TOP 】 / 【 めぞん 】 / Y2Kに書くモノか、とは言わないように / bパート


 人工島「ニュートーキョー3」の上空を過ぎ去るジャンボ機の轟音が警官たちの鼓膜を打つ。地面まで震えるような大音響だが、誰一人として耳を押さえる者もいない。

 全ての意識は現場に向かって集中していた。

 彼ら一般の警察官には何もできない。進行中の事態に参与する術を持たない。見ていることしかできないからこそ、全身全霊をもって注視していた。

 むしろ当事者の方が醒めていただろう。

「今野で、四機目・・・・・・」

 山岸マユミ巡査は呟いた。この対決が始まってからそれだけの時間が経過していた。パイロットである惣流巡査の精神力、集中力に畏怖さえ覚える。

 しかし、精神力ではどうにもならないこともある。弐号指揮車のモニターは、弐号機のコンディションがレッドゾーンに突入したことを示していた。

「惣流さん、各部アクチュエーターが限界です! いったん離れてください!」

「あんた馬鹿ぁ!? 今離れたら逃げられちゃうじゃない!」

 気丈に言う惣流アスカ巡査だが、特車弐課第弐小隊弐号機の機体は無気味な音を立てはじめていた。同系列の最新型であるEVA−2D「マグマダイバー」を相手に、正面から力比べを挑んだのでは対抗できよう筈もない。

 ズ、ズズ・・・・

 EV−0「ゼロ」の足が、雨に濡れた地面を滑り出した。

「い、壱号機は! どこでグズグズしてんのよ!」

 悲鳴じみた叫びを上げる弐号機が、機体性能の差についに耐え切れず、力まかせに振りほどかれて転倒する。

「こんのおお!」

 ドカン! ドンドォン!

 上半身を起こした弐号機がオートカノンを撃つ! が、女性の握り拳なみのサイズを誇る弾頭は、EVA−2Dのぶ厚い耐熱装甲の表面で空しく火花を散らして跳ね、飛散する。

 巨躯を揺らし、弐号機に迫るマグマダイバー。その背後に、弐号機に気を取られた隙を突いて壱号機が忍び寄っていた。

 

 

 エヴァ・・・それは「ExtraVehiclar Activity Navigater ・ Gigantic Electric Labor」の略称である。
(いささか強引だが、このような略称は語呂合わせの問題であり、本来の語意は二の次にされる)
 宇宙開発のために細々と開発されていた鋼の巨人は、セカンドインパクト後、壊滅した地上を復興させる巨大なマンパワーとして転用され、人間社会になくてはならぬものにまで成長した。
 だが反面、エヴァ犯罪と呼ばれる新たな社会的脅威をも巻き起こした。
 警視庁は特科車両弐課を新設してこれに対抗。
 新紀元年正月、碇重工の新型EVANGEL、零式EV「ゼロ」とともに、第壱小隊が初陣を飾った。
 新紀2年12月、第弐小隊が新設される。

メンバーは

隊長、加地リョウジ警部補

壱号機フォワード霧島マナ巡査。同バックス碇シンジ巡査。

弐号機フォワード惣流アスカ巡査。同バックス山岸マユミ巡査。

そしてキャリアーを運転する鈴原トウジ巡査の6名である。

 
 しかし、加持隊長以下のメンバーがいずれも問題児であることは否めない。
 
 
 
 

機動警察EVANGELION

プレストーリー

新紀+3年「メインキャラクターズ」

新紀−3年「最初にして究極のもの」

 

 ぶおん!

 風を切る音さえ残して、マグマダイバーが腕を一振りする。とっさに半歩下がって避ける壱号機。 

「遅いわよ、マナ!」

 怒号するアスカ。

 彼女の激怒をさらに煽るように、壱号機は無様にもマグマダイバーの連続攻撃をまともに食らってしまう。

 連続攻撃と言っても内実は、オートバランサーが作動してバックハンドの第一撃を空振りしたため崩れた平衡を取り直すために、腕を振り戻しただけであったのだが、偶然とは恐いものだ。

 そしてさらに間の悪いことに、壱号機はちょうど弐号機が立ち上がったところに向かって転倒した。

「あ、あんたって・・・・ドアッホぉー!」

 アスカ、絶叫!

 

 

『だーっはっはっはァ! もぉサツなんざ恐かねぇぞぉ!』

 海に向かって歩き出したマグマダイバーが、外部スピーカーから勝ち誇ったように笑う。

「水に入れるの、マグマダイバーは?」

「そのために作られたわけじゃないけど、気密性は問題ないはずだよ」

 遅れて現場に到着した壱号指揮車から降りた、碇シンジ巡査がマユミの疑問に答えた。

 EVA−2Dは消防庁が誇るレスキュー部隊のエヴァである。その名の通り灼熱の業火の中でも作業しうる耐熱性と、下敷きになっている要救助者にダメージを与えることなく瓦礫を除去するパワーと器用さ、そしてレスキュー隊員自身を保護する堅牢さを兼ね備えていた。

 盗難されテロリストの手にわたった時、新都の守護神はその力をそっくり残したまま紅の凶獣と化したのである。

「マナ! 寝っ転がってないで・・・!」

「惣流さん! 相手は海に・・・・」

 それぞれの指揮者が叫ぶ。が、肝心の搭乗者たちといえば・・・・

『遅れてきた挙げ句にあたしの邪魔!? あんた、何考えてるんだか言って見なさいよ!』

 怒り狂った弐号機が、あるまいことか味方であるはずの壱号機に牙をむいていた。

『体をかわそうだなんて小賢しいこと考えなくていいのよあんたは! 真正面からあたって足を止めておけば、あたしが蜂の巣にしてやったってのにぃぃー!』

『猪突猛進ばっかりが芸じゃないでしょ!』

「・・・・」

「い、胃が痛い・・・・」

 目標をほったらかしにしてど突き合う、特車弐課所属のエヴァ、ゼロの青い巨体を目の当たりにして、シンジたちはがっくりと項垂れた。

「碇さん、時々、このお仕事辞めたいと思いません?」

「で、でも、僕、一応女房持ちだから・・・・」

「え”え”っ! 碇さん、結婚してたんですか!」

「あ、いや、その・・・・一応というか建前というか、法律上はそうなってるんだけど・・・・」

「そ、そんな・・・・」

「人のコト言えんやろ、お前らは・・・・・」

 キャリアーの運転席で、鈴原トウジ巡査は深く重く長く息を吐き出した。

 

 

 

「伊吹ってどう書くんだ? あ? 伊賀忍者の「伊」に山吹色の饅頭の「吹」? ・・・・あのな・・・・

 いや、よく短期間で仕上げてくれたよ。感謝! このお礼は後日、精神的に。え? 期待してないって? 冷たいなあ」

 ここは警視庁特車弐課分署の隊長室。加持が受話器を置くと、待ちかまえていたように声がかかる。

「研修校から? だれかモノになったんですって?」

「使い物になろうがなるまいが、今や猫の手も借りたい心境でね」

「深刻ねぇ、第弐小隊の人材不足は」

「うちの連中はそれなりの人材さ。今はまだ駒が揃ってないだけだよ」

「へーぇ。

 さっき入った連絡、聞いたわよ。二機がかりでマグマダイバーに逃げられたそうじゃない」

「今日はいやな天気だねえ。

 軌道エレベーターが見えやしない」

「・・・韜晦してなさい。

 それじゃ、後よろしく」

「おう。ま、第壱小隊の皆さんは優秀だから、何か起こったとしても、俺が出るまでもないだろうけどね」

 

 

 

 その建物は上空から見ると十字型の形をしている。

 元々は一般道に面した南側に事務所等が、北の搬入路に面して倉庫兼作業場が入った長方形の建物だった。人工島建設の初期には大型作業機械の修理に活躍したと聞く。その頃に倉庫を左右に、ちょうど十字架の横棒のように拡張した結果、今の形になったのだそうだ。しかし、栄枯衰勢は世の定め。やがて人工島「ニュートーキョーI」沖のプラットフォームが完成すると、ここは無用のものとなった。

 それを警察が買い取って改修したのが特車弐課分署である。そのせいもあって、どうにも警察組織らしからぬ空気が漂っているような気がする。

 分署の通常車両用ゲートを通るたびに、第壱小隊の日向巡査部長はそう思うのである。特に、中央棟正面の窓から外を眺める第弐小隊隊長のだらしない風体が目に入る時は。

 顔をしかめた日向はハンドルを右に切り、格納庫の前を通って建物の裏手の駐車場へ向かった。

 今日から三日、第壱小隊隊長は土浦に出張が入っている。第弐小隊は夜から非番になるが、何か起きた時のために加持隊長は署に残ることになっていた。要らない気遣いだ。何かあったとしても、第壱小隊だけで解決できる。自分たちは第弐小隊とは違うのだから。

 正面ゲートから見て左側は倉庫のまま使われていない一棟、裏手は日向の所属する第壱小隊の格納庫。いま通り過ぎたのが第弐小隊の格納庫である。通り過ぎざま横目に見てみると、いつものことだが、下半分が開け放しのシャッターの向こうでは整備員たちが忙しく右往左往していた。

 

 

 

「うっひゃー! 左上腕部アクチュエーターは丸ごと交換しなきゃダメだ、こりゃ」

 相田ケンスケは、半ばはよくもここまで壊したものだと感心しているような悲鳴を上げた。

「やっぱ零式で弐式改の相手は無理なのかねえ」

「それもあんだろうがよ、あの鉄火娘、もちっと機体に愛情持って扱ってくんねえかな?」

「ははは、マナちゃんみたいにか?」

 腕に取り付いていた整備員たちは、弐号機と同じく泥塗れになった壱号機をパイロット自ら清掃している霧島マナ巡査のほうを見やった。

「彼女は彼女で問題があると思うけどね」

「機体に傷がつくのがイヤってんじゃなあ・・・・」

 

 

「相変わらず、熱心だね」

 からかうというより絡むような声だった。壱号機の肩にまたがって単眼のレンズカバーをみがいていたマナは驚いた顔をして振り向いた。

「シンジ君? どうかしたの?」

「別に・・・・悪い、ちょっと疲れてる」

 シンジと、その横に立つマユミはモニター疲れした様子で目をしばたたかせていた。たった今まで電算室に篭っていたのであろう。

「何かわかった?」

「そうだね。マグマダイバーは前回より頭が良くなってるって事かな?」

「そんなこと、見ればわかるじゃない」

「・・・・そうですか? なら、霧島さんには、きっと敗因までわかってるんでしょうね」

 こちらもかなりトゲのある口調で言うマユミに、マナはあっけらかんと答えた。

「そんなの、協調性の無いだれかさんのせいに決まってるじゃない」

 

 

「あんたバカァ? 性能差のせいに決まってるじゃない!」

 アスカはきっぱりと言い切った。

「大体、マグマダイバーの名前はEVA−2Dよ。わかってる? 弐式「エクストラ−ヴィークル−アドバンスド」D型って意味よ! 零式「エクストラ−ヴィークル」とマグマダイバーじゃ、勝負になるわけないじゃない!」

「そらそやけどな、泣いてもわろてもワシらが持ってるのはゼロなんやで。ゼロでどうにかせな、あかんのと違うか」

「なぁに市役所の窓口の勤務意欲皆無のでもしか公務員みたいなこと言ってんのよ! あんたがここで上のケチンボどもにゴマすったら、市場に出回ってる機械がウチの時代遅れの備品並みにバージョンダウンするってーの!? 現実を見つめなさいよ、現実をっ! これだから日本の法律は一流、警官は無能って言われんのよ!」

「聞いた事あらへんなあ、そんなん。保険と医者の間違いちゃうか?」

「今作ったのよ!」

「無い胸張ってゆうことかいっ!」

「だだ、誰の胸がないですってぇ! 触った事もないくせに、いいかげんな事言わないでよ、あたしのバストのイズは・・・・って、何言わせんのよー!」

「ちっ、聞かれへんかった」

 ほとんど若手芸人のパフォーマンスのような会話を聞いて、マユミは深く考えもせず思ったままを口にしてしまった。

「息が合ってますね、二人とも」

「どこがよ(や)っ!」

「す、すいません・・・・」

「ちょっとあんた、いつの間に戻って来てたのよ!?」

「ちゃっかりお茶まで飲みよって・・・・」

 二人とも自分たちが口論に夢中になっていたことを棚に上げて、勝手なことを言っている。

「わたしって・・・・やっぱり影が薄いんでしょうか」

「ただ単に暗いだけでしょ、あんたの場合は」

「・・・・せめて大人しいと言って・・・・」

 マユミは口の中で呟いた。

「何よ、言いたい事があるんなら言いいなさいよ。それだから暗いってのよ、わかる?」

 反論も出来ずたじたじとなるマユミ。その弱々しい態度がますますアスカを苛立たせる。

 なおも追求が続くかと思いきや、しかしアスカは思い出したように言った。

「そうだ、あんたも署名しなさい!」

「しょ、署名って?」

「聞いてたんでしょ、新型機導入の上申書よ!」

「え、いえ・・・・それは、新しい方が良いとは思いますけど、機種転換訓練も楽じゃないし・・・・」

 もごもごと反論するマユミだが、アスカはそんなこと聞いちゃいない。

「シンジ、あんたも・・・・って、いないわね」

「碇さんは、隊長に報告に行きましたけど・・・・」

「逃げたのね、バカシンジのくせに!」

「いえ、最初からオフィスには入らずに隊長室に直接・・・・」

「訊いてないわよ、そんなこと! あーもう、最初っから打ち直しじゃない!」

「? あら・・・・この書き方じゃ、まるで碇さんが中心になって書いたみたいですよ」

「そうよ、悪い?」

「コイツは隊長にホの字でな、隊長が上と板挟みになって困るよな要求の中心人ぶっ!」

 脾腹に肘鉄が食い込み、声も出せず悶絶するトウジ。

「フン! 男のくせに口が軽いのってサイテー!」

 図星なのか、頬が赤い。

(ふうん・・・・あまりきれいなやり方じゃないけど・・・・普段は強気なのに、好きな人にはとことん弱いなんて。

 意外と、普通の女の子みたいな所があるのね)

 なんとなく自分とは別の生き物のように感じていたアスカにも、一般の女の子と同じような弱さや狡さがあるのを知って、マユミは少し親近感を覚えた。

 逆に言えば、その程度のことでも認識を新たにするほどに、第弐小隊の隊員たちの絆は弱いものだった。

 

 

「・・・・と言うわけで、新型の導入よりは小隊あたりの機体数を増やした方が有意だと考えます」

「ご苦労さん。

 まあ、一応上層部に掛け合ってはみるが、期待はしないでくれ。なにしろウチは金食い虫だからな。・・・・ところで」

 加持は対マグマダイバー戦の報告と指揮者の所感を聞いている間の、気のなさそうな態度を消して、シンジの顔をまっすぐ見据えて言った。

「EVシリーズは本来、S2システムとかいう奴の搭載が前提だったそうだな?」

「どこで、それを?」

 シンジはわずかに警戒の表情を見せた。

 EVシリーズは、そのシリーズ名については評判が悪かった。たとえて言うなら「カー」とか「クルマ」とかいう名前の自動車のようなものだからだ。

 しかし、シンジは知っている。それが単なる語呂合わせではなく、エヴァンゲリオンという名前から来ていることを。EVANGELとは別の、人類に対する福音を目指して開発されたのだということを。

「ま、俺なりのコネがあってね。そっから聞いた話なんだが・・・・

 S2ってのはN2(ニューロン・ネットワーク)システムに引っかけた名前なのか? まあそれはいいとして、実際のところどうなんだ、そいつを搭載したら機体の性能が変化したりするのかい?」

「もし、EVA−2DにS2システムを搭載したら・・・・その時は、たとえ弐課の全戦力総掛りだったとしても、3分と保たず全滅します」

 表情を消していうシンジに、加持は鼻白んだように顔を顰めた。

「・・・・そりゃ、すごいな」

「逆に言えば、3分以上長引けば弐式は自滅します。EVANGELに使うようなものじゃないんですよ」

 シンジはうってかわって軽い態度で肩を竦め、加持も拍子抜けしたように脱力する。

「なんだ、そうなのか? 俺はてっきり・・・・いや、わかったよ」

「では、失礼します。これから「時間外勤務」がありますので」

「ん・・・・ご苦労様」

 

 

 

 

『ごっめーんあ・そ・ば・せっ♪』

 画面の中で、両手にチャクラムを持ったブレザーの女学生が勝ちゼリフとともに一礼する。悔しげに筐体を叩いたプレイヤーは、愛用キャラでの同キャラ戦という意地があるのだろう、さらにコインを投入して挑戦しようとする。

 しかし、対戦相手は不機嫌に吐き捨てて席を立った。

「あーっ、もう! ムカつくわねーっ!」

「今の、アスカが勝ったんだよね?」

 首をかしげるシンジ。

「いや、対戦相手がしつこかったからだと思うぞ」

「あんたバカァ? こんな子供向けのオモチャで、気が晴れるワケないじゃない!」

 どうやらケンスケの発言は無視されたらしい。憮然とする整備員。

 そしてあまりといえばあまりの言い草に、コイン代を供出させられたトウジも憮然となる。

「ほな、やらなええがな」

「何か言った?」

「気にすな」

「何よそれ」

「何がや?」

「ま、まあ二人とも・・・」

 険悪になりかけた空気を察してケンスケが二人の間に入り、とりなそうとする。

 それを見ながら、シンジは人選を誤ったかと後悔していた。

 

 壱号機搭乗者霧島マナと弐号機搭乗者惣流アスカの仲は、はっきり言ってあまりよろしくない。と言うか、アスカの方が何かとマナに絡むのだ。そのたびにそれぞれのバックアップや、時には整備員までが喧嘩に巻き込まれる。

 最初は戸惑っていたマナも、最近ではかなり手加減なく反撃するようになっていた。必然的に、険悪の度合いは日を追うごとに増すばかりである。

 まったく、仲裁に入る側はたまったものではない。とくにシンジとマユミは、場合によっては第壱小隊や整備班にまで頭を下げて回ることにもなるのだ。おかげで二人とも胃薬についてやたらと詳しくなってしまった。

 なぜアスカがマナを敵視するのか理解できないのはこの二人ぐらいであろう。けしてニブいわけではないのだが、二人ともいい年をして男女間のことがらには極度に奥手なのだ。

 ま、それはともかく・・・・・

 今回の事件で、壱号機と弐号機の搭乗者間の反目はさらに悪化してしまった。これ以上悪化されては任務の遂行にも支障を来たしかねない。そこで、シンジはアスカをなだめるために、トウジとケンスケにも援護を頼み、アミューズメントセンターに繰り出したのである。

 今ごろ、マユミもマナとカラオケボックスに行っているはずである。ちなみに金はシンジたちが出している。相棒に代わって昼間の無礼の詫びを入れる、という形をとるためだ。

 

 しかし、だ。トウジとケンスケを随行者に選んだのは単にシンジが彼らと親しいからで・・・・現にトウジとケンスケも、シンジに同情してゲーム代を少し出してくれたが・・・・考えてみればトウジとアスカも仲が悪かったり、する。

 今も、ケンスケの仲裁も空しく、口喧嘩に平手が混じろうとしていた。

 いっそ二人で来た方が良かったかなー。でも、男と女だしなー。などと中学生以下の思考を巡らせながら、シンジの視線は無意識のうちに目の前の騒ぎから逃避し、ただ漫然と店内の風景に向けられていた。

 と、仲間の気を引けそうな物が視界に入る。

「おや?」

「何よ馬鹿シンジ! 話をそらすんなら、もっとうまくやりなさいよ」

 急に矛先を向けられて、シンジは焦ったように言い訳した。

「ち、ちがうよ。ほら、あのゲーム」

「体感ゲームだね。・・・・EVANGEL・POLICE?」

「ほぉ。そないなモンが出回っとったんか」

「面白いじゃない! それはあたしに対する挑戦ね!」

 たった今まで乱闘に突入する寸前の口論をしていたことを忘れたように言うアスカを見て、シンジは思わず呟いた。

「単純だなあ・・・・」

「ブタもおだてりゃ・・・・てヤツやな」

 パンッ!(×3)

「聞こえたわよ三馬鹿トリオ!」

「なんで俺まで・・・・」

 

 

 密閉型の筐体に入り、2枚のコインを投入する。ちなみに平均的な相場はコイン一枚100新円。このアニューズメントセンターでは一枚50新円である。

「ふーん。デュアルスティックにフットペダル3つ・・・・M....ver8.3とおんなじか」

 カチャカチャとレバーやボタンが馬鹿になってないか確認しながら、コマンドを調べてゆく。右の、武器の照準あわせに使うレバーの遊びが心持ち大きいようだが、プレイに支障はなさそうだ。

『何しとんねん。説明も見んと始めよって』

 筐体後部の覗き窓から、トウジが呆れ半分の憎まれ口をたたく。

「ふふん、このあたしにそんなもの必要ないわ!」

 アスカの自信は根拠のない物ではない。操作システムがアスカもよく遊ぶ『電脳戦機バーチャロン・レクイエム・カレイドスコープ』とまったく同じなのだ。ちなみのそのゲームにおけるアスカの使用キャラはメインが複雑系多機能型人馬機体バル・カンテ、サブが海神魔法的聖霊機体マーメイデンである。

 ビルの影から現れた作業用エヴァに、アスカはすばやくオートカノンを撃ち込んで一撃で沈黙させた。

「ふん! 次、来なさい!」

『・・・・今の、一般エヴァとちゃうんか?』

「え?」

 

 

 数分後・・・・・

『あと二機やな』

「え、ウソ!」

『だめだよアスカ。ちゃんと、全体のマップも見ないと・・・・』

「えー、くぉんなのインチキ! さっきまでいなかったじゃなーいー!」

『シビアなゲームやのお。残弾はなし。ついでに制限時間も見ときや』

「げ・・・・」

 

 キュドンッ!

『これは、ちょっとあんまりな気も・・・・』

『撃ってきよったで、おい!』

「外野、うるさーい!」

 ドゴォン!

 

「何なのよー、このゲームー! あんな状況、できなくてもあたしたちの責任じゃないわよ、上層部のタイマンだわ!」

「いいたいことはわかる・・・・九回ウラ、ノーアウト満塁でリリーフに立たされたよなモンやで」

「バックアップだっていないしねえ。あれ? ケンスケもやるつもり?」

「ああ、仇を取ってやるさ」

「あんたに取ってもらっても、嬉しくないわよ!」

「あたた・・・・。ま、俺もたまには整備じゃなく、動かす側になってみたいからね」

 苦笑しつつシートに座ったケンスケだが・・・・・

 

 ちどーん

「口ほどにもないヤツー」

 アスカの冷たい視線が注がれる。なまじでない美人なだけに、やられた側の精神的ダメージは大きい。

と、思ったが・・・・ケンスケ、なにやら嬉しそうである。

「いやー、面白いゲームだよ。どうして今まで気づかなかったんだろ」

「クソゲーだからよ」

 嬉々と言うケンスケに、憤懣やるかたない表情のアスカがばっさりと言い切る。

「いや、ムズゲーイコールクソゲーってわけじゃないし・・・・」

「あんたバカァ!? 常識で考えなさいよ。こんなもの、クリアーなんて出来るわけないじゃない!」

「やれやれ・・・・・聞いちゃいられないな、まったく。ここは一つ、お兄さんが、このゲームがちゃんとクリアできるように作ってあることを証明してやろう」

「「だれや、おっさん?」」

 いきなり声をかけてきた長髪長身の男に胡乱げな視線を向け、こういうときばかり息の合う関西人(一説によればアスカは神戸出身、らしい)二人は声をそろえて言った。

「おにいさんだっ!」

 

 

 そもそもいい年をした警察官が連れ立ってゲームコーナーで憂さ晴らし・・・・と言う時点でいささか情けないものがあるが・・・・

 セカンドインパクト後、世界規模で食糧難が起こった。セカンドインパクトの直後は備蓄もあったのだが、数年後には経済力のない国家から深刻な飢餓が広がって行くことになる。斜陽の経済大国日本でも、その荒波を逃れることは出来なかった。

 その食糧難を経験したセカンドインパクト後世代は、一般的に言って成長が遅れ気味である。たとえば全員24歳の三馬鹿トリオを例に取ると、トウジなど身長も体重も安定しているが、シンジやケンスケは、身長は伸び切っているが筋肉はもう少し付きそうな印象を受ける。

 しかも精神的な成長期には経済的な復興は終わっていたため、顔つきにもまだ温室の中にいるような「ゆるみ」がある。学生と言っても通りそうな外見なのだ。

 一方、この男はと言えば見上げるような長身といい、セカンドインパクト世代以前と見て間違いあるまい。若くても30前後というわけで・・・・・

 

「怪しいおっさんやな」

「けど、腕は確かだ」

 ライブモニターには、白黒二色の警察エヴァが犯罪エヴァを的確に駆逐してゆくところが映されていた。

「このEVANGEL、SEELEオーストラリアの「サキエル」をモデルにしてるんじゃないかな?」

「アホ、よぉ見ぃ。ゲーム自体SEELEジャパン製やないか」

「ありゃ・・・・」

「総合企業だからね、あそこは」

「そう言や碇、おまえの実家がSEELEに身売りするっちゅう話、ホンマかいな?」

「まさか。社長がその気でも会長や役員連中が承知しないよ。

 だからこそSEELEのキール・ローレンツの後ろ盾がほしいんだろうね。あの人、婿養子だから」

 言葉の端々に険しいトゲの隠れた口調には、それ以上追求するのを断念させるものがあった。

「え・・・・と、な、何やらすごい人だかりだな」

「みんなあのゲームクリアできなかったのかな?」

 ライブモニターの周囲にはどんどん野次馬が集まってくる。かぶりつきで見ていたアスカなど、押しつぶされそうだ。

「あ、殴った」

「小学生相手に・・・・・」

 少し離れたテーブル型の筐体(脱衣麻雀だった)に陣取った三人は、他人事のように言った。

「まあ無理もないけどね。最近の子供は躾がなってないんだよ」

「そう言えば、アメリカはどうか知らないけど、ヨーロッパでは子供の内はレストランみたいな場所に立ち入らせないって言うね」

「日本の親に教育能力を期待しちゃーいけませんや。そもそも親が躾られていないんだから」

「おお、スタッフ・ロールや」

 

 

 現金なもので、クリアできるとわかった途端に『EVANGEL・POLICE』の前には長蛇の列が出来てしまった。その中ほどにさっきの娘のオレンジ色の頭が見える。

 真っ先に並んだちびっ子の軍団には先を越されてしまったようだが・・・・すぐに順番が回ってくるだろう。目の前でクリアしたのを見て勘違いしているようだが、ゲームの難易度自体には何の変化もないのだ。ほとんどの子供たちは一面もクリアできないで出てくるので、回転はめっぽう速い。

 青葉は、少し離れた所で椅子やテーブル型筐体に腰掛けて見物を決め込んでいる三人組に近寄った。

「どうだい? ひとつ、あのゲームの感想を聞かせてもらえるかな?」

「ええ、いいですよ」

 眼鏡をかけた学生風は愛想良く肯いた。残りの、体育会系と二枚目の青年も否やはないようだ。

 

「面白いけど、パクリゲーって感じかな。操作はバーチャロンそのまんまだし、いくらSEGAがSEELEにM&Aされたからってねえ。

 それに、マップ構成はシューティングの「ジャスティス・ショット」をアレンジしただけって感じで・・・・」

 

「えげつなあ・・・・っちゅーか、実際にあないな武装エヴァが町中をうろつき始めたら、もう警察より戦自の出番でっせ」

 

「ちょっと難しすぎるんじゃないかなって思いますよ。攻略本片手に何度でもリセットできるんならともかく、一回いくらのアーケードで遊ぶのは、僕なら遠慮しますね」

「制限時間、バッテリー、弾丸の量、破壊禁止設備、その他・・・・・条件付けがシビアすぎてねえ」

「ニィさんかて、相当つぎこんだ口でっしゃろ」

「いや、良く聞いてくれました! もう、何千円とつぎ込んで、手に肉刺が出来るくらいの猛練習! 肉刺なんて作ったのは、学生時代以来だったね」

 広げて見せた手には、ギター胼胝とゲーム肉刺が並んでいた。

 呆れ顔になった青年たちに、青葉は苦笑して言った。

「ま、これが仕事だからね」

「へえ? ライターさんですか?」

「ん? いや、そんなとこだね」

 さすがに盗作まがいとまで言われたゲームを開発した当事者だとは言えず、青葉は言葉を濁した。無意識に視線を外す。と、見知った顔が列に並んでいるのが目に入る。

「ん? 何をやってるんだ?

 ちょっと失礼」

 青葉は小走りに駆け寄り、呆れ顔で言った。

「おいおい・・・・君まで並んでどうする気だ?」

 

 

 男は中学生くらいの子供に向かって駆けて行ってしまった。その子供は帽子を目深にかぶってはいたが、シンジはその肌の色が異様なほど白いことに気づいた。

 男は困惑のていで何かを話している。その横を、不機嫌そうな顔をしたアスカが通った。

「おお、早速出てきよったな、惣流の奴・・・・ん、何や何や、また並び直す気ィかいな」

「負けず嫌いだからなあ・・・・閉店まで粘る気なんじゃない?」

 三人とも、今日中にクリアできるとは思っていない様子だった。

「仕方ないよ、僕らは別のゲームやっていよう」

「賛成。その方がただ待ってるより建設的だね」

「ちょっと待てシンジ、耳貸せや」

「え、なに?」

 トウジは声を潜めてささやいた。

「惣流の面倒はワシらが見たるさけ、妻子持ちははよ帰りや」

「うっ・・・・」

 なんとも言えない顔をしたシンジを見て、ケンスケが不思議そうにしている。

「いや、その・・・・・」

「ええからええから。とっとと帰って、愛妻料理でもなんでも好きなモン食って、寝ちまえや。こーの果報モンが」

 ぐりぐりと肘で脇腹を突いてくるトウジ。誤解だ、と叫びたかったが・・・・自分たちの複雑な関係を理解してもらうのは難しそうに思えたので、断念する。

 まったく、親が馬鹿なことをするものだから、子供が苦労をしなくてはならない・・・・

「わかった・・・・ありがとう。それじゃ、後はよろしく」

「おう、まかしとけ」

「まあ、彼女が料理を作ってくれるとは思えないけど」

「何や、シリに敷かれとるんかい。なっさけない奴ゃな」

「ははは・・・・」

 後刻、シンジが先に帰ったことを聞いたアスカが激怒しまくったことは言うまでもない。

 

 

 

 シンジが住んでいるのはごく一般的なマンションだった。駅から商店街を通り抜けて10分足らず、悪い立地条件ではない。悪くはないが、シンジはまがりなりにも碇重工の御曹司である。その気になればもっと良いところに住めそうなものだが・・・・

 カードキーをスロットに通し、ドアを開けるとニュース番組らしきテレビの音声が耳に入った。家を出る時に一通りの電気は消しておいたのだから、同居人がシンジより先に帰っていたということだ。

 リビングに入ると、案の定、下着姿でテレビを見る女性の姿がいやおうなしに目に入る。いくら蒸し暑い梅雨時の夜だと言っても・・・・

 もっともシンジもいい加減慣らされてしまったのか、彼女のあられもない軽装については何も言おうとしなかった。

「ただいま」

「お帰りなさい」

 

 


bパート
ver.-1.00 2000/02/02 公開
感想随時受付中 t2phage@freemail.catnip.ne.jp


 

 

 どうも、お久しぶりです。

 本当にお久しぶりの03;プリーチャーです。久しぶりの投稿で、今回もやっぱりミックスパロディーです。

 今回の生贄は機動警察パトレイバーです。正月に実家に帰った時にコミックスを読み返して、思いつくままに書いた一品です。ちなみにいきなり外伝で、本編は書くつもりが最初からありません。何年かかるかわかりませんから。(←ど外道)

 ついでに(ラブコメではないけれど、人間関係としては)LaSです。

 Aでなくaなのがポイントです。「らぶらぶ・all・シンジ」ですね。

 

 警察官ということで、シンジたちの年齢も変更されています。それにあわせて各種設定も少々いじっていますので、そのフォローを。

 今回は第二小隊です。

 

 隊長;加持リョウジ

 今更説明は無用でしょう。後藤を演れるのはこの男しかいません。30歳で警部補というのはかなりのスピード昇任ですが、制度上不可能ではないということで。

 

壱号特殊重機担当;霧島マナ

 「鋼鉄のガールフレンド」では戦略自衛隊に自ら志願して入ったメカ好きな女の子でした。戦自の人型兵器について「新しい機械に乗れるって、最初はみんな喜んでた」云々の発言から、僕は勝手にそう思っています。

 故に、泉野明の役どころにはこの子しかいない! ということで。髪の毛も茶色のショートカットだし。

 パトレイバーにはメディアによって微妙に設定が異なっていますが、この話ではマナは交通課から弐課に転属(志望動機も野明と同じ!)した巡査ということにしていますので、テレビ版に近いですね。

 

壱号指揮車両担当;碇シンジ

 EVシリーズを生産している碇重工の社長の一人息子で、家出して警察官になった第弐小隊唯一の女房持ちと言うことで、篠原遊馬と進士幹康を足したようなポジションです。ただし彼は恐妻家でも、一般的に言う意味での愛妻家でもありません。

 警官になった動機については、生活費や学費もいらないと言う理由もありますが、交通事故死した母、碇ユイのことが脳裏を過ぎらなかったと言えば嘘になるでしょう。

 かつてEVシリーズの原形になった「エヴァンゲリオン」の初号機に乗った経験を持ちます。

 

弐号特殊重機担当;惣流アスカ

 ドイツ人と日本人のクウォーターで国籍はアメリカ。太田と香貫花を足したようなポジションです。

 母親と同じく医学者になるために大学までエリートコースを突っ走っていた才色兼備のアスカ。しかしある日のこと、目標であった母親がひき逃げされてしまいました。なかなか逮捕されない犯人に業を煮やしたアスカは医大を中退して(註;アメリカでは医大に入学するにはそれ以外の大学を卒業している必要があるそうです。つまりアスカはこの時点ですでに大卒)警官になり、始末書や警告や命令無視の山を築き上げながらも犯人を捕らえることに成功しました。

 しかしその代償に不良警官のレッテルを貼られた挙げ句、内勤に左遷されてしまいます。暫くはそこで勤務していたものの、母親の仇を討った満足感が薄れるにつれ自分の才能を怠惰な日常に埋めている現状に耐えられなくなってしまいました。

 辞表を出す寸前、アスカの才能を案じた上司の計らい(爆弾娘をどこか遠くにやってしまおうという上司の企み?)によって、日本の特車弐課に研修に出され、来日し、今日に至ります。

 

弐号指揮車両担当;山岸マユミ

 マナと同じくゲームのキャラクター(しかも彼女はサターンのみ)なので、知らない人も多いでしょうね。彼女は一言で言うなら「女版シンジ」です。ビブロフィリア、遠視用眼鏡、泣き黒子などの特徴を持ちます。特殊能力はスタンド使い。ただし遠隔自立行動型で彼女の意志によるコントロールを受け付けません。

 ・・・・ちがうだろ・・・・

 この話でもシンジと似た女と言う設定です。ただし、彼女は独身者ですが。シンジ同様に大学を卒業してから警官になった口で、志望動機も幼少期の体験(母親が殺された)が影響しています。情報処理技能に長け、特技はブラインドタッチ毎分100字以上。

 

特機運搬車両担当;鈴原トウジ

 エヴァのキャリアーの運転を担当。何故か一台だけ(笑)きっとエヴァは、荷台に二台、横に座った姿勢で格納されているのでしょう。左足が義足なのでエヴァには乗れません。バリアフリー設計ではないんですね。

 高校を出ると同時に警官への道を歩み始めました。したがって、トウジとマナが警官としては先輩になります。みんな階級も年齢も同じなのでタメ口利いてますけどね。彼等は全員オリジナルに10歳足した24歳です。

 なお、オペレーター3人組はプラス5歳。30歳以上のおじんおばんは、かわいそうなのでそのまま・・・・

 

 ズギュウン!

 ぐはっ!?

「だれがオバンですって・・・・?」

 し、しまった・・・・つい口が滑っ・・・・がくっ(結局こういうオチかい)





 03;プリーチャーさんの『機動警察EVANGELION』aパート、公開です。






 旧式だって・・

 パワーで負けていても
 スピードも下でも
 処理能力が低くても。


 勝つのだ勝つのだ。

 勝つのだ〜



 今はしっくり行っていないようだけど、
 一度はまれば−−

 マナ&アスカのツープラトンで、
 新型をやっつけようなのです。


 いつ、
 どこで、
 はまれるか・・・・


 やー

 イケイケなのです☆





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