このSSは新世紀エヴァンゲリオン劇場版「Air/まごころを君に」を元にして創作されています。
まだ鑑賞されてなく、内容に触れたくない方には戻ることをお勧めします。
なお、前記劇場版を鑑賞されていない方には理解しがたい表現が数多く含まれております。
バックに流れている「カノン」は402号室のあさおかさんの御厚意により使用の許可を頂きました。
あさおかさんの402号室はこちらです。
一画面ほど空けたところから始まります。
「駄目。碇君が呼んでる。」
闇の天蓋を見上げる真紅の瞳。
浮かび上がる少女。
ドグマを昇る少女。
その真の器を捨てて。
天空に描かれたセフィロトの木。
偽りのリリスに突きつけられたロンギヌスの槍。
為す術のない少年。
目前に現れる少女。
「ただいま。」
おかえりなさい。
ゆっくりと落ちて行くエントリープラグ。
赤く輝く初号機の瞳。
大きく開かれる六対の翼。
LCLと化して霧散する狂信者の望み。
吼える神。
リリスの卵。
上下で同時に発せられる呻き。
「「知恵の実と、生命の実が・・・?」」
「生命の木に還元しない?成功したのかっ?!」
心をよせるものが神となった歓びに撃ち震える男。
「リリス。君の身体を借りるよ。」
銀の髪と真紅の瞳。
首だけの。
「何故リリスが?」
「碇は彼女によけいなことを教えたようだ。」
「いかんぞ。神が生まれる。」
「もう遅い。既に我々に駒はない。」
「だが、心配はいらん。あれは我らの望みを叶えるものだ。」
「すべてを浄化し、一つへ。」
「しかし、あれは?」
「血迷ったか?!タブリス!」
増殖しつつ天へ昇る白い有機体。
12の方向からそれを貫く光の翼。
白く蠢くその表面に浮かび上がる微笑み。
「さあ、心の壁を取り払うんだ。」
地表に降り注ぐ赤い雨。
『・・・工知能カスパーにより・・・』
頬を打つ乾いた音。
『・・・れにより00:10:00後に・・・』
泣きじゃくる女性を引きずる長髪の男。
『・・・員は速やかに・・・』
発令所から飛び出す眼鏡をかけた男。
『・・・い。繰り返します。人工・・・』
燃え尽きたように司令席に腰を落とす初老の男。
「ガフの部屋を開く鍵は、失われたか。永遠に・・・。」
降り注ぐ雨に赤く染まった少年。
その手に握られた銀の十字架。
食い散らされた臓物を這い登る少年。
闇の中で胎児のようにうずくまる少女。
血溜まりに横たわる女。
それを抱きかかえる男。
大地の鳴動。
地の底で贖罪する男。
「済まなかったな。シンジ。」
溢れる光。
轟く爆音。
泣き崩れる少年。
「君しかいないんだ。」
目覚める少女。
白濁した左目。
「あんた、だれ?」
まごころなんて、いらない
- A Part -
第二新東京市郊外に建てられた瀟洒な建造物。
多くの緑に囲まれたその建物は、太陽の光を反射して純白の外観をより一層際だたせている。
都心から大きく離れたその建物が、実際に機能を十分に発揮しているかと問われると少しばかり疑問が残る。
最先端の技術を結集させたそこに集う者は、法の適用から逃れることに必死な腹黒い高級官僚がその多くを占めていた。
国立第二新東京病院。
当然、日本国政府御用達。
そこの病室の一つで彼女は目を覚ました。
開け放たれた窓から差し込む夏の日差し。
耳を刺激する蝉の声。
爽やかな風が運ぶ緑のにおい。
視覚、聴覚、嗅覚。
「生きてる・・・」
あわただしく扉が開く音、閉まる音。
その向こうで誰かが走り去る音。
花束を抱えた少年と、その腕に絡みつく少女が木漏れ日の中、仲睦まじく歩いている。
歩道の脇に咲くひまわりと同じ色のワンピースに包まれた少女の仕草からは、遊び疲れることを知らない無邪気な仔猫のような、そんな躍動感が感じられる。
普段感じることのない自然の息吹に上機嫌の彼女は、鼻歌さえ漏らしている。
その年齢に比して豊満な肢体は、少し子供っぽいところのある彼女には似つかわしくないかもしれない。
少女の隣を歩く少年はジーンズにTシャツと言った出で立ち。
身長は170p位だろうか?
成長期にあるその少年には、まだまだ伸びる余地が残されているように見える。
実年齢から2、3は若く見られる童顔ながら、どことなく影を纏ったような表情。
だが、彼にとってはその表情が標準となりつつあった。
少女は周りの木々を見渡して満足そうに微笑む。
「ちょっといいわよね、こういうとこ。なんかさ、解放されたって実感が湧いてくるのよね。」
少年もその少女に軽く微笑みかける。
「解放されるって、何から?」
「あんたも気付いてるんでしょ?わけわかんない怪しい奴らが、い〜っつも私たちを見張ってるじゃない!」
気付くところか、少年はその正体までも知っている。
だが、そんなそぶりは微塵も見せずにとぼけてみせる。
「えっ?そんなことはないと思うけど・・・。気のせいだよ、きっと。」
「はあ?本気で言ってるのぉ?!・・・薄々感付いてたけど、あんたってホントに鈍いわねぇ。」
疑わしげな視線を投げかける少女。
少年は乾いた笑いでそれをはぐらかす。
「やっぱりなんか隠してるでしょ?!正直に白状しなさい!」
少女は少年の胸ぐらに掴みかかり、有無を言わせぬ口調で問い詰める。
その拍子に少年の首にかかっているペンダントのチェーンが切れた。
「「あっ!」」
音もなく地に落ちる銀の十字架。
「ご、ごめん。」
少女が少しおびえたような仕草で謝る。
少年がそのペンダントを大切にしていることを知っていたから。
彼は肌身放さずそれを身に着けていた。
以前、少女がそれを欲したとき、少年は本当に済まなそうな顔でこう言った。
「ごめん。これだけはあげられないんだ。命の次に大切な物だから・・・。」
いつもなら執拗に食い下がる場面だったが、少年の声に常ならぬものを感じ取った少女は、それについて何も言えなくなってしまった。
ただ、重くなった雰囲気を和らげようとしてちょっと拗ねてみせる。
「私よりも、大切?」
そんな少女をたまらなく愛おしく感じた少年は、少女を優しく抱き寄せ、囁いた。
「君は僕の命なんかより、大切。」
少年は落ちた十字架を無言で拾い上げた。
そして、鋭い視線を進行方向に向け、呟く。
「もしかして・・・」
少女は固く目を閉じていた。
ぶたれることくらいは覚悟している。
今まで、少年は少女に手を上げたことはなかったが、そうされても仕方がないくらいに少年はそのペンダントを大切にしていた。
だが、いつまで経ってもその兆しはない。
おそるおそる目を開いた彼女が見たものは、地面に投げ出された花束と、既に小さくなっている少年の背中。
「ちょっと〜!どうしたのよ、シンジぃ〜?!」
シンジと呼ばれた少年は振り返り、大声で応える。
「ごめん、アスカっ!先に行ってる!」
アスカと呼ばれた少女はひとつため息をつき、少年が放り出した花束を拾い上げると、その後を追った。
別に急ぐ必要はない。
ゆっくりとした足取りで。
「そんなにあの女が大事なのかしら・・・。」
明らかに嫉妬を含んだ声音で呟いた彼女の蒼い瞳は、一目でそれとわかるくらいに、左だけ濁っていた。
<あとがき>
うわぁ、性懲りもなくやっちゃったよ。
偽「まごころを君に」。
またなんか酷い勘違いがあるんじゃないかとびくびくものです(笑)。
それが怖くて抽象的な表現になってます。
自分で読んでみて結構雰囲気出てるみたいなんで一安心。
完全な自己満足ですので苦情は受け付けておりません(笑)。
今回については劇場版のパンフレットに全幅の信頼を置き、穴があくほど読み返しました。
親亀こければ皆こける。
あれがいい加減なものだった場合、この作品は崩壊します(笑)。
気合い入ってますので近いうちにB Partが完成すると思います。
最後になりましたが、バックミュージックを提供していただいたあさおかさん。
本当にありがとうございました。
日独技術交換のたまものです(笑)。
あさおかさんの402号室はこちらです。
B Partは「Air」だよ!
HIDEさんの『まごころなんて、いらない』-A Part-、公開です。
ああっ、映画物が来た!
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映画物-恐怖恐慌忌避回避症候群(って、なんやそら(^^;)ぎみの私はドキドキでした。
詩的・死的に語られるストーリーで緊張。
「あんた、だれ?」 で凍り付く心。
でも、
[仲睦まじく歩いている。 ]で、ちょっと、ホッ・・・
あぁ
それでも続きを読むのが怖いっす・・・
常に「何かあるじゃないか」と勘ぐってしまっているから・・・
次回が、怖くて、怖くて、楽しみで、怖くて。
さあ、訪問者の皆さん。
HIDEさんと、BGM提供のあさおかさんにメールを送りましょう!