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現世人類が誕生して約5万年・・・そして文字を発明し自らの歴史を記録するようになって約1万年・・・。
過去の人々が残した膨大な記録の中にひときわ異彩を放つ一連の文書があった。
・・・その文書の名は「死海文書」。
発見地にちなんで、そう名付けられた文書には決して公にされることの無い”一章”があった。
その一章に記述されていたことを概略すれば次のようになる。
この世界の主人となるべく、神が用意した種は、我々ではなく別の種であること。
我々の先祖はその”選ばれた”種が地に満ちる前にそれらを地中深くに封じ込めたこと。
だが神は自らが選定したその種の復活を予言したこと。
そしてその時、我々現世人類はすべて滅びること、等である。
だが、こうした”終末”神話は何もここだけのモノではない。このようなエピソードは世界各地の神話に散見される。しかし死海文書には他の神話には見られない大きな特徴があった。
それは人類に変わるその種の復活のタイムスケジュールが克明に記述されていたことだった。
それゆえ、この文書の記述を単なる”伝説”ではないと考えた一群の人々がいた。後にゼーレと呼ばれる組織を構成した人々である。彼らの多くはそれぞれの国の有力者であり、彼らは協力して神の選んだ”真人類”の復活を再び封じ込めるための準備を進めた。
西暦2000年、南極大陸で発見された巨人こそが、その”真人類”であることを知ったゼーレはその復活前にそれを再び封じ込めようとした。が、それは不完全な形で終わってしまった・・・。
結果、後に”セカンドインパクト”と呼ばれることとなる大災厄が起こった。人類はその全人口のおよそ三割を瞬時に失い、更に二割がその後の一年あまりで失われた・・・。
【2・YEARS・AFTER】 第拾六回
作・H.AYANAMI
−戦略兵器研究所・医官執務室−
橋元老人とシンジは一つのテーブルを挟んで向かい合っている。
老人は語りだした。
「ワシはな、シンジ。現状のままの人類に未来は無いと思っておる。お前はそうは思わないかね?」
老人はシンジに問いかける。シンジは黙ったまま、あいまいな頷きを返す。
老人は続けた。
「・・・17年前、セカンドインパクトと呼ばれる大災厄が我々人類を襲った。それからおよそ1年の間に、人類はその数を約半分にまで減らしてしまった。この国も他国ほどでは無いにしろ首都である旧東京を始め主要都市の大部分を海水面の上昇によって失うなど大被害を受けた。
後に分かったことだが、セカンドインパクトは当時の国連調査委員会が発表したような巨大隕石の落下などでは無かったのだ。それはほんの一部の者たち−彼らは自らの組織をゼーレと呼んだが−その者たちが”真人類”の復活を阻止を企て、失敗して生じたことだったのだ。そして今から2年あまり前、我々が使徒と呼んだ真人類が次々と現れた」
老人は言葉を切り、目前の少年の様子を窺った。”使徒”という単語がシンジの記憶を呼び覚ます可能性に思い当たったからだ。
だがシンジの様子に変化は見られなかった。どちらかと言えばぼんやりとした様子で老人の顔を見ている。
老人は再び話し始める。
「人類は、いやゼーレは、と言うべきじゃが、襲来するであろう真人類を殲滅すべく特務機関NERVを設立し、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンを製作した。その中心にいたのがお前の父、碇ゲンドウじゃった。そしてシンジ、お前はそのエヴァンゲリオンのパイロットだったのだ」
シンジが反応を示す。
「僕がパイロット!?・・・」
「そうじゃ、お前と他に二人、僅か14歳の少年少女達がエヴァンゲリオンに乗って闘い、そして使徒達をことごとく殲滅したのだ。人類にとってお前達は英雄であると言っても過言ではない」/p>
「 ・ ・ ・ ・ ・ 」
シンジは黙っている。”英雄”なぞと言われても彼には何の実感も無かったからだ。
老人にはシンジの思いが分かったようだった。
「お前には、英雄なぞと言われても何の実感も無かろう・・・実際、使徒との戦いの最中も、そしてNERVがゼーレの送り込んだ量産型エヴァンゲリオンと共に消滅した後も、具体的な情報が公開されることはなかったからな。お前達が英雄として世間の賞賛を受けることは無かった・・・それには理由があった。NERVが金を使いすぎたことも一つの理由だ。飢餓に苦しむ多くの人々を救うために必要な金さえつぎ込まれていたのは事実だ。国連はそのことを一般の人々に知られることを極度に恐れた。だが彼らが本当に恐れたのは、NERVとエヴァンゲリオンが作られた本当に理由を知られることだった」
「本当の、理由ですか?」
「そうじゃ・・・コホッ」
老人は小さく咳き込んだ。周囲を見回す。目的の物は医官のデスクの上にあった。古風なガラス製の水差だった。
「シンジ、済まないが、水を汲んでくれないか」
老人はそう言いながら、腕を伸ばしてその位置をシンジに指し示す。
シンジは老人の示したものを見た。
「分かりました」
シンジは立ち上がった。
−旧第三新東京市跡地。戦略自衛隊仮設基地−
MAGI発掘の為に仮設された建物の一つは女性専用の宿所として使用されていた。その一室、そこには二つの簡易ベッドがあった。その一つに眠るのは赤木リツコ博士であり、そしてもう一つに眠るのは・・・博士がもっとも信頼している女性だった。
彼女の名は、伊吹マヤ。
マヤが寝返りをうった。寝つかれないぬままに既に二時間が経過している。
静かに目を開ける。プレハブの特有の殺風景な灰色の壁が彼女の黒目がちの瞳に映る。
いま、マヤの心には不思議な思いが去来していた。
(私は何故、先輩の元から離れられないのだろう?)
考えてみればそれは最初の出会いの時に決定づけられていたのかも知れない、と彼女は思った。
二人の出会い、それはおよそ8年前に遡る。当時、マヤは第二東京大学の学部生だった。
研究室で他の学生と共に教授と談笑していたとき、不意に部屋の入り口で声がした。
「羽黒先生は御在室ですか?」
理知を感じさせるその声と共に現れたのは、意外にもブロンドに髪を染めた若い女性だった。顔立ちから見てその髪の色が彼女の生まれながらのものではないのは明らかだった。
「おお赤木君か、久しぶりだね」
そう呼ばれた女性は羽黒に向かい、微笑みながら挨拶を返した。
「ご無沙汰しました。お元気そうで何よりです」
羽黒はその場に居合わせた学生達にリツコを紹介した。
「彼女がこの研究室始まって以来の秀才、赤木リツコ君だ。君たちも名前くらい知っているだろう、彼女のお母さんは有機コンピュータ研究の第一人者である赤木ナオコ博士で・・・」
マヤは羽黒教授がそう話し出したときのリツコの表情を鮮明に覚えている。彼女が現れたときから何故かマヤはその顔から目を離せなくなっていた。
ナオコの名が出たとたん、リツコはひどく複雑な顔をしたのだ・・・悲しいような、悔しいような。だがその表情はすぐに消えた。リツコは羽黒の話を遮るようにこう切り出したのだった。
「今日は、私の博士号取得の為の学位論文についてご相談に上がりました・・・」
居合わせた学生達は、顔を見合わせた。何しろ自分たちといくらも違わない歳と思われるリツコがいきなり「博士号」と言い出したからだ。だが高槻は驚いた顔を微塵も見せずに言った。
「そうか、ようやく執筆の時間が取れたんだね。草稿はできているのかな?」
「はい、これがそうです」
リツコはそう言いながら、持参のバッグからディスクを取り出した。
それを汐に、学生達は研究室を辞去した。
(あれほどすごい人が私の先輩なんだ)
それがリツコに対するマヤの最初の印象だった。
次にマヤがリツコに会ったのは彼女が大学四年の時だった。彼女は優秀な学生であったので既にいくつもの企業の研究所から就職の勧誘が来ていた。だが彼女はそれらをすべて断り、研究室に残りたいと思っていた。営利追求の企業と言うものに自分はきっと馴染めないだろうという、自分に対する評価の故だった。
リツコから当然の呼び出しがあったのはそんなときだった。マヤは大学にほど近い喫茶店でリツコに会った。
リツコは言った。
「羽黒先生は貴方を最優秀の学生だと言ったわ。貴方の研究レポートも見せてもらったわ。それで是非、私の仕事を手伝って欲しいの・・・」
マヤの研究テーマは、脳波の定量的計測とそのマン−マシン・インターフェイスへの応用に関するものだった。
仕事の詳細について、リツコはその場では何も話さなかった。但し、身分は国際公務員として保証されると言う。
マヤは即答を避けた。何よりも仕事の内容が不鮮明だったからだ。
リツコは別れ際に言った。
「貴方の能力がどうしても必要なの。どうか私を手伝ってちょうだい」
数日後、マヤはリツコにメールを送っていた。
”先輩のお手伝いをさせていただきます”
マヤはこうしてNERVに入ることになったのだった・・・・。
ベッドの上でマヤは頭を巡らした。リツコの横顔を見る。かすかに聞こえてくる寝息から彼女がよく眠っていることが分かった。
マヤは心の内で、そっとリツコに語りかける。
(先輩・・・私達のやっていることは、正しい、ことなんですよね?)
しばらくの間、マヤはじっとリツコの方を見つめていたが、やがて静かに目を閉じると、ようやく訪れた眠りに身をまかせた・・・・・。
リツコは夢を見ていた。
・・・・・
夢の中でリツコは碇ゲンドウと共に一つの寝台に横たわっていた。頭を巡らし男の横顔を見た。だが男は微動だにせず、じっと天井を見つめたままだ。間近にいるはずなのに、何故かリツコには男の存在がひどく遠いもののように感じられていた。
(私のことを愛していらっしゃいますか?)
そう聞こうとしたことが、一体何度あっただろう。だが、聞かずともその答えを彼女は知っていた。
無言・・・そう、それがこの男の答え方。そしてそれは明確な否定。男が愛したのは、否、今も愛し続けているのは、妻だけなのだ。男には他のどんな女さえ愛することなどできないのだ。
それが分かったのは、リツコが最初に男に組み伏せられた時、男の言葉からだった。
「私には君が必要だ」
決して”愛している”とは言わなかった。ただ欲望をあからさまにした目で彼女の身体を貪ろうとした。
本気で拒絶の態度を見せれば、男は引き下がったかもしれない。だが男のその目を見たときリツコは思ったのだ。
(私は勝った・・・母さんに)
形ばかりの抵抗をした後、リツコは男に抱かれた。初めての経験だった。・・・母ナオコの、四十九日の法要から帰った晩のことだった。
・・・・・
「んっ・・?」
下腹に奇妙な違和感を感じて、リツコは目覚めた。いつの間にか自らの手が下着の中にあった。
あわてて隣の寝台に目をやる。マヤは向こうを向いている。耳を澄ませば、静かな寝息が聞こえてくる。
(良かった・・・気づかれてはいないようね)
リツコはマヤを起こさぬよう、そっとベッドを離れると、シャワーを浴びるためにバスルームへと向かった。
バスルームはユニット式のものでごく狭かった。リツコは服を脱ぐと小さなバスタブに足を踏み入れカーテンを閉める。
コックに手をかける。「水」の位置にコックを捻った。
目をつぶり、リツコは冷たい水を顔に受けた。そのまま微動だにせず冷たい水を受け続ける。
彼女は泣いていた。
声も立てずに・・・。
涙も流さずに・・・。
だがリツコは確かに泣いていたのだ。未だに過去の(身体の)記憶を消せない、自分への悔しさに。
手を伸ばして水を止め、リツコは目を開けた。
その目はもう泣いてはいなかった。強い光がその瞳に宿っている。
(明日になればすべてが終わる。私はあの男の呪縛から解放される)
彼女は男のやり残したことを自分が完遂することで、自分のゲンドウへの追慕の想いから解放されると信じていた。
−松代・戦略兵器研究所近傍の山中−
森の中を四つの影が駆けていた。
全身が黒づくめの衣装で覆われている彼らの姿は、完全に闇の中に溶け込んでいた。だが僅かな反射光によってその衣装が艶やかな素材で作られていることが分かる。そう、彼らの衣装は通気性に富むが、水は決して通さない特殊な素材で出来ているのだ。それは戦略自衛隊特殊戦部隊が使用する暗夜侵攻用野戦服だった。時折、カチャカチャと金属の触れ合うような音がするのは彼らが野戦服に装備する器具類が発するものだろう。
彼らは外観の異様さはそればかりではない。彼らの眼の辺りは特殊なゴーグルで覆われている。これもまた特殊部隊用の暗視用機器だ。極僅かな光さえ数万倍にも増幅し月さえない暗闇の中でも日中と同様の視界を使う者に提供してくれる。しかも赤外線をも併用して受光できるので、これを利用して熱を持ったすべてのものの動きを知ることができると言うものだった。
森が切れた。先頭を駆けていた者が、その走る速度を緩め振り返って言った。
「ここです。止まって下さい」
それを聞いて、後続の3人も立ち止まる。4人は今、谷を見下ろす崖の上に到着していた。
一人が荒い息をつきながら、文句を言う。
「はあ、はあ・・・ちょっと青葉君、こんなに長い距離を走るなんて聞いてないわよ」
声の主は葛城ミサトであった。安穏な”主婦業”に就いて2ヶ月あまり。ひたすら鯨飲しトレーニングを怠っていた結果が、急峻な山道であったとはいえ、僅か1キロあまりのランニングで露呈してしまっていた。
青葉シゲルは詫びの言葉を言った。
「すみませんでした。でもバイクで入るにしろ、あそこまでが限界で・・・」
アジトからの山道を、青葉はレイを、そして日向マコトはミサトを後ろに乗せて下りてきた。だが目的の場所−戦兵研に通じる排水口直上の崖、すなわち、今、4人が立っている場所にまではバイクで入ることは出来なかったのだ。
日向が二人を取りなすように言う。
「ミサトさん、一息つきますか?」
「そ、そうね・・・」
ミサトがマコトの言葉に同意しかけた時、すぐ横にいたレイが言った。
『急がないと、碇君が・・・』
レイはそれしか言わなかったが、他の3人にその意図は十分に伝わった。息を整えつつ、ミサトがレイに向かって言った。
「はあはあ・・・そうだったわね。ごめんね、レイ」
言い終わるなりミサトはマコト達に向き直って言った。
「すぐに準備してちょうだい」
「はい」「はい」
返事をするなりふたりはすぐに動き出した。シゲルは持参のバッグからロープを取り出すと、予め崖の一隅に打ち込んであった鋼鉄製のペグのリング状の部分にカラビニをセットし、崖の下にロープの束を投げ落とした。
一方、マコトは黒いアタッシュケースを開く。中身は小型ながら高性能のコンピュータである。起倒式のロッドアンテナを引き出すと一杯に伸ばした。キーボードを操作した。ミサトに向かって報告する。
「大丈夫です。こちらからの信号はちゃんと届きます」
シゲルもまたミサトの元へ歩みよると報告する。
「ロープは排水口の両側、直接に水をかぶらなくても良い位置に垂らしてあります。それぞれ二人分の荷重には十分に耐えられます。それでレイちゃんのことですが・・・」
シゲルはそこで言葉を切った。ミサトが先を促す。
「レイが、どうしたの?」
シゲルが応える。
「レイちゃんは自分がおぶって行きます」
シゲルはレイの折れている腕のことを案じているのだ。
ミサトはシゲルの意図を理解した。
「分かったわ。済まないけど、御願いね」
レイも小さな声で言った。
『・・・済みません、青葉二尉』
シゲルはそれに応えて、
「大丈夫、レイちゃんは軽いから、何でも無いさ」
ミサトはそれを聞きとがめる。
「青葉君。それって私が重いって言う意味!?」
「べ、別に、そう言う意味では・・・無い、です」
シゲルはしどろもどろに言い訳をする。
マコトが割って入る。
「ミサトさん、プログラムをセットしました。あと5分で排水ポンプが停止します」
ミサトは、それ以上シゲルを追求しなかった。今は一刻を争うのだ。
「分かったわ。それじゃあ行きましょうか」
「それじゃあ、レイちゃん」
『はい、御願いします』
シゲルに促され、レイはその背に負ぶさる。
そのままシゲルは一方のロープを握り崖を下り始めた。ミサトもまたもう一方のロープを握り崖を下り始める。マコトがその後に続いた。
−再び、戦略兵器研究所・医官執務室−
シンジは水差しの水を汲むと、コップを橋元老人の前に差し出した。
「どうぞ・・・お祖父さん」
老人はコップを受け取りながらも、じっとシンジを見つめていた。だがその視線は厳しいものではなかった。むしろ慈愛に満ちた、暖かい眼差しだった。
つられて、シンジもはにかむような微笑みを浮かべ言う。
「ど、どうかしたんですか?」
老人が応える。
「ワシのことを、祖父さんと呼んでくれるのかね」
シンジの表情に僅かな困惑が浮かんだ。
「・・・だって、僕のお祖父さんなんでしょ?」
「もちろんじゃ・・・」
老人は言い淀む。いくら記憶を失っているとは言え、あまりに素直すぎるシンジに、老人はいささか拍子抜けしていた。
老人は尋ねた。
「シンジ・・・お前は確かにワシの孫じゃ。だが会ったばかりのこのワシを祖父だとすぐに認められるのは何故かな?」
シンジは少しの間考えていたが、やがてこう答えた。
「こうして、お祖父さんと話しているとなんだかとても安らいだ気持ちになれたんです。初めてなのに初めてでは無いような・・・だから、きっと貴方は僕の肉親に違いないって・・・そう思えるんです」
「なるほどな・・・」
老人はそれだけ言うと沈黙した。
見れば老人の手には水を入れたコップを持ったままそれを口に運ぼうとしないでいる。シンジがそれに気づく。
「お祖父さん・・・お水、飲まないんですか?」
「おお、そうじゃった」
老人はそう言い、コップを口に運んだ。僅かの水を口に含みゆっくりと飲み下した。
コップをテーブルの上に置くと老人は言った。
「・・・さて話の続きをしようかの・・・そうNERVやエヴァンゲリオンのことが公にならなかった本当の理由、じゃったな?」
シンジは頷く。
「はい」
「それはな、ゼーレの陰謀が国連部内で発覚したからじゃった。ゼーレの者どもは使徒との戦いに勝利した後に、エヴァンゲリオンを使い、世界中の人々を支配しようとしていた」
シンジは驚きの声を上げた。
「世界中の人々を支配・・・ですか!?」
「別に不思議ではあるまい・・・前世紀、いやそのずっと以前から、力を持ったほんの一握りの人間が世界を支配しようと試みてきた・・・時には軍事力で或いは経済力によってじゃ。だがゼーレが企んだのは今までとは違うやり方じゃった・・・」
「違うやり方?」
「そうじゃ、ゼーレが企図したのは世界の人々の心の支配じゃ」
「心の支配?・・・エヴァンゲリオンって言うものにはそんな力があったのですか?」
「ああ、そうじゃ・・・と言っても、ワシも自分で確かめた訳ではないのじゃが・・・ゼーレは世界の人々の心を思うままにあやつり完全に支配しようとしていた」
老人は更に続けた。
「だがその目論見は、ゼーレの内情を知る者からの通報によってすべてが国連内の監査機関に知らされ露見した。ゼーレの勢力は国連から一掃された。国連はそのことを一般には明らかにできなかった。全世界の人々の為に作られたはずのNERVとエヴァンゲリオンが、実は世界を支配しようとするほんの一握りの人々の占有物になっていたことを放置していたのじゃからな・・・・・シンジ、その通報をしたのは誰だったと思うかね?」
「・・・いいえ、わかりません」
「お前の父、ゲンドウが通報したのだ。ゼーレの内部にいたあれがなぜそのようなことをしたのか今となっては分からない。だがあれはゼーレの内部文書などの証拠を揃えて国連に送っておった。結果としてゼーレの目論見は頓挫した」
シンジは混乱していた。あまりにも大きなそして何の予備知識もない事柄であったためだ。だが、やがて一つの疑問がシンジの心に浮かんだ。それを言葉にする。
「それで・・・お父さんは今どこにいるのですか?」
老人は一瞬の間、それに答えることを躊躇したように見えた。だが静かにこう語りだした。
「・・・あれはもう、この世にはおらん。ゼーレはあれの”裏切り”に気づいていたのだろう・・・NERVを直接に接収するために量産型のエヴァンゲリオンを送り込んできた。あれはそれらを道連れに自爆して、逝きおった・・・」
老人はそこまで言ってシンジの様子の変化に気づいた。目前の少年は下を向き肩を震わせていた。
「どうしたんじゃ。シンジ?」
シンジは顔を上げた。その瞳は涙で潤んでいた。
老人は静かに言った。
「あれの死を悲しむことは無いぞ、シンジ。多分あれは、お前が生き残ってあれの願いを叶えてくれると信じて逝ったのじゃ・・・ワシがお前をここへ連れてきたのは、その願いを叶えてやるためでもある」
老人は続けた。それは力強い言葉だった。
「・・・お前はワシの最期の望みなのじゃ。それは世界の人々にとってもまたとない福音となろう・・・お前は新しい神となるのじゃ」
シンジは眼を見開いた。じっと老人を見つめたまま硬直していた・・・。
つづく ver.-1.00 1997- 11/02
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【後書き、本当は全部、言い訳】
最後までお読みいただき有り難うございます。
【2・YEARS・AFTER】としてはほぼ一月ぶりの更新です。続けてお読み下さっている方には大変お待たせすることとなりました。改めてお詫び申し上げます。
にも関わらず・・・話を「進ませる」ことができませんでした。いつもながら、予告もまったく「無視」していますし(^^;;)・・・。その点についてもお詫び致します。
今回、マヤちゃんを「復活」させていただきました。今回最も頭を悩ましたのはリツコとの出会いをどのように描くかと言う点でした。最初は「百合な」エピソードばかりが浮かんでしまい大変苦しみました(笑)。正直申して「本編」との整合性には?もあるのですが、なんとか「穏当な」エピソードに落ち着いて・・・ほっとしています(^^;)。
おそらく、作者のリツコさんについての「解釈」は、世の多くの”リッちゃん”ファンの方には受け入れ難いものだと了解致しておりますが、作者にとってのリツコさんはあくまでも「情念の人」です。その点をご了解の上、お許し下さるよう御願い申し上げます。
いつもならば、ここで次回予告(予定)を申し上げる所ですが、今回から中止させていただくこと致しました。どうも書いている内に予告(予定)から遠くかけ離れて、読者の方を裏切る結果になることがこのところあまりに多過ぎ、止めた方が良いと言う結論に達しました・・・悪しからずご了承下さるようお願い申しあげます。
綾波さんの【2・YEARS・AFTER】第拾六回、公開です。
マヤのリツコとの馴れ初め・・・
確かに百合系に走りそうになる部分ですね(笑)
[先輩の元から離れられない[
[最初の出会いの時に決定づけられていた]
この辺を読んだときは
「そうなのか?」
なんて・・・(^^;
特に前者は(^^;;;;
しかし、
ここはめぞんだし、
作者は綾波さんだし・・
と思い直して。
綾波さんらしいスマートな出会いになっていましたね(^^)
ホッと安心。
ニコッと堪能。
ちょっと残念(爆)
さあ、訪問者の皆さん。
綾波さんに応援と感想を送りましょう!