長袖Tシャツは、かつてシンジと一緒に買い物をしたときに購入した物だ。
履いているジーンズはレイも含め三人で街に出たときに買った物だ。

そして新しい服を買うときは……

ノブは静かに回った。
厚い木製の扉はゆっくりと開き、彼女の視界に二人の姿を見せた。

「……お帰り……」
「……ただいま……二人とも怪我はなかったよ……」

照れくささと軽い緊張感と微かな懐かしさを含んだ表情が互いに見て取れる。
何を言ったらいいのか、何を話したらいいのかお互いに上手く出てこない、顔を見た途端に心の回路が緩んでしまったように感じた。

「あ、あのさ……さ、寒かったでしょ。早く上がったら、今お茶入れるから」
やっと口にした台詞は余りにも日常的でたわいない事だった。
シンジもまた気の利いた台詞など返せるはずもなく、日常的に頷いて靴を脱ぐ。

「ちょっと、雪乗せたまま上がってこないでよね。ちゃんと払いなさいよ……レイもよ」

何年ぶりに交わした会話だろう、そう思えるほどの懐かしさがアスカの胸を覆い尽くす。
それはシンジも同じ筈だ、そう思っていた。

「ちょっと待ってて、今払っちゃうから……あんまり勝手に危ないことしないでよね」

白い手が伸びてくる。
自分に向かって伸びてくる。
細い指が自分の肩を掴もうとする……シンジにはその様子がはっきり見えた。

あれはどっちだったろう……頭の中だけで見た映像だったのだろうか。
今日自分は何かを守るために彼女を刺し殺したはずだ、なのに再び手を伸ばしてくる。
ミサトには何も覚えていないと言った、それは嘘じゃない。
だが消えてしまったはずの記憶が蘇ったとき、現実との融合が始まった。

守らなきゃいけない。
やっと見つけた大切な物を守らなきゃいけない……

「触るな!!」

ナイフは振るわれた……あの時と同じように。
蒼い瞳を見開いたまま呆然として見つめる少女に、薄ら笑いなど浮かんでいるはずもない。
だがナイフは振るわれた。
言葉となった刃は紛れもなくシンジの手から突き出されていった。

「余計な口出しするな!!大体アスカには関係ないんだ、無関係なんだよ!!」

……紅い血は吹き出さなかった。
代わりに蒼い瞳から無色透明な血が止めどもなく溢れだしていたが、それを荒々しく歩き去ったシンジが知ることはなかった。
手で押さえることも出来ず、ただ溢れる透明な血が彼女の青ざめた頬を濡らし続ける。

無色透明な血が枯れ果てるまで。

続く


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ver.-1.00 2000 05/24公開

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 ディオネアさんの『26からのストーリー』第二十五話後編、公開です。





 使徒が〜

 使徒め〜



 そうきたか。
 そんなことをするか。


 巧いことやりよる・・・・
 非道いことやりよる・・・


 たまたまなのか
 バッチ狙い通りなのか

 クリティカルに決まった使徒の手。
 いやー、もう、大変になりましたです。



 どうにかなりそうだったのに
 こーんなことになっちゃって。

 このままガラガラですか。

 逆転ホームランありますか。

 追い打ち追加で決定ですか。



 こえーっす。





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