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 二体の巨人が、先を争うようにモニタールームに向かって駆け寄ってくる!

 その迫力は、モニタールームの面々を恐怖のどん底に突き落とした。

「YUIを切り離したまえ! 早く!」

「は、はい!」

 冬月の叱咤に弾かれたように、恐怖に凍り付いていた技術者がプラスチックのカバーを突き破って赤いスイッチを押す。

 一瞬遅れて、ケージとモニタールームを仕切る強化ガラスに巨大な拳が叩き付けられた。クモの巣のような亀裂が縦横に走り、窓枠も大きく歪む。

「うわぁっ!」

「え、『エグザクソン』じゃあるまいし!」

「社長! 早く避難を!」

 二度、三度と拳が振るわれるたび、部屋が地震のようにゆれ、壁面が歪んでゆく。

「駄目だっ! ド、ドアが開かなくなってるぞ!」

「何ィ!」

 度重なる衝撃によって部屋全体が歪んでしまったのか、廊下へ出るドアが開かなくなっていた。

 

 ガシャァァン!

 

 ついに強化ガラスが砕け、高い音とともに破片が飛び散る。

「もうおしまいだーっ!」

 コンソールの影にうずくまった男が叫ぶ。そこまで見苦しくはないものの、他の者も似たような状態だった。ただひとり、中央に立ちつくしたままのゲンドウを除いて。

 だが、次の一撃はいつまでたってもやってこなかった。

「・・・・?」

 恐る恐る頭部をかばう腕を下げた冬月たちが見たものは、巨大な拳と、その手首を押さえる色違いの手だった。

 黄色い零号機、紫色の初号機押さえつけていた。

 

 

機動警察EVANGEL・POLICE

前話

新紀+3年「メインキャラクターズ」

新紀−3年「最初にして究極のもの」

cパート

 

 彼女は開発部でもらったプチトマトの盛られた皿を抱えて廊下を歩いていた。会社の花壇で育てられていたもののお裾分けだ。他人からはとてもそうは思えない普段通りの歩調だが、内心では嬉々としていた。

 社長室の前にたどり着いた彼女は、ドアをノックしようとして、話し声に気付いた。

「一体、どういうつもりなんですかッ!」

(この声、知ってる・・・・)

 先日の柔弱なほど穏やかな印象と、今聞いた声の険悪な雰囲気との差に戸惑い、彼女はノックしようと上げた手を下ろして聞き耳を立てていた。

 そして、彼女の顔に恐怖の相が浮かぶまで、長くはかからなかった。

「お前には関係の無い事だ」

 言葉の内容よりも、その冷酷な声音に絶望し、彼女は身を翻して走り去る。拍子に、一個のトマトが廊下に落ちた・・・・

 

 

 

 SEELEジャパン土浦工場。最新の設備を備えたその工場は、外観さえも新品の商社ビルと比較しても引けを取らぬものを持っている。

 その一角に企画7課は存在していた。

「おはようございます」

 聞くだけで筋肉質な体を想像するような低い声に、リツコは顔を上げた。

「おはようございます、玄田さん。一週間ぶりの自宅はどうでした?」

「自宅って言ってもあたしは独身だからね。若い緑川君たちの方こそ、会社に缶詰になってるのはつらいんじゃないの」

 2m近い長身、ぶっとい腕、スキンヘッドに口髭とどこからどう見ても強面の大男だというのに女言葉を使うこの男が、企画7課の推し進めるXIII<サーティーン>計画の開発主任である。

 ・・・二日酔いの頭には少々刺激がきつい。

 夕べはミサトを相手に少々呑みすぎたようだ、リツコはこめかみを押さえて顔をしかめた。

「カヲルは?」

 問われた白鳥がメモを見ながら言う。

「9時14分に青葉さんから電話がありました。もうじき到着するそうです」

「ネズミーランドだけじゃ足りないらしくって、夕べは夜もゲームセンターで遊んだそうですよ。青葉さんもだいぶ参ってたみたいです」

「それは嘘ね。おおかた、一緒になって遊んでたんじゃないの?

 それにしても、カヲルが楽しんでくれてよかったわ。大人びているようでもまだまだ子供ね」

 リツコは、冷めかけのコーヒーを飲み干してから玄田を呼んだ。

「玄田君。

 サーティーンのことだけど、思ったより手間がかかりそうね」

「ええ、元々がS2システムの搭載を前提とした機体じゃありませんから」

「図面を流用した物といっても、エヴァンゲリオンシリーズには違いないでしょう? 新しい分、初号機よりもむしろ機体の性能は上のはずよ?」

 もちろんリツコは体<エヴァ>に関しても門外漢ではないが、やはり頭脳<コンピュータ>が専門である。しかも企画7課においては課長として全体を見なければならない。開発に付きっきりではいられないのである。

「それはそうなんですけど・・・・そのパワーアップした機体<ボディ>にS2システムを載せると、骨格<フレーム>の方が耐えられなくなるんです」

「もっと冗長性が必要だということ?」

「ええ。

 そう・・・・最低でも13%は欲しいところです」

「ただ、各パーツの吟味からやり直すとなると、また金を食いますよ」

 緑川が恐る恐る指摘する。白鳥も空になったコップにコーヒーを注ぎながら、横目にリツコの表情を窺っていた。

碇重工からもらった設計図のままじゃ、限度もありますし・・・・」

「この機体を量産するつもりはないから改造するのはかまわないし、予算についても無視して構わないわ。青葉君が帰ってきたら、第3ラウンドは少し遅らせるように言っておきましょう。

 でも、私たちには時間が無限に与えられているわけではないのよ」

 技術者たちは三者三様に笑みを浮かべる。きっちり釘も刺されたが、課長はゴーサインを出したのだ。

 

 

 

「な、何とか間に合った・・・・」

 シンジは涙を拭いながら呟いた。

 何しろ、いきなりレイの操る零号機が駆け出したと思ったら、それを制止しようとした初号機が急にシステムダウンしてしまったのである。

 初号機のシステムからYUIが切断されたのがその原因だった。自動的に最小限の環境での再起動が行われたが、それが完了するまで外の状況も見えず、自分以外のすべてが静止した闇の中で座っているだけ。シンジがヒステリーを起こしてしまったのもむべなるかな。そして、今も混乱は続いている。

「やっと動いてくれたのはいいけどさ・・・・・いったい何がどうなってんだよ・・・・」

 

 

 冬月は周囲を見回した。

 部屋中にガラスの破片が飛び散っている。幸い、強化ガラスなので破片は丸く、直接の怪我人は出なかったようだ。

 生き残っているコンソールに近づき、マイクを手に取る。

「シンジ君、聞こえるかね?」

『冬月さん、何をしてるんです! 早く逃げてください!』

「いや、それが出来んのだよ。ドアのフレームが歪んでしまったらしくてね、出られなくなってしまったんだ」

『何ですって!』

「虫のいい言い分ではあるが、今となっては君に彼女を止めてもらうしかない」

 本当に虫のいい話だ、と自嘲した。

 自分は、疑いをかけた当の相手に助けを求めている。しかもYUIを停止してしまったから、今の初号機の性能は零号機と五分・・・・元々のテストパイロットであるレイと、今日初めてエヴァンゲリオンに乗ったシンジとでは、勝負は見えていた。

『出来るわけないじゃないですか! そんなこと!』

 シンジがそういうのも、無理もない言い分なのだ。

「シンジ君・・・・君だけが頼りなのだよ」

 内心の忸怩たる思いを押し隠し、冬月は言った。

(だがわからんな・・・・なぜレイが?)

「おい、碇・・・・」

 先刻から一言も口を利かないゲンドウを呼ぶが、返事はない。

「なぜだ・・・レイ・・・・」

 うつろな目で呟くゲンドウを見た冬月は、肩を竦めて視線を前方に戻した。

 

 

 

 碇家代々の墓は京都の伏見にある。だがユイの墓は、京都では遠すぎるという理由で東京に作られていた。

 と言っても、墓標の下に遺体は存在しない。生前の希望により、彼女の骨は海に還されたのだ。

 それでも生きているものには故人を偲ぶための場所が必要だった。だから彼らはここに集う。

 

 シンジは一人、直方体の石柱の林立する中を歩いていた。

 腕の中に抱えているのは白いカーネーション・・・・情けない話だが、シンジは亡母の好んだ花がなんだったのか、どうしても思い出せないでいる。父なり祖母なりに聞けばすむことなのだが・・・・それができるくらいならば、こうして早朝にこっそりと墓参に来たりもしないだろう。

 墓前に到る少し手前で、シンジは立ち止まった。墓の前に見知った顔を見つけたからだ。

「冬月先生」

「ん? ああ、君だったか・・・・

 今日はユイ君の命日だからな」

「この花は先生が?」

 墓の前に供えられた花を見て、シンジは冬月が持参したのだと思った。だが老人は首を振った。

「いや。私が来たときにはもうあった。

 私も今来たところだが、それは碇の仕業だろう。あの男も、碇家の法事には参加したくないという訳だ」

 露骨に複雑な表情になるシンジを見て、冬月は困惑気味に苦笑した。

「ところで、レイ君は一緒じゃないのかね」

 冬月は話題を変えようと思ってそう言ったのだが・・・・シンジの顔は予想外に思いきりよく引きつった。

「・・・・それが・・・・」

「喧嘩でもしたのかね」

「いや、その逆で・・・・」

「?」

 シンジは逡巡した。言うべきか言わざるべきか、それが問題だ。他人においそれと渡せるほど軽くもなく、自分で持ち続けるには重すぎる荷物。

 

「あなた、私を妹だと思っているの?」

「どうして名字で呼び合ってると思うの?」

「ユイさんはあなたの母親。わたしのではないわ」

 

 夕べの会話を思い出して、シンジはその場で頭を抱えて蹲りたくなった。

 まさにその通り。シンジはレイのことを妹だと思って接してきた。法律上夫婦となってはいるが、内実は同じ部屋で寝たことも無い。名字で呼んでいたのは「レイ」は彼女の他にも数人存在する(らしい)が、綾波レイは彼女だけしか存在しないからだ。遺伝子提供者であるユイは彼女にとって母親も同然だからと、そう思っていたのだが・・・・

 

「どうも、ややこしいことになっているようだな」

 無言のまま襖悩するシンジに、冬月は困惑した表情になった。

「私は聞くべきではないだろう。なにぶん、女性関係については、助言が出来るほど経験豊富ではないからな」

「はあ・・・・」

 シンジは返事ともため息ともつかない声を出した。

 強引に話題を変える。

「そう言えば、先生は今、何を?」

「先生はやめてくれんか。大学に勤めていたのは大昔の事だ。

 今も人工知性の研究を続けているよ。金銭的な条件では碇重工にいた頃より劣るが、人工知性は存在しうると言う確信があるから、精神的にはずいぶん楽だ。あの時、確かにYUIは自分の意志で初号機を動かしていたのだからな。

 碇の奴は人格のエミュレートによる不死を求めていたフシがあったが・・・・」

「・・・・そんなことだろうと思いました」

 不死でなく死者の復活ではないのか、そう問い返したい気持ちを抑えて肩をすくめる。

 それが伝わったのか、冬月もバツの悪そうな顔になった。

「私の研究室にもそういうタイプがいてね。自分の人格を移植したOSを作った直後に自殺して・・・・どうやら私の周囲には、死を受け入れたがらない人間が多いらしい」

「冬月さんのせいじゃありませんよ」

 シンジは、むしろユイの周囲には、と言うべきだと思っていた。

 それだけ惜しまれている、息子としてはそう考えるべきだろう。しかし、亡母自身はどうだったのだろうか? それも、シンジの知らないことだった。

 

 

 

「うおおっ!」

 いまいち頼りないかけ声とともに、初号機は零号機を突き飛ばした。

 たたらを踏む零号機だが、転倒には至らない。

「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ・・・・・・・」

 呪文のように繰り返し唱えながら、シンジは歩行モードの切り替えやらで手を動かし続けた。

 半ばは恐怖から逃れるためにしていることなので、必要でない操作をしてしまったり、同じチェックを何度も繰り返したりしている。そんなことは外から見えないし、聞こえない(通信も受信のみにしている)ので、研究員たちは「意外と冷静だな」などと思っていた。

 先に痺れを切らせたのは、意外にもレイの方だった。

 駆け寄りながら猿臂を伸ばし、つかみ掛かる零号機。それを払いのけ体をかわそうとする初号機だが、やはり経験値の差か、一つ一つの動作が鈍い。二体の巨人はまともに衝突し、もつれ合うように転倒する。

 倒れたのは同じでもそこからの反応が違う。気が付いた時には、初号機は完全に零号機に組み敷かれていた。角の生えた頭部に手がかけられ、ぎりぎりという軋むような音が響き始める。

「やはりだめだったか・・・」

 

 

 

「まだかかるみたいだな、あいつが産声を上げるまでは。ひょっとすると、ちょっと早めのクリスマスプレゼントぐらいになるかも知れないそうだ」

 企画7課の、言うなれば行動班に属する銀河が苦笑交じりに言った。

「かえって好都合さ。マグマダイバーももう一機キープしてることだし。

 今度は一回で使い捨てたりしないよう釘を刺して、もう何ラウンドか経験値をためてもらおう」

「まだ、あの連中を使うつもり?」

「違う奴を用意しても、手間がかかるだけさ。あいつらが捕まっても、俺たちまで辿られることはない。そうゆう風に使ってきたんだからな」

「そうかしらね? 諺にもアリの穴から・・・・って言うわ」

「死体を作るほうがよっぽど厄介だと思うがね」

 金月は、どうも物騒な方向に話しを持っていきたいらしかった。すげなく言い切る青葉。

「銀河の言う通りだ。この話はここまで。いいな」

「了解」

 

 

 

「まだドレスも着せていないんだけどね」

 そう言いながら三重のロックを外し、ケージに入る緑川。

「これが君の乗るエヴァさ。気に入ってくれるといいんだけどね」

 息が白むほど低温に保たれた格納庫の中央に、フレームがむき出しのままのエヴァが作業台に固定された状態で眠っていた。

「これが、EVA−3というわけですね」

「違う!」

 カヲルのかなり痛い発言に、緑川は反射的に否定の叫びを上げていた。

「これはEVシリーズのEVANGELじゃない。このXIIIこそがEVANGELIONを継ぐマシンなんだ」

「でも、EVA−2の機体に初号機のS2システム、「YUI」の簡易版の「HAL」を積んだものでしょう?」

 にっこり笑って言うカヲル。わざわざ「YUI」の名前まで出して初号機のコピーであることを強調するあたり、かなり意地が悪い。

 ぐっと詰まった緑川を尻目に、カヲルはXIIIを見上げた。頭部には写真で見た初号機と同じように冷却用のダクトが取り付けられている。迫力のある顔になりそうだった。

「・・あ・・それでね、カヲル君。リツコさんから伝言なんだが、君に名前をつけてもらえないかな?」

「名前を?」

「そう。いつまでもXIII<サーティーン>なんて、開発コードで呼ばれてたらかわいそうだからね」

 言われてその気になったカヲルはしばし黙考した。

「そうですね・・・・バルディエルなんて、どうでしょう」

「バルディエルか・・・・どんな意味なんだ?」

「霞の天使、と言う意味です」

 SEELE製の主要なエヴァ<EVANGEL>には天使<ANGEL>の名が与えられている。たとえば水中作業用の「ガギエル(魚の天使)」や軍用の「ゼルエル(力の天使)」という塩梅である。

「霞か・・・・」

 ちなみに一般的にはそれほど明確に区別されてはいないが、春に発生するのが霞、秋に出るのが霧である。「HAL」を搭載したXIIIにはふさわしい呼称だろう。緑川には立ち込める霧の中から現れる黒いエヴァの勇姿がまざまざと想起できた。

「いい名前じゃないか」

 うむうむと頷く緑川だが、カヲルはと言えば心の中で舌を出していた。

(本当は「参号機」とか言ってみたかったんだけどね)

 

 

 

 ブン!

 初号機の目が、光った。

 だが、そんな機能など仕込んではいない! 光学センサー自らが発光してどうしようというのだ?

 ならば、錯覚か? 否、この時、初号機の眼窩では、光学センサーに電源を供給するコードが激しく放電を繰り返し、閃光を放っていた。人間で言えば、眼底の血管が破れ、血光を放っている状態である。

 ビジュアル的な効果はともかく冷静に考えれば、「いよいよ頭部が破壊されかかっている」以外に解釈のしようはない。

 

「玄田君! 初号機の状態をモニターしたまえ!」

「は、はい・・・・頭部のセンサー三系統、およびバランサー・・・・」

「そんなものはどうでもいい! YUIは!」

「YUIは無事です! あ、こ、これは・・・・・」

 

 初号機の口が大きく開かれ、排気ファンが回転し始める。

『フオオォォォ』

 爛々と目を輝かせ、咆哮のような排気音とともに、彼女は目覚めようとしていた。

 

「こ、これはいったい・・・・」

「初号機の管制コンピュータが破損したために、YUIは非常事態と判断した。そして切り離しプログラムをオーバーライドして、機体を直接制御しているのだよ!」

 

 

 頭を掴む零号機の腕に手をかけるや、初号機は報復とばかりにその腕を圧し折ってしまった。握り潰された零号機の腕と、過負荷のかかった初号機の手から超伝導モーター冷却用の液体窒素が白煙とともに漏出する。

 逃げ腰になった零号機が立ち上がりかける。その途端、アクチュエーターに悲鳴を上げさせながら跳ね上がった初号機は、その反動もろとも体重をかけて零号機を押し倒す。頚部を押さえられ、受け身もとれず後頭部からまともに落ちる零号機。

 頭部パーツと頚椎フレームの両方で鈍い音がして破片が飛び散る。搭乗者も戦意を失ったのか、黄色い巨人は動きを止めた。同時に初号機もあちこちから煙を噴きながら機能を停止させた。

「今の記録は、取ってあるな?」

「は、はい!」

 温厚な人格者然とした冬月も、いざとなれば科学者としての欲求が優先されるのだろうか。彼がまず気にかけたのは、大破した零号機の搭乗者の安否ではなく、YUIのデータのことだった。

 

 

 

 S2システムが自発的な意志らしきものを見せたこの一件で、冬月は本来の目的である人工の知性の創造が可能であるという確信を深めた。だが、皮肉にも「S2システムをエヴァに塔載することで本来以上の性能を引き出す」というプロジェクトは、まさにその自我の存在によって頓挫してしまったのである。フランケンシュタインコンプレックス。碇重工の役員たちの示した反応は一言で要約出来るものだった。

 S2システムは封印され、冬月は無念のうちに碇重工を後にする。また、社長自ら積極的に推進してきたプログラムが頓挫したことで、社内におけるゲンドウの発言力は低下した。それが後にSEELEと手を組む契機となる。

 

 

 

『・・・・・・次のニュースです。

 西風社の社長、西崎ケンジ氏の三男がクローン人間だったことを理由に、西崎氏の遺族が彼の相続権を無効だとして提訴していましたが、昨日、最高裁判所の石島ジョウジ裁判長は上告を棄却し、相続権を認めた高等裁判所の判決を支持しました。

 三男側の弁護人の佐竹キミヒト氏は、クローン人間を通常の代理母出産と同列に論ずることはできないが、その出産が西崎氏の意志の下で行われた以上、親としての責任を取る義務があるのは当然の事だとコメントしています。

 長男側は米国での判例を引き合いに、クローン人間に魂がないと主張していましたが、これに対してもなんら科学的根拠を持たない中傷であると非難が集中。長男側弁護人佐野氏に対しても、法廷における名誉毀損について弁護士協会は考課表に減点処分を下しました。(この辺の描写は法律の勉強をしている人から見ればデタラメもいいところですが、未来社会における裁判という事で・・・)

 これによって、わが国ではクローン人間にも相続権が・・・・』

「なあ、クローン人間って、差別用語にならんのかな」

「ああ? ならねえだろ、大昔から使われてるんだから」

「いや、確かにSFの世界では常識だけど、昔からってのは理由にならないと思うぞ」

「そうそう、め@ら縞もつ@ぼ桟敷も、昔からある言葉だけど使えねえもんな」

「昔はクローン人間なんて、それこそSFの中にしか存在しなかったからねえ」

「けどさ、クローン人間って言葉が差別用語だって認めるなら、今現在クローン人間に対する差別が存在するってことだろ?」

「何を今更・・・・差別用語なんてたいていそんなもんさ。根っこの差別を無視して枝葉だけ躍起になって切り落としてどうするんだか」

 

 食堂のテレビで流れたニュースに触発された議論に、なぜか碇巡査は凄まじく不機嫌になっているようだった。

 

「それにしても、クローンに魂が無いって、どう言うこった?」

「キリスト教徒の教義じゃ、子供ってな両親のアイノイトナミの成果であって、愛の無いところから作られたものに魂はないってことらしい。それで魚みたいな胎児には魂があるってんだから、わっかんねえよなあ」

「何言ってんだよ、そんなの当たり前の事じゃないか。

 クローンには母親も父親もいない。いるのはオリジナルだ。親の愛情がなけりゃ、子供の感受性や思いやりは育たない。育児の常識だろ」

「クローンにも母親はいるぞ」

「片っぽだけじゃ駄目さ、両方いなきゃ、きちんと育たないぜ?

 魂が無いってのは、あくまで比喩だよ」

 

 ブツン

「あ、あれ? なんで急に蛍光燈が切れたんだ?」

「寿命だろ? あとで庶務に言っておこうぜ」

「蛍光燈が、いきなり寿命になるか?」

 

「自分のルーツが分からなけりゃ、自尊心を持てない。ランダムな組み合わせで作られた・・・・これを超人為性って言うんだが、遺伝子は自分だけの特異なものだ。遺伝子が他人の借り物ってことは、クローンにはたった一人の人間であるという誰もが持ってる聖域を作れない。

 結論、細胞から作られたクローンはまともに育てない」

 

「おい・・・・なんか冷房効き過ぎじゃないか? 寒気がしてきた」

「そうだな・・・・」

 

「魂が存在すると仮定したら、仮定の話だぜ? もしクローンに魂があるなら、どこから来たんだ? オリジナルの魂が、それこそ細胞みたいに分裂して出来たのか?」

 

 マユミやマナは真っ青な顔で、憤怒の形相になったシンジを見ている。トウジやケンスケに至ってはすでにその場から逃げ出していた。

 

「それに遺伝子が同じ個体を増やすってことは、遺伝子の多様性を減らしちまうってことだ。それは種の進化の道を閉ざ・・・・」

 熱弁を振るう男の後ろに立ったアスカは、だまって茶碗を傾けた。

 どぼどぼどぼ・・・・

「*&^%$#@!」

「さっきっから黙って聞いてりゃあ、オウムみたいにどっかで聞いたようなことをベラベラまくしたてて、あんたバカァ?

 言っときますけどね、あたしはAIDで生まれた子供だけど、このとーりキチンと育ってるわ! 父親の顔も名前も知らないし、先祖が誰かも知らない! そんなもん知ってたって、何の役にも立ちゃしないわよ!

 何が超人為性よ、ただの偶然じゃない! それに一卵双生児の場合はどうなるの! 魂も半分ずつになって生まれてくるってーの? 無神論者の日本人のくせに知ったようなこと言って!

 それに種の進化ですってぇ? そんな曖昧模糊かつ不確かな全体の利益のために個人の尊厳を貶めるなんて、このスピーシーシズム的ファッシストがぁー!」

 情けなく悲鳴を上げる男を、さらに胸ぐら掴んで振り回しながら罵詈雑言を浴びせ倒すアスカ。

「お、落ち着け惣流! そいつが悪かった!」

「ワシらからよう言って聞かせますけん、な、な!」

 あわてて仲裁に入る整備班員。なにしろ熱いお茶をかぶったのだ、早く冷やさないと火傷になってしまう。

「早く洗面台で頭冷やして来い!」

 ようやく解放された男が逃げるように・・・・いや、実際逃げているのだが・・・・走って行く。

 アスカは、まだ憤懣収まらぬ様子で乱暴に椅子に座った。

「全く、勝手なことを・・・・!

 ! なによバカシンジ、文句でもあんの!」

 じっと彼女を見詰める視線に反感の色を感じ、反射的に怒鳴る。

 だがそれは彼女の疑心暗鬼だったようだ。なぜなら、シンジが口にした台詞は

「ありがとう。アスカ」だったのだから。

「・・・・へ?

 な、何言ってんのよ、別にあたしの発言はあんたの主義主張に迎合したそれじゃないわ」

 頬に血を上らせて言うアスカ。予想外の謝辞に狼狽しているせいか、英文直訳に近い口調になっている。

 それを見てちらっと面白くなさそうな顔をしたマナは、不快に思われない程度に強引に会話に割り込んだ。

「クローン人間なんてSFじゃ使い古された言葉だけど、現実の人権問題になると、重いよね」

「そうだね」

 シンジは言葉少なに答えた。少々表情に出し過ぎたと後悔しているのだ。

 ヒト・クローン技術はもう何十年も前に実用化されている。けれど悪用するものは後を絶たないし、そのようにして生を受けた子供たちに対する「なんとなく不気味」から「神への反逆」に到るまでの偏見は、厳然として人々の間に存在していた。

 シンジのごく近くにも、いる。碇重工の会長がそうだ。シンジとレイの子供をユイの身代わりにしようとしながら、直接レイを代役にしようとはしなかった。

「それにしても魂だとか神様だとかって言われると、それ以上は議論する気はなくなっちゃうよね」

「甘い! それだから日本人は世界じゃ通用しないなんて言われるのよ」

「そりゃ、アスカはアメリカ育ちだからそうだろうけど・・・・」

 欧米文化圏の人間は、日本人から見ると異常なほど議論に熱心である。もしかしたら相手の言い分にも一理あるのでは、とか考えたりせず、とにかく自分が正しいと主張する。考えるのは後。

 ディベートをやった人なら、あの理不尽なゲームを小学生の頃から教育に取り入れる文化の恐ろしさがわかるはずだ。

「アメリカだろうがヨーロッパだろうが中国だろうがおんなじよっ! 内乱しか知らない島国の農耕民族のなあなあ流は、民族対民族の戦争を繰り返してきた世界の大多数から見れば、それこそまるで12歳の子供だわ」

「何それ」

「マッカーサーですよ。日本人は体も心も12歳児並みだ、って」 

「? ?松カサ??」

 混乱しているマナを尻目に、知的な(?)会話が続いた。

「日本人は海に囲まれた地形に守られてて、北条時宗以外は対外戦争をしてないから」

「その元寇も神風で「なあなあ」になっちゃったし」

「日本列島という母親に抱かれて、ですね」

「小松左京?」

「やっぱり知ってました?」

 マユミは心底嬉しそうに言った。

 しかし21世紀の一般常識に日本沈没などと言う大昔のSFが含まれているはずもなく、マナに続いてアスカも脱落。

「うー、この読書狂どもぉ・・・・」

 なにやらマニアックな話題に突入したシンジたちを見て、アスカは悔しげに唸った。

 

 

 

「あーら、さっさとお昼を済ませたと思ったら書類整理? ずいぶん仕事熱心ねぇ」

 珍しくデスクワークに勤しむトウジに投げかけられた言葉。無論、シンジの怒りの爆発を恐れて食堂から逃げ出したことを皮肉る台詞だ。

「う・・・ちぃっとばかし溜めこんでもうてな」

「ま、いーけどぉ。珍しくライスもラーメンのスープも残してたから、お腹減ったんじゃない?」

「・・・・意地の悪いやっちゃな・・・・」

 図星のようだ。アスカはクスクスと笑いながら自分のデスクに戻った。

 

 自分があからさまに不機嫌な顔をしていたので、食い気が削がれてしまったのだろう。良くないことだ。もう少し心が強くなければならない。

 などとシンジは反省していたが・・・・怒ると父親の面影が出る自分の顔を過小評価しすぎである。

 オフィスのドアが開き、ハンガーの騒音が中華マンの匂いとともに室内に侵入して来る。

「よー、差し入れに来たぞー」

「お! ワシ、お好み焼きマンがええな」

「えー、まだ2時前・・・・」

「いいね、ちょっと早いけどお茶にしよう」

 喜色を満面に浮かべるトウジ。密かにバツの悪い思いをしていたシンジが口添えしたので、アスカも尖らせかけた口を閉ざした。

「・・・・早く閉めなさいよ、うるさいわねー。

 あれ? 今ごろ何の作業してるのよ、整備は終わってたじゃない」

「エヴァが動いてるのさ。今・・・・ありゃぁっ!?」

 ケンスケはマナを指差し、素っ頓狂な声を上げた。

「え? なになに?」

 それには答えず、ハンガーに駆け戻りながら叫ぶ。

「おおい! 誰が壱号機動かしてるんだ!?」

「ええっ!」

「待て、中華マンは置いてってぇな!」

「あんた馬鹿!? それどころじゃないでしょうが!」

 

 

「マナが乗ってない壱号機が動いててるって、どういうことよ!」

「知りませんよ、こっちが知りたいくらいだ!」

「あーっもう、役に立たないわねーっ! 弐号機も出すわ! 手伝いなさい!」

「弐号機や第壱小隊機に異常はあらへんのか!?」

「無いみたいだ。あ、弐号機出すって?」

「大丈夫かいな」

「始まったな」

 隊長室の窓から外の騒動を見た加持はほくそえんだ。

「ちょっと! どうしてあたしが乗ってないのに壱号機が動いてるのよ!」

「知らん! 俺は知らん!」

「これじゃ個人認証システムなんて、何の意味も無いじゃない!」

 

『どきなさいよ、マナ! 踏み潰されても知らないわよ!』

 壱号機に続いて弐号機も格納庫から出て来る。壱号機はと言えば、まるでそれを待っていたかのように中庭に立ち止まっていた。それを疑問に思う者はいなかった。疑問に思うほど状況を把握できていないからだ。

 そしてここにも一人、疑問に思う前にまず行動する者がいた。

『どこのどいつだか知らないけど・・・・』

 左肩に収納された電磁ナイフを引き抜き、アスカの操る弐号機は怒号した。

『壱号機を持ち出して、何をするつもり! 答えによっちゃ、ただじゃすまさないからね!』

 きっぱりと言い切った。思い切りがいいと言うか・・・・反面、ストップをかける人間がいなければ、行く先に断崖絶壁や鋼鉄の扉があることにも気づかず突進してしまうタイプである。

 

 

「きゃあぁ!あぁぁああぁ!!ああ!」

 無茶といえばこれ以上の無茶も無い宣言に、マナがパニックを起こして奇声を上げる。

「やめてやめてアスカーッ! あたしの壱号機壊すつもり!?」

「マナ! 足元でウロウロしてたら踏み潰されるよ!」

「いやあーっ!」

 シンジがマナを羽交い締めにして引きずり戻す。腕の中で暴れる相方を押さえながら、青年は一歩引いた・・・・ある意味人事のような視線で事態を観察した。

 弐号機は頭部がEVA−2の試作品(D型「マグマダイバー」ではない)から流用した四つ目のものに換装されている。が、同じEV−0である。壱号機と弐号機の外見はそう変わらない。

 二体の警察用エヴァが睨み合い、互いに回りこむように移動する。その動きは極めてスムーズなもので、まるで本来の搭乗者が動かしているのではないかと錯覚するほどだ。

(変だな・・・・網膜パターンとIDカード、パスワードが一致しないと、ゼロは動かせないはずなのに? 仮に何らかの方法で新規ユーザーとしてログインしたなら・・・・その時は動作パターンのデータベースも新規に設定される。あの過激派のマグマダイバーのようにブザマな動きしか出来なくなるはずだ。

 パーミッションが与えられる上位者ならば、たとえば指揮者の僕なら、経験値を生かしたまま壱号機を動かせるけど・・・・

 ・・・・そうか、そういう事か隊長!)

「シンジ・・・・どこ、掴んでるの?」

「え?」

 シンジの右手は、暴れるマナを押え込むうちに、いつのまにか胸に回され、弾力のある乳房をしっかりと掴んでいた。

「ご、コメン!」

 シンジはあわてて飛び離れた。マナは真っ赤な顔をしているが、おかげでパニックからは抜け出したようだ。

『あー、テステステス。ただいまマイクのテスト中』

 いきなり緊張感のない声が響いた。振り仰ぐと、隊長室の窓からメガホン片手の加持が上半身を乗り出している。

『場所もあろうに警察に忍び込み、備品であるゼロを勝手に動かすとは、実に怪しからん話だ! 惣流巡査、かまわんから叩きのめしてやれ!』

「た、隊長ぉ! そんな、そそのかすようなこと言って・・・・!」

『ふっふっふ・・・・お許しが出たわよお・・・・』

 無気味に笑うアスカ。

『一度、ゼロ同士で真剣勝負がしたかったのよ! やっぱ、同キャラ戦は燃えるわよね!』

「どひいいい!」

 マナは悲鳴を上げた。

 

 

(第壱小隊は、なんで動かんのや?)

 トウジは、これだけの騒ぎにもかかわらず第壱小隊のゼロが動こうとしないことに不審を抱いていた。

(まるで、協力する気がないみたいや。いくら警察が縦割りやからゆうても、これぁ・・・?

 まさか!?)

 

 

 アスカの目は、もはや外野の騒ぎなど視界に収めてなかった。彼女に今必要なことはただ一つ。目の前の敵を倒す、それだけである。

 たとえそれが警視庁の備品であろうとも、犯罪者(すでに断定)の手に渡った以上、断固粉砕するのみ!

『覚悟!』

 電磁ナイフを振りかぶり、弐号機は猛然と切りかかった。

 

 

 マナは固く閉じた目をさらに両手で覆って、体ごと後ろを向いてしまった。背後で鋼の巨人が動き回り衝突する轟音が響く、そのたびに肩を震わせていた。

 音の拷問は、しかし意外にもすぐに幕を下ろした。

「・・・・シンジ」

「ん?」

「どう、なったの?」

「・・・・自分で見た方が、早いと思うよ」

「・・・・」

 相棒は答えてくれない。そんなにひどい惨状を呈しているのだろうか。

「どのくらい・・・・壊れてる?」

「いや、全然」

「え?」

 ボン、とゼロの外部スピーカー起動時に特有のノイズ。続いて声が響いた。

『霧島巡査!』

「女の人か? これは予想外だったな」

「へ?」

 振り向いたマナが見たものは、弐号機の腕を取って押え込んでいる壱号機の姿だった。

『あなたのゼロは、これだけの動きが可能なほど育っているのよ! どうしてそれを使いこなそうとしないの?』

「ど、泥棒に説教されるいわれはないわよ! あたしのゼロを返せ!」

「こらこら、落ち着きなさいっての!」

 シンジは、今度はマユミと二人がかりで腕をとってマナを抑える。

『指導は後でいいだろう。ゲームセットだ、挨拶してやれ!』

『え? ゲームセット・・・・って、え? どゆこと?』

 弐号機が完全に押え込まれたのを見て取り、加持はお開きを宣言した。その言葉の意味を理解できず、頭が空白になるアスカ。

 彼女の疑問に直接答えることはせず、壱号機は弐号機を開放して立ち上がった。アスカを含む隊員たちがおとなしく事態の推移を見ているのを確認してから、ハッチが開かれる。そこから降り立ったのは、すでに特車二課の制服とエヴァ搭乗者用のベストに身を固めたショートカットの女性の姿だった。

 教本の見本にしてもいいような敬礼をした新顔は、半ば呆然としている隊員や整備員に向かって着任の挨拶を行う。

「本日着任しました、伊吹マヤ巡査部長です。以後、宜しくお願いします」

 

 

 

 平静に敬礼を返せたのは一部の者だけだった。

「この悪趣味な演出・・・・隊長たちかしら」

「多分。もしかしたら巡査部長本人かも知れないけど。

 ただ一つ、有能なのは確かだろうね」

 シンジとマユミは小声でささやき合った。

「惣流さんを力づくで抑え込めるくらい?」

「そう言うこと。そうじゃなかったら、あの隊長がわざわざこんな芝居まで打ったりしないよ。

 ・・・・ただし、僕らが楽になるとは限らないけどね」

「そうですね・・・・私も、ここに来てから、物事を悲観的に考えるくせがついちゃって」

 二人の前方にいるマナは、マヤ主演、加持の脚本と演出による小劇の衝撃から立ち直っていないのか、小声での会話に気づいていない。それを確かめた上で、マユミはさらに声量を落とした。

「今夜、呑みに行きません? 指揮者どうし、今後の相談も兼ねて。

 ・・・・たぶん、愚痴になると思うけど」

「いいね。とことん付き合うよ」

「つぶれたら、送ってくれます?」

 マユミは今時珍しいほど奥手な質である。万巻の書を読破しようとも、その知識を実生活に応用できないのだ。この台詞にしても、不器用と言うか・・・・かえって露骨すぎるくらいに露骨なモーションになってしまっている。

 しかし、建設中の軌道エレベーターから飛び降りる覚悟でかけた誘いも、彼女自身と同じぐらい奥手な青年には通じもしなかった。

「うん。いいよ」

 シンジは平然と答えた。意味がわかってやっているなら大したものだが・・・・。

 マユミは小さく息を吐いた。

(焦っても仕方ない。

 この人は、他の男の人と違う。違う気がする。

 でも期待はしない。期待しなければ裏切られる事もないから。

 そう思ってたけど、やっぱり裏切られた。

 妻子持ちだったなんて・・・・でも、それでも、諦めるのは嫌だと思う。

 そんな未練がましい自分が、嫌いじゃないと思うから・・・・

 だから、諦めない)

 

(巡査部長に対抗意識を燃やしてるのか。頑張り屋さんだな。ぼくなんて、いっそ配置がえされて楽になりたいと思ってるのに)

 拳を握り締め、虚空を見据えるマユミを見て、シンジはてんで見当違いの事を考えていた。

 何人もの女性から好意を寄せられているという状況を、この男が自覚するのは当分先のことだろう。

 

 

 

 ミサトは窓を閉じて蒸し暑い外気を遮断した。

「演出が過剰だったんじゃない?」

「かもな。

 ともあれ、ようやく役者が揃ったわけだ」

 加持は満足げに笑い、背もたれに体重を預けた。

「これからが本番さ」


ver.-1.00 2000/02/10 公開
感想随時受付中 t2phage@freemail.catnip.ne.jp


03「終わった終わった。僕にしては珍しい早期完結だったな」

剣介「詰め込み過ぎだね。まるで「機動戦士ガンダムF91」みたいだ」

03「やむを得ん。本来ならそれこそ数クールに及ぶストーリーで徐々に明かされて行くべき事を一気に描写しようとしてるんだから。結局行数の大部分を割いて説明することになった綾波レイの生い立ちとか、一般の作業用EVANGELとEVANGERIONとEVシリーズの違いとか、SEELEの碇重工の関係とか、どれ一つ取ってもかなりややこしかろう?」

剣介「自覚してるなら、何とかすりゃぁいいじゃないか」

03「能力的に不可能だな、それは」

剣介「威張るな、情けねえ」

03「本当は「西脇冴子=葛城ミサト」で廃棄物13号もやりたかったんだが・・・・その場合はリツコが第壱小隊隊長で、七課課長には青葉。七課の黒幕が自社における基盤固めにSEELEを利用しようとするゲンドウだということがより明確に描写されることになっただろう。

 しかし基本的な設定は語り尽くしたから、あとは機動警察パトレイバーのストーリーさえ知っていれば、この先の展開を想像する事は不可能ではなかろうて」

剣介「そうかなあ? 結末が大分変わるんじゃないか? それに今の話だと、あんた実は青葉さん×伊吹さん派なのか?」

03「ん? いや、公式設定に従っただけだ。サターンのゲームでは青葉が「マヤ」と呼び捨てにしてるからな」

剣介「・・・・「セカンドインプレッション」は正典なのか?」

03「外典だね。ただし、極めて正典との整合性が高い外典だ。「鋼鉄のガールフレンド」と違って、TV版のストーリー中にあった事だとしても違和感が無い。時期的には第九使徒と第十使徒の間、チルドレンの人間関係が比較的良好だったころだな」

剣介「「鋼鉄」じゃシンジが綾波のこと名前で呼んでるもんな。あと、あの待機室で休憩中のシンジは一体何者だよ? サングラスまでかけちゃってさぁ・・・・

 ところで、作中にクローン人間問題の事を書いてるけど、あんたとしては賛成、反対のどっちなんだ?」

03「クローン自体は、生命の発生段階について知るために有益な研究であると思う。ただし、人間に使うのは現状では反対。しばらくは動物実験で研究を続けるべきである」

剣介「それ、基本的には賛成ってことじゃないのか?」

03「積極的には賛成できないけど、反対もしない、ということ。たとえ(この先技術が発展して)培養タンクから生まれたクローンだろうと、二親が揃っていようと、悩む奴は悩むし、悩まない奴は悩まない。「我々はどこから来たのか、我々はどこへ行くのか」悩みの軽い重いは相対的な問題でしかない。

 ネット上を歩き回ってて見つけた中に「結婚したくないけど子供が欲しい女性が自分のクローンを作るので男性不要社会が到来する」って説もあったけど、個人的には「自分そっくりの子供が欲しい」なんてナルシーな女性も、「自分の歩めなかった道を分身に歩ませたい」と子供を私物化してはばからないど阿呆な女性も、はなっからおつきあいしたいとは思わんね」

剣介「男にも言える事だよな、それって」

03「当然だ。もっともオスには子供は産めんが」

剣介「でも男でも手術すれば妊娠できるらしいぞ。腹の中にスペースを作って胎盤を移植すれば・・・・」

03「・・・・それ、第17使徒とかには教えないようにな」

剣介「いや、実は渚から聞いたんだ、この話・・・」

03「(滝汗)」

長い後書きでスミマセン。次の投稿が、なるべく早く出来ますよう努力いたします。

敬具 03





 03;プリーチャーさんの『機動警察EVANGELION』cパート、公開です。







 cパート終わり〜

  で、

 この話おわり〜

  で、

 はじまり〜〜


  です☆


 終わりなんだけど、

 種いっぱい蒔いていて・・・



 続けるも
 広げるも


 まだまだって感じでいけるぞっと(^^)




 ぐぉーぐぉー




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