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【また会う日まで】
作・H.AYANAMI 

昨日、アスカがドイツへ帰った。

もちろん一人ではない。ドイツから迎えに来た人がいたのだ。

エリーナ・フォン・グスタフ・ラングレー、アスカのお母さんだ。

気丈な人だった。変わり果てたアスカの姿を見ても涙一つこぼさなかった。

僕は、一瞬誤解した。

(なんて冷たい人だろう)
 
でも間違いだった。僕が病室を出ようとして、ふと振り返った時、僕は見たのだ。

アスカの傍らに座る彼女が肩をふるわしていたのを・・・。

家族の愛は決して、血のつながりだけではない、そう思った。



アスカがここを去るとき、見送ったのは、僕と、ミサトさんと、そして洞木さんだった。

洞木さんには、ミサトさんが電話してくれたのだ。

ここでのアスカの一番の友達が、洞木さんであることを、ミサトさんはちゃんと知っていた。

洞木さんは、片道3時間もかけてわざわざ見送りに来てくれたのだった。


車椅子に乗せられたアスカは、洞木さんが泣きながら、いくら声をかけても何の反応も見せなかった。

見ている僕の方が・・・つらかった。


アスカを乗せた車が出るとき、アスカのお母さんは最後にこう言った。

「アスカハ、キットヨクナリマス」

「アウフ・ヴイーターゼェン」



僕は彼女の言葉を信じた。なぜだか分からないけど、そう信じられた。

 




 

今日は、綾波による弐号機の起動試験だ。5回目の。

弐号機は修理を終えると同時に、綾波が乗ることになり、コアの変換も済んでいる。

しかし過去4回の試験では、綾波が起動に十分なシンクロ率を示しているにも関わらずいずれも起動しなかった。

NERV技術陣にはその理由がつかめていなかった。



弐号機は起動した、それもあっけなく。

過去4回の試験結果は一体なんだったんだろう。


綾波が戻ってきた。

「良かったね、綾波。うまくいって」僕は言った。

「彼女は、心を開いたわ」それだけ言って、シャワールームの方へ行ってしまった。


(彼女?彼女って誰のことだ)


僕には綾波が何を言っているのかまったく解らなかった。

 


 

最近、僕は綾波と一緒にいる時間が多くなった。

ミサトさんは相変わらず遅いから、夕食は済ましてくることが多い。

一人分の夕食を作るのはなんだか虚しい。

だからミサトさんが遅くなることが分かっているときは、夕食は綾波の家で作る。

 

綾波は肉類を口にしない。かろうじて食べられるのは、数種類の魚ぐらいだ。

必然的に魚料理が多くなる。今日はぶりの照り焼きにした。

綾波は最初のうち、ただ僕の作業を見ているだけだったが、やがて自分もやってみたいと言い出した。

最初の内はあぶなかしかった手つきも、今ではずいぶん手慣れて安心して見ていられる。

綾波は何も言わないけれど、僕が来れない時の夕食や、朝食も手作りしているらしい。

冷蔵庫の中を見れば、直ぐに分かることだ。

初めて開けてみたとき、そこには食品らしいものはほとんど入っていなかった。

今では一通りの食材が揃っている。もちろん肉類はなかったが・・。


食事の用意が出来た。二人でテーブルに並べ、向かい合って座る。

「いただきます」僕が言う。「・・いただきます」綾波も言う。

食事を始める。食事中、僕らはほとんど話さない。

綾波は極端に無口だから、無理に話をさせたいとは思わないからだ。

食事が終わる。

「ごちそうさま」僕が言う。「ごちそうさま」綾波が言う。


「・・碇君、日本茶でいい?」綾波が聞く。

「うん、ありがとう」僕が答える。

綾波が電気ポッドから急須に湯を注いでいる・・僕の前に熱いお茶が置かれる。

(こうしてると、まるで新婚家庭だな)

僕は中学生にあるまじき感慨を抱く。

綾波の方を見る。何かを考えているのか、うつむいたままだ。

(きれいになった)

(いや、元々きれいだったけど)

(最近、急に女らしくなった)


綾波が急に顔を上げた。

僕は、綾波に見とれていたのを誤魔化すために、あわてて下を向く。

「バカシンジ!」

「えっ」僕は驚いて顔をあげる。そこにいたのはアスカ、ではなく綾波だった。

でも確かに今・・・。

「・・碇君・・あの子が居なくなって・・寂しい?」綾波が僕に尋ねる。

(あの子?アスカのことか。綾波は、なぜそんなことを聞くんだろう)

「答えて」

(僕は寂しい、のだろうか? 僕には綾波が居てくれるというのに・・)

「 うん、寂しいと言えば、寂しいよ」

「・・そう」

「でも、アスカは心を閉じてしまっていて」

「僕が呼びかけても何の反応を示さなかったから」

「僕は結局、何の力にもなれなかったから・・これで良かったと思う」

「・・そう」

「・・碇君・・まだ解らないのね・・」綾波が僕に言う。

「・・綾波、何のことを言っているの?・・解らないって、僕が何を解らないって言うの?」

僕は、綾波の言いたいことが解らずに混乱した。

「・・本当に心を開くこと・・」綾波がぽつりと言った。

「・・本当に心を開くこと?」僕は、ただ綾波の言葉を繰り返した。

「そう、あなたが、本当に心を開いて見せられれば、あの子を救えたかもしれない」

(本当に心を開く)

(本当に心を開く)

(本当に心を開く)

心の内で、僕はその言葉を繰り返した。

しかし、その言葉の意味を得ることは出来なかった。


「碇君・・帰って」突然、綾波が僕に言う。僕は驚いて綾波の顔を見る。

綾波の顔には、何の感情も浮かんではいない。

いつもとは全く違う。

いつもなら僕が帰ろうとすると、むしろ引き留めるのは綾波の方だったのに・・。


「ど、どうしたの、綾波?」あわてて僕は聞き返す。

「・・どうも、しない」綾波の返事はそっけない。


(綾波に嫌われた!?)  


「綾波、どうしたの? 僕が何か悪いことしたの?」


「何が悪かったの?教えてよ、いくらでも、あやまるから!」


僕は泣いていた。恥ずかしいとか、そんなことは思いもしなかった。

大声を上げて、ただ泣き続けた・・・。






「碇君・・碇君・・起きて」遠くで、綾波が僕を呼んでいる。

「あ、綾波・・」僕は綾波の腰に抱きついた。

「ごめんよ、ごめんよ、だから許して」

僕は泣いていた。綾波の腰にすがりついて泣いていた。

綾波は優しく僕の頭を抱いていてくれた。

「・・怖い夢を、見たのね」

夢?、そうか僕は食事の後、座ったまま眠ってしまっていたのか。

「・・うん、怖い夢だった」

「どんな?」

「ごめん、今は言えないんだ・・・いつか話すよ」僕はそう言った。

綾波は、黙って肯いてくれた。

「ありがとう、綾波、僕を信じてくれて」

「碇君・・そろそろ」

綾波の言葉を聞いて僕は時計を見る。午後9時を回っている。

「うん、そろそろミサトさんも帰る時間だから・・・」

「・・碇君、また明日」

「うん、また明日」僕はいつもするように綾波に軽く口づけをする。

「明日の起動試験、きっと大丈夫だよ」僕は綾波に言う。

「うん」微笑んで綾波が応えた。
 


 

僕がミサトさんのマンションに戻ったとき、ミサトさんはまだ帰っていなかった。

家の中にはいる。なんだかいつもと違う気がした。

ふと見ると、アスカの部屋の扉が開いている。部屋の中を覗いてみる。

ガランとして何もない部屋。

そうか!アスカの荷物は、昨日すべて運び出されていたんだっけ・・・。


僕は、僕のことを怒ってばかりいた少女を懐かしく思い出す。

(ごめんよ、アスカ。君をたすけられなくて)
 

「アウフ・ヴイーターゼェン、アスカ・・・いつかまた会える、その日まで」  

 

 

【また会う日まで】END  


ver.-1.20 1997- 04/18

ご意見・感想・誤字情報などは iihito@gol.comまで。


【作者の部屋】
・・・私は、今、「遺書」を書き終えたところです。

このように「あっさり」アスカちゃんをエヴァ世界から「退場」させてしまってた以上、世の数多くのアスカちゃんファンの恨みを買うことは、まず間違いありません。

・・覚悟は出来ているつもりです。

作者は、決してアスカちゃんの事が、嫌いなわけでも憎んでいるわけでもまして恨んでいるわけでもありません。
ただアスカちゃんみたいな女の子が少し「苦手」なだけなんです。

ただそれだけなんです・・・。

 「ピンポーン」

あっ、もう「暗殺者」の方がいらしたようです。

あとはただ・・・ひとおもいに「殺って」くれることを願うばかりです。

それでは、短いおつきあいでしたが、お世話になりました。さようなら・・・・。


 [綾波 光]さんの短編、【また会う日まで】公開です!!

 どわわわぁぁぁ・・・・一言もないままアスカ退場ですかぁぁぁぁ・・(;;)
 あ、一言あった・・・シンジの空耳で・・・(爆)

 確かに本編からの続きを書いているとアスカの扱いをどうするかは難しいですね。
 私なんかは[学園EVA]に逃げているし・・・・

 綾波光さんのようにアスカ問題にスパッと決着を付けてしまって
 レイに集中するというのは、かなり ”いける手”の様な気もしますよ!
 

 さあ、訪問者の中のレイにメロメロな皆さん!
 [綾波光]さんに「よくやった」のメールを!!
 それと、訪問者の中のアスカに萌え萌えな皆さん!
 [綾波光]さんに「よくもやったな」のメールを!!(笑)


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