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「シンジ、よくがんばったな・・・・卒業おめでとう」

「ありがとうございます。先生」

「こいつは俺からのご褒美だ」

「?・・・・アメリカへの往復航空券??」

「今まではネットの授業だけだろう?・・・・夏休みを利用して卒業式に出席しろ」

「・・・・え?・・・・でも卒業式って時期じゃありませんよ?」

「大したこと無いさ。ちょっと大学当局にお願いしたら、お前の為に卒業式をしてくれるとさ」

「んもう・・・・でも、ありがとうございます・・・・ってなんで往復の航空券の間が1ヶ月もあるんですか?」

「特訓さ」

「特訓?・・・・(嫌な予感がするなあ・・・・)なんの特訓ですか?」

「(ニヤリ)日本じゃ出来ない事さ」























It’s a Beautiful  World
外伝「正しくない子供の育て方」













太平洋を押し渡りゲートシティのワシントンDCまで飛び、そこからさらに飛行機を乗り継いで1時間20分。

ローガン国際空港に到着する。

アメリカでも最も古い都市の一つに数えられるボストン。

空港からさらに地下鉄を乗り継いで、ハーバードで下車。

Harvard・University、ハーバード大学。

1636年に創立された、伝統あふれるエリート校。合衆国最古の大学として、最高水準の教育体制を維持している。

6人の大統領、31人のノーベル賞受賞者、30人のピューリッツァー賞受賞者を輩出している。

シンジは今、そのアメリカ最高峰の大学の学長室にいる。

史上最年少の博士課程を修了するために。

「ミスター・イカリ。君はこのハーバードの誇りだ。我々としても鼻が高いよ」

頭の毛のほとんどが白髪の老人がそうつぶやく。

彼がこのハーバードの学長なのだ。

「ありがとうございます。僕も本当に全課程が修了できるとは思っていませんでした」

老人はそれを聞いて、年齢にふさわしい落ち着いた笑いを漏らすと、

「ほっほっ・・・・話半分に聞いておくよ。なにせ君の成績は”抜群”という言葉ぐらいでは追いつかないからな!」

シンジは野分「先生」ユウジが見つけてきたハーバードのネット学生の公募に参加して、定員30名のそれに見事トップで合格してこの大学と関わりを持つようになった。

それからも4年間の全過程を2年で終わらせ、それからは大学側の好意でネットにシンジ専用の区画を設け、そこで大学院の教育を受けた。

それすらも規定の半分以下の期間で修了してしまったが。

ちなみに、シンジはともかく、大学側も史上最年少の博士誕生を外部に公表していない。

シンジの強い要望を聞きいれてのことなのだが、これがもし日本の大学なら宣伝効果絶大と見て、躊躇なくマスコミに公表しただろう。

このあたりが”伝統”なのだろうか?

「しかし、君に院に残ってもらえないのは残念だよ」

「すみません・・・・御厚意は感謝していますが・・・・」

「いやいや、かまわんよ。院のような閉鎖されたところで研究しても良い結果が生まれるとは限らんしな」

「すみません・・・・」

「それはそうと・・・・これが最後になるかもしれん(ワシは棺桶に片足を突っ込んでいるしな!)。聞きたい事がある」

「なんでしょう?」

「・・・・君はなぜ心理学を専攻したのかね?・・・・こう言ってはなんだが、見栄えの良い物はいくらでもあっただろうに?」

シンジは微笑みながら頬を指先で掻く。

「・・・・・・・・僕も最初は心理学なんて、存在すら知りませんでした・・・・でも、そんな時にある女の子と知り合いました」

「・・・・・・・」

「その子はある出来事が原因で心に深い傷を負っていました・・・・子供には重過ぎるものを背中に背負っていました・・・・」

「・・・・・・・・」

「その子を助けたいから、と言ったら笑いますか?」

学長は大きく肯くと、

「それでいい・・・・・・・・実を言うとな、『人間の心を研究したいから』などと答えたら博士号はやらんつもりだった」

「えぇ!?」

「研究の為の研究ほど馬鹿げた事は無いからな!・・・・・・・つまり、これが卒業試験ということだ!・・・・合格だよ。ミスター・イカリ・・・・いや、ドクター・イカリ」

シンジは不覚にも涙腺が緩んでくるのがわかったが、なんとか堪えた。

「ありがとうございます!」

「ほっほっ・・・・君のこれからの人生に幸あらん事を。それと件の娘さんにもな」









「お、終わったか?」

ユウジはシンジの帰りをボストン市内のホテルで待っていた。

「ええ。でもヘンな感じですよ・・・・卒業生が僕だけなんですから」

「いいじゃないか。優秀な学生は優遇されるべきだ」

シンジは少し微笑む。

「またそんなこと言って・・・・」

「さて、それじゃあ移動するぞ」

「どこへ行くんです?」

「ニューヨークさ」

「えーと・・・・セカンドインパクトの後の混乱でロシアの反応弾が放り込まれた所ですよね?・・・・なにかあるんですか?」

「なにかあるのかと言えば・・・・ばかでかいクレーターがあるだけだな」

「??」

「とりあえずは何をやっても文句がこないからさ」

「・・・・・」

























合衆国、ニューヨーク州、ニューヨーク上空5000m。

シンジはなぜかここにいた。

どこから調達してきたのか、軍用の輸送機の片隅で準備を整えていた。

なんの準備か?

ここから「降りる」準備だ。

上空から眺めるビッグ・アップルは・・・・ヒドイものだ・・・・

ちょうどマンハッタンのところにクレーターの中心があり、そこから半径3km程に渡ってクレーターが続いている。

連邦政府がニューヨークの復興を諦めたのもうなずける。

反応兵器のパイ投げは、かくも凄惨な情景を生み出す・・・・

ニューヨークはワシントンDCほど運が良くなかったらしい。

「・・・・・・・・・先生、ほんとーにやるんですか?・・・・」

ジャンプスーツに身を固め、その上からパラシュートを背負ったシンジが情けない顔で尋ねる。

「当たり前だろう。でなきゃこんな所に来るか」

「はあー・・・・」深いため息をつくシンジ。

やはり同じような装備を身につけたユウジが機内の下士官と思われる男に手振りで合図する。

すると、C−260と呼ばれる戦術輸送機の後部カーゴベイが開かれていく。

この機体は傑作と謳われたC−130の胴体を延長し、エンジンを強力なものに積み替えたものだ。

ペイロードはほぼ前作の倍になっている。

「よし、行け!!」

なかば(いや、もしかしたらなかば以上)ヤケになったシンジはカーゴベイに向けて走り、最後のステップを力強く踏んで空中に身を躍らせる。

ユウジも下士官に敬礼すると、すぐにシンジの後を追う。





シンジは驚いていた。

いや、恐怖感からではない。むしろその逆だ。

気持ちいいのだ。

地球の重力に身を任せて漂うのがこれほど爽快なものとは思っていなかった。

違う視点から見れば、シンジは重力加速度によって石の様に落下しており、パラシュートが開傘しなければ地上に叩き付けられて即死の運命なのだが。

そうこうしている内にだいぶ高度が落ちてきたのでパラシュートを開き、目標を目指す。

シンジは気付いていないが、シンジの頭の上にはユウジがいて、不測の事態に備えている。

やがてゆっくりと、鳥が地面に降り立つようにふわりと着地する。

10秒と経たないうちにユウジも着地する。

「どうだ?」

「ええ・・・・楽しいですよ」

「じゃあまた上がるぞ」

「え?」

「当然だろう。Hi−Hi(高々度降下・高々度開傘)Hi−Lo(高々度降下・低高度開傘)Lo−Lo(低高度降下・低高度開傘)すべてをマスターするまで終わらんぞ」

「・・・・・・・・」

シンジは目の前が暗くなるのがわかった。





















ニューヨーク州とニュージャージー州の州境。さびれた倉庫の一つ。

シンジはなぜか目隠しをして銃器の分解組み立てをしていた。

なぜか?

・・・・やれと言われたから。

「先生・・・・これ、なんの役に立つんですかあ?・・・・」

と言うシンジの疑問に対してユウジは、

「こんなご時世で、男が銃の一丁も扱えんでどうする」

シンジはとりあえず7日間をかけてすべてをマスターした。

拳銃、ライフルは言うに及ばず。

自動小銃、短機関銃、重機関銃・・・・

挙げ句の果ては対戦車ミサイルや携帯型の対空ミサイルの扱いまで覚えさせられた。

「先生・・・・こんなもの、どこから持ってきたんですか?」

スティンガーと呼ばれるミサイルを肩に担いだシンジが尋ねる。

今のシンジの体格にはちょっと大きすぎるシロモノだ。

「ん?・・・ああ、こっちの軍隊に知り合いが何人かいてな・・・・そのつてで分けてもらったのさ」

『知り合いだからって・・・・簡単に分けてもらえるような物なのかなあ?・・・・』

ちなみに、このスティンガー・ミサイルは骨董品に近いものだが、操作方法は最新鋭のものと変わらないため”授業”の教材にされている。

「よし・・・・この辺でいいかな・・・・次のステップだ」





「まだ何かあるんですか?」























同じく州境に近い民間飛行場。

シンジは今度はここにいた。

「・・・・なんですか・・・・これ」

「見ればわかるだろうが?」

二人の目の前にあるのはジェット機。

しかも、ビジネスジェットなどではない、立派な二人乗りの戦闘爆撃機。

F−4E、ファントムU。

軍用機としては骨董品の最たるものである(第3世界などではいまだに現役らしいが)。

しかし、幾多の戦場をくぐり抜けてきたベテランの老兵だ。

「これに乗れ、と?」シンジは、頼むからやめてくれという表情になる。

「ただ乗るんじゃない。お前が操縦するんだ」

シンジは不覚にも倒れそうになった。

そして、このまま気絶してしまえたらどんなに楽だろう、と思った。






ファントムに乗り始めて5日目。

「うわあ・・・・綺麗だなあ・・・・」

「どうだ?・・・実際飛んでみるとなかなかいいもんだろう?」

被ったヘルメットのインカムからユウジの声が聞こえる。

ユウジは縦に並んだ二つの席の後席に座っているのだ。

だが、ユウジは座っているだけ。今は離陸からここまでシンジがすべて行っている。

両手の操作はともかく、足の長さが足りないのでラダーペダルに小さい箱をくくりつけてシンジの足が届くようにしている。

高度1万mをマッハ1.5で飛んでいるのだからさぞ気持ちいいだろう。

「よし・・・・まっすぐ飛ぶのはいいな・・・・レッスン2だ」

「へ?」

「レーダーを見ろ」

シンジが伸びをするようにしてレーダースコープを覗くと、輝点がいくつかある。

「6時の方向に反応二つ・・・・なんです?これ」

「敵機さ」

「はあ?」

「心配するな。アメリカ空軍の最新鋭要撃機はすべて無人だ。叩き落としても人は死なん」

「いや・・・・なんで要撃されなきゃならないんです?」

「そりゃあ、自分のところの庭先で勝手に飛び回られたらこうなるだろ?」

「・・・・・・・・」

どうやら昨日までは飛行が短時間だったので捕捉されなかったらしい。

シンジはここから逃げ出すことは出来ないだろうか?と考えた。

頭の上に緊急脱出用のハンドルが見える。

これを引けば・・・・

シンジの理性がそのハンドルを引く前に、闘争本能が右手の操縦かんを思い切り引かせ、左手はスロットルを一杯まで押し込んでいた。

「よし、いいぞ・・・・こういう場合はとにかく高度を稼げ。高度イコール位置エネルギーだからな」

シンジにそれに悠長に答えている余裕はない。

何もかもが大きめに作られているコクピットの中で忙しく両手両足を動かす。

『こちら合衆国空軍所属機。飛行中のファントムに告げる・・・・ここは合衆国の領空である。ただちにこちらの誘導に従い指定の地点に着陸せよ。繰り返す・・・・』

「先生・・・・本当に人、乗ってないんですか?」

「ああ、こいつは地上の音声を中継してるだけだ・・・・今の内にやっちまえ」

シンジは左目で兵装状態を確認し、右目でレーダーを確認する。

「えーと・・・・じゃあ、撃ちます」

ちょっと自信無さそうにつぶやくと、操縦かんのスイッチを2度引く。

すると、両翼下から盛大な白煙を上げてミサイルが飛翔する。

「敵をレーダースコープから外すなよ。このミサイルはセミ・アクティブ・レーダーホーミングだ。母機からの誘導がないと当たらんぞ」

「はい」

シンジは機体をちょこまかと動かしつづけ、しっかりと2機ともレーダーに捉えつづける。

『ほう・・・・なかなか筋がいい・・・・案外、戦闘機パイロットになったらエースになるかもな』

敵機もむちゃくちゃな機動をして誘導を外そうとするが・・・・間に合わない。

「あ、輝点が消えました」

「撃墜、だな・・・・よし、新手が来る前にずらかるぞ」

「はい」

一気に急降下してレーダー覆域の下に潜り込むと、離陸した飛行場に戻り慌てて逃げ出した。

飛行場から逃げ出す車の中。

「いいんですか?・・・・飛行機あのままにしてきて?」

「ああ、かまわんさ。足がつくようなものは残してないしな」

『そういうことじゃないんだけどな・・・・』























「次はこれだ」

翌日、泊まっていたモーテルから車で1時間ほど走ってから(特訓の一環という事でシンジが運転している)到着したところは・・・・

「今度はこれですか?・・・・」

「そうだ」

二人の目の前にあるのはジェットヘリ。

軍用ではないが、民間用ヘリとしては大型の部類に入る。

「心配するな。今度はスクランブルされるような事は無い」

「はあ・・・・」

ユーロコプター社製、シュペル・ピューマW。

30人乗りの大型ヘリコプターである。

「最終試験を隣の州のペンシルヴァニア州でやるからそこまで飛ばしていけ」

「そんなあ・・・・」

「最初の30分間は教えてやる。だが、そこからはお前が飛ばすんだ」

『・・・・逃げたい・・・・』








ニューヨークとペンシルヴァニアの州境をよたついて飛ぶヘリコプター。

「ほら、ピッチがずれてるぞ!」

「は、はい!」

とはいえ、30分のレクチャーで実際に”飛ばして”いるのだから大したものだ。

ヘリコプターの操縦は固定翼機よりも難しいのだから。

「よし・・・・大体、様になってきたな・・・・じゃあ俺は寝るからさっき言ったとこに持っていけ」

「ええ!?」

「簡単だろう?」

『高度は・・・・1500m・・・・飛び降りたら死ぬかな・・・・』

といってそんな事がシンジに出来るはずもなく、(それが出来るほど弱い人間ではないのだ)四苦八苦しながら、地上管制官に助けてもらいながら、なんとかペンシルヴァニア山中のだだっ広い空地にたどり着いた。

シンジは2基のターボシャフトエンジンを停止させる。

「先生、着きましたよ・・・・あれ?・・・・先生?」

シンジは後ろのキャビンにいるはずのユウジに声を掛けたが返答が無い。

嫌な予感がするが確かめない訳にはいかない。

ベルトを外してキャビンに移動すると、人影はなく1枚の書き置きがあるだけだった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

シンジへ

俺は途中で降りるから着いたところからワシントンDCまで来い。

そこからは交通機関はないから歩きだな。

ま、どんな手段を使ってもかまわんが。

だが、道中何も無いと思うなよ?

すべてに気を配れ。

右を見る時は左も見ろ、前を見る時は後ろも見ろ。

決して油断するな。

んじゃ、ワシントンで会おう。

健闘を祈る。



P・S

ヘリで行こうなんて考えるなよ?

もう燃料は無いはずだからな。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




シンジは書き置きを読み終えると、飛び跳ねるようにコクピットに戻り燃料計を確認する。

「ほとんど無いや・・・・」

確かに、これではエンジンの暖気をしているだけでガス欠になるだろう。

そして航空地図を取り出してワシントンまでの距離を計算する。

「直線距離で200キロ・・・・」

シンジは今度こそ倒れ込んで気を失うのを止められなかった・・・・





















シンジは複数の気配が接近してくる事でようやく精神を常態に復帰させていた。

この辺は伊達に”あの”野分ユウジに鍛えられているわけではない。

シンジは気配を殺してヘリから抜け出して林に潜り込んで様子をうかがう。

すると、3〜4人の男達がヘリを取り囲み、ハンドマイクをむける。

《中にいる者!おとなしく出てこい!・・・・逃げられんぞ!・・・・おめえを捕まえるために州兵も山狩りをしてるんだぞ!!》

見たところ、地元のハンターといったところだろうか?

おそらく”山狩り”とやらに協力しているのだろう。

シンジはこの時点ですべてが読めた。

これは全部”先生”が仕組んだ事だ、と。

『なにも悪い事した覚えはないんだけどなあ・・・・』

そう考えて思い直す。






『無人戦闘機の撃墜は器物破損になるのかな?』






とりあえずシンジはその場をやり過ごし、州兵やハンターと出くわしそうになるたびに隠れたり歩く方向を変えるなどしていたが、ときには州兵から目茶苦茶に撃ちまくられたり、執念深いハンターに追い回されたりしていたが、5日間をかけてひとまず追手から逃げおおせ、小さな町にたどり着いた。(この5日間はサヴァイバルな生活をしてしのいだ)

山中生活で薄汚れた衣服を川で洗い、半日かけて乾かし、それから町に出た。

「ここからどうしよう?・・・・・・・・ハイウェイをのこのこ歩いてたらあからさまに怪しいし・・・・」

町の目抜き通り(とってもささやかなものだが)をそんな独り言をぶつぶつ言って歩いている間にもシンジの脇を車が過ぎ去る。

と思いきや、通り過ぎて停止すると、そのままバックでシンジの横につける。

「ハイ!どうしたの?」(無論英語だ)

ミッドナイトブルーのスポーツカーの窓から顔を出したのは、うら若い美少女。

年齢はシンジと同じくらいに見える。

ショートカットにそろえたブラウンの髪が印象的だ。

見た限りでは日本人にしか見えないが、おそらく日系なのだろう。

シンジの脳裏に思い出されるのは、先生の書き置きの一文。

《ま、どんな手段を使ってもかまわんがな》

『・・・・じゃあ、”どんな手段”でも使わせてもらいますよ、先生・・・・』

そこまでの思考を瞬時に済ませると、

「パパとはぐれちゃったんだ・・・・お金も持ってないし、どうしよう?・・・・」

こちらも無論、英語だ。

インターネット上とはいえ、ハーバードの講義はすべて英文だ(もちろん翻訳ソフトなどの無粋なものは使っていない)。

あとはユウジに、

「英語ぐらい読み書きは当たり前。会話が流暢に出来て本物だ」

と、これについても特訓を受けた。

シンジはそんな流暢な英語(米語ではない)を操りながら困った表情を作る。。

プロの俳優も真っ青の演技力だ。

そんな表情を向けられた件の美少女は、

『チャイニーズかしら?・・・・ひょっとしたらコリアンかも・・・・でも・・・・かっこいいなあ・・・・』

うっとりとした瞳でシンジを見つめる。

「お父さんとはぐれたの?・・・・じゃあ、一緒に探してあげようか?」

「ん・・・・パパはどうしても行かなきゃいけないところがあるって言ってたから・・・・たぶんそっちに行ったと・・・・」

「まあ!・・・・じゃあお父さんはどこへ行ったの?」

「ワシントン」

「ワシントンかあ・・・・遠いわね・・・・」

ここでシンジは遙か彼方にある山脈を見つめて遠い目をする。。

『見捨てて・・・・・・・・なんていけるワケないじゃない!』

『ホントは反対方向のバッファローに行くんだけど・・・・』

「ちょうど私もワシントンへ行くのよ。どう?乗っていかない?」

彼女の口からは思わずそんなセリフがついて出ていた。

シンジはパっと表情を明るくする。

「ありがとう!」

「じゃあ乗って!」

シンジが車に乗り込むと、車は急発進する。





ワシントンDCまでの300キロ(5日間の逃避行で、逆に離れていたのだ)を彼女の車は4時間で走破した。

シンジと同じくらいに見える彼女がなぜ、車の運転が出来るのか尋ねたかったが、なんとなく無粋のような気がしてやめた。

アメリカは免許の取得年齢も低いのだろう。





「さて、着いたわ」

特別行政区内に車を乗り入れた彼女はつぶやく。

「ありがとう。この辺でいいよ」

「え?ここでいいの?」

「うん、大体どこに行くかはわかるから」

「ふうーん・・・・じゃあここでお別れね」

「本当に、ありがとう」

シンジがそう言うと、彼女はメモを取り出してさらさらと走り書きする。

「はい、これがアタシの住所とTELナンバー。それにEメールアドレスよ」

「えぇ?」

「キミのも欲しいな」

「あ、うん」

シンジもとりあえず自分の住所とEメールアドレスを書く。

「キミ、ジャパニーズなんだ。わかんなかったな」シンジの住所を見てつぶやく。

「日本に戻ったらEメール出すよ」

「約束よ・・・・私も暇が出来たら日本に行くかもしれないしね」

「その時は今日のお礼に僕の知ってる所を案内するよ」

「じゃあ、それも約束ね」





「じゃあこれで・・・・」

シンジはドアを開けて車から降りる。

「あ、そーだ・・・・キミ、彼女とかいるの?」

口調は冗談っぽいが、目がマジだ。

「え?あ、いや・・・・今はいないけど・・・・」

「そう!、よかった!」

「は?」

「ううん、こっちの話。それじゃ、また会いましょ!」

そう言って彼女は車のシートに座り直すと、ジェット機のような勢いで車をスタートさせる。

シンジはしばらくポカンとしていたが、苦笑すると(この辺が年齢相応”ではない”ところか)踵をかえして歩き始める。が、

「・・・・あ!!」何かを思い付いたように急に振り返る。

ミッドナイト・ブルーの車体は既に視界の外だ。







「そういえば・・・・名前、聞いてなかったなあ・・・・」







「さて・・・・”どこに行くかわかりますから”なんて言ったけど、本当は全然わからないんだよね・・・・」

確かに、書き置きには『ワシントンに来い』だけで、ワシントンのどこなのかは記されていなかった。

『時差を考えれば、今日で夏休みは最後・・・・ということは・・・・』

自分の予測が当たっているか、一抹の不安はあったがシンジはヒッチハイクを繰り返して空港に向った・・・・





















ロナルド・レーガン国際空港。

セカンドインパクトで壊滅状態に陥ったダレス国際空港の跡地に新たに作られた、第40代大統領の名を冠したアメリカの玄関である。

その発着ロビー。

「遅かったな」

新聞を読みながらまったく動じない様子でシンジを迎えるユウジ。

「はあー・・・・・・・・」

もはや文句を言う気にもならないシンジ。

「話は後だ。次の便でアメリカとお別れだ」

「はいはい・・・・」

悟りの境地に達したかのようなシンジ。








日本へ向う機内。

ゼイタクにもファーストクラスに席を取っていた。

大き目のシートでブランデーグラスを傾けるユウジ。

「んで?どうやってあそこから来たんだ?・・・・この時間に間に合ったんだ、のこのこ歩いてきたワケじゃあるまい」

「さあ?」

すっとぼけるシンジ。

「ほう・・・・・・・・なかなか可愛い子だったなあ?ええ?」

「な!なんで知ってるんですか!?」

ユウジは「ふふん」と鼻で笑う。

「シンジ、お前本当に俺がヘリから飛び降りたと思ってるのか?」

「ええ!?・・・・・だってキャビンには誰も・・・・」

「キャビンのさらに後ろのカーゴスペースにいたんだよ」

「え・・・・・ってことは・・・・」

「ああ。お前の行動すべて観察させてもらったぞ」

シンジは信じられなかった。道中、ユウジの気配を感じた事は一度も無かった。

『まだまだ足元にも及ばないや・・・・』

シンジの偽らざる気持ちだ。

「いや・・・・あの人はただ親切なだけですよ」なんとか話をはぐらかそうとするシンジ。

「・・・・ただ親切なだけで住所やEメールアドレス、あまつさえTELナンバーまで教えるかぁ?」

シンジは頭の中が真っ白になった。

「・・・・・・・・僕、もう寝ます」

「おう、そうしろ。明日から新学期だろう?」

それを聞いてシンジは、ある重大な事を思い出した。

「あああああ!!!!」

「なんだ?」

「・・・・・・・・学校の宿題・・・・・・やってないんです・・・・・・」

ユウジはポカンと口を開けたが、次の瞬間大笑いする。

「わはははははは!!!!・・・・・・碇博士、中学校の宿題を忘れる、か!これは傑作だ!!」

「どうしよう・・・・・・」

「なるようになるだろ!!」









翌日、学校でシンジは夏休みの宿題をまるごと忘れたかどで1ヶ月間のトイレ掃除の実刑判決を受けた。











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ver.-1.00 1998+08/30公開
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あ・と・が・き

みなさんこんにちは。

P−31です。

さて・・・・今回はタイトル通り、”正しくない子育て”です(笑)

時期的にはシンジ13歳、もちろんネルフに行く前の話です。

古今東西、これほど無茶苦茶な「先生」がいるでしょうか?

こんな風に教育すると、あの本編のようなシンジができあがります(嘘です、くれぐれも真似しないように(笑))。

もちろん、すべてを「先生」に依存しているわけではありませんが。

え?・・・・終わりの方で出てきた女は誰だ?・・・・・

御想像にお任せします(笑)。

シンジとアスカの恋路は一波乱も二波乱もある、ということです(笑)。

さて、外伝の次回はまったく未定です。

もう書かないかもしれません。

風の向くまま気の向くまま。

それでは!




 P−31さんの『It's a Beautiful World』外伝1、公開です。






 厳しい・・厳しすぎる・・・


 千尋の谷に落とされたような子育て・・

  しかも、

  簀巻きにされて、
  重しをつけられて、
  ガソリンをぶっかけられて、
  目隠しされて、
   もろもろ

  で、落とされたような子育てやん(^^;

  谷の下葉アリゲータがうようよの沼地。一部底なし。



 よくぞ生きて戻った物です・・


 普通死ぬ・・


 で、強くなったわけですね(^^)




 さあ、訪問者の皆さん。
 ハイペースなP−31さんに感想を送りましょう!




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