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【2・EARS・FTER】
第壱回  作・H.AYANAMI


2017年10月、第二新東京市郊外、碇家屋敷。



僕の曾祖母、ご隠居様が亡くなって、2ヶ月が経った。

僕たちは、ようやく元の生活に戻りつつあった。
ご隠居様に長らく仕えてきた数人の人々も辞めてしまった。

残っているのは、運転手の田中さんと、ご隠居様付きだったヨシエさんだけになってしまった。




今日、田中さんが辞めたいと言ってきた。


何でも奥さんの弟さんが東北の方でホテルを経営していて、仕事を手伝って欲しいと言ってきたからだそうだ。

「代わりの運転手は、私が責任を持って連れてきますから」 

そう言う田中さんを、無理に引き留めるのも悪いと思ったから、僕は了承した。 

「分かりました。代わりの方をよろしくお願いします」 

何せこの家は、市内とはいえ辺鄙な場所だから、車なしでは身動きがとれない。

僕が免許を取るまでは、誰か運転してくれる人のお世話になるしかないのだ。


田中さんが出て行くと、入れ替わるようにヨシエさんがお茶を持って入ってきた。

「お茶をお持ちしました」

「ありがとう、ヨシエさん」

ヨシエさんは推定年齢60歳位、少し太り気味だけど、その動きは颯爽としていて、見ていて気持ちがいい。

僕の母、碇ユイがまだ幼い頃からここで働いているそうだから、もう40年近くも碇家にいることになる。

ふと気になって僕は、ヨシエさんに聞いてみる。
「まさか、ヨシエさんまで辞めるなんて言い出さないよね?」

「何をおっしゃっているんですか、お坊ちゃま」ヨシエさんがまじめな顔になる。

(しまった、またあの話になってしまう)

「お坊ちゃまは、ユイ様の忘れ形見、碇家唯一の正当な後継者です。私は碇家に長らくお世話になった者として、お坊ちゃまがりっぱに成人されるのを見届ける義務がございます」

「それに」ヨシエさんは付け加えた。

「レイ様をお坊ちゃまのお嫁様として、将来碇家を支えて下さるように教育する義務もございます」

「ですから私は、金輪際お暇をいただく積もりはございません」

決然と言い放ってヨシエさんは部屋を出ていった。 




そうなのだ。僕はいま、綾波レイとともにここで暮らしているのだ。


綾波レイ、彼女がいなければ、多分僕はこうして生きてはいられなかっただろう。




あの日、9体のエヴァが第三新東京市に攻め込んできたとき、
僕と綾波レイはともにエヴァに搭乗して彼らを迎撃したのだ。

僕ら二人は、協力して、地上で4体のエヴァを撃破した。


でもそのとき既に残る5体のエヴァは、ジオフロント内に侵入していた。

追撃しようにも僕らのエヴァは傷付き、アンビリカルケーブルも切断されて、動くことさえままならなかった。奇跡のような”暴走”は起きなかった。



突然、僕の視界は真っ白になり、次の瞬間ものすごい力で吹き飛ばされた。

「サード・インパクト」僕の心に最後に浮かんだ言葉だった。
僕の記憶はそこで途切れた。 




僕が気がついたとき、僕は綾波に抱かれていた。



『・・碇君・・』

「・・綾波・・僕らは・・生きてるの?・・サード・インパクトが起こったのに・・」

『・・違う・・サード・インパクト、じゃないわ』

「えっ、違うの、それじゃあ?・・」僕は、身体を起こす。

僕は遙か遠くに白いキノコ雲が立ち上っているのに気がついた。

「あ、あれは?」

『NERVの、あったところ』レイが答える。

「そ、それじゃあ・・」 



5体のエヴァがジオフロントの奥深くに侵入したとき、
絶妙のタイミングで、司令所にいた誰かが自爆装置のスイッチを押したのだ。 5体のエヴァは爆発に巻き込まれ破壊された。

NERV本部もジオフロントも消滅した。その上にあった第三新東京市も事実上消失。


みんな死んでしまった。
ミサトさんも、マヤさんも、日向さんも、青葉さんも、冬月副指令も、

・・・そして、父さんも・・。

いくら敵を殲滅するためとは言っても、こんな玉砕戦法に何の意味があるというのだろう。


爆発による破壊はすざまじいものだった。
ジオフロントのあった所は、直径10キロ深さ1キロメートルの巨大なクレーターになっていた。
遺体の捜索は事実上不可能だった。

しかし、あの爆発の中心にいた人々が生き残ったとはとても思えなかった。 



まもなく僕らは、災害救助の名目で出動した戦略自衛隊に”保護”された。2体の動けないエヴァと共に。

僕らは別々に監禁され、長時間にわたる尋問を受けた。

彼らの知りたかったのは、来襲した敵の正体のことでも、ジオフロントの消失の理由でもなく、エヴァそのもののことだった。

僕ら二人だけが生き残った事にも大分興味があったようだが、それもエヴァの特別の力のせいだと彼らは思っていたようだ。 

けれども、僕らは彼らを満足させるようなことを何も言うことは出来なかった。

実際、僕らにはほとんど何もわかってはいなかったんだから。



突然、僕らは釈放された。待っていたのは、ヨシエさんだった。


「あなたの曾祖母様がお待ちです」

ヨシエさんがそう言ったとき、僕は自分の耳が信じられなかった。

「僕にそういう人がいたんですか?」思わずそう聞いてしまった。

考えてみれば、人間である以上、誰だって誰かの孫であり、曾孫なのだ。
それに気づくと僕は赤くなり、下を向いてしまった。

「あなたのお母様ユイ様のお祖母様、あなたにとっては、曾祖母様に当たられます」

ヨシエさんは、当たり前の事を噛んで含めるように僕に告げてくれた。

奇妙なことに、僕はそのとき、この人は信じられる人だと思った。



綾波は人見知りのせいか、どこか胡散臭そうに、彼女をみていたけれど・・・。
 



ご隠居様・・。 
自分の曾祖母をそう言う風に呼ぶのは少しおかしいけど、家中が彼女をそう呼んでいたし、僕や綾波がそう呼んでも、特別咎め立てする人もいなかった。

ご隠居様もそれでかまわないという風で、僕らもいつしかそう呼ぶことに馴れてしまった。



ご隠居様に初めて会ったときの印象。それは「小さい人」ということだった。

その時、彼女は既に満90歳を越えていたはずだが、その姿はどこか威厳に満ちていて、彼女を前にすると自然の背筋がのびてしまう、そんな「力」を持っていた。
それでいて、皺の奥から僕らを見つめる眼差しには、言葉には尽くせない優しさがあった。 



一通りの挨拶を済ませると、ご隠居様はこう言った。

「・・・それでねシンジ君、レイちゃんの戸籍の事だけど」

「は、綾波の戸籍、ですか?」

「私の親戚ということにしたから・・」

僕は何のことかさっぱり解らなかったけど、綾波には戸籍というものがなかった。

ご隠居様は、僕たちのことを何もかも調べ尽くし、すべてを準備していてくれたのだ。



3日後、届いた戸籍データを見たときには、もっと驚いた。
綾波は、ご隠居様の実家の(偶然にも、彼女の実家は綾波姓だった)ご隠居様の弟の、孫の一人として戸籍が作られていた。
それも14年前の日付で。 僕はそのとき思い知ったのだ、ご隠居様の、碇家の持つ力というものを。

戦略自衛隊から、突然解放されたのも、ご隠居様がその力をふるった結果に違いない。
そうでなければ、今頃僕らは、闇から闇へ葬り去られていたかもしれない。 


戸籍データが届いたとき、ご隠居様はとんでもないことを言い出した。

「レイちゃんがこの家にいる、正当な理由付けが必要ね・・それじゃレイちゃんは、親同士が決めたシンジ君の許婚者ということにしましょう。碇家の家風に慣れる為に住み込みで花嫁修行中ということで・・・それで構わないわね」


「・・・え、ええ、そんなこと急に言われても・・」

僕はなんと答えたら良いかわからずに、隣に座っている綾波に視線を向けた。



綾波は僕の方を、チラリと見てからこう言った。

『・・・はい、構いません』  


僕はあまりのことに言葉が出なかった。だいたい綾波は「いいなずけ」の意味を知っているのだろうか。
僕だってご隠居様が何を言っているのかすぐには解らなかったのに。   


後で僕は、綾波に聞いてみた。

「綾波は、あの人の言ったこと本当に解ったの?」 

綾波は、なぜか恥ずかしそうに下を向いたままだったが、やがてこう言った。


『私・・・碇君の赤ちゃんを、産みたいの』

「えっ」

僕はその場で茫然自失となり、固まってしまった・・・。




誰かが僕を呼んでいる。僕は声のする方に視線を向ける。

『・・・碇君、どうしたの?』

「あっ、綾波、おかえり。何時帰ってきたの?」

『ついさっき。何を、考えていたの?』

「う、うん。ご隠居様のことを思いだしていたんだ」

僕は赤くなっているはずの顔を見られないよう、下を向き、半分本当のことを 話した。 

『そう・・・』感慨深げにレイは答えた。


「陶芸教室はどうだった?楽しかった?」

『ええ、とっても』


綾波は今、芸術専門高校の造形部陶芸科に通っている。僕は同じ学校の音楽部 器楽科の生徒だ。 
僕は高校に進学することにそれほど興味は無かったが、勉強そのものよりも同 じ世代の子たちと触れあうことが大事だという、ご隠居様の薦めもあり行くこと にした。 

今日は土曜日で、学校は休みなのだが、綾波の先生でもある陶芸家がこの屋敷の近所に窯を開いており、主に情緒の不安定さが原因で学校生活になじめない子供たちを集めて、ボランティアの陶芸教室をしている。

綾波は家が近所ということもあり、二学期が始まった頃から、月に2回のこの教室を手伝いに行っている。



『子供たちを見ていると、それだけで・・・楽しいわ』

(最近の綾波は、よく子供のことを話してくれる)

「そ、それは良かったね・・・・・それからね、さっき田中さんがここを辞めたいって言ってきたんだ。僕は了承したよ。代わりの人を見つけてくれるって言ってたから、それまではいてくれると思うけど。」

『そうなの、それは残念ね・・・着替えてくるわ』

そう言って綾波は部屋を出て行った。





綾波が着替えを終えて、僕の部屋に入ってきた。

今着ているのは、薄いブルーのノースリーブのワンピースだ。

彼女の細いが、それでいて張りのある両肩が見えている。僕はその美しさにドキリとした。


「あ、綾波、きれいだ。とてもよく似合うよ」

『ありがとう』綾波はニコリとして言った。 


僕は、綾波のこの笑顔に弱いのだ。
この顔で見つめられると、僕の顔は自然に赤くなり、僕は下を向いてしまう。


「あっ」綾波が僕の後ろに回り、背中から僕を抱きしめる。そして耳元でささやく。

『碇君、今夜は一緒に寝ましょう、ね

綾波はそれだけ言うと部屋を出ていった。

「えっ・・・えー

僕は驚いた。綾波、君はなんて大胆なことを言い出すんだ。


「う・・」痛い、綾波の言葉に刺激されたのか、僕の一部が”膨張”してしまった。

僕はあわてて立ち上がり、ズボンの”中身”の位置を直す。 



しかしなぜ今日に限って、あんなことを言い出したのだろう。 



(まさか、子供が欲しくてあんな事を、駄目だ16歳で父親になるなんて・・・)

(確かに碇家の財産を以ってすれば、僕が働きに出なくても子供くらい養うことはたやすいことだ。しかし結婚もしない内から子供がいるなんて、そんな恥ずかしい)

(・・でも綾波が望むなら、僕は”協力”することにやぶさかではない・・いや、やはり駄目だ・・・)


僕は、綾波のさっきの言葉に呪縛されてしまい、思考の無限ループに入り込んでいた。



「ピン・ポーン」インターホンのチャイムが鳴った。


「はい」

『碇君、食事の支度ができたわ』

僕は、綾波の声を聞いただけで、”膨張”しそうになるのを感じた。

「う、うん、直ぐに行くよ」



「すー、はぁー、すー、はぁー、すー、はぁ」



深呼吸を3回して、ようやく僕は、僕が落ち着くのを感じた。これで大丈夫だ。

僕は、自分の部屋をでて食堂に向かった・・・。



つづく ver.-1.00 1997- 4/26公開

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.comまで。



【次回予告】

レイへの激しい欲望を自覚するシンジ。

今夜、二人の間になにが起こるのか。

果たして、濡れ場の書けない作者は、読者にサービスできるのか!?

次回、2・YEARS・AFTERをお楽しみに・・・・・。

 [綾波 光]が新連載【2・YEARS・AFTER】を始めました(^^)/
 第壱回 を公開します!!

 [綾波光]さんの十八番シンジxレイ物ですね!!
 オリジナル設定を上手く映画化の続きという形に持って行っていますね、上手い!!

 お屋敷に住む富豪で大権力を持った(?)シンジ君とレイちゃん・・・・・・

 シリアスっぽい始まりですけど、後半濡れ場の予感が・・・(^^)
 このまま行くのか、ギャグが入るのか、それとも・・・・・

 早く続きを読みたいですよぉぉ!!

 訪問者の皆さん!
 新連載を始めた[綾波光]さんにエールを送って下さいね!!


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