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西暦2000年。
世界は未曾有の大災害に見舞われた。
飢饉、洪水、疫病。
南極大陸が失われるほどの天変地異の後、世界中に争いが起こり、さらに多くの命が失われた。
そして、ようやく混乱が収まったとき、世界の人口は大災害前の半数にも満たなくなっていた。

結局、その一連の災害の根本の原因は判明しなかった。
公式には、偶発的な自然災害の重複ということで発表されたが、それで収まりがつくはずもなく、各地で様々な憶測、噂が飛び交った。
南極で行われた、某国による大規模破壊兵器実験の失敗。
軍縮に反対する死の商人による謀略。
処分に困って放棄された核兵器の暴発。
はては南極の氷の下に隠されていた超古代文明遺跡の暴走や環境破壊を続ける人類への地球意志による警告だとか、異星からの侵略というものまであった。
だが、それらはいずれも真実からほど遠かった。


そして、西暦2015年。






世界の王


第1話






今回彼女に与えられた任務は、とある少年を空港から自分の所属する組織の本部へ連れてくるまでの案内と護衛だった。
彼女にはその少年については、上司からは名前と顔写真など最小限の情報しか与えられていない。少年の立場も、護衛の必要性も、予想される敵についても全く知らされなかった。

彼女が今の仕事を始めだして、まだ1年と経ってはいなかったのではあるが、それでもこのような任務の不自然さに疑問を持った。

しかし彼女もプロである。
与えられた任務はこなすのみだ。
そして、頭の隅にわき起こった疑問を振り払って、空港へと向かう。



第3新東京市空港。
次期首都として開発の進められている第3新東京市(旧箱根市)の郊外にあるこの空港も、まだ今のところは地方都市近郊のその他の空港と同じく、滑走路が1本の小規模な空港である。
将来の遷都時には滑走路を2本増やし、国際線の航空機も乗り入れることになるはずだが、今のところは1日に20本弱程度の国内線が離発着するのみであった。

今回の護衛対象である少年の到着予定時刻は午前10時40分。
しかし彼女の姿は9時30分には空港にあった。。
1時間以上も先にここに来たのは、事前に周囲を確認するためである。
不審な人間や物が無いか。
何も情報が与えられていない以上、最悪の場合まで考えておかなければならない。
誘拐、暗殺、テロ。
どのような事態も想定しておく必要がある。

とりあえず、目立たないように気をつけながら見回ったところでは何も怪しい物は発見できなかった。
もちろん、これで安全が確認できたとは言えないが、とりあえず、見回りはこれで打ち切ることにした。
すでに、空港内の配置は頭に叩き込んだし、襲撃への対処法もシミュレート済みだ。
さらには、彼女は周囲の人間の注目を浴び易いため、あまりうろうろしたくないということもある。
断って置くが、彼女が周囲の注目を浴びやすいのは、なにも護衛任務のために物々しい格好をしているからなどいう訳ではない。
全くその逆で、周囲の男達が放っては置かない、その容貌のためである。
まだ15歳で成長過程にある彼女だが、それでも年齢以上に整ったスタイルと、見る者の笑顔を誘わずに入られないかわいらしい顔が、特に必要以上に着飾っているわけでもない彼女を十分に美しく見せている。
そして、なんと言っても、サファイアの瞳と腰まで伸びたやや赤みがかった金髪が、日本人ばかりのこの空港内で目立たないはずがない。
ただ、護衛任務にあり必要以上に目立ちたくはないはずの彼女ではあるが、それでも特段目立たないような服装をしようとしない辺りに、彼女の性格の一端が顕れているようである。



半時間ほどして、ようやく護衛対象の乗る便が到着した。
『ようやく』と言っても定刻どおりの到着ではある。
これはあくまで、彼女の主観による感想だ。
彼女は待つことが嫌いだったから。


予定では、少年には同伴者が一人居るはずだ。
その同伴者とはもちろん、自分と同じく少年の護衛である。
彼女には前もって同伴者の名前までは知らされていなかったが、同じ組織に所属する人間だ。
見知った者の可能性の方が高い。

彼女がそう考えて出口付近で待っていると、自分の知った顔が目に止まった。
日本人女性としては長身の部類に入る長い黒髪の女性。それも、モデルと見間違わんばかりの美貌とスタイルである。
「葛城三佐。護衛任務ご苦労様です。」
彼女が日本語で声をかけると、葛城も気づいたようだ。
「戦士惣流、あなたこそご苦労様。後はお願いするわ。」
30歳前にして三佐という高位の軍の階級を持つようにはとても見えない葛城が、にこやかに話しかけてくる。その胸元には分厚い板からくりぬいたような大きな銀の十字架が輝いている。
そして、さらに表情を崩して言う。
「って、堅苦しい挨拶は抜きにしましょう、アスカ。」
「分かったわ、ミサト。ほんと、そういう所は相変わらずね。」
「あなただって、このほうが楽でいいでしょう?」
「まあね。」
二人は年齢こそ離れているが、仲の良い友人のように話し出した。
ミサトは実際よりも若く見えるし、アスカの方は逆に実際より年上に見えるので、一回り以上も年が離れているというのに、さほど違和感がない。

「車は?」
「駐車場に止めてるけど、それよりも”彼”は?」
アスカが先ほどから気になっていたことを訪ねる。ミサトは護衛対象の少年を連れていなかったのだ。
「ああ、今はトイレよ。」
「ちょっと、あなた護衛なんでしょ。それが目を離していいの?」
「ちゃんと、”目”は残してるから、大丈夫よ。
 ・・・もうそろそろ出てくるわ。」
そういってミサトが振り返ると、丁度、ボストンバッグを抱えた気弱そうな開襟シャツと学生ズボン姿の中学生くらいの少年が二人の側に近寄ってくる所だった。

アスカの、少年に対する第1印象は『冴えない奴』だった。
実際、少年は何かにおびえた様子で、うつむき加減で歩いてきたし、少なくとも覇気というものが感じられない様子であった。

「・・・すみません。お待たせしてしまって。」
少年はうつむいたままでミサトに話しかけた。
「いいのよ。
 それより、ちょっとじっとしててね。」
ミサトは少年の目の高さまでしゃがみ込むと、何か小さく呟いて少年の顔に掌をかざす。
すると、少年の体が一瞬ぼうっと光ったと思うと、少年の髪や襟が巻き上がると同時に少年を包んでいた薄い光がミサトの掌へと移っていく。
そして、ミサトの掌の光もしばらくして消えていった。
「もういいわよ。」
「あ、はい。」
少年は何が起こったのかよく分からないようである。
だが、アスカにはミサトが何をしていたのかすぐに分かった。
「ミサトお得意のルヒエルね。」

アスカのその声に、少年がアスカの方へと視線を向ける。
それに気づいたミサトが、アスカのことを少年に紹介した。
「ごめんなさい。今、紹介するわ。
 彼女は、惣流・アスカ・ラングレー。私と同じ、NERV(ネルフ)の人間よ。
 ここからは彼女に案内してもらうことになるの。」

実際には、ミサトには三佐と呼ばれる別の身分があるのだが、わざわざそれを言ったりはしない。 「えっ。じゃあ、ミサトさんは?」
少年はとたんに不安げな顔をするが、ミサトは諭すように言う。
「また後で合うことになると思うけど、今日は別の予定が入ってるから。
 大丈夫。アスカについていけば、何も問題ないわ。」
「・・・はあ・・・」
少年はなおも不安げに、アスカの方をちらっと見て、
「・・え、と、・・・惣流さん?」
おずおずと声をかける。
「何?」
アスカは少年に対して、あまりよい印象を持たなかった。
ミサトに比べて若い自分が頼りにならないというのか。
シンジの様子をそう受け取ったのだ。
それに第1印象もそうだが、どうもこう煮え切らないシンジのようなタイプは元々気に入らないのだ。
任務だから仕方なく相手をしてやるというところである。
逆に少年としては、アスカのそういった態度が余計に警戒してしまう原因になる。
「い、いや、・・・あの・・・碇シンジです。・・・よろしく。」
結局、そんなシンジの態度はよけいにアスカの神経を逆撫でするという悪循環が起こるのである。

「何、ぼさぼさしてんのよ。とっとと、行くわよ。」
アスカはシンジに視線を合わせることもなく、きびすを返して駐車場へと向かい出す。
そのあまりの態度に一瞬、呆然としていたシンジだったが、
「早く追いかけないと、行っちゃうわよ。彼女は絶対待ってくれたりしないから。」
とミサトに促されて、慌てて後を追いかけることにした。
「それじゃあ、ミサトさん、お世話になりました。」
それだけ言うと、荷物を抱えて走り出す。


ミサトはシンジがアスカに追いつくところまで見届けると、急に厳しい顔つきになる。
「さーて、向こうはどう出るかしら。」
そうつぶやくと、自らも空港を後にした。




「さあ、さっさと乗りなさい。」
インディブルーのスポーツカーの横で、アスカがシンジを怒鳴りつける。
シンジは、経験からアスカのようなうるさいタイプには逆らわないと決めていたので、黙ってそれに従う。
それよりも
「惣流さんって、もう免許取ってるんですね。すごいなあ。」

碇シンジが感心したのは以下の理由による。
15年前、大災害により南極の氷がすべて融解した結果世界中の海抜は60m上昇し、海岸線沿いに発達してきた日本の交通網は実質壊滅した。
災害被害により力を失っていた当時の日本政府にはそれらをすべて整備し直す能力があるはずもなく、わずかに残った既存の交通機関とかろうじて整備することのできた道路網のみが有効な交通手段となった。
自動車が陸上のほとんど唯一の交通手段となったことで、それでも輸送量を確保する必要があった政府は様々な策を考えたのだが、その中に自動車免許の取得可能な年齢を15歳まで引き下げるというものがあった。
その後、現在では当時ほど運転手が必要とされなくなったため、18歳未満の免許取得については制限が増え試験がかなり厳しくなった。ゆえに、この時代、18歳未満で自動車免許を取ることは、かつての自動2輪の限定解除のように一種のステータスであったのだ。

さすがにアスカも誉められて嬉しくないはずもないのだが、それまでの経緯から素直に受け取ることができない。
そのまま何も言わず運転席に体を滑り込ませる。

無視された形のシンジも気を取り直し、アスカに習って助手席に乗り込む。

「じゃあ、行くわよ。」
アスカは一気にエンジンの回転数を上げ、クラッチをつなぐ。
タイヤが白煙を上げ空転した後、爆発的な加速で車が走り出した。
「うわっ。」
まだシートベルトをしていなかったシンジが座席からずり落ちそうになる。



「あの・・・、これから何処に向かうんですか?」
ハイウェイに入り加速が収まったため、ようやく人心地付いたシンジは控えめに質問する。
「あんたそれも聞いてないの?」
「父の居るところに向かうとしか聞いてないので、具体の場所までは知らないんです。」

はあっ、とため息を付いてアスカが馬鹿にした様子で答える。
「ジオフロントよ。あんたでもそれくらいは聞いたことあるでしょ。」
「はあ、知ってます。」

ジオフロントとは大災害直後に第3新東京市の地下に発見された巨大な空洞のことである。
50平方キロメートル以上もの面積のこの空洞がどのように形成されたかは、発見後15年を迎える今日でも未だ分かっておらず、今も国連麾下の研究機関が調査を行っている。

「じゃあ、NERVって研究所の名前だったんですね。」
「はあ?あんた何言ってんの。」
「ミサトさんから、NERVは父とミサトさんが勤めてる国連の機関の名前だと聞いたんでジオフロントを調査している研究所の名前だと思ったんですけど、間違ってました?」
「全然違うわよ。NERVは私たち魔術戦士(マジカルウォーリア)を束ねる組織の名前よ。
 あんた本っ当に何も知らないのね。」

さすがにシンジとしてもそこまで言われては収まりが付かない。
「もの知らずで悪かったですね。もともと僕だって好きで来たわけじゃないんです。」
「本当のことを言ったまででしょ。」
売り言葉に買い言葉で、次第にエスカレートしていく。
そして・・・

一触即発。
どちらかがもう一言発すれば衝突必至と思われた瞬間。
車の窓ガラスが黄色く発光を始めた。

「これは・・・敵?」
アスカがミラーを確認すると、後方から黒塗りのベンツが接近しつつあった。






NEXT
ver.-1.00 1998+04/17公開
感想・質問・誤字情報などは uji@ss.iij4u.or.jp まで!








 UJIさん、ようこそめぞんへ(^^)


 本日4人目の御入居者です。

 一昨日から10人以上のお部屋を用意していて思ったこと・・・
   趣味の範囲を超えとるわい! (;;)

 そんなとこ(^^;

 今更言うなというツッコミが聞こえてくる〜うだらぱぁぷぴ



 第1作『世界の王』第1話、公開です。



 彼女。

 ミサトのことだと思っていたら、
 これがアスカだったんですね。


 アスカが歩いていたら、そりゃあ目を引くでしょう(^^)


 それなのに地味地味地味な格好をしないところが、
 とってもステキ            (^^;


 アスカが美を隠すことは
 社会にはものゴッツイ損失であるので、

 ”隠さない”のは大正解〜♪


 きっと。



 さあ、訪問者の皆さん。
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