Das Wiedersehen
作成 : 1997年10月15日
「このかいしょなしっ!!
もう、しらないわよっ、バカッ!!」
今朝、アスカに言われた言葉が、再び僕の脳裏によみがえって来る。
確かに、それはその通りだった・・・
素直に認めよう・・・ 残念ながら・・・
・・・・・・・
いいや、こういう形で、事を納得させちゃいけないぞ、碇シンジ!
そうさっ、僕は絶対に悪くない。
悪いのは、何時も何時も無理難題を吹っかけてくるアスカの方なんだよ。
よし、家に帰ったら、今日の今日こそ、ビシッと言ってやる、
『そんな分からず屋とは離婚だ!!』って。
ふふっ、今の今からアスカの泣きっ面が目に浮かぶようだよ。
そしたら、いくらあのアスカだって、少しは一家の主に対する態度ってものを・・・
・・・改める訳はないんだよなぁ、どう考えても。
はぁ〜、どうして、急にあんな事を言い出したんだよう、アスカ?
公務員の稼ぎが雀の涙なんだってことは、アスカも知ってるだろう?
それでも、アスカと二人(そして、もう一人くらいは)、慎ましく生きていける
だけの給料を、ちゃんと毎月稼いで来ているじゃないか。
一体、何が不満なのさっ? 言ってごらんよ?
「あんたバカァ? 鈴原家の家屋敷を見てみなさいよ。もう立派なこと、立派なこと。あんまりにも凄いんで吃驚しちゃったわ。ヒカリも幸せよねぇ。頼り甲斐のある亭主に恵まれて」
・・・ぐっ・・・
ほら、トウジは町一番の開業医なんだし、単純な比較なんて
この場合、意味を成さないと・・・
「相田家では、今度、自家用クルーザーを購入する予定なんですって。
景気の良い話だわ。どこかの貧乏夫婦とは、えらい違いよねぇ〜」
・・・ケ、ケンスケは、新進気鋭の売れっ子カメラマンなんだから、
この際、僕たちと比べようという発想からして、そもそも間違っているんじゃ・・・
「あ〜あ、頼り甲斐のない亭主を持ってるのは、私だけなのね。私って、世界一、不幸な女。ささやかな望みさえも、叶えてもらえそうにない」
さ、ささやか!? あれがかい、アスカ?
僕らは、まだ三十路前だよ?
いくら僕にだって、出来ることと出来ないことがあるさっ
無理無理、絶対に無理!!
バブルが復活している今時の土地事情で、いきなり都心の庭付き一戸建てなんて、
どう足掻いても無理に決まってるじゃないか
ねぇ、アスカ、そんなことよりも、早く行ってらっしゃいのキスをしておくれよ。
もう出かけるんだからさぁ。
「・・・このかいしょなしの唐変木っ!!
もう、しらないわよ、バカっ!!」
・・・ふう〜、やっぱり、悪いのは僕なのか・・・僕なんだよなぁ。
・・・アスカの機嫌・・・直ってるんだろうか・・・
・・・直ってるといいなぁ・・・
当分の間は、見込み薄だけど・・・
「おやおや、碇さんがこんな時間まで飲み続けているなんて、珍しいですよねぇ。
どうしたんです?
また、何時かの時みたいに、奥さんが恐くて家に帰れないって言うんじゃないでしょうねぇ?」
ドキッ
ハッハッ、そんな事ある訳ないじゃないですか、マスター。
大丈夫です。うちは亭主関白なんですから。
ちょ、ちょっと、何ですか、マスター、その疑いの眼は?
嘘じゃないですよ、僕はアスカなんか、ちっ〜とも恐くありません。
ただ、不思議ですよねぇ。今日はアスカに関係なく、朝まで飲んでいたい気分
なんですよ。
ほら、僕って、お酒大好きですから。
五年に一度くらいは、そういう気分になるんです。
本当です。信じてください。
「・・・なら、良いんですけどねぇ・・・結局、うちは儲かる訳なんだし・・・
でも、碇さん。少しでも奥さんに対して頭下げて謝る気があるんだったら、出来るだけ早い目の方が良いと思いますよ、私は」
やっぱり、マスターだって、そう思いますか?
僕も、うすうす、そうした方が良かったんじゃないかとは・・・
・・・って、何を言わせるんですか。 違うって言ってるでしょ。
他人が聞いたら誤解するじゃないですか、マスター
だって、アスカは ・・・ アスカなんて ・・・
でも、アスカだから、やっぱり ・・・・・・
・・・ ねぇ、マスター・・・ どうして分かっちゃうんですか?
ひょっとして、マスターというのは仮の姿で、実は地球を守るエスパーだった
という設定の可能性は・・・
「馬鹿言わないでください。普段、寡黙な碇さんが、これだけ悪酔いしていれば、誰だってピンと来るものがありますよ。大恋愛の末にゲットした御自慢の奥さんなんでしょ?
もうそろそろ、切り上げて帰ってあげた方が・・・・
あっ、いらっしゃいませ。奥のテーブルが空いていますよ」
「カウンターでいいわ」
うっ、そんなにパッと見て分かりますか? おかしいなぁ。
昔は、アスカから、綾波と二人して、何考えてるのか分からないって
よく言われたもんですよ。
『仮面を付けてるんじゃないの?
あんた達』ってね。
でもね、マスター。
ヘッヘッ、僕には、ちゃ〜んと分かっていましたよ。
真実を隠して人に接していたのは、アスカも同じなんだってことを。
いや、アスカの方が、それは酷かったんじゃないかな?
その点、綾波という女性は・・・
「綾波という女性は? 」
おや? まるで綾波のようなお声のお隣さん。
綾波の話に興味をお持ちですか?
いいですよ。本格的に話しましょう。
そもそも、綾波という女性は、僕にとって、とっても、とっても大〜事な
仲間だったんです。
そして、今にして言うのも何なんですが、これがまたよく出来た女性でしてねぇ。
あの頃から可愛げのなかったアスカなんかとは、それはもう月とスッポン。
常に僕のことを心配・・・
・・・って、あれ? お隣さん。何で笑っているんですか?
えっ? まだ気付かないのか、ですって。
一体、何に気付けって言うんですか?
あなたの輝けんばかりのお美しさ以外に、目に付くものなんて、僕には何も・・・
・・・あれ? そう言えば、お隣さんも水色の髪、何ですねぇ。奇遇だなぁ。
ちょうど綾波の髪の毛っていうのも、こういう感じでしたよ。
それに、瞳も赤いみたいだし、言うなれば、綾波が、そのまんま成長したって
感じの・・・感じが・・・感じで・・・
あり、おり、侍り、いまそかり・・・・・・
・・・ええっ!?
そ、そんな馬鹿な?
「くすくす、お久しぶりね、碇君。
大事な仲間・・・の綾波レイを、もしかしてお忘れ?」
本当に、本物なの!?
うっ、嘘だろ? どうしてここに綾波が。
だって、綾波は・・・そんな・・・ええっ!?
「おや、碇さんのお知り合いの方だったんですか?
でしたら、サービスさせて頂かないといけませんねぇ。ご注文は、何にいたしましょう?
初めのオーダーは、 私の方から奢らさせていただきますよ」
「ありがとう、マスター。それじゃ、テキーラ・サンライズを」
「かしこまりました」
マスターが、テキーラ・サンライズを用意している間にも、
呆然としている僕に向かって、綾波は、にっこりと微笑みを投げかけて来る。
髪が少しだけ伸びているということ。
以前にも増して、女らしくなっているということ。
そして、何よりもまず、綾波の表情がとても豊かになっているということ。
それら全ての事象が、無様な僕を驚かす。
そこには、僕の知り得る綾波以外の綾波が座っているのだ。
「あ、あのう、綾波。君は・・・」
「二人の再会・・・に乾杯」
綾波のグラスと僕のグラスが、澄んだ音を響かせる中、
この出来事は、きっと夢であるに違いないと考える僕・・・
アスカに合わせる顔が無くって、無理してお酒をのみ続ける内に、
何時の間にかマスターの店で眠ってしまったとでも言うのだろうか?
誰かに全てを許して欲しかったという僕の甘えの願望・・・
きっとそうだ。そうなのだろう。でないと、こんな事は想像もつかない。
あの時の綾波レイという14歳の少女は、確かに僕とアスカ生命を守る為、
微笑みながら、自らの死という物を選択していった筈だったのだから・・・
○ あとがき
唐突ですいません。BIG.T です。(^^;
某パソコン通信ゥらインターネットの方に移転して以来、約三ヶ月。
HPを自分で開設して、そのHPに、そこそこ見物客が現れて・・・
はっきり言って、私は、今が一番楽しい盛りです。(^-^;
今回は大家の神田さんの御好意により、「めぞんEVA」内でも
私の作品を発表出来るお部屋を持たせて頂く事が出来ました。
基本線が厚かましい上に、ふつつか者な私ですけれど、
皆さん今後とも宜しくお願いいたしますね。m(_ _)m
入居一時凍結限定的解除(何が何だかわからない言葉だ(^^;)から二人目の御入居者です!
めぞんEVA通算75人目の住人はHP【Viaggio Bleu】のBIG.Tさんです(^^)
奥さんのアスカと喧嘩したシンジ、
魅力的な綾波との再開・・・
おおおお!
シンちゃん、
いっけないんだ〜
と、いう展開にはなるのかならないのか(^^;
死んだ筈の彼女がここにいる。
謎めいたシチュエーションで、
転びやすいシチュエーションでもありますよね・・
さあ、訪問者の皆さん。
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