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− は じ め に −


このSSは劇場版「THE END OF EVANGELION」を元にして創作されています。

まだ観賞されてなく、内容に触れたくない方には、戻ることをお勧めします。









創世記

Writing by HIDE




僕は時々アスカの首を絞める。

僕を救ってくれないから。

僕を見てくれないから。

僕が首を絞めても、アスカは抵抗しない。

ただ、蔑んだ目で僕を見る。

涙があふれて、手から力が抜ける。

そしてアスカは僕を殴る。

でも、殺せない。

独りになるのは嫌だから。







私は時々シンジを殴る。

気持ち悪いから。

鬱陶しいから。

私が殴ると、シンジはおびえた子犬のような目で私を見る。

それが私の加虐心を煽る。

そしてシンジは私の首を絞める。

でも、殺さない。

独りになるのは嫌だから。







少年は幼いときに母を亡くし、父に捨てられた。

だから、独りで生きることにした。

そのために多くを失った。

彼は自分を殺し、他者に従うことで、自分の存在を保っていた。

誰にも逆らわない。

傷つくのが怖いから。

他人の中にある彼の存在が壊れてしまうから。

心を触れ合わせることでお互いが傷つくのなら、独りの方がいい。

だが、独りに慣れ始めた時、一人の少女に出会う。

その少女は、彼の失ったものすべてを持っていた。

そして、すべてにおいて彼よりも優れていた。

自虐心が彼を苛む。

自分はいらない人間なんだ、と。

彼は少女を羨み、憧れた。

しかし、彼女にはたったひとつだけ、彼よりも劣っているものがあった。

少年がそれに気が付いたとき、羨みは傲慢に、憧れは自負に、それぞれ形を変えた。

少女が及ばなかったものは、彼に存在価値を与えた。

自分が失った物をかき集めて創られた少女。

それが彼の生きていく理由を教えてくれた。

自分はこのために生きてきたんだ。

自分にしか出来ないことがあるんだ。

過剰な自信が彼を煽る。

そして、少年はそれ以外には何もしなくなっていた。






少女は幼いときに母を亡くし、父に裏切られた。

だから、独りで生きることにした。

そのために多くを捨てた。

彼女は自分を輝かせ、他者に認めさせることに、自分の存在価値を見いだした。

誰にも負けられない。

誰も彼女を見てくれなくなるから。

彼女の存在が失われてしまうから。

自分を見てくれる瞳を感じていられる限り、独りでも生きて行けた。

だが、独りで歩き始めた時、一人の少年に出会う。

その少年は、彼女の捨てた物しか持っていなかった。

そして、すべてにおいて彼女よりも劣っていた。

優越感が彼女を満足させる。

自分は間違っていなかった、と。

彼女は少年を哀れみ、蔑んだ。

しかし、彼にはたったひとつだけ、彼女よりも優れているものがあった。

少女がそれに気が付いたとき、哀れみは憎しみに、蔑みは嫌悪に、それぞれ形を変えた。

少年が持っていたものは、彼女の存在価値を失わせるものだった。

自分が捨てた物をかき集めて創られた少年。

その少年が彼女の生きている理由において、上回った。

自分は何のために今まで生きてきたのか。

自分の選択は正しかったはずだ。

迷いが彼女を苛む。

そして、誰も見てくれなくなったとき、少女は壊れた。







それぞれが失ったものを持ち合わせていた二人。

同じ境遇にありながら相反する二人。

二人は少しだけ心を開いてみた。

自分と同じだったから。

気が付くと、少年は少女を傷つけていた。

気が付くと、少女は少年を傷つけていた。

互いの心を癒やす存在にはなり得ないと思いこむ。

彼らは最後まで気づかないかもしれない。

光が存在するために影が必要なことに。

影が存在するために光が必要なことに。

それを悟るには二人とも幼すぎた。

教えてくれる大人達はもういない。

少年は、少女に救いを求めることをあきらめた。

少女は、少年に救いを求めようとはしなかった。

そして二人はある結論に至る。

自分たちを救ってくれる存在を求めて、新たな命を生み出そう。







二人の身体が重なり合う。

しかし、心に壁がある。

少年は本能の命じるままに行動した。

少女は虚ろな視線を宙に彷徨わせていた。

すべてが終わった後、二人は吐いた。

泣きながら、吐いた。

自分に対する嫌悪感が身体に異変をもたらす。

生命のスープによって生きながらえていた二人は、ただ胃液のみを吐き続けた。







僕はアスカの首を絞めなくなった。

アスカは僕を打たなくなった。







私はシンジを打たなくなった。

シンジは私の首を絞めなくなった。







やがて、少女は身ごもった。

願わくば彼らの子供達が彼らを繋ぐ絆とならんことを・・・。






FIN



Ver.-1.00
ご意見・ご感想はhide@hakodate.club.ne.jpまで!

<あとがき>

劇場版のラストを見て、これから二人がどうなるのかな?と思って書きました。

違和感を持たれる方も多いと思いますが、あくまでも私見ですので、あまり責めないで下さい(笑)。

ラストシーンが創世記の落ちだとしたら、二人が神話を創らなきゃなりませんからね。

でも、これって小説じゃないですね。

何て呼ぶのが妥当なのかなぁ・・・。




 HIDEさんの『創世記』、公開です。
 

 生きている二人。
 生きてしまっている二人の物語ですね。
 

 それぞれが持っていたもの。
 それぞれが持たなかった・持てなかったもの。

 なぜこうなったのか・・・
 

 悲しい創世記。
 新しい存在が二人の道を照らしますように・・・・
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 貴方の感想、この作品に対する物・Airに対する物を伝えて下さい!


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